- 1二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:13:58
「はあ……ご飯美味しかった……♪」
隣から聞こえてくる、うっとりとした声色。
頬が落ちるとはこういう事だ、と言わんばかりの表情を彼女は浮かべていた。
黒鹿毛のミディアムヘア、前髪には一房の流星、柔らかく細められた紫の瞳。
浴衣姿のブエナビスタは、ご満悦な笑みをこちらへと向けた。
感想を求めているのだろう、俺はその笑顔にこくりと頷きながら答える。
「いや、本当に絶品揃いだったよ、料理が自慢って話は聞いてたけど」
「私達の期待をあっさりと超えて来たよね、びっくりしちゃった」
「こうなると、旅館のもう一つの自慢である温泉が俄然楽しみになってくるな」
「……ふふ、お部屋に戻って少し休んだら入ろうね?」
ブエナはそう言いながら、くすりと微笑みを浮かべる。
────今日、俺達は温泉旅行へとやってきていた。
卒業と引退を控えた彼女に対する、ファンからの贈り物。
トレーナーさんと一緒に楽しんできてください、という言葉は俺にとっても嬉しかった。
幼馴染としてだけでなく、トレーナーとして隣に居られたと認められた気がして。
……まあ、今回の旅行自体にはちょっと気が引ける部分もあるのだけど。
「ブエナは今日の料理でどれが一番美味しかった?」
「うーん、甲乙つけがたいけど天ぷらかな、衣がサラとして海老も甘くって」
「俺は茶碗蒸しだな、お出汁の旨味がすごかったし具材もゴロゴロしてて」
「昔から茶碗蒸し大好きだもんね、トレーナーさんは…………おっと」
途端、ブエナは口元を押さえて言葉を止める。
そして耳をぴょこぴょこと動かしながら、嬉しそうにはにかんだ。 - 2二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:14:58
「えへへ、今日は人前でもお兄ちゃん、って呼んでいいんだよね?」
「……うん、そうだな」
「だって、今日の私とお兄ちゃんは────“家族”なんだもん」
ブエナの尻尾がふりふりと揺れ動く。
思う存分に“お兄ちゃん”と呼べて、嬉しくて仕方がないといった様子だった。
今回の旅行では、彼女の両親は不在。
もちろん誘ってはいたのだが、どうしても予定が合わなかったのである。
貴方だったら娘を任せられる────というのは当のご両親の言。
ただ若い男女二人での宿泊なのは事実であり、念のため兄妹という体を取っていた。
まあ、ちょっと気にしすぎ感はあったけれども。
「ん……?」
食事処から部屋へと戻る途中、ふと、とある張り紙が目に留まった。
大事なお知らせ、という大々的な見出し。
また、目立つように日付が赤文字で記されていて、それは今日の日付だった。
どうやら大浴場に関する情報のようだが、と近づいてみると────。
「お兄ちゃん? どうしたの? 早く部屋に戻ろ?」
くいくいっと、袖を引かれる。
見れば、ブエナがきょとんと不思議そうな顔で俺のことを見つめていた。 - 3二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:16:02
「……そうだな、戻ろうか」
「実はね、食休み中にも用意してることがあるんだ」
「それは楽しみだな」
彼女に手を引かれたまま、俺は歩みを進めた。
今回の旅行の予定に関してはブエナに一任をしている。
本人曰く、お世話になったトレーナーさんへと恩返し、とのこと。
計画にはかなりの時間をかけてくれたらしく、ドリームジャーニーにも協力してもらったとか。
そのおかげもあって、今回の旅行は様々な感動体験の出来る素晴らしいものであった。
……まあ、とある“問題”を除けば、なのだが。
「……ッ」
宿泊する部屋の前に辿り着いて、思わず息を飲んでしまう。
まさしくこの部屋こそが、俺が直面している“問題”そのものだったから。
「多分、今のタイミングなら…………あっ、やっぱりそうだ」
ブエナは扉を開けて、手を引きながら俺を招き入れるように部屋へと入っていく。
いかにも旅館、といった感じの広々とした和室。
奥には広縁、窓からは自然豊かな景色、配置された掛け軸や生け花が雰囲気を醸し出す。
そして部屋の中央には、二組の布団が隣り合わせで並んでいた。
「ふふ、昔、お兄ちゃんが私の家にお泊りしてくれた時みたいだね」
懐かしむような笑みを浮かべるブエナ。
それに対しては俺は、緊張に表情を強張らせることしか出来ない。
“問題”とは────彼女が部屋を一つ分しか予約していなかったことであった。 - 4二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:17:04
『家族として泊るんだから、一部屋で良いでしょ?』
“問題”が発覚し、問い質した際のブエナの言葉である。
何の疑問も持たない純粋無垢な瞳からは、本気でそう思っていることが伝わった。
すなわち、これは手違いでも何でもなかったのである。
……色々言いたいことはあるが、せっかくの旅情気分に水を差したくもない。
というわけで結果としては俺も受け入れて、一緒の部屋で泊ることとなったのだ。
「ふん、ふふん♪」
いそいそと鼻歌混じりに何かの準備をしているブエナ。
その姿はまだ幼い頃の彼女自身の姿を彷彿とさせて、思わず口元を緩めてしまう。
まあ、世間体はともかく、問題なんて起こりようもないか。
ほっと安堵して肩を力を抜きつつ、布団をもう少し離せないかと画策していると。
「それじゃあお兄ちゃん、こちらへどうぞ」
「えっ?」
ブエナから声をかけられる。
にこにこと微笑む彼女は、布団の上で正座をして自らの太腿をぽんぽんと叩いていた。
そして、その手には竹で出来た一本の棒。
先端は小さな匙になっていて、末端には白い綿のようなものが付いている。
それはいわゆる、耳かき棒であった。
「食休み中────お兄ちゃんに耳掃除をしてあげる」
一瞬、何を言われたのかが理解出来なかった。
じっくりとブエナの言葉を咀嚼して、数秒経ってようやく言葉を返す。 - 5二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:18:04
一瞬、何を言われたのかが理解出来なかった。
じっくりとブエナの言葉を咀嚼して、数秒経ってようやく言葉を返す。
「耳掃除? なんで?」
「もっと何か恩返し出来ないかなって、って考えていた時に思い出したの」
「えっと、何を?」
「小さい頃、良く私の耳の手入れをお兄ちゃんがやってくれてたよね?」
「ああ、そうだったな、懐かしい」
幼少の頃、ブエナは耳を手入れを極端に苦手としていた。
鏡を通して触るのが怖いのか、ぷるぷる震えて危なっかしいと感じたのを覚えている。
そんな彼女を見かねて、俺が耳の手入れをやってあげていた時期があったのである。
もちろん、成長するに連れて俺が手入れする機会は自然と消滅したのだけれど。
「お兄ちゃんがいなかったら、私は今でも耳の手入れが苦手なままだったかも」
「……大袈裟だよ、ブエナだったら一人でも苦手を克服していたさ」
「そうだとしても、私にとっては大きな出来事だったの、だからその恩返しをさせて欲しい」
「……」
「お兄ちゃん、ダメ?」
潤んだ瞳で懇願するブエナ。
こうされてしまうと、俺には頷く以外の選択肢が取れなかった。 - 6二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:19:33
「じゃあ改めて、どうぞ」
ブエナは手招きをしながら、優しげな声で呼びよせる。
俺はその言葉に誘われるように彼女へと身を寄せて行った。
近づくに連れて、ドクンドクンと響いていく鼓動。
でも、変に意識していると思われたくなくて、表情だけは必死に平静を装った。
「……緊張し過ぎだよお兄ちゃん、もっとリラックスして欲しいな」
ただ、そんな虚勢はお見通しのようだった。
くすくすとブエナは微笑みながら、布団の上に置かれた俺の手に自らの手を重ねる。
ふわりと柔らかい、暖かな彼女の手のひら。
それがさらさらと緊張を解すように、俺の手の甲を撫でつけて来る。
少しだけ、肩から力が抜ける気がした。
「お兄ちゃんだって、昔は私に膝枕してくれたでしょ? それと同じだよ?」
さすがに違うだろ、と思ったがそれは言葉に出さない。
ブエナの耳掃除を受ける、というのは他でもない俺が決めたこと。だから、今更拒む理由なんてないのだ。
それに────ちらりと、視線を浴衣に包まれた彼女の太腿に向ける。
布地から浮き出ている、引き締まっていながらもハリのある脚線。
彼女の走りを支えて来たそれは、しなやかで、柔らかそうで、とても魅力的だった。
そこに頭を置いたら心地良いのだろうな、と思ってしまうくらいには。
「ふふ、いらっしゃーい」
気がつけば、ふらりと重心を傾けていた。
右耳を下にして、ゆっくりと身体を横にしていき、やがて辿り着く。
頬を包み込んでいくむちっとした肉感と、湯たんぽのような温もり。
身を預けた瞬間、あまりの心地良さにほっとため息が漏れ出してしまう。 - 7二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:20:36
「その様子だと心配はなさそうだね」
ブエナもまた、安心したような言葉を漏らした。
すると太腿の感触が更に柔らかくなって、さらに寝心地の良さを増して行く。
どうやら、緊張していたのは俺だけではないようだった。
「耳掃除を始めて行くね、大丈夫、この日のためにお父さんで練習させてもらったから」
……父親としては、どういう心境なのだろうか。
そんなことをに思いを馳せている矢先、耳にそっと耳かき棒の先端が触れる。
「まずは外側の方から……かりかり……こしょこしょ……」
オノマトペとともに、匙が撫でるように耳の外側をなぞっていく。
神経を伝っていくこそばゆさ、しかしそこには確かな快感も含まれていた。
ブエナらしい優しくも丁寧な手つきは、緊張を嘘のように削り取っていく。
耳の外側の掃除が終わることには、俺はすっかり彼女の膝枕に身を任せてしまっていた。
「お兄ちゃんが気持ち良さそうで良かった……それじゃあ、中の方を掃除していくよ?」
動かないでね────その言葉とともに、耳かき棒が入り込んでいった。
瞬間、耳の中に雑音のようなものがざざっと響き渡る。
思った以上に大きな音で、身体がびくっと跳ねてしまった。
「わわっ……もしかして、お兄ちゃんってあまり自分で耳掃除はしないの?」
意外そうなブエナの声。
その指摘に対して、俺は頬を赤く染めるしかない。
実際、最後に耳掃除をしたのが何時か思い出せないくらい、していなかった。 - 8二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:21:47
「えへへ、恥ずかしがらなくても大丈夫だよ、私がちゃんと掃除してあげるから……これからもね」
ブエナは妙に嬉しそうな様子で、そう話した。
ぱたぱたと尻尾が揺れる音が聞こえてくる当たり、本当に喜んでいる模様。
やり甲斐がある、とかそういうことなのだろうか。
「かりかり……こりこり……さりさり……すりすり……♪」
そして、耳かき棒の先端が俺の耳の中を掻き始めた。
耳垢を剥がしていく感触が響き、それとともにくすぐったさが神経に流れて行く。
ぞくぞくと心地良い寒気が全身に走って、身体がもぞもぞと動いてしまいそうになって。
それでも必死に堪えながら、俺はその気持ち良さを享受するのだった。
「うん、中はこんなものかな、それじゃあ仕上げの」
しばらくして、耳かき棒が耳から離れて行った。
耳はじんわりとした熱を帯びていて、何だか風通りが良くなった気がする。
若干の名残惜しさを感じながらも、ブエナへと礼を告げようとして。
「…………ふわふわ~♪」
その直前、耳にふんわりとした感触が侵入してきた。
無数の毛先で耳の中を撫でつけられるような感触。
今まで以上のくすぐったさと気持ち良さに、溶け出すように全身から力が抜ける。
「あは、お兄ちゃん目がとろんってしてる……梵天……好きなんだね?」
しゅるしゅると、耳の中で梵天が回っていく。
その度にぞくぞくと背筋が走り、息が漏れ出して、頭の中がぼんやりとしていく。
次第に何も考えられなくなり、眠気が瞼へと伸し掛かり、少しずつ意識が────。 - 9二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:22:52
「…………ふぅー」
刹那、生暖かい吐息が耳の中を吹き抜けた。
びくんと身体が跳ねて、遠のいていた意識を一瞬にして引き戻される。
何事かと視線を上げれば、悪戯っぽい笑みを浮かべたブエナが俺を見下ろしていた。
「まだ眠ったらダメだよ? 反対側もあるんだから、はい、ごろーんってしてね?」
ブレナに言われるがまま、俺は身体を反転させてしまう。
そうすると、目の前には彼女の腹部。
甘ったるい香りと微かな汗の匂いが鼻腔をくすぐり、心臓がドキリと固くなった。
そういえば、少し暖房が効きすぎている気がする。
彼女もそうだが、俺も気がついたら少しばかり汗ばんでいた。
少し設定温度を下げた方が良いかもしれない。
「それじゃあ、こっち側もさっきと同じようにお掃除していくよ」
そのことを告げる前に、ブエナの耳かき棒が迫って来ていた。
まあ、終わってからでいいか。
そう思った俺は目を閉じて、彼女の耳掃除を堪能する準備をするのだった。 - 10二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:23:53
遠くからアラーム音が聞こえていた。
規則正しい音色は、ゆっくりと俺の意識を覚醒させていく。
「ふわあ……ああ、寝ちゃってたのか」
欠伸と共に目を開けると、そこは変わらずに旅館の部屋。
ただ、俺の身体は布団に包まれていて、頭の下には普通の枕が置かれていた。
どうやら、耳掃除を終えたブエナが布団に寝かせてくれたようである。
「ブエナは、何処に行ったんだろう……?」
部屋の中に彼女の姿はなかった。
もしかしたら一人で、温泉にでも行っているのかもしれない。
……では先ほどのアラーム音は何なのだろうか。
俺は設定した覚えがないし、彼女のスマホだとすると置いて出て行ったことになる。
布団から出て、色々と確認するべきなのだが。
「この布団、何かすごく、良いな」
布団があまりにも心地良すぎで、出て行く気分になれなかった。
とても暖かくて、妙に柔らかくて、それに何だか良い匂いもする。
暖かすぎて汗をかいてしまっているくらいだが、それ込みでも素晴らしい感触だった。
しかし、こんなもこもこしていただろうか、まるで一人分に膨らんでいるけど────。
「…………ッ!?」
ようやく我に返った俺は、勢い良く布団を捲り上げた。
ふわっと拡散していく甘い香りと汗の匂い。
布団の下には俺の身体と、そこに絡みつくように抱き着いているブエナの姿があった。
彼女は悪戯がバレた子どものような表情で、恥ずかしげに微笑む。 - 11二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:24:59
「バレちゃった」
「……そりゃバレるよ」
「…………そんなに良かったのなら、このお布団、帰ってからも使って良いんだよ?」
「ブエナ」
「あはは、ごめんなさい」
そう言いながらブエナは起き上がり、乱れた着衣を整えて行く。
俺は慌てて目を逸らしながら、布団から飛び出した。
頭の中は大分すっきりとしている。
もしかして結構な時間寝ていたのではないか、と時計を見ようとして。
「……あっ!」
突然聞こえてきた声に、視線を引き戻される。
そこには、スマホを手にしたブエナが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「…………お兄ちゃん」
「……どうしたの?」
「……チェックインの時に言われてたんだけど、今日は大浴場の点検があって12時までしか利用できないんだって」
「えっ」
その言葉に、俺は慌てて時計を見直す。
時刻は────後数分ほどで日付の変わる時間となっていた。 - 12二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:26:07
「あちゃあ」
「本当にごめんなさい……! 温泉、お兄ちゃんも楽しみにしてたのに……!」
「……ちなみに朝は何時から入れるかはわかる?」
「……6時くらいには開くって」
「それじゃあ朝風呂を堪能すればいいさ、気にしない気にしない、俺も寝てたんだし」
「でも」
「ああ、そうだ、これはちゃんに言っておかないと」
今にも泣きそうに表情のブエナ。
俺は出会ったばかりの事を思い出しながら、彼女へそっと手を伸ばす。
……昔はよくこうして、泣きじゃくる彼女を眺めていたっけか。
彼女の頭にぽんと手を置いて、さらさらと撫でてあげながら、言葉を紡ぐ。
「……耳掃除ありがとう、本当に上手だったね」
「…………お兄ちゃん」
ブエナの頬に、一筋の涙が伝う。
けれど、彼女は嬉しそうに目を細めながら笑顔を浮かべてくれていた。 - 13二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:27:24
「でも、この汗はどうにかしたいな」
汗ばんだ身体に空気を取り込みながら、ぽそりと呟く。
暖房の効いたまま布団に入っていたこともあって、お互いびっしょりと汗をかいていた。
女の子であるブエナは、特に気になるとだろう。
確か部屋にシャワーブースがあったような────。
「あのね、実はね」
ふと、くいっと引かれる袖。
反射的にそちらを向けば、ブエナが頬を赤く染めながら俯いていた。
もじもじとした様子でしばらく声を詰まらせていたが、やがて意を決したように顔を上げる。
「源泉かけ流しの家族風呂を、予約しているの」
「……家族風呂?」
「大浴場は混雑するみたいだから、ゆっくりとお兄ちゃんに楽しんでもらえればなと思って」
家族風呂。
利用した覚えはないが、確か貸し切りで利用出来る風呂だったはず。
今回はブエナに任せきりのため旅館のことはあまり調べていなかったが、そんなサービスまであるとは。
しかし、何で今の今まで黙っていたのだろうか。
彼女は俺の疑問を察したように、言葉を続けた。
「その、予約が遅い時間にしか取れなくて」
「遅い時間、っていうと?」
「……今から一時間」
本来であれば、利用するかどうかは怪しい時間帯。
状況によってはキャンセルも考えていたのだろう。
ただ、今この状況においてはまさしく渡りに船である。 - 14二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:28:33
「だったらブエナが使いなよ、俺はシャワーで大丈夫だからさ」
これから準備や移動を含めるとなると、二人で交互に利用するには時間が短かった。
ならば、今日の功労者であるブエナ一人にゆっくりと使ってもらった方が良いだろう。
そう考えた提案だったのだが。
「……やだ」
その提案は、ブエナの一言によって一蹴されてしまう。
彼女はずいっと顔を寄せて、訴えかけるように言葉を紡いでいく。
「家族風呂はお兄ちゃんのために予約したんだよ? 使うならお兄ちゃんの方でしょ?」
「いやいや、ブエナをシャワーで我慢させておいて、俺だけ温泉ってのは」
「……お兄ちゃんが使わないなら、私も使わないもん」
「でも、せっかく予約したんだから勿体ないよ」
「…………だったら、いい方法があるよ」
────待ってました、と言わんばかりの笑みを浮かべるブエナ。
彼女はぎゅっと俺の浴衣を掴んで、更に顔を寄せて来る。
吐息がかかり、身体が重なりそうな距離感で、はっきりと彼女は言葉を紡いだ。 - 15二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:29:36
「私と一緒に、入ればいいんだよ」
「…………は?」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
思考回路が完全に停止して、復旧するのにしばしの時間を要した。
そしてようやく再起動が完了して、直後、オーバーヒートしたかのように頬が熱くなる。
「な、ななな、何を言ってるんだ!? そんなこと……っ!?」
「私は、お兄ちゃんだったら、いいよ」
「いや、でも!」
「昔は一緒に入ってたんだし、ね?」
「それは本当に小さい頃の話で、今はさすがに!」
「…………大丈夫だよ、お兄ちゃん」
ブエナは赤くなった顔を更に近づけてくる。
その唇を俺の耳元へ寄せて、熱い吐息を吹きかけながら小さく囁いた。
「今日の“私”と“貴方”は────家族、なんだから」 - 16二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:30:48
お わ り
耳掃除SSを書きたかっただけなのに変に長くなった・・・ - 17二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:35:30
コラー!
風呂入る所も書くんだよ!
そこからが本番だろうが! - 18二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:35:53
低浮上と見せかけての急上昇
俺でなきゃ見逃しちゃうね
最高のブエナSSに感謝 - 19二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:36:48
- 20二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:38:02
ブエナー!やるんだな!?
今!
ここで! - 21二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:38:39
更新頻度落とすと見せかけてブエナに脳を焼かれた書き手が多いなぁ
俺も久しぶりに書きたくなる - 22二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:49:56
せやな!家族みたいなもんなら大丈夫やろ!!
なぁダーリン!! - 23二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 18:54:55
ASMRにして売ってくれ
頼む - 24二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 21:37:42
家族なら問題ナシだな!ヨシ!
- 25二次元好きの匿名さん25/11/25(火) 21:39:39
両家族「抱け~~~抱け~~~~抱け~~~~~」