【閲覧注意】今や過ぎた夏の数さえ【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:08:32

     テレビのバラエティ番組で見る、芸能人を落とし穴に落とすドッキリ。底が四角い緩衝材でプールみたいになってる、アレ。その中でも仕掛け人が隣を歩いて誘導するタイプのヤツ。

     笑えない事だけど。あれの、仕掛け人目線のカメラがあったなら。きっとああいう感じなんだろうな、──なんて、つまらない事を後から思った。

     唐突に。脈絡なく会話が途切れて。私の視界の端で、ナツが"落ちた"のが見えた。

     状況を把握して、笑いが込み上げるよりも先に。「何もないとこで転んでやんの」とか言いながら手を差し伸べる事を、思い浮かべるよりも前に。

     ごっ。

     足元から。私の平静を砕くような。重い物が硬い地面に落ちたような。そんな音がして。



     音の先に。舗装されたトリニティの道路の上で、ヘイローの消えたナツが倒れていた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:10:24

    「......脈拍は正常ですし、呼吸にも大きな乱れは見られませんでした。失神は恐らく貧血が原因だと思いますが、頭部を打ったようなので──」

     人の多い大通りのど真ん中だ。悲鳴を上げたうちの誰かが通報してくれたんだろう。

     唐突に眠りに落ちたナツの身体を揺さぶって。二度、疑問形で呼びかけて。反応が無くて、語気を強めてもう三度呼びかけて。保健の授業でかじった人工呼吸とか心臓マッサージの方法が頭を過ぎったあたりで、救護騎士団が到着して。

     そのまま。私が状況を飲み込むのを待たずに、あれよあれよと事と時間だけが過ぎ去って、1時間。私は今、目を覚まさない当人の代わりに診察を聞いている。

     いや。聞いている、というのは間違いだ。もう耳に入ってきていない。ただ、声が頭の中を通り過ぎていく。

     私の意識はベッドの上で横たわっているナツに向けられている。額と鼻にはガーゼが当てられているが、血は止まったみたいだ。
     その顔は、道端で倒れ込んだのを覗いた時と同じ。頭からだらだら血を垂らしてるくせに、気づいてもいないみたいに目を瞑って。呑気に、眠っているみたいで。

    「──杏山カズサさん?」

     直後。意識の外から音に肩を引かれる様な錯覚を受けて、思い切り身体を弾ませる。

    「あっ......あぁ。すい、ません。ちょっと、なんていうか......気が、動転?してるみたいで」

     口に出して、びっくりする。声震えすぎだろ私。「無理もありません」と小さく頷いてくれた救護騎士団の人にもう一度すいませんを言ってから、またナツの方を見る。

     頭を打って。目を覚まさない、ナツの方を。

  • 3二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:11:43

    「……あの」

     胸騒ぎ。逸る鼓動。

    「こいつが起きるまで、居させてもらうことってできます?……寮とかには、自分で連絡するんで」

    「────」

     想定外の沈黙。顔を見る。少し驚いたような、困り眉。

    「……わ、かりました。確認してきますね」

     それって。

     部屋を後にする団員の人の背中に、そうやって言葉をぶつけようとして、飲み込んで。

     あんまり座り心地の良くないパイプ椅子に腰を下ろす。顔を夕陽に差されても、ぴくりと身動ぎもしないナツを眺めながら。

     そっと、カーテンに手を伸ばした。

  • 4二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:14:18

    ────『大丈夫??』
    ────『今日は寮に帰らないって聞いたから、心配で!』

     空が暗く染まってきた辺りで、ようやく。アイリから届いていたモモトークに既読をつけて、ふと思い出した。

    「……っ、そうだ。プレゼント……」

     1月29日の夜。慌てて病室をあっちこっち見回して、ナツの寝ているベッド脇の小机に置かれた鞄に目を遣って、ほっと一息。

     明日は、アイリの誕生日。

    『ごめん。気付くの遅れた』────
    『ナツが貧血でぶっ倒れてさ。付き添い』────

    ────スタンプ。最近その辺でよく見るちょっとキモいキャラクターが、びっくりした符号を出してるやつ。
    ────『ナツちゃん、大丈夫なの?』

     少しだけ、返事に迷って。

  • 5二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:15:41

    『今は、寝てる』────

     嘘は吐いていない。けれど。

    『明日退院できるかは、まだわかんないってさ』────

     なんとなく。濁す。
     少しだけ、アイリからの返事も遅れて。

    ────『分かった!』
    ────『お大事に、って伝えておいて!』

     ……ふーっと。肺に溜まった重い空気を、全部吐き出して。手で目を覆い、天井を仰ぐ。

     音が。ずっと、木霊している。

     短く。鈍い音。ナツが頭を打ち付けた、あの音が。
     空白。窓越しに籠って聞こえる、室外機の音が。
     
     『……わ、かりました。確認してきますね』

     それって。

     私が、いつまでここに居ていいか、測りかねるから。

     そういう意味。ですよね。

    「……さっさと起きろよ、ばーか」

     吐き捨てる様に。未だに、身動ぎもしないナツに向けて。

  • 6二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:17:42

    ────────────
    ────────
    ────



    「──っあ」

     ……かくん、と浮遊感を覚えて、パイプ椅子ががたんと音を立てた。自分で立てたその音に驚いて、一気に意識が覚醒する。

     やっべ、寝てた。今何時だ。

     カーテン越しに透かして見える淡い光が、少しだけ病室の床の色を鮮やかに見せる。

     顔を上げて。壁に掛かった時計を見ようとして。それよりもポケットの中のスマホを見た方が早いと思った、その道中で。

     人影。ベッドの上に、上体を起こした桃の髪。髪は解いているから、いつも見るシルエットとは違うものだけど。

    「──!」

     音に驚いたか。起こしてしまったのか。
     ……なら、正解だったな。
     
    「──ナツっ!」

     明け方。時刻は午前4時を回る頃。

  • 7二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:20:00

    「……カズ、サ……?」

     いつも以上にぼけーっとした声で私を呼ぶナツは、状況が飲み込めていない様子。

     目尻が熱い。ろくにお色直しも出来てないから、顔はきっとぐっちゃぐちゃ。見るまでもない。
     それを隠すみたいに、椅子を蹴っ飛ばしてナツに抱き着くみたいに。

     心配かけさせやがって。さっさと起きろよ。誕生会だぞ、明日……もう、今日か。アイリへのプレゼントと、持ってくスイーツ。一緒に選んだじゃん。それ持って、馬鹿騒ぎしに、さ。いつもみたいに。いつも通りに。部活、行こうよ。

     止めどなく溢れる感情は言葉にならなくて。ぐずって、嗚咽が漏れて。

     そんな訳無いって。すぐ起きるって。信じていたのはホントだけど。

     やっぱ、怖かった。目覚めないかもしれないって。

    「っ、……アイリに気ぃ使わせてんじゃねー、ばぁかっ……!!」

     なんてったって、今日の主役だぞ。かろうじて捻り出せた悪態を、鼻水と一緒にナツの患者衣にこすり付けて。

    「─?……ごめん」

     分かんないか。そりゃそうだ。でも償え。そうやって笑いかけようとして、ナツの顔を見て。

  • 8二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:21:06

     心底、不思議そうな顔をしたナツが。



    「────ごめん。“あいり”って、誰、だっけ……?」



     ……………………。

    「は?」

  • 9二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:26:17

    (という。記憶喪失になっちゃったナツと、それをどうこうするために走り回るカズサのお話。残ってたらちまちま書いていきます)

  • 10二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 12:35:34

    面白そう

  • 11二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 21:14:15

    保守

  • 12二次元好きの匿名さん25/11/22(土) 22:39:10

     頭部外傷による、エピソード記憶の欠落。桃色の髪をした救護騎士団の先輩から真剣な顔で、そう言われて初めて私は。

     ⋯⋯それを聞いてもまだ。ナツの、タチの悪いイタズラである、という線を捨てきれずにいる。

     色んなことを説明してもらっている。一時的な物であるか否か、とか。パターンごとの対処の方針とか。記憶が戻った前例も、とか。

     それら全部が、ナツの倍ある私の耳にはまたも、一文字も届かない。

     私の隣で。私とは違って、真っ直ぐに看護婦さんを見つめて説明を聞くナツは。結構な頻度で「ほぉ」とか「ふむ」とか「おぉ」とか「ぅぃっ」とか、中身のない相槌を返している。

     いつも通りに緊張感がないように見えて。少しだけ眉をひそめ、肩を竦めて。こわばりが、抜けずにいるその姿は。

    「⋯⋯」

     これが演技ならとんだ名女優だ。潔く騙されてやろう、と。思い出せるものを聞かれて、私を指差しながら「これがカズサ」とのたまったナツに睨みを効かせながら。

     私はまだ。安心していた。

     なんにせよ、目覚めてくれたのなら、と。

  • 13二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 08:19:04

    保守

  • 14保守ありがとうございます25/11/23(日) 12:41:44

     部室内に。ヨシミが借りて来た安っぽいスピーカーから、バースデーソングが相も変わらず響いている。三曲しかないプレイリストを順繰り回して。今流れている二曲目を聞くのはもう20回目くらい。

     机の上で湯気を出し切ったティーセットが、「HAPPY BIRTHDAY AIRI」の文字の風船を主役に、お世辞にも綺麗とは言えない100均製の装飾が施されたを壁を眺めている。

     クリームとかジャムとかがべっとりついた紙皿を纏めた袋は、今しがたヨシミとアイリが持って行った。主役だっていうのに、「だからってじっとしているのはもどかしい」とか言いながら、ヨシミを手伝って。

     もうちょっと片付け楽な奴、選べばよかったかな。そんなことを思いながら、私は。さっきみんなで食べたクッキーの食べかすを雑巾で拭って、机の縁に沿わせたちりとりで受け止める。

     歯の隙間に残ったココアの風味。中身の少ししっとりとした食感が、紅茶によく合う。

     これを買ったのは昨日。選んだのはナツ。

     その事を、私の後ろで「よぉーっ」とか声を上げて飾りを剝がしてく、当の本人は覚えていない。
     
     「どれ」が「何」かはわかる。けど、それについての「自分の思い出」が欠けている。今のナツは、ざっくり言うとそんな状態らしい。ここまで全部、救護騎士団の──セリナさんの受け売り。を、ナツから聞いたもの。受け売りの受け売り。

     私を見て、初めに「カズサ」と言ったのは。私という外見の生徒が「カズサ」である、という所は覚えているから。学区内の風景を見ればここが「トリニティ総合学園」である事は思い出せる。

     けれど。トリニティで過ごした日々は記憶にない。私と昨日何を話して買い物していたかは忘れてる。病室で目を覚ましたあの時。目の前に居ない「アイリ」の事は、思い出せなかった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 12:47:10

    何が●●である、って所までは分かるし目の前にいればラベルを見るみたいに判別が可能、
    だけどその事についての自身が覚えていた記憶は丸っと喪失している…みたいな状態なのか今

  • 16二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 12:57:27

     事情は、先んじてモモトークで説明した。『放課後スイーツ部』のグループトークで。

    『頭打って、起きたら記憶喪失だってさ』────

    ────『は?』ヨシミの返答。
    ────『???』アイリの返答。

    ────『よくわからんけど、そうみたい』ナツの返答。

     ……お前。私の横で首を傾げてスマホを叩くナツに、私はそっと目線を向けた。

    「放課後、スイーツ部……?」

     そこかよ。確かに、本当に忘れてるんならそうだろうけどさ。

    「……いや待って。“それも“?」

    「なんじゃそりゃー、って感じ。面白そうとは思うけど、ねー」

     きゅっ。と、胸が締まるような、そんな思いがした。

    『────ごめん。“あいり”って、誰、だっけ……?』

     ……アイリの、事も?

     私は黙って、再びスマホに目を落とした。指を滑らせ、画像フォルダを開く。

    「セリナさん、何て言ってたっけ」

     そうやって、ナツに問いかけながら。スクロール。私の「一年生」が、流れて。遡っていく。

  • 17二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 13:05:20

    ひぃん、使い込まれたネタなのに読んでて胸が痛いです…
    カズサの一人称視点で心理まで明示されるからだろうか

  • 18二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 13:17:06

     たぶん、正しかったと思う。“コレ“は、心の準備が無いと結構ショッキングだから。

    「……この子、分かる?」

     ナツに見せたのは、写真。放課後スイーツ部4人で、遊園地に遊びに行った時のやつ。ナツとヨシミに押しに押されて、アイリの一声で買う事になった、死ぬほど似合ってないカラフルなカチューシャを着けた私と。押すだけ押して自分たちは王道のシンプルなのを着けた、ヨシミとナツと。

     私と同じ、奇抜なのを着けて。ポップコーンバケットを片手に、楽しげに笑った姿が映っている、アイリを指さしながら。

     恐る恐る、聞いてみた


    「あー、この子がアイリかぁ」


     ……っ、

     良かった。確認しておいて。

     「誰?」とか言われなくて良かった、という意味じゃない。

     だって、「コレ」でも。面と向かって言われたら、しんどいなんてもんじゃないだろうから。

     ここで初めて私は、事の重大さを認識した様な気がする。

  • 19二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 13:28:41



    筆が遅くてすみませぬ...続きは夜に

  • 20二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 14:23:41

    お疲れ様です。
    楽しみにしてます

  • 21二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 14:35:58



    外出前にもう一つ...感想乞食なので沢山書き込んでいって貰えたらって思います。やる気出ます
    まだ前座も前座なのにのろのろしてる自分の尻を叩くつもりで。思った事じゃんじゃか書いてってください

    間空いて読み辛そうだと思ったら次回から前のレスに安価付ける形で投稿しますので、よしなに

  • 22二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 15:23:24
  • 23二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 21:30:21

    まだ走り回る前だけど、カズサが走り回るのがなんかいいと思うんです

    スイーツ部は勿論友達のために力を尽くせる子達ではあるけど、どちらかと言えばナツがあれやこれやと考えを口にして先導して、カズサはその後ろから呆れつつ着いていくポジションのイメージがある
    でもそんなナツが記憶喪失になって、スイーツ部に欠落が生じて、その瞬間を目の当たりにしていたカズサが駆け出す。そんなところにがむしゃらさがあっていいと思うんです

  • 24二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 23:20:19

    >>18


    「……ねぇ、ナツ」


     ちりとりのゴミをゴミ箱へ放り込みながら。


    「んー?」


     折り紙とかモールに包まれて、色鮮やかになってるナツの方は、見もしないで。


    「楽しかった?」


     問いかける。何気ない、ふりをして。


     アイリは受け入れていた。様に見えた。ヨシミは怒っていた。そう感じた。

     

     私は。


    「ん。楽しかったよ。すっごい」


     ……私は。


    「皆、仲良いんだなーって思った」


    「……っ」


     私は、“認めたくない“んだと思う。

  • 25二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 23:45:15

    「ナツも、だよ」

    「……そうだった、みたいだねぇ」

     私の横に並び立って、どさーっと。ゴミを纏めて私が捨てた食べかすの上に投げ込んだナツは、ふと上を見上げて、そう言った。

     目線を追う。棚の上には、段ボール箱。飾り付けに使わなかった、「前の奴」の残りが、はみ出ていて。

     12月4日。

     はみ出た厚紙に、「NATSU」の文字。

    「……“だった”」

     視界の端でナツが、「あっ」という顔をした。それが見えて私も、しまった。零れた。と顔を顰める。

     私達から見たナツは、何も。私達の事を、顔と名前しか覚えていない。それだけが変わってしまった、“ナツ”だけど。

     ナツからしてみれば、私達は。顔と名前と、知らない時間を一緒に過ごした「らしい」という事しか知らない、誰かでしかなくて。

    「……ごめん」

     あぁ。言わせてしまった。

    「やめてよ、なんで謝んの。悪いのはこっち。……早く、治ると良いね」

     出来る限り、からっと。気にしていないみたいな声で。

     ナツが頷くと同時に時計の針が傾いて。二人分の足音が廊下から聞こえてきて。

  • 26二次元好きの匿名さん25/11/23(日) 23:49:57

    辛いっすね…“ナツ”にとってスイーツ部はただ知っているだけの他人、と理解できるからこそ気を回して距離を調整してしまう
    結果として余計に他人行儀になってしまう……

  • 27保守代わり25/11/24(月) 06:43:25

    ────────────
    ────────
    ────

     見渡す限り、人。人。人。その隙間から、或いは人々の頭上には。メルヘンチックな、絵本の中の世界みたいな。細部まで凝った世界観が、所狭しと散りばめられた夢の空間。

     あっちからは軽快な音楽が鳴り響き、こっちを見れば着ぐるみが生徒と自撮りのツーショット。むこうから香るジャンキーな香りに意識を向けていると、うしろから轟音と共に楽し気な悲鳴が響くお祭り騒ぎ。

    「……あのさ」

     まさかまたこれを着ける事になるとは。着け方工夫しないと猫耳が動かしづらくて窮屈なんだよ。ちょっときついからつけっぱだと痛くなるし。

     週末、日曜日。学校が休み。生徒にとっての至福の時間。アイリの誕生日の翌々日。直前まで、私のカレンダーに無かった予定。

    「なんで?」

     つぴ。鼻を擦りながら、何度目かの問いを投げる。

     時刻は午前11時。放課後スイーツ部4名、防寒に余念はなく。

     衝動に突き動かされるまま。私達は今、一昨日ナツに見せたあの写真の遊園地に居る。

  • 28二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 11:27:29

    なるほど…思い出がないならもう一回作ればいいじゃん、ってコト…!?

  • 29二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 14:34:54

    ────『明日朝6時、時計塔前駅集合』
    ────『遊園地行くわよ。4人で』

     ドライヤーで髪乾かしながら歯磨いてた所で、洗面台の上でぶぶ、と震えたスマホに見えた通知。うがいする前に咥えてた歯ブラシ吹き出しちゃって最悪だった。

     見返したらヨシミからの連絡の表示は『23:26』。いや無理だろ普通に。舐めてんの?って返そうかと思った。そしたら。

    ────『おっけー』

     ……他でもないナツが、1分後に。二つ返事で。


    「何回聞くのよ。さっきも言ったでしょ」

     今朝から4回目ぐらいのやりとり。しょうがないじゃん、時計塔前から一番遠いの私んとこなんだから。まだねむいっての。

     理由は分かったけど、それはそれとして不満をぶつけたい。そんな乙女の「なんで」を額面通りに受け取ったヨシミが。もうなんか慣れた感じに。はぁーやれやれ、とか言いながら。ご丁寧にアイリを引き連れ、私とナツの前に陣取って。

    「ナツとの思い出を引きずり起こすため!」
    「ナツちゃんと新しい思い出を作るためっ!」
     
    「揃えて来いって」

     この一幕も本日4回目。擦りすぎて変なポーズまでつき始めた。マンネリ懸念するなら中身に変化球加えた方が楽だよ?

    「ぷ、くく」

     そんで、ツボりすぎ。なんで?……って言おうとして。変な拾われ方したら5回目に突入しかねない事に気づき、静かに飲み込む。ノリッノリのヨシミと違ってアイリの方はキャパが限界そうだ。弱々しく身を竦めて、私の隣に戻ってくる。

     ……その逆で、ナツが笑ってる。心底楽しそうに。

  • 30二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 14:38:58

     二人の意見は対照的。どっちに転んでも良いよね、というのは、先生が言った言葉らしい。

     誕生会の片付けの時。私がナツと話してたあの時間、ゴミ捨てに行ってた二人の話題は当たり前だけど、ナツの事で持ち切りだったという。それらしい素振りは全く見せなかったけど、聞くところによるとちょっと喧嘩したとか、なんとか。

     ナツとの思い出を引きずり起こす為。ナツと新しく思い出を作り直すため。前向きか後ろ向きかというのは見る方向次第だけれど、お互いにナツの事を思っての意見の相違、だったんだと思う。

     要は今後の方針。ナツの記憶を取り戻す方面で動くか否か、という事。

    ────『どっちでもいいんじゃないかな』

     偏向報道もいい所な切り取り方。ヨシミに見せて貰った先生とのやりとりの、一言目。

    ────『思い出作りの最中に思い出すかもしれないし』
    ────『思い出せない間にも思い出は積み重なってる』

    ────『大事なのは、皆が一緒にいる事だと思うよ』

     ……ずるいよなぁ、大人って。うんうんと、ヨシミと一緒に電車内で頷きながら。

     その後の先生が迷わず遊園地のチケットを4人分取って送り付けてきたことを聞き、今日の寝不足の元凶に静かに怨恨を募らせた。今度また、アポなしで押しかけてやろうと思ってる。

  • 31二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 14:42:14

    「……ナツ、手寒くない?手袋、着けてないじゃん」

     テーマパークといえばと聞かれたら、皆はなんと答えるだろうか。案外、「待ち時間」と答える人は多そうな気がする。テーマパークあんまり行かないからわかんないけど。

     お揃いのポップコーンバケットを肩から提げて、アトラクションの列に並び。チケットの確認を終えて、モバイルバッテリーを繋いだスマホを降ろす時に。ふと気付いた。

     季節は冬真っ只中。吐いた息が白く色付いて大気に溶けていく。寒くて、切なくて。みかんが倍美味しい季節。

     私はネックウォーマーに手袋。アイリはマフラー、手袋はお揃で買ったやつ。手袋を着けてないのはヨシミもだけど、こっちはカイロでお手玉してる。寒そうに両手を組んで擦り合わせてるのは私の左隣の、ナツだけだ。

    「前のアトラクションだかで落としちゃったみたい。ちょっと寒いけど、中入ったら暖かそうだし、だいじょう……ぇ」

     ぽい。と。左手の手袋を抜き取って、ナツに。大きめの弧を描く様に投げ渡した。籠った熱に包まれていた素肌が外気に晒されて、一気に冷え込む。温度差があるせいで余計に寒く感じる。

    「それ、着けときな」

    「え、いや。そしたら、カズサが──」

  • 32二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 14:45:54

     言い終わる前に。内側を向いた私の左手で、ナツの右手を握る。

    「うわ、冷た……大丈夫じゃないでしょこれ」

    「うぇ、カズサ……!?」

     反射で手を引こうとするナツを、逃がさないようにぐっと力を込める。

    「……こっちは私が温めてあげるから、着けな。その代わり、あんたも私の手、温めといて」

     なんか、照れくさいな。そんな事を思って、少しだけ目を逸らした瞬間、後ろのヨシミがひゅうと口笛を吹いた。うっさい、やめろ。そういうんじゃない。

     アイリはアイリで、マフラーで口元を隠して。顔を赤くしながら、ちっちゃい声で「カズサちゃん……!」とか言ってる。マジでやめて。

     ……病室で、目覚めたナツに泣きながら抱き着いたのも、バラされてるらしい。本人の口から。癪だから、痛い痛いと喚いてもぎっちり握り締めてやる。おら。アトラクション乗るまで我慢しろ。

     冷たい手は。私の熱をゆっくりと奪いながら。流れる血に温められて。丁度いいぬくもりに、落ち着いていく。

  • 33二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 14:46:58



    書き溜めを作るのが苦手です。書けたそばから投げちゃう
    鯖落ち頻発してて、こわいですね...

  • 34二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 15:29:45

    変なところで保守すら出来ずに落ちそうで怖いね…
    先生が先生足りうる役割を果たしているのいいですねえ、アイリとヨシミがちょっと喧嘩しちゃうまでいくほど真摯で真剣なんだ

  • 35二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 16:11:46

    ほう、カズナツですか...
    たいしたものですね

  • 36二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 21:19:07

    >>32


    「……あっ」


     不意に、ナツが足を止めた。後ろからその後を追って歩いていたアイリと、隣を並んでいた私も止まる。気づかず少し歩いた所で、ヨシミがこっちを振り返って不思議そうな顔。


    「なに、どしたの?」


     声をかけながら、ててて。コートの裾と大きなツインテを揺らして近づいてきたヨシミが、一足遅れて私たちの目線の先を追う。


     目線の先には、この遊園地目玉のジェットコースター。山海経だかの山がモチーフになってて、洞窟の中から山の外周をいったりきたり走る、大人気の絶叫マシンだ。


    「ナツちゃん、あれが気になるの?」


     呆然とジェットコースターを眺めるナツの顔を覗き込むように、アイリが指を指しながら声をかける。赤ん坊じゃないんだから、とは思ったけれど。


    「げっ。マジ?そこは変わんないのね……」


     絶叫苦手なヨシミが、嫌そうな顔。そういえば、前来た時も……と思い返した辺りで、はっと気づく。

  • 37二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 21:21:04

    「……ナツ。みんなも。あれ乗る前に、写真撮らない?」

     ナツに見せた写真。その背景。
     その時も、絶叫を死ぬほど嫌がるヨシミをみんなで押さえつけながら、撮ったな。って思い出して。

     ナツが、こっちを向いた。嬉しそうに、目を細めて笑いながら。

    「流石、カズサ。わかってるねぇ」

     にひ。と笑うナツは。その姿は、物言いは。

    「────」

     これまでと何も変わらない、等身大の柚鳥ナツで。

    「……"ロマン"だからね」

     液晶越しに目を向けてつぶやく。ナツは多分、分かってなさそうに笑ってる。

     内カメ。映り込む四人の顔。かしゃり、とシャッター音。

     思い出はまた、形になって。

  • 38二次元好きの匿名さん25/11/24(月) 23:24:47

    感性は同じでも"ロマン"という形容は根付いていない、って感じなのかな

  • 39二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 08:01:46

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 17:48:17

    あ~
    好き
    一見タンタンとしてるナツの不安が滲み出てる反応良い

  • 41二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 19:04:30

    >>37


     過ぎた物は仕方がない。これから先のことは分からない。


     そうやって、自分の中で整理がついたような、つかないような。


     諦めたくはないけれど。ナツはナツで、私達は私達。


     安心していた。


     なんにせよ、目覚めてくれたのなら、と。

      

     思い出せなくたって、いつかは元通りになれる、と。


    ────────────

    ────────

    ────


     夕暮れが夜に染まる冬空の下。 電車内。遠く離れた遊園地の、観覧車の陰を横目に。右隣で身を寄せ合って眠るアイリとヨシミを起こさない様に、小さな声で。


    「どう、だった?」


     左隣でカメラロールを見返しているナツに、肘を押し付けながら。


    「楽しかったよ。今度は、ものすっごく」


     耳を模したカチューシャは前のと同じのを新しく買ったもの。それを両手で前後にぴこぴこと動かしながら、ナツはやっぱり楽しそうに笑って、表情通りの言葉を返した。


     そっか、とだけ呟くと同時に、ぱん、と破裂音。ナツの向こうに見える遊園地の空に、満点の大輪がゆっくりと花開く。

     半身を乗り出す様な姿勢のナツと一緒に、それを眺めながら。

  • 42二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 19:05:56

    「……まだ、ちゃんと実感は湧いてないんだけど、さ」

     ぼそりと、独り言みたいな小さな声。窓に跳ね返って届く声に、そっと耳を傾ける。

    「……私も。皆の、仲間で、良いんだよね」

    「ったりまえじゃん」

    「前の私とは違うとこもあると、思うけど」

    「前の、って言うのやめな。ナツはナツだよ」

    「……んへへ」

     控えめに笑いながら、こっちに向き直るナツを見て。私も、姿勢を少しだけ正す。お互いに改まって、向かい合って。

    「カズサ」

    「うん」

    「今日は、ありが──」



     ぷつ。

  • 43二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 19:07:42

     ────なんにせよ、目覚めてくれたのなら、と。
      
     思い出せなくたって、いつかは元通りになれる、と。

     このままいけば、きっと最後には丸く収まる、と。



     誰も。このまま、上手くいくだなんて、言ってないのに────。




    「……ナツ?」

     スイッチを切られた蛍光灯みたいに、ヘイローが消えて。言葉が途絶えて、脱力した身体が私に凭れかかってくる。

    「……ナ、ツ?」

     もう一度、呼びかける。返事は無い。がたんごとん、一定のリズムに揺られている。私に身を預けたまま。

     疲れただろう。朝からはしゃぎっぱなしだ。眠いのはわかる。けど。でも。

    「冗談やめてよ、ナツ」

     反応は、ない。ぴくりとも動かない。

     どぐり。重く拍動する心臓が軋んで、痛みを訴えた。

  • 44二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 19:09:14

    「──ナツっ!!」

     肩を掴んで、揺さぶる。力の入っていない身体を。気を失ったナツを。電車内だってことも忘れて。呼ぶ。叫ぶ。

     また、貧血?そんな様子、なかったのに?

     違う。これは。前のがどうだったかは分からないけれど。今回の、こればかりは。違う。嫌。そんなの、分かってしまいたくないのに。

    「ねえ!!起きてよナツ!!お願いだから、起きてってば、ナツっ!!ナツ!!」

     後ろから。私を抑えようとする手を振り払う。邪魔だ。止めんな。ナツが。ナツが起きないんだよ。私の友達が。起きないの。起こすの、手伝ってよ。なんで、どうして。さっきまで、あんなに楽しそうに────

    「カズサ!!」

     耳元で吠えるみたいに私を呼ぶヨシミの声。きぃん、と耳鳴りが響いて、思考が一瞬真っ白になる。

     はっと気づいて。周囲には、心配そうに。或いは訝しげにこちらを見つめる乗客たちと。ハイランダーの制服を着た車掌さんと。アイリと、ヨシミが。

    「よし、み……な、ナツ。ナツ、が……」

    「…………降りよう。それで、先生に来てもらおう」

     ぎゅっと、服の裾を握りしめたアイリが。苦しそうな顔で、そう言った。

  • 45二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 19:15:34

    このレスは削除されています

  • 46二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 22:08:33

    薄々……スレタイとか閲覧注意で恐れていました……

    つまり博士の愛した数式的な、そういう状態なんですか……?

  • 47二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 06:36:19

    保守

  • 48二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 14:59:29

    保守す、り

  • 49保守ありがとうございます...25/11/26(水) 21:42:15

    ────────────
    ────────
    ────

    ──『ナツが起きたって、セナ達から連絡が来たよ』
    ──『出来れば、三人一緒で迎えてあげて』

    ──『……何と言ったらいいかわからないけれど』
    ──『あんまり、思い詰めないようにね』



     2月6日。トリニティ総合学園自治区、提携医療棟3階。窓の外では雪がしんしんと降っている。図らずも、あの遊園地に行った日の格好と限りなく近い衣装で、私達三人はナツの居る病室の前で、立ち止まる。

     3011。引き戸に提がった掛札と睨めっこ。

     後方から手首を握られる。小さな手。ヨシミだ。

    「カズサ。深呼吸」

     まだ。震えて、た?此処に来るまで、幾度となく落ち着こうとしたはずだけど。

    「……ごめん。ありがとう」

     鼻から、吸う。お腹が膨らんでもまだ吸う。吸って吸って、4秒間。そうしたら、口から。お腹の底に溜まった空気から押し出していくように、はぁーーっと8秒間。

     ネットでかじった、リラックスできる呼吸法。実感はしていないけど、気休め程度に。

  • 50二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 21:46:06

    「大丈夫だよ、カズサちゃん。……みんなで一緒に、向き合おう」

     肩に手を添え、背中を撫でてくれるのはアイリの手。電車内で私を落ち着かせようとしてくれたこの手を乱雑に振り払ったことはまだ、謝れていない。

     生唾を飲み込んで。握った拳を、持ち上げて。

     こん、こん。

     手の甲。浮き出た骨を打ち付けて、音を響かせる。ひとつ間を置いて「“どうぞ”」という声が聞こえた。ドア脇の壁に名前を記された人物のものではない、穏やかな男性の声。

    「失礼、します」

     かららら。レールの上を走る扉の、軽やかな音が響いて。

    「────」

     その時の。布団をかけたまま上体を起こして、呆然とこっちを見つめるナツの顔は、きっと。

     生涯、忘れられないと思う。

  • 51二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 21:47:32

     静寂。逡巡。切り口が、分からない。

    「────ぇん、せ」

     暫く声を出していなかったのだろうか。出だしの掠れたナツの声が、ベッド脇に立っている先生を呼ぶ。目は、私達三人から逸らさないままに。

     私は。私達は、ナツの顔をじっと見つめている。目を離せずにいる。だから、その口の動きが。次に、何を言おうとしての物なのかが分かってしまって。

     同じ事に先生も気づいたんだと思う。ナツに喋らせる前に、その言葉を遮る様に声を出したのはきっと、私達への優しさ。

    「“あっ、ナツ。この──”」



    「────誰?」



     察してても、分かってても、思い浮かべてても。事実は、小説よりもなんたらと。

     吐き、気を。飲み込んで。立ち尽くす。私には、それが精一杯で。

     普段よりもぼーっと、少しだけ訝しげに眉をひそめたナツの顔を。

     直視、できず。目を逸らした。

  • 52二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 21:51:37



    朝家出る前の保守投稿を忘れてました。本当にありがとうございます
    調子が良ければ今夜中にもう2レス分くらい進められるかも

  • 53二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 22:10:54

    今気づいたけどスレタイに二人の名前入ってる...綺麗だ...

  • 54二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 22:26:56

    >>53

    うわ本当だ、ナツはそのままだけどカズサは気づかなかった

  • 55二次元好きの匿名さん25/11/26(水) 23:32:15

    違ってたらごめんね? まあその場合は消して貰っても全然構わないから……

    記憶喪失物の作品なんてパッと出てきて一週間フレンズ位だったんだけど、最初からナツちゃんがカズサちゃんを認識してたからもっと優しい物かと思ってたんだよ
    まさかカズサちゃんが寝てる間に恐らくスマホとかで情報を得ていたから知っていた、とは思わなかったんだよね……

    もうこの時点で絶望感が結構凄いんだけどさ、皆との思い出を積み重ねてる時に再び気絶したって言うのが更に恐怖を誘うよね……
    色々と想定は出来るけど、流石に展開潰しになる恐れがあるから具体的には黙っとくね☆

    優しくて暖かな空間があったからこそ、先の見据える事の出来ない恐怖が、未知が、唐突に降り注がれて胸を貫くよ……
    ここからどうなるか、とっても気になるから……草葉の陰で続きが出る事を祈るね?

  • 56二次元好きの匿名さん25/11/27(木) 00:20:56


     ...今夜中に~とか言いましたが、保守用投稿に回した方が良いのでは、と書きながら思いました。書き溜めが下手な奴の思考

     感想頂いておいてここまでガン無視決め込んでる感じになっちゃってて忍びないので。区切りも良いし、どうせなら返せるの全部お返事してきますね。読み辛いのはすみません


    >>10 ありがとうございます。進行形で楽しんでて貰えてたらいいなと思います

    >>15 ですです。「ラベルを見るみたいに」って表現わかりやすいですね...

    >>17 心苦しくなりながら笑顔で書き進めてます。うふふ

    >>20 ありがとうございます!!!!!!!

    >>23 「放課後スイーツ団」の時も「セムラ強奪」の時も、確かに発端はナツの提案だったかも。好きな解釈です

    >>26 これから沢山描いていきたいところ。あんまり語ると先が読めそうなので濁しておきます

    >>28>>34 「積み上げていけばいい」のを前向きと取るか、「失った物は諦める」っていう後ろ向きと取るか。「どっちでもないけどどっちもやろう」を、先生なら言うだろうなと思って書きました。お気に入りポイント

    >>35 私はナツレイが好きです。最近いっぱいスレ立っててほくほくしています。宇沢も出したいな

    >>38 目に見えない抽象を表す、ナツが積み上げた思考と嗜好の結晶こそ「ロマン」。故に、目に見えないからこそ表す言葉も思い出せない、という所でしょうか

    >>40 一番不安なのは当人を置いて他に居ない。それが滲んでるからこそ、と気を揉むカズサをいっぱい描けたらいいなと思ってます

    >>46 どうでしょうか。お楽しみに

    >>53>>54 こういう言葉遊び大好きで。センスは無い方なんですが、今回のは自信あります

    >>55 バレましたね、合ってます。計画性皆無で突っ込んだりして申し訳ないです。既にまあこんなもんかと考えてたのの4倍ぐらいに膨れ上がってるので、開き直ってのんびり書きますね...

  • 57保守替わり25/11/27(木) 08:08:44

    >>51


    「はっきり申し上げましょう。原因は不明、と言う他ありません」


     平然とそう言ってのけるのは、団長さんの傍に立った青い制服に白のエプロンを着用したお医者さん。会うのは二回目。私はこの人に良い印象を持っていない。


     理由は、白い髪で隠れた側頭から天井に向けて伸びる黒い角──なんかじゃない。そんなの、どうでも良くて。


    目覚めないナツの事を、『死体』と言いかけた、その一点に限る。


     冗談じゃない。机を蹴飛ばしてそう怒鳴り散らした私の前に、先生が割って入るのがあと1秒遅ければ。間違いなく外交問題に発展してたと思う。

    ……このデリカシーの無さがゲヘナの「普通」なら。さほど仲良いわけじゃないクラスメイトが「これだからゲヘナは」ってクロノスのニュースをみて笑う理由も、分からないでもない。


     私がこの顔を見る度マビノギオンをぶっ放そうと思わないのは。態度に難ありとは言え、一応は真剣にナツの事を診てくれているから。伊達に「救急医学部」を名乗っている訳じゃなくて、そういう知識とか技能とかには一家言あるって、先生の紹介があるから。


     数か月前なら笑い話だったろうけれど。トリニティの救護騎士団とゲヘナの救急医学部は、今。シャーレの名の下に提携を結んでいる。

  • 58二次元好きの匿名さん25/11/27(木) 09:52:17

    すっかり慣れてしまったが、医療者が患者を死体呼ばわりするのは不謹慎、反論の余地がない

  • 59二次元好きの匿名さん25/11/27(木) 18:26:47

    それはそう
    悪意一切ないとはいえこころなしか嬉しそうなのが余計に

  • 60二次元好きの匿名さん25/11/27(木) 20:29:31



    保守ありがとうございます
    ちょっと今日は諸事情で更新できそうにないですごめんね

  • 61二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 01:06:35

    突拍子もないことばかり企画するナツだけど居ないと放課後スイーツ部は本当にスイーツ食べるだけの集まりになりそうだなあ

  • 62 25/11/28(金) 07:07:29

    な、なにー!!??現スレだとーー?!?!
    続きが楽しみで待てねー!!!!こういうの滅茶苦茶好きなんだよーー!!!!

  • 63二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 12:15:01

    タイトルのセンスよ

  • 64二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 12:51:06

    >>57

    「脳波も正常ですし、MRIによる検査においても今回の事例の原因とみられるような損傷は見られませんでした。むしろ……綺麗、と言っても良いくらいです」


     頭上に設置された大きなモニターに映し出される、白黒の脳の断面図。輪切りにされたナツの脳を指しながら、どの部位がどうこうという救急医学部部長のお話も程々に。次に口を開いたのは、対面に座るミネ団長だ。


    「……セナさんの言う通り、脳への損傷は見当たりません。神経変性疾患────アルツハイマーの兆候も、同じく。二度目の失神から目覚めたナツさんの症状を見るに一過性健忘症と断ずるのも難しいでしょう。考えうる一般的な要因としては精神的な物が考えられますが────」


     隣に座るヨシミと目を見合わせて、首を横に振る。この話は、最初の診察でも聞いたもの──正確には、ナツから又聞きした内容と一緒。トラウマとか、うつ病とか。過去の経験とか嫌な感情から逃れようとする、身体の防衛反応が原因という線。


    「……無い、と思います」


     勿論、断定はできない。専門家の二人でもそうなのに、大して知識もない私がきっぱり言い切れるわけがない。けれど──まだ、出会って一年も経っていない仲だけど。


     記憶を無くす直前のナツは、アイリの誕生会に持ってくスイーツとプレゼントを選んでたナツ。“二度目の初めて”の遊園地を満喫して、心の底から楽しんでいたナツ。


     仮に、私達にも言えないような薄暗い過去を抱えていたとしても、──それから逃れたいなんて、そんなタイミングじゃなかったはず。


    「……後に残らない微細な衝撃が今回の件を引き起こした可能性も多分にあります。脳の活発化を促し、リハビリテーション的に記憶の回復を狙う救護案に関しては、セリナとハナエにお任せしています。セナさんがゲヘナから催眠療法のスペシャリストを仲介して下さったので、其方の方にもお願いをしました」


     後ろからがたっ、と音がした。右後ろに座るアイリが、「……先生?」と心配そうに声をかける。

  • 65二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 13:06:02

    「私達が懸念しているのは、今回の事象が“我々の専門外”であるという場合です」

     話を続けるミネ団長はカルテから目を上げ、私と──ではなく、私の真後ろに座っているであろう先生と、目を合わせた。

    「スイーツ部の皆さんは、百鬼夜行連合学園の“怪異”についてのお話を耳にしたことはありますか?」

     “セナさん”が声を上げる。……さん付けで呼ぶのも癪だし心の中では呼び捨てにしよう。セナ。が、声を上げる。

    「百鬼夜行といえば、お祭りじゃないの?」

     ヨシミに同意。アイリも「うんうん」って言ってるから、多分一緒。……それが、何か?と言おうとして、遮られる様に。

    「では、閉鎖された遊園地跡でひとりでに動き出す、アミューズメントドールの噂は?」

     噂、って。

     いまいち要領を得ない質問に、首を傾げてるのは私だけじゃないみたい。

    「“……スイーツ部の皆なら、『エデン条約』の時のニュースで見ていないかな?”」

     そんな中、割って入った先生の言葉を聞いて。私達三人は、思い返す。

     エデン条約調印式を襲ったテロ事件。画面越しに見た、瓦礫。炎の海。口元を抑えて煙を吸わない様に、現場の状況を伝える逞しいリポーターの生徒。銃声。悲鳴。ティーパーティー。ゲヘナ風紀委員会。正義実現委員会。万魔殿。シスターフッド。救護騎士団。色んな制服があっちこっち駆け回る。その中に映った、青白い肌にガスマスクを着けた、黒いヴェールの──……

    「──シスターフッドの幽霊みたいな奴の事?」

  • 66二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 17:09:35

     肯定の代わりに。先生は、ミネ団長へ説明を促す手振りをする。

    「キヴォトスでは折に触れて、不可解な現象が各地で見られます。……ナツさんがその被害に遭った可能性も、十二分にある」

     どこか実感を伴うようなミネ団長の語り口は。

    「私達の活動内容と見解はティーパーティーにも話が通っています。じきに、古書館の方へも協力の要請が行くはずです」

     まるで。“そうであったのなら”と。何かを、危惧しているかのような。

    「……出来る限りの事はします。我々救護騎士団の理念と誇りの下に、ナツさんの記憶を取り戻すために最善を尽くすと約束しましょう。ただ──今回に限った話ではありませんが、確約は出来ません。出来る事なら、どれほど良いか」

     目を閉じ、少し悔しそうな表情を見せるミネ団長に。私達は、何も言えずに。

     最善を尽くしても。記憶が戻らなかったら。その末に、みたび記憶を失うような事があれば。

     私、達は……。

  • 67二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 17:14:10



    時系列はオラトリオ直後くらいという事でなにとぞ。流石にもう良い頃だろうとは思いますが、思いっきりネタバレにはならないようにするつもりです
    色々抜けがあったりするかもしれませんが、生暖かい目で見ておくんなまし...

  • 68二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 22:00:09

    藁にも縋るとは言うが、本当に藁も混じって差し出されることある?? >ゲヘナの催眠スペシャリスト


    見ようによっては治療不可能な傷病よりは探る糸口があるけど、そんなのはプレイヤーの視点であって、オカルトとか

    堪ったもんじゃないよね

  • 69二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 22:38:25

    >>66

     平手が私の頬を打つ、乾いた音。


    「いい加減にしなさいよ」


     振り抜かれたヨシミの手の甲をぼうっと眺めてから。目と耳だけを、ヨシミの方へ向けて。


     きっ、と鋭く私を射抜く目つきは、今にも泣き出してしまいそう。暖色の電灯が写り込んだ瞳は琥珀色に揺らめいている。


    「……ナツは」


     自分よりも先に感情を爆発させた人を目の前にすると、自分は逆に不気味な程冷静になってしまうもので。だから、その震える声に滲む動揺までも読み取れてしまう。溢れる感情のままに手を挙げてしまった事に対してだろうということも。


    「ナツは。“記憶が無い”のよ」


    「……そうだよ、知ってるよ」


     叩かれた頬がじんじんと痛んで、熱が集まる。その上から掌を重ねながら。


    「だから、何。“もう記憶を無くす前のナツとは違う”って言いたいわけ?」


    『前の私とは違うとこもあると、思うけど』──と。そう言ったのは、遊園地帰り。失神する直前の、ナツ本人。


    「それって。これまで生きてきて、私達と一緒に過ごしたあいつの事を否定するのと一緒じゃない?」


    『前の、って言うのやめな。ナツはナツだよ』──そう返したのは、私。


    「それは──“私達の知ってる柚鳥ナツは、死んだ”って。そう言ってるのと、……同じなんじゃ、ないの?」


     諦めたくない。その思いは、変わらない。どんな困難があったとしても。

  • 70二次元好きの匿名さん25/11/28(金) 22:56:27

    「──それを“覚えてる”のは“私達”だけだって言ってんのよ!!」

     怒声が。廊下に反響する。深い吐息。荒い息を整えながら。ヨシミが、もう一度口を開く。

    「……あんたは今、私とアイリの事を考えてる。だから、こうなってもまだ考えは変わってない。そうでしょうね、ナツが気絶した瞬間に立ち会ったのはどっちもあんただけだもん。ある意味、“当事者”なのは違いないわ」

     遊園地で。ヨシミは、私とナツの前に立って。アイリと一緒に変なポーズを取りながら、「ナツの記憶を引きずり起こすため」と言った。
     私は先生の言葉を先に聞いたから、二人の意見の相違を「どっちも正しい」で片づけていたけれど。私自身がどちらかを選べと言われれば、私は──ヨシミの方に、賛同していたと思う。

    「けどねカズサ。あんたが、私が……“私達”が今一番に考えるべきなのは、“ナツの事“。でしょ?」

     アイリは、きっと。最初からそのつもりだったのかもしれないと。「考えを改めた」ヨシミが、言外にそう言っているように感じた。

    「不安なのは、一緒よ。思い出してほしいって、そう思うのも一緒。でも……」



    「……でも。今、一番不安なのは、記憶を無くしたナツ本人のはずよ。」

  • 71二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 07:54:20

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 14:24:55

    カズサが他二人を想ってくじけそうなのに対して負けん気というか活を入れてくれるヨシミはえらい

  • 73二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 21:37:47

    目覚めたら諸々の記憶が消し飛んでいるうえにそれが2回目(繰り返し起こる可能性がある)と知らされる、まあよほどアイデンティティに執着しない限りショックが大きい
    過去も未来もあやふやで覚束ないなんて、それこそミメシスと同じ幽霊みたいなものじゃんね(チクチク言葉)

  • 74二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 23:50:16

    夜間の保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 08:41:43



    保守ありがとうございます~~...
    今日は更新頑張るつもりです。もうちょっとだけお時間をば...

  • 76二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 17:09:59

    更新がんばえ~

  • 77二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 00:22:00

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 00:42:52

    このレスは削除されています

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