はぁ……遊園地のペアチケットかぁ……

  • 1◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:00:06

    溜息をつきながらアタシ、メジロドーベルはトレーナー室へと向かう。
    手に持っているのは遊園地のペアチケット。
    なぜこんなものを持っているのかというと5月6日……アタシの誕生日に同じメジロ家のブライトからプレゼントとして贈られたからだ。
    『トレーナー様と是非~』なんて言われてもアタシからトレーナーをお出掛けに誘った事なんてない。
    2人で出掛ける事はあれど、そのきっかけはいつもトレーナーが強引にアタシを連れ出すからだ。……嫌ではないけど。
    ブライトからしてみればそうやっていつも受け身なアタシに焦れてきたのだろう。少しお節介に感じつつも応援してくれるその気持ちは嬉しい。
    ……しかしなんでブライトはアタシがトレーナーの事が好きなのを知っているのだろうか。
    この気持ちを誰かに相談したことはまだ一度もない。
    そんなに態度に出ているのか、と心配になるが流石に幼少の頃からよく遊んでるから些細な変化にも気づいてるだけ、と思いたい。

    「はぁ……」

    今日何度目か分からない溜息をつく。チケットを貰ったのが先週で、気付けばもう金曜日だ。
    今日誘ってしまわないとこのままズルズルと引き延ばして結局使わず仕舞いになる気がする。
    流石にそれは贈ってくれたブライトにも悪いのでちゃんと誘いたいのだが……
    ……結局どうやって誘うかの算段もつかないまま、トレーナー室の前へと辿り着いてしまった。
    ひとまずチケットはカバンの中に入れ、扉をノックする。

    「……トレーナー?」
    「……ああ!ドーベルか!開いてるよ!」

    取り合えずはミーティングが先だ。誘うのは……その後でもいいだろう……

    (結局先延ばしにしてるだけじゃない……)

    ただ一言、「一緒に行って欲しい」と言えばいいのにそれすら出来ない自分が嫌になる。……アタシの胸の奥に、晴れ間が差し込む気配はない。

  • 2◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:00:20

    ミーティング後。
    学園の課題をしながらトレーナー室で過ごすも、まだ誘うことが出来ずにいた。
    ……そろそろ下校時刻も近づいてきた。
    タイムリミットが迫りアタシの心は焦り、落ち着かない。
    ……たった一言。たった一言でいい。

    (大丈夫……大丈夫……相手はトレーナーだもの……断られるなんてことはないはず……大丈夫……)

    迫る下校時刻に後押しされるように、アタシは切り出す。

    「あのさ、トレーナー」
    「ん?何?」
    「先週、アタシの誕生日だったじゃない?」
    「うん?ああ、ケーキ、美味しかったな」
    「あ、うん、それはありがと……」

    今年のアタシの誕生日は振替休日と被ることなく平日だったので、その日はお出掛けしてカフェでケーキをご馳走してもらった。

    「それでね?その……」
    「?」

    歯切れの悪いアタシをトレーナーは不思議そうに見てくる。
    物言いはたどたどしいものの、カバンからペアチケットを取り出しながらなんとか続ける。

    「その……えっと……ブライトからね、プレゼント、貰ったの。遊園地のペアチケット」
    「おお!良かったじゃないか!誰と行ってくるんだ?」

    ……まあ、そういう反応になるだろうな、とは思っていた。
    ただ、誘わない相手にこんな話をするわけがないだろう。

  • 3◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:00:45

    (どうしてこういう時は察してくれないのよ……!)

    普段は驚くほど察しが良いのに。
    結局、ちゃんと自分から伝えるしかないのだろう。
    先ほどから心臓は早鐘を打ち、バクバクとうるさい。
    浅くなりそうな呼吸を落ち着かせ、少しだけ深く息を吸い、意を決して口を開く。

    「だからさ……アタシと一緒に行ってくれない?遊園地……」

    一世一代の告白をするかのように、お出掛けへの誘いを口にする。……アタシからしてみれば男の人をお出掛けに誘う時点で一世一代の告白と相違ないが。
    まさか自分が誘われると思っていなかったのか、トレーナーは目が点になっている。

    「俺でいいのか?ほら、仲のいい友達を誘うとか」
    「ペアチケットなんだから誰か1人を誘うってのも角が立つでしょ。……だから、アンタがちょうどいいの。それに……前に遊園地に行った時約束してたでしょ、また来よう、って」

    どうしてこう……可愛くない言い方をしてしまうんだろうか、アタシは。
    普通にトレーナーと行きたいと言ってしまえばいいものを、素直になれずつい建前を用意してしまう。

    「そういえばそうだな……じゃあ、うん。ありがたく受け取るよ」

    以前した約束が効いたのか。少しばかり悩む素振りを見せていたトレーナーから了承の言葉を受け取る。

    「で、いつ行く予定なの?」
    「え、あ……」

    チケットを受け取ったトレーナーから当然の疑問が投げかけられる。
    誘う事ばかりが頭に入ってて、いつ行くかまでは何も考えていなかった。

    「……アンタの予定は?」
    「俺はドーベルの為ならいつでも合わせられるけど?」

  • 4◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:00:56

    本当に、すぐにそういう事を言う。

    (口が上手いんだから……)

    「……じゃあ、明後日の日曜日」

    ……下手に予定を後ろに伸ばしても落ち着かないだけだろう。
    こうなったら後は勢いに任せてしまおう。そう思い直近の日曜日を指定する。

    「うん、大丈夫だぞ」

    日にちを伝えたところで校内にウェストミンスターの鐘が響き渡る。
    ……誘うことには成功した。待ち合わせの場所や時間はメッセージで送ればいいだろう。
    帰り支度をしながらトレーナーに伝える。

    「細かい時間とかはまた後で連絡するから」
    「ああ、それじゃあ日曜日!楽しみにしてるな!」
    「うん、それじゃ」

    トレーナー室の扉を閉めた後、少し背を預ける。

    (誘えた……誘えた!)

    恥ずかしさと、安堵と、興奮と。
    胸の高鳴りは未だに収まらず、自然と口元は緩んでしまう。
    今にでも駆け出してしまいたい衝動をなんとか抑え、帰りの道を行く。

  • 5◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:01:18

    その日の夜。

    ドーベル 『9時30分に〇〇駅に集合で』

    トレーナー『了解。楽しみにしてるね』

    ドーベル 『遅れないでよ』

    トレーナー『あはは!気を付けるよ』

    ドーベル 『じゃあ、アタシはもう寝るから』

    トレーナー『はーい。おやすみ』

    ドーベル 『アンタも早く寝なさいよ。おやすみ』

    トレーナーとメッセージを交わした後、携帯の画面を落とす。
    無事、時間と集合場所は決める事が出来た。
    後は明後日を待つだけかと思っていたのだが……

    (着ていく服はどうしよう……)

    ひとつ不安が生まれると途端に落ち着かなくなる。
    結局次の日はブライトに着ていく服選びに付き合ってもらい、少々慌ただしい休日を過ごしたのだった。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:01:29

    約束の日曜日。現在時刻は9時15分。
    9時には駅に到着し、かれこれ15分はここで待っている事になる。
    その間ずっとガラス張りの壁とにらめっこをしていたのだが……

    (だ、大丈夫かな……?アタシにしては可愛すぎない?)

    服選びに付き合ってくれたブライトは『大丈夫、よく似合ってますわ~』と言ってくれたが正直自信が持てない。
    可愛い服なんてアタシには似合わないだろう、というこびり付いた考えがお出掛け前だというのにアタシを不安にさせる。

    「ごめん!待った?」

    それから何分経っただろうか。聞き慣れた声に振り返る。
    ……しかしこれは……漫画やドラマでよく見るやつではないだろうか。
    まさかアタシがその当事者になるとは……感慨深い。
    これに対するお約束は……

    「ううん、今来たとこ」

    時計の長針は既に4の数字に差し掛かろうとしている。
    全然今ではないのだが様式美の為には誤差の範囲という事にしておこう。
    ……それに今だって待ち合わせの10分前だ。
    トレーナーだって十分早いし、それよりもっと前に来ていたアタシがまるでこの日を待ちわびていたみたいで恥ずかしい。
    ……実際待ちわびていた訳だが。

  • 7◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:01:49

    「そっか、良かったよ」

    そう言ってトレーナーはアタシの顔から足元の方に向けて視線を徐々に落としていく。
    そうして再び視線を上げ、アタシを真っ直ぐに見据え。

    「その服新しく買ったの?……うん、ドーベルによく似合ってる。可愛いよ」
    「あ、ありがと……」

    恥ずかしげもなくそういう褒め言葉が言えるのはずるいんじゃないだろうか……
    ここで「トレーナーも格好いいよ」とか返せたらいいのだろうが生憎アタシにそんな度胸はない。
    褒められた嬉しさで緩み切ってしまいそうな口元をどうにかするので精一杯だ。

    「それじゃあ、行こうか」
    「あ、うん」

    不安だったアタシの心の曇り空は。
    トレーナーの一言であっという間に快晴へと変わった。

  • 8◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:02:05

    電車に乗り移動して。目的の遊園地へと辿り着く。

    (そういえば前はカップル割で入っちゃったんだっけ……)

    観覧車に乗って、そろそろ帰ろうかという時。
    トレーナーと2人して驚き、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうになったのを覚えている。

    (というかなんでどう見てもウマ娘とその担当トレーナー相手にカップル割を勧めてくるのよ……)

    気付かなかったアタシたちもアタシたちだが。
    トレーナーはともかく、あの時のアタシは制服を着ていたのだから平然とカップル割を勧めてくるのはどうなのかと思う。
    いや……受付の人からしてみればその方が値段が安く済むし、ちょっとした気遣いだったのかもしれないが。
    ただ世間的にウマ娘とそのトレーナーがカップルになる事自体は割と寛容……というよりもそういう色恋が好きな層はそれなりにいる。
    ドラマや漫画にもそういった題材のものは実際に多い。なので本当にそういう勘違いをしていた可能性も否めないが……
    まあ、過ぎたものはしょうがない。
    それに今回は最初からペアチケットだと分かった上で入るんだから、前回よりも大胆な事をしている。
    受付を済ませて園内へと入る。先週が連休だった事もあり客入りは程々といったところ。
    適度に待ち時間もありそうで存分に楽しめそうだ。

    「さてと!どれから乗ろうか」
    「いきなり激しめなのは遠慮したいかな……」

    トレーナーの持っている園内マップを2人で眺める。

    「無難にコーヒーカップとかにしとく?」
    「……う~ん、それでいいかもね。そうしよ」

    ゆったりと回るコーヒーカップなら回りたいアトラクションを考えたりする余裕もできるだろう。
    そうしてアタシたちは遊園地を巡り始めた。

  • 9◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:02:18

    ……トレーナーの事をバカだな、と思う瞬間がたまにある。
    今がその時だ。
    いきなり激しめなのは遠慮したい、と言った事を忘れたのだろうか。
    回してるうちにテンションが上がってしまったのか。
    アタシたちの乗るカップは中々な速度で回っている。

    「ちょっとトレーナー!?速く回し過ぎ!」
    「あはははは!まだまだいけるぞ!」
    「いい加減にしないとそろそろ怒るからね!」
    「あ、ごめん……」

    一喝すると反省したのか普通な速度に落としてくれた。

    続いてはレイクボート。
    さっきコーヒーカップを調子に乗って速く回し過ぎたバツとしてトレーナーに全部漕がせる。

    「ドーベル……!そろそろ……漕ぐのを変わってくれると……!嬉しいかな……!」
    「え~……そこは大人として頑張ってよ」
    「手厳しいね……!あ、ちょっと待って!足が攣りそう!」
    「はぁ!?あぁ~もう!アタシが漕ぐからアンタは降りるまでになんとか治して!」
    「面目ない……!」

    ……はずだったのだが、途中で足が攣ったトレーナーに代わって結局半分くらいはアタシが漕がされた。

  • 10◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:02:28

    遊園地の定番、ジェットコースターにも乗って。

    「ドーベルってさ……前にも思ったけど意外とジェットコースター怖がらないよね」
    「そう?まあレースの時に走ってるのと比べたらそこまで怖くないかな……ぶつかる心配もないし」
    「ああ……なるほどね……」

    トレーナーの希望でゴーカートに乗るも、アタシが運転手側に乗せられた。

    「ねえ、これアタシが運転しなきゃダメ?普段運転してるんだからアンタがやってよ……」
    「いや、普段車運転してる俺がゴーカート運転しても面白くないでしょ」
    「もう……ぶつけても文句言わないでよ?」
    「あはははは!期待してるよ」

    案の定コーナーでたくさんぶつけてしまった……

    「だから言ったのに……」
    「いやいやいや!十分上手だったよ?」
    「……それ、皮肉じゃないでしょうね?」
    「本心なんだけどなぁ……」

    (……まあ、運転してる時たくさん褒めてくれたから許してあげる)

  • 11◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:02:42

    途中で軽く食事も済ませていくつかアトラクションに乗った後。
    3時に近い頃合いだろうか。

    「ねえ、ドーベル、あれ食べない?」

    トレーナーが指差しているのはチュロスの屋台だ。
    軽食で済ませた事もあり、小腹が空いてくる時間帯。

    「いいかも。アタシもちょっとお腹が空いてきたし……」

    トレーナーの提案に乗り、2人で屋台の列に並ぶ。
    ……少し列が進んできたあたりでトレーナーが問いかけてくる。

    「ドーベルは何味にするの?」
    「え?アタシ?アタシはショコラかな」
    「じゃあ俺はストロベリーにするか」

    5分ほど並んでキャストさんからチュロスを受け取り、園内を歩きながら食べていると。

    「ドーベルもひと口食べる?」

    そう言って自分が口を付けた方を下にして、トレーナーがチュロスを差し出して来る。
    味が違う方を選んでくれた時点でそういう事だろうな、とは思っていたがそうまで自然と間接キスを避けてくれるとは思ってなかった。
    ただトレーナーはアタシが口を付けても気にしないんだろうな……という事が少し引っ掛かる。
    しかし折角の善意を無碍にするのもそれはそれでなんだか気が引けてしまう。

    「じゃあ、ひと口だけ……」

    迷った末に、味も気になってた事もあって素直に受け取り口にする。

  • 12◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:03:03

    (前来た時はジュースを分けてあげるかどうかで悩んでたな……)

    ストロベリーの味がするチュロスを咀嚼しながら以前来た時の事を思い出す。
    結局あの時はそのまま全部アタシが飲んだ。
    その後もそのことがずっと引っ掛かってて、折角の遊園地なのに素直に楽しめなかったのを今でも覚えている。
    ……別に今回はトレーナーの食べるものがなくなったわけではないからアタシから分ける必要はない。
    でも。

    「……アタシのも、ひと口いる?」

    以前と同じようにアタシだけ貰ってばかりなのはなんだかイヤで。
    あの時は言えなかった一言が、今日は驚くほど素直に口に出す事が出来た。
    ……実際はこのチュロスもトレーナーが買ってくれたものだから結局貰ってるだけではあるんだけども。
    わざわざ自分が口を付けた方を入れ替えるくらい気を使ってくれる人だ。
    まさかアタシがひと口くれるとは思っていなかったのだろう。思考がフリーズしているのか少し固まっている。

    「アンタはくれたのに、アタシがあげないのは不公平でしょ」

    流石にこの一言で色々と察してくれたのか。

    「……じゃあ、ひと口貰うよ」

    アタシからショコラ味のチュロスを受け取ってひと口。

    「ん!ほっひもおいひいな!」
    「もう……飲み込んでから喋りなよ……」

    仕方ない人だなぁ……と苦笑する。
    ただ、威勢よくひと口あげたのはいいものの。
    その後食べたチュロスの味は……正直ちょっとよく分からなかった。

  • 13◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:03:15

    気付けばあたりは夕焼け色に染まり始めている。
    時刻は既に5時を回ろうかというところだ。
    帰る為の時間を考えると乗れるアトラクションはあと一つが限界だろう。

    「ねぇ、トレーナー。最後にさ、前みたいにあれ乗ろうよ」

    そう言って観覧車の方を指差す。

    「そうだね、そうしようか」

    今日のお出掛けはあの時の約束という名目でもある。
    なら、それに倣って観覧車で締めくくるべきだろう。
    あまり並ぶこともなくすぐに順番が回ってきて、2人で乗り込み向かい合って座る。

    「ドーベル、今日はありがとな。誘ってくれて」
    「アタシが無理やり付き合わせちゃったのに……お礼を言うのはこっちでしょ」
    「いやいやいや!そんな事ないよ!今日一日、楽しかった」
    「そう?なら良かった……アタシも、楽しかった」

    (良かった……楽しかったのはアタシだけじゃなかったんだ……)

    誘うまではあんなに憂鬱だったのに。
    勇気を出して一歩踏み出してしまえば、こんなにも楽しくて。

    (ちゃんと誘ってよかった……)

  • 14◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:03:25

    ブライトからチケットを貰った時はちょっとお節介だな、と思っていたけれど。
    帰ったらもう一度お礼を言った方が良いかもしれない。
    観覧車は回り、アタシたちを乗せたゴンドラはやがて頂点へと差し掛かろうとする。
    あれから2人の間に言葉はないが、夕陽が差し込み暖かな雰囲気がゴンドラの中を満たす。
    ……告白するなら、今じゃないだろうか。
    お出掛けをして、最後に観覧車に乗って。
    前に来た時はトレーナーの事を好きになるだなんて思ってもいなかったけど。
    ……今なら、この気持ちを素直に伝えられるような気がする。
    観覧車の雰囲気に押されるように、するりと零れ落ちた言葉は。

    「……ねぇト「なあドーベル」

    トレーナーの言葉に、かき消される。
    窓の外を見ていたトレーナーは、アタシが喋ろうとしたことに気づいていないのかそのまま続ける。

    「また、2人で来ような」

    トレーナーの言葉は。
    前に来た時にもした、また来ようという約束。
    でも……

    (そっか……2人で来よう……か……)

    以前約束した時は友達も誘おうか?という話だった。
    それが、今回は2人で。
    今はまだ……それでいいのかもしれない。

  • 15◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:03:41

    「……じゃあさ、今度はアンタから誘ってよ」
    「そうだね、そうするよ」

    アタシの言葉に、トレーナーはこちらを見てくしゃりと笑いながら返す。
    ……流石にここから告白するのは無理だろう。
    それに……観覧車はまだてっぺんを過ぎたあたりだ。
    万一告白してフラれていた場合、降りるまでの時間が気まずすぎる。
    そんな事にも気が付かないほど雰囲気に当てられ、冷静さを欠いていたらしい。
    正直トレーナーが言葉を被せてくれたおかげで助かったかもしれない。
    焦らなくても、アタシのペースで一歩ずつ距離を縮めていけばいい。窓の外に視線を移し、街に降りてゆく夕日を眺める。
    ……そろそろ2時のあたりを通過する頃だろうか。ふとトレーナーの視線を感じて正面を向くと、完全に目が合う。

    「……なに?」
    「……へ?いや……なんでもないよ」
    「そう?変なトレーナー」

    トレーナーの頬が少し赤いような気がするが夕日に当てられているせいだろう。再び窓の外に視線を移す。
    次に来るときはどんな2人だろうか。
    ただのウマ娘とその担当トレーナー?それとも……
    先の事はまだ分からないが、ただ一つ。

    (ほんの少しは……アンタに近づけたよね)

    アタシが思い描く、理想の2人に近づけたのは確かだろう。

  • 16◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:03:56

    ~Trainer's view~

    遊園地から帰宅後。自室で一人、物思いに耽ける。
    チケットを受け取った時は以前した約束のせいで気を使わせてしまったかな、と思っていたが今日はドーベル以上に楽しんでしまったかもしれない。
    前回無理やり連れ回してしまった時はどこか浮かない表情をしてたドーベルも今日はずっと楽しそうで安心した。
    それだけなら良かったのだが……最後に観覧車に乗った時。
    あの時、言い訳のしようがないほどに夕陽を眺めるドーベルに見惚れていた。

    「はぁ……これじゃトレーナー失格だな……」

    思わず苦笑が漏れ出てしまう。
    チーフから託されて。2人でトゥインクルシリーズを必死に駆け抜けて。
    そんな月日は、少女を女性へと成長させるには十分だったらしい。
    ますます綺麗になっていくドーベルの成長が楽しみでもあり、今後もトレーナーとして向き合っていけるのか不安にもなる。

    「この調子じゃ、いつかは差し切られちゃうかもな……」

    明日会った時、いつもの自分でいられるだろうか……
    ……考えていても仕方ない。
    俺が為すべきは卒業までの間、全力で彼女を支え、導く事だ。
    布団を被り、微睡みへと身を委ねる。
    ……意識を手放す前に、瞼の裏に浮かんでいたのは。
    夕陽を眺める、彼女の横顔だった。

  • 17◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:04:11

    みたいな話が読みたいので誰か書いてください。
    書きました!ベルちゃん、お誕生日おめでとう!
    年の差ものの王道シチュエーションと言えばやっぱり年下側が中々振り向いて貰えないなぁ……と思ってたら思いの外年上側も意識しちゃってた、ってやつですよね。
    誕生日SSというものを書きたい!とは思ったもののシチュエーションが思い浮かばず、ブライトの一コマを見て
    「ブライトからペアチケットを貰った事にして2人で遊園地デートさせればいいじゃん!ああああああああああああああああでもこの2人育成イベントで遊園地デートしてるううううううううううううう!?」
    となってしまったので『夕陽にときめいて』の上選択肢を選んだ状態の2人、という前提で書かせていただきました。公式が最大手過ぎる。
    このイベントとのコントラストは意識したので少しでも伝わっていれば幸いです。
    誕生日SSとは言うものの当日あった出来事ではない為どうなん……?って感じですがシチュエーションが浮かんでしまったものは仕方ない。
    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 18二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:05:09

    あぁ^〜いいですねぇ〜

  • 19二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:05:57

    美しい・・・
    ありがとうございます

  • 20二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:06:15

    お前が始めた物語だろうが
    自己完結するな
    深夜にいいもの読ませてもらった

  • 21二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:08:30

    寝る前にいいものを見せてもらった。
    これで今日も寝られるよ。

  • 22◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:09:09

    ベルトレをどこまではっちゃけさせるかさじ加減に迷いましたがドーベル評がこれなので遊園地には普通にテンション上がっちゃう人かなぁと解釈しました
    解釈違いの方がいたらごめんなさい

  • 23二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:09:54

    めっちゃ良かった

  • 24二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:10:38

    辺境の掲示板に放り投げる文章量じゃないんよ
    読み応えあったし何より甘酸っぱい青春の一ページが良きだった…ありがとう…

  • 25二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:10:58

    ヒャア深夜の供給だァ!
    ごちそうさまです

  • 26二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:12:34

    一気に読んじゃうほど引き込まれる良いお話でした

  • 27二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:17:29

    フンギャロ

  • 28二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:18:35

    めっちゃいい…ゲームのベルトレをそのまま落とし込んだみたいな性格でめちゃくちゃ解釈一致だった、ありがとう

  • 29◆y6O8WzjYAE22/05/06(金) 00:42:49
  • 30二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 10:43:56

    age

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