アリス、冒険します!

  • 1二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:24:10

    データ吹っ飛んでたけどぼちぼち再開したのではってく

  • 2二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:27:09
  • 3二次元好きの匿名さん25/11/30(日) 23:27:59

    おかえりなさい
    アリスは今日どこの部活へ行くのかな

  • 4プロローグ25/11/30(日) 23:34:19

    アリス、ゲヘナ冒険します①
    昼下がりの午後、マコトとイロハの二人は万魔殿の政務室で喫緊の案件――短期留学について話あっていた。
    話し合いといっても、マコトはゲヘナの議長と言う立場の癖に話に興味はなくイロハの一方的な報告の場と化している。

    「ミレニアムとの短期交換留学生だって?」

    実際、マコトは初めて聞いたと言った表情で聞き返した。
    その反応にイロハは忘れてたなこいつという感情が沸き上がるが、触れずに話を進めることにした。

    「はい。どうやら向こうは1年生を選出したようですよ?」

    マコトは受け入れ生徒が一年生と聞き、いつものように口元を歪めて笑う。どうやら、本格的に大した案件ではないと高を括った様子だ。冗談を返してくる。

    「キヒヒッ、なら心配するほどのことでもないな。こちらからは温泉開発部でも送り込んでやろうか?」

    その趣味の悪い冗談にイロハはやれやれと首をふり、本当に冗談ではないと真面目に返答を返す。

    「やめてくださいよ。外交問題になります。それに、そんなに楽観視もできないかと。今回やってくるのは……。 あの、先日ミレニアム会長失踪事件のきっかけとなった“ゲーム開発部”の生徒のようです」

    「ゲーム開発部? とても物騒な部活には聞こえんが……」

    「一部では、C&Cの下部組織とも囁かれていますし、風紀委員のヒナ委員長とも面識があるそうです」

    今のいままで、興味無さげな返答ばかりだったマコトの顔が”ヒナ”という言葉でみるみる動揺を見せる。イロハはその様子にニヤリと笑う。効果覿面。ヒナ委員長が絡むとマコトはやる気を見せるのだ。

    「なにぃ? ヒナが裏で手を回しているとでも言うのか……まさか、外部の力を借りて私の地位を脅かす気かっ! ならば、こちらも対策をして・・・」

    しかしイロハは肩をすくめながら大きく息を吐く。
    どうやら期待通りにマコトが動くことはないようだ。
    このまま放っておくと有らぬ方向に話が進みかねない。早々に軌道修正を図ることにする。

  • 5プロローグ25/11/30(日) 23:35:19

    「……はぁ。まぁ、そこまで深読みしなくてもいいと思いますけどね、とにかく失礼のないようお願いします。こちらからは、先方および本人の希望もあって、給食部の牛牧ジュリさんを派遣することにしました」

    下手に長引かせるよりは……と、事務的に報告を終えると、イロハはそっと天井を見上げる。

    (これは……忙しくなりそうですね……)

    ぼんやりとろくでもないことになりそうだと嫌な予感が過るのだ。

    “失礼のないように”と釘を刺しただけのつもりだったが、マコトの反応を見る限りヒナの名前を出したのは逆効果だったのかもしれない。報告を終えた瞬間、マコトは風紀委員会への嫌がらせを思いついたときと同じ、意地の悪い笑みを浮かべていたのである。
    先々のことを考えると「はぁ……」と、また大きなため息がこぼれるのだった。

  • 6プロローグ25/11/30(日) 23:36:27

    ――ミレニアム セミナー部室にて

    ユウカは机に広げた書類を見つめ、腕を組んで唸っていた。
    そんな険しい顔のユウカに、ノアが何事かと声を掛ける。

    「どうしたんですかユウカちゃん? それって交換留学の資料じゃないんですか? もしかして折衝がうまくいかなかったとか?」

    「いいえ、むしろあっさり通っちゃって拍子抜けしてるのよ。心配してた分、ちょっと困惑してるわ」

    「ならいいじゃないですか! 問題ないなら、あとはアリスちゃんを送り出すだけでは?」

    「……でも、アリスちゃんを一人で行かせるのが不安なのよ。ゲヘナの風紀委員長からも、“しっかり受け入れさせてもらう”って直筆の手紙が届いてるし、今さら断るわけにもいかないんだけど……」


    どうやらユウカは親心を発揮して、ただ漠然と心配をしているようだ。ただこう言うものは案ずるより産むがやすし、喉元過ぎれば熱さ忘れるである。
    ノアは笑顔で心配するユウカの肩を叩いて、私たちの可愛い後輩なら大丈夫だと説得する。

    「大丈夫ですよ! アリスちゃんはきっと、どこでも仲良くやれますって!それに『かわいい子には旅をさせよ』って言うでしょ?」

    「……そうなんだけどねぇ」

    そう言いつつも、ユウカはなおも不満げな表情を浮かべていた。そのまま数分「うーん、うーん」と唸るとまだ浮かない顔ではあるものの、意を決したのか椅子から立ち上がる。

    「……ちょっと開発部に話してくるわ! 関係部署にも通達してくる」

    動き出したユウカにノアは笑顔で返事を返す。

    「いってらっしゃーい!」

    そしてゲーム開発部にユウカは向かうのだった。

  • 7プロローグ25/11/30(日) 23:38:28

    ――ゲーム開発部 部室。
    「と、いうわけで、来週からアリスにはゲヘナに行ってもらうわ。《《くれぐれ》》も、迷惑をかけないようにね」

    ユウカは開発部につくと、アリスの交換留学が決まったことを報告する。
    アリスはニコニコとその決定を受けいれ、身体全体で喜びを表現する。いかにも楽しみで待ちきれないといった様子である。

    「了解しました! ゲヘナでのおつかいイベント、アリス、頑張ります!」

    アリスは一通り説明を聞いたあと敬礼のポーズで応える。かわいさに溢れた姿に、ユウカは口元が緩むのを堪えた。そして、説明と意志確認が終わるとこのやり取りを見守っていたモモイは横から口を出す。それは大層不満気な声色の抗議だった。

    「いいなぁ〜、私もゲヘナ行きたーい!」

    「お姉ちゃん、シナリオの締め切り迫ってるよ。遊んでる暇はないってば」

    しかしミドリがすぐに作業が詰まっていることを口にする。
    シナリオが決まらないとなにも先に進まないままなのだ。だが、モモイはまだ引き下がらずわがままをいい続ける。

    「ひどーい! 私ばっか働くのいやだ〜!」

    苦笑しながら、やれやれとユウカは首を振る。
    そして少し声色を変えて、モモイに詰め寄りこういうのだった。

    「……《《いいから》》あなた達は実績、ちゃんと出しなさいよ?」

    そう釘を刺して部室を後にする。
    毎度毎度ギリギリまで、このゲーム開発部は動き出さないのだ。
    やれば出来るなどと甘やかすとすぐに調子に乗る。
    ドアが完全に閉まるとドアの向こうから「太もも大魔神!」だの「悪魔ー!」だの、騒がしい声が追いかけてきた。
    その声をユウカは今は無視し、”生物研究会”と”神秘探求部”へ、向こうからの留学生、牛牧ジュリの受け入れを依頼するために足早に立ち去ったのだった。
    (なお、この後、締め切りに間に合わなかったモモイがいつもより厳しい“お仕置き”を受けたのは、また別の話である)

  • 8プロローグ25/11/30(日) 23:40:11

    ――交換留学当日 ミレニアム駅ホーム

    「ぱんぱかぱーん! それではアリス、ゲヘナジョブを取得しに行ってきます!」

    駅構内には大勢のミレニアム生徒が集まり、「元気でね〜!」とアリスへ黄色い声援を送っている。

    「お土産、よろしくね〜!」

    そんな中、モモイはいつも通りコンビニに行くついでかのようにお土産を依頼する。

    「お姉ちゃん、他に言うことあるでしょ……?それよりも身体に気をつけて。怪我しないようにね?」

    それに呆れるミドリ。

    「うぅ……アリス、頑張ってね?」

    死にそうにながら見送りにきたユズの三人にアリスは挨拶を返す。

    「はいっ! モモイ、了解です! ミドリ、ありがとうございます! ユズは……ちゃんと部室に帰れるか心配です!」

    そんなやりとりをしていると、横で見ていたユウカが突然抱きついてきた。後ろからはノアもついてきている。

  • 9プロローグ25/11/30(日) 23:41:25

    「うぅぅ……アリスちゃん、一人で寂しくない? 私もついて行こうか?」

    「ダメですよ。ユウカちゃんが二週間もいないと、ミレニアムが崩壊しますよ? アリスちゃんの帰る場所がなくなっちゃいますよ?」

    「なら一緒に住むもん!」

    ユウカはアリスから離れるのがいやいやと、抱きつき抵抗する。

    「うわーん! ユウカがちょっとおかしいことになってますー!」

    その感情が昂った様子に、冷酷な算術使いの面影は一切なかった。
    そのままユウカは発車ベルが鳴るまでアリスにしがみついていた。どうにかみんなで引き剥がすと、アリスは列車に飛び乗る。

    やがて列車は動き出し、ドア越しに振り返って笑顔で手を振りながらアリスは出発の挨拶をする。

    「では、アリス行ってきます!」

    涙ながらに、あるいは笑顔で見送る仲間たちに背を押され、アリスは旅立ったのであ。キャリーケースには、ケイのキーホルダーもついている。だから、少しも寂しくはなかった。

  • 10プロローグ25/11/30(日) 23:42:50

    ――数時間後ゲヘナ駅ホーム。

    「アリス、到着しました! 確か、ホームで待っていてくださいって言われてたはずです!」

    ゲヘナの駅は混雑していたが、自治区同士を繋ぐ長距離線のホームは在来線に比べれば随分空いているようだ。

    ホームに降り立ったアリスは周りを見渡す。その様子に勘づいたのかぴょこぴょこと歩み寄る二人のゲヘナ生がいた。二人はアリスの前にたどり着くと深々と一礼する。

  • 11プロローグ25/11/30(日) 23:44:08

    一人は学生とはいえ、極端に小さい金髪の少女、もう一人も小柄だが赤い髪のボリュームが多い少女。
    アリスの前にたどり着くと先に赤い髪の少女が口を開いた。

    「はじめまして。万魔殿からのお迎えに上がりました。棗イロハと申します。どうぞよろしく」

    「丹花イブキです! 11歳です! アリス先輩、ゲヘナへようこそ〜! 楽しんでいってね!」

    赤い髪の少女はイロハ、金髪の少女はイブキと言うそうだ。
    二人ともアリスよりは背が低く、見上げる姿はとてもかわいらしい。 その挨拶に対し、アリスもテンション高く返すのだった。

    「はい! ご丁寧にありがとうございます。天童アリスです! よろしくお願いします! ぱんぱかぱーん! イロハとイブキが仲間になりました!」

    「……仲間? まぁ、いいです。校舎までは“虎丸”で移動します。ついてきてください」

    アリスの反応にイロハは怪訝な顔を見せるが、すぐに事務的な顔へ戻る。まずは時間通りにアリスを校舎に連れていく。その事が重要なようだ。

    「アリス先輩、こっちこっち〜!」

    まずは金髪の小さな案内人は嬉しそうに駆け出す。
    その姿にアリスは微笑ましさを感じるも、直ぐ様イロハは客人を置いていくなと嗜める。

    「あっ、こらイブキ! お客様を置いて行かないの!……すみません、少し走りますが大丈夫ですか?」

    しかしイブキは聞こえて居ないのか、脚を止めることがない。
    一人にするのは心配なため、イロハはアリスに伺いを立てた。

    「アリスは問題ありません! 元気いっぱいです!」

    そう言って、アリスは駆ける二人の後を楽しそうに追いかけていった。そのまま駅舎をでて、駅の駐車場にたどり着くと、無骨な戦車が一台堂々と佇んでいた。

  • 12プロローグ25/11/30(日) 23:45:22

    「車で来るべきだったかもしれませんが、何かあった時の対応にはこっちの方が安心なので……申し訳ありません。少し狭いですが、乗っていただけますか?」

    戦車で迎えにきたことへ、イロハは不安を感じアリスに謝罪をする。

    「えへへ〜、かっこいいでしょ? 虎丸っていうんだよ!」

    対象的にイブキは戦車の事を自慢気にアリスに紹介する。

    「アリス、了解です! はい!イブキ!ほんとにかっこいいです! 戦車に乗るのは初めてです! アリスは、戦車乗りのJOB経験値を獲得! “マッドでマックスな傭兵”の称号を手に入れました!」

    しかし、その不安は杞憂であったようだ。案外アリスは気にいっている様子だ。
    ゲヘナの治安は決してよくはない。ミレニアムのように“わんぱくFOX”を無防備に放り出すわけにはいかないのだ。
    そう言った意味でも戦車での護送は、彼女を守るための、そして受け入れる側としての覚悟の現れでもあったのだった。
    三人は早速虎丸へ乗り込むと、すぐに出発するのだった。

  • 13プロローグ25/11/30(日) 23:51:08

    アリス、ゲヘナ冒険します!②
    「あわわわわわわ!結構揺れます~!」

    市街の舗装された地面とは言え、無限軌道特有のクッション性の悪さにアリスは悪戦苦闘していた。渋い顔をしたアリスはお尻を押さえながら悲鳴をあげている。
    隣でイブキが「大丈夫~?」と心配そうにアリスを見上げていた。

    「ごめんなさい。すぐ着きますから、我慢して下さいね。乗りなれてないと・・・ってとと!あーイブキ!ちょっと周りを見て貰えますか?」

    イロハがしゃべっていると、街がなにやら急に騒がしくなってくるのを感じた。嫌な予感がしたイロハはすぐさまブレーキをかけてイブキに周りを確認するように指示を出したのだった。

    「はーい!イロハ先輩!」

    そういうと上部ハッチに向かって駆け上がるイブキ、そのままひょっこりと虎丸の上部から顔を出し双眼鏡で前方を確認する。
    双眼鏡から覗くと300メートルほど先に火の手と、マズルフラッシュが光るのが見えた。爆発物を使ったのか、もうもうと十字路には煙が立ち込めている。

    「イロハせんぱーい!ぜんぽーでひーふーみー、10人くらい悪い人はっけ~ん?」

    イブキは中のイロハに聞こえるように大きな声で状況を伝える。
    どうやらいつもの暴動が起きているようだ。
    アリスもイブキの後ろから顔を出すと、凄惨な状況を目の当たりにし驚きを隠せない。何人かはすでに道端に突っ伏しているのが確認できるのだ。ミレニアムならすぐに、鎮圧部隊が呼ばれる事態である。

  • 14プロローグ25/11/30(日) 23:52:23

    「うわーん!大変です!早くなんとかしないといけません!」

    アリスは周囲の惨状に、何かしなければと善性を発揮し、虎丸か直ぐ様降りようとする。しかし、それより早くイロハがとんでもないことを口に出すのだった。

    「はぁ・・・面倒ですね。イブキ! 前方に主砲発射しますよ! 射撃後、全力で突っ切ります!」

    「え?」

    「はーい!イロハ先輩! 虎丸狙って~!」

    アリスがイロハの突然の暴挙に硬直している間に、イブキは手早く主砲の弾を「よっこいしょ」と抱えて、装填を完了する。
    かなり手慣れた動きだ。こういう暴徒鎮圧が日常茶飯事なのだろう。準備が整うと、イロハは砲身を十字路へ向け叫んだ。

    「照準確認、発射!」

    それと共に轟音を伴って、砲身が火を吹く。衝撃と熱気でアリスは人工皮膚が波打つのを感じた。

    「イブキ!効果報告お願いします!アリスさんは下に戻って下さい」

    「ぜんぽー!てきえーなーし!」

    「えっあっ!はい!アリス戻ります!」

    「それは上々です。虎丸全力前進!突っ切りますよ!捕まって下さい」

    イロハはイブキの言葉に満足そうにニヤリと笑う。
    そしてゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
    またアリスは座席に無限軌道の振動を感じるのだった。

    「虎丸しゅっぱーつ!」

  • 15プロローグ25/11/30(日) 23:53:23

    淀みない砲撃からの、”一点突破”を敢行する二人。

    虎丸のエンジンは勢いよく唸りを上げ爆心地を突き抜ける際、何度か嫌な音と共に履帯が乗り上げるのをアリスは感じたが、イロハもイブキも無邪気な様子で特に気にも止めない。

    その姿に普段ミレニアムの狂人に見慣れたアリスも、開いた口が塞がらずにいた。

    「うわーん。大惨事です!大変ですー!アリスはどうしたらいいですか?」

    「あーあれくらいゲヘナでは普通のことです。気にしなくても大丈夫ですよ? まぁすいません一応ちょっと電話しますね? ・・・ はい救急医療部ですか?怪我人10人くらい搬送お願いします?え?死体? 大丈夫じゃないですかね?何人か戦車で踏みましたけど? 残念? ふぅ、そうですか?お手数掛けます。それじゃ」

    「……」

    ひたすらに不穏な会話をするイロハに更にアリスは絶句する。
    何もかもミレニアムとは違うようだ。自己救済という行為に特に制限はないようである。

    「どうかしました?」

    「大丈夫?アリス先輩?」

    アリスの青くなった顔を、二人は心配そうに覗き込む。アリスの冒険はこの手荒い歓迎から始まったようだ。勇者を自称してはいてもいきなり最終ダンジョン前のような無法地帯にアリスは気持ちを吐露する。

    「うわーん!ゲヘナは魔界ですー!」

    ここまで一連のやり取りにアリスは思わず大声をあげるも、気にせず一路ゲヘナ本校舎へ虎丸は進み続けるのであった。

  • 16プロローグ25/11/30(日) 23:54:44

    ――そんなやり取りの後、ゲヘナの敷地が見えてきた頃。

    「あぁ、マコト先輩ですか?予定通り到着予定です。歓迎の用意は出来てますか?」

    イロハはマコトへ、護送の状況を連絡する。
    定時に到着することを伝え、出迎えの準備をしてもらうためだ。

    「キヒヒ。無論だ。私直々に出迎えてやろう!」

    「それは良かった。じゃあ頼みますよ?」

    イロハの報告では問題なく進行しているようだ。
    しかし元々マコトはそのことには心配していない。懸案事項は問題なくアリスが到着するかより、自分の保身にあった。

    先日イロハからアリスについて聞かされた後、マコトは独自にゲーム開発部を調べていたのだ。

    その報告には、「無許可の賭博場を作った」だの「他の部活への襲撃」だの反体制的な行動を取ったかと思えば、「C&Cと協力して七囚人の撃退」やアトラハシースの一件ではヒナや先生と協力したりもしていたりする。
    さらには宇宙空間にも一緒に向かったという。

    その情報の一つ一つを整理すると、”得たいがしれない”そうマコトは結論付ける他なかった。

    リオ会長を追い落とした事件の詳細は探れず仕舞いだが、わかったことは、騒動の中心にいたのは現在ミレニアムのセミナーを運営している”早瀬ユウカ”ではなく紛れもなく”ゲーム開発部”だったということだけだった。

    (C&Cの別動隊というよりクーデターの為の、”早瀬ユウカの私兵”の可能性が一番高いか? どちらにせよ警戒せねばなるまい。それに……)

    ――そうしてマコトは先日ヒナが万魔殿に乗り込んできた時の事を思い出す。

  • 17プロローグ25/11/30(日) 23:55:49

    「マコト! 給食部に予算を出しなさい?」

    ヒナが部屋に乗り込んでくると、真っ直ぐ政務机に乗り、マコトの額に愛銃を突き付けながらとんちきな欲求を口にする。

    「いきなり乗り込んで来て、何を言っているんだお前は!」

    マコトは突然の出来事に狼狽しながら、非難の言葉を口にする。
    それに対し、ヒナは一切顔色を変えずに答える。

    「ミレニアムから交換留学生がくるでしょう? ただでさえ人手が足りないのにジュリを送るそうね? 食堂が使えないと困るだろうから万全な状態にして欲しいのよ? いい? わかった?」

    ”終幕:デストロイヤー”の銃口をぐりぐりと額に押し付けながらヒナは恫喝する。
    引き金に指を掛け、見えるように指を曲げ伸ばし。引き金は酷く軽そうにマコトは感じた。

    「どうしてお前がそんなこと気にするんだ! 関係ないだろう?」

    「ただ先生に頼まれただけよ? 多少面識もあるし、フウカの美味しいご飯を食べさせて上げたいの。いい? いいわよね?」

    そういうとかちゃりと引き金に指を置く。
    目が笑っていない。断ることは許さない。目がそう語っていた。

    「わ・・・わかった!どうにかする!どうにかするから銃を下ろせ!」

    「あらそう♪ すぐに理解してくれて助かったわ!」

    そういうとやっと笑顔を見せたヒナは銃を下ろし、先ほどまでの威圧感のある雰囲気は鳴りを潜め小柄な身体を揺らしながら、上機嫌に去っていく。

    その姿を見送り、ほっとマコトは胸を撫で下ろした。
    正直――あの時は肝を冷やした。
    マコトは恐怖の体験を思い出して身震いする。

  • 18プロローグ25/11/30(日) 23:58:33

    (……、要求を突き付けに乗り込んでくるなんて珍しい……しかも、ただの他校の一生徒の為に?)

    一連の情報に対して、やはりゲーム開発部には何かがある。
    そう結論付け、要観察と判断する。
    思案をそう結ぶと、マコトは時計に目をやる。
    丁度よい時間である。玄関に向かう頃合いだろう。

    そう思い立つとマントを翻し、威厳に満ちた足取りでマコトは部屋を後にしたのだった。

  • 19プロローグ25/12/01(月) 00:00:08

    生存報告的にとりあえず張ってきます。

    それではまた明日 

  • 20二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 06:54:08

    ヌッ

  • 21二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 13:04:11

    ぬん

  • 22二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 13:46:39
  • 23プロローグ25/12/01(月) 16:13:30

    アリス、ゲヘナ冒険します!③
    「とうちゃ~く!」

    「お疲れ様です、アリスさん。お怪我はありませんか?」

    「は…はい、大丈夫です」

    銃撃戦のあとも特に問題はなく(お尻は痛かったけれど)、アリスたちは無事にゲヘナの校舎へたどり着いた。

    イブキが虎丸からぴょんぴょんと降りていくのを、アリスは少し遅れてついていく。
    地面に着地したのをイロハがハッチから顔を出し確認すると、二人に声をかける。

    「玄関までお連れしてください。マコト先輩が待ってます。私は虎丸を停めてきますので、先に案内をお願いします」

    「はーい!わかりました~! アリス先輩、こっちだよ~!」

    そう言うなり、イブキはアリスの手を引いて駆け出した。
    その背後からイロハの「こら!ゆっくり行きなさい!」という小言が聞こえてくる。完全に保護者のそれだ。

    ゲヘナの広い校庭を突っ切り、正面玄関へ着くと、そこには数十人の生徒たちが一列に並び、その前にはマコト。そして両脇にはサツキとチアキ。まるで儀式のような光景に、アリスは思わず息を呑んだ。

  • 24プロローグ25/12/01(月) 16:14:48

    立ち止まるアリスとイブキに、マコトが声をかける。

    「キキキッ。イブキ、客人の案内ご苦労!! 天童アリスだったな? 私が万魔殿の議長、羽沼マコトだ。我がゲヘナ学園は貴殿を歓迎しよう!」

    「あっ、えっと! はい! 天童アリスです! ミレニアムから来ました! よろしくお願いします!」

    「キキッ! いい挨拶だ。ところでメイド服は着てないのか? 確かミレニアムの戦闘服だと聞いていたが?」

    「? アリスはちびネル先輩じゃないので、メイド服はいつも着ませんよ? 一応持っては来てますけど」

    その解答にマコトは、余計な勘繰りを入れる。

    (つまり有事には行動を起こすということか? 今は特に動く気がないと?)

    深読みはするが、マコトは今考えても栓なきことと一蹴し、引き続き尊大な態度は崩さず、アリスへ釘をさす。

    「あぁ、そうか。まぁメイド服は目立つから、あまりゲヘナでは着ない方がいい。銃弾には当たりたくないだろう? 目立つと何かと酷い目に合いやすいからなゲヘナは……キヒヒッ!」

    「……? そうですね! ここに来る途中で銃撃戦に遭遇したので、アリス気をつけます!」

    しかしマコトの含みのある言葉はアリスは親切な忠告と受け取り、ニコニコと返すのみでマコトは二の句を継げなかった。

  • 25プロローグ25/12/01(月) 16:16:06

    二人は笑顔のまま向かい合う。

    特に動きのないまま固まった二人に対し、空気を読んだのか読まなかったのか、一人の人物がその間に割って入った。

    「アリスちゃん。ゲヘナの校内新聞に使うので写真一枚いいですか? マコト先輩と握手してくれると尚いいです! えぇそうそう! 笑顔が素敵です! はい!目線くださーい! はい!ありがとうございまーす!」

    間に勢いよく割り込みパシャパシャと、何枚もシャッターを切るチアキ。

    フラッシュが眩しく、たまらずアリスは目を背けてしまう。

    「チアキ、ダメよ? そんな急に撮ったらびっくりしちゃうでしょ?」

    様子を見ていたサツキはそんなアリスを庇うようにしてチアキとの間に割って入る。

    「びっくりしました!ありがとうございます!」

    サツキはアリスを見下ろす位置から、蠱惑的な笑みを浮かべた。

    「どういたしまして。何かあれば私たちに相談してね? 私はサツキよ。こっちの娘はチアキ」

    「調子乗りすぎました! チアキです。今度記事にするので、取材させてくださいね!」

    マコトに比べて柔らかい雰囲気の二人に、アリスは安心する。
    一通りの挨拶が済んだところで、イロハが追いついてきた。

    「ああ、皆さんまだここにいらっしゃったんですね? 一度、風紀委員にも顔を通すという話でしたよね? もうお昼も近いですし、一旦解散しませんか?」

  • 26プロローグ25/12/01(月) 16:17:31

    「キヒヒッ!それもそうだな。夜に晩餐会の用意をしている。それまではイロハとイブキをつけるから、色々見て回るといい」

    「アリス、了解です! ゲヘナを冒険してきます!」

    その後、イロハに「絶対に目を離すな」と耳打ちだけしてから、マコトたちは去っていった。
    後ろに続くゲヘナの議員たちは、揃った動きで列をなしてついていく。

    「わぁ……、迫力あります」

    「はぁ……こういう時の外面だけは良いんですよね、あの人」

    「?」

    「ああ、なんでもないです。イブキ、アリスさん、それじゃ風紀委員会に行きましょう。委員長が待ってます」

    「はーい!行こ? アリス先輩!」

    「はい! 風紀委員会への出発クエストです!」

    元気よく駆け出す二人の後を、イロハは少し面倒くさそうについていった。

  • 27プロローグ25/12/01(月) 16:19:14

    ――風紀委員会の執務室。その重厚な扉の前に、三人は到着した。

    こんこん、とイブキはドアをノックする。

    「ヒナせんぱーい! アリス先輩と来たよー!」

    「あいてるわよ。入って来なさい」

    イブキの声に合わせて中からヒナの声がする。

    「失礼しま~す!」

    「アリス、入ります!」

    「失礼します」

    三者三様に室内へ入ると、ヒナが執務机から顔を上げて三人声をかける。

    「いらっしゃい、アリス。万魔殿の二人も案内ありがとう。久しぶりね」

    「お久しぶりです、ヒナ委員長! アリス参上しました!」

    「はい。相変わらず元気ね、ふふ。一応、風紀委員の主要メンバーを紹介しておくわね。アコ、イオリ、チナツ、入って来て」

  • 28プロローグ25/12/01(月) 16:20:22

    呼ばれた三人が、部屋の奥から現れる。

    「執政官の天雨アコです」

    「銀鏡イオリだ」

    「火宮チナツです」

    三人は手短に挨拶を済ませるが、どこかに疲れがにじんでいた。

    「天童アリスです。よろしくお願いします! なにかお疲れみたいですが、大丈夫ですか?」

    「あぁ、すいません。ちょっと立て込んでいたんですが、さっきやっと片付いたばかりで……また後日、しっかりご挨拶させて頂きますね」

    アリスの気遣いにアコは問題ないと答える。

    「気を使わせてごめんなさいね。アリス、今日はこのあと食堂でランチにしましょう。私も手が空いたから、ご一緒するわ」

    ヒナも同様に気にするなと言う雰囲気で話を続けるのだった。

    「わぁ、アリス嬉しいです! 委員長は忙しいと聞いてたので!」

    「初日くらいはゆっくり一緒にご飯食べましょう? セミナーにもちゃんと受け入れ体制を作るって約束したんだし。あと何か質問あるかしら?」

    「質問ですか?」

    「そう、なんでもいいわよ? 何かあるかしら?」

    アリスは急な問いに少し考え込むと、アコに視線を向けてからヒナを見て口を開く。

  • 29プロローグ25/12/01(月) 16:21:55

    「んあ~!なんでアコ副委員長の服は横がないんですか?」

    「……!?」

    ヒナはその質問に、絶句し、

    「!!?!!・・!」

    アコは頬を紅潮させ、

    「ぶっ……!!!」

    イオリ、チナツ、イロハは肩を震わせて吹き出すのを耐え、

    「それは……アリス先輩、触れちゃいけないってマコト先輩が言ってたよ!」

    イブキはなんとかフォローをいれようとしたのだった。

    「な……なっ、なにか私の服装に変なところでも!?」

    アコは顔を真っ赤にして鬼の形相でアリスに詰め寄る。

  • 30プロローグ25/12/01(月) 16:22:55

    「うわーん! デカアコ先輩が怒りましたー!」

    「誰がデカアコですか! 何がデカアコですか! ミレニアムも失礼ですね!」

    「それじゃあヨコアコ先輩ですか?」

    「普通にアコ先輩!で良いじゃないですか! なんなんですか、全く……!」

    アリスはネルをナチュラルに煽る時のように、言葉の豪速球を投げつける。
    そのままヒートアップするアコの姿にヒナは頭を抱えながら、イオリに指示を下す。

    「アコ……恥ずかしいからやめなさい! イオリ、連れてって……」

    「はい……もう、アコちゃん行くよー?」

    その言葉はイオリがすぐさま反応し、アコをずるずると連れて出ていく。

    残された面々は呆れた表情で、その後ろ姿を見送るのだった。

  • 31プロローグ25/12/01(月) 16:26:08

    アリス、ゲヘナ冒険します!④
    執務室はアコを引き摺り出したあとも、微妙な空気が流れていた。

    イブキはおろおろとしているし、イロハとチナツは口を押さえて今にも吹き出しそうだ。
    ヒナは眉間を抑え唸っている。
    アリスは特大の地雷を踏んだらしい。

    「まぁ・・・切り替えてランチに行きましょう!」

    ヒナは無理やり話題を変えた。
    とりあえず無かったことにするようだ。

    「は・・・はい!アリスお昼楽しみです!」

    アリスも流石に乗っかる。
    ヒナを加えてアリス、イブキ、イロハの四人で食堂へ向かうことにした。
    丁度チャイムが鳴り出し、他のゲヘナ生も食堂へ向かい始めたがそれほど混雑はしている雰囲気はなかった。

  • 32プロローグ25/12/01(月) 16:27:08

    「最近はお昼の暴動染みた混雑もなくなったようね?」

    ヒナは廊下を歩きながら普段と違う雰囲気に感慨深い感想を述べる。

    「あぁマコト先輩にヒナ委員長が詰め寄ったおかげですね。予算を増やして臨時の職員を雇ったらクオリティも上がったらしいですよ?」

    「プリンも手作りのやつが増えて美味しかったよ~?」

    その言葉に万魔殿の二人が反応する。

    「ふふ。それは良かったわ。まぁただでさえ負担を掛けてるから、こういう時にはフウカに楽をして貰いたいわね」

    「アリス知ってます!フウカさんのお料理が美味しいって!先生が教えてくれました! ちゃんとした物食べる様にユウカにも言われました!」

    「私たちもセミナーの人に、食事をちゃんとするように言ってほしいと言われてたから、フウカには万全の状態で動いて貰うわ」

    そんな雑談をしながら歩いていると、マコトの姿が四人の視界に入ってくる。

    「キヒヒッ!お前達案内ご苦労!しかしヒナ貴様までいるとはどういう風の吹き回しだ?」

    「ちょっとやんちゃな子達を先に反省室送りにしただけよ?出来れば厄介ごとは今は無しにしてほしいのだけれど?」

    ヒナの暇そうな姿をマコトは、訝しむ。
    普段ならあり得ない光景に疑念はどんどん膨らんで行くのだった。

  • 33プロローグ25/12/01(月) 16:28:32

    (やはり、随分気合いの入りかたが違う? ここまで仕事を表だって減らすヒナは珍しい。しかしもう少し泳がすか?)

    「キヒヒッ!まぁ客人の相手は任せたよ!」

    それだけ言うとマコトは一言二言挨拶して、廊下の奥の方に消えて行く。
    話してる間は飄々とした姿を崩さずにいたが、振り返ったその表情は凛々しく口元を結び策謀を巡らせていた。

    「マコト先輩なにしにきたんでしょうか?」

    イロハは怪訝な顔を浮かべる。

    「さぁ?面倒ごとじゃなきゃなんでもいいわ」

    「それもそうですね。アリスさんお手数ばかりですいません。さぁ行きましょう」

    「アリスは大丈夫です!レアエネミーとのエンカウントならばっちこいです!」

    「レアエネミー……。ふふ。マコトなんてそんな珍しい敵じゃないわ!」

    「私はノーコメントで」

    「ヒナ先輩マコト先輩をいじめちゃダメだよー?」

    「大丈夫よ。理由なくは詰めないから」

    「ぶふっ」

    こないだの給食部の件でのヒナの襲撃で間抜けな顔をしたマコトの顔をイロハは思い浮かべ、笑いを堪えるのだった。

  • 34プロローグ25/12/01(月) 16:29:39

    イロハの様子にイブキ、アリスの二人は不思議に思いながらも、和やかな雰囲気で4人は食堂に入っていったのだった。

    食堂は混み合ってはいたが、普段に比べれば暴動寸前のピリピリした雰囲気は消えていた。

    座席の清掃などの雑用や配膳の人員、暖かい料理をリアルタイムで作る人員が適切に配置されている。
    確かにマコトはちゃんと予算を出したようだ。

    その中心のフウカはいつもの曇りきったの表情はなく、笑顔で接客していた。
    食事を食べる生徒の「美味しい」などの感想に気分があがっているようだ。

    「フウカ。随分楽しそうね?」

    「あら?風紀委員長、こちらに来るのは珍しいわね?おかげ様で一時的だけど予算10倍以上になったおかげで、久しぶりに色んな料理を作れて楽しめてるわ!」

    フウカはとびきりの笑顔を見せる。
    その笑顔にヒナも思わず口元が綻んでいた。

    「そういえばここ数日あいつら見てないけど知りません?」

    ヒナの顔を見て、フウカは顔を見せない迷惑な奴らの思い出す。

    「あぁ、美食の子達?仕方ないから捕まえてるわ。アリスがゲヘナに慣れたら2、3日で出してあげるつもりだから、その時は風紀委員を護衛に付けるわね・・・」

    「はは……やっぱり平和は長続きしないのね……」

    フウカが疲れた顔でため息交じりに呟くと、ヒナが思い出したように口を開いた。

  • 35プロローグ25/12/01(月) 16:30:44

    「そうそう、話し込んじゃったわね。彼女がジュリと交換でゲヘナに来たミレニアムのアリスよ。仲良くしてあげてね」

    「ああっ!ごめんなさい、全然気づかなかったわ。給食部のフウカです!三食しっかり私が用意するから、安心してね。何か苦手な食べ物はあるかしら?」

    「こちらこそ、よろしくお願いします!アリスです!特に苦手ものはないです! ご飯、楽しみにしてます!」

    「はい、任せといて!とりあえず、スペシャルセット四人前、準備するわ!」

    そう言うと、フウカは勢いよく厨房に戻り、程なくして豪華な料理の乗ったお盆を四つ運んできた。
    豪勢な食事は彩りも豊かで、まるで宮廷料理のような趣すらある。

    「これは……すごいですね。こんなの見たことありませんよ?」

    、とイロハが感嘆の声を漏らす。

    「わぁ〜!プリンもついてる〜!」

    イブキも目を輝かせる。

    「これが料理人ジョブの力ですか!すごいです!アリスも覚えたいです!」とアリスは興奮気味に目を輝かせていた。

  • 36プロローグ25/12/01(月) 16:31:56

    そんな三人の思い思いのリアクションを、ヒナとフウカは微笑ましく見守っていた。

    席につき豪華な食事に舌鼓を打ちながら、それぞれが感想を漏らす。

    「たまにはゆっくり食べるのもいいわね。ここまでのものが出てくるなんて……」とヒナが呟けば、

    「ですね。給食部、侮れませんね」イロハも感心して頷く。

    「アリス、感動しました!フウカにお願いしてお料理教えてもらいたいです!」

    「イブキもお手伝いする〜!美味しいご飯ありがとうって、お礼したいの〜!」

    まるでただの食事とは思えないリアクションを見せながら、四人は湯気の立つお茶を飲み、ひとときの幸せを満喫していた。

    だが、そんな穏やかな時間は長くは続かなかったのだった。

    廊下の向こうから、妙に騒がしい声が聞こえてくる。阿鼻叫喚と悲鳴が交じり合う――明らかに、何かが起きていた。

    ヒナは愛銃を片手に席を立つと、三人に「ちょっと様子をみてくる」と告げ、廊下に飛び出すのだった。

  • 37プロローグ25/12/01(月) 16:33:01

    ヒナが食堂を飛び出ると廊下は緑色の粘液と大量の紫色のパンケーキ、倒れるゲヘナ生、逃げ惑うゲヘナ生、奥には大量のパンケーキの山の見覚えのある光景が広がっていた。

    「……?なんであれが?ジュリは今、ここにいないはずよね?」

    ヒナは小首をかしげ、周囲を見渡すが、騒ぎの原因までは特定できなかった。

    「はぁ……」と小さくため息をついたヒナは、”終幕:デストロイヤー”を構え、廊下を掃射する。だが今回は数が多く、しかも標的は小さい。思ったよりも手間がかかることにヒナは唇を噛んだ。

    (……人海戦術に切り替えるしかないわね)とヒナが眉間に皺を寄せたその時、背後から声を掛けられる。

    「風紀委員長!大丈夫ですか? 勇者アリス、手伝いに来ました!!」

    「いや、風紀委員に任せてほしいんですが!」

    アリスが食堂から出てきたようだ。
    後ろからイロハが慌てて追いかけている。
    更にフウカがついて来ており、濁った瞳で蠢くパンケーキの動きを追いながら疲れた様に呟く。

  • 38プロローグ25/12/01(月) 16:35:13

    「昨日、ジュリがミレニアムでご馳走するって張り切って、一晩中練習してたのよ……時間差で動きだしたみたいね」

    「……そういうこと? 危険物の管理はもっとしっかりお願いね?」

    「ごめんなさい……」

    ヒナの呆れ顔に、フウカは素直に頭を下げた。

    あまり民間人、しかもミレニアムの客人に任せるのはヒナとしては本位ではない。
    しかし、こういった大量の敵を一網打尽にするには、自分がやるには被害が大きすぎる。校舎ごと吹き飛ばしかねないのだった。

    その点、アリスの光の剣は威力の調節が効くようだった。
    この場面では、”最適”としか言えない。
    そのことに思い至ったヒナはアリスへ提案する。

    「……あんまり客人に頼むのは気が引けるんだけど、アリス、あなた――この廊下、威力を調節して全部吹き飛ばせる?多少の怪我人には目をつぶるわ」

    「いいんですか?できますけど……、窓とか、割れちゃいますよ?」

    「いいわ。被害が拡がるよりマシよ。やっちゃって?」

    「アリス、了解しました!出力50%で行きます!」

    そう言ってスーパーノヴァを構える。アリスは少し控えめな出力を指定してスぅと息を吸うと一息で「光よ……!!」と叫び、レーザーを発射したのだった。

    廊下は白い閃光に包まれ、倒れた生徒ごと“それ”を巻き込んでいった。廊下は甘いような、痛いような独特の焦げ臭さが立ちこめる。

    だが割れた窓のおかげで、臭気はすぐに外へと抜けていった。

  • 39プロローグ25/12/01(月) 16:40:31

    焼け跡には炭化したパンケーキの山と、その山の中に――よく見ると人の手。
    巻き込まれて倒れたゲヘナ生達は、光に包まれ焦げていた。
    廊下は死屍累々と言った様相だ。

    後方にいたゲヘナ生徒たちは、その光景に目を見開き、静まり返る。
    レールガンの閃光、爆音、そして見知らぬ少女――アリス。その登場は、彼女たちの言葉を一瞬で奪ったのだった。

    その後、呆けたゲヘナ生達を状況を飲み込むとどよめきが広がる。そしてすぐにどよめきは歓声へと変わった。

  • 40プロローグ25/12/01(月) 16:42:26

    「すっげー!今のビーム!?あれミレニアムの!?」「私もほしいー!売ってるの!?」
    「かっけぇ……けどかわいいぃぃ!!」「こっち向いてー!!」

    その声にアリスはくるりと振り返り、手を上げて応えた。

    「天童アリスです!ゲヘナの皆さん、よろしくお願いします!」

    「よろしくねー!アリスちゃーん!」

    この出来事はミレニアムのアリスの御披露目として、大成功だったようだ。
    皆、歓迎を顕にし笑顔を向けてくれていたのだった。

    アリスが歓声に応え、スポットライトのような視線を一身に浴びているそのとき。

    突如――焦げ跡の中にあるパンケーキの山が、もぞ……、もぞもぞ……と動き始めた。

    その山の隙間から見えた手と、焦げた制服の切れ端に気づいたイブキは、ざわつく生徒たちの輪をするりと抜けて、迷うことなくパンケーキの山へ向かっていく。

  • 41プロローグ25/12/01(月) 16:43:33

    「マコト先輩!! だいじょ~ぶ?」

    近づいて膝をつき、パンケーキの山に声をかけるイブキ。
    すると、

    「イブキー!!!」

    山がはぜるようにして、中からアフロ頭のマコトが飛び出してきた。煙をまといながら勢いよくイブキに抱きつく。

    「けほっ、けほっ……マコト先輩、煙いよ~! お風呂いこ? お風呂!」

    「っくそ……アリスめ……! いきなり私を狙ってくるとはな……!」

    そう息巻くマコトの姿は、完全に焦げ付いている。制服はところどころ煤け、髪の毛は見事なまでに膨れ上がっていた。
    やがて、その後ろからのんびりと歩いてきたイロハが、呆れたように肩をすくめる。

    「はぁ……何言ってるんですか。助けてもらったんですから、ちゃんとお礼言ってくださいよ?」

    その言葉にマコトは顔を歪め、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
    ブスッとした顔をし、アリスの方をちらりと見やりながら――

    (キキキッ……まぁいい。絶対に尻尾を掴んでやるぞ、ミレニアムめ……!)

    漂う煙の向こうを見ながら、マコトは静かに、しかし露骨に意地の悪い笑みを浮かべるのだった。

    それを見たイロハは、深いため息をまたひとつ。

    「……はぁ、また面倒ごとが始まりそうですね」

    その言葉が虚空に消えていくころには、ゲヘナの食堂にもようやく静けさが戻りつつあった。

  • 42プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:45:18

    担架やストレッチャーに乱暴に投げ込まれ、まるで土建屋が資材を運ぶかのように次々と運び出されてい死人もとい、怪我人たち。
    それを見送りながら、フウカの表情は次第に曇っていった。

    「うわぁぁぁ……人が……人が足りない……」

    怪我人の顔ぶれを確認していたフウカは、夜の晩餐会の人手が一人また一人と減って行くことに愕然としていた。

    「どうしたんですか、フウカ? そんな顔して?」

    ひどい顔をしたフウカをアリスが心配そうに覗き込む。

    「ああ? アリス……ちょっとね。ちょうど臨時のパートさん達を休憩に出してたのよ……そしたら、ちょうど巻き込まれたみたいで――」

    「――つまり、騒ぎに巻き込まれたパートさんが何人もいるってことですね?」

    後ろから現れたイロハが会話に加わると、フウカは項垂れながら小さく頷いた。
    その姿は、見るからに痛々しい。

    どうやらアリスの“スーパーノヴァ”の一撃は、少しやりすぎだったようだ。

    「新しく人員手配はできそうですか? 晩餐会の準備は……?」

    「料理だけならどうにかなるけど……給仕がね。教育もいるし、間に合わないかも」

    その言葉を聞き、イロハは考えこむ。

  • 43プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:46:24

    「……万魔殿から数人出して……あぁ、ヒナ委員長? 人手、貸してもらえませんか?」

    ある程度は万魔殿で賄うとして、足りない分を現場で指揮を執っていたヒナを捕まえ風紀委員に頼めないかと依頼する。イロハが状況を簡潔に伝えると、ヒナは快諾してくれた。しかし。

    「わかったわ。なんとかする。けど、それでも――」

    「2、3人は足りない……かぁ」

    フウカが唸るように呟く。

    「他に……どこかまともに働いてくれそうな部隊、残ってましたっけ? 救急医療部とか……」

    イロハは廊下を忙しく駆け回る救急医療部員たちをちらりと見やるが、すぐに首を振った。
    どう見ても忙しそうだ。
    手詰まりかと諦め掛けたそのとき、アリスが「はいっ!」と手を挙げていた。

    イロハはアリスに「何か妙案でも?」、と問いかけると、元気よくアリスは答えた。

    「はい! アリス、お手伝いします! イロハやイブキも一緒にやればちょうど人数は足りますよ!」

    「いやいやいや……ダメでしょ、あなた主賓よ?」

    フウカが手を振って止めるが、アリスの目はきらきらと輝いている。

  • 44プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:48:24

    「それに私もですか? いやぁ、私、肩書き的に……その、ね?」

    イロハが少し後ずさる。
    顔にはありありと絶対にやりたくないと書いてあった。

    そんなやり取りの中、会話を聞いていたヒナが、横からさらりと口を出す。

    「アリス、お手伝いしたいの? いいじゃない。別にゲヘナは自由よ? それに、現場にはイロハ? あなたみたいな管理役が必要じゃない? ちょうど良いわ」

    「……あれ? もしかして私、逃げられませんかね?」

    「イロハ! がんばりましょうっ!」

    アリスがイロハの手を握って退路を絶ってくる。

    「……はぁ。まぁ、人手が増えるなら、私はなんでもいいわ。よろしくね」

    フウカはまぁいいかと、状況を受け入れたようだ。

    こうして主賓も管理者もお構いなしに、晩餐会の準備メンバーは決定した。
    イロハの顔は引きつり、どこか遠い目をしていたが、もう救いはなさそうであった。

    ――ゲヘナ大浴場・脱衣場にて、
    「ふぅ……やっぱり少し埃っぽいですね」

    脱衣所に入ったイロハが服を脱ぎながら呟く。

    「アリスもですー!」

    二人は埃と砂まみれの服を脱ぎ、ランドリーケースに放り込むと、用意されていた浴衣を棚におく。

  • 45プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:49:34

    二人とも髪の量が多いせいか、歩くたびに砂埃がぱらぱらと落ちていく。それを見て早々に風呂場へと足を運ぶのだった。

    風呂場には、先に来ていたマコトとイブキがいた。泡まみれになって、楽しそうに洗いっこをしている。
    マコトの顔はすっかり弛みきっていた。

    「イブキー、よーく洗おうな~?」

    「はーい、マコト先輩!――あっ、イロハ先輩とアリス先輩も来た~!」

    「はいっ! アリス、洗浄メンテナンスに来ました!」

    「キキキッ! アリス、ご苦労。先ほどは助かった。一応、礼を述べておこう」

    アリスが来たことを確認しすぐに威厳を取り繕うマコトだが、その頭はアフロのように膨れ上がり、泡だらけという有様であった。

    「どういたしまして! アリスは勇者なので当然です!」

    アリスは笑顔で、胸を張ってどや顔を返す。

    ――全員が洗い終え湯船に浸かると、イロハが先ほどの顛末を愚痴交じりにマコトに報告する。

  • 46プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:51:00

    「というわけで、アリスさんと私とイブキで、給仕やることになりました」

    「え? なんでだ?」

    マコトは唐突な展開に思わず突っ込みを入れた。

    「委員長の鶴の一声、ってやつですかね?」

    「アリスがお手伝いしたいとお願いしたんです! フウカのご飯が美味しかったので、みんなにも楽しんでほしくて!」

    アリスは真っ直ぐな碧い瞳でマコトを見上げる。
    その清らかな眼差しに、マコトは一瞬たじろぐも、すぐに平静を装う。

    「……ヒナが勝手に決めたのが気に食わん!」

    「ですよね! マコト先輩なら、そう言ってくれると思ってました! 越権行為ってことで正式に抗議しましょう!」

    「キヒヒッ! よーしイロハ、イブキ、任せておけ! 私が取り下げさせてやる、安心しろ!」

    イロハは内心、にやりとほくそ笑んだ。
    ヒナを前面に出せば、マコトが反発してくれる――という読みは的中したのだ。
    このまま手伝いをキャンセルして楽ができる、そう踏んでいた。

    ――だが、そこで思わぬ伏兵が現れる。

    「え? イロハはお手伝いするよ? アリス先輩がやるなら、イブキもやりたい!」

    そう言って、イブキは湯船の中を泳ぎ、アリスの膝の上にちょこんと座る。

  • 47プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:52:13

    「イブキもお手伝い頑張ってくれますか?」

    「うん! フウカ先輩が困ってるなら、イブキ頑張る!」

    「じゃあ、アリスと一緒にメイドになりましょう! ちょうどイブキのサイズのもありますし!」

    「ちょっと待て。……メイド服だと?」

    これにマコトは反応を見せる。

    「はい! ユウカから渡されてました! 小さいサイズのメイド服を“似合う人がいたら渡して、着心地のレビューと写真を送ってきて”って言われたんです!」

    「イブキの写真撮るの~?」

    「報告書に使うのでいいですか? あっ、ちなみにイロハの分もあるので安心してください!」

    「え?」

    「写真はいいよ~! ねー、マコト先輩! イブキ頑張るから、お手伝いしてもいいでしょ~?」

    イブキの言葉を受けて、マコトは眉間にしわを寄せ、目を閉じて沈思する。
    その姿に二人はおねだりするように、ぴたりと寄り添う。

    これにはマコトも堪らない。すぐに先ほどの言葉を取り消した。
    マコトはイブキには逆らえないのだった。

    「ぐぅ……わかった! 許可しよう! あと写真は検閲だ! 私にも寄こせ!」

    「えええーっ!? マコトせんぱーい!!」

  • 48プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:53:16

    一瞬で言葉を翻したマコトにイロハは情けなく声を張り上げるのだった。
    逃げ道が一つ一つ、潰されて行く。
    イロハは、(これは良くない流れ、本当に良くない)と如何に逃げ出すか考え続けるのだった。

    ――風呂上がり、アリスはイブキとイロハを連れ、用意された寮の一室で浴衣姿のまま一息ついていた。
    荷物を詰めた段ボールをごそごそと漁り、三着のメイド服を取り出す。

    一着はアリス用。そして、もう二着はそれぞれ赤とピンクのワンポイントが入った、小柄なサイズのものだった。

    イロハは、風呂上がりでふわりと膨らんだ髪をタオルで丁寧に乾かしながら、その服をじっと見つめる。

    「……イブキはともかく、私も着なきゃダメですか?」

    「え~、イロハ先輩着ないの~? 見た~い!」

    「アリスも見たいですー!」

    「……はぁ。初日から面倒なことばっかり……」

    イロハは観念したようにため息をつく。
    あとはもう、晩餐会が無事に終わってくれることを祈るしかない――そうひらひらのメイド服に袖を通しながら覚悟を決めるのだった。

    ――三人はメイド服に着替え、会場へと向かっていく。
    フウカとの打ち合わせをする為、早めに現地入りをしていた。

    「まあ、万魔殿がずいぶん可愛い格好で来たわね?」

  • 49二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 16:54:28

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  • 50二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 16:56:43

    このレスは削除されています

  • 51プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:58:24

    フウカは、三人の姿を見て微笑む。

    「えへへー、でしょ? 今日はよろしくお願いします!」

    「しますっ!」

    「……はい」

    イブキとアリスは元気に挨拶し、イロハはどこか投げやりな声で応じる。

    打ち合わせは簡単に済み、三人は手際よくテーブルや食器の準備を始める。今回は立食形式のパーティだ。
    慌ただしく準備を進めるうちに、あっという間に開場の時間となった。

    ゲヘナにしては珍しく、時間通りに人が集まってくる。
    目的は“ただ飯”もさることながら、やはり今日の主役――アリスを一目見ようと集まったようだ。

    ほどなくして、ドレス姿のマコトが登場する。目立とうと壇上へ向かうが、会場はアリスを求めており視線はまばらだ。

    その気配に気付き、マコトはむすりとした後、

    「もうっ! アリス! アリスはどこだ! こっちに来い!」

  • 52プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 16:59:27

    とマイク越しにアリスを呼びかける。
    その声に、「はーい!」と元気な返事が忙しく動き回るメイドの少女から上がる。

    そちらへ耳目が集まると、アリスは会場中を走り回り、忙しなくドリンクを配っていた。

    一通り給仕を終えると、アリスは壇上に上がって挨拶をする。

    「お待たせしましたアリス、参上しました! 今日はアリスのために集まってくれてありがとうございます! 感謝の気持ちを込めて、今日はメイドになります! ゲヘナの皆さん、楽しんでください!」

    その挨拶に、パーティ会場は歓声と拍手に包まれる。
    アリスは、ゲヘナが自分を歓迎してくれているのを感じていた。
    その思いが、何よりうれしかった。

    その様子を後ろで見ていたヒナは、そっと胸を撫で下ろす。
    少なくとも、ゲヘナとミレニアムの間に軋轢はなかった――そう確認できたからだ。

    満足げに微笑むと料理を数品タッパーに詰めるように頼むと、ヒナは静かにその場を後にする。拘束中の違反者たちへのお土産を用意したようだ。

    パーティが終わる頃には、アリスは完全に引っ張りだこになっていた。

  • 53プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 17:00:36

    「うわーん! 終わりがないです~!」

    歓声と「写真撮って!」などの声の波に揉まれながら、アリスの悲鳴が響く。
    夜はゆっくりと、しかし確実に更けていく――。

    やがてお眠になったイブキを、マコトがそっと抱きかかえ、会場を後にする。それが、事実上の解散の合図だった。

    「もう後は私たちでやるから、アリスたちは大丈夫よ? お疲れ様」

    そう声をかけたフウカは、疲れもみせず生き生きとしていた。
    アリスはその様子に、少し不思議に思いながら微笑む。

    「はいっ! フウカ、じゃあまた明日!」

    「ええ、また明日」

    アリスが部屋を出て行くと、フウカは片付けに戻ろうとして、部屋の隅に何かを見つけた。
    近づいて確認すると――そこには、魂が抜けたような顔でぐったり座り込んだイロハがいたのだった。

    「はは……これが、あと二週間も続くんですかね……?」

    涙目で白目になったイロハに、フウカはひとこと。

    「たまには本気で働きなさいよ」

    ――冷たい一言を浴びせるのだった。

    アリスのゲヘナ初日はこうして幕を閉じるのだった。

  • 54プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 17:01:57

    件名:ゲヘナ冒険の報告書です!

    差出人:アリス
    宛先:ユウカ
    日付:××××年×月×日

    ユウカへ

    こんにちは!アリスです!
    今日はゲヘナの冒険、初日でした!

    いきなり銃撃戦に巻き込まれたり、パンケーキを焼いたり、メイドになったりと大忙しの一日でした!
    でも、ゲヘナの皆さんはとても親切で、ちょっと怖そうに見えた人たちとも、なんだかんだで仲良くなれそうな気がしています!

    特にマコト議長やイロハやイブキとは一緒にお風呂に入ったり、給仕の手伝いをしたりしてたくさんお話できました。
    ヒナ委員長ともご飯を一緒に食べました。美味しかったです!
    晩餐会ではたくさんの人が来てくれて、アリスのことを応援してくれてとっても嬉しかったです!

  • 55プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 17:03:02

    追伸:
    お願いされていた「例の写真」、ちゃんと撮りました!
    添付ファイルで送っておくので、ご確認ください!
    着心地もばっちりです!また何かあればいつでも言ってください!

    それでは、また明日も頑張ります!

    アリスより――

    ――そのメールを読み終えたユウカは、画面に目を細めながら小さくため息をついた。

    「……これじゃ報告書っていうよりただのメールね……まあいいわ。とりあえず、添付ファイルはウイルスチェックして……うん、問題なし。かんぺき~」

    そう言ってファイルを開くと、画面に映し出されたのは、きっちりメイド服に身を包んだイブキとイロハの姿だった。
    瞬間、ユウカの目が見開かれ、椅子を軋ませながら立ち上がる。

    「……ッ!これは……ッ!!」

    興奮したユウカはすぐさま返信用メールを立ち上げ、キーボードをたたき始めた。

    ――――

  • 56プロローグ おまけ 晩餐会25/12/01(月) 17:04:15

    件名:Re: ゲヘナ冒険の報告書です!

    差出人:ユウカ
    宛先:アリス
    日付:××××年×月×日
    アリスへ

    メールありがとう。楽しんでいるようで何よりだわ。
    私たちも、アリスがゲヘナでいろんなことを学んでくるのを楽しみにしています。

    ただし、怪我には気をつけて。くれぐれも無理はしないように。

    それと、今回送ってくれたこの二人の写真——とても参考になりました。
    今後の実験データとしても有用なので、できれば継続的に送ってもらえると助かります。よろしくね。

    それじゃあ、おやすみなさい。

    ユウカ
    --そのメールを読んだアリスは、「なんでだろう?」と首を傾げながらも、まぁいっかと特に気にする様子もなくタブレットを手に取りゲームを起動した。
    その目はもう、ゲーム攻略に向いていたのだった。

    やはりゲヘナに来たとしても、深夜にゲームをするルーティンは変わらない。
    特にそれを咎めるユウカもいないので、アリスは誰に憚ることもなくゲームを始めたのだった。

    しかしそれは予想されていたらしくユウカからまたメールが届く。

    ――追伸。
    アリス? あんまり夜更かししちゃダメよ?

    その一言のメールにアリスは苦い顔をするのだった。

  • 57二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 17:07:40

    とりあえずプロローグ書きつし完了
    ぼちぼちやってきます

  • 58二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 22:31:15

    ぬっ

  • 59二次元好きの匿名さん25/12/01(月) 23:51:28

    ほし

  • 60二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 07:23:44

    はえーこれでプロローグ…すごいな

  • 61二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 08:44:13

    >>60

    絡ませたいキャラが多いのと、マコトとアンジャッシュさせようから始まったせいで構想拡がりすぎて10万字突破して未だに折り返しにも辿りついてないんですよね……

    多分年内に終わらないですねぇ

  • 62ep1 25/12/02(火) 12:35:10

    "Alice in the Gehenna "①

    アリスが一晩中ゲームに熱中していると、気付けばカーテンの隙間から朝の光が差し込んできていた。

    時計を見ると、時刻は午前6時を少し過ぎたところ。
    案内の書類には「7時30分に部屋に迎えに来る」とある。

    アリスはゲームを中断し、名残惜しげに電源を落とすと早めの身支度を始めるのだった。
    備え付けのシャワーで熱いお湯を浴び、寝間着を洗濯かごに放り込む。そして髪を整える。
    ゆっくりと準備を進めていると、気づけば出発の時間だった。

    部屋の呼び鈴が鳴る。

  • 63ep1 25/12/02(火) 12:36:25

    「はーい!」

    ドアを開けると、今日も気だるげな赤髪と、元気な悪魔っ娘が立っていた。

    「アリスせんぱーい、おはよー!」
    「ふぁ……おはようございます」
    「はい!二人ともおはようございます!」

    三人は軽く挨拶を交わすと、そのまま寮を後にした。

    食堂で朝食を済ませた後、イロハは二人を教室に連れて行くと、そのまま別れを告げた。
    学年が違うため、授業は別々だ。

    教室はまだざわついており、生徒たちは自由におしゃべりを楽しんでいる。
    そこへ転入生――昨日の主役――アリスが入ってくれば、当然注目の的だ。

    昨日の大捕物とメイド姿の話題は、すでに教室中に広まっていた。
    イブキと話していたアリスに、早速何人かが目敏くみつけ話しかけてくる。

    「アリスちゃんも授業受けるんだ?昨日のあれ見てたよ!かっこよかった!」

    「うんうん!すごかったよ~!よろしくね!」

    「はい!よろしくお願いします!」

    アリスはゲヘナ生ににこやかに挨拶を返し、指定された席に着く。
    教室での生活にも、特に不安はなさそうだった。

    ――ただし、それはアリスが「敵意ある視線」にまだ気づいていなかったからに過ぎない。

  • 64ep1 25/12/02(火) 12:37:26

    やがて教師が教室に入り、簡単な自己紹介の後に授業が始まった。
    ミレニアムと比べると授業の内容はかなり易しく、アリスは特に困ることもなく午前中を終える。

    昼休みも和やかに過ぎていき、放課後には教室で友人たちと談笑。
    初日としては申し分ない滑り出しだった。

    その放課後、再びイロハが様子を見に来る。
    アリスの机のまわりには生徒たちの輪ができていた。
    その中をかき分け、イロハが声をかける。

    「お疲れ様です。……随分、人気ですね?アリスさん。一応、この後の予定を確認しておきたいのですが」

    「イロハ!お疲れ様です!もう少しみんなとお話してから帰ろうと思ってます。イロハはどうしますか?」

    「……万魔殿の仕事が残っているので、イブキと二人で帰ってほしいんですよね。なるべく寄り道せず、校舎からまっすぐ」

    「了解しました!……校舎でちょっとだけ遊んでから帰ります!」

    「遊んで……。まあ、構いませんけど。夕ご飯の時間には気をつけてくださいね?では、また明日」

    「はい!また明日です!」

    そう言って別れると、イロハはその豊かな髪を人波にまぎれさせるようにして去っていった。

    その後も小一時間ほど、アリスとイブキは教室で駄弁っていた。
    だが、その間に「敵意ある視線」は増していた。

  • 65ep1 25/12/02(火) 12:38:30

    アリスの周囲にいた生徒たちも徐々に減り、気づけば残っていたのは2、3人。
    そのときだった。遠巻きにアリスを睨みつけるような生徒たちの集団が、じわじわと距離を詰めてきたのだった。

    横にいたイブキがその異変に気づき、アリスの袖をつかみながら守るように前へ出る。
    残っていた生徒も警戒し、手持ちの銃にそっと指をかけた。

    「なんですか? あなた達は……皆さんに危害を加えるなら、勇者は容赦しませんよ!」

    「ハン!いくら凄い銃があっても、こうやって囲んじまえば、全員守るなんてできねーよなぁ?」

    アリスの額に一筋、汗が流れる。
    自分だけならどうにかなるかもしれない。でも、イブキたちを巻き込むわけにはいかない。

    「よーしよし。状況は理解できたようだな?風紀委員なんかに来られると困る。お前ら全員、ついてこい!」

    「どこに行くと言うんですか!」

    「うるせぇ!」

    銃口を足元に向け、賊が発砲する。

    アリスたちはその行動に沈黙のままついていく。
    銃を腰に突きつけられながら階段を上がり、部活棟の奥――暗く人気のない部屋の前に連れて行かれる。

  • 66ep1 25/12/02(火) 12:39:32

    中へ入れられたのはアリス一人。
    部屋には5人ほどのゲヘナ生が待ち構えていた。
    皆、顔色が悪く目の下に隈を浮かべている。まるで、徹夜明けのミレニアム生のようだった。

    その中の一人がアリスを見据えると、苦悶の表情を浮かべながら話しかけてくる。
    その姿は酷く病的な雰囲気だ。

    「……いやぁ、はじめまして。さあ、勝負をしようじゃないか!」

    そう言うとゲヘナ生は懐から何かを取り出し、アリスの足元へと投げてよこした。
    それを目にしたアリスは、瞬時に表情が変わる。

    アリス「こっ……これはっ!」

    彼女はそれを拾い上げると、息を呑んで硬直するのだった。


    ――一方その頃、アリスたちがいた教室では。

  • 67ep1 25/12/02(火) 12:41:40

    「……まったく、まだ帰ってないんですか。イブキたちは一体どこに?」


    手が空いたイロハが、アリス達はどこにいるかと確認しに来ていた。置き去りにされたアリスの鞄を見て、イロハは探しに行くべきかと逡巡する。

    忘れ物かもしれないと念のためと思い教室に入ったその瞬間、鼻をついたのはかすかに残る硝煙の匂いだった。

    (これは……嫌な予感がしますね)

    直感が警鐘を鳴らす。イロハは駆け出し、アリスの席へと急いだ。
    周囲を探っていると、机の陰にわずかな銃痕を発見する。

    全身の毛穴が総立ちになった。
    これは、自責と恐怖のせいだった。

    イロハは咄嗟に廊下へ走り出す。
    廊下にいた生徒たちにアリスを見ていないか問いながら、同時に風紀委員への連絡も済ませた。

    (油断した……! 私のせいで……! アリス、イブキ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……)

    滲む涙を拭いながら、イロハは必死に足取りを追うが、これと言った情報はすぐには出て来ず、焦燥感だけが増して行くのだ。

  • 68ep1 25/12/02(火) 12:43:08

    ――「アリス行方不明」その報せを受けたアコは、思わずため息をついた。

    「誘拐事件……アリスとイブキがですか?」

    問題児の一斉摘発で今週はようやく静かに過ごせると思っていた矢先だった。
    しかも今回は、いつものようにフウカが誘拐されるのとは訳が違う。
    これはミレニアムとの外交問題、最悪の場合は戦争すら視野に入る。

    そして生憎、この事態に肝心のヒナは外出中。
    ゲヘナ外で溜まった仕事の処理に当たっていた。
    アコは頭を抱えつつ、内々に収める道を模索していた。

    「風紀委員各位、最優先でアリスとイブキの足取りを追跡してください。万魔殿や他の生徒には気取られぬよう、極秘で!!迅速に!!行動を」

    すぐさま風紀委員に指示を飛ばし、次いでイロハに連絡を入れる。

    「人命最優先で動きます。絶対に、万魔殿への報告や生徒たちに誘拐の件が広まらないようお願いします」

    「……っ、す、すみません。万魔殿には報告していませんが、生徒にはすでに聞き込みを……」

    「……そうですか(ふぅ、まだマコトには連絡がいっていないなら、なんとかなりますね)」

    これならまだもみ消せる。自分達の過失では無いものに痛くものない腹を探られるのは大変不愉快というのが半分、残りの半分は大々的に動かれては人質の安否が気にかかるというのが半分の指示だ。

    「どうすれば……私は、どうしたら……」

    狼狽するイロハ。
    その様子にアコも、同情を禁じ得ない。

    「大丈夫です。すでに報告が上がってきています。二人がまだ校内にいることは確認済みです。ここからは私たちに任せてください」

  • 69ep1 25/12/02(火) 12:44:09

    実際アリスは部活棟への移動を確認していると、この数分で報告されている。解決は時間の問題だ。

    「で、でも……!」

    「治安維持は私たち風紀委員の責任です。必ず、二人を無事に連れ戻します!」

    「ぐっ……」

    アコの力強い言葉に、イロハはそれ以上何も言えず、その場に項垂れるしかない。
    自分の力の無さにイロハは歯噛みするのだった。

  • 70ep1 25/12/02(火) 19:08:42

    「この誘拐犯ども! 大人しくしろ! 抵抗するなら容赦しない!!」

    風紀委員のイオリが、怒声を発しながら誘拐犯達の拠点を鎮圧していく。
    風紀委員たちは秘密裏に情報を収集し、迅速に居場所を突き止めていた。どうやら、犯人は部活棟にいる文化部の生徒たちらしい。温泉開発部や美食研究会といった一部の問題児を除けば、基本的に彼らはゲヘナの中でも比較的おとなしい集団だ。

    要人誘拐などという大それた事をする集団とは思えない。
    基本的にやりたいことが出来るなら、誰かに迷惑を掛けたりだとかそういうことは起こさないとイオリは記憶している。

    しかし今回は、随分な人数が部活棟に集まり企てに参加しているようだ。無関係な者は部室に込もっているのだろう。
    やましい物がある生徒は、抵抗するか逃げていく。

  • 71ep1 25/12/02(火) 19:10:10

    だが抵抗しようがしまいがに関わらず、突入から数分もしないうちに、イオリ率いる数十名の風紀委員の精鋭によって、犯人たちは一瞬にして瓦解していた。散り散りに逃げる連中を追いかけて捕まえる方がよっぽど手間なほどだ。

    もはや銃撃戦とも呼べない。逃げ惑う相手を背後から正確に撃ち抜いていく様は、まるで鴨撃ちか射撃訓練のようだった。やがて、上階の奥――行き止まりの場所に、約二十人ほどが勉強机で作ったバリケードの裏に立てこもっているのが確認された。

    イオリは部隊を率いて上階へ突入し、残敵をさらに奥へと追い詰める。
    行き止まりに追い込むと、再度投降を呼び掛けるのだった。

    「抵抗はやめろ! 痛い目を見たくなければ、今すぐ投降しろ!!」

    そう叫びながら、イオリは愛銃を天井に向けて数発発砲。その音に、バリケードの向こう側からびくりと震える気配が伝わってきた。恐怖に怯える視線が、バリケード越しにイオリを見据えている。

    (はあ……。なんでこいつらが、こんな突飛な真似を……あっ!)

    バリケードの隙間から奥を覗くと、銃撃戦に不安そうな顔をしたイブキの姿が見えた。イオリはその姿に安堵しつつ、優しく声をかける。

    「イブキ! 捕らわれてるのは何人だ~?」

    イブキは自分に声を掛けられたことで、安堵の表情を見せて答える。

    「イブキを入れて、四人だよ~。アリス先輩も無事だと思う~!」

    「怪我はないか~?」

    「だいじょーぶ~! お菓子くれたり、お話してくれたりしたよ~?」

  • 72ep1 25/12/02(火) 19:11:21

    その呑気な返答に、イオリは胸をなで下ろす。アコの緊迫した通報を受けて即座に動いたのは正解だった。最悪の事態にはなっていないようだ。

    「お前ら、何が目的だ!? 人質の解放条件はなんだ!」

    膠着状態を打破すべく、イオリは一歩踏み込んだ言葉を放つ。しかし、バリケードの向こう側から返ってきたのは、”沈黙”だった。ゲヘナの生徒たちは顔を見合わせるばかりで、誰も答えようとしないのである。

    ――どういうことだ?

    通常、人質事件というのは、金銭や仲間の解放など何らかの要求を交渉するために起こすものだ。だが、目の前の彼らからは、交渉の意思すら感じられない。

    その態度に、イオリは苛立ちを隠せず、ブーツの踵で床をカツカツと鳴らす。これまでのやり取りで人質に危害を加える気がないことは分かるが、彼らの目的がまったく見えてこないのだ。そして、横の教室にいるであろうアリスの安否も未確認のままだ。

    突撃すればすぐに制圧できるだろう。だが、人質が巻き込まれるリスクを考えると容易には踏み切れない。イオリは現場の指揮には長けているが、こうした交渉ごとは不得手なほうだ。
    一瞬、逡巡しここはアコに任せるのが賢明だと判断し、通信を繋いだ。

    「アコちゃん? ごめん、相手との交渉、お願いできる?」

  • 73ep1 25/12/02(火) 19:12:24

    アコは即座に映像を接続し、バリケード内のゲヘナ生徒たちへと話しかけた。

    「私たちは無傷での人質解放を望みます。この交渉に応じられる方はいらっしゃいますか?」

    顔を右往左往させていた生徒の一人が、ようやく口を開いた。

    「交渉できる部長は、今、中にいる。そして、中でやってることが終わるまでは、私たちは退けない!」

    「ふふ……随分と強気ですね? それは、私たち風紀委員が穏便に対処してくれると信頼したうえでの発言でしょうか?」

    「ひっ……脅すなら、こっちだって考えがあるぞ!」

    「ほう……それは、私たち風紀委員と万魔殿、さらにはミレニアムを敵に回してまでやりたいことなのですか?」

    「くそっ! うるさい! 私たちは本気だぞ!」

    そう言いながら、ゲヘナ生たちはイブキたちへ銃口を向ける。その様子に、アコは大きくため息をついた。

    「わかりました。中で何をしているかは知りませんが、少し待ちましょう。ただし、くれぐれも誰にも怪我をさせないように。ちなみに中には何人いるんです?」

    「5人だ。……わかった、怪我はさせない。約束する」

  • 74ep1 25/12/02(火) 19:13:25

    (大丈夫なの? アコちゃん? あまり長引くと、万魔殿が嗅ぎつけてくるかもよ?)

    (暴発して被害者が出る方が問題です。ここは我慢です。幸い、イロハはこちら側ですから、何とかします)

    (……頼んだよ、アコちゃん!)

    通信を切ると、バリケードを挟んでの睨み合いが続いた。そのまま大きな動きもなく時間は過ぎ、日が暮れて夜の帳が降りはじめた頃――ついに、奥の部屋で動きがあった。

    「なぜだあああ!!」という慟哭が響き、床を叩くような音とともに、涙で顔を濡らし、ぐしゃぐしゃになった5人のゲヘナ生が部屋から飛び出してきた。

    風紀委員はそのチャンスに即座に反応した。――飛び出してきたゲヘナ生徒を取り押さえ、人質の元へと駆け寄り、バリケードを破壊して一気に制圧する。
    あまりにも突然の展開に、ゲヘナ生達は誰一人まともに反応できなかった。

    イブキたち人質も無事救出され、後方で保護される。怪我一つなく、元気な様子である。

    イオリは廊下の確保を確認すると、警戒しながら奥の部屋へと入る。中にいたのはただ一人、モニターの前でコントローラーを握るアリスの姿だけだった。

  • 75ep1 25/12/02(火) 19:14:46

    アリスは気配に気づいてドアの方を見ると、イオリを見つけて笑顔で挨拶する。

    「あれ? イオリ、こんばんは! こんなところでどうしましたか?」

    その無邪気な態度に、イオリは大きくため息をついた。

    「どうした?じゃないよ。まったく、……誘拐事件だって聞いて来てみたら、仲良くゲームしてたの?」

    「はい! アリスたちは仲良くゲームしてました!」

    すると、それを聞いていた部屋の外のゲヘナ生たちが、不満そうに叫ぶ。

    「違う! これは、我々ゲヘナeスポーツ部とゲーム開発部の因縁の一戦であーる! くそぅ……まさかUZQUEEN以外にもこんな強いやつがいるなんて! 絶対に、お前を倒してみせる!」

    その言葉に、イオリはすかさず銃弾を取り押さえたゲヘナ生にお見舞いする。その一撃に、ゲヘナ生は力なく沈黙した。

  • 76ep1 25/12/02(火) 19:15:52

    「うるさい! 黙ってろ!こんな騒ぎを起こした時点で、お前らは全員しょっぴいて反省室に送ってやるからな!」

    そしてイオリの言い種にアリスは、こてんと小首を傾げたあと沈黙するゲヘナ生に近づいて一言告げる。

    「対戦ありがとうございました! でも、ボタンが効きませんでしたよ?」

    その一言が止めとなり、ゲヘナ生たちは一斉に項垂れる。敗北の悔しさに肩を震わせ、声にならない嗚咽を漏らし始めたのだ。

    異様な光景に、イオリはまた大きくため息をつく。やれやれと思いつつも、隠れてるのがいないかと部屋の点検を始めるのだった。

    アリスには「イロハのもとへ送るから、少し待ってて」と伝えると、彼女は元気に頷いた。

    「わかりました! 今日はたくさん友達ができたって、イロハに伝えようと思います!」

    「それはよかった」と、呆れつつも返し、部屋に誰も隠れていないことを確認するイオリ。電源が入れっぱなしのモニターには「50連勝」と表示されていた。


    ――後に、涙ぐむイロハによってアリスとイブキは出迎えられる。何度も謝られるが、実際にしていたのはゲームだったこともあり、アリスは少しばつが悪そうだ。

    ちなみにイブキはお菓子の食べ過ぎであまり食欲がなく、どう誤魔化そうかと悩んでいた。

    そのまま三人で食堂へ向かうと、フウカがまだ残っていた。

    「何かあったのかと心配したわよ? とりあえず、ご飯できてるから、ちゃんと食べなさい」

    何も聞かず、ただ温かい料理を差し出してくれるフウカの優しさにアリスはまた少しだけ胸が痛む。しかし、ミレニアムの温かい人々を思い出し、嬉しさもこみ上げてくるのだった。

  • 77ep1 25/12/02(火) 19:20:08

    ep1 "Alice in the Gehenna "③

    件名:ゲヘナ冒険の報告書2日目です!

     

    差出人:アリス

    宛先:ユウカ

    日付:××××年×月×日

     

    ユウカへ

     

    こんにちは!アリスです!

    今日はゲヘナの冒険、2日目でした!


    授業を受けたあとは、ゲヘナeスポーツ部の皆さんとゲーム対決をしました!
    たのしかったです!

    ――

  • 78ep1 25/12/02(火) 19:21:20

    ユウカはその簡潔なメールに、楽しくやれていることを察して微笑んでいた。
    報告書としては、簡潔すぎるのだが元々そこまで気にしないつもりだ。
    簡潔に返信を済ませると、ユウカはセミナーを後にしたのだった。
    そして次の日――

    件名:ゲヘナ冒険の報告書3日目です!

     

    差出人:アリス

    宛先:ユウカ

    日付:××××年×月×日

     

    ユウカへ

     

    こんにちは!アリスです!

    今日はゲヘナの冒険、3日目でした!


    授業を受けたあとは、他の部活のゲヘナカート部の皆さんとレースゲーム対決をしました!
    たのしかったです!

    ――

  • 79ep1 25/12/02(火) 19:22:24

    どうやら、アリスは次の日も別のゲームで遊んでいたらしい。らしいと言えばらしいのだが……、せっかくなのだから、別のこともしてほしいと釘を指すメールをユウカは返信したのだった。
    更に次の日――


    件名:ゲヘナ冒険の報告書4日目です!

     

    差出人:アリス

    宛先:ユウカ

    日付:××××年×月×日

     

    ユウカへ

     

    こんにちは!アリスです!
    今日はゲヘナの冒険、4日目でした!

    授業を受けたあとは、VRFPS部の皆さんとヴァーチャルサバイバル対決をしました!
    サバゲーならゲームじゃないですよね?
    たのしかったです!

    ――

  • 80ep1 25/12/02(火) 19:23:34

    そのメールには添付ファイルもついており、室内でVRゴーグルをつけたアリス達がお菓子を食べながら座る姿が写されていた。
    ユウカはその画像を見て、衝動的にスマホを取り出すとアリスへ電話する。

    すぐにアリスは電話を取った。夜も21時を回っているというのに、周りには人の声が聞こえる。
    どうやらまだ何かしらゲームしているようだ。

    その状況に対しユウカは一言、

    「アリス!ゲーム禁止ね!」

    その無慈悲な一言にアリスは、「うわーん!なんでですかー!」と大きな悲鳴を上げるのであった。

  • 81ep1 25/12/02(火) 19:25:29

    ――次の日。
    朝早く。
    アリスの部屋には風紀委員が何人か集まっていた。
    どうやらセミナーから連絡が行き、ゲームの類いを没収。更には端末もゲームのインストール不能な業務用端末以外は没収されることになったのだ。
    更にはゲヘナのゲーム関連の部活は申請がなければアリスへの接触禁止措置まで取られるようだ。

    ユウカの本気が伺われた。
    流石に一週目のほとんどをゲームをして過ごしたアリスの自業自得であった。

    「うわーん! ユウカ、酷すぎます~!」

    まるで密輸入者の捜査かのように、荷物まで探られ電子機器はすべて没収される。帰りがけに端末一つを風紀委員は置いていった。
    その中身を確認すると連絡アプリ以外はすべてアクセス不能だった。念の入りようである。

    その状況にアリスがうちひしがれていると、イロハ達が迎えに来る時間になっていた。
    憔悴仕切った顔のアリスを見て、イブキは心配そうに声を掛ける。
    「アリス先輩、どうしたの~?」
    「アリスの大事な物達が、風紀委員に取られました~!」
    わんわん、と大泣きするアリス。
    その姿におろおろとしだすイブキ。
    イロハは状況が混沌し始めそうな雰囲気を感じとり、すぐにことの顛末をイブキに話す。

    事前に万魔殿にもセミナーから通達があったのだ。
    ”アリスゲーム禁止令”この徹底を、だ。

    その話しを聞いて、イブキはアリスに一言。

    「アリス先輩、ゲームばっかりしちゃ駄目だよ?」

    と、至極まっとうな感想を送るのだった。

  • 82ep1 25/12/02(火) 19:26:40

    ――その後、ここ数日通りに授業を受けあっという間に放課後になる。アリスは今日は何をしようかと悩んでいた。

    うんうん、と悩んでいるそこに風紀委員のアコとヒナが、教室を訪ねてきた。

    「アリスちょっと、報告があるから時間いいかしら?」

    ヒナは教室ドアからアリスを呼び出す。
    暇をしていたアリスはすぐに彼女に駆け寄った。

    「はい!委員長!なんですか?」

    「相変わらず元気そうね? 何事もなく過ごせているようで安心したわ。さて……、早速本題なんだけど今日から長期で勾留していた子たちを牢から出すわ。 ちょっとだけ過激な子もいるから注意をお願いね?」

    「はい!了解しました! アリス気をつけます!」

    「後は、アコ? 作って貰った書類お願いね?」

    「はい。 委員長。アリス? これ、基本的に接触して問題のないちゃんとした部活の一覧です。ゲーム関係と、品行に問題がある部活は除外してます」

    そういうとアコは、一冊の冊子をアリスに手渡す。
    どうやらゲーム以外にアリスが交流出来る部活の一覧をわざわざ作ってくれたようだ。
    ここ数日、何度かアコとは顔をあわせて都度都度お小言はあったがアリスの為に色々と力になってはくれている。

  • 83ep1 25/12/02(火) 19:27:45

    「ありがとうございます! やっぱりアコ先輩はツンデレなんですね!」

    「ん……、ばっ! 誰がツンデレですか!誰が!とりあえず! セミナーから苦情が入らないように、遊び呆けてないで両校の交流を図って下さいね!わかりましたか!?」

    顔を真っ赤にして反応する姿は、どうやら照れているようだ。
    その姿にヒナはため息をつき、「それじゃ」、といい二人は去っていた。
    自分の席で貰った冊子を、アリスはぼんやり眺めながらめくっていく。
    注意書きや簡単な紹介などなかなか手が込んでいる。
    こういった部分でも作り手の性格が出ているようだった。
    10分ほど眺めていると、イロハがイブキ以外を連れて訪ねてくる。イブキは今日は万魔殿に用事があると言っていた。


    「へぇ……、あの行政官がわざわざ」

    アリスに冊子を見せられたイロハは興味無さげに呟いた。

    「はい! 見やすくてありがたいです! ところでそちらの二人は? 初めましてですよね? 天童アリスです!よろしくお願いします!」

    「あぁ、この二人は私と同じ二年生の――」

    「やっほー!キララだよー!」

    「旗見エリカです。よろしくー」

  • 84ep1 25/12/02(火) 19:28:52

    派手な雰囲気のピンク髪の少女はキララ、白い髪のショートで少しクールな少女はエリカと言った。
    イロハの友人にしては珍しい雰囲気の少女達だなとアリスは感じた。

    「それで、お二人はどうしたんですか?」

    「何って? アリスっちと遊びにきたんだよ? 全然、出会えないからイロハちゃんに会わせてってお願いしたんだよねー!」

    「そうそう、ってこの冊子! 私らの部活のこと書いてないじゃんウケるー!」

    「え? エリカちゃんそれひどくなーい? 私らけっこー真面目にやってんのに!」

    イロハが見ていた冊子をエリカも盗み見ていたがどうやら彼女達の部活は、認識すらされていないのか一切記述がなかったようだ。そのことに、キララはむくれている。

  • 85ep1 25/12/02(火) 19:30:19

    だが、そんなことよりアリスへの興味が勝るのか次々とアリスに質問を始めるキララ。

    ちょくちょくエリカが止めるもキララのテンションにたじたじのアリスは質問の隙間になんとか、一言。二人に質問を返した。

    「あの! お二人の部活はなんなんですか?」

    「え? 何って? そりゃキララちゃんあれだよね?」

    「そうだよねエリカちゃん?」


    「「キラキラ部!」」


    そう二人が自信満々にハモると、アリスは小さく「キラキラ部?」と返したのだった。

    ――なお、アコの冊子にキラキラ部が乗っていなかったのは活動の実態が一切不明の謎の部活、というかそもそも部活としてカウントしていいか疑問が残るからであった。

  • 86ep1 25/12/02(火) 19:32:03

    とりあえずep1の前半ここまで
    またあした

  • 87二次元好きの匿名さん25/12/03(水) 00:17:21

    ヌッ

スレッドは12/3 10:17頃に落ちます

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