- 1バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:50:18
ワシが開催した「GANTZ: The Ark Breakers」と「契約のワルプルギス」の生き残りたちが「Devils × Devil ―Kiryu in Paris―」の世界にて活躍するIFストーリーっス(AI使用)
安価はありましぇーん
元ロワ読んでない人でも、デビデビの多重クロスとして楽しめるようにしたから読んでほしい…それがボクです
【元ロワ】
契約のワルプルギス
"バトロワ"をやります 契約のワルプルギス|あにまん掲示板参加者に紛れ込んでいる主催者に集められた参加者たちが、強制的に悪魔と契約させられて戦わされるバトロワらしいよ<ルール>・参加者が原作で有していた能力は大幅に弱体化されるので、契約悪魔をメインウェポンと…bbs.animanch.comh
ttps://m
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"バトロワ"をやります 契約のワルプルギス 終|あにまん掲示板前スレを超えた前スレhttps://bbs.animanch.com/board/5846805/bbs.animanch.comGANTZ: The Ark Breakers
"バトロワ"をやります GANTZ: The Ark Breakers|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/img/5210473/1<ルール>メンバーはGANTZにバトルフィールドへと転送させられ、ターゲットの星人と戦う。制限時間以内に星人を倒しきると、生…bbs.animanch.com"バトロワ"をやります GANTZ: The Ark Breakers Part.2|あにまん掲示板前スレを超えた前スレhttps://bbs.animanch.com/board/5892686/bbs.animanch.com"バトロワ"をやります GANTZ: The Ark Breakers 終|あにまん掲示板前スレを超えた前スレhttps://bbs.animanch.com/board/5902232/bbs.animanch.com【一次創作物】
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- 2バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:52:55
【元ロワの簡単なあらすじ】
契約のワルプルギス:
悪魔王子とリリスは、孤独に生まれた者同士の絆を深め、主催者AFOを打倒する。
GANTZ: The Ark Breakers:
宮沢鬼龍、オールマイト、暁美ほむらたちGANTZメンバーが、地球を侵略する星人たちに立ち向かう。オールマイトは、ラスボス・宇蟲王ギラに隷属するしかなかった星人・ほむらの心を救い、OFAの残り火を燃やし尽くしつつも、ヒーローとして彼女らを守り抜き生き残った。鬼龍は孤高の悪としての生き方を貫き、ギラから小鳥遊ホシノを庇って死亡するが、彼が変わることができると信じたオールマイトによって蘇生された。 - 3バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:54:12
ホシノ&リヴァイ&フブキsideの後日談(感想スレで公開済み)はこちらから読めるのん
GANTZ: The Ark Breakers 後日談 ~陽だまりの指定席~ | Writening1.公園の悶絶# GANTZの部屋から解放され、平和な日常が戻ってきたある晴れた午後。リヴァイ・アッカーマンが住むアパートが見える公園のベンチで、小鳥遊ホシノは突っ伏していた。 「うへぇ……やっちゃったよぉ…writening.net - 4バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:57:09
Devil’s Son × Devil
―After GANTZ and Walpurgis Night―
序章:滅びゆく美と孤高の悪
人類滅亡の危機は、天変地異でも核戦争でもなく、未知の殺人ウィルスによってもたらされた。新型ウィルス“H4Q1”。その致死率は99.9%。某国が開発した新型生物兵器という噂が流れたが、その真相は謎のまま……。人類はあまりにも無力だった。空気感染を恐れ人々が避難する度に被害は拡大し、殺人ウィルスは瞬く間に世界を飲み込んだ。
かつて“芸術の都”、“華の都”と呼ばれ華やいだパリの街が、今や地獄の街と化していた。
廃墟と化したシャンゼリゼ通りを、一人の男が歩く。漆黒のロングコートを翻し、瓦礫を踏みしめるその足取りには、一切の迷いがない。宮沢鬼龍。かつてGANTZという理不尽な死のゲームを生き延び、そして今また、滅びゆく世界に舞い戻った“悪魔を超えた悪魔”である。
「フン……。どこもかしこも、醜悪な臭いで満ちている」
鬼龍は仁王立ちし、腐臭漂う大気を吸い込んだ。かつてこの街は、芸術・服飾・料理と、世界に文化的影響を与え続けた。5年ほど暮らしたモンマルトルの石畳。サン・ジェルマン通りの靴屋。オペラ座ガルニエで最後に観たバレエ「マノン」の優雅な旋律。それらきらびやかだった世界は、今はどこにもない。
現在この街を支配しているのは、“毛のない猿”――NHM(ノーヘアモンキー)だ。文化とはまったく無縁の凶暴な肉食獣。喰べても喰べてもその胃袋は満たされることはなく、食い物が尽きれば当たり前のように共喰いに走る。自分の親だろうが子どもだろうが頭からガッツリ喰らいつく。
- 5バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:58:09
「『強い者が生き残ったわけじゃない。賢い者が生き残ったわけじゃない。変化に対応した者が生き残ったのだ』か……ダーウィンは嫌な言葉を残したものだ」
鬼龍の前に、路地裏から数体のNHMが飛び出してきた。体毛が抜け落ち、皮膚がただれたその姿は、かつて人間だったとは思えないほど醜い。彼らは理性を失った瞳で、鬼龍という上質な“肉”を睨みつける。
パンツも穿かず歯も磨かずただ喰うことと破壊することしか能のない化け物が、生き残るべき新人類というのか。この俺が、滅びゆく旧人類だというのか。
「そんなもの我慢ならない」
鬼龍は、襲い掛かるNHMの爪を紙一重で躱す。その動きは、GANTZの戦場で得た経験によってさらに洗練されていた。星人たちの理不尽な能力、圧倒的な物量。それに比べれば、知性の欠片もないこいつらの動きなど、止まって見える。
「言葉も通じず、排便しても紙で拭くということすらしない原始人と共存などありえん」
ドゴォッ!!
鬼龍の拳が、先頭のNHMの顎を砕く。灘神影流・塊貫拳。衝撃は脳髄を揺らし、即死させる。続く二体目、三体目も、的確な急所攻撃によって肉塊へと変えられていく。
「フン。手応えのない連中だ」
鬼龍は倒したNHMを見下ろし、ふと、あのGANTZの部屋での光景を思い出した。
オールマイトという、甘ったるい正義を説き続け、ボロボロになりながらも理想を貫いた男。小鳥遊ホシノという、眠たげな目の奥に、仲間を守るための強烈な意志を秘めていた少女。そして、リヴァイやフブキといった、それぞれの美学を持って戦い抜いた者たち。
『皆が生き残るためには、互いに歩み寄ることが必要だ』
あの時の彼らの眼差し。それは、このNHMどものような、ただ生存本能のみに従う獣の目とは違っていた。知性、意志、美学。人間が人間であるための証明。
「……あいつらがここにいれば、この惨状をなんと呼ぶだろうな」
- 6バトロ渡哲也25/12/02(火) 17:59:18
鬼龍は血振るいもせず、再び歩き出す。NHMはオランジュリーやポンピドゥーといった美術館をことごとく破壊した。ピカソやシャガール、モネやゴッホ……。知性の欠片もないNHMにとっては、いかなる名画もただのゴミでしかない。やつらにこの画のすごさと魅力は理解できるわけがない。
だからこそ、守らねばならない場所がある。人間が人間であり続けた証。美という名の魂の結晶。
鬼龍の視線の先、セーヌ川のほとりに、荘厳なる宮殿がそびえ立っていた。世界最高峰の美術館、ルーヴル宮。
「この場所だけは守ってみせる」
鬼龍は美術館の正門に立ち、瓦礫を積み上げてバリケードを築き始める。たった一人での籠城戦。それは無謀な戦いかもしれない。だが、彼の口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「俺を倒したければ、もっとマシな絶望を用意するんだな。……あの日のような、な」
孤高の悪は、滅びゆく美を背に、再び戦いの幕を開ける。
- 7バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:00:51
第2章:英雄と魔法、そして魔女の愛
パリの中心部、コンコルド広場。かつては観光客で溢れかえっていたこの広場も、今はNHM(ノーヘアモンキー)の徘徊する危険地帯となっていた。広場の隅にある堅牢な石造りの歴史的建造物には、わずかに生き残った市民たちがバリケードを築いて立てこもり、救援を待っているという情報があった。
その情報の真偽を確かめるべく、二つの影が舞い降りる。
「ここがパリか……。かつての輝きが見る影もないな」
痩せこけた体躯に、だぼだぼのスーツを纏った男――オールマイト(トゥルーフォーム)。かつて平和の象徴と呼ばれた彼は、GANTZでの戦いで“個性”ワン・フォー・オールを完全に使い果たしていた。今の彼は、ただの無個性な人間に過ぎない。
「オールマイトさん、気配が多すぎます。……完全に包囲されています」
彼の隣で紫色の瞳を鋭く光らせるのは、暁美ほむら。左腕の盾に内蔵された重火器の安全装置を解除しながら、彼女は周囲を警戒する。建物の陰、地下鉄の入り口、そして瓦礫の山から、無数の飢えた視線が二人を突き刺していた。
「ああ、わかっているよ、ほむら少女。だが、助けを求める声があるなら、行くのがヒーローだ」
オールマイトは懐から、一つのアタッシュケースを取り出した。そこには、メリッサ・シールドが開発し、GANTZでの経験をフィードバックして改良された最新鋭のサポートアイテム、「アーマード・オールマイト」の起動スイッチが収められている。
「日本では、リヴァイ君とフブキ君が、ホシノ少女を鉄壁の守りで護衛していると聞く。彼女の神秘が、このウィルスに抗う希望になるかもしれないからね」
オールマイトはスイッチを握りしめ、力強く笑う。
「彼らが未来を守っているなら、私は今を守らなくては! ……装着(エクイップ)!!」
ガシャン! ギュイィィィン!!
アタッシュケースが展開し、機械的な駆動音と共に装甲パーツがオールマイトの体を覆っていく。かつてのマッスルフォームを模した、鋼鉄の筋肉。赤と青と白の、平和の象徴のカラーリング。背部には大型のスラスター、腕部には重厚なガントレットが装着される。
「私が来た!!」
- 8バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:02:35
アーマード・オールマイトの咆哮と共に、物陰からNHMの群れが一斉に襲い掛かってきた。その数は数百。津波のように押し寄せる肉の壁だ。
「行きます!」
ほむらが盾から機関銃を展開し、正確無比な射撃で先頭のNHMを次々と撃ち抜く。しかし、NHMは仲間を踏み台にしてでも突進してくる。恐怖心という概念がないのだ。
「無駄な殺生は好まないが……市民に手を出させるわけにはいかん!」
オールマイトが脚部のスラスターを噴射し、一気に加速する。音速に近い踏み込み。鋼鉄の拳が空を切り裂く。
「スマッシュ!!」
ドゴォォォォン!!
拳が直撃したNHMだけでなく、その背後にいた十数体が衝撃波だけで吹き飛んだ。コンコルド広場のアスファルトがめくれ上がり、NHMの包囲網に巨大な風穴が開く。
「すごい……! 以前よりも出力が上がっている……?」
「ははは! メリッサ君が張り切ってくれたおかげさ! これなら、全盛期とまではいかないが、そこそこ戦える!」
オールマイトは止まらない。右腕からワイヤーを射出し、遠くのNHMを捕縛して投げ飛ばす。背部のウェポンベイからマイクロミサイルを斉射し、群がる敵を一掃する。その戦いぶりは、まさに「動く要塞」だった。
「ほむら少女! 建物の入り口を固めてくれ! 私は囮になって奴らを引きつける!」 「了解しました! 無理はしないでください!」
ほむらが市民のいる建物前へ走り、バリケードに群がるNHMを重火器で排除していく。オールマイトは広場の中央で、派手なエフェクトを撒き散らしながら暴れ回った。
しかし、NHMの適応能力は異常だった。通常の個体に混じり、一回り大きく、筋肉が異様に肥大化した「変異種」が現れ始めたのだ。
「グルルルァァァ……!!」
変異種の一体が、オールマイトの背後から跳躍し、鋭利な爪で装甲を切り裂こうとする。ガギィン! 火花が散る。装甲表面に浅い傷がついた。
「硬いな……! だが、パワーなら負けん!」
オールマイトは振り返りざまに裏拳を叩き込み、変異種の頭部を粉砕する。だが、その隙に別の変異種が脚部に噛みつき、油圧パイプを引きちぎろうとする。
- 9バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:03:51
あっこのスレは続けるけど18:10から別スレで安価が始まるらしいから見逃さないようにするのをすすめるでやんす
- 10二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:04:13
ふーん今回のアーマード・オールマイトはオールマイト仕様のカラーなんですね
めちゃくちゃカッコいいです - 11バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:05:33
「チッ……数で押してくるか!」
警告音が鳴り響く。
『Warning. Armor Damage detected. Energy Level at 40%.』
倒しても倒しても、路地裏から、地下鉄の入り口から、次々と新たなNHMが湧いてくる。それはまるで、ウィルスそのものの増殖力のようだ。さらに悪いことに、数体の変異種がオールマイトを無視し、ほむらが守る建物の方へ向かい始めた。
「しまっ……! そっちは市民がいる!」
ほむらが迎撃するが、変異種の硬い皮膚は銃弾を弾く。このままでは突破される。
「させるかぁぁぁッ!!」
オールマイトは決断した。彼は全スラスターを最大出力で噴射し、広場の上空へと舞い上がる。エネルギー残量を度外視した、最大出力の一撃を放つために。
『Overdrive Mode. Energy Consumption High.』
「あえて言おう! 限界を超えろと!!」
オールマイトは彗星のように急降下し、変異種たちの中心に着地と同時に拳を叩きつけた。
「スマァァァッシュ!!!」
ズガァァァァァァン!!!!!
広場全体が揺れた。爆心を中心とした衝撃波が、変異種はおろか、周囲のNHM数百体を一瞬で吹き飛ばし、更地へと変えた。市民が隠れている建物には傷一つつけず、敵だけを殲滅する、神業的な力加減。
土煙が晴れると、そこには静寂があった。しかし。
ガガガッ……プシューン。
無情な警告音と共に、アーマード・オールマイトの瞳の光が消える。『Energy Empty. System Shutdown.』
「……やりすぎた、か」
オールマイトはその場に膝をつく。装甲は重い鉄の塊となり、ピクリとも動かない。その静寂を破るように、瓦礫の下から、生き残った変異種が這い出してきた。片腕を失い、半身がただれながらも、その殺意は衰えていない。
「グルル……!」
「……まだ、やるかい? 骨のある奴だ」
オールマイトは動かない腕を無理やり持ち上げようとするが、サーボモーターがロックされて動かない。変異種が、無防備なオールマイトに飛び掛かる。
- 12バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:06:49
「オールマイトさん!!」
ほむらが間に割って入り、盾で変異種の爪を受け止める。ガギィィン! 激しい金属音と共に、ほむらの盾がひしゃげる。もはや盾としての機能は果たさない。変異種の怪力が、少女の細腕を軋ませる。
「ぐぅ……!」
「引くんだ、ほむら少女!」
「嫌です! 貴方が私に居場所をくれたように……今度は私が貴方を守る番です!」
ほむらは歯を食いしばり、至近距離からハンドガンを連射するが、変異種は怯まない。逆に、太い腕の一撃がほむらを弾き飛ばす。彼女の体は地面を転がり、壁に激突して動かなくなった。
「ほむら少女ッ!!」
オールマイトの絶叫が響く。変異種は邪魔者を排除し、ゆっくりとオールマイトに向き直る。その背後からは、爆音を聞きつけた新たなNHMの群れが、黒い波となって押し寄せてきていた。
絶体絶命。エネルギーはゼロ。武器もない。仲間も倒れた。それでも、オールマイトは動かないパワードスーツを緊急パージし、生身の痩せこけた体で立ち上がった。
「ははは……命がけなのが、ヒーローさ」
その瞳から、光は消えていない。たとえ個性がなくとも、たとえ肉体が衰えようとも、心までは折れない。NHMの牙が、オールマイトの喉元に迫る――。
- 13バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:08:37
その時。
ヒュンッ!
鋭い風切り音と共に、銀色の閃光が走った。オールマイトに飛び掛かっていた変異種の首が、何の前触れもなく切断され、宙を舞う。
「え……?」
オールマイトが目を見開く。変異種の巨体が崩れ落ちたその向こう。広場の中央に、優雅に着地する影があった。鋭利な刃のような脚部を持つ、華奢な少女。
「……まったく。どいつもこいつも、無茶をするバカばかりね。見ているこっちがハラハラするわ」
リリスは、つまらなそうに髪を払いながら、周囲を取り囲むNHMの群れを冷ややかな目で見回した。
「汚らわしい猿ども。アテシの視界に入らないでくれる?」
彼女が舞うように脚を振り上げると、カマイタチのような衝撃波が発生する。それは「水鳥の舞」のように美しく、そして残酷なまでに鋭利だった。一瞬の演舞の後、広場に殺到していた全てのNHMが、細切れになって崩れ落ちた。
「す、すごい……」
意識を取り戻したほむらが、痛む体を起こして呆然と呟く。リリスはツカツカとオールマイトに歩み寄ると、腰に手を当てて彼を見下ろした。
「アンタよ、骨皮スジ衛門。……無力になっても誰かを守ろうとするなんて、酔狂にも程があるわね」
その口調は辛辣だが、瞳の奥には微かな色が揺れていた。彼女は、ボロボロになりながらも立ち続けるオールマイトの姿に、かつてワルプルギスの夜で自分を守ろうとした悪魔王子の姿を重ねていたのだ。
『希望さえあれば生きていけるはずなんだ』
(……フン。あいつも、こんな顔をしてたっけ)
「でも、嫌いじゃないわ。そういうバカは」
リリスは小さく笑い、手を差し伸べる。ほむらは警戒して銃を構えようとするが、オールマイトがそれを制した。
「待つんだ、ほむら少女。……彼女は、敵じゃない」
オールマイトは、リリスの手を取らず、自力で立ち上がりながら言った。
- 14バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:10:17
「君は……リリス君だね? 私の宿敵、オール・フォー・ワンを倒してくれた恩人の一人だ」
「あら、知られているなんて光栄ね。平和の象徴サマに」
リリスは皮肉っぽく肩をすくめる。
「アンタこそ、生き残ったんなら大人しく隠居してればいいのに。なんでこんな場所に?」
「……守るべき人々がいるからさ。それが私の存在理由(レーゾンデートル)だよ」
オールマイトは視線を、市民たちが立てこもる建物へと向けた。広場のNHMは一掃された。今なら、バリケードを開けられる。
「ほむら少女、動けるかい? 作戦の仕上げだ!」
「はい、オールマイトさん!」
二人は痛む体を押して、建物の入り口へと向かう。リリスは呆れたようにため息をついたが、無言で彼らの後についていった。
バリケードの隙間から、怯えた様子の市民たちが顔を覗かせる。オールマイトは、かつての輝かしい笑顔と変わらぬ、安心感を与える笑みを向けた。
「Nous sommes là(私たちが来た)!」
彼らが持ってきたアタッシュケースの予備スペースには、圧縮された食料、浄水フィルター、日用品、そして簡易救急キットが詰め込まれていた。それらは決して十分な量ではないかもしれない。だが、絶望の淵にいた市民たちにとっては、命をつなぐ希望そのものだった。
「メルシー……メルシー、ムッシュ……!」
涙を流して感謝する市民たちに、オールマイトとほむらは物資を手渡していく。
「さあ、これでしばらくは大丈夫だ。だが、音には気をつけて」
物資を渡し終え、再びバリケードが閉じられるのを見届けると、オールマイトは深く息を吐いた。任務完了。だが、この街にはまだ多くのNHMが蔓延り、救いを待つ人々がいるかもしれない。
- 15バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:11:47
「さて……次はどうするかね」
オールマイトが呟いたその時、リリスが不意に口を開いた。
「ねえ、アンタたち。ウチの王子……悪魔王子を見なかった? 『父親(パパ)に会う』なんて言って、一人で飛び出しちゃったんだけど」
「父親……?」
「宮沢鬼龍よ。アンタたちと一緒にGANTZを生き残った男」
リリスの言葉に、オールマイトとほむらは顔を見合わせる。鬼龍がこのパリにいる。そして、彼を追う息子がいる。
だが、今はまだ、その場所へ向かう時ではない。目の前の命を守り、物資を届け、安全を確保する。それが今の彼らにできる精一杯であり、最大の正義だった。
「……彼らのことも気になるが、まずは態勢を立て直そう。君も、行く当てがないなら一緒に来ないか? リリス君」
「フン。迷子の相手をするのも暇つぶしにはなるかしらね」
リリスはそっけなく答えたが、その足はしっかりと彼らと同じ方向へ向いていた。かくして、英雄、魔法少女、そして魔女。奇妙なトリオは、地獄と化したパリの街で、束の間の休息と次なる戦いへの準備を始めることとなった。
- 16二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:12:51
このレスは削除されています
- 17バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:18:31
第3章:美の殿堂と沈黙の少女
ルーヴル美術館。かつて世界中の人々が美を求めて集ったこの宮殿も、今は静寂に包まれていた。バリケードで封鎖された館内は薄暗く、非常用電源の明かりだけが、廊下に飾られた彫刻たちの影を長く伸ばしている。
宮沢鬼龍は、館内の見回りをしていた。NHMの侵入経路がないかを確認するためだ。奴らは知性はないが、食欲に対する執着は異常だ。わずかな隙間も見逃さないだろう。
「……ネズミ一匹、通さん」
鬼龍が「サモトラケのニケ」の階段を下りようとした、その時だった。微かな衣擦れの音が聞こえた。
鬼龍の神経が研ぎ澄まされる。NHMか? いや、奴らはもっと騒がしい。もっと獣臭い。この気配は……。
鬼龍は音のした方へ、音もなく近づく。そこは、古代ギリシャ美術の展示室だった。ミロのヴィーナスの前で、小さな影がうずくまっていた。
「……誰だ」
鬼龍の低い問いかけに、影がビクリと震える。ゆっくりと振り返ったその顔を見て、鬼龍は構えていた拳を僅かに下ろした。
それは、ボロボロのドレスを着た、6歳くらいの少女だった。金色の髪は埃にまみれ、大きな瞳は恐怖におびえている。しかし、その瞳にはNHMのような濁りはない。透き通るような、知性の光がある。
「子供……? どこから入った」
少女は答えない。ただ、首を横に振る。言葉が話せないのか、恐怖で声が出ないのか。
鬼龍の鋭い視線が、少女の胸元に留まる。汚れたドレスの上で、鈍く光る銀色のメダル――「奇跡のメダイユ」が下げられていた。そして、その裏面には、拙いながらも懸命に彫られたアルファベットが刻まれていた。
『Maria』
「……マリア、か」
鬼龍が低く名前を呼ぶと、少女は驚いたように目を見開き、やがておずおずと小さく頷いた。それが彼女の名前であることは間違いなさそうだ。
マリアは震える手で、抱きかかえていたスケッチブックを鬼龍に差し出した。そこには、建物の見取り図のような絵と、地下道の入り口らしき場所が描かれていた。その穴は極めて小さく、大人では到底通れない。この小さな体だからこそ、侵入できたのだ。
「なるほど。地下道の亀裂か……。盲点だったな」
- 18バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:20:09
鬼龍はため息をつき、少女を見下ろす。本来なら、バリケードの外へ追い出すべきだ。ここは戦場であり、孤児院ではない。だが、鬼龍の視線は、スケッチブックの次のページに釘付けになった。
そこには、かつてのパリの風景が描かれていた。エッフェル塔、凱旋門、そして手をつないで歩く家族の姿。稚拙なタッチだが、そこには確かな色彩感覚と、対象への深い愛情が感じられた。
「……ほう」
鬼龍は少女の頭に手を置く。殺気は消えていた。
「いい線を描く。……何もない所から“美”を作り出すことは、人間に与えられた能力の中でも最上のものだ」
鬼龍の言葉に、少女――マリアは、驚いたように顔を上げる。
「喰うことしか能のない猿どもとは違う。……お前には、生きる価値がある」
鬼龍はマリアの手を引き、歩き出した。
「ついて来い。世界最高の美を見せてやる」
それは、奇妙な二人連れの美術館ツアーの始まりだった。鬼龍は、ドゥノン翼の長い廊下を歩きながら、マリアに語り掛けた。
「あれを見ろ。『ナポレオン一世の戴冠式』だ。ダヴィッドの最高傑作の一つ……。権力とは虚しいものだが、それを永遠に留めようとする画家の執念は本物だ」
マリアは、巨大なキャンバスを見上げ、目を輝かせる。
「名画と呼ばれるものは、作家が正気と狂気の狭間を行き来しながら心血注いで描き上げたもの。つまり、魂が宿ってるんだ」
鬼龍は、かつて自分がそうであったように、あるいは自分の息子たちにそうしたかったように、幼い少女に美学を説いた。マリアは言葉を発することはなかったが、その表情の変化が、何よりも雄弁に鬼龍の言葉を受け止めていた。
やがて二人は、一つの絵画の前で足を止めた。防弾ガラスの向こうで、静かに微笑む女性。「モナ・リザ」。
「……こいつの前では、どんな言葉も陳腐になるな」
鬼龍は腕を組み、絵画を見つめる。マリアもまた、同じポーズを真似して、じっと見つめる。
「世界が滅びようとも、この微笑みだけは消させん。……それが、俺の最後の仕事だ」
- 19バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:22:35
- 20バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:24:27
第4章:父と子、歪な再会
静寂に包まれていたルーヴル美術館の一角。「モナ・リザ」の前で対峙する二人の男。宮沢鬼龍と、彼を「パパ」と呼ぶ青年――悪魔王子。
鬼龍は、背後に隠したマリアに視線を送ることなく、目の前の闖入者を見据える。
「……何の用だ。ガキの使いなら帰れ」
「つれないな、パパ。感動の再会だっていうのに」
悪魔王子は、黒いジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、薄ら笑いを浮かべて歩み寄る。その足取りは軽く、しかし一歩踏み出すたびに、床の冷たい空気が張り詰めていくようだった。
「どうやって入った? ここは俺が完璧に封鎖したはずだ」
「簡単なことだよ。あんたが『情け』をかけた、そのチビを利用させてもらった」
悪魔王子は顎でマリアを指す。
「米軍の豚どもを締め上げて、あんたがここにいることは知ってた。でも、正面からじゃ面倒だろ? だから、そのチビが地下道から入るのを見届けて、中でロープを降ろさせたんだよ。……まったく、あんたも焼きが回ったな。自分のクローンは見殺しにするくせに、行きずりのガキには甘い顔をするとはね」
「……貴様」
鬼龍の眉がピクリと動く。悪魔王子の言葉には、明確な嘲笑と、そして隠しきれない苛立ちが混じっていた。自分たち「ガルシア・シリーズ」という人間兵器には冷酷だった男が、今はただの少女を守っている。その矛盾が、悪魔王子の神経を逆撫でする。
「で、何の用だと聞いたはずだ」
「決まってるだろ。……俺を『龍を継ぐ男』として認めてもらいたい」
悪魔王子はポケットから手を出し、構えを取る。武器はない。だが、その五体そのものが、凶器以上の殺気を放っている。
「ワルプルギスの夜とかいうクソみたいなゲームを生き残った。あそこで俺は、あんた以上の化け物を倒して帰ってきたんだぜ。これでもまだ、俺を『兵器』と呼ぶのか?」
鬼龍はフンと鼻を鳴らし、腕を組んだまま見下ろす。
「情交もなく生まれ出た紛い物が、人間並みの口を利くな。……俺の息子を名乗りたければ、その薄っぺらい承認欲求を捨ててから来い」
- 21バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:26:07
「……ハッ、相変わらずだな」
悪魔王子の瞳から、理性の光が消え、猛獣のような獰猛さが宿る。
「なら、力ずくで認めさせてやるよ!!」
ダンッ!
悪魔王子が床を蹴る。音速に近い踏み込み。瞬きの間に鬼龍の懐に潜り込み、下から突き上げるパンチを放つ。大気を圧縮し、衝撃波を伴う一撃。まともに食らえば頭蓋骨が粉砕される威力だ。だが、鬼龍はそれを、首をわずかに傾けるだけで回避する。
「遅い」
鬼龍のカウンター。裏拳が、悪魔王子の側頭部を襲う。悪魔王子はそれを予測していたかのように、首の力を抜いて衝撃を受け流す。
「スリッピング・アウェーか。……小賢しい」
「あんたの技だろ!」
悪魔王子は流された勢いを利用して回転し、回し蹴りを放つ。鬼龍はそれを片腕で受け止めるが、その重さに床のタイルがひび割れる。
「チッ……!」
二人の影が交錯する。鬼龍の技は洗練され、無駄がなく、美しいまでの殺傷力を持つ。対する悪魔王子の技は、荒々しく、変則的で、野生の獣のような予測不能さがある。
ドガガガガッ!!
拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が館内を揺らす。マリアは恐怖に震えながら、柱の陰で耳を塞いでいた。
「どうしたパパ! 老いぼれたか!?」
悪魔王子が連撃を叩き込む。鬼龍はそれを捌きながら、冷静に観察していた。
(……速い。そして重い。あの心臓か)
悪魔王子の胸の中で、異形の心臓がドクドクと不気味な音を立てている。それが彼の身体能力を限界以上に引き上げているのだ。
「調子に乗るなよ、ガキ」
鬼龍の目が細められる。彼が本気を出そうとした、その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!
館内に、けたたましい警報音が鳴り響いた。
- 22バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:29:09
「!?」
二人の動きが止まる。鬼龍が懐から端末を取り出し、監視カメラの映像を確認する。
「……チッ。騒ぎすぎたか」
モニターに映し出されたのは、ルーヴル美術館の外周部だ。暗視カメラの映像の中、身長3メートルを超える巨大な影が、高さ3メートルはある電気柵の前で跳躍した。巨体に見合わぬ跳躍力で柵を軽々と飛び越え、敷地内へと着地する。
「デカいな。……動物園のゴリラか?」
悪魔王子もモニターを覗き込む。映像の中の怪物は、四足歩行で猛スピードで中庭を駆け抜け、美術館の象徴であるガラスのピラミッドへと突進していく。毛は抜け落ちているが、その骨格と筋肉の付き方は、明らかに霊長類最強の動物――シルバーバック・ゴリラのそれだった。
「来るぞ!」
ガシャァァァァァァン!!!!!
凄まじい破壊音と共に、ガラスの破片が館内に降り注ぐ。ピラミッドを突き破り、地下のエントランスホールへと巨体が落下してきた。ドシンドシンと地響きを立てて、ゴリラ型NHMが階段を駆け上がってくる。ウィルスによってリミッターが外れ、さらに肥大化した筋肉の塊。その口からは粘液が滴り落ち、飢えた瞳がマリアを捉える。
「ウホォォォォォッ!!」
ゴリラ型NHMが、マリアに向かって跳躍する。
「!!」
鬼龍と悪魔王子が同時に動いた。
「そこをどけェッ!!」
悪魔王子がNHMの横っ腹に飛び蹴りを叩き込む。巨体が空中でくの字に折れ、壁に激突する。ドゴォォン! 展示されていた壺が粉々になる。
「馬鹿者! そこで暴れるな! 『サモトラケのニケ』に傷がつくだろうが!」
鬼龍が激怒する。彼はマリアを抱え上げ、安全な物陰へと放り投げると、NHMの前に立ちはだかった。
「……一時休戦だ。このゴミを片付けるぞ」
「命令するなよ。……でもまぁ、邪魔者は殺すに限るな」
- 23バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:31:02
悪魔王子も構え直す。ゴリラ型NHMが起き上がり、怒りのドラミングで胸を叩く。ボコォッ! ボコォッ! その音だけで、周囲の空気が震える。
「ウオォォォッ!!」
NHMが丸太のような腕を振り回す。風圧だけで肌が切れそうな剛腕。だが、二人の達人にとっては、止まったも同然だった。
「灘神影流……」
二人の声が重なる。
「霞突き!!」
左右から同時に放たれた手刀が、NHMの頸動脈を正確に捉える。交差する軌道。硬質な皮膚の上からでも、内部の血管と神経を断ち切る絶技。
ブシュウゥゥッ!!
NHMの首から血が噴き出す。巨体は痙攣し、どうと倒れた。
「……フン。脆いな」
悪魔王子は血を払い、ニヤリと笑う。
「見たかよパパ。俺の霞突き、あんたより深かったぜ」
「……角度が甘い。美術品を気にして踏み込みが浅かった俺に合わせただけだ。それより、マリアはどこに行った」
鬼龍は冷たく言い放つが、その視線は油断なく周囲を警戒していた。悪魔王子は不満げに鼻を鳴らす。
「素直じゃねぇな。……ま、いいさ。次はあんたの首を――」
悪魔王子が言いかけた、その時。彼らの背後、バリケードの方角から、ヌラリとした殺気が漂ってきた。
警報は鳴っていない。音もなく。気配もなく。それは、既にそこにいた。
「……ッ!?」
二人が振り返った瞬間。闇の中から伸びた黒い腕が、二人を薙ぎ払った。
- 24バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:32:27
第5章:ボス猿の襲撃と覚醒
ゾクリ。
二人の背筋を、氷のような悪寒が走った。殺気などという生易しいものではない。圧倒的な「死」の気配が、音もなく背後に迫っていた。
「ッ!?」
二人が同時に振り返るよりも早く。闇の中から伸びた黒い剛腕が、二人を薙ぎ払った。
ドゴォォォォン!!
「ぐあぁぁッ!?」
「がはっ……!?」
鬼龍と悪魔王子の体が、まるで枯れ葉のように吹き飛ばされる。二人は数メートル先の展示ケースに激突し、ガラスの破片と共に床に転がった。
「……な、んだ……今の、は……」
鬼龍は激痛に顔を歪めながら、何とか上半身を起こす。視線の先には、先ほど倒したNHMよりもさらに巨大な、悪夢のような怪物が立っていた。全身の筋肉が鎧のように隆起し、鋭利な爪と牙を持つ異形。その口からは、どす黒い血と粘液が滴り落ちている。
「グルルルル……」
ボス猿。この界隈を支配するNHMの群れの頂点。先ほどの戦闘の騒ぎに紛れ、バリケードを破壊して正面玄関から侵入していたのだ。
「バケモノめ……! 警報も鳴らさずに……!」
鬼龍が立ち上がろうとするが、ダメージが深い。肋骨が数本逝っているかもしれない。ボス猿は、鬼龍たちにとどめを刺そうと、ゆっくりと歩み寄ってくる。その時。
カラン……。
ボス猿の口元から、何かが床に落ちた。小さな金属音。鬼龍の目が、それに釘付けになる。
それは、銀色のメダル。「奇跡のメダイユ」。マリアが肌身離さず首から下げていた、あのお守りだった。
「……あ?」
鬼龍の思考が空白になる。なぜ、あいつの口から、それが出てくる? マリアは? 物陰に隠したはずだ。まさか。まさか、俺たちが戦っている間に……?
「……貴様! 一体何をした!」
空白は、瞬時にどす黒い激怒へと変わった。鬼龍は痛みを忘れ、弾かれたように立ち上がる。
- 25バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:34:29
「吐き出せェェッ!!」
鬼龍は咆哮と共にボス猿に突進する。彼は跳躍し、ボス猿の顔面に向けて手刀を振り下ろす。
「灘神影流・霞突き!!」
だが、ボス猿の反応速度は異常だった。鬼龍の手刀を紙一重で躱し、丸太のような腕で鬼龍を殴りつける。
ドゴッ!!
「ぐふっ……!」
鬼龍は再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。怒りで動きが直線的になりすぎている。達人の技の冴えがない。
「マリア! 返事をしろっ!!」
鬼龍は血反吐を吐きながら叫ぶ。返事はない。館内に響くのは、ボス猿の嘲るような唸り声だけだ。
「……落ち着けよ、パパ」
瓦礫の中から、悪魔王子がゆらりと立ち上がった。その体からは、異様な熱気が立ち上っている。胸の中で、心臓が爆発しそうなほど激しく脈打っている音が聞こえる。
「突然変異の心臓(ガルシア・ハート)」の覚醒。死の淵に立たされたことで、彼の中の怪物が目を覚ましたのだ。
「ガキが死んだくらいで取り乱すな。……無様だぜ」
悪魔王子は口元の血を拭い、ボス猿を睨み据える。
「俺が見たいのは、こんな無様な親父じゃないんだよ!」
ダンッ!!
悪魔王子が消えた。いや、速すぎるのだ。音速を超えた踏み込みで、一瞬にしてボス猿の懐に潜り込む。
「喰らえ! 幻魔拳!!」
悪魔王子の拳が、ボス猿のみぞおちに突き刺さる。物理的な衝撃に加え、精神に直接作用する幻覚の波を送り込む技。まともな神経を持つ生物なら、恐怖の幻影を見て発狂するはずだ。
「ギャァァッ!?」
ボス猿がたじろぐ。だが、その目は恐怖に染まらない。知性のない獣には、幻魔の精神攻撃は「不快なノイズ」程度にしか効かないのだ。それでも、その一瞬の硬直は致命的だった。
「今しかないぜ! パパ!!」
- 26バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:36:13
悪魔王子が叫ぶ。その声に、鬼龍の理性が引き戻される。
(……そうだ。俺は悪魔を超えた悪魔。こんなところで終わる男ではない)
鬼龍は深く息を吸い込み、構え直す。怒りを殺意へと昇華させ、研ぎ澄まされた刃のように。
「……ああ。殺してやる」
鬼龍が踏み込む。今度は直線ではない。変幻自在の歩法で、ボス猿の死角へと滑り込む。
「灘神影流・捩突!!」
全身の回転力を一点に集中させた突き。螺旋の衝撃が、ボス猿の分厚い皮膚と筋肉を貫通し、内臓を破壊する。
「グオォォォッ!!」
ボス猿が苦悶の声を上げ、鬼龍を振り払おうと暴れる。その暴れる腕を、悪魔王子がスリッピング・アウェーで受け流し、関節を極める。
「逃がさねぇよ!」
悪魔王子がボス猿の動きを封じた隙に、鬼龍がトドメの一撃を放つ。
「地獄へ落ちろ……灘神影流・塊蒐拳!!」
ドォォォォォン!!
渾身の正拳突きが、ボス猿の心臓を背中側まで貫いた。衝撃波が館内を揺らし、ボス猿の巨体がビクリと痙攣する。そして、その瞳から光が消え、どうと崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
鬼龍はその場に膝をつく。勝った。だが、代償は大きかった。バリケードは破壊され、戦闘の音を聞きつけたNHMの群れが、正門から雪崩れ込んでくるのが見えた。
「チッ……一難去ってまた一難かよ」
悪魔王子も覚醒の反動でふらついている。二人は満身創痍。迫りくる数百のNHM。絶体絶命の状況。
そして何より、鬼龍の胸を締め付けるのは、いまだ返事のない少女への焦燥だった。
(マリア……どこだ……本当に、食われてしまったのか……?)
鬼龍の視線が、床に落ちたメダイユに注がれる。その銀色の輝きだけが、暗闇の中で冷たく光っていた。
- 27バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:38:15
第6章:救援と真実
「はぁ……はぁ……」
宮沢鬼龍と悪魔王子は、背中合わせに構えたまま、荒い息を吐いていた。ボス猿との死闘で消耗した体力。全身に刻まれた傷。そこに、絶望的な光景が広がる。
破壊されたバリケードの向こうから、どす黒い波のようにNHMの群れが雪崩れ込んでくる。その数、数百。もはや、二人だけで捌き切れる数ではない。
「……フン。ここが俺の墓場だというのか」
鬼龍は自嘲気味に笑う。脳裏をよぎるのは、守れなかった少女の面影と、かつて自分を守って死んでいった息子・ジェットの姿。
「諦めんじゃねえよ、パパ。……俺は、まだ死ぬつもりはないぜ」
悪魔王子は震える膝に力を込める。だが、その視界は出血で霞んでいた。NHMの先頭集団が、牙を剥いて飛び掛かってくる。
(クソッ……ここまで、か……)
二人が覚悟を決めた、その刹那。
カチリ。
静寂が世界を包んだ。NHMの群れが、宙を舞う瓦礫が、すべてが空中で静止する。色を失ったモノクロームの世界。
その中を紫色の影が疾走する。
「間に合った……!」
その影は静止した時間の中を駆け抜けながら、左腕の盾から次々と重火器を取り出していく。対戦車ロケット、迫撃砲、指向性地雷、そして大量の手榴弾。彼女はそれらを、NHMの群れの中心部や、鬼龍たちの死角となる位置に正確に配置していく。さらに、数体の大型NHMの足元にはC4爆薬をセットし、空中には無数のパイプ爆弾をばら撒く。
「……これで、全部!」
彼女が指を鳴らす。同時に、世界に色が戻った。
カチリ。
ドォォォォォォォォン!!!!!
轟音と共に、NHMの群れが一斉に吹き飛んだ。何が起きたのか理解する間もなく、数百の怪物が爆炎に飲み込まれる。精密に計算された爆発は、鬼龍たちには爆風一つ当てず、敵だけを焼き払う。
「なっ……!?」
鬼龍が目を見開く。爆風の中から、一人の少女が舞い降りた。
暁美ほむら。彼女は空中で身を翻し、両手に持ったサブマシンガンを乱射する。
「させないわ!」
ダダダダダダダッ!!
正確無比な射撃が、爆発を逃れて鬼龍たちに迫っていたNHMの頭部を次々と撃ち抜く。さらに、盾から閃光手榴弾を投擲。強烈な光でNHMの目をくらませる。その隙に、彼女はグレネードランチャーに持ち替え、密集地帯へ榴弾を撃ち込む。
- 28バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:39:45
ドガァァァン!
「……やるじゃねぇか」
悪魔王子が感嘆の声を漏らす。一人の少女が、たった数秒で戦況を支配したのだ。
そして、爆煙を切り裂くように、さらに二つの影が飛び出してきた。
「もう大丈夫! 私が来た!!」
ボロボロのスーツを着た痩せた男――オールマイトだ。彼は生身の拳で衝撃波を巻き起こし、ほむらの火力を逃れた頑強な個体を吹き飛ばす。
続いて、鋭利な脚を持つ少女が現れる。
「遅いじゃない、王子! アテシを置いていくからこうなるのよ!」
リリスが水鳥のように跳躍し、NHMの頭上からかかと落としを見舞う。一撃必殺。彼女の蹴りは、鋼鉄のように硬いNHMの頭蓋を容易く粉砕した。
「……リリス、か」
悪魔王子が驚きに目を見張る。リリスは着地すると、ふふんと鼻を鳴らして髪を払った。
「勘違いしないでよね。アンタが死んだら、アテシの居場所がなくなるから来ただけよ」
「へっ……殊勝なこと言うじゃねぇか。助かったぜ」
悪魔王子は口元の血を拭い、ニヤリと笑う。その笑顔を見て、リリスも満足げに微笑み返した。
「さあ、掃除の時間よ! この汚らわしい猿どもを、美術館から叩き出してやるわ!」
三人の増援を得て、戦況は一変した。オールマイトによるバリケード再建、リリスの機動力。そして、時間停止と重火器を駆使し、戦場全体を支配するほむらの援護。五人の連携の前に、NHMの群れは為す術なく殲滅されていった。
- 29バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:42:08
数分後。最後のNHMが倒れ、館内に再び静寂が戻る。
「……ふぅ。片付いたようだな」
鬼龍が肩で息をしながら、オールマイトに向き直る。
「オールマイト……。なぜ、ここにいる」
「ははは! 君がいると聞いてね! じっとしていられなかったのさ!」
オールマイトはサムズアップで応える。その背後から、小さな影がおずおずと顔を出した。
「……!」
鬼龍の目が釘付けになる。泥だらけのドレス。金色の髪。マリアだった。
「マリア……! 生きて、いたのか……!」
鬼龍は駆け寄り、マリアの肩を掴む。マリアは鬼龍を見上げ、安堵したように涙を浮かべた。
「どういうことだ。あいつ(ボス猿)の口から、お前のメダイユが出てきたぞ」
「……あの子、凄いわよ」
答えたのはリリスだった。彼女は腕を組み、感心したように言う。
「あのデカい猿に襲われた時、メダイユを引きちぎられた隙に、地下道の狭い穴に逃げ込んだらしいわ。そのまま外に出て、アテシたちに助けを求めてきたの」
「地下道……そうか、あそこか」
鬼龍は深く安堵のため息をつく。冷酷な悪魔と恐れられた男の、人間らしい一面。悪魔王子はそれを少し離れた場所から見て、鼻を鳴らした。
「ああそう。結果オーライってとこかな」
その時、マリアが鬼龍の腕をすり抜け、倒されたボス猿の遺体のそばへ歩き出した。彼女はボス猿の、醜く歪んだ顔の前に膝をつき、ポケットから一枚のしわくちゃな写真を取り出した。そこには、エッフェル塔を背景に笑う、優しそうな父と母、そしてマリアが写っていた。
マリアは震える手で、ボス猿の頬を撫でる。その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……まさか」
鬼龍が息を呑む。このボス猿は、彼女の父親の成れの果てだったのだ。ウィルスに侵され、理性と姿を失ってもなお、娘への愛が、彼に最後の一線を踏み越えさせなかったのだ。
- 30バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:43:43
「……酷い話ね」
ほむらが、重苦しい声で呟いた。彼女はマリアの隣に歩み寄り、そっと肩に手を置く。かつて、何度も時間を遡り、親友の死と、魔女になり果てる友人たちの姿を見てきた彼女には、マリアの痛みが痛いほどわかった。
「……ねえ、リリス」
ほむらが、顔を上げずに呼びかける。
「なによ」
「あんた、これを見ても『汚らわしい猿』って言える?」
リリスは一瞬言葉に詰まり、ボス猿の遺体と、泣き崩れる少女を見た。そして、ふいっと顔を背ける。
「……言わないわよ。訂正するわ。……ただの、悲しい成れの果てね」
リリスの声には、いつもの棘はなかった。
「……マリアちゃん、と言ったかい」
オールマイトが、マリアの前に片膝をつく。彼は優しく微笑み、マリアの手を握った。
「お父さんは、君を守りたかったんだ。……最期の瞬間まで、君を愛していたんだよ」
マリアは泣きながら、何度もうなずく。ほむら、リリス、そしてオールマイトが、悲しみに暮れる少女を温かく囲んでいた。
その光景を、悪魔王子は少し離れた柱の陰から冷ややかに見ていた。輪の中心にいるマリア。彼女に向けられる温かな眼差し。そして何より、あの鬼龍までもが安堵の表情で見守っているという事実。
自分たちクローンは見捨てられ、利用されてきた。だというのに、この少女は鬼龍に守られ、あまつさえ怪物となった実の父からも最期まで愛されていた。それが、どうしようもなく彼の癇に障るのだ。
- 31バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:45:09
「……ふうん。ちょっと妬けちゃうくらい、パパから愛されてるんだね、あのチビ」
悪魔王子は、昏い瞳でマリアを睨みつける。
「めんどくさいから、パパから愛されてる奴ら……全員まとめてぶっ殺そうかなあ」
その言葉は冗談めかしていたが、放たれる殺気は本物だった。鬼龍がクズであることは理解している。それでもなお、彼にとって鬼龍は自身のアイデンティティの根幹であり、振り向かせ、認めさせ、そして乗り越えるべき絶対的な「父」なのだ。だからこそ、自分以外の人間に向けられる鬼龍の関心が許せない。
「……嫉妬しているの?」
不意に、すぐ傍らから声がした。見ると、マリアのそばを離れたほむらが、冷ややかな目で悪魔王子を見据えていた。その瞳の奥には、彼と同じ種類の、昏い光が宿っていた。
「貴方のその殺意……父親(鬼龍)への執着の裏返しね。その目は……私と同じよ。たった一人のために、世界すら敵に回せる目をしている」
図星を突かれた悪魔王子は、一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに凶悪な笑みを浮かべて返した。
「ハッ、魔法少女に分析されるとはな。……ああ、そうだよ。俺はパパを殺したいくらい愛してるんだ。だから、パパの邪魔をする奴も、パパに愛される奴も、全員壊したくなる」
悪魔王子は、自身の歪みを隠そうともしない。それは、クローン兵器として生まれながらも「父と子」という繋がりに縋り、それを証明するために戦い続ける彼なりの、悲痛な叫びでもあった。
「……お前も相当、重いモン抱えてるみたいだな。……へっ、同じ穴の狢ってわけか」
「……貴方ほど歪んではいないつもりだけれど」
ほむらは自嘲気味に呟く。互いに、一人の人間に執着し、そのためなら修羅になることも厭わない魂。二人の間には、言葉にはしないものの、奇妙なシンパシー――あるいは同族嫌悪にも似た共感が流れていた。
「……弔ってやろう」
鬼龍の声が響く。ルーヴル美術館の片隅で、彼らは小さな、しかし温かい祈りを捧げた。
- 32バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:47:13
終章:継承される希望と、残る意志
NHMの襲撃から数時間後。ルーヴル美術館の一角、かつて学芸員の控室だった部屋で、宮沢鬼龍は顕微鏡を覗き込んでいた。その視線の先には、マリアから採取した血液サンプルがある。
「……やはりな」
鬼龍が顔を上げると、周囲で見守っていたオールマイトたちが身を乗り出す。
「どうだったんだい、宮沢君」
「クロだ。……いや、この場合はシロと言うべきか」
鬼龍はフンと鼻を鳴らし、モニターに分析結果を表示させる。
「こいつの血液には、H4Q1ウィルスの抗体が存在する。それも、驚異的な活性率だ。空気感染が蔓延したこのパリで、こいつだけが生き残っていた理由……それは運ではなく、必然だったということだ」
「奇跡の子……!」
オールマイトが感嘆の声を上げる。マリアは意味が分からず、リリスの膝の上できょとんとしている。リリスはそんな彼女の髪を、面白そうにいじっていた。
「なるほどね。ただの迷子かと思ったら、人類最後の切り札だったってわけ?」
「その通りだ。……だが、ここに置いておくわけにはいかん」
鬼龍は立ち上がり、窓の外――荒廃したパリの街を見下ろす。
「ここは戦場だ。いつまたボス猿クラスの変異種が現れるか分からん。それに、俺にはこいつの抗体をワクチンに変える設備も技術もない」
「なら、日本へ!」
オールマイトが力強く提案する。
「日本には、リヴァイ君たちが守っているホシノ少女がいる。彼女の持つ『神秘』の研究と、マリアちゃんの『抗体』を合わせれば……間違いなく、ワクチン開発への道が開けるはずだ!」
オールマイトは鬼龍の前に立ち、真剣な眼差しを向ける。
「宮沢君。マリアちゃんを、私たちに預けてくれないか。彼女を必ず日本へ送り届け、この悪夢を終わらせてみせる!」
- 33バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:49:16
鬼龍は沈黙し、オールマイトを見る。かつては「甘い偽善」と唾棄したその眼差し。だが今は、その奥にある鋼の意志を知っている。そして、その隣には、時間を超えて希望を繋いだ少女・ほむらと、異界の地獄を生き抜いたリリス、そして……。
鬼龍の視線が、悪魔王子に向けられる。
「……おい、ガキ。お前はどうする」
「ん?」
悪魔王子は壁に寄りかかり、つまらなそうにナイフ(NHMの骨を削ったもの)をもてあそんでいた。
「俺はパパのストーカーじゃないんでね。あんたがここで野垂れ死ぬなら、それを見届ける趣味はない」
「なら、失せろ。……あるいは、あいつらと行け」
鬼龍の言葉に、悪魔王子は一瞬驚いた顔をし、すぐに皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「へぇ。俺に人助けをしろってか? 『悪魔』の息子に?」
「勘違いするな。お前のような喧嘩好き(バトル・ジャンキー)は、籠城生活より、NHMだらけの道中の方が性に合っていると言ったんだ」
「……ククッ、間違いないね」
悪魔王子はナイフを放り投げ、マリアを見る。
「それにまあ……俺がいずれ『龍を継ぐ男』として君臨するにしても、平伏する人間が全滅してちゃあ、意味がないからな。民草(シェープル)を増やす手伝いくらいはしてやるよ」
ひねくれた言い回しだが、それは明確な協力の意思表示だった。その時、マリアがトコトコと悪魔王子のもとへ駆け寄った。
「……あ? なんだよチビ」
悪魔王子が見下ろすと、マリアは大事に抱えていたスケッチブックを広げ、あるページを彼に見せた。そこには、拙いながらも特徴を捉えた似顔絵が描かれていた。鬼龍、オールマイト、リリス、ほむら……そしてその中心で、少し意地悪そうに、でも楽しそうに笑っている悪魔王子の顔。
リリスが横から覗き込み、くすりと笑う。
「あら、特徴捉えてるじゃない。生意気そうな目つきとかそっくりよ。よかったわね、王子」
「……フン。似てないよ。俺はもっとクールだ」
- 34バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:50:21
悪魔王子は素っ気なく返す。だが、その目からは、かつてマリアに向けていた嫉妬――「パパに愛される少女」への羨望と憎悪――は消えていた。自分たちクローンは見捨てられた。だが、この少女もまた、両親を失い、それでも懸命に生きようとしている。そして何より、自分にはもう、隣で笑ってくれる存在(リリス)がいる。
「……ほらよ」
悪魔王子は、マリアの頭にポンと手を置いた。乱暴に、しかし痛くないように、くしゃりと髪を撫でる。
「強くなれよ、チビ。守られるだけの弱者でいたくなきゃな」
マリアは驚いたように目を丸くし、やがて満面の笑みを浮かべて、大きく頷いた。かつての確執は、静かに雪解けを迎えたのだ。
鬼龍は、その光景を静かに見つめ、内心で安堵の息をつく。
(フン、それでいい。ガキ)
鬼龍は、かつてジェットを失った時のことを思い出していた。自らの後継者として目をかけ、彼自身も鬼龍のみを崇拝し悪魔を目指した息子。だが、ジェットは自らその道を捨て、父を庇って死んだ。あの時、鬼龍の胸に去来したのは、後継者を失った怒りだけではなかった。彼が悪に染まり切る前に逝ってしまったことへの、どこか救いにも似た悲しみがあった。
そして今、目の前にいるこの紛い物(クローン)。情交もなく、ただ兵器として使い潰されるために生まれた、孤独な魂。「龍を継ぐ」などと嘯いているが、その目は俺を見るのと同じくらい、隣にいる少女――リリスを見ている。
(お前には、帰る場所ができたようだな)
孤独な悪魔に、伴侶など必要ない。だが、こいつはリリスという、同じく孤独を知る存在と巡り合い、共に歩むことを選んだ。それはつまり、こいつが「悪魔」ではなく「人間」として生きる道を選びかけているということだ。
(俺の後継者になどならなくていい。……誰かのために拳を振るう凡夫として、せいぜい歪まずに生きろ)
- 35バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:51:53
「決まりだな」
鬼龍はマリアの前にしゃがみ込む。マリアは不安そうに鬼龍の服の裾を掴むが、鬼龍はその手を優しくほどき、オールマイトの手へと導いた。
「行け、マリア。こいつらは強い。……いずれ、俺を倒せる位にな」
マリアは涙を浮かべながら首を振るが、鬼龍はもう彼女を見なかった。その背中は、拒絶ではなく、強烈な信頼を物語っていた。
「宮沢君……。君は、来ないのかい?」
「俺の居場所はここだ」
鬼龍は、修復されたバリケードの方へと歩き出す。
「ダーウィンの言葉通りなら、俺は滅びゆく旧人類だ。だが、だからこそ守らねばならんものがある」
彼は「モナ・リザ」の方を振り返る。
「世界最高の美。……こいつを猿どもの手垢で汚させるわけにはいかんのでな」
それは孤高の決意だった。かつては孤独ゆえの強がりだったかもしれない。だが今は違う。未来を託せる「善なる強者」と、背中を任せるに足る「息子」がいる。だからこそ、彼は安心して、この死地に残ることができるのだ。
「……わかった」
オールマイトは深く頷き、マリアを抱き上げる。
「君が守った命、そして君の意志……私が責任を持って未来へ繋ぐ! 約束するよ!」
- 36バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:53:12
一行は出発する。去り際、暁美ほむらが鬼龍に一礼した。言葉はなかったが、その瞳にはかつての敵への深い敬意が込められていた。鬼龍もまた、無言で頷き返した。
「じゃあね、石頭のパパさん。せいぜい長生きして、私の自慢話を聞く準備をしておくことね」
リリスが手を振り、マリアも泣き顔で精一杯の手を振った。悪魔王子だけは、振り返らずに背中で語る。
「死ぬなよ、クソ親父。……俺が超えるまで」
彼らが去っていく。その足音が聞こえなくなるまで、鬼龍はその場に立ち尽くしていた。
やがて、静寂が戻った美術館に、新たな侵入者の気配が漂い始める。血の匂いを嗅ぎつけたNHMの群れが、再び集まりつつあるのだ。
「フン……。感傷に浸る暇もないか」
鬼龍はコートを翻し、バリケードの方角を見つめる。その背後には、変わらぬ微笑みを浮かべる「モナ・リザ」。そしてその瞳には、絶望ではなく、晴れやかな闘志が宿っていた。
「さあ、来い。……レッスンを再開するぞ」
孤高の悪は、拳を握りしめる。その命が尽きるまで、あるいは世界が生まれ変わるその時まで。彼はこの場所で、美と誇りを守り続けるだろう。
(Devil’s Son × Devil ―After GANTZ and Walpurgis Night― 完)
- 37バトロ渡哲也25/12/02(火) 18:54:18
お付き合いいただきありがとうございました
悪魔王子ってデビデビの鬼龍&マリア見たらどうなるんやろうなあって思ってAIに書かせたのが俺! 悪名高くはないバトロ渡哲也よ
自分の二次創作の三次創作をAIに書かせるのは虚しいか?めっちゃ楽しいわ
ちなみにバトロワを開くにあたってタフのメインキャラのエミュはしっかりさせたかったから、AIに↓みたいな鬼龍、悪魔王子のキャラシートを投げてたらしいよ
宮沢鬼龍と悪魔王子 | Writening宮沢鬼龍(TOUGHシリーズ)# 鬼龍は巨悪として振る舞っているが、自分が悪であることを理解している。その上で、いつか自分を裁いてくれる善なる者を追い求めており、その日が来るまでは、決してそれ以外の者…writening.netワシ個人の解釈を含む部分がかなり多いから、異常鬼龍愛者や異常悪魔王子愛者の方々とは是非討論したいですね…本気でね
- 38二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:54:48
オツカレーッ
鬼龍…(愛) - 39二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 20:50:13
オツカレーッ
とてもよかったのん…相変わらずエミュ完全やはり勝てる勝てる勝てる勝てる
語彙は荼毘に付したよ骨はパリに置いてある
生き残り組だと唯一触れられてはないローも状況的にオペオペの実の能力を以て世界中駆け回ってそうでリラックスできますね