甘酸っぱい清夏のss書いてもいい?

  • 1二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:55:59

    内容を言うと両片想いの二人がなんやかんやあって付き合い始めるんだけど二人の関係が一歩進んだからこそのもどかしい甘酸っぱさや幸福感を味わえるような話。

    いくよ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:57:23

    今日は清夏さんと出掛けに来ている。
    ゲームセンターで遊んで、カラオケに寄って、最後にレストランで食事をして帰るという清夏さんらしいスケジュール。
    いくら久しぶりのオフだからと言ってはしゃぎすぎ......というかよく疲れないな。
    俺はもう疲れ気味なのに。
    レストランに着いて座ったからか一気に疲れが来た。

  • 3二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 18:58:42

    「んふー♪これ美味し〜」

    清夏さんは限定メニューを気に入ったらしい。
    幸せそうな顔をして食べている。
    清夏さんから話したい内容が特にないようだったので、さっき思った事を口にする。

    「そういえば、今日のカラオケでは恋愛系の曲をたくさん歌ってましたね」

    今日特に歌っていたのはラブソングの中でも明るい曲調でなくて、切ない片想い系だった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:00:08

    歌っている時に見れた清夏さんの真剣で切なげなその表情は普段の会話の中では絶対に見られないような表情だった。
    もしや本当に誰か想い人でもいるのだろうか。
    清夏さんの恋する乙女のようなその表情を見ていると何故だか俺まで胸が苦しくなった。

    「あ、気づいてくれた?そうなんだよねー」
    「急にどうしたんですか?」
    「みんなが想像してるあたしには恋愛ソングは似合わないかなーって思ったんだけどね、なんか歌ってみたくなっちゃって」
    「次のライブは恋愛ソングの発注をしましょうか?」
    「えー?」

  • 5二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:01:45

    なんか、思ったより乗り気じゃなさそうだな。

    「そこまではいいよ。今日のはそういう気分だっただけだから。それよりさー」

    最初の方は気付いてくれて嬉しい。なんて言ってた癖にちょっと深く掘り下げたら逃げるように別の話題に変えてきた。
    こういう時の清夏さんは何かを隠している。
    清夏さんは案外嘘が上手い。
    自分の弱さを隠すのが上手い。
    最初の頃は見抜けなくて1人で辛い思いをさせてしまう事が何度かあった。
    清夏さんが嘘を吐くとき表情や言い方、仕草といった目に見えるところはほぼ完璧で、嘘を吐いているかどうか見抜くのはとても困難だった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:02:45

    けれど、1つだけ突破口があるとするならばそれは清夏さんが発する言葉だ。
    いつもに比べてかなり薄い。
    そして具体性が無い。
    たぶん内容よりも場の雰囲気を味方に付けて勝負を仕掛けるタイプなのだろう。
    俺のこの推測が正しければ、今回も清夏さんは何かを隠している可能性が高い。

  • 7二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:03:52

    恋愛ソング......気になる異性でも出来たか?
    流石に安直すぎる考えかもな。
    もちろん清夏さんが恋愛するのは自由だが......今波に乗ってる彼女を変な事で炎上させる訳にはいかない。
    アイドルなんて写真に男物が写り込むだけで騒がれかねない職業だ。
    ......恋愛するのは自由だが節度を守って隠れてやって欲しい。
    俺はモヤモヤした気持ちを飲み込むように、残りの食事を食べて行った。

  • 8二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:04:52

    次の日。
    登校していつも通り自分の靴箱に向かうとある違和感があった。
    中から小さな封筒のような物が出かかってる。
    封筒......?
    何か大事な書類ならもう少し大きいはずだし、誰かから手紙を受け取るような心当たりも無い。
    一体誰が?
    恐る恐る封筒を取り出し、まずは外側を観察する。

  • 9二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:06:33

    他の誰かへ宛てた手紙が俺の所に間違って届いてしまった可能性を考え、宛名と差出人を確認しようと思った。
    封筒には俺の名前が丁寧な文字で書かれていて、それ以外何も書かれていなかった。
    差出人は分からないけれど、どうやらこの手紙は俺に宛てられたもので間違いないらしい。
    とりあえず内容を確認してみたところ詳しい差出人は本文中にも書かれていなかった。
    どうしても伝えたい事があるから今日の夕方、校舎裏に来てほしいという内容だけが書かれている。

  • 10二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:07:37

    これは......悪戯?
    俺.....もしくは清夏さんに対する嫌がらせ?
    どうする.....?
    これがもし本当に嫌がらせだったら俺が辞めるように注意する必要がある。
    問題を大きくする訳には行かないし早めに種は摘んでおきたい。
    ああ、朝から嫌な感じだ。
    今日のプロデュース、もしかしたら遅れるかもしれないと清夏さんに連絡しておこう。

  • 11二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:09:26

    誰かに相談出来れば気が楽だっただろうが、広く浅くの付き合いをしているせいで気軽に話せる相手がいなかった。
    いきなり先生の所に持っていく案件でもない気がするし........
    悩んでるうちにあっという間に約束の時間が迫ってきていた。
    重い気持ちを引きずって荷物を纏めて約束の場所へ向かう。
    どんな事があっても、終わってからのプロデュース中態度に出さない。
    これだけは絶対だ。

  • 12二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:10:28

    悪戯なら軽く注意をしてもうしないように言えばいい。
    嫌がらせならそれこそ先生に相談しよう。
    正直、面倒臭い。
    だけど愚痴ったところで状況は変わらない。
    思う存分ため息を吐いてから校舎裏に続く道を1歩、また1歩と進んで行った。

  • 13二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:11:48

    念のため、録音状態のスマホを忍ばせる事にした。
    大人しく観念するなら大事にはしないから穏便に済ませようじゃないか。
    約束の時間5分前、詳しい場所の指定はされてなかったが.......

    「来てくれたんですね!」

    腕時計を眺めてると後ろから声を掛けられた。
    約束の時間ピッタリだ。
    声を聞いた感じ女性。
    同じプロデュース科の生徒だろうか。

  • 14二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:13:04

    知らず知らずのうちにこの人の担当アイドルが出演するはずだった枠を奪ってしまったとかか?

    「呼び出したのは貴方でしょう?俺に何か用ですか?」

    俺が居たことに喜んでいた気はするけど、油断はできない。
    わざと少し威圧的な態度を取り、相手の出方を伺う。

    「あの.....用っていうか、貴方に伝えたい事があって。えと.......」

    しどろもどろに話している。

  • 15二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:14:31

    「少し前の話なんですけど、木から降りられなくなった猫を助けてる貴方を偶然見かけて......」

    一体何を言い出すのか、どういった用件なのか、警戒心と緊張感を最大にして動きを見張っていた。
    しかし、急に猫の話なんて始めるものだから一気に気が抜けてしまった。

    「猫?ああ、そんな事もあったかも知れませんね」
    「そ、それで......動物に優しいんだなぁって。それに、そのときの表情がすごく柔らかくて素敵で、その.......一目惚れしてしまったっていうか///」

  • 16二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:16:00

    「..........ん?」
    「だからその、と、友達からでもいいので、私とお付き合いしてもらえませんかっ!!」

    言い終わるのと同時。
    彼女は首がもげそうな勢いで頭を下げた。

    「あー......」

    頭の中が真っ白になった。
    そして自分が大きな勘違いをしていたことに気付いた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:17:10

    朝見つけた差出人の名前が書いていない手紙。
    校舎裏に呼び出されるというありふれた流れ。
    客観的に見れば、これは珍しくも何ともない。
    あの封筒はいわゆるラブレターというやつだったのではないか?
    この答えに辿り着いた途端、羞恥心とともに彼女への申し訳ない気持ちが込み上げた。
    俺、もしかしてすごい失礼な勘違いをしてた......?

  • 18二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:18:17

    「え、えっと」

    こ、こういうとき何て言えばいいんだ?!
    バリバリ戦闘モードで来ちゃった俺はどうすればいい?!

    「あ、あはは......知らない人に急にこんなこと言われても困っちゃいますよね」

    おずおずと顔を上げた彼女は、困り果てた俺の様子を見て助け船を出してくれたようだった。

    「そ、そんなことはありません。別に困ってる訳ではないです。好意を持ってくれるのは嬉しい。でも......」

  • 19二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:19:21

    好意.......
    好き、好き.......
    その言葉を心の中で繰り返す度、頭の中に思い浮かぶのは清夏さんの顔だ。
    そして、やまびこのようにいくつもの清夏さんの声が響き渡った。
    不意に胸が苦しくなる。
    昨日レストランで考えた事が頭をよぎったからだ。
    清夏さんに好きな人がいるかもしれない、その不確かな事実が、なぜか俺の胸を曇らせる。

  • 20二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:20:30

    ところで、なぜ今こんなことを考えているのだろうか。
    目の前に優し気な顔をした少女がいるというのに、俺ときたら今この場にいない清夏さんのことばかり考えている。
    存在するかどうかも分からない、清夏さんの想い人にモヤモヤした気持ちを抱いている。
    あぁ、これはもしかすると.......
    俺は、清夏さんの事が好き.......なのか........?

    「ごめん。俺、他に大事な子がいるんだ」

    気づいたら言葉を発していた。

  • 21二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:21:40

    「......そうですよね。清夏ちゃん、居ますもんね。気持ちを伝えられただけでも良かったです。これからも応援してますね」

    彼女は少し寂しそうに笑った。
    俺が彼女の告白に刺激されて清夏さんへの気持ちを自覚することができた。
    今日の出来事がなければ、俺は自分の気持ちを知らないままだったかもしれない。
    だからこそ、言わなきゃいけない。

    「すみません。でも、俺......貴方のおかげでとても大切なことを知ることが出来ました。ありがとうございます」

  • 22二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:22:43

    彼女は最後に俺の方を見て、やっぱり悲しそうな笑顔をして去っていった。
    一人残された俺はというと、空を仰ぎ見ていた。
    恐らくもう清夏さんは事務所に着いている。
    清夏さんを待たせているにもかかわらず、その場を動く気持ちになれなかった。
    大変な気持ちに気付かされてしまった。
    俺は清夏さんが好き。
    でも清夏さんには好きな人がいるかもしれなくて。

    「清夏さん、俺はどうすれば.......」

    雲一つない夕空に向かってポツリと呟いた。

  • 23二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:23:51

    「ぴ、Pっち?大丈夫.....?」

    唐突に聞こえてくる、あまりにも聞き覚えのある声。
    ギョッとして声の方を振り返ると、清夏さんが壁の裏からひっそりと顔を覗かせていた。

    「なっ、なん......どうして、なんでここが......!?」
    「お、落ち着いて。ねっ?」

    独り言のつもりで吐き出した小さな声に、まさかこの場にいるはずのない本人から返事が返ってくるだなんて思ってもいなかった。

  • 24二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:25:07

    「落ち着いた?Pっち」
    「はい、もう大丈夫です」

    恥ずかしながらもかなり気が動転していて落ち着くのに時間がかかってしまった。

    「ところで、何故清夏さんはここに?今日はボーカルレッスンのはずでは?」

    暴走気味だった俺は、なんとか自分自身を抑え込むことに成功した。

    「廊下でたまたまPっちを見つけて驚かせようと思ってついていったんだ」
    「そしたら何故か俺が事務所とは違う方向に向かったと.......」
    「そう。しかも、すごい暗い表情だったから心配したんだよ?何かあったのかと思って追いかけたらその、あんな場面に遭遇しちゃった。ごめん」

  • 25二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:26:21

    キュッと目を瞑って俺に頭を下げる清夏さん。

    「正直、あんまりいい気はしませんが......そんなに気にしてないから顔を上げてください」

    それより全部聞いてたのかが気になる。
    どこまで聞かれた?
    この際、俺が告白されたこと、そして相手を振ってしまったことはもうどうでもよかった。
    そんなことよりも今の俺は、もっと知られてはいけない事実を抱えている。
    清夏さんへのこの気持ちを知られてしまったら、今のこの心地よい日常が、関係が崩れ落ちてしまうかもしれない。
    俺の気持ちひとつで簡単に。
    それを阻止するべく、先手を打とうとしたのだけれど。

  • 26二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:27:28

    「きちんと謝ったうえで、どうしてもPっちに聞きたいことがあるんだけど.......」

    先に動いたのは清夏さんの方だった。

    「Pっちの好きな人って、誰?」
    「.......」

    あまりにも直球で迷いのない質問に、思わず口ごもってしまう。

    「そ、その質問に答える前に、俺も清夏さんに聞きたい事があります。昨日も聞きましたが、昨日恋愛ソングを歌うようになったのはどうしてですか?本当にただ何となくですか?」
    「ぅ、そ、それは......っていうか先に質問したのはあたしなんだから、先にあたしの質問に答えてよ!」

  • 27二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:28:34

    「ですから、清夏さんが答えてくれたら、俺も答えるって言ってます」
    「だから先に質問したのはぁ.......うぅ~、もぉ!!!」

    どうやら折れてくれるみたいだ。

    「わかった、あたしが先に答える。その代わりPっちも必ず後からさっきの質問に答えること!逃げるのはナシ!いい?」
    「ええ」

    みっともなくも俺は後攻を勝ち取った。
    しかし、どちらにしろ後から答えさせられるのならば、順番なんてあまり関係ないのかもしれない。
    ただの気休め程度にしかならないだろう。
    嘘が上手い清夏さんの顔をチラッと盗み見ると、額に汗を滲ませていることに気付いた。
    おそらく、今の俺に下手な誤魔化しは通用しないということを悟っているのだろう。

  • 28二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:29:46

    つまり、お互い腹をくくった状態である。

    「あたしがこの前ラブソングを歌ったのはね、聞いてほしい人がいるからだよ」

    そんなのなんとなく察しがつく。

    「あたしってば、伝えなきゃいけないことが大事であれば大事であるほど上手く言えなくて、真っ直ぐ言おうとしても変なこと言ってすぐにはぐらかしちゃうから.......でも、歌でなら伝えられるかな、って。はい、終わりっ!これ以上は秘密だから!」

    言うだけ言って逃げるように強引に自分のターンを終了させた清夏さん。

    「観念してね〜?次はPっちの番だよ」

  • 29二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:31:23

    いよいよ俺のターンだ。
    言うと約束してしまったのだから、もう後には引けない。
    けど......
    清夏さんには好きな人がいる。
    そんな清夏さんのことが俺は好きで。
    昨日から俺の胸にまとわりついて離れないモヤモヤが大きくなっていく。
    清夏さんにこの気持ちを伝えてしまったら、今の心地いい毎日が無くなるかもしれなくて大きな恐怖心が押し寄せる。
    でもこのまま何もしなければ、清夏さんは他の誰かの所に行ってしまう。
    とてつもない寂しさに全身が粟立つ。
    身動きが取れない八方塞がりな状態。

  • 30二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:32:23

    「ぴ、Pっち?!な、泣いてるの?ご、ごめんね!そんに嫌ならやっぱり無理しなくても......」

    清夏さんに言われてハッとした俺は、自分の指をそっと目元に当ててみる。
    すると、たしかに生暖かい液体が指に付く感触がした。
    俺は泣いているんだ。
    そう自覚した瞬間、色々な感情や想いが俺の中でせわしなく動き回り、処理しきれなかったものたちは涙となって外側に零れ落ちていった。

    「清夏さん......お、俺.......俺はこのまま........ずっと清夏さんの隣で貴方を支えていたい」
    「き、急にどうしちゃったの?それはこっちのセリフだよ。よしよーし、あたしはずーっとPっちの近くにいるよ」

  • 31二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:33:37

    抱き寄せられて、子どもをあやすように頭を撫でられる。
    胸の中は優しくて暖かくて、俺がしてほしいことをしてくれる。
    ほしい言葉をくれる。
    なんで今日に限ってそういうことするんだ?
    なんで今そんなことを言う?
    なんでそうやって優しく包み込んでくれる?
    そんなことされたら......俺.......

  • 32二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:34:52

    「清夏さん......」
    「どうしたの?」
    「俺の好きな人は.......貴方です、清夏さん」
    「ウソ......ほんとに......?likeじゃなくてloveのほう?」
    「.......」

    好き。
    たったその一言に全力を使ってしまったのか、上手く声を出せず、力なく頷くことしかできなかった。
    ついに言ってしまった。
    溢れ出た想いを抑えることが出来なかった。
    清夏さんはこんな俺のことをどう思うだろうか。

  • 33二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:36:10

    拒絶されるだろうか。
    それとも、優しい清夏さんのことだからいつも通りに接してくれるのか。
    どちらにしても、俺の心地いい日常に異物が混入したことに変わりはないのだ。
    そう思った。

    「なんだ。あたしたち、同じ気持ちだったんだね」
    「え......」

    耳を疑った。
    俺が、清夏さんと同じ気持ち......?

  • 34二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:37:15

    「あたしもPっちのことは好きだよ。いつかあたしから言おうと思ってたのに、まさかPっちのほうから言ってくれるなんてねぇ」

    先ほど抱きしめてもらった延長で、俺の顔は清夏さんの胸にギュウギュウと押し付けられている。
    そのせいで清夏さんの顔は見えない。
    けれど、文字通り幸せいっぱいな笑顔であろうことは、顔を見なくともその声を聞くだけで容易に想像することができた。

    「じゃあこの前の歌は......」
    「うん。あれはPっちの事を想って歌った。ほら、Pっちってあんまり恋愛に興味なさそうだから、Pっちに振り向いてもらうよりも、まずは恋愛に興味を持ってもらおうと思って」

    な、なんだ......

    「そ、それならそうと言ってください!俺は......清夏さんが急に恋愛ソングなんて歌い始めるから、誰か好きな人でもできたのかと思って」
    「ぅえ!?なんでそうなるのかな〜。っていうかじゃあ、Pっちが急に泣き出したのって」

  • 35二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:38:23

    「......清夏さんと、もう一緒にいられなくなるかもと思ったからですけど?」
    「もぉ〜!Pっちてば寂しがり屋さんなんだからぁ」
    「なっ!?もとはと言えば清夏さんがっ......!!」
    「あははっ、ごめんね!でも.......」

    今日は厄日だ。
    今朝も大きな勘違いをして独りで恥ずかしい思いをしたし、今だってこの有り様である。
    人が羞恥心やら安心感やらに揉みくちゃにされているというのに、清夏さんときたらそんな俺の心情なんてお構いなし。
    いつも通りの調子である。
    それが清夏さんなりの俺への気遣いなのかもしれないけれど。

  • 36二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:39:35

    ひとしきり笑ったあと、ようやく清夏さんの腕の中から解放された俺は、ふと彼女の顔を見た。
    すぐそこにあったのは真っ直ぐと俺の目を見つめる清夏さんの優しい瞳。

    「もうすっかり暗くなっちゃったね」
    「そうですね......」

    雲一つない夕空だったそこは、いつのまにか淡い紺色へと変わっていた。

    「それじゃ、そろそろ帰ろっか」

    小さく手を差し出される。

  • 37二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 19:41:25

    繋いだ手のひらは驚くほど熱かった。
    淡い紺色に染まった空にはいつの間にか一番星が光り始めている。
    校舎裏から正門までの道のりは普段なら数分で終わるはずなのに今日だけは永遠に続いてほしいとさえ思えた。
    隣を歩く清夏さんは時折「んふふ」と小さく鼻を鳴らして繋いだ手をぶんぶんと振ってくる。
    その子供っぽい仕草が愛おしいと思うと同時に、俺の心臓はまだ早鐘を打っていた。





    一時間ちょっと休憩させてください

  • 38二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 20:32:17

    イチャラブ期待

  • 39二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:03:23

    再開します。

    「……ねえ、Pっち」
    「はい」
    「あたしたち、付き合ってるんだよね?」

    不意に投げかけられた確認に足が止まりそうになる。
    付き合っている。
    その言葉の響きが現実味を帯びてずしりと胸に落ちてきた。

    「……そう、ですね。俺が告白して、清夏さんが受け入れてくれた。夢じゃなければ、そういうことになります」 「夢じゃないよー。ほら」

    清夏さんが繋いだ手にきゅっと力を込める。
    俺も反射的に握り返すと、清夏さんは満足そうに目を細めた。

  • 40二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:05:54

    「そっかぁ……付き合っちゃったかぁ。Pっちと」

    感慨深げに呟く清夏さんの横顔を盗み見る。
    街灯に照らされたその頬はほんのりと赤らんでいるように見えた。
    しかし、同時に俺の脳裏には冷静な思考も戻りつつあった。
    アイドルとプロデューサー。
    その関係性は、本来ならば恋愛感情を持ち込んではいけない一線だ。俺たちはその線を勢いとはいえ越えてしまったのだ。

  • 41二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:08:38

    「清夏さん」
    「なぁに?」
    「これから、大変になりますよ。俺たちはあくまでプロデューサーとアイドルです。公の場ではもちろん、学園内でもこの関係を悟られてはいけません」

    せっかくの甘い空気に水を差すようなことを言っている自覚はあった。
    けれど、清夏さんを守るためにもこれだけは最初に釘を刺しておかなければならない。
    俺が厳しい顔を作ると、清夏さんはきょとんとしてから悪戯っぽく笑った。

  • 42二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:10:21

    「もー、Pっちは真面目だなぁ。せっかくカップル成立!って盛り上がってるところなのに」
    「大事なことですから」
    「わかってるよ。あたしだって、今の場所を失いたくないもん」

    清夏さんは少しだけ真面目なトーンになって、まっすぐに俺を見上げた。

    「でもさ、二人きりの時くらいはいいでしょ?」
    「……二人きりの時?」
    「そう。仕事モードじゃない、ただの『清夏』と『Pっち』の時。その時は、プロデューサーとアイドルはお休み」

    清夏さんは繋いだ手を一度離し、俺の体の正面に回り込む。
    今度は両手で俺の右手を包み込んだ。
    柔らかくて温かい感触が、直接脳を揺さぶる。

    「今は、その『二人きりの時』……でしょ?」

    上目遣いでそう言われて、断れる男がこの世にいるだろうか。
    いや、いない。少なくとも俺には不可能だ。

  • 43二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:12:26

    「……わかりました。今はお互い素顔のままでいましょう」
    「やった! 物分かりがいいPっちは好きだよー」

    無邪気に笑う清夏さんを見て俺は小さく息を吐いた。
    これから先、この笑顔を一番近くで守れるのだという幸福感と、絶対に守り抜かなければならないという責任感が、心地よい重さとなってのしかかる。
    アイドル科の寮に向かう道すがら、俺たちは他愛のない話をした。
    昨日のレストランのこと、今日のレッスンのこと、そしてさっきの勘違い告白事件のこと。

  • 44二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:16:11

    「ほんっと、あの時のPっちの顔!『猫の話!?』って顔してたもんねー」
    「笑い事じゃないですよ……本当に心臓が止まるかと思いました」
    「でも、その子には感謝しないとね。その子が背中を押してくれなかったらPっち、一生うじうじして言わなかったかもしれないし」
    「ノーコメントでお願いします」

    清夏さんの言う通りだ。
    あの一件がなければ、俺は自分の気持ちに蓋をしたまま、ただのプロデューサーとして振る舞い続けていただろう。 そう考えると、あの名も知らぬ彼女には頭が上がらない。

    「ね、Pっち。喉乾かない?」
    「そういえば、少し乾きましたね」
    「ちょっと寄り道してこ。あそこの自販機」

  • 45二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:19:08

    俺たちは自販機で温かいカフェオレを二つ買うと、近くにあるベンチに並んで腰を下ろした。
    プシュ、と缶を開ける音が静寂に響く。
    一口飲むと、甘い液体が乾いた喉を潤していく。
    それと同時に隣に座る清夏さんの体温が触れ合っている肩や太腿を通して伝わってきた。
    さっきまでは歩いていたから誤魔化せていた緊張が、座って動きを止めたことで一気に押し寄せてくる。
    距離が、近い。
    普段の打ち合わせならもっと近い距離で話すこともあるのに関係性が変わるだけでこうも意識してしまうものなのか。

  • 46二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:20:59

    「……ねえ」
    「は、はい」

    沈黙を破ったのは清夏さんだった。
    清夏さんは缶を両手で持ったまま足元を見つめている。

    「さっきさ、Pっち言ったよね。『清夏さん』って」
    「? はい、名前呼びはずっとしてますが」
    「そうじゃなくてさ……あのね、付き合ってるんだからその『さん』付け、そろそろ取ってもいいんじゃない?」
    「えっ」

    予想外の提案に俺は思わず清夏さんの顔を見た。
    清夏さんは少し恥ずかしそうに、でも期待のこもった目でこちらをちらりと見ている。

  • 47二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:22:46

    「だって、恋人……なんだし。いつまでも他人行儀なのは、なんか寂しいっていうか」
    「し、しかし、学園では『清夏さん』と呼ぶのが自然ですし、切り替えが難しくなるのでは……」
    「だーかーら!さっき言ったじゃん。二人きりの時だけの特権!」

    清夏さんは少し拗ねたように頬を膨らませる。
    その表情が、昨日のカラオケで見せた切ない表情と重なって俺の胸を締め付けた。
    清夏さんは不安なんだろう。
    俺たちの関係が、ただの口約束で終わってしまうのではないかと。
    だからこそ、確かな証を求めている。

  • 48二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:24:38

    「……わかりました。善処します」
    「善処じゃなくて今やってみてよ」
    「い、今ですか?」
    「うん。今。ほら、呼んでみて」

    清夏さんが身を乗り出してくる。
    逃げ場はない。
    俺は覚悟を決めて、一度深呼吸をした。
    口の中が急に乾いてくる。
    カフェオレを飲んだばかりなのに。

  • 49二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:27:41

    「す……」
    「す?」
    「……すみ、か」

    蚊の鳴くような声だった。
    自分でも情けないほど震えていたと思う。
    けれど、それを聞いた清夏さんは花が咲くようにぱあっと表情を輝かせた。

    「ん!なぁに、Pっち?」
    「……からかってますね?」
    「ううん、嬉しいだけ。もう一回呼んで?」
    「勘弁してください……」
    「えー、ケチー」

  • 50二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:29:03

    清夏さんは笑いながら、俺の肩に頭を預けてきた。
    髪から香るシャンプーの匂いが、鼻腔をくすぐる。
    俺はおずおずと清夏さんの肩に手を回した。
    華奢な肩。
    アイドルとして輝く彼女を支えている、小さな体。
    これを、俺が守るんだ。
    改めてそう誓うと、自然と腕に力がこもった。

  • 51二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:32:09

    「……清夏」
    「……んふふ、なぁに?」
    「好きです」

    今度は、はっきりと言葉にした。
    先ほどのような爆発的な感情の発露ではなく、静かに、噛みしめるように。
    肩にもたれかかっていた清夏さんの体がピクリと震える。
    清夏さんはゆっくりと顔を上げて俺の目を見つめた。
    その瞳は少し潤んでいて、外灯の光を反射してキラキラと輝いている。

  • 52二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:34:23

    「……あたしも。大好きだよ、Pっち」

    二人の顔が近づく。
    唇が触れ合うか触れ合わないか。
    そのギリギリの距離で俺たちは互いの吐息を感じ合っていた。
    甘いカフェオレの香り。
    心臓の音がうるさいくらいに響いている。
    けれど、最後の一線を超える勇気はまだ俺たちにはなかった。
    いや、これ以上進んでしまったら本当に戻れなくなってしまう気がしたのかもしれない。

  • 53二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:39:40

    「……そろそろ、行きましょうか」
    「……うん。そうだね」

    名残惜しさを振り切るように俺たちは同時に立ち上がった。
    繋いだ手はアイドル科の寮に着くまで離れることはなかった。

    「じゃあね、Pっち。また明日」
    「はい。気をつけてくださいね」
    「うん。Pっちもね」

    清夏さんと別れる。
    さっきまでの甘い時間は終わり、ここからは『プロデューサー』と『アイドル』に戻る時間だ。

  • 54二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:41:01

    繋いでいた手が離れる瞬間、指先が微かに擦れる。
    その寂しさに胸が痛んだが、俺は努めて明るく振る舞った。

    「明日は朝からミーティングです。遅刻しないようにしてくださいね」
    「わかってるってばー。もう、最後くらい甘い言葉ないの?」
    「仕事の話です。……でも」

    俺は周囲を確認してから声を潜めて言った。

    「……夢に、出てきてくれると嬉しいです」

    精一杯のキザなセリフ。
    清夏さんは一瞬きょとんとして、それから顔を真っ赤にして吹き出した。

  • 55二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:42:49

    「Pっちにしては頑張ったじゃん!」
    「茶化さないでください……言ったこっちが恥ずかしいんですから」
    「あはは! でも……うん。あたしも、Pっちの夢見れるように祈って寝るね」

    清夏さんは「じゃあね!」と手を振って寮の向こうへと消えていった。
    清夏さんの後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、俺は大きく息を吐き出した。
    長い一日だった。
    そして、人生で一番幸せな一日だった。

  • 56二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:44:58

    俺はスマートフォンを取り出した。
    画面には、清夏さんとのメッセージアプリのトークルームが表示されている。
    これまでは事務的な連絡ばかりだったその場所に新しいメッセージが届いていた。

    『今日はありがと! ちゃんと家着くまでがデートだよ!』
    『あと、明日の朝は起こしてね。彼氏の役目でしょ?』

    文面からも清夏さんの茶目っ気が伝わってくる。
    『彼氏』
    その二文字を見て、また顔が熱くなるのを感じた。
    俺は震える指で返信を打つ。

    『わかりました。モーニングコールしますね』
    『おやすみなさい、清夏』

  • 57二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:46:40

    送信ボタンを押す直前心臓が跳ねる。
    名前呼び。
    文字にするだけでもこんなに緊張するなんて。
    でも、これは俺たち二人だけの秘密の約束だ。
    送信完了の表示が出ると同時に既読がついた。
    そして、可愛らしいスタンプがひとつ送られてくる。
    甘くて、酸っぱくて、くすぐったい。
    そんな俺と清夏さんの秘密の恋が、今ここから始まったのだ。

    「……まずは、炎上対策を徹底的に見直さないとな」

    幸せな余韻に浸りながらもプロデューサーとしての性分が顔を出す。けれどその苦労さえも今の俺には愛おしく感じられた。

  • 58二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:50:08

    これで終わりになります。自分で思った以上にいい距離感のP清がかけて非常に満足しております。

    今清夏モチベ高いので明日この続きで二人がアイドル引退した後ヤバいくらいイチャついてる作品を書けたら書きにきます。

  • 59二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 21:58:12

    もう一押しすれば敬語もやめさせれそう

  • 60二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 22:27:04

    実はPixivとかでSS投稿してる?

  • 61二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 23:03:49

    >>60

    そうですね、pixivメインでss書いてます

  • 62二次元好きの匿名さん25/12/02(火) 23:59:17

    最高
    まさにこういうSSが読みたかった
    Pっちじゃないけどいい夢見れそうだ

スレッドは12/3 09:59頃に落ちます

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