- 1名無し25/11/29(土) 19:57:44
雄英高校。超常社会においてなくてはならぬ人材、“ヒーロー“の卵たちを育成する超名門校として名高いそこの校長室のドアを、一人の男がノックした。
コンコンッ
「入ってくれ」
「失礼します」
校長室にて訪問者を待ちわびていたのは、雄英高校の校長にして世界的偉人である根津。そして、年配の女。
「あなたは…」
「お初にお目にかかります、イレイザーヘッド」
いぶかしげに眉をひそめる相澤に、根津が言葉をかける。
根津「忙しいところを呼び立ててすまないね」
相澤「やれば済むことですから。それで、公安の委員長直々に依頼とは穏やかじゃないですね」
根津「事前に彼女と話し合って、確かに君への協力が必要だと判断したのさ」
根津がそうと判断したのであれば、自分もひとまず話を聞くべきだろう。小さくうなずき、相澤は公安委員長に向きなおる。
相澤「要件をうかがいます」
委員長「感謝します。まずはこれを」
渡されたのは複数枚の資料。一枚目にはある青年のプロフィールが記載されていた── - 2名無し25/11/29(土) 20:00:05
主人公のプロフィールを決めていきます
性別
dice1d2=1 (1)
1で男、2で女
身長
100+ dice1d100=89 (89) cm
身体つき
dice1d100=37 (37)
低いほどほっそり、高いほどがっちりorグラマラス
- 3名無し25/11/29(土) 20:03:13
勉強 dice1d100=63 (63)
運動 dice1d100=89 (89)
高いほどできる
性格
方向性
dice1d100=46 (46)
低いほど内向的、高いほど外向的
気質
dice1d100=75 (75)
低いほど陰気、高いほど陽気
一人称
1.俺 2.僕 3.その他(安価) dice1d3=1 (1)
- 4名無し25/11/29(土) 20:07:55
誕生日
dice1d12=6 (6) 月 dice1d31=2 (2) 日
家族構成
1でいない
父親 dice1d4=1 (1)
母親 dice1d4=3 (3)
祖父 dice1d2=1 (1)
祖母 dice1d2=2 (2)
兄弟姉妹 dice1d2=2 (2)
- 5名無し25/11/29(土) 20:10:41
兄弟姉妹でいるのは
1.兄
2.弟
3.姉
4.妹
5. dice2d4=2 3 (5)
dice1d5=1 (1)
- 6名無し25/11/29(土) 20:12:49
性格の方向性を追加で判定
dice1d100=59 (59)
低いほど穏やか、高いほど少々荒っぽい
- 7名無し25/11/29(土) 20:19:54
相澤は黙々と資料に目を通していく。プロフィールには基本的な身体データから学業の成績、性格、家族構成までも記載されている。ある項目を読んだところで、彼は顔を上げた。
相澤「無個性、とありますが」
委員長「ええ。そこにある通り、申告では彼は無個性です。検査でもそのように出ました」
相澤「では俺になにをしろと。俺の“個性“はご存知のはずでしょう」
公安の長は相澤の言葉にしばしうつむき、そして小さくため息を吐く。
委員長「おっしゃる通りです。しかし、私どもとしてはあなたに協力を要請するしかない状況なのです」
相澤「単刀直入にお願いします」
委員長「……イレイザーヘッド」
続けられた言葉に、相澤は耳を疑った。
委員長「あなたは──神を信じますか」 - 8名無し25/11/29(土) 20:30:40
相澤「……いえ、あまり信心深いほうではないです。はっきり言うと、信じていません」
予想していた答えに、委員長はかるくうなずく。合理性を重視する男が、ある意味では非合理の塊である神を信仰しているはずもない。
相澤「それがなにか」
委員長「その青年曰く、自分には神が憑いていると」
相澤「……はあ」
委員長「ただの妄言であるなら、わざわざあなたに協力をお願いすることはありませんでした」
相澤「信じざるを得ないなにかがあったと」
委員長「はい。銀行強盗事件を一人で鎮圧したのが、その青年なのです。そして、事情を聴取していた警察は」
そこで一度言葉が途切れる。わずかな時間、沈黙が部屋を満たした。
委員長「神と呼ぶしかないナニカを、目の当たりにした」
相澤「………」
ナニカ。その答えは次の資料にあるのだろう。相澤はページをめくった。 - 9名無し25/11/29(土) 20:36:18
主人公に憑いている神を決めていきます
神の出自
1.土着の神、あるいは怪異、あるいは妖怪
2.永き時を生きた獣、虫、あるいは草木
3.人間
4.上記いずれかの混ざり物、もしくは上記いずれでもないもの
dice1d4=2 (2)
主人公との関係
1.庇護
2.寵愛
3.友誼
4.契約
5.因縁
6.悪意
dice1d6=6 (6)
- 10名無し25/11/29(土) 20:39:05
神の人の世への理解度
dice1d100=39 (39)
人の世にどれくらい寄り添おうとしているか
dice1d100=84 (84)
人間への関心
dice1d100=81 (81)
人間への干渉
dice1d100=50 (50)
高いほどたくさん干渉しようとする
主人公への悪意の重さ
dice1d100=47 (47)
- 11名無し25/11/29(土) 20:44:15
神の出自:永き時を生きた獣、虫、あるいは草木
主人公との関係:それなりの悪意
人間への態度:理解こそ浅いものの、強い興味を持っており寄り添おうとする気もある。干渉はほどほど
以上を前提として、憑いている神の詳細を↓3まで募集
テンプレート
神の名:
外見:
正体:
性格:
主人公との関係(“悪意“の内容や出会ったきっかけなど): - 12二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 22:55:45
オリジナルで良ければ…
神の名:灰牙(はいが)
外見:骨が露出した灰色の巨大な狼。瞳は冷たい群青で、口からは常に白い霧が漏れる。
正体:古い森を守護する「腐敗と再生」を司る古狼神。
性格:静かで厳格だが、人間の行動には皮肉を言いがち。
主人公との関係(“悪意“の内容や出会ったきっかけなど):幼い頃の主人公が森で迷った際に導くように現れるが、わざと危険な方向へ誘導して反応を楽しむ。
悪意は「試すための戯れ」で、主人公がどれだけ生き残れるかを観察している。 - 13二次元好きの匿名さん25/11/29(土) 23:25:53
神の名:継夜刀(つぐやと)
外見:白蛇
正体:うろこが白く輝く大蛇
性格:愛情深い
主人公との関係(“悪意“の内容や出会ったきっかけなど):
守護していた一族の最後の一人の死に、主人公の父方祖父が関わっていた
祖父から数えて七代祟ろうとしていて既に主人公の父は祟り殺し済み
自身の呪い以外の要因で楽に死なせるつもりもなく、今回の件では守る形に - 14二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 00:44:29
神の名:糸繰(いとくり)
外見:白銀の小さな蜘蛛で、糸は七色に光る。
正体:人の運命をほつれや結び目として読み取り、そっと編み変える存在。善悪に偏らない観察者。
性格:好奇心旺盛で気まぐれ。悪意はないが“面白い人生”を好み、人の選択に小さく干渉する。特に 多くの持ち主を渡り歩き、
様々な人間の思惑・争い・願いが染みついた「宝物・名品」 を好む。
それらには、人々の“物語の残り香”が宿るためで、
糸繰はその糸を読み、運命の流れを感じて喜ぶという。
主人公との関係(“悪意“の内容や出会ったきっかけなど):主人公の人生が単調に感じると、道筋を少しだけずらして数奇な出来事へ導こうとする。 - 15名無し25/11/30(日) 07:09:03
- 16二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 07:23:39
なんで次男の主人公に憑いてるんだろう
主人公の兄ってひょっとして父親違う?お母さんの連れ子だったとかで
それとも兄も既に… - 17名無し25/11/30(日) 08:53:02
長男に憑いていない理由は
12.母親の連れ子であり、父方の血をひいていないため
3.すでに祟りの下準備は終わっており、あとは死を待つばかりのため
4.それ以外の理由(安価)
dice1d4=3 (3)
祟りの概要
1.四肢が捻じ潰れる
2.身体の内から蛇に食い破られる
3.徐々に蛇そのものへと変質し、最後には蛇として人に殺される
4.継夜刀に呑まれる
5.その他(安価)
dice1d5=4 (4)
- 18二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 08:55:54
ダイス結果出ちゃったし、これやるとえぐいんだけど、子どもは必ず双子以上で生まれて七代目まで1人は生き残る(子孫を残す用)ように見逃されてる、とか考えてしまってた
- 19名無し25/11/30(日) 08:59:51
継夜刀が人を呑むには
12.一定の条件を満たす必要がある
3.特に制限はなく、継夜刀の気分次第
dice1d3=3 (3)
1の場合、条件とは
1.対象者が絶望していること
2.対象者が罪をおかすこと
3.対象者が死の間際にあること
4.継夜刀の力が溜まっていること
5.その他(安価)
dice1d5=1 (1)
- 20二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 09:02:08
凶悪だけど主人公一族以外には基本的に無害なんだろう感ある…
- 21名無し25/11/30(日) 09:21:11
記録されていたのは、“神“とやらが為したと思われる銀行強盗犯らの末路。彼らは巨大な白蛇に呑まれ、四肢を噛み砕かれたと複数の目撃者が証言している。
そして、青年に聴取を行っていた警察官とのやり取りも記されていた。
曰く。これは私の獲物である。私以外が傷をつけること、ましてや殺すことなど許さぬ。故に此度は奴らを祟った。哀れではあるが、神のモノに手を出したのだ、命が残っただけマシと思うがいい、と。
相澤「…これを鵜呑みにしたんですか」
委員長「できなかったからこそ個性因子を調べたのです。結果は確認されず。個性に由来する存在ではない可能性が高くなった」
根津「そこで相澤くん、きみに協力を要請されたのさ。きみの抹消は異形型以外の個性を抑制できる」
相澤「詰めの確認というわけですね」
複数人の傷害を容易く行う存在。見過ごすわけにはいかない。
相澤「わかりました。彼はいまどこに?」
根津「別室で待ってもらっているよ」
相澤「すぐに会います」
委員長「ご協力感謝します」
三人は連れ立って校長室を出た。 - 22名無し25/11/30(日) 09:24:25
主人公は祟りについて
dice1d100=48 (48)
低いほど受け入れている、高いほど抗おうと思っている
継夜刀への態度は
dice1d100=92 (92)
低いほどフランク、高いほど敬っている
主人公の名前と外見を↓3まで募集、ダイスで決定
- 23二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 10:55:46
名前:蛇ノ目 玲弥(じゃのめ れいや)
外見:
①髪色:銀灰色
②瞳:深い緑に金の環が浮かぶ
通常時は深緑だが、継夜刀が表に出ると金環が強く光る。
③体格:細身でしなやか
動きがどこか滑らかで、蛇のような静かな気配をまとっていると周囲に言われる。
④ 右手首に白い“蛇環の紋”
白蛇が輪を作るように腕に巻きつく紋章。通常は淡く見えないが、継夜刀が怒りや愛情を強く示す時だけ輝く。
(継夜刀の“守護”にも“祟り”にも関わる鍵) - 24二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 13:05:51
かなり篤く崇敬してる(92)のか…
祖父の代で何があったんだろうなコレ、祟られるのもやむなしって半ば受け容れてるのか?
伽賀知 直人(かがち なおと)
髪色:灰~白
瞳:琥珀色だが、瞳孔が縦長で赤く光る
体格:異形とまではいかないが、ジーニストのように首が長い。手足、手の指も長め - 25二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 18:46:37
ほしゅ
- 26二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 22:13:50
朽縄 供幸(くちなわ ともゆき)
髪:真っ黒
瞳:蛇のような瞳孔の黄色い目
その他:一見普通だが舌が長い - 27名無し25/11/30(日) 22:18:42
- 28二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 22:21:43
このレスは削除されています
- 29朽縄 供幸25/11/30(日) 22:34:07
朽縄の髪の長さは
1.短め
2.長め
3.すごく長い
dice1d3=1 (1)
- 30朽縄 供幸25/11/30(日) 22:50:38
ほどなくして青年が待つ部屋に到着し、代表して相澤がノックがドアを開ける。会議室の簡素なパイプ椅子に腰かけていた青年は、その音に静かに顔を上げた。
夜闇を塗り込めたがごとく真っ黒な髪が顔にかかる。その向こうに見える金の瞳孔は蛇のそれのように細い。黒ずくめの格好に、細く引き締まった身体は、彼自身が一匹の蛇であるかのような印象を与える。
委員長「お待たせしました」
根津「やあ、はじめまして!雄英高校の校長の根津なのさ!」
相澤「教員をやってる相澤消太だ」
二人の自己紹介に、青年も立ち上がって応える。
朽縄「朽縄 供幸(くちなわ ともゆき)です。よろしくお願いします」
根津「ああ、よろしく!早速だけど場所を移そう。検証については聞いているかい?」
朽縄「はい。ロボットを壊せばいいんですよね?」
根津「その通り。ロボットは移動するだけで攻撃してこないから、自分の思うように行動してほしいのさ」
朽縄「わかりました」
根津と打ち合わせる朽縄を、相澤は観察する。外見に目立った違和感はない。おかしな挙動も、後ろめたいところがあるような態度も見当たらない。
相澤(…だが…)
会議室内に踏み込んだときから感じる、視線。そして異様な肌寒さが、相澤の本能に警鐘を鳴らしていた。
合理的に考えれば、視線は気のせいで、肌寒さは師走の寒波から来るもの。しかし、長年ヒーローとして戦い培ってきた勘が、そうではないと囁いている。
いったい自分はなにを見せられるというのか。ここに来て覚えた一抹の不安はおくびにも出さず、彼は校長と青年に続いて会議室を出た。 - 31朽縄 供幸25/11/30(日) 22:56:09
市街地を模した広大なグラウンド。受験の準備が進むそこに、四人は足を踏み入れる。目の前には多数のロボットが配置され、役目を果たす時を待っていた。
根津「きみのタイミングで始めてくれ」
朽縄「わかりました」
コキッと首を鳴らし、かるくストレッチをして、朽縄はロボットたちを見据える。身体を動かすことに慣れている者の動きだ。
朽縄「────」
合図はない。音もなく彼は動き出した。 - 32朽縄 供幸25/11/30(日) 23:00:26
朽縄の戦闘技能を決めていきます
武闘 dice1d100=24 (24) (高運動技能により最低保証40)
術 dice1d100=83 (83)
霊力 dice1d100=59 (59)
加護(祟り)による特殊技能 dice1d100=77 (77)
継夜刀との親和性 dice1d100=95 (95)
- 33朽縄 供幸25/11/30(日) 23:09:19
霊力を用いた術と特殊能力で主に戦うようです
自分を祟っている神との親和性が高いのは信仰(92)が成せる技なのか
継夜刀の権能(できること、司るもの)を守護のほかに↓3まで募集 - 34二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:24:37
口から液体や霧状にありとあらゆる毒を吐くことが出来るし蛇に出来ることなら大体できる
- 35二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:30:11
ダメージ反射
鏡は『かが(かがち)』+『み(見or巳)』が由来だって説があってな… - 36二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:58:35
蛇は元来獲物を締め上げ飲み込むとされる。なので縛ること特化orしめ縄とかから縁結び由来の神であるみたいなのを想像したので、本体から荒縄に近い見た目のしめ縄を伸ばし締める、物によっては一時的な操り人形にして操るなど
- 37二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 00:05:32
に追加するけど朽縄が術を使う際は己or対象者の影から荒縄を出現させる。もしかしたら縁切りなんてこともできるかもしれない。
- 38二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 07:23:47
武闘以外高スペックだな朽縄さん???
- 39朽縄 供幸25/12/01(月) 12:36:38
駆けていく朽縄の目前にロボットたちが迫る。懐から何枚か紙を取り出した彼は、すれ違いざまにそれらをロボットに貼りつけた。そして、一つ柏手を打つ。
パンッ!
音が鳴り響いた瞬間、貼られた紙から細く、凄まじい勢いで水が噴出し、ロボットたちを貫いた。ある種のウォータービームだが、それが紙一枚から発射されたことに、三人は目を丸くする。
相澤「これが…“術“とやらですか」
委員長「私も実際に見たのは初めてです」
根津「事前に知っていても不思議なものだね」
三枚目の資料、朽縄が申告した「できること」の内容を思い返しながら、相澤は相槌を打つ。これが本当に個性によるものではないのであれば、あまりに非合理な現象だ。
朽縄は続けて中型のロボットに飛びかかる。人間の可動域をはるかに超えて顎が開き、ロボットの頭を食いちぎった。よく観察すれば口は耳まで裂け、蛇のごとき様相を呈している。チロリと舌を出した彼は、機械の残骸を吐き捨てて別の集団へと向かった。
今度は走りつつ自分の影から荒縄を召喚する。縄は意思を持つかのようにロボットたちに絡みつき、まとめて縛りあげた。
朽縄「溶けろ」
一言発すると、縄が接している場所からロボットの体が腐食していく。それを見つめる朽縄の頬に、じわりと鱗のようなものが広がった。
相澤(あれは…?)
委員長「イレイザーヘッド、そろそろお願いします」
相澤「! はい」
一瞬気を取られたが、自分がここにいる理由を思い出し、相澤は改めて青年を見据える。しっかりと視界の中に捉え、“個性“抹消を発動した。
相澤「…………」
朽縄の動きに変化はない。頬を浸蝕する鱗が消えることも、変化した口が戻ることもない。今もまた召喚した縄によってロボットを締め上げ、圧壊させている。 - 40朽縄 供幸25/12/01(月) 12:41:55
相澤「…これは」
【良い眼だの】
相澤「!?」
言葉を紡ごうとしたそのとき、相澤の視界をナニカが遮る。
【童、もっとよぅく見せておくれ】
声は柔らかい。しかし、凄まじい重圧。折れそうになる膝に力を込めて踏みとどまる。
姿を現したのは巨大な白蛇だ。三人の目の前に鎮座してとぐろを巻き、顔を相澤に近づける。真っ赤な目が、じっと、彼を覗き込む。
【…ああ、良い眼だ。よく澄んでおる】
脳に直接響かせるような声は、不思議と脅威には感じない。ただ、母が子を愛おしむように、目が細められる。
【実に、愛い】
根津「…あなたは…」
【…私は】
優しい口調で、子守唄を口ずさむかのように、ソレは名乗りを上げた。
【白蛇(しろへび)様、白蛇(はくじゃ)の君、谷田(やた)の大神…ヒトからの呼び名は数多あれど。始まりは、そう…継夜刀神(つぐやとのかみ)。そう呼ばれていた】 - 41二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 14:03:35
やっぱり夜刀神だったか。
- 42朽縄 供幸25/12/01(月) 15:04:58
カエルのように硬直する三人に、神を名乗った大蛇は穏やかな口調で続けた。
継夜刀【案ずるな、取って喰いはせぬ。お前たちが望んだがゆえに姿を見せたまでのこと】
継夜刀【私がなんなのか。アレの力は個性とやらなのか。知りたかったのであろう?】
相澤「…………」
いま一度腹に力を込め、相澤は大蛇を見つめる。未だ瞬きを耐える目に灯る赤い光が、大蛇をかき消すことはなかった。
相澤「………」
継夜刀【瞬くと消えるのか。惜しいのぅ】
委員長「…本当に、個性ではない…」
継夜刀【うむ。私も、アレの力も、個性とやらに由来はない。お前たちからすれば、もっと古きものよ】
アレ、のところで少し身体をうねらせ、神は遮っていた視界を解放する。ロボットをおおむね破壊した朽縄が、荒く息を吐きながら相澤たちの様子をうかがっていた。
朽縄「はあっ、はあっ…どう、でしょう」
根津「…うん、お疲れ様。もう大丈夫なのさ」
朽縄「はいっ…」 - 43朽縄 供幸25/12/01(月) 15:16:50
検証は終わりだと察し、彼は呼吸を整える。裂けていた口がもとの形に整えられ、頬を覆うほどになっていた鱗も薄れていった。白蛇が這いより労いの言葉をかける。
継夜刀【術符もよくできておる。突貫にしては上出来じゃ】
朽縄「白蛇様のご指導あってのことでございます」
継夜刀【当然。なんのために幼少よりお前に仕込んだと思うておる】
朽縄「この身をお捧げするまで、我が身を守るため」
継夜刀【そう。先日は遅れを取ったな、おかげで私が出る羽目になった】
朽縄「申し開きのしようもございません」
継夜刀【お前の身はもはや私のもの。もう少し贄の自覚を持て】
朽縄「はい」
気にかかる言葉があったが三人が入り込む余地はなく、物騒な会話はそのまま流れ、息を整えた朽縄は彼らのもとへ帰ってきた。
朽縄「これで、俺が個性を持ってないって証明になりましたか?」
委員長「ええ…そうですね」
そのせいで困ったことになった。どうしたものかと、公安委員長は頭を悩ませる。
ヒーロー公安委員会の目的は、ヒーローらを管理し、個性社会の秩序を維持すること。その観点から見れば、継夜刀と朽縄は「“個性“に依らない暴力」である。規制の対象外であると同時に、潜在的な危険性から拘束しておきたい存在なのだ。自由にさせておけば、先日の銀行強盗犯のような末路を、無辜の市民がたどるかもしれない。
しかし、無闇に縛っていいものか。…そもそも縛れるようなモノなのか。未知の存在に対する知見が、彼女にはあまりにも不足していた。 - 44朽縄 供幸25/12/01(月) 17:54:09
肯定したきり沈黙する委員長に、継夜刀が顔を近づける。一歩下がろうとした身体は、音もなく背後に回り込んでいた尾によって支えられた。
継夜刀【なにぞ懸念があると見える。申してみよ】
委員長「…それ、は」
継夜刀【多少のことでは怒らぬよ。私としても、お前たちにいらぬ心労をかけることは本意ではない。それに、そのように濁されては気にかかるではないか。ほれ、言うがよい】
促され、目でプレッシャーをかけられ。ついに彼女は口を開いた。
委員長「あなた方が、一般市民に無闇に影響を与えないかと」
継夜刀【無関係の者にまで祟りはせぬ。喰らうのはコレの一族のみ。こやつについても、必要なとき以外力は使うなとしつけてある】
委員長「………」
継夜刀【信用ならぬか。そうであろうな。お前たちとって我らは未知のモノ。いかなる理で動くか、想像もできまい】
継夜刀が頭をもたげる。どうしたものかとつぶやく姿は、確かに怒っているようには見えない。むしろ、この溝をどう解決すればいいのか、思案しているようにさえ感じられる。祟り神という字面の印象とは裏腹に、きわめて理性的だ。
提案をしたのは
1.朽縄 2.継夜刀 dice1d2=1 (1)
- 45朽縄 供幸25/12/01(月) 19:05:05
その思案を固い声で破ったのは贄の青年だった。
朽縄「一つ、提案みたいなのがあるんですけど」
根津「なんだい?」
朽縄「公安さんは俺たちを監視したい。俺は白蛇様に喰われるまで生き延びなきゃならない」
朽縄「だから…ここで監視をしてもらうのは、どうですか」
相澤「ここ…雄英で、ということか?」
朽縄「はい。ヒーローを養成する学校でなら、なにかに巻き込まれても切り抜けられるだけの強さを手に入れられる。そっちは先生のヒーローを通して監視や観察ができる」
朽縄「これならお互いの条件に合致…して、ますよね…?」
自信がなかったのか言葉の最後がしりすぼみになる。しかし、目は三人の大人をはっきりと捉えている。
委員長「………」
根津「…うぅん…」
継夜刀【勝手に話を進めるな。ヒーローというのは、アレじゃろう、暴れている者を叩きのめしておる者らのことであろう?】
継夜刀【先の私の言葉を忘れたか。贄如きが、その身を捧げるべき神を忘れ、自ら命を危険に晒すなぞ認めぬ】
朽縄「おこがましい申し出であることは承知のうえです。ですが先日あなた様のお手を煩わせたばかり。このままぼんやりと生きて、同じ轍を踏むことが俺は恐ろしい」
継夜刀【斯様なことがそうあってたまるか。…まあ、確かにお前が自衛できれば事欠かぬだろうが】 - 46朽縄 供幸25/12/01(月) 19:16:08
相澤「…それ以前に」
相澤が再び朽縄を見やる。赤は灯っていないが、その目つきは冷たく厳しい。
相澤「ここは託児所じゃない。その言い方はヒーロー科に入ることを想定してるんだろうが、だとしたらなおさらだ。強くなりたいだけなら山篭りでもしていろ」
相澤「祟り神が憑いているとしても。強さが必要なんだとしても。ヒーロー科は“ヒーロー“を育てるための学科だ。お前のための強化プログラムをやってあげるところじゃないんだよ」
語気が強くなりすぎないよう抑え気味に話すが、それでもわずかに声が震える。ヒーロー科という門を軽く見ていることへの呆れであり、半ば死を受け入れて抗おうともしないことへの怒りでもあった。朽縄はその言葉に目を伏せる。
一方、根津は沈黙を守ったまま深く思考していた。しばらくして目を開き、はるか頭上にある朽縄の顔を見上げる。
根津「朽縄くん、一つ聞こう。きみに、ヒーローになる意思はあるかい」
朽縄「え…?」
思わぬ問いに小さく戸惑いの声が漏れる。きょろりと向けられた目は放り出された迷子のようで、どことなく幼さを感じさせる。
朽縄「ヒーロー…?」
根津「そう。事情は一旦置いておこう。ただ、きみに意思があるかどうかだけを聞きたいんだ」
朽縄「……俺は…」
朽縄の“意思“は
dice1d100=80 (80)
高いほど強い
- 47朽縄 供幸25/12/01(月) 19:45:46
朽縄「……は、ぁ…」
か細い息だった。小さく、耳を澄ましてようやく聞こえるほどの。固く握られた拳が小刻みに震えている。
根津「朽縄くん」
急かすことなく根津は続ける。
根津「きみの思いを、ぶつけていいんだ」
朽縄「…俺、の……」
そっと、朽縄が視線を上げる。先刻まで反対していた継夜刀が、いまは黙して彼を見下ろしていた。
朽縄「白蛇様…」
継夜刀【聞かれているのはお前であろう。私は口を出さぬ】
朽縄「しかし…」
継夜刀【はあ…供幸。お前は私の獲物だが、奴隷ではないだろう。自分の頭で考えよ】
神は、それきりまた黙り込んだ。 - 48朽縄 供幸25/12/01(月) 19:53:23
朽縄(…ヒーロー…)
ヒーローになりたいか。自問を繰り返す。
無個性なのに、なれるわけがない。自分は贄でいずれ喰われるのだから、危険なことは慎むべきだ。この程度の術で、祟りを受ける身で、誰かに手を伸ばすなど思い上がりだ。自分は無力なのだから、罪人だから、死ぬために生きるのだから。ゆえに、相応の人生と末路こそがふさわしい。
──その思考は、己の意志と呼べるだろうか?
歯を音が鳴るほどに食い締めてこらえようとして。しかし、理由を並べて蓋をしようとしたそれはあふれだした。
朽縄「……なり、たい…」
見ないふりをしていた思いが。求めていた生きる意味が。埋もれていた欲望が。
朽縄「ヒーローに…なりたい、です…!!!」
あふれて、涙とともにこぼれる。
それは、朽縄 供幸にとって、十数年ぶりに発した“自分の“言葉だった。 - 49朽縄 供幸25/12/01(月) 21:49:15
ふっ、ふっ、と短く息を吐きながら涙を拭う姿は意外そのもので、根津以外の二人は小さく息を飲む。継夜刀はといえば、その様をじっと見つめていた。雰囲気が、気のせいだろうか、ほんの少しやわらいでいるようだ。
朽縄「お、おれ…おれ、その」
根津「わかったよ。もう大丈夫だ」
朽縄「ふっ…ふうぅ…!」
先程よりも乱暴に目が擦られる。それをなだめながら、根津は相澤に告げた。
根津「僕は、彼を受け入れたいと思う」
相澤「…本気ですか」
根津「もちろん懸念点はあるけれど、ここで学びたいという意志を彼は確かに示した。それを尊重したいのさ」
根津「それに、雄英の施設なら様々な角度から彼らの能力を検証できる。似た事例に対応していくためにも、朽縄くんたちを受け入れたほうがいい」
委員長「彼らのような存在はほかにもいるとお考えなのですか?」
根津「ああ。まさかあなた方だけではないんだろう?」
継夜刀【うむ、わりとそこかしこにおるぞ。ヒトを拐かすほどの力を持つモノはそういないが、いることにはいる。個性とやらが広がってからはちぃと減ったが】
委員長「…事例の洗い出しが必要そうですね」
今までヴィランによる犯罪だと思われていた事件が心霊現象かもしれない。思ってもみなかった事態とそれに伴う大量の仕事の発生に、委員長の声から覇気が少し消える。
そんな彼女をよそに根津は大蛇を見上げた。継夜刀もまた頭を低くして目線を合わせる。
根津「承知してもらえますか?」
継夜刀【…諸手を上げて、とはいかぬがのう。先も言うたが、私はコレが命を危険に晒すことは好まぬ。私に喰われるが運命ゆえな】
継夜刀【だが、お前たちに預けることに利点があるのも事実。ましてや贄がやる気を出しておる。となれば、これ以上ごねるのは無粋であろう】 - 50朽縄 供幸25/12/01(月) 21:53:22
朽縄「…白蛇様…?」
継夜刀【許す。せいぜいよく学ぶがいい】
朽縄「よろしいんですか…?」
おずおずと尋ねる朽縄に、継夜刀はふんと鼻を鳴らした。
継夜刀【お前が自衛の術を持つのは私も望むところ。多少の勝手で怒り狂うほど狭量でもないわ】
予想外の答えにポカンと開かれた口を、尾を使って器用に閉じさせる。寒風が四人と一神の間を吹き抜けた。
継夜刀【…ひとまず温いところに戻らぬか。ここは堪える…】
相澤「蛇だからですか」
継夜刀【左様。お前たちのように服は着れぬのよ…。供幸】
朽縄「は、はい」
ジャケットのチャックを下ろしている間に、継夜刀の身体が縮んでいく。少し大きな蛇程度になったところで朽縄の足元から這い上り、胸元から首にかけてとぐろを巻いた。
継夜刀【上げよ】
朽縄「はい」
ジッ、と軽やかな音ともにチャックが上がる。ジャケットの中の温もりが伝わりだしたのか、継夜刀はうっとりと目を細めた。
朽縄「出たくなりましたらお申し付けください」
継夜刀【うむ…】
朽縄「お待たせしました」
根津「ああ…そんなに待ってないのさ。じゃあ戻ろうか。受け入れにあたって、詳しい話もしておきたいからね」
朽縄「はい」
呼吸も忘れかねないほどの威圧を放っていた神が、現在進行形で祟っている存在の胸元で暖を取っている。そのことになんとも言えない表情を浮かべながら、しかし言及するわけにもいかず、三人は朽縄を連れて校舎へ戻っていった。 - 51二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 06:05:16
本当に寄り添うタイプの、蛇だけど逆鱗触れるような事しなければまだ話の通じるお方なのがほっとすると同時に怖いわぁ……
- 52二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 12:33:29
公安委員長さんは、がんば……
- 53朽縄 供幸25/12/02(火) 13:57:48
いくつかの話し合いを経て、朽縄らと公安委員長は雄英を後にした。それを見送り、根津と相澤は校舎へ戻る。
相澤「…神、ね」
根津「僕もまだ実感が湧かないのさ。ただ、あの気配は確かに常人のものじゃなかった」
相澤「なんの前触れもなく姿を現しましたしね」
根津「不謹慎かもしれないけど、この歳になってもまだ未知の出来事に触れられることはきっと幸運なんだろう」
相澤(…この人何歳なんだ…?)
根津「相澤くん」
相澤「はい」
肩に乗っている根津の呼びかけに視線を向ける。根津もまた相澤を見据えていた。
根津「朽縄くんを受け入れることは、やはり不安かい?」
相澤「…不安というよりは…そうですね、疑念に近いものはあると思います」
校舎へ向かう足取りは乱れない。茜色の光が、明かりが灯りはじめた学舎を照らしている。
相澤「ヒーローになるという意志があの場限りのものではないか。生半可な気持ちで授業を受けられては困ります。ほかの生徒にも迷惑だ」
根津「そうだね」
相澤「それ以前に」
むしろ、相澤にとっての疑念はこちらのほうが大きい。
相澤「生きる意志があるのか。俺は、死ぬために生きる生徒を育てる気はありません」 - 54朽縄 供幸25/12/02(火) 14:03:51
根津「うん。それが一番の問題だ」
二人きりになったからか苛立ちを隠さない声に気圧されることなく、根津は穏やかに同意する。
根津「朽縄くんは神を篤く敬っている。祟り殺されることについても受け入れているように見えた。でも、僕には彼が生きる意志まで完全になくしているとは思えない」
朽縄『ヒーローに…なりたい、です…!!!』
脳裏に涙を流しながら叫ぶ朽縄の姿が蘇る。生きることを諦めた者の言葉ではなかった。懸命に息を吸い、生きているぞと訴えていた。
相澤「…それは、そうかもしれませんが」
根津「意識を変えるのは容易じゃないだろう。原因もなんとかする必要があるし」
相澤「原因って、祟りですよね?なんとかできるものなんでしょうか」
根津「わからない。でも今日話したかぎり、継夜刀とやらは理由もなしに人間を呪うような存在ではないと感じたんだ。学校での振る舞いについても、説明を尽くせばかなり譲歩してくれたろう?」
相澤「まあ、逆上してるヴィランより話が通じるとは思いました」
根津「だから彼…彼女かもしれないけど…かの神が祟り引き起こしていることには原因があると思うんだ。それを解明できれば、祟りを鎮めるきっかけになるかもしれない」
相澤「まるでオカルト小説ですね。今更ですが」
根津「…実を言うとね」
校舎はもう目の前だ。陽はこんこんと沈み、空の端から藍と紫に染まっていく。相澤の影に隠れた根津の表情を窺い知ることはできない。
根津「生きたいと思っているのに足掻くことを諦めた彼を、投げ出したくなかったのさ」
相澤はそれに言葉を返さず、エントランスの扉を押し開けた。
──これは、神に呪われた青年が、ヒーローになるまでの物語。 - 55スレ主25/12/02(火) 18:50:53
──時は流れ、四月。新入生たちが胸を弾ませ雄英の門をくぐる。窓越しの暖かな春の陽射しを浴びて、一人の生徒が廊下を歩いていた。
朽縄(まさか、無個性なうえに死を待つばかりの俺が、雄英に入れるなんて)
歩きながら見つめた手のひらを、朽縄は拳に変える。
朽縄(贄の立場としては厚かましいにもほどがある願いだ。…だけど、それでも俺は…)
継夜刀【早く行かんか。遅すぎて欠伸が出る】
朽縄「はいっ」
冬と同じく首に巻きつく継夜刀にせっつかれ、足を速める。向かう先は自分が所属することになる1Aの教室…ではなく。
コンコン
朽縄「お待たせしました、朽縄です」
根津「入ってもらっていいのさ!」
朽縄「失礼します」
扉を開けた先にある校長室では、部屋の主である根津が待っていた。
根津「入学初日にすまないね」
朽縄「こちらの都合ですから」
継夜刀【童、お前こそ多忙なのではないか?この学び舎の長なのだろう】
根津「時間は作ればいいですから」
継夜刀【健気よのう。ではこれ以上お前の時間を取らせないためにも、さっさと済ませるとしよう】
腕を伝って机に移動した継夜刀と、椅子に座る根津が一枚の紙を挟んで向き合った。この日のために話し合って決められたそれは、継夜刀という神を雄英に受け入れるための契約書だ。 - 56スレ主25/12/02(火) 18:54:12
根津「それでは改めて内容を読み上げます」
継夜刀【うむ】
根津「ひとつ。継夜刀神は、雄英に所属するすべての生徒及び職員に一切の直接的危害を加えないこと。これには、現在雄英に所属し、のちに卒業する生徒を含む」
根津「ひとつ。継夜刀神は、生徒にはその神性を秘匿すること」
根津「ひとつ。継夜刀神は、雄英に所属するすべての生徒及び職員に、不必要な霊的干渉を行わないこと」
根津「ひとつ。継夜刀神は上記の見返りとして、生徒及び職員から、身体に影響が出ない程度の霊力を接収できること」
根津「ひとつ。雄英はこの契約への報酬として、継夜刀神に供物を捧げること。供物には食物、酒、娯楽を含み、危害を加えかねない内容を除外する。以上を、雄英高校校長の根津を代表として、御神に申し上げる」
継夜刀【あい、わかった。私は根津を雄英高校に所属する者らの代理人として認め、この契約を受け入れる】
根津「では」
継夜刀【あ、血判じゃなくて拇印で構わんぞ。血を出すのは痛かろう】
根津「ありがとうございます」
継夜刀の言葉に根津は朱肉を取り出し、手のひらで触れて契約書に押しつける。継夜刀自身は牙で己の舌を少しだけ傷つけてその血を垂らした。これにて神を縛る契約は成り、禁を犯せば相応のペナルティを受けることになる。それは根津はもちろん、神である継夜刀も同じことだ。
継夜刀【契約、しかと承知した。これより私はこやつの“個性“として振る舞えばよいのだな?】
根津「はい、生徒に混乱を招いてはいけませんので。あまり気分のよいことではないかもしれませんが」
継夜刀【構わぬ、かわいい童の頼みよ。私も近場でお前たちの生活を観察できる。くふふ、「がっこう」とやら、話には聞いていたが…いかなるものか、よぉく見定めてやろうではないか!】
カッ!!と口を開く継夜刀だが、雰囲気ははじめての学校にワクワクする小学生そのもの。威厳を感じて佇まいを正すのは朽縄だけであった。 - 57スレ主25/12/02(火) 18:59:00
朽縄「では、白蛇様。これからは常にお姿を現されるのですか?」
継夜刀【現れたり消えたりしては不審に思う童がおるやもしれぬ。姿顕し(すがたあらわし)程度であれば、通りすがりの霊力をちょいともらうだけで事足りるであろう】
朽縄「承知しました。快適にお過ごしになられるよう、細心の注意をもって生活いたします」
継夜刀【うむ】
満足気にぴるるっと舌を震わせ、継夜刀は再び朽縄の首元に収まった。
朽縄「このあとは入学式ですよね」
根津「ああ、教室に行ってもらえれば大丈夫なのさ。場所はわかるかい?」
朽縄「大丈夫です」
根津「それじゃあ、朽縄くん」
椅子から飛び降りた根津が朽縄に歩み寄り、ニコッと笑いかける。
根津「気がかりなことはたくさんあるだろう。それでも…きみの高校生活に笑顔があることを祈っているよ」
朽縄「ありがとうございます」
根津「引き止めて悪かったね。じゃあ入学式でまた会おう!」
朽縄「…はい、失礼します」
根津の言葉に背中を押されるように校長室を出て、今度は教室への道を歩きはじめる。
朽縄(…高校、生活…)
窓の中に映る朽縄の口角は、ほんの少し上がっていた。 - 58スレ主25/12/02(火) 20:50:44
しばし歩いて目的地、1Aの教室に二者はたどり着く。
朽縄(結構時間経ってるし、俺が最後かもしれない)
いざ、と扉に手をかけようとした瞬間、それは勝手に開かれた。扉を開けた人物…相澤と目が合う。
朽縄「あっ、と、その…」
相澤「遅刻ギリギリ、合理性に欠くね」
朽縄「…すみません、気をつけます」
相澤「コレ着てグラウンド集合。いいな?」
朽縄「はい」
まるで初対面のように淡々としたやり取りに一瞬萎縮するも、あまり親しくしていては──そもそも親しくなるほど話してもいないのだが──ほかの生徒に示しがつかないと思い当たり、朽縄は素直に体操着を受け取った。その横を相澤はすり抜け、一人廊下の先へ消えていく。
継夜刀【これに着替えるのかえ?】
朽縄「そのようです」
継夜刀【いま着てるのよりは楽そうじゃな】
朽縄「運動用の服ですから。動きやすいように作られています」 - 59スレ主25/12/02(火) 20:52:03
「君!」
説明をしていた朽縄に、一人の生徒が声をかける。眼鏡越しの視線は鋭く、咎めるように彼を貫いている。
飯田「入学初日から遅刻ギリギリとはよくないぞ!遅れれば先生方にも迷惑がかかる!」
朽縄「ん、そうだな。反省してる」
飯田「それならいいんだ!」
反省の一言を聞いたからか、聞くからに真面目そうな声が少し柔らかくなる。
飯田「明日からはより一層気をつけるといい!」
朽縄「おう。じゃあ先生待たせちゃ申し訳ないし、更衣室行こっか」
その言葉を皮切りに、ヒーローの卵たちはゾロゾロと連れ立って移動を始めた。
道中にて、朽縄は
1. dice1d20=6 (6) に声をかけられた
2.特に話しかけられなかった
dice1d2=2 (2)
- 60朽縄 供幸25/12/02(火) 22:19:42
緊張からか、蛇を連れているという異様さからか、誰にも話しかけられることなく朽縄は着替えを済ませてグラウンドの土を踏んだ。ポカポカの陽気に継夜刀は目を細める。
継夜刀【うむ…春はいい…】
神格をもつ継夜刀だが、その習性は姿と同じく蛇のそれに近い。極端な暑さや寒さに曝されると動きが鈍るのだ。よってこの神がもっとも好む季節は、獲物が増え、自身も動きやすく、さらに人も活発さを取り戻す春なのである。
着替えを終えた生徒たちがグラウンドに集まってくる。それを見計らったかのように相澤が再び姿を現した。
相澤「全員揃ったな。じゃ、これから個性把握テストをする」
A組「個性把握…テストォ!?」
テストという物々しい響きに困惑の声が上がる。朽縄もまた眉を下げた。勉強は人並み…雄英レベルではついていくのに相応の苦労をすることになるだろう。だが幸いなことに、テストはテストでも行うのは体力テスト。彼の得意分野だ。
…もっとも、それは“個性“禁止の縛りの中での話なのだが。
爆豪「タヒねえ!!!」
物騒な掛け声とともに轟く爆発音。青年の個性によるものか、ボールは爆風と共に彼方へ消えていく。
継夜刀【…元気なのはよいが、ちと言葉遣いが荒くないかの?】
相澤「まず自分の「最大限」を知る」
示された計測器の数字は、常人の記録をはるかに超えていた。
相澤「それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段」
朽縄「…最大限…」
相澤の言葉を反芻する朽縄を置いて、同級生たちは盛り上がる。
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「705mってマジかよ」
「“個性“思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」 - 61朽縄 供幸25/12/02(火) 22:25:14
だが、担任はその熱気に容赦なく冷水を浴びせる。
相澤「面白そう…か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
相澤「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「はあああ!?」
突然の宣言にざわつく若者たち。ついていけない一神が小さな“声“で問いかける。
継夜刀【なんじゃ、「じょせき」とは】
朽縄「学校をやめさせられるという認識でよいかと」
継夜刀【ほう。斯様な体力比べ一つで学び舎を追い出されるとは、「こうこう」は私が思うているよりよほど厳しい世界と見える】
朽縄「いえ、彼が強権なだけ…だと、思います…」
ほかの雄英教師と会ったことがないゆえに断言は避ける。が、出会った日に向けられた言葉を思い返しながら朽縄は確信していた。
相澤「生徒の如何は先生(おれたち)の“自由“。ようこそ、これが──雄英高校ヒーロー科だ」
この男は本気だ、と。 - 62二次元好きの匿名さん25/12/03(水) 06:07:50
頑張れ朽縄
- 63二次元好きの匿名さん25/12/03(水) 12:30:45
多分普通にやってもそこまで悪い結果にはならないだろうが……
- 64朽縄 供幸25/12/03(水) 13:42:42
【第1種目:50m走】
順番が近づく中、朽縄は隙を見て相澤に声をかける。
朽縄「あの、先生」
相澤「ん」
朽縄「本当にいいんですか。俺ごときが…」
相澤「お前、なんのために雄英(ここ)に来た」
朽縄「白蛇様のために…」
言いかけた瞬間視線を鋭くした担任に、びくりと肩を震わせる。
相澤「自分で言ったことも忘れたか。それ以上言うなら結果を待たないで除籍するぞ」
朽縄「………」
相澤「もう一度聞く。なんのためにここに来た」
頭半分ほど高い朽縄を相澤は睨みつける。数秒の沈黙を経て、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で、彼は答えを出した。
朽縄「ヒーローに、なるため」
相澤「なら全力でかかれ。以上」
朽縄「はい」 - 65朽縄 供幸25/12/03(水) 13:48:01
相澤「次。朽縄供幸、口田甲司」
名簿が読み上げられ、二人が位置につく。
朽縄「よろしく」
口田「……!」
言葉こそないもののコクコクとうなずく口田に笑みを返し、朽縄はズボンをまくり上げる。ポケットから筆ペンを取り出し、脚に直接術式を書き込んでいく。
芦戸「? なんだろ、アレ」
上鳴「なんかかっけぇな」
只人には判読できないそれを慣れた手つきで書き上げ、彼はスターティングブロックを足を置いた。前方を見据える。
朽縄「揺れます」
継夜刀【構わん】
ロボット「START!」
ッダンッ!!
合図と共に地を蹴る音がグラウンドを駆けた。
記録
2+ dice1d3=2 (2) 秒
- 66朽縄 供幸25/12/03(水) 16:00:02
ピッ
ロボット「4秒37」
朽縄「ふぅっ…」
告げられた記録に小さく息を吐く。中学三年生のときの記録が6秒台であったことを考えれば大幅な更新だ。
朽縄(化生から逃げるためでもないのに術を使うなんて、考えたこともなかった。…ちょっとズルしてる気分)
視線を相澤に向ける。一瞬朽縄を見てすぐに逸らし、次の名簿を読み上げた。
朽縄(これでいいってことなんかな)
継夜刀【退かぬと次の者らの邪魔になるぞ】
朽縄「はい」
言葉を発した継夜刀に、息を整えていた口田が目を丸くする。個性柄動物に関心がある彼は思わず話しかけていた。
口田「その子、きみの個性…?」
朽縄「まあ、そう」
継夜刀【継夜刀という。よしなに頼むぞえ】
口田「こ、口田甲司です…!」
継夜刀【うむ】
継夜刀が白磁の蛇体を伸ばし、鼻先を青年に近づける。舌をしきりに出し入れし、じっと彼を見つめている。 - 67朽縄 供幸25/12/03(水) 16:06:59
継夜刀【…善い氣だ。心根が優しいのじゃな】
口田「え…?」
継夜刀【それにこの気配は獣らの…従えるだけでなく、好かれておるよう。感心感心】
継夜刀【甲司だったか。覚えておくぞ、童】
口田「は、はい」
一方的な宣言に戸惑いながらも、不思議と口田の中には安心感が広がった。まるで、母に見守られているような…。
朽縄「番号も近いし、一緒にいる?」
口田「いいの?」
朽縄「俺はいーよ。口田は?」
口田「だ、大丈夫」
朽縄「んじゃ端っこ行くか。あ、俺朽縄供幸ね」
口田「うんっ。よ、よろしく…!」
朽縄「ん」
申し出を受けた口田に、朽縄は小さく笑いかける。ささやかなやり取りはほかの誰に聞かれることもなく、二人はそのまま待機列に戻っていった。 - 68朽縄 供幸25/12/03(水) 18:59:23
【第2種目:握力】
朽縄(どうすっかな。縄で巻いてもいいんだけど)
朽縄「なー、これ手ぇ以外で測ったらアウトかな?」
口田「う、うーん…たぶん…?握力だからね…」
朽縄「そっか。とりあえず普通にやる」
脚に書き込んだ身体強化の術式は未だ健在であり、朽縄の能力を超人のそれに押し上げる。
ピピッ
朽縄「111キロ〜。ワンワンワンでラッキーじゃん」
口田「っえい…!」
朽縄「がんば〜」
「540kgて!あんたゴリラ!?タコか!」
継夜刀【…上には上がいるもんじゃの。世間は広い】 - 69朽縄 供幸25/12/03(水) 19:06:06
【第3種目:立ち幅跳び】
ッダンッ!!
朽縄「ッし!」
ロボット「409m」
トップに立つことは叶わないが、生来の運動能力と術式の補助により、確実に記録を積み重ねていく。
【第4種目:反復横跳び】
ピピッ
ロボット「終了!102点」
朽縄「カウントしてくれんの助かる〜」
その堆積は、ほかの生徒と比べても決して劣るものではない。 - 70朽縄 供幸25/12/03(水) 20:15:12
【第5種目:ボール投げ】
麗日「セイ!!」
フワ〜〜〜……
ピピッ!
「♾!?」
「すげえ!!♾が出たぞー!!!」
継夜刀【アリなんそれ???】
朽縄「ありなんでしょうね」
継夜刀【“個性“…童の力といえど侮れぬ…!】
長く生きてきた継夜刀にとっては、“個性“を持たない人間のほうが見慣れている。容易く行使される超常の力に神は驚きを隠せない。
継夜刀【私の全盛でも延々と球を飛ばすなんて芸当はできなんだ。それを考えれば、この童ら、ある意味私より強いやもしれぬ…】
朽縄「それは特性にも依りましょう。彼女とあなた様では得意分野が違うのでは?」
継夜刀【それもあるだろうが、ヒトに負けるのはこう、神(年長者)としてどうなんじゃろこれ…複雑ぅ…】
朽縄(それを言うなら俺なんて無個性なんだけどな。術がなかったら最下位ほぼ確だし)
焦げ茶の髪の少女に続いて、各々が工夫を凝らし記録を伸ばしていく。それを見つめる朽縄の瞳が、だんだんと暗く濁っていく。
朽縄(やっぱりみんなすげえなあ。個性の使い方わかってるっていうか。そりゃそうか、目標に向かって頑張ってんだもん)
朽縄(…場違いだなあ、俺。大した力もないのに、許される立場じゃないのに。思い上がって身勝手に願ってさ)
朽縄(自分には不相応な結末を、ずぅっと、捨てられなくて──)
口田「あのっ」
朽縄「!」
思考の海に沈んでいた意識が引き上げられる。周囲を見回すと、朽縄の直前の投手はすでに投げ終わっていた。 - 71朽縄 供幸25/12/03(水) 20:24:13
口田「つ、次だよ」
朽縄「サンキュー、ぼーっとしてたわ」
へらりと笑みを浮かべて円の中に入り、相澤からボールを受け取る。
相澤「投げるのは2回な」
朽縄「はい」
一球目。強化された腕が豪速球を繰り出す。
ゴウッ!
ピピッ
相澤「139m」
凄まじい飛距離だが、ほかの生徒の記録の前では霞む。
朽縄「んじゃ、もう一球」
継夜刀【おい、ちと地味ではないか?式にでも運ばせればもっと伸びるぞ】
朽縄「数字だけ見れば十分常識外ですよ…。それにボール「投げ」ですし、投げないといけないのでは」
相澤「使えるものは使え。最初のデモンストレーションでも言ったろ。円の中から出なけりゃなにしてもいい」
躊躇う朽縄に声がかかる。
相澤「お前の「最大限」はそこか?朽縄」
それは響きこそ低いが、どこか落ち着く空気をまとっていた。叱責ではなく、もっと暖かいなにか。男は静かに青年を見守っている。 - 72朽縄 供幸25/12/03(水) 20:25:38
朽縄「…………」
少しの間うつむいて、朽縄は筆ペンと、さらに人型に切り抜かれた紙を取り出した。素早く字らしきなにかを書きつけ、それを持ち小声でなにごとかをつぶやく。
朽縄「〜〜〜…」
ポワ
紙切れが仄かに輝いた。目は澄み、もはや澱んでいない。
朽縄「もっかいお願いします」
相澤「うん」 - 73朽縄 供幸25/12/03(水) 20:33:13
投球フォームは一回目と同じく。まるでお手本のようにきれいな姿勢から球が放たれる。
ビュンッ!!
一球目と違うのは、球を包むようにして、人型の紙ごと投げていること。
落下が始まる。その瞬間ひとりでに紙が開き、落ちそうになった球を持ち上げて再び飛びはじめた。
葉隠「えっ、なにあれ!!」
瀬呂「さっきもにょもにょってやってたのあれか!」
尾白「めちゃくちゃ飛んでる…!」
即興で作られた式神はその後30秒近く飛び続け、最後には力尽きたように落下した。
ピピッ
相澤「403m」
継夜刀【即興にしては飛んだほうではないか?】
相澤「最初からこうしろ」
朽縄「はいっ」
苦言を呈されたにもかかわらず、朽縄はふにゃりと微笑んだ。初めてできたことを褒められた子供のように、無邪気に。 - 74二次元好きの匿名さん25/12/03(水) 23:01:58
多才〜!!
いや術って大枠なら1つなんだろうけど運用の幅が - 75二次元好きの匿名さん25/12/04(木) 07:14:02
ほしゅ
- 76二次元好きの匿名さん25/12/04(木) 12:44:44
そういえば入学してるって事でナチュラルに15,6と思ってたけど朽縄って何歳だ?
事情が事情ゆえ途中から上の学年よりはってので1年扱いとかなら17,8とかまでありだろうが
見落としてたらすまん - 77朽縄の中の人25/12/04(木) 15:07:25
- 78二次元好きの匿名さん25/12/04(木) 21:40:30
- 79朽縄 供幸25/12/04(木) 21:42:47
ふわふわと笑う朽縄に続いて、クラスメイトたちもボールを投げ続ける。誰も気負った様子はない。…一人を除いて。
相澤「次、緑谷」
呼ばれて円の中に入った緑髪の少年の顔は、気の毒になるほど青ざめている。
継夜刀【あの童…あまり調子がよくないように見えるが】
朽縄「そうですか?」
継夜刀【うむ、今までの記録も芳しくない。それに…なんというか…お前と似ているような気がするんじゃがのう】
朽縄「俺と…似てる…」
継夜刀【気配というか、態度というか】
言われて、朽縄は改めて少年…緑谷出久を観察した。身長。頭髪。顔つき。外見に類似点は見当たらない。本神が言うように、似ていると感じたのは見えない部分のことだろう。
ではどこだ。首をひねる一人と一神に、答えは思いがけないところから降ってきた。
飯田「緑谷くんはこのままだとマズいぞ…?」
爆豪「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」
朽縄「!?」
継夜刀【…ほう…?】
掛け声がやたらと物騒な青年の言葉に振り返る。無個性。自分と同じ、持たざる存在。 - 80朽縄 供幸25/12/04(木) 21:45:14
飯田「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
爆豪「は?」
朽縄「わり、ちょっといい?」
爆豪「あ?ンだてめぇ?」
ぎょろりと睨み上げる爆豪をまったく意に介さず、せっつくように問いかける。
朽縄「ほんとなん?無個性って」
爆豪「ああ。ガキんときから今まで、あいつに個性は出てねえよ」
飯田「そんなはずはない!入試時にゼロポイントのロボットを殴り飛ばしたんだぞ!?」
爆豪「は〜?それこそありえねえな」
言い合う二人の会話は、もはや朽縄の耳には入っていなかった。
朽縄(無個性…俺と同じ、無個性…!)
一挙一動に釘付けになる。どうやって雄英に受かったのかはわからない。どうでもいい。初めて出会った同類。初めての仲間。
恋に落ちた乙女のように見つめられているとは知らず、緑谷一人は覚悟を決めた。渾身の投球。右腕を代償に彼方に消えるはずだったボールは。
トンッ
相澤「46m」
平凡な記録だけを刻んだ。 - 81朽縄 供幸25/12/04(木) 21:46:21
朽縄(マジ、マジで無個性なんだ…!初めて会った…!!)
震える手で上がる口角を隠す。潤んだ目は次の瞬間失望に沈んだ。
緑谷「な…今確かに使おうって…」
朽縄「……は…?」
「使おう」とした。それは、持つ者でなければ出ない言葉。
朽縄(違った。同じじゃなかった。持ってる側だった)
腹の底から湧き上がっていた熱が冷めていく。熱狂からの覚醒は、朽縄に失望と同時に客観を与えた。喜んでいた。除籍がかかったこの試練で、彼が追い詰められていることを。無邪気に。無神経に。
無責任に期待し、自分勝手に失望し、挙句の果てに未来を閉ざされることを歓喜して。
朽縄(…俺、なにやってんだろ…。最低だ)
呆然とする朽縄の前で、緑谷が再び構える。脚を広げ、身体ごと腕を引き、前方に踏み込むと同時に振り抜く、すべての動作が朽縄の目に映る。
腕がまわる。ボールが指から離れる、その、刹那。
メ キ !!! - 82朽縄 供幸25/12/04(木) 21:47:50
朽縄「え」
継夜刀【なっ!?】
SMASH!!!
ボールは翼を得たように飛んでいく。強すぎる力を受けた指は変色し、血が流れ落ちている。
緑谷「あの痛み…ほどじゃない!!」
激痛に苛まれているはずの人差し指を握りこみ、主人公は笑う。
緑谷「先生…!まだ、動けます」
その笑みは朽縄の網膜に焼きつき、心を抉りとった。
心情判定
憧憬 dice1d100=96 (96)
恐怖 dice1d100=86 (86)
羨望 dice1d100=78 (78)
心配 dice1d100=2 (2)
- 83朽縄 供幸25/12/04(木) 22:48:04
呼吸を忘れる。瞬きを忘れる。心臓すら停止したような静寂の世界で、朽縄の目は緑谷を追い続ける。彼以外を認識することができない。緑谷以外のすべてが、薄膜一枚隔てたように遠い。
継夜刀【──き、供幸!!聞いておるのか、えぇ!?】
ガブッ!
朽縄「へ…?」
継夜刀【ぼさっとしないであの童のもとへ行かんか!!治せはせずとも痛みを軽くしてやるくらいできるじゃろ!】
朽縄「はっ、はい!」
首に噛みつかれてようやく我に返り、彼のもとへ駆ける。自らに落ちた影を見上げた緑谷は、自分を覗き込む長身の青年にギョッと目を開いた。
緑谷「あっ、え?」
継夜刀【童、見せてみろ!ああ、こんなに腫れ上がって…!血も出ているではないか!必死なのはわかるがなんという無茶を…!痛ましや…】
緑谷「あ、あの…?」
朽縄「痛いよな、それ。軽くできるけど、する?」
緑谷「え?」
麗日「やってもらったほうがいいんじゃない?気も紛れるだろうし」
緑谷「じゃ、じゃあ…お願いします」
朽縄「んじゃ指見せて」
緑谷「うん」
差し出された人差し指は痛ましく膨れ上がり、常人であれば直視に耐えないだろう。背を曲げた朽縄はそれを恭しく手に取り、筆ペンで痛覚軽減の術式を施していく。 - 84朽縄 供幸25/12/04(木) 22:49:15
朽縄「わり、複雑だからちょい時間かかる」
緑谷「いやいやいいよ、そんな…こんなにしてもらって」
朽縄「書いてる間しゃべってていい?」
緑谷「もちろん。あ、僕緑谷出久です」
朽縄「ん。…なあ」
緑谷「?」
朽縄「なんであんなことしたん?くそいてぇだろ、これ」
緑谷「なんでって…」
なにを言ってもいいのか、どう説明すればスムーズか。少し視線をさまよわせ、緑谷は言葉をまとめる。
緑谷「そのっ、僕、“個性“の発現が遅くてさ。まだあんまりコントロールできないんだよね。入試のときはそれで大怪我しちゃって」
継夜刀【これ以上の!?命が惜しくはないのか!?そのように振る舞い続けておればなんぞの間違いで死ぬかもしれんのだぞ!?】
緑谷「ひえっ!?そ、それは反省して、先生にも言われたので、だからギリギリまで待って指に力を集中」
継夜刀【そのようにしたら爆ぜるに決まっておろうが、この愚か者!!余る力は身を滅ぼすのだぞ!?お前は力を使うより力に見合う身体を作ることを優先せい!!】
緑谷「はっはい!?その通りです!」
継夜刀【まったく…!緑谷出久、であったか?お前も氣は善性そのものだというのに、どうして自分を大切にできなんだ!お前の身体は御母堂が身体を痛めて産んだ宝そのものなのだぞ!?】
緑谷「うぅ…返す言葉もないです…」
麗日「せ、先生みたいやね…」
継夜刀の説教に肩を縮こまらせる緑谷の指から、朽縄は目を離さない。複雑な模様が描かれていく、未だ血が滴る指。 - 85朽縄 供幸25/12/04(木) 22:50:25
朽縄「理由はわかったけど、動機は?」
緑谷「理由と動機って同じじゃ?」
朽縄「なんでそうしようと決めたのか、気持ちを聞きたい」
緑谷「気持ち…」
今度はするりと答えを出す。
緑谷「いまの僕にできる全力を出そうって思ったんだ」
朽縄「それで大怪我することになっても?」
緑谷「うん」
淀みのない返答。背を曲げたまま朽縄は顔を上げる。深緑の瞳と金地の蛇の目がかち合った。
朽縄「…イカれてんね」
緑谷&麗日(突然のディスり!?)
朽縄「でも、すっげえクール」
緑谷&麗日(かと思ったら褒めた!!) - 86朽縄 供幸25/12/04(木) 22:51:25
いつの間にか書き終わった術式に朽縄の指が触れる。通された霊力が術式を起動させ、緑谷の氣をわずかに歪めた。
緑谷「あ…痛いのがだいぶなくなった」
朽縄「その模様落としたら効果も消えっから」
緑谷「うん。すごい個性だね、汎用性もあるし。いったいどんな」
朽縄「あのさ」
緑谷「?」
朽縄「ごめんなぁ」
麗日「今度は突然の謝罪!?」
緑谷「ご、ごめんって、僕きみになにもされてないよ!?」
朽縄「した。すっげぇ失礼でひどいことした」
緑谷「記憶にないんだけど…」
朽縄「気にすんな」
ぬるりと立ち上がったことで、朽縄の身の丈が蛇のように伸びる。それに思わず息を飲む二人に、朽縄はうっそりと微笑んだ。
朽縄「俺、朽縄供幸。朽ちた縄に、供物のくに、幸せ。なあ、仲良くしてくれる?」
緑谷「も、もちろん!」
朽縄「ん。ありがとぉ」
太陽を背に浮かべた笑みは、蜂蜜のような甘さをしていた。