雰囲気作りからハジメルフクキタル

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 00:13:02

    「トレーナーさん! こちらお願いします!」
    そう言ってマチカネフクキタルが運んできたのは1mほどの招き猫だった。毒々しいピンクの塗装と胸に書かれた「恋愛成就」。
    「…………」
    思わず絶句した。

    URAファイナルズを優勝してから1年、出会ったばかりの頃のような開運グッズへの依存癖は無くなったが、それはそれとして収集癖の方は今も残っている。
    だがやはり寮の部屋では限界があるそうで、あぶれた開運グッズはこうして我が家に運び込まれるのだ。
    いや、それはいい。許可したのは自分だ。招き猫がベッドで寝ていて人間が床で寝ているだとか、開運グッズと称した数多のゴミが一部屋占有しているだとか、不満がないわけではないがこの際それは別にいい。もう慣れた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 00:21:43

    今言いたいのはもっと最近の話だ。
    今日こそ言ってやろうと思い立ってからすでに4日も立ってしまっている。
    「ねぇ、フクキタル?」
    「ハイ?なんでしょうトレーナーさん」
    思考を現実へと引き戻しフクキタルに目を向けると、彼女はついさっき持ってきた毒々ピンク猫を前からある招き猫と並ぶようにベッドに寝かせていた。
    「…………」
    自分1人で寝ていた時ですら少し窮屈さを感じたほどの小さいベッドだ。
    招き猫一匹の頃は無理すれば使えないことも無かったが、これで完全に招き猫専用の寝床になってしまった。
    二つの陶器に優しく布団をかけるフクキタル。
    少し強めに注意してやろうと思っていたのだが、その慈愛の籠った目付きを見ていたらそんな気も無くなった。
    仕方ないので普通に質問をしながら意図を確認することにした。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 01:01:44

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  • 4二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 01:06:40

    「……フクキタル?」
    「ハイ?」
    「最近持ってくる開運グッズのことなんだけどさ」
    「オォ! よくぞ聞いてくれました」フクキタルが嬉しそうに話し始めた。「こちらはいつもの神社にて貰った時計です! 縁結びの効果があるそうで! 一昨日持ってきたこの本棚には出会いの神様の念が込められているらしいです! そして今あそこにおいてあるアレはなんと! とってもレアな恋色人参! いやぁ〜最近はグッズの集まりも良く、マチカネフクアツマルといった感じです!」
    ニコニコフクキタルに話を遮られてしまったが、図らずも聞きたいことを聞くことができた。
    どうやら最近持ってきている開運グッズは恋愛に偏っているようだ。
    だからピンク系の色が多いのだろう。今や我が家はピンクに塗れており、とある系統のホテルのようになってしまっている。
    そしてフクキタルに言いたいのはここからだ。
    「お願いがあるんだけどさ、」
    「ハイ?」
    「しばらくの間ピンク、つまり恋愛系のグッズを持ってくるのはやめに——」
    「そういえばトレーナーさん‼︎ 今日は泊まっていってもよろしいですか?」
    何故だか焦った様子のフクキタルに、またも話を遮られてしまった。
    仕方ないので質問に答えることにする。
    「泊まっていくの? いいよ」
    話はまだ終わっていないのだが、フクキタルが我が家に泊まるのは最早恒例であるので、とりあえず了承の返事をした。
    お客さん用の敷布団は常備しているし、ベッドの方も招き猫が邪魔ではあるがまあ無理すれば使えないこともない。
    泊まるとなればゆっくり話もできるだろう。
    ふとフクキタルの方を見ると、明らかにソワソワしていた。
    外泊など慣れっこだろうに、一体どうしたのだろうか?

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:00:33

    かかっているようですね…

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:05:55

    珍獣の皮では到底隠しきれない掛かり具合ですね……

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:26:19

    いいね

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:27:36

    すこ

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:34:23

    つ、続きを続きをくだされ

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:35:42

    泊まるのが恒例……?

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 02:48:57

    気付くまいとしてるのかクソボケなのかでこの後の展開が変わってくるな

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 07:57:54

    あれ?続きは?

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 10:09:13

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 10:16:35

    夕飯、団欒、楽しい時間はあっという間に過ぎるものである。
    結局話は出来なかった。
    話を切り出そうとしても、フクキタルの笑顔を見ていると別にいいか、と思えてしまうのだ。
    すでに時計の短針は12の数字に乗りかかっている。
    流石にこんな時間から注意などという楽しくない話をしようとは思わない。
    2人とも風呂にはもう入り終わったことだし……
    「そろそろ寝ようか」
    そうフクキタルに声をかけた。
    「エッ⁉︎ アッ、ハイ」
    動揺されてしまった。今の自分の発言は別に変なものではない……と思う。
    どうもさっきからフクキタルの様子がおかしい。
    元々普通とは言い難いがそれを差し引いてもなお挙動不審だ。
    「布団のある場所知ってるよね? 持ってきてもらっていい?」
    「リ、了解しました」
    フクキタルが布団を取りに行く。
    元々は布団が仕舞われている部屋に寝てもらっていたのだが今やその部屋は開運グッズで埋まってしまっており、とてもじゃないが人が寝れるような状況じゃない。
    そういうわけで今は寝室に置いてあるベッドの横に布団を敷いて寝てもらっている。
    別にリビングでもいいのでは?と聞いたことがある。「エ⁉︎ リビングで寝ろなんてそんな……エート……アー……バチが当たりますよ!」と言われた。よくわからなかったが、そのときはかなり眠かったので特に何も考えずに受け入れてしまったのだ。
    そこからフクキタルは、当然のように自分が寝ているベッドの横に布団を持ってくるようになった。

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 10:25:26

    「持ってきましたよトレーナーさん!」
    そんなことを考えている間にフクキタルが布団を軽々と持ってきてくれた。
    流石はウマ娘、人間だったら多少はフラついてしまいこうはいかないだろう。
    「ありがとう」
    電気を消そうと部屋の入り口に向かう。
    スイッチを押して再びベッドのある方へ体を向けると、すでに布団に入っているフクキタルが目に入った。
    どういう寝方をしているのだろうか、体全体が隠れ掛け布団の中心が丸く盛り上がっている。
    「おやすみ」
    起きているのか知らないが、一応そう声をかける。
    返事はなかったので既に寝ているのだろうか?
    そんなことを考えながら隣にあるベッドに入ろうと掛け布団を捲ったところで大きな問題に気がついた。

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 10:27:39

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 10:28:19

    招き猫2匹のせいで自分が寝る場所がない。
    フクキタルが今日持ってきた新しい方を追加でベッドに寝かせる様は見ていたし、その上でベッドはもう使えないなとも考えたのに、そのことを完全に忘れていた。
    一瞬どうしたものかと思ったが、まあすることは決まっている。
    当然のことだが床で眠るのはあまり快適ではない。
    フクキタルには申し訳ないが、招き猫を退かさせてもらうことにした。
    「よいしょ、」
    招き猫を持ち上げようとそう声を出した瞬間だった。
    「アァーダメデスヨトレーナーサンー」
    フクキタルが謎の声を上げた。いや内容はわかるのだが棒読みなので謎の声に聞こえるのだ。
    「駄目っていうのはどういうこと?」
    フクキタルにそう問いかける。彼女は頭だけ布団から出し、亀のような状態になっていた。
    「エッ⁉︎……イヤ、ソノデスネ、エート…………そう! お告げです! 2匹の猫をベッドにて祀るべしというお告げがあったのです!」
    「…………」
    本当だろうか?フクキタルの様子はかなり怪しい。なんというか……レースで掛かってしまった時に似ている。顔がアワアワと落ち着かず、表情が安定していない。
    「……本当?」
    「モモモモチロン! ショウジキモノニハフクキタルです!」
    「…………」
    正直信じてはいない。
    だがこれ以上の夜更かしは明日に響く。
    「…………わかった」
    リビングには座椅子がある。今夜はそこで寝ることにしよう

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 11:17:25

    このレスは削除されています

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 11:17:53

    期待して待ってます

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 12:20:17

    待ってるぞ

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 14:41:31

    「アァ〜待って!待ってくださいトレーナーさん!」フクキタルが叫ぶ。「寝具でないもので寝ても疲れは取れないでしょう?」
    それは正しい。かつて樫本理事長代理にも似たようなことを言われた。
    「まあ確かに」
    「しかしこのままではトレーナーさんは寝具の上では寝られません」
    「…………」
    ベッドから追い出した元凶が何を言っているのだろうか?
    「仕方がないので私の布団に入ってきてもいいですよ? ムッフフ〜、トレーナーさんは幸せものですねぇ」
    言いたいことはたくさんあるが、それはそれとして悩みどころだ。
    確かにちゃんと布団で寝たい気持ちはある。
    しかしいくら相手がフクキタルといえど、流石に学生と同じ布団で寝るのはまずい気がする。
    「いや、今夜一回くらいなら平気だよ、それじゃあおやすみ」
    「駄目です!駄目ですって!リビングで寝たら大いなる災いが降りかかると……」
    リビングへ向かおうとするとフクキタルは慌てて止めてきた。一体どんな災いが降りかかるのだろうか。
    「どんな?」
    「エッ?イヤエート…………そんなのはいいんです! いいから早くこっちにきてください! じゃないとシラオキ様にお願いして私がトレーナーさんに災いを降りかけます!」
    もう滅茶苦茶のやりたい放題だ。
    二言三言言ってやろうとも思っていたがそんな気も無くなった。ただひたすらに早く寝たい。
    軽くため息をついてから
    「じゃあご一緒させてもらうよ」
    「ピェッ⁉︎」
    フクキタルの布団にお邪魔することにした。
    掛け布団をめくりフクキタルにぶつからないように足を入れた。
    フクキタルと一緒に入っているからだろうか、とても暖かい。
    最初はモゾモゾと動いていたフクキタルも、少しずつではあるが動かなくなってきた。
    背中にフクキタルが引っ付いているのを感じる。
    自分は抱き枕ではないのだが……
    しかし背中の温もりというのは不思議と人を安心させるもので、気づいた時には自然と目を瞑っていた。
    これはいい。
    このまま朝を迎えられたら幸せだろう。
    そんなことを考えていたら、突然思考がプッツリと途切れた。

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 14:42:22

    目が覚めたがどうにも様子がおかしい。
    まだ窓の外が薄暗い。
    もしかしたらだいぶ早く目が覚めてしまったのかもしれない。
    時計を確認しようと首に力を込める。
    「……ッ!」
    動かない。寝違えてしまったのだろうか。
    仕方がないので腕を伸ばして時計の方を持ってくることにする。
    「…………」
    …………動かない。これは…………金縛りというやつだろうか?

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 14:42:55

    ふと先日フクキタルと行った山のことを思い出す。
    あそこは恐ろしい場所だった。おそらくこの世のものではない存在の声と偽タイキシャトルからの電話…………
    その時初めて気がついたのだが、自分の体は霊感が強いらしい。
    もしかしたらそこから何か変なものを憑れてきてしまったのかもしれない。

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 14:43:56

    頭に浮かんだ不穏な考えをそれこそ頭を振って追い出そうとする。…………まあ頭も動かせないわけだが。
    こちらの不安を感じてか、腕に抱きついているフクキタルも目を覚ました。
    「私は……とても幸せ者ですね マチカネフクキミチアフレタルといった感じです」
    …………特に不穏な気配とかは感じてなさそうだ。
    何やら囁いていたが正直今はそれどころではない。
    とりあえずフクキタルは特に問題無さそうなので、暫くの間放置することにする。
    話は後でもう一度聞かせてもらおう。
    はてさてどうしたら体を動かせるだろうか。
    「トレーナーさん……少し話を聞いてくれますか?」
    いや、まず本当に体を動かせないのかの再確認だ。勘違いの可能性も十分にある。
    「トレーナーさん、私は……本当に感謝しています」
    やはり手も足も動かない。というか体全体に感覚がない。
    とりあえず自分が本当に金縛りにあっているのはわかった。
    「…………嫌だったら断ってくれて結構です」
    事実はハッキリした。
    しかし冷静になって考えてみると、体が動かせない以上出来ることなど殆どない。
    「……でもやっぱりトレーナーさんは私にとって運命の人なんです」
    仕方がないので半分ヤケクソではあるが神様に祈ることにした。
    手を組むことも出来ないので頭にギュッと力を込める。
    「今はまだ学生ですけれど…………もう少し経ったら、その…………」
    その時だった。
    突如ベッドの上にある恋愛招き猫が光り始めた。
    その光は部屋を桃色に照らした後、已然力を込めたままの頭に集まってきた。体の感覚が少しずつ元に戻っていく。
    「私と結婚してくれますか?」
    フクキタルが何か言ったのとほぼ同時に、視界が縦に大きく揺れた。
    自分の首が動いたということに気づくのにそう時間はいらなかった。
    「…………え?え?本当にいいっニャ゛ッ⁉︎」
    「よかったぁ〜」
    あまりの感激に思わずフクキタルを抱きしめた。
    体が思い通りに動くというのはこんなにも嬉しいことだったのか。

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 16:08:02

    うそでしょ……ガン無視じゃない……

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 16:24:22

    このトレーナー鼓膜実装されてなくない?

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 16:26:08

    おっとクソボケかー?

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 16:30:53

    金縛りだからね鼓膜も振動出来ないししょうがないね

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:06:18

    30秒程そのままでいただろうか、自分がフクキタルを抱きしめたままなのに気づき、軽く謝りながら彼女を解放する。
    何故かは分からないが、フクキタルはとても幸せそうな、こっちまで嬉しくなってくるいつもの笑顔を浮かべていた。

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:07:19

    (とりあえずここで)おわり

  • 31二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:11:54

    これは…どうなるの!?

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:51:08

    なんだかんだで結婚だな!

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:51:27

    このレスは削除されています

  • 34二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:56:41

    この後のダイジェスト

    フクキタルに外出へ誘われるトレーナー
    パワースポットだろうと行き先を聞かずについていくが、到着したのはフクキタルの実家。
    いきなり物々しい和室に通される。
    状況の掴めないトレーナー。
    フクキタルの両親と話しているうちに内容が自分たちの結婚話だと気づく。
    何故こうなったのかは分からないが、トレーナーはトレーナーでフクキタルのことが好きなためその場で婚約を受け入れることを判断。
    数年後、結婚。
    トレーナーが即断即決できてしまったので、あの日トレーナーの家でお互いの身に何が起きていたかは両方ともわかっていない。
    結婚してから1年、ピンクの招き猫は未だにベッドで寝かされている。

  • 35二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:58:02

    ピンクの招き猫は2人を結びつける開運アイテムであったか

  • 36二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 17:59:08

    >>34

    よし!安心したので今日も枕を高くして眠れる!

  • 37二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 18:03:39

    ハッピーエンドで良かった

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 18:10:49

    書いてはいたんですけど今日中に終わりそうに無いのでダイジェストで失礼します

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 18:55:41

    別に書くのなら待つからゆっくりでもよかったのに
    ともかく、フクキタルSSありがたい、面白かったよ

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 18:56:29

    素晴らしい…

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 22:10:24

    このレスは削除されています

  • 42二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 22:12:40

    フクキタルと一緒に住むようになってそろそろ一年、寝る時は布団を川の字に敷いている。
    ベッドがあるにも関わらず、だ。
    しかしベッドを使っていないのにはちゃんとした理由がある。
    そこの上はとあるピンクの招き猫の所定位置なのだ。
    今の自分たちがあるのはこの招き猫のお陰といってもいい。それどころかもしかしたらあの時悪いモノから命を救ってくれていたのかもしれない。
    しかしあの日以来、この猫が光ったことはない。
    やはり「恋愛成就」を勝手に「無病息災」に書き換えたのはマズかったかもしれない。せめて上塗りくらいはするべきだった。冷静になって考えてみると、マッキーで線を引いて元の御利益を消すのは罰当たりにも程がある。
    「……よし!」
    決心した。一度この猫を真っさらで綺麗な状態にもどそうと。

  • 43二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 22:20:46

    善は急げだ。早速水拭きの用意をして拭き始める。
    とはいってももともと陶器、うっすら積もっているホコリ以外ほとんど汚れていない。
    ……胸のマッキー以外は。
    これが想像以上に曲者だった。いくら油性とはいえ強く擦れば落ちるだろうと考えていたのだが甘かった。
    何か不思議な力が働いているのではと錯覚するほど全く落ちない。
    水拭きに限界を感じ洗剤、漂白剤、重曹と試してみたが、それでも落ちない。薄くなっている気配すらない。

    1時間ほど擦り続け心が折れかけた頃ふと思いついた。
    ヤスリで削ればいいのでは?
    どうせこの後然るべき場所で塗装なり祈祷なりしてもらう予定なのだ。
    神様も綺麗になるための前準備と分かれば許してくれるだろう。

  • 44二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 22:41:02

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  • 45二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 23:35:53

    確かフクキタルのグッズの墓場にヤスリがあったはずだ。流石に新しいグッズを集めることは無くなったが、捨てるとなると惜しくなるらしく、グッズが減ることは当分なさそうである。
    かつての来客用、というか実質フクキタル用の布団が置かれていた部屋に足を踏み入れる。
    求めるものを見つけるまでに1時間はかかると思っていたが、図らずもヤスリはすぐに見つかった。
    目の荒さにもいくつか種類があったので、適当に見繕って手に取る。開運グッズとしてヤスリを、それも複数集めるとは当時のフクキタルは一体どんな占いをしたのだろうか。
    そんなことを考えながら寝室の招き猫のところへ戻った。
    とりあえず一番削れそうなのを使って「無病息災」を擦ってみる。
    「……おっ?」
    少し文字色が薄くなった気がする。
    さらに擦ってみる。
    今度は確実に文字色が薄くなった。
    人間目に見える進捗が出ると俄然やる気になるものである。
    擦れば擦るほど薄くなっていくのはやはり嬉しい。
    まあとはいっても成果はまだまだ微々たるものだ。
    完全に見えなくなるまでにはもっと時間が要求されそうである。
    「よしっ!」
    本腰入れて作業に取り組むために何か飲み物を取ってくることにした。

  • 46二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 23:45:44

    冷蔵庫に入っていたにんじんジュースを持って再び猫のところへ戻る。
    もう一度作業を始めようとヤスリを「無病息災」に当てたところで違和感に気づいた。
    「あれ?」
    先程頑張って薄くしたはずの文字が元通りの真っ黒になっていた。
    最初は見間違えかと思った。
    しかし手で触ってみて確信する。通常ヤスリで擦ったところはザラザラするはずなのだが、「無病息災」はツルツルしていた。
    不思議なこともあるものだ。
    そう思いながらにんじんジュースを開けようとした瞬間、けたたましく電話が鳴った。

  • 47二次元好きの匿名さん21/09/22(水) 23:57:09

    「マチカネフクキタルさんのお宅でしょうか?」
    電話の主は病院だった。
    フクキタルに何かあったのだろうか、自身の動悸が早くなるのを感じる。
    最悪の連絡でないことを祈りながら相手の次の言葉を待つ。
    「マチカネフクキタルさんが交通事故に巻き込まれてしまいまして……」
    目の前が真っ暗になった。

  • 48二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 08:25:24

    落とさんぞ

  • 49二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 08:31:15

    次回「フクキタル、死す」

  • 50二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 08:40:44

    マッキーで上塗りするのヤバすぎだろ

  • 51二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 08:57:31

    >>50

    そもそもはフクキタルが持ってきた怪しいグッズで御神体でもなんでもないしまあ……うん

  • 52二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 18:57:25

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  • 53二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 18:58:23

    削除
    気づいた時には病室の中にいた。
    白いベッドの上で目を瞑ったフクキタルはまるで眠っているようだった。
    時間と自分の感覚がない。ただずっとベッドの横に立ち尽くしていた。
    「……旦那様でしょうか?」
    生まれたばかりの赤子でさえ医者であると断言できそうな風貌の男に声をかけられた。
    どうにも怪しい。自分たちを引き裂きにきた死神のような気すらしてくる。
    「こんなところで立ち話をするわけにもいきません、説明しなければならないこともございます、少々御時間いただいてもよろしいでしょうか」
    いや、自分は何を考えているのだろうか、そういえばここは病院だ。
    変に邪推する必要もなくこの男は医者に決まっている。
    「……わかりました」
    そう返事はしたが、どうにも思考がまとまらない。
    ただ言われた通りにその医者の後ろについていく。
    再び自分の感覚がなくなっていくのを感じる。
    わかっていたつもりだったが、わかりきってはいなかった。
    自分にとってフクキタルの存在は、想像以上に大きかったのだろう。
    そのことに気づいた瞬間、何か冷たいものが頬を伝った。
    自分の涙だった。
    診察室のようなところに案内されるまで涙は止まらなかった。
    何故かはわからないが、その医者はこちらを何か変なものを見るような目で見つめていた。

  • 54二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 19:37:37

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  • 55二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 19:38:55

    このレスは削除されています

  • 56二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 19:42:40

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  • 57二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 19:49:45

    (誤字により再再投稿)

    「全くせっかちですねぇ〜」
    恥ずかしい話ではあるが、結論から言うと全ては自分の勘違いだった。
    いや、正確にいうと全てではない。フクキタルが車に跳ねられたのは本当である。
    しかし運良くバッグの中に入っていた荷物がクッションとなり、一時的な脳震盪以外には一切の傷を負わなかったらしい。
    たしかに冷静になって考えてみると、最初の電話もフクキタルが死んだとは言っていなかった。
    途中まで聞いて勝手に目の前を真っ暗にした自分にも責任はあるかもしれない。
    だがあそこまでの罰を受ける必要があったのだろうか。
    医者に変な目で見られるわ、話がすれ違うわ……あの10分は地獄だった。
    「ムッフフ〜、看護師さんに聞きましたよ、私が死んだと思って泣いてくれたそうじゃないですか」
    「泣くに決まってるでしょ、フクキタルがいなくなった時のことを考えると耐えられないよ」
    「ピェッ⁉︎」
    からかい1の本心9でそう言うと、フクキタルは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
    それにしても、いつの間に看護婦とそんな話を出来るほど仲良くなったのか。
    自分が病院に着いた頃、つまり40分ほど前にはまだベッドで気絶していたはずだ。
    やはり笑顔か? 今は聞かないがフクキタルの笑顔はいずれ癌にも効くようになる。ならば人と仲良くなるくらいは楽勝……いや、それはない。
    「あ! 言うのを忘れてましたが本日は病院に泊まりますので!」
    まだ微妙に顔の赤いフクキタルが思い出したようにそう言った。
    検査はしたとはいえ交通事故に遭ったのだ。それが賢明だろう。
    さて、自分もそろそろ帰らなければならない。
    本来今日は午後から出勤だったのだ。フクキタルは無事だったのだから学園には早急に連絡を入れる必要がある。
    ベッドの横に置かれた椅子から立ち上がったその時ふと思いついた。
    「明日帰ってきたら久しぶりに外食しようか」
    「いいですね! 今から楽しみです!」
    快活な返事を発するニコニコのフクキタルを背に病室を出た。

  • 58二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 20:15:24

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  • 59二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 20:17:44

    家につき学園へ連絡を入れた後、しばらくの間はリビングで寛いでいた。
    何かを忘れているような気がする。
    そもそも事故の連絡を受ける前、何をしていたのだったか……
    「……あ」
    そうだ、招き猫だ。
    ようやく作業に進展が見えたところだったはずだ。
    だが流石に今から作業を再開しようとは思わない。
    正直なところゆっくりしたい。
    しかし作業をしていたのは寝室、片付けないと今夜は座椅子で寝ることになるだろう。
    「……仕方ない」
    重い腰を上げ寝室へ向かう。
    ヤスリを使ったのだ。掃除機もかける必要がある。
    そんなことを考えていたらいつのまにか寝室に着いていた。
    何をするにも取り敢えず部屋の中心の招き猫をどかさなければならない。
    「よいしょ」
    いつかも似たようなことをした気がする。
    持ち上げた招き猫をベッドの上に戻す。
    「……あれ?」
    そこでおかしなことに気がついた。
    「無病息災」の文字とマッキーの書き跡が消え、胴体のあちこちが欠けている。
    心なしか顔も変わっている気がする。
    ザ・招き猫といった仏頂面だったはずなのだが、今は少し微笑んでいるようにも見える。役割を終えた、と言わんばかりの満足げな顔だ。
    不思議なこともあるものだ。
    自然と手が招き猫の頭へ伸びた。撫でる。
    理由は謎だが、この招き猫に感謝しなければならないような気がした。
    「よし!」
    やはり今度然るべき場所で修理してもらおう。
    フクキタルと一緒に。
    きっと喜んでくれるはずだ。
    この招き猫もフクキタルも。

  • 60二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 20:21:52

    おわりです、度重なる誤字により何度も削除してしまいすみません。
    また、ここまでお付き合いしてくださった方々、本当に有難うございました。

  • 61二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 20:24:08

    ありがとう...適度なシリアス面もあってオチも綺麗で面白かった

  • 62二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 20:27:05

    いい作品でした、ありがとうございます。

  • 63二次元好きの匿名さん21/09/23(木) 22:40:59

    フクキタルホント可愛い

  • 64二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 08:00:50

    このレスは削除されています

  • 65二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 14:58:18

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  • 66二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 16:47:33

    これ、看護師さんと仲良くなっている描写には理由があるのか、、、?もしかして旦那さんは知らずに前から病院に通っていた?つまり?

  • 67二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 17:06:28

    >>66

    シンプルにフクキタルの笑顔の魔力を描写してるんじゃね?

  • 68二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 17:11:40

    >>67

    これは魔力ありますわ

  • 69二次元好きの匿名さん21/09/25(土) 00:38:19
  • 70二次元好きの匿名さん21/09/25(土) 07:55:37

オススメ

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