【微百合注意】ダウナーセイカとサビ組

  • 1n/a25/11/17(月) 20:18:11

    【注意点】
    ・セイカとタウニーが同在する世界線
    ・セイカ(→)デウロ要素あり
    ・セイカの一人称が「セイカ」

  • 2n/a25/11/17(月) 20:21:11

    「ふぁ~~~」
    「えらいご立派なあくびやな」

    サビ組事務所、いつものオフィス。いつも以上に虚ろな瞳を眠たげに擦るセイカにパソコンから顔を上げたカラスバが声をかける。

    「ま~た徹夜してZAロワイヤル行っとったんか?」
    「いやぁ今朝血圧上げる薬飲み忘れまして。そんでもってウチは朝からクロワッサンカレーでしょ?血糖値スパイクで眠いのなんのって」

    てっきりまたベンチで野宿しながらバトルゾーンとワイルドゾーンを反復横跳びしていたのかと思ったが今回は違ったらしい。
    クロワッサンカレー。大量のサフランライスに大きめの具材が入ったルーをたっぷりかけ、さらにバターをたっぷり練り込んだクロワッサンを三つも添えたホテルZの名物料理だ。
    カラスバもホテルZに宿泊した際は夕食としてクロワッサンカレーを食べたが、あのときは目的が目的だったため長居する必要もなく、翌朝は朝食を摂らずチェックアウトした。まさかあのホテルにいる限り三食三食アレが出てくるのか?

  • 3n/a25/11/17(月) 20:22:19

    「他のモン食いたいって言ってみればえええんやないの?」
    「つくって貰う立場で文句言うのもねぇ」

    「要求の意味が分からない」とか言われるかもだし~~とぼやきながら例のソファに寝そべるセイカに「靴脱いで寝ろ」と注意し、ジプソに目配せして仮眠室の毛布をとってくるよう指示する。
    薬はホテルに置いてきているようだし、この状態で外に出したり、ましてやワイルドゾーンにでも入ろうものならいくらセイカでも野生のポケモンに挽肉にされかねない。それなら大人しく寝ている方がマシだ。

    「お前は料理とかできひんの」
    「できますよお。シチューとか肉じゃがとか一般的な家庭料理は実家にいたころ一通り覚えさせられたんで」
    「は?……なら自分で作ればええやろ」
    「嫌ですよ。“できる”ことがバレたら今後も作り続けなきゃならなくなる」
    「お前なぁ……」

    色違い親分を探したり、逆V個体がどうだのといった理由なら何日でも野宿してワイルドゾーンを駆けずり回っているくせに料理が面倒で毎食クロワッサンカレーを甘んじて受け入れているコイツの価値観がよく分からない。

  • 4n/a25/11/17(月) 20:23:20

    今更ですがド初心者なのでこうした方が良いなどご指摘あれば教えてください

  • 5n/a25/11/17(月) 20:25:32

    「そんなんで、ようタウニーの借金返済手伝う気になったな」

    惚れているデウロがいたからというのは大きいだろうが普段のセイカを見ていると、とても出会って数日の他人の借金の利子を肩代わりしてやるような人間とは思えない。

    「んーまぁ、正直、一発引っぱたいてやりたいとは思いましたけどね。そんでも子供がヘマしたときに『今回は何とかしてやるから次は気をつけろよ』って言ってやれる大人でありたいじゃないすか」
    「お前タウニーとタメやろ。自認なんぼやねん」
    「いい歳して未成年から金騙し取る何でも屋さん(笑)に精神年齢どうこう言われたくありまっせ〜〜〜ん」
    「ジプソ布団回収せえ」

    眠気で自制心が鈍っているのかいつも以上に煽ってくるセイカに青筋が浮きそうになるも、言っていることはほぼ事実なので強くは言えない。せめてもの抵抗としてジプソに指示するも当の本人は「気の置けない仲での冗談ってこと私は分かっていますよ👍」という顔で動かない。顔のトゲ全部へし折ったろか。

  • 6n/a25/11/17(月) 20:26:52

    「ふぁ~~……依頼来たら、起こしてくださ……い……」

    頭まですっぽりと布団をかぶり眠りにおちたセイカにやれやれと息をつき、パソコンに視線を戻す。

    「ジプソ」
    「はい。ここひと月ほどセイカ様の動向を探っていましたが、やはり一人でホテルZの維持費を工面しようとしているようです」
    「はあ~~~ホンマこんドアホはどこまでアイツらの保護者面するつもりなんや」

    今日は特に顕著だったが以前から少しセイカの顔色が優れないことには気づいていた。
    もとより元気溌剌といったタイプでは無かったが最近はダルそうというか、体が重そうな様子だったのだが普段からダウナーな雰囲気をまとっているため、カラスバのように普段から意識的に他人を観察している人間でなければ気付くのは難しかったのだろう。
    AZの爺さんも多少の維持費用は遺して逝ったのだろうが、それでも建物の維持費、光熱費、MZ団の生活費など考慮するといつまでも今の生活が維持できるほどの巨額であるとは考えづらい。

    タウニーはクエーサー社の新社長だがまだまだ見習いで覚えることの方が多いだろうし、そもそも当たり前の話だが、社長という立場は会社の金を私的に使って良い立場ではない。
    それなら一番バトルゾーンで稼げる自分が、と考えたのだろうが昼は依頼、夜はバトルゾーンで走り回ったとて一人で四人分の生活費+ホテル維持費を稼ぐのは常識的に考えて無理がある。

  • 7n/a25/11/17(月) 20:28:01

    「“何とかしてやれる大人でありたい”、なぁ……」

    ものぐさで享楽主義者のくせに、サビ組相手に物怖じしなかったり、同年代の友人を庇護対象と見なすアンバランスさが面白いところだが同時に危うい所でもある。
    それこそセイカは観光客なのだからいざとなれば故郷に帰ってしまえばしがらみも面倒事もすべて捨ておくことができるというのに。
    ――あるいはそこまでして旅行先にしがみつきたい理由があるのか……

  • 8n/a25/11/17(月) 20:29:17

    「金稼いでも体壊しちゃ本末転倒やろ」
    「カラスバ様なら彼女の気持ちもいくらかは分かるのでは?」

    寝返りを打ち、ずり落ちそうになった布団をセイカに掛け直しながらジプソが静かに問う。カラスバもかつて、それこそ倒れるまで働き、寝食を生きることができるギリギリまで削って金を貯めていた時期があった。目的のためなら空腹も頭痛も耳鳴りもまるで苦ではなかった。
    あと少し、あと少しで500万円溜まるところだった。

    まあ、結局は何もかも間に合わなかったのだが。
    さて、そんじゃあ俺も大人としての責務を果たさしてもらおか。

    「ジプソ、例の……」

  • 9n/a25/11/17(月) 20:32:58

    〜数時間後〜


    「くぁ~~~今何時ですか……」
    「おうおう、よう寝とったなぁ。もう17時過ぎとるで」

    寝始めたのがお昼前だったので昼食を抜いてたっぷり5時間ほど眠ってしまったことになる。ぐーっと伸びをして寝起き特有の頭痛を振り払うようにかぶりを振る。

    「すんません。そんじゃセイカそろそろ今夜のバトルゾーンのためにパーティー調節するんで」
    「まあ待てや。お前にちょっと新しいお仕事の話が合ってな」

    「こっち来い」と手招かれ、今度はどんな厄介な依頼を回されるのかと内心溜息をつきつつそれでもこの人働きに見合う報酬の支払いは惜しまないからな~と促されるままテーブルを挟んで対面のソファに腰かける。

    「そんで、どんな依頼です?」
    「まあ、そう急かすなや。そんで本題やけど、今度ヌーヴォカフェがデリバリーサービスを始めるらしくてな」
    「へえ。てか兄さんヌーヴォと親交あったんすね」
    「ああ、ミアレ復興作業のときにウチの炊き出しと向こうさんの無料のコーヒーサービスが割と近場でやっとってな。うちのモンにもコーヒー淹れてくれたらしゅうて、それがきっかけでお話する機会があってん」
    「なるほど」

  • 10n/a25/11/17(月) 20:34:26

    サビ組もヌーヴォもミアレを良くしたいという目的は共通しているし、互いに反社や元フレア団員に怖気づくようなタマではない。きっかけさえあれば比較的分かり合えるのも納得はできるか。

    「ちなみにあの二人に商売助けるとか言って暴利吹っ掛けたりして無いですよね?」

    いつもと同じように見える、しかし分かる者には分かる一切温度を感じないアルカイックスマイルにゾクりと寒気を覚える。バトル中のギラついた熱を感じるそれとはまた異なる笑み。
    サビ組ボス相手にポケモンがいるとは言え、チャカもドスも無しに丸腰単身で剥き身の敵意を向けてくる女。
    やはりいずれはサビ組に欲しい。敵を油断させるにも、ハニトラさせるにしても規格外に強い女が一人いるというのはとてつもなく便利だ。俺やジプソに惚れて面倒なことになる可能性が皆無なのもとても都合が良い。

  • 11n/a25/11/17(月) 20:35:48

    「珍しいなお前が|MZ団《あいつら》以外に入れ込むなんて。安心しいや俺もアイツらのことは今んとこ純粋に応援しとるさかい」
    「……なら良いですけど。それで結局セイカに何させたいんです?」
    「そうやったな。本題に戻すと、デリバリー始める言うてもワイルドゾーンや時間帯によってはバトルゾーン横断せな行けへん場所から注文されることもあるやろ?ポケジョブってのを導入する案も検討されとるんやけど、色々会議やら試験導入しよったら本格的な導入までにはまだまだ時間がかかんねん。そこで、それまでお前に“運び屋”して貰おか思うて」
    「言い方……まあ良いですけど」
    「そかそか話が早うて嬉しいわ。そんじゃ勤務時間9時~17時、週4勤務で月収はこんくらいでどうや」
    「……は」

    差し出された契約書を見て言葉を失う。こんな額、デリバリー配達のバイトに出して良い額の給料なわけがない。それにクジゴジで残業無し、週4勤務?サビ組はいつからド・ホワイト企業になった?

  • 12n/a25/11/17(月) 20:37:14

    「ヌーヴォは金が無い人に無償でコーヒー提供してるんすよ。こんな額の給料出せるわけないでしょ」
    「何を勘違いしとんねん。その給料出すんはサビ組や。ヌーヴォからのバイト代は別で出るからそれも全部お前の懐に入れてええ。俺は別で依頼料貰うとるし、ここらで飲食業の方に顔売るのも悪くないからな」

  • 13n/a25/11/17(月) 20:38:37

    「ワイルドゾーン17を突っ切ってコーヒーぶちまけんと配達できる人材なんかお前意外おらんし、危険手当とかアレとか……とにかく諸々含んどんねん。ええから受けとっとき」
    「アレってなんすか……まあ兄さんがそうおっしゃるなら……」

    いやに優しい条件に正直疑いの念が無いわけでも無いが、一々疑っていてはキリがない。カラスバの兄さんにとっても|自分《セイカ》は使い捨てるにはもったいない駒だろう。
    自分自身を交渉材料にできるよう、努力はしてきたつもりだ。

  • 14n/a25/11/17(月) 20:44:11

    「それじゃ詳しい勤務開始日とかの説明は明日ゆっくり話さしてもらうさかい今日はもう帰ってゆっくりメシ食ってちゃんと風呂入って8時間以上寝よし」
    「はいはい。そんじゃご厚意に甘えさせてもらいますよパパ」
    「誰がパパや!!そこはせめて親父……ってかどっちにしろそんな歳ちゃうわ!!」

  • 15n/a25/11/17(月) 20:57:13

    ひらひらと手を振りながらオフィスを出て行くセイカの背に向かって怒鳴る。ほんまこっちが気ぃ回したったことに気付いてへんニブチンでもあるまいに、どうして素直に礼を言うことができないのか。
    額に青筋を浮かべるカラスバにずっと隅に控えていたジプソがピッチャーから冷えたナナシ水をグラスに注ぎ差し出す。

  • 16n/a25/11/17(月) 20:58:18

    「彼女も本来であれば思春期が終わるかどうかという年齢ですから」
    「分かっとる。アイツがバケモンみたいに強いうえにごっつ肝が座っとるからつい対等のように扱ってしまうがアイツも一人のガキや」
    「ええ。ですからカラスバさまも手を差し伸べて差し上げたのでしょう?」
    「いや?」
    「…………はい?」

  • 17n/a25/11/17(月) 21:01:33

    まさか否定されるとは思っていなかったため声が大きくなってしまい、慌てて「失礼しました」と頭を下げる。

    「かまへん、かまへん」
    「それにしても手を差し出したわけでは無い、とは」
    「せやから、ふっかけたったやろ?AZの爺さんやフラエッテの思い出が残るホテルZも、4人での今の生活も守れるだけの“恩”ってドでかい利子」
    「!……ハハ、貴方様の毒は誰より存じ上げているつもりでしたが。御見それしました」

    本当にこの方の毒は他のどのような毒よりも優しく甘く相手を蝕む。
    その手腕の美しさに改めて敬服の念を禁じ得なかった。

  • 18n/a25/11/17(月) 21:02:40

    ~ホテルZにて~

    「ただいま」
    「あっ、お帰りセイカ!今日は早かったね」

    キィ、とホテルの扉を開く。夕陽に照らされホコリがチカチカと舞うロビー。誰にともなく言った言葉に偶然ラウンジチェアでスターミーのケアをしていたデウロが応えて出迎えてくれる。

  • 19n/a25/11/17(月) 21:05:29

    「最近中々会えるタイミングが無くて休めてるのかなって心配してたんだ」
    「あー……心配かけてごめん」

    心配をかけていたことへの罪悪感と、それ以上に心配してくれていたことに対する喜びで顔が緩みそうになるのを堪える。

    「ううん。むしろセイカは仕事たくさんしてるのに私は自分の夢ばっかで……ねぇ、セイカ、MZ団抜けたりしないよね?サビ組に行っちゃったりとか」
    「ないない!サビ組はあくまで仕事の仲介してもらってるだけだから」

  • 20n/a25/11/17(月) 21:07:03

    流石に「デウロがいるから」という度胸は無い。と言うか普通にキショがられたら氏ねる。
    最近朝食の時間以外ほとんどホテルに帰れていなかったがまさかこんなに不安にさせていたとは。気づかせてくれた兄さんには明日ミアレガレットでも差し入れしておこう。

  • 21n/a25/11/17(月) 21:08:30

    「セイカの居場所はMZ団だけだから抜けたりしないよ」

    ゆっくり言い聞かせるように言うとデウロは不安そうに伏せられていた顔を上げ、チラと目を合わせたあと安心したようにへにゃりと笑う。

  • 22n/a25/11/17(月) 21:10:25

    「良かったぁ」
    「っ」

    かわいい。抱きしめたい。好きだと伝えたい。そんな顔も言葉も他の誰にも見せて欲しくない。
    深呼吸をして身の内に荒れ狂う衝動を抑え込む。告白できない言い訳に使っているくせに、こんなときばかり同性を盾に抱きしめるのは、それは、駄目だろう。

  • 23n/a25/11/17(月) 21:11:42

    「……デウロは好きな食べ物とかある?クロワッサンカレー以外で」
    「えーっとハンバーガーとかフライドポテトとか?」
    「じゃあ今度セイカが作るよ」
    「え!セイカ料理できるの?!」
    「うん。タウニーとかピュールにバレたら面倒だから……デウロと二人のときだけ、特別に」
    「へへ、私特別なんだ?嬉しい!」

    あー……セイカも心頭滅却用エアームドゲットした方が良いですかねえ。

  • 24n/a25/11/17(月) 21:14:34

    【完】

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