ここだけモザイク世界線 2

  • 1二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 21:36:29

    ※注意

    1がひたすらSSを書いているスレです。


    前スレ

    ここだけ|あにまん掲示板ロナルドとヒナイチが吸血鬼の世界〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。以前は吸対のカナリアとして活…bbs.animanch.com

    以下初期設定。

    〇ドラルク

    Δとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。

    本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。

    以前は吸対のカナリアとして活躍していたが、最近優秀な新人が入ったのでもっと楽ができるぞーと息巻いていたところに謎の吸血鬼コンビのお世話係に任命されてしまった。

    アルマジロのジョンとはいつも一緒。たまに酷い悪夢を見て寝不足になるのが最近の悩み


    〇ロナルド

    突然ドラルクの前に現れた謎の吸血鬼コンビの片割れ。

    日光やにんにく、そして銀とあらゆる弱点が通用しない恐るべき吸血鬼だが何故かセロリが苦手。

    吸血鬼としての能力は非常に優秀で、大抵の能力は使えるみたいだが、ここ一番の場面ではなぜか銃か拳を重用する癖がある。

    過去に致命的な失敗をしたとのことで表情が険しい。

    ドラルクの後先考えない行動によく口を出しがちで、特に夜の勤務時間時はヒナイチともどもひな鳥のようにドラルクについてまわる。

    ドラルクが就寝中などにヒナイチとふらっと出かけてはボロボロになって帰ってくることがある。しかし何をしているのか絶対に話してくれない。


    〇ヒナイチ

    ドラルクの前に現れた吸血コンビの二人目。

    ロナルド程は弱点に耐性を持っておらず、特に日の光に弱い。

    日光に関しては「素質が無いのに無理やり転化した代償」とのことで、髪の赤色も若干濁ってしまっている。

    代わりに夜の闇において彼女を捕まえられるものはいないほど俊敏であり、また二刀流の達人でもある。

    ロナルドとは兄妹のように仲が良いが別に実の兄妹でもなければ恋人とかでもないらしい。

    たまにロナルドともども泣きだしそうな顔でドラルクを見ている時がある。

  • 2二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 21:37:10

    〇半田
    吸対所属のエース。とにかく仕事ができるのだが、真面目過ぎて余裕がない所がある。
    同じダンピールで先輩にあたるドラルクには懐いているようだ。
    新たに表れた吸血鬼コンビには大いに警戒しているのだが、なぜか軽口をたたきやすく内心ホッとしている。なぜだろう?

    〇ヒヨシ
    レッドバレットの異名を持つ腕利きのハンター。妹が一人いる。
    無類の女好きだが過去に盛大にやらかしたこともあり、ある程度自制している。
    最近現れた吸血鬼が自分に似ているのが妙に気になる。あの半分でも身長があればな……。

    〇ミカエラ
    吸対所属のエースその2であり、人間。半田の先輩筋にあたり、弟が一人いる。
    きっちりと制服を着こなし真面目に職務に当たっているが、最近現れた吸血鬼がその事に茶々を入れてくるので困惑している。
    何が問題なのだ!

    〇ケン
    突然ハンターギルドに現れ、ハンターをやりたいと言い出した謎の吸血鬼。
    催眠と結界の二重使用という極めて高度な技術を持つ。ロナルドとヒナイチは以前からの知り合いのようで、たまに共同で戦ったりもしている。
    何故か吸対所属のミカエラをよく茶化す。

    〇ディック
    「揺らぐ影」の二つ名を持つ古き血の吸血鬼。
    ロナルドとヒナイチがピンチになるとどこからともなく現れ、変身能力で場をかき回して去っていくタ〇シード仮面的存在。
    2人に協力するのは何か目的があるようだ。以前、息子がいたらしい。

    〇カズサ
    神奈川県警吸血鬼対策部本部長。
    人員不足だった新横吸対の為に、渋るイギリス吸対から人材を引っ張ってきた人。
    人員の一人はクソ雑魚ダンピールおじさんだったが十分働いてくれるのでオッケー。
    (ヒナイチを見て)おや、そこの吸血鬼のお嬢さん、オレの顔に見覚えがあるのかい?

  • 3二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 21:37:29

    〇ジョン
    ドラルクと永遠を誓う愛すべき〇。

    最近嫌な夢を見るんだヌ。黒い何かがドラルクさまに襲い掛かるんだヌ。
    そして、まるで存在をすする様にドラルクさまが消えていくんだヌ。

    ヌンは何もできなかったヌ。
    見ることしかできなくて、そしてヌンの体もぼろぼろと塵になっていくんだヌ。
    ……夢はいつもそこで終わりヌ。


    基礎ルール
    ・御真祖とフクマさんが存在していない
    ・そもそも竜の一族が存在していない。ノースディンは存在している。ドラウスたちは人間としてなら存在しているかもしれない
    ・記憶の持ち越しは元から吸血鬼か人→吸血鬼のみ。記憶のない吸血鬼もいる
    ・記憶を持ち越した者は、家族との血縁関係や友人関係がなかった事になる。
    ・吸血鬼が人間かダンピールになっている場合は確定で「何か」があった。
    ・本編で複数能力持ちだった吸血鬼のうち何人かは一部の能力が消えている場合がある(例、イシカナがタピオカの能力しか持っていない)
    ・一部の人間にもうっすらと記憶の残滓が残っている場合があるが夢のようにおぼろげ。
    ・存在が丸々消えている吸血鬼もいる(例、へんな)
    ・ロナルドヒナイチは頻繁に「何か」と戦っている

    ・「それ」は竜の臭いに惹かれている

  • 4二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 21:44:39

    前回のあらすじ。
    シリアス続きだったシンヨコにポンチくんが帰ってきた。
    スコスコは無慈悲な現実に泣いた。

  • 5二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:00:49

    ヌシュヌシュ

  • 6二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:01:17

    ヌシュって言い方好き

  • 7二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:03:54

    おまけ

    ここは新横浜某所の駅前通り。
    野球拳が道行く人に声をかけている。
    「へい!そこの姉ちゃんオレと野球拳してかない?」ラー←効果音

    『魔法美少女野球拳ピンク!!』
    野球拳は突然可憐な魔法美少女に変身した。

    「……」
    「……」

    お姉さんは野球拳ピンクに向かって無言でスマホのシャッターを切った。
    人生に新たな潤いが出来た瞬間である。

  • 8二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:14:47

    前スレ>>1の設定のシンヨコを皆で考えるのかと思って開いたら神SSで驚いた(好き)

  • 9二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:15:30

    出てこないなって思ってたら直接かかわってないのに巻き添えにあってて笑ったww

  • 10二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:16:11

    ヌーシュ

  • 11二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:25:43

    最初皆で考えるタイプのスレのつもりだったんですが、設定固めすぎて議論で伸ばすのは難しそうだったのと余ったスレ勿体なかったので、落ちたら即終了のつもりで細々とSS書いてたらこうなってましたね……

  • 12二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:27:03

    >>11

    頑張って保守るので最後まで突っ走ってください……!!

  • 13二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 22:50:53

    スレ残り少ないから感想どうしよう…って思ってたら新スレ立ってた
    オチに草生えるけど二人共戻って?きてよかった。続き楽しみにしてます

  • 14二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 09:50:59

    モザイク世界線、ってタイトル気になるな
    前回終盤にもモザイク出てきたけど

  • 15二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 13:08:49

    >>11

    なるほどwww

  • 16二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 20:25:01

    ヌーシュ

  • 17二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:36:29

    最終的にいつもの賑やかな夜を取り戻したシンヨコ。
    事件現場であるVRCから撤収できたのは夜明け前の事であった。
    太陽の日差しにあまり強くないヒナイチは、一足先に家へと戻らせてもらっていた。
    今現在、彼女らが根城にしているのは駅からそう遠くないオートロック式のマンション。
    つまりドラルクとジョンの家に押しかけていた。

    来た当初はドラルクからそれはまあ色々な文句を言われた。ヒナイチもそれは当然だろうと思う。
    だがこの件に関して意外に肝が座っていたのはロナルドの方である。
    馬耳東風と言わんばかりにドラルクのありとあらゆる文句を聞き流し、自分たちを家に置かなければシンヨコの管轄内で暴れまわって仕事を増やすと脅して居候を勝ち取ったのだった。ひどい脅迫だったとヒナイチはしみじみ思う。
    だがそのおかげでドラルクの傍からあまり離れることなくいられるので、文句は言えないのだが。

    最初はギスギスしていなかったとはとても言えない様子だったが、居候暮らしは一週間二週間一か月と経過していくにつれて驚くほどすんなりと落ち着いてしまった。
    自分たちがよく知るドラルクではなくとも、共通することは多かったことがヒナイチには少しうれしかった。

    ヒナイチは窓ガラスの遮光カーテンを閉めようとする。
    閉め切る前に隙間から窓を見ると、夜空が赤味と空色を混ぜながら白んできていた。もうじき日が昇り切るのだろう。
    吸対の副隊長をしていたころは、日の出は安心と仕事の終わりの象徴だった。
    吸血鬼たちの動きが静まり、ようやく人間の時間が戻る。二つの種族の動きが切り替わる、ちょうど狭間の一番静かな時間。
    仕事で凝り固まった緊張を解きほぐし、ゆっくりと日が昇るのを眺めるのが、ヒナイチが仕事をするうえで好きだった時間の一つだった。

    日の出を見たい未練を振り切るように、今度こそカーテンを完全に閉め切る。
    こうなったことに後悔は微塵もないが、それでも、寂しさはある。

  • 18二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:37:50

    誰もいない暗さを取り戻した部屋の中、ヒナイチはゆっくりと座り込み、そこでようやく

    「……こわかった」

    とつぶやいた。

    怖かったのだ。ドラルクがまたいなくなってしまうのではないかと。
    怖かったのだ。ロナルドが傷だらけになっていたことが。

    そしてまた思う、ジョンがあそこであの宝石を取り戻さなければどうなっていたのか。

    2人を失う事が、たまらなくこわい。
    またあの凄惨な状況に逆戻りすることが、ほんとうに、ほんとうにこわい。

    ヒナイチは膝を抱える。
    今なら、ほんの少し泣いても許される筈だ。



    日の出を眺めていたのは、ヒナイチだけではない。

    吸対の屋上にあるベンチで、ドラルクは魂が抜けたように座り込んでいた。
    (なんなんだここ最近)

    あまりのハードさに根を上げたくなるドラちゃんである。
    ダンピールなので日差しが得意なわけではないが(肌が焼けやすいので)、日が出ればひとまずの仕事が減るという最低保証が今はたまらなく嬉しかった。

    さっき買ったデカフェの缶コーヒーをすする。疲れているのでもう少し糖度が高い奴を買えばよかった。
    本当は何か食べ物もあった方が良いのかもしれないが、今食べたら戻しそうなので自重する。
    傍らのジョンはよほど疲れていたのか眠ってしまっていた。

  • 19二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:39:19

    (なんでこんなことになってるんだ。もうちょっとゆるーく町の安全を守る定時帰宅系給料泥棒型公務員を目指していたというのに)
    これではクソ ゲー実況もクソ映画レビューも美少女Vチューバーをするのも夢のまた夢。そもそも公務員が副業するんじゃねえというツッコミは置いといて、現状はドラルクの理想とはかけ離れている。
    (それもこれも全部あの二人が来てからだ。だいたいなんだ監督責任及び強制同居って!私に人権とかないのかね全く!!)

    (まったく……)
    もう少し文句を言おうとして、押し黙る。

    『ばっかやろう』
    『勝手に動かれてどれだけ肝が冷えたと思っているんだ……!』

    「あーーーーー」
    ドラルクはぐしゃぐしゃと頭をかく。
    いかん、調子が狂う。あの二人が絡むと本当に狂う。

    少なくとも若造が派手な負傷をして全く心穏やかでない自分がいる。
    今でも思い出すと手汗がじっとりと湿る。
    ヒナイチのほとんど紙一重の攻防が見ていられなかった自分がいる。
    あんな達人技土壇場で見せんでいい。

    (……いいだろう、この手の高難易度ゲームはどんとこいだ)
    次こそは誰一人負傷無しだ。そもそも安心安全テキトーにやっても勝てる布陣がドラちゃんのモットーなのである。
    最近はイレギュラーが多すぎてまるで達成できていないが。
    まずは……、とそこまで考えたところで、煙草の煙の臭いがドラルクの鼻をくすぐった。

    臭いの出所を見る。
    屋上の出入り口、つまり塔屋の上で、一人朝日を眺めながら煙草をくゆらす吸血鬼がいた。

  • 20二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:40:04

    「君、煙草吸うんだね」
    「……ああ?」

    ロナルドが気だるげに返事をする。
    銀髪が日の出に透かされ、美しい影色を頬に落としている。
    吸血鬼特有の赤い瞳が、空からの光の反射でこの時ばかりは青く見えた。
    吸血鬼の癖に堂々と日差しの前に出るんじゃないなどケチをつけたくなるが、悔しい事にその姿は異様に絵になっていた。

    「昔は仕事の時に吸ってた。一回禁煙したけど」
    「つまり禁煙失敗したのか」「うるせ」

    「また吸い始めるきっかけがあったんだよ」
    ロナルドは、吸いかけの煙草を携帯灰皿に突っ込んで消した。

    辺りには煙草の煙臭さだけが残る。

    ロナルドが立ち上がって、ドラルクを無言で見下ろす。
    ドラルクも同様に、ロナルドを見上げる。

    仕事って何をしていたんだい?きっかけって?
    いつもであれば遠慮躊躇なく聞いていたその質問を、ドラルクは口にすることができなかった。




    その後の話の顛末を書くと、まずゼンラニウムとスコスコ妖精はそのままVRCで保護、残った「吸血鬼の心臓」とされる結晶体は吸対に一回押収されることになった。
    ヨモツザカは心臓に関してはかなりぶつくさ文句を言っていたが、目覚めたゼンラ二ウムへの興味を無視できなかったのも本音らしく一旦は研究に集中するとのことで話は収まった。
    ドラルクの粘り勝ちである。

    一方VRCに収容されていたサテツは、騒動への対処の評価や、とくに素行不良もないということでハンターギルドの方で監督されることが決まった。

  • 21二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:40:58

    吸対はすでにロナルドとヒナイチを抱えているのと、戦力として非常に優秀なので今の情勢では分散させた方が良いだろうというドラルクの鶴の一声が決め手だった。
    「ギルドマスターならオレも安心できるし、慣れてるし。ショットやマリアたちにも会いたいからこれで良いよ」
    とサテツの言。

    そして回収された「吸血鬼の心臓」こと結晶体だが、わずかな輝きと脈動は確認できたが、スコスコの時のような輝きの強さはなく、あえて例えるならば虫の息といった感じだ。
    念のため半田にも調べてもらったが、ドラルクと同様「吸血鬼の気配はする」という結論ではあった。だが、

    「聞いたことないぞ、吸血鬼の心臓など」
    「そうなの?」
    ロナルドが素っ頓狂な声を上げた。

    「貴様吸血鬼だろう!?大抵の吸血鬼は致命傷を受けたら塵になって終わりだヴァカめ!!結晶化現象など聞いたこともない」
    「実は私も聞いたことない」
    「ドラ公お前が心臓って言い始めたんじゃねえか!!」
    「うるさい馬鹿私は謎ヒントに従って言っただけだ!!文句はヒント出したやつに言え!」

    「だが吸血鬼の気配がするのは確かだ。やはり一度VRCで調べるべきでは?」
    半田が至極まっとうな意見を言う。
    「それはそうなんだけどね。……でもこれ、あのサイコバカに渡したら、サンプル採取として削られない?」
    ドラルクの反論に一同黙った。

    「削るな」「人命軽視がスローガンの悪の組織がやらないわけがない」「むしろ結晶の原型が残らないのでは」
    「VRCどれだけ信用無いんだよ、わかるけど」

    「じゃあこの吸血鬼の心臓(仮)はこのまま吸対で管理するのか?」
    ヒナイチが尋ねる。
    「いや、それも不味い」
    「この結晶体を回収したことで敵が弱体化したのは確かなんだ。下手なところに保管すると『アレ』がこの結晶体を取り戻しにくる可能性が高い」
    「なら、どうするんだ?保管するのに適した場所と言ってもどこに……」

  • 22二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:43:09

    「あっ。オレ、ひとつ心当たりがあるかも」
    何かに気が付いたように声を上げたのはロナルドだった。

    「本当かロナルド?」「ほら、あそこだよ。あそこ……」
    ロナルドがヒナイチに耳打ちをすると、ヒナイチが納得したようにうなずいた。

    「確かにあそこなら、よほどの事がない限り大丈夫だな!」「だろ」
    「ちょっとそこの2人!勝手に盛り上がらないの。どういう場所なの」
    「それは」「その」「企業秘密というか」「吸血鬼の秘密というか」
    「貴様ら2人そろって何をワヤワヤと言葉を濁しているのだ!!信用できる場所なら堂々と言わんか!」

    「えっと、……亜空間」
    ロナルドが非常に言いづらそうな顔で言った。
    「はあ?」

    「知り合いが作った、亜空間……」




    結論を言うとロナルドの案が採用された。
    「なんでじゃ」

    「ドラ公のやつ、完全に面白さ優先で採用したな……。却下されたら困るのはオレだけどさ」
    さらにいうと亜空間と信用対決で負けるVRCもVRCである。
    「でも、タイミング的にもそろそろ行かなきゃいけなかったしな」
    ロナルドは手渡された結晶を握り締めた。

    新横浜駅から七分ほど歩くと、とある人気のないビルへとたどり着く。
    歩く人歩く人、誰もこのビルを見る人はいない。まるで人よけでもされているようだ。

  • 23二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:44:03

    ロナルドはこの不可視の結界でも張られているかのようなビルに、臆することなく入っていく。
    ビルのテナントには何も入っておらず、ほとんど廃ビル同然の無人の建物。
    ただ、カンカンカン、というロナルドが階段を上っていく足音だけが響いている。

    目的の階にたどり着き、無人のテナントの入り口の前に立つ。
    扉についているすりガラス越しに中の様子を窺っても、電気一つついておらず、家具もおそらく入っていない。
    このまま扉を開けても殺風景なフロアがあるだけだ。

    ロナルドは懐から鍵を取り出す。うごく大仏君キーホルダーについている鍵を扉の鍵穴に差し込み、『あいことば』を言った。

    『ただいま、メビヤツ』

    鍵は、ガチャリと開錠した。

    扉が開きロナルドが電気をつけると、そこは殺風景なフロアなどではなく、きちんと整理された事務所の応接間があった。

    『ビビ』
    そして帰ってきたロナルドに、そそくさとこの事務所の門番が近寄ってくる。
    赤い帽子を被ったメビヤツだった。
    「長い間留守番ありがとな、メビヤツ」『ビー』
    ロナルドがメビヤツを労い、撫でる。メビヤツは本当に嬉しそうだ。

    そしてロナルドの帰宅の気配に気が付いたのか、住居スペースからにぎやかな音が聞こえてくる。
    「ロナルドさん帰ってきたんですねー!!おかえりなさい!」
    「死のゲームもただいま」「こっちの師匠やジョンさんも元気です?」
    「ドラ公は知んねえけどジョンは元気だよ」「二人とも元気ですね!良かった~!」
    死のゲームはピョンピョンとはねた。

  • 24二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:44:33

    『ロナルド』
    そして最後に、住居スペースからやけに渋い声が聞こえた。
    「キンデメ?」『水を変えて水槽を掃除しろ』
    「あんまり帰ってこれなくて、ごめん……」

    そう、ここはただの無人ビルではない。本来であれば、ロナルド退治人事務所が入っているはずだったビルである
    ある人の力添えにより亜空間を利用し、無理やり事務所をこちらの世界に繋げていたのだ。

    ロナルドはカーテンを開け、窓ガラス越しに外を見た。
    そこには新横の夜景一つ見えない、光一つささない真っ暗な空間。

    そこはただの暗闇ではない。
    かつてのシンヨコが塗りつぶされてしまった、その成れの果ての光景である。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 25二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 21:46:34

    亜空間ってどう考えてもフクマさん関連では……
    っていうか、こっちの世界……? 

    事務所メンツが元気そうで安心した、続き楽しみにしています ヌシュ

  • 26二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 01:20:12

    事務所組が出てきてくれて嬉しい
    メビヤツは事務所と帽子を守ってくれてるんだね…

  • 27二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 11:30:25

    ちょっと早いけど保守
    なんか不穏要素増えた?????
    メビヤツ他事務所マスコット生存確定は嬉しい。誰が作ったんだ亜空間…フクマさんかな?VRCが信用勝負で亜空間に負けててくさ。

  • 28二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:08:40

    ほしゅー

  • 29二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:11:46

    >>27

    VRCの信用低いのだいたいヨモツザカのせいでは

  • 30二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:38:23


    また、真っ暗な空間にいる。
    視覚的な暗闇ではないその暗闇に、やはり、以前にもいたあの二人組の男性がテーブルを囲んでいる。
    ただ、今回は以前のような優雅さはない。
    乱雑に置かれた資料の束は以前の倍、そして小柄な眼鏡の男性は非常に忙しそうに原稿用紙にペンを走らせている。まるで締め切りに追われた作家の修羅場のようだ。

    「いかんこのままでは×××くんが来てしまう……!私がコロッケ工場に直送されてしまう……!」
    「クッキー焼けたよ」
    「すまないがそこに置いておいてくれ!!」

    男は資料の束をつかみ取ると高速で内容をチェックをしていく、その間もペンを休めることは無い。
    「くそう、やはり矛盾が出てきてしまっているな。吸血鬼になる予定の無い者まで吸血鬼になってしまっている」
    「ほかにもありそう」
    「大方の整合性は取ったはずだが見落としはどこかにあるはずだ。あらゆる可能性をつまんで即席で組み立てているからどこで矛盾が発生しているのかさっぱり分からん。だが一歩間違えればミスったジェンガの大崩落だマジでやばい」

    そこまで眼鏡の男が言った時点で空間の奥?からザリ、ザリ、という重めの何かを引きずる音が聞こえる。
    「ウアーーーーー!!!メイデン!!!!」
    「×××××くん、×××××くん」
    長身の男がパニックを起こす眼鏡の男性を呼び止める。そしてドラルクの方を指さした。

    「うちの孫が来てる」「え?」
    眼鏡の男性がこちらを見た。

    「吸血鬼の心臓!!よく見つけた!!」
    ドラルクは急に叫ばれたのでビクッと腰を浮かせた。
    以前であれば驚いて塵になっていただろう。

    「方向性とやり方はあっている!その調子で『奴』を弱体化させていくんだ!だが戦力不足も否めないので……アーーー!!!」
    眼鏡の男は全てを言い切る前に黒い触手に捕らわれ、何かに収納された。

  • 31二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:40:06

    そしてまた、ザリ、ザリという重たい金属を引きずるような音が遠ざかっていく。

    「ドラルク」
    気が付けば長身の男がドラルクの眼前に立っていた。

    「お土産」


    ドラルクは目覚ましの音ともに目が覚めた。
    「……コント番組の雑な導入でも見せられたのか、私」「ヌ?」
    同時に起きたジョンが不思議そうにドラルクの顔を窺っている。
    「おはよう、ジョン」「ヌー!」

    ドラルクが起き上がると、ベッドから一段下がった床に、雑に敷かれた布団で銀色の吸血鬼が寝ているのが見える。
    スペースの都合でこうなっているのだが、部屋の中がむっさくるしい事この上ない。ちなみにヒナイチには客間を一つ明け渡してある。

    (よし、あとで油性ペンで顔に落書きしよ)
    ドラルクはそう心に決め、自分の布団を整えようとすると、かさりとビニールで包装された小袋が手元に落ちた。
    「?」
    小袋を手に取り、中身をよく見ると、お店さながらに丁寧に作られたアイスボックスのクッキーが入っていた。


    「なんかこれ見たことあるな」
    ドラルクは目の前の光景にデジャヴを覚える。
    吸対の事務机の隅を使って前回のレポートを仕上げているロナルドだったが、スランプになったらしく腕が完全に止まっている。
    追いつめられた様子でタブレットに向かうその姿はやはり修羅場中の作家のようだった。

    「うるせえ!こっちは描写に迷ってるんだ!!とくに廊下を埋めるデカケツと魔法美少女!!」
    「そろそろ進めないと約束の時間まであと三時間だぞロナルド」
    「ウワァアアコロッケ工場は止めてくださいっ!!せめて裏新横で許して!!!」

  • 32二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:41:11

    「約束の時間ってなんだいヒナイチ君」
    「えーと、ロナルドが吸対でレポート書いてることをお世話になっている人にぽろっとこぼしたら、それを読みたいという人がいて」
    「ちょっとまって吸対のレポートを関係者外に流出させたの」
    「一応フェイク入れて書式は変えてあるぞ!報告文書じゃなくて娯楽文章っぽくしているらしいし……、そうなんだよなロナルド?」
    「ポピーーーーーー!!!!」
    「ダメだ言語を忘れたゴリラになってる。パニック映画で追いつめられた一般モブかな」
    「そういうわけでしばらくロナルドは使い物にならない」「仕事なかったら全力で邪魔したかった」

    「私も手伝いがあるから少し席を外すぞ。外出するときは連絡くれ」
    「わかった。でも、今日は外出の予定ないから吸対から出ないと思うよ」
    ドラルクはヒナイチと別れると、時計を見る。休憩時間にちょうどいい頃あいだ。
    だがジョンには丁度お使いを頼んでいて不在なうえ、ロナルドもヒナイチもいない。
    となると一人で休憩するしかないのだが、どうしたものか。

    (売店で何か買おっかな?)
    突然のフリータイムの使い道に悩んでいると、後ろから艶やかな女性の声に話しかけられた。

    「あら、ドラルク隊長。お暇?」



    声をかけてきたのは月光院希美であった。
    希美は手際よく茶葉から紅茶を入れ、お茶菓子をドラルクに差し出す。

    「いやいや、まさか希美くんのお茶会にお誘いいただけるとは」
    「最近忙しくてゆっくりお話しできませんでしたものね」
    「本当に。あの二人が来てから大きい事件ばっかりで困っちゃうしね。てんで休めなくてドラちゃんグロッキーですよ」
    「あら、でも楽しそうですよ。隊長。それに、あの子たちのおかげで被害が食い止められているのも確かですし」
    「それはそうなんだけど」

  • 33二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:41:50

    ドラルクは紅茶を一口すする。柑橘系のフレーバーの良い香りがして美味しい。
    「心配なんですか?あの子たちの事」

    「……すこし、所感を言っても?」
    「どうぞ。愚痴でも何でも」
    希美は晴れやかに笑いかける。

    「では、失礼して。……『あれ』の成長率が、思ってた以上に脅威だ」
    「『あれ』、最近騒がせている名称不定吸血鬼の事ですよね?」
    「ええ。先日のVRCでの襲撃事件、正直かなりギリギリで、日付が一日遅くてゼンラニウム氏の浸食率がもっと高かったら被害は今の比じゃなかったはずですよ」
    ゼンラニウムが完全に乗っ取られていたら、おそらくVRCは完全に陥落、あの一帯は緑で完全に覆われ、余人が一切入れない場所になっていたはずだ。

    「あの子たちの実力でも足りないんです?私が見る限りでもとても優秀ですけど」
    「物理攻撃力はね。しかし、相手の絡め手のパターンも増えてきている。いずれ怪力や銃と剣の技量だけでは解決できない事態も出てくるだろうね」

    普通の高等吸血鬼であれば、どんなに厄介な能力であろうとも使用するのは一人の吸血鬼。
    本丸の吸血鬼一人さえ暴力で鎮圧してしまえれば、十分対処はできる。
    だが『あれ』の厄介なところは、一人の吸血鬼の規模では収まらないうえに絡め手がバリエーション豊かなところだ。
    今まで確認した能力は変身、透明化、マイクロビキニによる人の洗脳操作、爆弾の生成。
    今回三つとも心臓を取り戻したからいいが、もし失敗していればこれに植物の成長と操作そして大量の眷属、……あと魔法美少女?が加わっていたはずである。
    これらすべてを駆使して襲い掛かってくる怪物など悪夢に違いない。

    「もちろん私たち(吸対)も応戦するし、ハンターギルドの協力も仰ぐが、正直なところ戦力不足なのが否めない」
    「でも、そういうからには何かお考えがあるんでしょう。ドラルク隊長」

    「あの二人に必要なものは、吸血鬼の戦い方だ」

    「今の二人の戦い方は人間の戦い方をスケールアップしただけで、吸血鬼らしい能力は怪力以外ほとんど使ってないんだよ」
    「使えない、ではなく?」
    吸血鬼には能力が欲しくても持たない者も多い。あるいは目覚めたとしても、むしろ無い方が良かったくらいの能力だってあるのだ。だが、ドラルクは確信している。

  • 34二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:42:49

    「ヒナイチ君はともかく、ロナルド君は大方の能力は使える筈だよ」

    「彼、おそらく真祖だから」
    ドラルクは、ティーカップをソーサーに置いた。


    希美は困惑する。
    「でも、二人とも人間から吸血鬼になったと言っていたんじゃ」
    「それも多分嘘じゃないっぽいんだよね。生活の癖が人間のそれだし」
    血液を忌避し、人間の食べ物を食べたがる。
    吸血鬼なのに夜明けの時間に疎い。
    一緒に暮していて、ドラルクは懇切丁寧に吸血鬼の暮らし方を教える羽目になった。
    2人の反応からして、とても嘘をついている様子はない。
    だが少なくともロナルドに関しては、馬鹿力に治癒能力、弱点のなさ。とてもじゃないが普通の吸血鬼ではなかった。
    そしてまだ、底が見えない。

    「どういう理屈かはわからないが、転化ではなく身体が『置き換わった』が近いんじゃないんですかね」
    「……謎が多いんですね。そういえば、二人は血液は飲むようになったんですか?」
    希美がお茶菓子をほおばる。
    「人狼事件の時の吸血衝動がよほど効いたらしくて、前よりは意識して飲んでるみたいだよ。そもそもあれは血液の味を忌避しているのではなくて、血液を飲むことで湧き上がってくる力に困惑して飲みたがらないだけだから。セルフ縛りプレイとでも言いましょうか」
    「まあ、あれで抑えてるなんて。二人とも本当にお強いのね。でもどうして抑えてしまっているのかしら」

    「力の使い方が分からないからですよ」
    ドラルクは再び紅茶を口に含む。

    「高等吸血鬼にも一応師弟の概念はあるんです。幼いころに師匠の元で、力の使い方を一通り学ぶ。二人にはその経験がないから、多分暴走が怖くて無意識に抑えてるんだろうね」
    「じゃああの二人にもお師匠様を付けてあげたら、もっと凄い事になるんでしょうね」
    希美は無邪気に言った。しかし、ドラルクの様子がいささかおかしい。

  • 35二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 20:43:31

    「ドラルク隊長?」
    「……師匠、つけるべきなんだよね。本当に」
    「当てがあるんですか?」

    「ある……。あります、ありますが」
    ドラルクはまるでその可能性を口にしたくないと言わんばかりに百面相をしている。ついでに汗もかいていた。

    「愚痴も言っていいんですよ、隊長」

    「……失礼」
    ドラルクは一つ咳払いをした。


    「イヤだぁぁぁあああああっ!!!!あの迷惑千万クソヒゲヒゲに頭をさげたくなぁぁぁああああいっ!!!」
    「あらあら」

    「本っ当にイヤだぁぁあああああ!!!借り作りたくないッ!!!!なぁーにが弟子の実力を試すだセクハラクソヒゲ新横全域チャーム事件の恨みまだ忘れてないからなイヤだぁぁあああああああっ!!!!!」
    「まあまあ」

    ドラルク渾身の叫びが個室に響き渡る。
    そろそろ見なくてはいけない現実に対してのささやかなドラルクの抵抗であった。

    ヌヌヌ!(つづく)

  • 36二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 21:12:39

    こっちでもチャーム事件おこしたのかヒゲヒゲ……

  • 37二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 22:38:30

    ヒゲヒゲは吸血鬼のままなのか...ドラウスのことがどうなっているのか気になるな。
    能力特訓パート来ます? あるんなら大幅強化来ますね!

  • 38二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 22:46:19

    本編だとノースディンのチャームってマイクロビキニで乗り切ったんだっけ?(ネットでの又聞きだから間違ってたらごめん)
    この世界線だとどうやって攻略したんだろう

  • 39二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 06:58:08

    ヘルおじとロナルドくんの反応完全に一致しててワロタ

  • 40二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 11:10:49

    能力強化のターンいいね!頼りたくない相手だろうけど適任ではあるんだよな…

  • 41二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 17:45:58

    やっっっと追い付いた!!
    今更だけど、前スレ最初の「ナギリ周りの設定はふわふわしてます」って文言がなかったら、野球拳ピンクが出たのにカンタロウレッドが出なかったことに不安になってたかもしれない…。(ミカヅキくんは東京にいて難を逃れたんだろうけど)

  • 42二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:38:02

    ドラルクがありったけの愚痴を叫んでいるその数時間前。
    ジョンはドラルクのお使いをはたしにシンヨコの駅ビルへと来ていた。

    ※数時間前

    「ジョン、来客用のお茶菓子が心もとないから、駅の方で買ってきてくれないかい?」
    「ヌーイ、ヌヌヌヌヌヌ!」
    ジョンは任せろと言わんばかりに胸を張る。
    「流石だ、ジョン。なるべく日持ちのする個包装の奴をよろしくね。おつりはお駄賃にしていいからおやつ買ってもいいけど、くれぐれも食べ過ぎないように。領収書忘れちゃダメだよ」
    「ヌー!」

    「この時間帯ならそう不味い事は起こらないと思うけど、用が終わったらなるべく早く帰るんだよ?」
    「ヌヌッヌ!」

    というわけでジョンはさっそく駅ビルのギフトフロアに向かったのだった。
    「ヌンヌヌーン(鼻歌)」
    「おかあさんマジロがいるよー」「かわいいわねえ」

    そして和菓子ショップ。
    「この菓子折りでいいのかい?」「ヌン!」
    「背中にくくってあげようね」「ヌヌヌヌー」
    「落とさないように気を付けて帰るんだよ」
    「ヌイヌーイ(手を振る)」

    そういった感じでジョンのお使いはつつがなく終わった。あとに待つのはお楽しみタイムである。
    ジョンはポシェットの小銭入れを見る。だいたい3400円くらいの箱モノを買ったので、おつりは500円弱ほど。
    なかなか選択肢の多い料金である。
    「ヌッフッフッフッフッフ」

    ジョンは考える、このままギフトフロアでいつもは買わないお高めのお茶菓子を買うべきか。

  • 43二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:38:39

    しかし出来立てのパンやソフトクリームのような、手に持って食べ歩き系も捨てがたい。
    もちろん量が買えるスナック菓子もありだ。さてどうしよう。

    そこまで考えて、今朝の騒動を思い出す。
    今朝ドラルクが持っていたクッキーを巡り、ヒナイチと取り合いになったのだ。
    「二人とも量少ないんだからケンカしない!」
    「ヌーーー!!」「ちんーーー!!」
    「ほら、私とロナルド君のもあげるから分けっこしなさい」「えっ、オレの」
    といった感じで、クッキーをヒナイチとジョンで分ける事で朝の騒動は収まったのだった。
    今思い出すとドラルクとロナルドに悪い事をしてしまった。

    今度はケンカしない量のおやつを買わねば!
    「ヌン!(決意の声)」

    そうと決まれば駅ビルのお菓子はちょっと割高だ。もう少し他の場所を探してみよう。



    「ヌンヌヌン、ヌンヌヌン(鼻歌)」
    「おい、そこのアルマジロ」
    「ヌン?」
    ジョンが呼び止められたので振り返ると、そこには駅前でタピオカミルクティーの移動販売をして回っている吸血鬼のお姉さん?ことイシカナがいた。
    イシカナはタピオカを操る能力を持った吸血鬼で、ジョンはしょっちゅう商品の味見役として駆り出されているのだ。

    「ヌヌヌ、ヌヌ?」
    「今度新商品で台湾烏龍茶も出すことになったんだ。ご馳走するんで味見してみてくれないか?」
    「ヌー!」
    ジョンは喜んで引き受ける。味見のタピオカミルクティーは実質カロリーゼロだ。
    さっそくイシカナはタピオカミルクティーの用意をはじめる。
    片腕のみで器用にミルクティーを容器に掬って入れると、トッピングのタピオカをくるくると観覧車のように回しながらポポポポポンと次々と入れていく。その様子はさながら簡単な曲芸のようだ。

  • 44二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:39:39

    「ヌヌヌヌヌヌヌヌ(器用で凄いヌ)」
    「腕一本でも慣れれば不便はないぞ。商品のタピオカは操れるしな」
    そう言うイシカナは、現在左腕がまるまる一本失われた隻腕状態だった。

    ジョンはあまり詳しく話を聞いたことは無いが、以前戦った吸血鬼と相打ちを取ってこうなってしまったらしい。
    だが今現在のイシカナはとくに落ち込んだ様子もなく、普通にタピオカ屋のお姉さん?をしている。
    なので、ジョンもそれ以上は気にしない。

    「できたぞ、さっそくレビューしてくれ」「ヌ」
    ジョンは渡されたタピオカミルクティーにさっそく口につけた。

    「☆2.9 ヌチャヌヌヌヌヌヌンヌヌ(お茶の風味が飛んでる)」
    「ウワァーーーーー!!!」



    まだまだジョンのおやつ探しは続く。
    おや……?

    ぷん、と焼き菓子の焼ける良いにおい。
    においにつられていくと、そこは今川焼屋「わるとあんでる」
    丁度キャンペーン中らしく、6個入り500円(税込み)と書かれていた。
    凄くお得なお値段である。だが3人と一匹分と考えると二つほど余ってしまう。

    「ヌウ」
    ジョンは腕を組んで考える。

    悪魔のジョン「ヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌヌヌ(二つは吸対の冷凍庫に隠しておこう)」
    天使のジョン「ヌヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ。ヌヌヌヌーヌンヌーヌヌーヌ、ヌヌヌヌヌヌヌヌ(冷凍すれば二日日持ちするはずよ。後でオーブントースターで焼いて食べましょう)」

  • 45二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:40:43

    「ヌン!」
    今日のおやつは決まった。
    こうしてジョンは、今川焼屋の行列にそそくさと並んだのであった。


    「ヌヌヌヌッヌッヌ……」
    お会計が終わったころには、大分時間が経ってしまっていた。
    このままではドラルク達に心配をかけてしまう。
    ジョンは急いで吸対へと向かう。手荷物を持っている関係で転がれないが、それでも急げばそんなに時間はかからない筈だ。

    ジョンは走る。
    住宅街を抜け、公園を横切り、駅前通りにたどり着き、ヴァミマを通り過ぎ、走り、走り、そして。
    信号待ちのタイミングで、とある雑居ビルの裏道の前で立ち止まってしまった。

    「ヌ?」
    ジョンは裏道の奥を窺う。何か、視線を感じる。

    「ヌー?」
    どうして奥が気になるのかはジョンにも分からない。
    だがなんとなく、知っている人がいるような気がする。

    分からない、もっと奥に行ってみないと。
    ジョンは、少しずつ奥に向かって歩きはじめた。

    「ヌヌヌヌヌヌヌー?(だれかいるのー?)」

    嫌な感じはしない。
    だからだろうか、ジョンの歩みはどんどん早くなっていく。

    「ヌヌヌー?(どなたー?)」

  • 46二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:41:27

    ジョンの視線の先に、わずかに動く人影があった。

    「おい、そこのマジロ」
    もっと奥に行こうとして、ジョンは後ろから呼び止められた。

    「ヌ?」
    ジョンが後ろを振り向くと、そこには二人組の交番のお巡りさんがいた。

    「あまり人気のない裏道を行くな。吸血事件がこの近辺で発生したのを知らないのか……。む」
    すこし痩せぎすで不景気そうな顔をしたお巡りさんは、ジョンにライトを当てて唸る。

    「……なんだ、丸か。こんなところに入るんじゃない」
    「ヌリヌリヌン?」
    ジョンは意外な知り合いの登場に驚いた。
    さらにもう一人のがっしりとした体つきのお巡りさんが、ジョンに気づく。

    「あっ、ドラルク隊長のところでジョン君でありますか?一玉歩きは危ないでありますよ」
    「ヌヌンヌヌ」
    「いえ、何事もなかったようで良かったであります。最近物騒な事件が多いでありますからな。吸対には及びませんが、我々普通の警察官もパトロール強化しているでありますよ」
    「ヌヌヌヌー」

    「物騒な事件と言えば、丸、聞け。この間こいつはパトロールの最中に急に破廉恥なコスプレ姿に変身したんだぞ」
    「それはもう掘り返さないって約束だったはずでありますよ!」
    「ヌヌヌヌヌヌヌ?(魔法美少女?)」
    「なんで知ってるんでありますかジョン君!?」
    「あの時の恰好ときたら……ふっ」
    「ウワーー!」
    「ヌッフッフッフッ」

  • 47二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:42:34

    「とにかく!最近この近辺で若い女性の吸血鬼による吸血事件が発生しているであります。ジョン君もくれぐれもお気をつけて!」
    「ヌイ!」
    そこでジョンは、裏道の奥をもう一度見る。
    さっき確かにいた筈の誰かの気配は、もうなくなってしまっている。

    「丸、吸対まで連れていくぞ」
    「ヌイヌーヌ、ヌッ」
    そこで、ジョンは一ついい提案を思いついた。ジョンは背負っていた今川焼の箱を開けて、二人に向けてかざす。

    「ヌヌヌヌヌヌ!(お疲れ様!)」


    「ヌイヌーイ!」
    ジョンは少し軽くなった今川焼の箱を抱え直して、仕事に戻る二人に手を振って見送った。
    そして、自分も吸対への道を急ぐ。
    予定外のトラブルもなく、ダチョウにも襲われず、偶然友達にも会えて、今日はジョンにとって良い日であった。


    先ほど、ジョンが見ていた裏道から、隠れていたのか、ほっそりとした人影がでてくる。
    見つからなかったことにホッとするが、これからどうすればいいのか、わからなかった

    「……どうしよ」

  • 48二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:43:04



    「それで、ジョンのを入れて今川焼が10個に増えたと」
    ドラルクが目の前の今川焼の行列を指さす。

    「いや、私も朝ちょっと大人げなかったなって……」
    気恥ずかしそうに話すのはヒナイチである。
    なんとジョンより一足先に同じ店で購入していたのだった。
    「ヌー」
    こんなこともあるんだなあとジョンは感心する。

    「ジョンもヒナイチ君も考える事同じだったか」「ドラ公!手土産に今川焼貰ったから皆で食おうぜ……あれ」
    「なんと脱稿バカによって16個に増えた」
    「……吸対の皆にも配ろうか」
    「ヌン!」

    ヌヌヌ(つづく)

  • 49122/05/10(火) 21:46:44

    ちょっと書きたい展開が出来たので、初期の基本設定から一部キャラ設定を変えたことをお知らせします。
    あと少し前振り続きます。ヒゲヒゲ登場までチョットマッテネ

  • 50二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:46:53

    そうか、この世界の辻田さんとカンタロウは普通の警察官なんだ

    じゃあ、裏道にいたのはいったい……??

    前スレの怒涛のシリアスとはうってかわって、今回ほのぼのだったな

  • 51二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:50:14

    乙です!
    ナギリが普通のお巡りさんなのは、彼もドラルク同様「何か」にやられたせいなんだろうか……?
    若い女の吸血鬼はもしかしてアラネアさんかな?
    次も楽しみ……!

  • 52二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 22:14:00

    イシカナさん腕が…‼︎と思ったらタピオカ辛口採点食らってて草

  • 534122/05/11(水) 01:05:57

    お疲れ様です。
    まさかナギリ登場するとは思わず、しかもこんなに早いとは思わず心の中で歓喜の雄叫びを挙げています。
    ナギリが警察官になれるぐらい身元がしっかりしていることや、カンタロウが交番のお巡りさんのままなことに「ありがとう世界」となると共に、「これモザイク敵が血刃を振るう可能性も出てきた…ごめんドラドラちゃん難易度上がったかも」ともなっています。

    それと、「味見のタピオカミルクティーは実質カロリーゼロだ」や、原作通り実質悪魔2玉な天使と悪魔にふふってなりました。そんなんだからヌヌッヌんだぞジョン。

  • 54二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 08:30:07

    ほのぼの回やったージョン可愛いーナギリ平穏そうでよかったーって気持ちで読んでたけどチラホラ不穏が顔出してて今後が怖い…
    続き楽しみにしてます

  • 55二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 09:09:48

    一旦の小休止回いいね
    もとの回との違いや同じところがよかった。
    イシカナさんが身体部位欠損してるってことは完全に食われなくても体の一部だけ吸収されることもあるってことなのか…一体どう回収することになるのか想定つかないな…。
    ありがとうございました!次回も楽しみにしてます!

  • 56二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:00:55

    おまけ

    ド「最近VRCが施設のお土産品作り始めたんだって」
    ロ「何売るんだよ?ヨモツザカの仮面せんべいでも作るのか?」
    ド「それはもうある」ロ「あるのかよ」

    ド「百聞は一見にしかず、最新のお土産品のサンプルがこちらです。ゼンラニウム氏の花のしおり、花ジャム、花ティー、ポプリの置物、ブリザーブドフラワー、ハーバリウムなどなど」
    ロ「多い多い!花率高ぇっ!」
    ド「VRCのおばちゃんの空き時間とかに量産されているらしい」ロ「市役所の売店とか道の駅で売ってそうな手作り感」
    ド「ちなみに花のお土産には全て生産者であるゼンラニウム氏の顔写真が張られてある」
    ロ「『私が育てました』の農家のおっさんか?」ド「正真正銘の生産元なんだから正しいじゃないか」
    ロ「というと、これ。全部股間の……」
    ド「そうに決まっとるだろうが。下手に嘘ついたら景品表示法違反になるわ」
    ロ「食品衛生法違反で保健所にはしょっ引かれねえのかよ」
    ド「ゼンラニウム氏はぱっと見人の体をしているが成分的には植物に近いから野菜とかの扱いなんだよね」
    ロ「きのこは分類学上植物じゃなくて動物の方が近いって言われた時の納得できねえ気持ちと似てる」

    ド「そしてVRC期待の新商品がこれだ!」
    ロ「なんだよ、これ?ジャム?VRCと何が関係あるんだ……」
    ド「ほい味見」ヒョイパクー
    ロ「勝手に口に入れるな!!ん、いやでも普通に味上手いな。バナナとリンゴの中間みたいな味で……」
    ド「そしてこのジャムの元になった果実がこちらです」
    ロ「ウンバラハァッハアアアアア!!!おっさんの顔した実じゃねえかなんてもん食わせるんだこの万年ガリガリ頬こけおじさん!!!」
    ド「フンギャアアアアアやめろアルゼンチンバックブリーカー!!!でも美味しかっただろ!?」

  • 57二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:01:28

    ロ「味は確かに良かったけど商品にするんじゃねえ!」
    ド「仕方ないだろ、この間のVRC大緑化事件のおかげでおっさんの実が余りまくっとるんだ。廃棄するよりも何か使い道はないかと言う事でこんなことに」
    ロ「普通に廃棄しろ」
    ド「そしてこちらはおっさんの実ドライフラワーバージョン。ハロウィンの飾り付けにピッタリともっぱらの評判」
    ロ「ウワァーーー怖い怖い怖い怖い!!枯れた金魚草!!」
    ※枯れた金魚草 花そのものは綺麗なのだが枯れて干からびるとドクロっぽい形になる。怖い。

    ド「そして最後にこちら」
    ロ「? 花の形をした2色アイス……?」
    ド「VRCのおばちゃん特製ババヘラアイス。黄色いアイスはおっさんの実、赤いアイスはゼンラニウム氏の花から作られたという奇跡のコラボレーションで」
    ロ「もはや地獄の門前や三途の川渡ったあとに売り出されてる観光用ご当地アイスだろ」地獄名物キメラアイスイカガデスカー
    ド「失敬な、人気あるんだぞこのアイス!主に緑化事件のあとで咲き誇ってるゼンラニウムの花園を見学しに来た野次馬にバカウケで」
    ロ「吸血鬼研究センターじゃなくて吸血植物栽培センターに改名しちまえ」

    ヌン(完)

  • 58二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:25:28

    平日の吸血鬼対策課。
    ドラルクは自分のスマホの前で腕を組んでいた。
    そして、スマホを持とうとして、やめる。
    またしばらくスマホにそろーっと手をつけて、やめる。

    そんな様子をかれこれ数分ほど繰り返していた。
    その不審な様子は、当然他の吸対隊員にも見られている。
    「ドラルク隊長、あれ何回繰り返すんでしょうね」
    と、まず口火を切ったのはサギョウだった。

    「ウダウダウダウダ悩んでるんじゃないわよ、隊長。めんどくさいアベックの駆け引きみたいでムカつく」
    と、返事を返したのはアベックにく美。
    「でもにく実ちゃん、あれは駆け引きじゃなくて行きたくない歯医者の予約みたいなものじゃないかしら?」
    近くにいた希美も会話に参加してきた。
    「ウルセエめんどくささは大して変わんねえ!!」

    「隊長がこれから電話をかける人ってそんなに嫌な人なんです?」
    サギョウは希美とちょうどタイミングよく近くにいたモエギに尋ねる。
    「なんでも古いお知り合いだとか」
    「……俺が聞いた話だと、あのチャーム事件の吸血鬼だと聞いたぞ」
    「やばい奴じゃないですか!」
    サギョウの脳裏に髭を蓄えた吸血鬼の姿が浮かんだ。
    町全体がチャームに支配され偉い事になったのだ。解決そのものにもてこずったし後処理も大変という吸対的には二重三重と災難な事件であった。

    「あのクソヒゲ今度こそ斬るわ」
    「にく美ちゃんあの時大変だったものね~」「うるさい黒歴史よ……!」
    「ハンターギルドの協力もなければ解決できなかったしな」
    とモエギがコーヒーをすすりながら言う。
    「レッドバレットさんに良い所とられましたからね。というか、まさかフランチェスカの魅了に助けられる日が来るとは」
    そんな感じで四人が思い出話に花を咲かせていると、後ろから神経質な怒鳴り声が聞こえた。

  • 59二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:26:22

    「お前たち駄弁っていないでいい加減に仕事をしろ!!」
    顔に黒マスクをつけたサギョウの先輩、ことミカエラだった。だが、サギョウはここ最近の個人的な恨みによりあえて別の名称で彼を呼ぶ。
    「なんでしょうかマイクロビキニ先輩」
    「署内にマイクロビキニの替えを落とすんじゃないわよダボが」「ギー!!(挑発)」
    さらににく美とサギョウのペットであるゴビーが畳み掛けた。ミカエラ自体は優秀な先輩ではあるのだが、彼個人の嗜好がいささか特殊なのとその布教方法のせいで少し評価を落としている。

    「注意しただけなのになぜいきなり罵倒されなくてはならないのだ!?第一あれはマイクロビキニの替えではない、新たな同胞を迎え入れるための名刺ビキニであって」
    「これっぽっちも詳しく知りたくねえからそれ以上喋るんじゃねえ」
    にく実の心からの本音であった。

    「こっちは下着チェックで毎朝地獄なんですよ、3人から5人に増えたんだから満足してくださいよ!」
    「もう少しさわやかな朝を迎えたい」
    サギョウとモエギがぼやく。いくら吸血鬼対策とは言え、チェックを強要される側のメンタルはゴリゴリと削られていく。

    「だ、だが、だが!!とうとうこの間夢かわメンズに着用人数を抜かれてしまい……!くっ!!」
    「最低な下着ディビジョンバトルを毎朝見せつけられるこっちの身にもなってください」
    ミカエラの目には悔し涙が浮かんでいたがサギョウはそんなこと知ったこっちゃなかった。

    「それよりもミカエラ君、私が頼んでた女性吸血鬼の調査進んだ?」
    「……周辺の目撃情報を洗ったが昨日は活動した形跡は無しだ。被害報告がない代わりに手がかりもない。しかしそれとは別に一つ気になる情報がある」
    淡々と報告していたミカエラの語調が、そこで変わる。
    「昨夜、あの野球拳大好きなどというふざけた自称をする吸血鬼が、吸血鬼が……!」
    その荒れた様子ににく実とサギョウがこそこそと話をする。
    「なにあの歯を噛み砕きそうな顔」
    「なぜか知らないけどミカエラ先輩、あの野球拳って吸血鬼が地雷みたいなんですよね。前に事件現場でフォローされたのがよほど嫌だったらしくて」

  • 60二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:28:21

    「それで野球拳さんがどうなさったの?」
    「辻野球拳などとぬかして道行く人に次々と野球拳を強要していったらしい。だが、野球拳を途中で止めてまたすぐ別のターゲットに切り替える……、何がやりたいのかさっぱりわからない!」
    ミカエラは憤りを隠せないようだった。
    「確かに不思議ねえ。……一体どんな目的があったのかしら?」

    「サギョウ」
    吸対メンバーで野球拳の謎の行動について頭をひねっていると、サギョウは外回りから戻ってきていたらしい半田から呼びかけられる。
    「半田先輩。どうしました?」
    「ハンターギルドと連携することが決まった。話を付けに行くからお前も来い」
    「了解です。それじゃあ、ボクはこの辺で」
    「いってらっしゃいサギョウ君」

    サギョウがそそくさと席を立って半田についていく。
    昔であればあんなグダグダ話悠長にやっていたら、半田に横から注意を入れられたものだが、今日は特に何も言われなかったので意外だった。
    そういえば、最近半田先輩の雰囲気が変わったなとサギョウは思う。あの二人が来てからだろうか。
    前より余裕ができたというか、上手い言葉は見つからないがガチガチに固まっていたものが少しだけほぐれているように見えた。
    今だって十分カッコよくて尊敬ができる先輩だが、まだまだ先輩の伸びしろは増えていくのかもしれない。
    だがサギョウは知らない。

    「なあ、サギョウ」
    「どうしました先輩?」
    「吸対の方で、観葉植物を栽培しようか迷っているのだがどう思う?」
    「一株くらいなら良いんじゃないですかね?パキラとかガジュマルとか置くんですか?」

    「セロリ」
    「へ?」

    「セロリが、どうしても気になるんだ」

    カッコいい先輩幻影は風前の灯であった。

  • 61二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:28:44



    何回もかけようかかけまいかで延々と悩んでいたドラルクは、ようやくスマホを握った。
    握ったが、アドレス帳を開くのに非常に心理的抵抗を感じる。
    自分の中のプライドが最後の抵抗をあげていた、上げていたが。

    家に置いてある血で汚してしまった吸対服の事が頭をよぎる。
    ヘドロのような感情が胃に溜まるのを感じ、そして、ようやく目的の番号をひらいた。

    後はもう簡単である。
    受話器のボタンを押して、じっと待つ。


    呼び出しコールは3回ほどで途切れた。

    『もしもし』
    聞きなじみのある男性の声が聞こえる。
    いつもならば開口一番に罵倒を上げるが、今回はあえて様式を守ることにした。


    「お忙しい所失礼いたします。新横浜警察署吸血鬼対策課ドラルク隊隊長のドラルクです」


    「恐れ入りますが、ノースディン様でいらっしゃいますでしょうか?」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 62二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:48:49

    更新お疲れ様です!
    ドラルクの葛藤と嵐の前の静けさ的な吸対の日常が良いですね
    最低な下着ディビジョンバトルは草

  • 63二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 00:00:28

    乙です!
    とりあえずキッスは敵に取り込まれてないようで安心しました。
    野球拳の行動的にまた服を媒介にした催眠?それとも結界による一般人の保護?
    次回も楽しみです!

  • 64二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 08:51:31

    オマケ含めて更新乙でした
    下着ディビジョンやらなんやらで笑いつつ拭いきれない不穏さや野球拳の動きなど気になることも多いですね…。続き楽しみにしてます

  • 65二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 12:22:59

    今更ですが更新乙です。

    なんかポンチレベル全体的に上がってきてて草。強制的に下着調査に巻き込まれてる人たちお疲れさまです。布教活動行われてて成功してるのさらに笑えました。

    女吸血鬼がアラネアなのかキッスさんなのか別の誰かなのか気になるな…。もう一つの不安要素として野球拳大好きの行動も気になりますね。ビキニ警戒なのか他の要因があるのか…続き楽しみにしてます。

  • 66二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:43:45

    >>23

    だいぶ前のやつに言及して申し訳ないが、メビヤツが出てきた時めちゃくちゃ嬉しかったし事務所にキンデメもゲームも残ってたのがとてもなんかうわああ、ってなった

  • 67二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:51:19

    わーい面白い!
    風前の灯になってる半田のかっこよさに草
    きっとここからかっこよさ怒涛の急降下始まるんだろうな…決めるところでは決めるんだけど…

  • 68二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 21:57:01


    こうなってからどれくらい時間が経ったんだろう。

    とても喉がかわいている。

    自分が暮らしていた家はなくなっていて、

    自分がいた筈の痕跡がなくなっていて、

    ようやく見知った建物を見つけても、そこには誰もいない。


    まだ、夜が来ない。
    建物のがらんどうのフロアで、小さく夜が来るのを待っている。

    のどが、かわいている。



    「能力の特訓~?」
    「そ。君たち怪力以外使えてないだろ。そろそろ頃合いだと思ってね」

    ロナルド達はドラルクの指示で、新横浜付近のとある訓練施設に来ていた。
    吸対や普通の警察官の武術や射撃訓練を行う場所で、普通の一般人が入る事はめったにできない場所だ。

    ロナルドは当然初めて入る施設なので緊張しているが、ヒナイチはもともとが吸対なので慣れた様子でケロッとしている。
    「それで術科訓練校の施設を借りたのか。よく吸血鬼に使用許可出たな」
    「そこはほら、昼行燈に色々と賄賂を」
    もっと正確に言うとカズサが贔屓しているソシャゲのBDBOX付属の確定SSRチケット一枚と神奈川銘菓ダチョウサブレで買収した。
    円滑に事を進めるためには必要な出費である。

  • 69二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 21:58:13

    「に……カズサ本部長はなにやってるんだ」
    「いやお互いにいい取引だったよ、あれは」
    「でも訓練って言ったってどうやるんだよ。自己流でやってはみたけど正直独学じゃ厳しいし」
    ロナルドも全く何もやっていなかった訳ではない。
    野球拳に指摘されて以降、自分なりにあれこれ試してみたのだが経過はあまり芳しくなかった。
    「だーかーら、講師をお呼びしたんだろうが」
    「講師?」
    ドラルクは外の訓練場に出るドアを開ける。
    そこには、一人の見覚えのある貴族然とした男性が立っていた。

    「「えっ」」
    ロナルドとヒナイチは二つの意味で驚きの声をあげる。
    一つは、確かに人選として正しい意味で適当だ、だが、ドラルクが自分から呼ぶとは思わなかったという驚き。
    そしてもう一つは、以前に見た相貌から変わっている、という驚き。

    「二人とも、紹介しよう。彼の名前は氷笑卿ノースディン」
    「私の元・家庭教師だ」
    ノースディンは二人を視認すると、気障な笑みで微笑みかける。
    だが、その片目は黒い眼帯で覆われている。

    「元ではないだろう?ドラルク」
    「いえ、私もう独り立ちしてますし~、師匠から今更教わる事なんてありませんとも」
    「この間の粗の多い差配で独り立ちとは随分大きく出たな」
    「……っ、作戦立案に遊びがあるので粗のように見えるだけですよ。どんな作戦であっても余裕は必要でしょう?」
    「おや、ハンターギルドを担ぎ上げねば解決できなかったように見えたが、お前としては余裕があったのか。これは失礼。ぜひともその余裕をなくした全力が見てみたいものだな」
    「……」
    ドラルクは今にも血管がはち切れそうな顔の歪み具合だが、なんとか平静を保っているように偽装していた。
    もちろん周囲にはバレバレである。

    「すげーバチバチしてる」「いつまで続くんだろうか……」「ヌッヌッヌッ(ドラルクの気持ちの分までシャドーボクシングしている)」

  • 70二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 21:59:31

    「……、はあ。余談はこれくらいにしておきましょう。それよりも講師役として呼んだんですから、ちゃんと役目は果たしてくださいよ」
    「……それもそうだな」
    ノースディンはドラルクが挑発に乗らなかったことが意外だったようだが、すぐに気を取りなす。
    そしてようやくロナルドとヒナイチを見た。

    「さて、君たちが件の雛鳥たちかな?」
    「っ、ロナルドです……」「ヒナイチだ!」
    「話には聞いていたが、噂に違わぬ美しさだ。……短い間だがよろしく頼む、赤毛の姫君」
    「えっ、私!?」
    「ノース!!」
    ノースディンがまっすぐヒナイチの方に向かうと髪の毛の一房に軽いキスをする。
    すると、ヒナイチはたちまちぼんやりとした様子に変わってしまった。

    「ヒナイチ!?おい、一体何を」
    「安心したまえ、まずはあいさつ代わりだ。やはりチャームや催眠に対しての抵抗力は低いようだな」
    ノースディンが指をパチンと慣らした。ヒナイチの目の光がたちまち戻る。
    「……っ、今のは?」

    「今のが吸血鬼の能力の一つ、誘惑。私が得意とする能力の一つだ。吸血鬼の能力と一言に言っても実に多様。君たちがどのような能力が扱えるかは未知数だが、一つ一つ確認をしながら進めていくとしよう」

    「それでは諸君、授業をはじめようか」




    最初の授業、念動力。

    「まずは簡単なものから始めようか。最初は、木の葉や小石など軽いものからでいい。精神を集中させて、見えない手で持ち上げるような感覚で持ち上げてみろ」

  • 71二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:00:23

    ヒナイチが数分ほど試行錯誤すると、ほんのわずかに浮かせることに成功した。
    「ドラルク!ノースディン!少しだけだが成功したぞ!」
    「ひとまずは及第点だ」
    「ヒナイチ君偉い偉い。ところで若造は?」
    ドラルクがロナルドの方に目をやると、何故か冷や汗をかいて硬直している。

    「なにフリーズしたソードみたいな顔しとるんだお前は」
    「いや、念動力、前使ってみたことあるんだけどさ……、大分問題があって」
    「そんな曖昧な表現じゃ問題点が分からないぞ、ロナルド」
    「改善点を言えるかもしれないので一度ここで使ってみなさい」
    ノースディンはロナルドを促す。

    「そうですよね……。じゃあドラ公、これ持ってろ」
    「なんで特殊部隊で使う防弾シールド人数分渡してくるの?」
    「いいから。オレが念動力使ってる最中は絶対顔出すなよ。ジョンは絶対に抱えとけ」
    「そんなにヤバイの?」

    ロナルドはドラルク達が防弾シールドを構えたのを確認すると、一つの小石に注目する。

    「見えない手、見えない手……、よしっ!」
    ロナルドが拳を硬く握る。小石は見事に持ち上がり、そして

    チュドンッ!!!!
    という明らかに小石から出てはいけない爆発音と光とともに、爆ぜた。

    ドラルク達が構えた防弾シールドに拳銃の弾丸並みの素早さを維持した小石の小片が突き刺さる。
    防弾シールドが無ければ流血騒ぎになったのは間違いない。

    「こういう、感じです」
    そして、ノースディンは頭を抱えた。

  • 72二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:02:02


    「待ってくれ、なんだ今のアホみたいな威力は?」
    「爆発してなかったか?」
    「爆竹の小石バージョンみたいな威力してたな」
    「だから言ったじゃん、問題あるって!」
    ロナルドが半泣きになりながら訴える。長らく能力の使用が出来なかった原因の全てが詰まっていた。

    「出力?出力の問題なのか?ロナルド、力を使用する時に力み過ぎてはいないか?今の十分の一くらいの力を使うつもりでやってみなさい」
    「わ、わかった」

    チュドンッ!!

    「集中力を込めすぎている、もう少し余計な事を考えた方が制御ができるかもしれない」

    チュドンッ!!!

    「やわらかいもの……、豆腐や桃を掴むような感覚で」

    チュドンッ!!!!!


    「どうなっているんだお前の出力は」
    ロナルドにノースディンが詰め寄る。
    「ワーーーーーーごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!!」

    「何一つ改善されてない」
    「なんかもう念動力とかじゃなくて小石を爆弾に変える能力みたいになっちゃってるな」
    「ヌヌヌヌヌヌヌヌ(うえきの法則)」
    「ヴァーーーー」
    「少し根を詰めすぎたな……、一度気分転換に別の能力の練習をしてみよう」

  • 73二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:03:06



    変身能力。

    「小鳥に変身できたぞ!」
    「なんか若造が凄いバカデカいのに変身しそうになってる!!!キング〇ングか!?」
    「周辺の建物が壊れるから一度止めなさい!!!」
    「ヌヌヌ(ゴ〇ラ)」



    邪眼。

    「軽い硬直状態にはできるがあまり使い物にならないかもしれない……」
    「継続時間に関しては練習あるのみだ、気長に様子を見なさい」「なるほど」
    「あの」「どうしたロナルド」

    「練習役として邪眼かけたドラ公が固まったけど、息出来てない……」
    「ねこだまし!!ねこだまし!!!」



    催眠。

    「あの、オレは練習しなくていいの?」
    「ロナルド君はやめておきなさい」
    「私もやめておいた方が良いと思う」
    「なんで」
    「今の出力では廃人を作るから絶対止めておきなさい」
    「はい」

  • 74二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:04:02



    「出力が高すぎる」
    ノースディンは疲れ切った様子で言った。

    「おそらく、適切な力の量が上手く切り出せていないのだ。そのおかげで何もかもがバグったような出力になっている」
    「改善余地あるんですか、これ」
    「切り出し方は練習していけば上達する余地があるが、大鍋で小さじを計ろうとしている感覚に近いのでおそらく時間がかかる」
    「なるほど、ロナルド君の料理みたいなことになっていると」
    「うう……」

    「前途多難だな」
    始まったばかりの能力訓練、モノになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

  • 75二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:04:40



    丁度同時刻のハンターギルド。
    レッドバレットことヒヨシが一通りの依頼を終え、仕事帰りにマスターと談笑をしている。

    「あの女吸血鬼、まだ見つかっていないのか?」
    「そうなんですよね。昨日から消息が途絶えたらしくて」
    「畏怖欲犯罪にせよ能力の暴走にせよ早めにつかまえんとな」
    「本音は?」
    「ボインであればオレもぜひ一度拝見したいと」
    「そんな調子だといつか美人局とかにひっかかりますよ」
    「大丈夫だ!美人局は一回回避したしな!」
    「懲りてください」

    そんなくだらない話に花を咲かせていると、見回りに行っていたショットやサテツ達が慌ただしくギルドに入ってきた。
    「どうしました?」

    「マスター、駅前通りに巨大な吸血鬼が出たんだ!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 76二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 23:04:16

    みんな1度は妄想しただろうロナルドが吸血鬼になったらどうなるか
    「力は大きいけど制御不能」
    解釈一致です
    ロナルドくんそういうところある

  • 77二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 23:10:37

    チュドンチュドンしてるの笑っちゃった

  • 78二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 00:30:45

    乙です!
    本編の15歳ドラルクとは違った意味でノースが頭を抱えるところが最高!
    素直に考えると、女吸血鬼=ジョンが路地裏に気配を感じたほっそりした人影で、今回の冒頭見るに記憶の持ち越しで人間関係(及び自己の存在)が抹消されたんだろうけど…?
    …そもそもまだ出てきてない女性キャラでほっそりした人って誰がいたっけ?スレンダーでも巨乳の人とか多いからあまり思いつかない…。

  • 79二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 00:31:17

    一体誰なんだ吸血犯罪してる女の人…

    能力コントロール全然できてないロナルドで笑った

  • 80二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 06:46:24

    こっちでのノース攻略の鍵は熱烈キッス(フランチェスカ)だったか……

  • 81二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 09:08:20

    出力バグってるロナルドに笑っちゃった。その分コントロール出来れば名実共に最強になりそうだけどそこまでが遠いんだろうなあ…師弟共に頑張れ
    先も気になるし女吸血鬼誰だろう…続き楽しみにしてます

  • 82二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 20:15:55

    最初の人ナギリかと思ってたけど人間→吸血鬼のパターンか
    キッスが取り込まれてたら立ち直れなかった
    元気にイケメン狩りしてるみたいで嬉しいな

  • 83122/05/13(金) 21:28:19

    キリが良い所までもう少しかかるんでお待ちください……!

  • 84二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 21:55:49

    乙です
    ゆっくり待つんでそこんとこは気にしなくていいですよ

  • 85二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:38:18

    訓練を開始し、試行錯誤して早数時間。
    ロナルドの能力制御は一向に上達していなかった。

    「うう……、何回やっても小石は爆弾になるし葉っぱは燃焼実験で燃え上がるスチールウールになる……」
    「たとえが局地的過ぎて分からんわ」
    「だけどここまで解決の糸口になるようなものがないとなると……、うーん」「ヌーン」
    ヒナイチとジョンが似たようなポーズで考える。
    「アプローチの仕方を変えてみるとか?いままで抑える方向で練習していたものを逆に今度は思いっきり力を出してみるとか」
    ドラルクが提案した。
    「今ですら爆弾なのにそれだともっとひどい事にならないか?」
    「小石一つなら物量的にも限度があるし大丈夫でしょ」「お前なあ……」
    「いや、確かに根本のアプローチを変えてみるのはいいかもしれない」
    「師匠?」

    「ずっと抑える行為を繰り返すのも訓練としてあまり健全ではない。変な癖がつくのもあるが、能力というのはある程度のびのびと使ってこそ掴めるモノもあるからな」
    「じゃあロナルド君にそこらの小石を好き放題動かせて無限小石ミサイルでも作ります?絶対厳重注意飛んできますけど」
    「そこまでやれとは言っていない」

    ノースディンは気を取り直すように顎を撫でる。
    「後はそうだな、プレッシャー状態を与えるとかだな」
    「プレッシャー?どうすればいいんだ」
    「例えば、苦手なものや嫌いなものに対峙させるとか……」
    「それならロナルドはセ」「やめろ言うなバカ!!!」
    ロナルドは慌ててヒナイチの口をふさいだ。

    「何するんだいきなり!」
    「まだこっちのクソ砂にも伏せてんだぞ。バレた日には食事にいつすりつぶしたアレが混入するかわからねえ日々の再来だ……!(小声)」
    「それくらいは我慢しろ。前の段階で半分以上すりつぶされたものが混入してても気づかなかっただろうが!」
    「バカやろうあれはカレーの風味で誤魔化されてたからノーカンだ!」「屁理屈捏ねるな!ちん!!」
    「百歩譲ってあの吸対貧弱おじさんとジョンにバレるのは良いとしよう」

  • 86二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:39:10

    「半田にだけは絶対バレたくない……!」
    「それは、そうだな……」
    これにはヒナイチも同意せざるをえなかった。

    「俺と半田史上、今が一番健全な関係性を築けている気がするんだ。アレに襲われないというだけでこんなに心穏やかだなんて」
    「確かに以前よりは数十倍マシだがお前と半田の関係性はセロ……以外にももっと見直すべき問題点があったと思うぞ」
    ヒナイチは以前の吸対の半田の机にあった数々のロナルドグッズを思い出していた。
    「とにかくアレは無しだ。チクったらお前の飛ばない鳥類(ペンギン)についても自動的に公開するからな」
    「クッ、なんて脅し方だ……!」

    「二人とも何やってるの?」「ヌヌヌヌヌ?」
    ドラルクが二人の会話に横から入ってくる。
    「なんでもないぜ」「そうだぞ!ただの作戦会議だ」
    「セリフがめちゃくちゃ棒読みなんだけど」
    「……煮詰まっているようなら、少し休憩するか」
    ノースディンが三人の様子を見て提案した。



    いざ休憩をしてみたものの、ロナルドはノースディンの存在が気になっていまいち落ち着きがなかった。
    (前もあんまり喋った事があるわけじゃないしなあ……)
    ドラルクから悪評は散々聞いていたが、ロナルド自身はノースディンに悪い印象があるわけではない。
    最初に出会った時の騒動は確かに厄介ではあったが、ドラルクからの話を聞く限り、師匠としてはきちんとドラルクに理解があり、心配もしているという印象だった。
    ちなみに当のドラルクは自前で持ってきた水筒からお茶を注いでいる。ろくでもない事を考えている時の顔をしているので、大方ノースディンのコップに何か仕組むつもりだろう。ヒナイチは嬉しそうにクッキーをむさぼっていた。

    そういえば、
    (片目、大丈夫なのかな)
    ずっと気になっていたが、詳しく聞きそびれてしまった。以前のノースディンは眼帯などしていなかったはずだ。
    (怪我?とか。そもそも吸血鬼って大抵の怪我は治るんじゃ……)

  • 87二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:40:15

    そこで、ノースディンと目があった。
    (あっ)

    「私のこれが気になるのか?」
    「すいません、じろじろ見て」
    「気にするな。慣れている。……以前、ちょっとした騒動があった時に失ってしまったのだよ。不覚にもね」
    「氷の能力を失った時がその騒動でしたっけ」
    ドラルクがノースディンに紙コップを渡しながら言った。
    ノースディンは少し寂しさと安堵が混ざったような複雑な表情で言葉を続ける。

    「ああ。制御の難しい能力ではあったが、無くなってしまえばこいしさが募るのだからままならぬものだ……。ドラルク、お前これに何を入れた」
    「いえ、お疲れの師匠をいたわってほんの少しセンブリ茶の粉末を混ぜただけです」
    「そうか、私は今度お前の健康を願って苦丁茶を送るとしよう」「そんな気にしなくていいですよ~」

    「……話がそれたが、能力の制御は覚えておいて損はない。自分を守るためにも、他人を守るためにも、だ。持っている能力が強大であれば強大であるほど、責任も伴うのだから」
    「はい」
    ロナルドには、何故かその言葉が非常に重い意味が含まれているように聞こえた。

    「私からも一つ質問してもいいだろうか?」
    「えっ、何ですか」
    「君はこの街の赤いハンターと何か関係があるのか?」

    (ハンター!?誰の事だ……?)
    ロナルドは突然の質問にしどろもどろになる。
    「ロナルド君、ロナルド君、レッドバレット……つまりヒヨシ君の事だよ」
    ドラルクが小声で補足した。
    「なるほど!……なんで!?」
    ノースディンから全然予想もしていなかった人物があげられさらにロナルドは困惑する。
    「前、あの馬鹿クソ髭が起こした新横チャーム事件ってのがあってね。その時に最前線で戦ったのがヒヨシ君だったの」

  • 88二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:41:09

    「こっちでもチャーム事件起きてたのかよ」
    「は?」
    「なんでもないなんでもない!!……どうしてレッドバレットとオレが関係あると?」
    「いや、私の勘違いなら申し訳ないが、あまりにも似ているように見えて」
    「まあその点に関しては私もヒゲヒゲと同意ですな」
    ドラルクも珍しくノースディンの言葉にうんうんとうなずく。

    「(何にも言えない顔)」
    「レッドバレットとは特に関係ないぞ。他人の空似って奴だ。そうだろう、ロナルド?」
    黙り込んでしまったロナルドを見かねたヒナイチが助け舟を出す。ロナルドはひたすらうなずく事しかできなかった。

    「本当にそうなの~?……おっと」
    訝しむ様子のドラルクだったが、突然鳴り出したスマホで詮索は中断される。
    ひとまずホッとしたロナルドであった。

    「はい、ドラルク。__新横浜駅前で?はい、はい、何人か捕らえられている?了解した」
    ドラルクの表情が一気に仕事の物へと切り替わる。
    「諸君、すまないが訓練はいったん中止だ」
    「どうしたドラルク」「何かやばい事でも起きたのか」
    ヒナイチとロナルドが実を乗り出す。
    漏れ聞こえてきた会話から察するに、とてもじゃないが穏やかな事件とは思えなかった。

    「ああ、新横浜駅前で巨大吸血鬼が出現したらしい」


  • 89二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:41:57

    ドラルクやロナルド達が新横浜駅に到着すると、すでに包囲網は完成していた。
    周囲には吸対やハンターたちの姿がちらほらと見える。
    「なんだ、この匂い、山……?」
    現場の吸血鬼の気配にドラルクが戸惑いを覚える。普段、都市部ではあまり嗅いだことのない匂いだった。
    「ドラルク隊長!」
    「半田君、それにサギョウ君も。現状はどうなっている」
    「駅周辺の避難は完了しています」「ただ、まだハンターたちが交戦中で」

    サギョウがある方向を指すと、十メートル以上はあるだろうか、巨大でいまいち輪郭の掴めない何かがビル街で暴れまわっている。
    ただ、「何か」とは違ってモザイクや焦点が合わないというよりも、ただただぼんやりとしていて掴みどころがない、存在がボケているように見えた。

    「なんなんだあれ」
    ロナルドもめったに見たことがない大物だ。その暴れ方はまるで怪獣映画のようだった。
    「人質はどうなったのかね」
    「はい、ハンターのマリアさんとターチャンさんがあの吸血鬼に捕まってしまい」
    「二人に何かあったのか!?」
    ヒナイチが悲鳴のような声を上げる。サギョウはその声にめげず、さらに言葉を続ける。

    「あの巨大吸血鬼に捕らえられて、あのビルに」
    そしてサギョウは、とあるビルを指さした。

    「なんっでだよ……」
    ロナルドが愕然とした声を上げる
    「ロナルド君?」「どうしたんだロナルド」
    ドラルクと半田がロナルドの動揺の理由が分からなかったようで聞き返す。
    だが、ロナルドは返事をしている暇はなかった。

    「半田、ヒナイチ!ドラ公のこと頼む!!」
    ロナルドはたまらず現場へと駆け出す。

  • 90二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:42:33



    のどがかわいている。

    「う、う……」

    目の前には、気を失った女の子が二人いる。
    シスター服の女の子とチャイナ服の女の子。衣装の派手さからして、吸血鬼ハンターだろう。
    飢えている自分を見かねて、「あの子」が連れてきてくれたのだ。

    のどがかわいている。

    そろそろと、歩みが女の子たちの方へと進んでいく。
    やってはいけないと理性で分かっていても、飢えが、限界に近い。

    のどがかわいた

  • 91二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:43:08

    現場は壮絶な大捕り物繰り広げていた。
    サテツが巨腕を躊躇うことなく振り下ろし、ショットがいつにない気迫で巨大吸血鬼の足止めをしている。

    シーニャやバッター、メドキにショーカたちの姿も見え、まさにハンターギルドの総力戦を上げていた。

    その中でも、ひと際キレのある動きをするハンターがいる。
    それは巨大な吸血鬼が触腕の一つを振り下ろそうとすると、すかさずその触腕を足場にし頭部の方まで駆け上がる。
    巨大吸血鬼の肩の部分と言えばいいのか、そこを起点に強く蹴りだしそのハンターは大きく宙を舞う。

    その様子は、まるで紅い稲妻のよう。
    打ち上げられた退治人、レッドバレットはその間も標的から微塵も目を離さず、おそらく頭部であろうパーツ部分へ的確に銃弾をぶち込んでいく。

    痛快無比とはまさにこの事よ、当代随一と例えられても遜色ないそのハンターはこの攻撃で生まれた隙を見逃さない。

    巨大吸血鬼(あいつ)が守ろうとしているものが、あのビルにいることは分かっているのだ。
    ヒヨシは仲間が捕らえられた苛立ちと焦りをぐっと堪え、窓ガラスごとぶち抜いてビルへと侵入した。

    ビルの中にテナントが入ってもいなければ、人気もない。
    何も知らない人が見れば、ただの人気のない無人のビル。

    一つ問題があるとすれば、ヒヨシが知る由もなかったが、そこが、かつてのロナルド退治人事務所が入っていたビルだった、と言う事だろうか。


  • 92二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:43:38

    シスター服の女性のベールを、ゆっくりと取る。
    うなじから、女性ならではの白い首筋が見えた。


    のどがかわいた

    とても、おいしそう


    理性は全て溶けてしまった。残っているのは食欲だけ

    もうためらいはなかった。私は大きく口を開け、そして、白い首筋に噛みつく

    人間の時には感じたことのない、芳醇でほんのりと甘みのある味わいが、口いっぱいに広がった。


  • 93二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:44:34

    「そこまでだ、吸血鬼」

    レッドバレットは対象に銃口を向けた。

    相手はびくりと動きを硬直させる。
    対象の背後には、マリアとターチャンの姿が見えた。
    だが、マリアの首筋からわずかに血液がこぼれてしまっている。

    レッドバレットは心の中で舌打ちをした。

    「それ以上その二人を傷つけるな。……さもなくば、わかっとるな?」

    レッドバレットは、拳銃の安全装置を外した。




    ロナルドはヒヨシの後を追う形で、無理やり事務所のあるビルへと突撃していた。
    巨大吸血鬼を他の皆に任せてしまったのは心苦しいが、それよりも中の人質二人の安否、そしてロナルド個人としては事務所の皆の事も気がかりだった。

    (みんな無事でいてくれ)
    ヒヨシが先に行ってくれるから大丈夫なはずだ、そう自分に言い聞かせても悪い考えが止まらない。

    逸る気持ちを抑え、ロナルドはヒヨシが向かったと思わしきがらんどうのフロアの扉を開けた。
    開口一番にレッドバレットの名前を呼ぼうとして、ロナルドは息をのむ。

  • 94二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:44:53

    「そこまでだ、吸血鬼」

    ヒヨシから聞いたこともないような、明確な敵意を込めた声がした。


    ヒヨシは銃口を向けている。
    一体誰に?

    首筋から血を流したマリアを抱えた女に。

    いや、違う。

    「それ以上その二人を傷つけるな。……さもなくば、わかっとるな?」
    ヒヨシが拳銃の安全装置を外したのが分かった。

    そして、まっすぐに目標を狙う。
    色素の薄い髪色の、その女を。


    なんで、よりにもよって
    ロナルドは心の底から叫びだしたかった。


    ヒマリだ。

    ヒヨシが、ヒマリに銃を向けている。



    続く

  • 95二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:11:42

    鯖復活したヌシュ

  • 96二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:14:44

    鯖復活したし続き読めるやったーと思ったらすごいことになってる

  • 97二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 12:23:04

    うそだろうそだろ!?!?!?ヒマリちゃんが転化してんの?!やばすぎる

  • 98二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 12:24:08

    ノースがロナルドくんの師匠になったことで、ウスパパの「ヘイ親友!」的な感じでノースがロナルドくんの面倒を見ることになるんだろうか、などと思いました

  • 99二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 12:40:53

    巨大吸血鬼ってもしやヒマリちゃんの過去話に出てきたやつ……??

  • 100二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 12:44:16

    乙でsあいえぇぇぇぇえ?!何で?!ヒマリちゃん何で?!
    「あれまだセロリのこと半田に話してないの?ないのに半田は本能でセロリの栽培を検討しているの?半田何者?」とか「やはり氷の能力はモザイク敵にとられたか…業火と並んでやべぇ能力、ドラドラちゃんドンマイ」とか考えてたのがぶっ飛んだんだけど?!
    巨大吸血鬼の匂いが「山…?」なことに「まさか土っぽい気配臭?!血刃モザイク敵か?!」ってひやひやしてたらまさかチノミダイダラとは…。

  • 101二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 19:46:05

    謎の女性は誰だ?
    ってずっと考えてたけどヒマリちゃんか~
    実害が出ちゃってるのがとんでもなくまずいな
    ただでさえレスバが得意じゃないロナルドがよりによってヒヨシ相手に説得できるのかどうか……

  • 102二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 20:02:17

    鯖復活して今しがた晩ご飯終えて読んだらシリアス再び

  • 103二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 20:09:59

    いつにない気迫のショット、ターチャンが捕まってるからか……

  • 104二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 20:29:05

    「ヒマリちゃんってそんなにほっそりしてたっけ?」って思って12巻読み返した。
    ほっそりしてた…。

  • 105二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:31:39

    巨大吸血鬼の大捕り物を見守るドラルクは、あの吸血鬼の正体を探ろうと神経を集中させている。
    (匂いが混ざってないから、おそらく「アレ」ではない。にしても輪郭がボケてるな)
    まるでガラスに反射した虚像のようだ。
    巨大吸血鬼の香りの性質は、若々しい木々の香りと湿った土、端的にいってしまえば初夏の里山で森林浴でもしたような匂いだ。
    あまり、日常では嗅いだことのない匂いだった。

    (……んん?ということは本来の生息地域外の下等吸血鬼が都市部に降りてきている?)
    あれだけ巨大な吸血鬼を下等と言ってしまえるのかは疑問だが、そうとわかればもう少し脳内の検索範囲を広げられる。
    山、巨大……、そこまで考えてようやく一つの心当たりが浮かんだ。
    となるとあの触腕にも納得がいく。あそこまで大きくなる吸血鬼はそうめったにいない。状況証拠的にもほぼ確定だろう。
    ドラルクがいつものメガホン型スピーカーを構え、大声で周囲の人間に情報を拡散させる。

    「諸君!!こいつの正体はチノミダイダラだっ!!!」




    ロナルドは頭がどうにかなりそうだった。
    目の前で敬愛する兄が妹に、銃を突き付けている。

    そして妹の口端には血液の筋が見え、マリアの首筋からは噛まれた跡が残っている。
    状況は一目瞭然で、だからこそなおの事始末が悪い。

    記憶の引継ぎの代償を聞いたとき、ロナルドは確かに埋めようのない喪失感と寂しさを覚えた。
    それでも、兄と妹が何事もなく元気でいてくれるならそれでいいと、納得してこの道を選んだのだ。
    だからあえて、今の妹には積極的に会いに行こうとは思わなかった。
    兄が元気でいるのなら、妹も当然平穏無事に暮らしているだろうと、それが無事の知らせのようなものだと考えていたのに……!

    「おっと、動かんでくれよ。必要以上に手荒なことはしたくないんでな。一発で終わらせよう」
    ヒヨシの圧に、ヒマリがびくりと肩を縮こませた。

  • 106二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:32:43

    ヒマリの目がまじまじとヒヨシを見つめている。

    「あに……?」
    「? 何をみてるんじゃ?」
    ヒヨシはヒマリに向ける敵意は変わらず、訝し気に眉をひそめる。

    「わ、私、……しらない?おぼえて、ない?」
    ヒマリが声を震わせながらヒヨシに訴える。
    だが、

    「女性の顔の覚えは良い方だが、お前(おみゃー)みたいな吸血鬼は見たことがない」

    返ってくるのは無常な言葉。

    「そう……」
    ヒマリは明らかに気落ちした様子で肩を落とす。
    そうなのだ、ヒマリが吸血鬼になっていると言う事は、当然ヒヨシが覚えているはずがない。

    (やばい、なんとか俺がフォローしなきゃ!)
    まずヒヨシに誤解を解かなきゃ、そしてヒマリにも説明をしてあげないと。
    ヒマリに銃を向けている兄貴なんか、見ていたくなんかない!
    ロナルドはヒヨシの名を叫ぼうとした。

    しかし、その声は届かない。


    「兄も、おぼえてない」

    「そう」

  • 107二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:33:12

    刹那、フロア一帯に衝撃破が炸裂し、窓ガラスが全て粉々に砕ける。
    バキッバキッという明らかに聞こえてはいけない音がビル全体から鳴り響き、まるでねじ切れる寸前のような軋みがさらに重なって聞こえた。
    衝撃で砕け散ったコンクリートやガラスが、ヒマリの力量の場を表すように宙に浮きだしている。
    力の中心にいるマリアとターチャンがかろうじて無事なのが見えたが破片の散らばりで細かい傷を負っている。そして、その状態も何時まで持つのか分からない。

    衝撃で吹き飛ばされたヒヨシを見る。
    いやだ。

    ヒマリにそんな目を向けないでほしい。いやだ。
    レッドバレットはヒマリにどす黒い視線をまっすぐに向けている。それは完全に、強敵を倒すべく獲物を見据える退治人の目だ。

    ロナルドはノースディンの言っていた言葉が、今更になって遅効性の毒のように効いていた。
    『能力の制御は覚えておいて損はない。自分を守るためにも、他人を守るためにも、だ。持っている能力が強大であれば強大であるほど、責任も伴うのだから』

    「能力の暴走……!」
    ロナルドは、もう自分がどんな表情をしているのか分からなかった。



    ちょうど同時期、建物の外でもヒマリによる衝撃破は伝わっていた。

    周辺一帯のビルのガラスは全て割れ、街灯は砕け、電気は消え、街は闇夜に包まれる。
    「非常用の外灯を点けろ!対象を見失うな!」
    「なんなんですかこのアホみたいな威力は!?」
    「ガラス気を付けて!」

    「マリアさんとターチャンさんは無事だろうか」
    ヒナイチが心配そうに独り言ちる。
    「ヒヨシ君が出てきていないのを見るとまだ交戦中だろう。信じて待つしかない」
    吸対の隊員たちが対応に追われる中、ドラルクは急に他の吸血鬼の気配が濃くなった人質が捕らえられたビルに注目している。

  • 108二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:34:35

    (気配が急に強くなった?なんていうか、ロナルド君に似てるような)

    (というか、あのビルは)
    ドラルクがデジャヴのようなものを感じるその前に、ビルの3~4階にあたる外壁が一気に弾け飛んだ。

    「危ない!」
    ドラルクはとっさにジョンを抱えて顔を下げ、ヒナイチがドラルクに当たりそうだった瓦礫のいくつかを切り払う。
    ドラルクが落下物に気を付けながらゆっくりと頭を上げると、ビルの上にはある女性が浮いていた。


    頼みの綱の兄にすら、自分の存在は覚えられていなかった。

    (いやだ、なんで、なんでだれもおぼえてないの)

    (これじゃあ、小兄も、きっと)

    そこでヒマリは一つの事実に気が付く。
    このビルに、ロナルド探偵事務所は無かったのだ。

    それじゃあ、小兄は


    そもそも存在すらしていない。

  • 109二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:35:44

    胃にコールタールのようなヘドロが溜まり、落ちていく。
    動機が激しい。息が上手くできない。
    ぐちゃぐちゃで、かなしくて、さみしくて、もういやで。

    「……っ」

    子どもの頃のように、泣きじゃくる。

    積もりに積もった疲労心労と、不安。そして兄による決定打の一言。
    制御を完全に失った力は、矛先を失い周囲を暴風雨のように荒れ狂う。
    それはまるで、ヒマリの心の内をそのまま表したかのようだった。



    ヒマリの能力の暴走ギリギリでロナルドとヒヨシは、人質2人を抱えてなんとか脱出していた。
    マリアとターチャンは多少の怪我はあれどおおむね無事と言える範囲ではあった。
    その様子を見ていたらしいショットとサテツが駆け寄る。

    「レッドバレット、ロナルド!二人は!?」
    「変な打ち身とかしてないよな!?」
    「ちょっと怪我してるけどなんとか無事。吸対の方に連れてってやってくれ。応急処置してくれるはずだから……」
    ロナルドが二人をショットたちに預けた。しかし、サテツはすぐにロナルドの変化に気が付く。

    「大丈夫か、ロナルド。顔色が最悪だぞ」
    「うん……、大丈夫。心配してくれてありがとう」
    明らかに歯の浮いたような形ばかりの言葉だ。
    「ロナルド、お前」
    サテツがさらに言葉を続けようとしたところで、レッドバレットが黙ってヒマリの暴れる方向へと向かおうとする素振りを見せる。

  • 110二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:36:14

    「レッドバレット、一人で行くつもりか?」
    ターちゃんたちを抱えるショットが心配そうに尋ねた。
    「ああ。アレは俺一人でどうにかする。お前(おみゃー)らはマリアとターチャンを頼む」
    「待ってくれ、レッドバレット!」
    ロナルドがたまらず声を上げたが、

    「なんだ?」
    怒気の含んだ声と、ヒヨシの射抜くような目線にたちまちすくみ上った。
    子どもの頃、本気で怒られた時にするあの窘める目だ。

    「アレは俺一人で行く。良いな?」
    それ以上有無を言わせない言葉だった。
    ヒヨシは、ロナルドの返事も聞かずに一人、暴走するヒマリに向かって突撃していく。



    「……どうすれば」
    ヒヨシが去った後、ロナルドは途方に暮れる。

    今のままじゃ兄に対して説得する言葉をロナルドはもたない。
    あの状態の兄の前では、ロナルドはまるで子供の頃のような心境に戻ってしまい、言葉が出てこなくなる。

    でも何か行動をしなければ。
    ヒマリとヒヨシが戦うのなんてダメだ。見たくない。
    だがここで手をこまねいていれば戦いは始まってしまう。
    何かしなきゃ、なにか__!

  • 111二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:36:45

    「ロナルド君?」
    後ろから、飽きるほど聞いた貧弱な声が聞こえた。
    男はひょいと考え込んでいたロナルドの顔を覗き見る。
    そして呆れたようにこう言った。

    「なにテーマパークで迷子になった五歳児みたいな顔をしてるんだい、君」
    「うるせえ」

    「うるさいは無いだろう、うるさいは。さーては何かのっぴきならない事態に遭遇してパニックを起こしてるな?」
    「うるさいっつってんだろ!お前には関係ない!!」
    「関係ない訳ないだろ!!!とっとと相談せんかこのバカたれっ!!!」

    「……」
    ロナルドは目を丸くする。
    「いいかい、一人で悶々と悩んで自滅するのは君の悪い癖だよ。抱え込んだ結果、首が締まって身動きが取れなくなってるんなら、さっさと他人も巻き込んでしまえばいいんだ」
    「……信じてもらえるわけない」
    「不本意ながらバカサイコ仮面の言葉を借りるが、信じる信じないではなく、今なにが起きてるかだ。なあジョン」「ヌン!」

    「レッドバレット(ヒヨシ)君にいい所ばかり取られては不本意だ」
    ドラルクは飛び切り不敵な笑みを作る。まるでいたずらを思いついた悪魔のように。

    「そろそろ我々も、我々の活躍をお見せしようじゃないかい?ねえ、ロナルド君」


    ヌヌヌ!(つづく)

  • 112二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:50:47

    ヒマリちゃん小兄すぐ傍にいるよ―――――!!!

  • 113二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 23:25:25

    ヒィーーーッッッヒマリちゃん…ヒマリちゃん登場でめちゃくちゃ嬉しいけどめちゃくちゃ不穏!!!!

  • 114二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 00:18:40

    ヒマリちゃん元々ほっそりだけどもしや血が吸えなくて痩せたのか…?

  • 115二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 09:46:40

    ほしゅほしゅ

    個人的にYおじが未登場なのが気になるんだけど…
    嘘予告でもなんか色々知ってるぽかったし(とか言ってこの後普通に出てきたらどうしよう)

  • 116二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 09:53:33

    チノミダイダラは原作でも悪いやつではないけど人間の常識があるわけでは無さそうだったし
    自分の世話になった子が吸血鬼になってしかもお腹が空いてたら悪気無く獲物連れてくるくらいはしちゃいそうだな…

  • 117二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 11:38:43

    なんとかしてくれドラルクー!と言いたくなる引きだな…上手いこと軟着陸してほしい

  • 118二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 18:44:23

    チノミダイダラ、悪意とかはないので味方になってくれたりしたらめちゃくちゃ強い

  • 119二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:21:05

    ロナルドから事情を聴いたドラルクはただ呆れるしかなかった。

    「兄と妹ぉ?」
    「やっぱり信じてねえじゃねえか!」
    「急かすな!!驚いただけで別に信じないとは言ってないだろうがこの弱火30分を強火10分で代替する短気系ゴリ造!」
    ドラルクが焦るロナルドを窘め、再び確認をする。

    「いいかい、もう一度状況を整理するぞ?まず君とヒヨシ君とあの吸血鬼……ヒマリ嬢はもともとは人間で兄妹」
    「ああ」
    「そしてとある理由により、今の状況では兄妹関係そのものが無かったことになっている。ロナルド君は、互いに兄妹だった事を覚えているが、ヒヨシ君はそれをさっぱり覚えていない。しかし、ヒマリ嬢はおそらく記憶を持っていて、何かが原因で能力が暴走。それがヒヨシ君の逆鱗に触れて、一触即発状態ってこと?」
    「多分、そうなるな」

    「やっやこしい~、なんでこんなことになっちゃってるの???」「ヌ~?」
    「俺だってなんでこうなっちゃったのか分かんねえよ!!」
    ロナルドは話を聞いてもらえて大分落ち着いたのか、素直に感情を出して泣いている。

    「聞いてるだけでもすれ違いの悲劇が起こりそうな要素バリバリだな。男女関係とかならロミジュリそうだぞ」
    「ロミジュリをすれ違いの悲劇を表す動詞にするんじゃねえ。とにかく、俺はヒマリと兄貴に戦ってほしくないしヒマリを助けたい!でも兄貴がヤバイキレ方してて止め方が分かんない!!どうすりゃいい!?」
    「どうするってそんなのやる事はシンプルだよ」
    「だからそれがなんなんだよ」

    「誤解を解けばいい」
    ドラルクがさも当然だろうと言わんばかりにしれっと言った。

    「それができないからこんなに困ってるんだろ!!!」
    「説得しろとは言っていない。そもそもヒヨシ君相手に論破とか、無理だろ?事情を伏せた状態で相手を動かそうなんて器用な黒幕ムーブ、ババ抜きでジョーカーの有無丸わかり直情型お人よしゴリラが土台やれるわけないんだ」

  • 120二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:21:40

    「だからね、ロナルド君は直球でいきなさい。やってほしくない事、理由、それら全てを本人に馬鹿正直にぶつけてしまえ。君はがむしゃらに真摯な行動をしていた方が強い」
    「でも、俺は兄貴の前だと……」
    「それはそうだ。なので重要なのは順番。まずはヒマリ嬢の暴走を抑えて彼女の事情を聴く。ヒヨシ君に話すのはそれからでいい」
    「その間、兄貴はどうするんだよ?ヒマリと話してる間に兄貴が来たらそれこそ泥沼じゃ」
    「なあに大丈夫さ」
    ドラルクはにやりと笑う。とてもいい事を思いついたと言わんばかりの顔で。

    「ヒヨシ君には、丁度おあつらえ向きの足止め要因がいるじゃないか」




    特殊な力量の場の中で、レッドバレットはかの女吸血鬼に近づく隙を探す。
    念動力の方向性が摂っ散らかっていてどこから不意打ちが来るかわかりづらい。
    無策で突っ込むと被弾するのは見えている。

    (一度注意を引くか……?)
    大きな衝撃音を出すなどして、能力の指向性を偏らせるのもいいかもしれない。
    暴走しているとはいえ、本体の気がそれる出来事があれば念動力の場もそちらに集中するものだ。

    レッドバレットは銃弾が上手く跳弾して音が響き、それでいて程よく距離の開いているポイントを探す。

    (あった)
    目的の下部分の地面に、ビルの外壁が積み重なっているポイントを見つけた。
    ライフル銃を構え、目標に向かって撃とうしたが__、それ以上の行動はできなかった。

    レッドバレットは狙撃を中断し、自分より斜め上空に浮かぶその相手を睨みつける。

    「おや、一つからかってやろうとしたのに、気づかれてしまうとは残念だ」
    「……なんでここにいるんじゃ、氷笑卿」

  • 121二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:22:38

    レッドバレットの見据える先に、腕を組み、椅子に腰かけるようなポーズで宙に浮く紳士がいた。
    ノースディンは不敵な笑みを浮かべる。
    「不肖の弟子から頼まれ事をされてね。断れず、こうして直々に赴いたというわけだ」
    「ほう、それが俺となんの関係が?」
    「キミと遊んでいてほしいと言われている」
    レッドバレットは返事をせずにライフル銃を撃った。

    「まったく、会話の途中で発砲とは随分乱暴じゃないか。退治人(ハンター)君」
    撃たれた弾はノースディンには届かず、額に当たる直前で空中に浮いている。
    ノースはその弾を手のひらの上で宙に浮かせて遊ばせると、ぐっと力を込めて弾を破裂させる。

    「うるさい、お前と遊んでやる義理はない」
    「それは困るな?私はぜひとも君と遊びたいとも」
    ピリピリとした様子のレッドバレットに、ノースディンは優雅に微笑みかける。
    弟子に頼まれての予定外のマッチングではあるが、この赤い退治人に興味がないわけではない。
    やられっぱなしのままでいるつもりは、ノースディンにはなかった。

    「この間は麗しい魅了の吸血鬼に邪魔をされてしまったが、今日はその心配もない」

    「リベンジマッチといこうか、退治人(ハンター)くん?」



    ヒヨシとノースディンが戦闘を開始したのを眼下に確認すると、ロナルドは一心不乱にヒマリの元へと急ぐ。
    (余計な事は考えない。時間を稼いでもらってる間に、ヒマリに全部言おう!)

    宙に浮く障害物や瓦礫を避け、時に足場にし、徐々にだが近寄っていく。

    もう少し!
    あと少しでたどり着く、ロナルドがヒマリに手を伸ばすが、届く直前で障害物が横切る。

  • 122二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:23:21

    (チノミダイダラ!?)

    ハンターたちと戦っていた筈のチノミダイダラが、ハンターに対する抵抗を中断してまでロナルドを邪魔しようと触腕を伸ばしてきていた。
    多数ある触腕がロナルドを狙ってきている。
    「くっ!」
    2~3本は捌けても、全てはさばき切れない。触腕の内の一本がロナルドを遠くに投げ飛ばす。
    途中にあるビルになんとか引っかかって体制を立て直した。あの触腕をどうにかしなければヒマリに近づけない。
    ロナルドは諦めず、また近づくことにチャレンジする。
    ビルの屋上から地面を蹴り上げ、退治人事務所のビル方面へ飛び上がると、触腕は再びロナルドを狙う。
    狙うが、来るのが分かっていれば、こっちだって対応ができる。

    「だぁああああっ!!!」
    ロナルドは迫ってくる触腕の一本を馬鹿力による拳を浴びせることで千切った。
    これにはチノミダイダラも動揺したようで、ぼやけた輪郭から甲高い叫びが聞こえる。

    「うしっ、このまま」
    しかし、この行動は思わぬ結果に転がってしまう。

    『……っ!!』
    ヒマリの周りの念動力の暴走が、さらに苛烈に荒れ狂い始めたのだ。

    (なんで!?)
    さっきまで近づけそうだったのに、この嵐では触腕をどうにかしても近づけない。
    突然の事態の急変にロナルドは動揺する。そして、ヒマリの次の行動で理由を全て悟った。

    「ヒマリ……?」
    遠目からヒマリが、チノミダイダラの千切られた触腕をいたわっているのが見える。
    それはさながら、ドラルクがジョンを心配する時のように。

  • 123二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:24:28

    「あいつ、ヒマリを守ってるのか……?」
    なら、今の自分の行動は悪手だ。むしろ警戒心を抱かせてしまったかもしれない。

    どうしよう、自分だってヒマリを助けたいだけなのに、絶妙に状況と行動が噛み合わない。
    どうすれば、上手く

    「いや、余計な事考えるな」
    ドラルクは言っていた、直球でいけと。
    幸い、自分は体だけは丈夫だ。あれぐらいの嵐、ちょっと痛いかもしれないが、なんてことない。
    あとでヒナイチやサテツやジョンにしこたま怒られるだろうが、もうこれぐらいしか思いつかない。

    ならやる。
    ヒマリに届くように、馬鹿正直にごり押してやる。
    それがきっと、自分にできる最善だから。

    「ヒマリぃぃいいいいいっ!!!!」

    ロナルドは大きく叫び、走った。
    自分がここにいると、妹に知らせるために。



    (どうしよう、いたそう)
    自分を助けてくれたあの子が、酷い傷を負ってしまった。
    この子は悪くない。自分を助けようとしてくれただけだ。

    この子に傷を負わせた人は、遠くに吹っ飛ばされた。
    でも、きっとまたくるはずだ。

  • 124二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:25:38

    この子が退治されてしまったらどうしよう。
    一撃でここまでの手傷を負わせたのだ。

    あの吹き飛ばされた人なら、この子を完全に退治してしまうかもしれない。

    (来ちゃダメ)
    力がさらに荒れ狂うのを感じる。
    だが、いまはただの暴走というよりも拒絶に近かった。

    これ以上傷つけないで。
    悪い子じゃない。本来は山にいるべき子だったのだ。
    この子までいなくなってしまえば、自分は本当にひとりぼっちになってしまう……!

    しかし、どれだけ嵐を強くしようと、あの吹き飛ばした人がまた近づいてくるのが分かる。
    どうしよう、どうしよう。
    破滅の足音が近づいてくるようだ。

    (いやだ、どうしよう、だれか)

    来ないで、と強く願うが、その願いはきっと叶わない。


    「……マリ…!…ヒマリっ!!!」

    嵐の外側から、ヒマリにとって、懐かしい声が聞こえた。

    「小兄……?」

    そんな馬鹿な。
    だって小兄は、いなくなっていたはずだ。

  • 125二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:26:51

    ここには退治人事務所も、ロナルドウォー戦記もない。
    兄に関する痕跡が見つからなくて、あんなに途方に暮れたというのに。

    なら一体どこに。

    それは酷い嵐を突き破り、ヒマリの前に降り立つ。
    黒いマントを羽織った、クラシカルな出で立ちの吸血鬼。
    それは、かつて小兄の相棒だったあの吸血鬼のような服。でも着ている人物は違う。

    髪型の違いはあれど、間違いなく、小兄だ。

    だが、どう見ても見た目がボロボロだ。それはそうだ、あの瓦礫や鉄骨、ガラスの嵐をかいくぐってきたのだから。

    「……あ」
    ヒマリは怖くて上手く言葉が出せなかった。
    名前を呼んでくれたって事は、覚えていてくれているのかもしれない。
    だけど、万が一ここで知らないと言われたら……!

    「ヒマリ」
    その言葉が、不安を綺麗に拭い去る。
    小兄が子供の頃のように、自分の事を抱きしめてくれた。

    「届いてよかった……」
    小兄の声は、涙ぐんでいた。

    いままでの不安と悲しみが溶けるように、安堵し、そしてまた子供のように泣きじゃくった。
    外の嵐は、ゆっくりと弱まっていった。


    ヌヌヌ!(つづく)

  • 126二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:31:36

    ヒマリちゃんの方は落ち着いた感じか
    あとはヒヨニキ……

  • 127122/05/15(日) 22:32:57

    ノースディン、いかにも余裕ぶってレッドバレットの弾を受けとめてるように見えますが、割とギリギリだったという裏設定があります。

    明日はちょっと文字数少な目更新になるかと思います。
    そして連続更新ほぼ一か月経過しました。こんなに続けられるとは思わなかった。
    トータル文字数も8万超えました。1の書いた文章最長記録です。
    今後ともよろしくお願いいたします。

  • 128二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:48:42

    乙。日々の楽しみになってます。

  • 129二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 22:56:05

    まじでありがとうめちゃくちゃ面白くて毎回楽しく読んでます
    ヒマリちゃんに届いてよかった!!!あと!!ノース!味方になってくれたらめちゃくちゃ畏怖い!水面下バタ足なところも含めて今回は畏怖かった!

  • 130二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 23:48:45

    めっちゃドキドキして読んでます!
    ヒマリちゃんを無事保護できて良かった…

  • 131二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 10:56:55

    ヌッシュ

  • 132二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 20:25:35

    一部始終を外から眺めていたドラルクはあまりの無茶ぶりに声をあげそうになった。
    (確かに直球で行けとは言った。言ったが……!)
    あの瓦礫の暴風雨にバカ正直に突っ込んでいくんじゃない。
    多少の怪我はあれどケロッと回復して戻ってくるんだろうという確信はあるが、見せられた光景はなかなかにショッキングなので心臓に悪い。最近こんなんばっかりである。

    (しかしこれで賽は投げられた。あとは)
    ドラルクは手元にある無線で呼び出しをする。
    「ミカエラ君とモエギ君!そっちの進捗はどうなっている!」
    『誘導完了まであと少しです。五分以内に圏内に入るかと』
    「了解した!そのまま続けてくれ。サギョウ君はポジション確保した?了解。そのまま半田君と待機。半田君はスポッターに集中。にく実君は__」

    ドラルクが吸対のメンバーにテキパキと指示を出していく。これらの下準備が刺さるかは実際に状況が動かなければ分からないが、できる限りの布石は置いておく。
    ドラルクはノースディンとヒヨシがいる方向を見る。さきほどから何回かの銃撃音が聞こえているのでまだ交戦は続いているらしい。
    (余計な事しなければじゃれあい程度に収まるとは思うが。ヘマしないでくださいよ、師匠)




    ロナルドの呼びかけがヒマリに届いた。
    瓦礫の暴風雨もわずかにマシになり、状況は一旦は好転したように見えたが……。

    (ダメだ、完全には止まってねえ!!)

    まだ能力の暴走が完全に止まり切ったわけではない。
    腕の中のヒマリは安心したせいか意識を失ってしまっている。
    無意識下での暴走状態だ。止めるためには念動力に長けた者の介入か、あるいはガス切れまで力を吐き出させるかのどちらかが必要だ。
    (ガス切れまで吐き出させたら事務所が倒壊する!そうなったら事務所の皆が……!)
    ロナルドはヒマリをいわゆるお姫様抱っこのような形で抱え直す。
    せめて人気のない場所へ。この間サテツと殴り合った大きな公園ならここから近いしスペースもあるし建物もほとんどない。
    ロナルドは、事務所のビルからの脱出を図ろうと試みる。しかし、触腕による鋭い一薙ぎが飛んできて飛び立つことが出来なかった。

  • 133二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 20:26:17

    「チノミダイダラ!?」
    チノミダイダラは完全にロナルドを補足している。
    怒っている、そうロナルドは本能で感じ取った。

    「悪い、お前とは戦いたくないんだ!」
    だがチノミダイダラに言葉が通じるわけもなく、ロナルドの腕の中で眠るヒマリを助け出そうとさらに苛烈な攻撃を繰り出してくる。
    さっきは被弾覚悟のごり押しであの触腕を振り切ったが、今は腕の中にヒマリがいる。ヒマリを傷つけるわけにはいかない。
    なら、攻撃を避けて事務所の外に出るにはもう一度チノミダイダラを傷つける必要がある。

    でも。

    (あいつを傷つけるのは)
    ヒマリも悲しむし、自分もそれを嫌だと感じている。
    だがそもそも言葉で説得が通じる相手なのか?そしてあの巨大生物相手にどう説得すればいいんだ?
    さっきからコミュニケーションのすれ違いに困ってばっかだなとロナルドが考えていると、解決の道筋は意外な方向から来た。

    ズシン、ズシン、とVRC方面から大きな何かが駅前通りに近寄ってくる。
    ビルの向こうから見えたそれを視認できた時、ロナルドは一度目をこすってもう一度それの存在を確認した。

    その巨大な何かは、尻。



    「巨大生物には巨大生物をぶつける!!巨大チノミダイダラには、巨大小ゼンラニウムだぁーーーーーー!!!」
    ドラルクは自分の得意な展開が来てテンションがアッパーになっていた。
    巨大スライム状生物VS巨大ケツ植物。
    B吸、あるいはZ級クソ映画のパッケージを飾れる見事な汚い絵面だ。

  • 134二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 20:27:16

    「急いでVRCに行ってくれと言われたので何かと思えば……」
    ここまであの巨大小ゼンラ二ウムを誘導してきた一員の一人であるヒナイチは大いに呆れていた。
    「でもあのサイコ仮面快諾しただろ?」
    「特製栄養剤でひと暴れしてデータを取るんなら許すとほとんど二つ返事だった。本当にあの姿勢どうかと思うぞ!ちん!」
    「フフフ、予定通りだよヒナイチ君。後の始末書の事なんざ知った事か!!どうせここら一帯の避難は全て終わってるんだ!!サァー、どんどん暴れてしまえ小ゼンラニウム!!!」「ヌヌヌー!」
    「お前ちょっと趣味入ってるだろ」
    ちょっとどころかこの作戦の4割ぐらいはドラルクの個人的な趣味だ。

    そんなうっきうきなドラちゃんの耳に無線が入る。
    『ムン!吸対服の同胞!』
    『ゼンラニウム氏!そちらの状況はどうだ』
    『視界良好、小ゼンラニウムの状況も安定している!いけそうだ』

    ドラルクが小ゼンラニウムの一番上部分をみると、ゼンラニウムが堂々と仁王立ちをしている。
    『目標確認!接触を開始する!!』

    小ゼンラニウムの花からツルの触手が伸びていく。
    当然チノミダイダラは己の触腕でそれを受け止めた。巨大生物同士、取っ組み合いの開始である。

  • 135二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 20:28:32

    「巨大小ゼンラ二ウム!?あいつ何つーもんを」
    こんなアホみたいな作戦考えるバカはこのシンヨコにおいて一人しかいない。
    だが、今はそのアホみたいな作戦が何よりもありがたかった。

    チノミダイダラにできた大きな隙をついて、ロナルドはすかさず事務所の外へと脱出する。
    移動とともにヒマリの念動力の場もロナルドに追従する。
    他のビルにジャンプで降り立つと、その一帯のガラスやら壁が面白いように砕かれていって眩暈がした。
    一刻も早く公園にたどり着かなければ、シンヨコ一帯のビル群が廃ビル一歩手前状態になってしまう。

    次は着地地点をできる限り遠くまで伸ばそうとし、助走をつけようとすると、ロナルドの足元に大きな音が跳ね上がった。

    バキュンッ。

    それはライフル銃特有の跳弾音。
    誰が使っているのか、そんな事相手を見ずともロナルドには分かりきっている。
    ああ、地獄の到来の合図だ。

    「まさかお前が、吸血鬼の肩を持つとはな。てっきり吸対の協力者だと俺は認識していたんじゃが」

    「見込み違いだったようだ」
    身体の芯から冷えるような恐ろしく凍えた声。
    ロナルドは内心怖くて怖くてたまらなかった。だが、ここで引くわけにはいかない。

    「なあ?ロナルド」

    「……レッドバレット」
    ロナルド、ほぼ初めての兄への反抗心であった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 136二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 20:33:04

    巨大スライム状生物VS巨体ケツ植物とかいうどう見てもギャグにしか見えない地獄絵図がぶちこまれたと思ったらさらに真っ当なシリアスが変化球で側頭直撃したようなもんである
    シリアスとギャグが交互に殴ってきて温度差で風邪ひきそう!!
    頑張ってヒヨシを説得してくれロナルドくん(無茶ぶり)

  • 137二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 21:48:42

    くっっっそ!!!!ヒヨニキまじで今こないで!!と思うのに同時にめちゃくちゃカッコいいとも思ってしまう!かっこよすぎるわ!

  • 138二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 00:01:03

    とんちき怪獣大戦争勃発に笑ったかと思ったら、きゃーヒヨニキかっこいいこっち向いてー!って気持ちと今来るな落ち着くまで待ってくれタイム!って気持ちが交互に来て忙しい。続き楽しみにしてます

  • 139二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 00:02:55

    巨大なのか小なのか

  • 140二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 00:14:24

    キャー!巨大小ゼンラニウム頑張ってー!
    兄弟の地獄をギャグ落ちさせてー!

  • 141二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 03:57:38

    ドラドラちゃんがめっちゃ楽しそうで嬉しい
    でも多分終わった後始末書で呻くのもドラドラちゃん

  • 142二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 06:59:18

    ヌッシュ
    最高の味方が一転、敵に回ると最悪に……

  • 143二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 11:58:56

    敵に回るとこんなに恐ろしい…流石レッドバレット

  • 144二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:52:58

    ヒマリの念動力による暴走は、中心にいる能力者の周辺では起きておらず、丁度台風の目のように場がぽっかりと開いている。
    そのドーム状のわずかなスペースに立つのは二人の男。
    ロナルドとレッドバレットは沈黙を保つ。
    そして互いを見やる。

    説得の言葉を口にしようとロナルドは口を開こうとしたが、声を出すことはできなかった。

    ほとんど勘でロナルドはヒマリを抱えてその場を飛ぶ。元居た場所には銃声がのこり、レッドバレットが早打ちをしたのだと分かった。
    空中での補足を警戒し、素早く元居た場所の後方の地面に降り立つと、目標をずらして撃ちづらくするためにレッドバレットを見ながらジグザグに移動をしていく。
    そして屋上にある建物の影に滑り込んだ。一旦射線を切れた、ロナルドは考える。
    さっきまで撃った銃弾の音の数は3。自分と同じタイプのリボルバーを使っているとしたら総点数は6、そしてあの弾の種類は軽そう、だとしたら!
    ロナルドは急いで壁から離れる。ロナルドがいた付近の壁からさらにバシュンッという銃音が聞こえた。
    跳弾を使った死角の敵を狙うテクニカルなショットだ。これがあるから手練れの前では遮蔽物があろうと安心できない。

    その間にレッドバレットは抜け目なく弾をリロード。そしてさらに銃声が二発鳴る。
    左右から来る気配を察し、ロナルドはさらに後ろに飛びのいて躱そうとするが、

    (違う、これ誘導だ!!)
    とっさにフェイントを入れてあえて前に飛び出した。
    後方にもう一発銃声が響く。
    左右の逃げ場を無くし、敵が移動しそうな場所にあらかじめ照準を合わせて撃っておく偏差撃ちの一種だった。
    たまたま自分に銃の知識と経験則があったから全て避けられたが、初見であれば間違いなくどこかで被弾していた筈だ。

    レッドバレットも全て避けられたのは予想外だったようで、驚いたように目を見張る。
    そして、ますます厳しい表情でロナルドを見据えた。

    (……やばい)
    ロナルドは緊張感の連続から肩で息をする。吸血鬼を相手にするのとは別のプレッシャーがあった。
    兄貴だからとかそれ以前に、一人の退治人としてレッドバレットは手強いのだ。
    しかも今はヒマリも抱えている。このままでは反撃もできない。そもそも兄貴に攻撃できるわけがないのだが。

  • 145二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:53:44

    (話をしなきゃ、無理やりにでも)
    さっきのヒマリの時の行動を思い出す。
    あの時も届いたんだ、なら、次だって……!

    次の瞬間レッドバレットが、ロナルドに向かって大きく足を踏み出した。

    (!?)
    先ほどの複雑な行動とは打って変わって、愚直にレッドバレットはロナルドに近づいてくる。
    そして銃を構え、ロナルドに向かって的確に銃を数発撃ち込んでいく。
    シンプルな直線の弾道、避けることはわけないが、だからと言ってここで油断をすると負ける!
    (何が狙いだ!?)
    刹那の間に思考が逡巡する。離れるべきだ、でも飛んだら撃たれる、フェイントはさっき使った、じゃあ逆に__。

    しかしレッドバレットは銃は撃たなかった。
    持っているリボルバーを真上に高く、投げ上げる。

    ()
    ロナルドのそれまでの思考が一瞬にして飛んだ。
    そして、その隙をレッドバレットが許すわけがない。
    次の瞬間、ロナルドの頭部にレッドバレットによる回し蹴りが決まった。



    ロナルドは蹴りの勢いで大きく吹っ飛ぶ。

    「ぐあっ……!」

    ダメージ自体は大したことは無い。だが心理的な動揺が大きく、ロナルドは思わずヒマリから手を離してしまった。
    レッドバレットは投げた銃をキャッチするとロナルドにマウントポジションを取り、額に銃口を突きつける。
    さらに懐からもう一丁の拳銃を取り出すと、片方はヒマリに向けていた。

  • 146二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:54:15

    「これでチェックじゃな」
    レッドバレットが涼しい顔で言う。

    「おっと動くなよ、ロナルド。動きは悪くなかったが、攻撃する気が無いのがバレバレじゃ」
    やはり全部見透かされていた。
    ロナルドは苦虫を噛む。こけおどしでもいいから銃を撃っておくべきだった。
    そしたらこんな風に大胆に接近されることは無かった筈だ。

    「レッドバ」「おっとそれ以上喋るなよ。話は一度VRCで反省してからだ」
    レッドバレットが銃を握り締める。
    きっと、吸血鬼麻酔弾を撃つつもりなのだろう。
    自分が終われば、もしかしたら次はヒマリも撃たれるのかもしれない。今の状態のヒマリに撃ったとして、暴走が収まるのかは分からないが。
    「……っ」
    「うん!?どうした?」
    レッドバレットがロナルドの予想外の表情にうろたえる。
    なぜだか、ロナルドの目から涙がこぼれていた。

    ロナルドは、別に銃を撃たれるのが怖いとか、負けたことが悔しくて泣いてるわけではなかった。
    戦ってみて分かったが、怖かったけどやっぱり兄貴は本当にカッコいい。
    最強だ。自分なんかが勝てるわけない。子供のころからずっとずっとヒーローなのだ。
    こんな凄い現役時代の兄貴が見られてむしろ感謝している。

    だからこそ、今の状況が苦しい。最初に銃を向けている兄貴を見てからずっと心の中でもやもやしていたのだ。
    本っ当に嫌だ。これがいわゆる地雷って奴なんだと思う。
    俺たちのヒーローである兄ちゃんが、守るべきヒマリに銃を向けるなんて……!

    もう一度ドラルクの声を思い出す。
    『やってほしくない事、理由、それら全てを本人に馬鹿正直にぶつけてしまえ』

    『君はがむしゃらに真摯な行動をしていた方が強い』

  • 147二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:55:15

    「おい、ロナルド……?」
    「兄貴」
    ロナルドはがしりとヒヨシの両腕を掴んだ。
    「へ?」
    あにき?とヒヨシが言葉を繰り返す前に、ロナルドの行動は終わっていた。

    「撃っちゃダメだぁぁぁぁぁぁあああああああっっ!!!!」

    ヒヨシの額にロナルドの頭が直撃。それは、いわゆる心を込めた渾身の頭突きというやつであった。




    頭突きを直撃でくらったヒヨシは、衝撃で頭がくらくらしていた。
    しかしロナルドはここがチャンスとばかりに畳み掛ける。
    「兄貴は覚えてないだろうけどっ!俺とそこにいるヒマリは兄貴と兄妹でっ!俺は兄貴にヒマリを撃ってほしくないっ!!!」
    「うぉおおお情報をダイレクトで流されてさっぱり分からん!!なんじゃそれ兄妹…?兄妹!?」
    「兄貴はもう忘れちゃってるしこっちの世界軸じゃなかったことになってるけど兄妹なんだよ!!」
    「言ったもん勝ちといわんばかりに詳細を省いて結論だけ言うな!咀嚼させんか!!」
    「だって一気に言わないと余計な茶々入れられてまた変なこじれ方しそうなんだもん!!!もうやだこのディスコミュニケーション状態!!」
    「知らん間に弟と妹が出来てた俺の心境も労ってくれ!!!千歩譲ってその話を信じるとしてなんで戦闘前に言わんかったんじゃ!!!」
    「だってあの時兄貴マジ切れしてる時の兄貴だったじゃん!!!無理だよあの兄貴に声かけるの!!!」
    「そもそもキレた原因の一つはお前が指示無視して勝手に行動しとったからだろうが!!まったく昔っから話聞いてるようで肝心な所聞いてないなお前(おみゃー)は!!!」

  • 148二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:55:32

    「えっ、昔って……?」
    ロナルドが会話に違和感を覚えて聞き返す。今のヒヨシから出ない筈の言葉だ。
    「だから!!俺が肩を怪我した時の……ときの、」

    ヒヨシが自分の口に軽く触れる。
    一つ吊り上げられた記憶がきっかけで、様々なシーンが走馬灯のように流れていった。

    今の自分が知っている場面と知らない場面、だが、どれも自分に実感のある記憶で__。

    ヒヨシの足元の影が、ゴポリと泡だった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 149122/05/17(火) 21:56:43

    前回の話の最後でライフル銃って書いたけどライフル銃ミスですすいません。
    普通にリボルバータイプのハンドガンです。

  • 150二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:58:40

    フェイントいれて隙作ってからの流れるような攻撃、これは弟もベタぼれですわヒヨニキ……

    怒涛に情報流した甲斐があったかな、どうも記憶あるっぽい……?

  • 151二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 22:50:43

    えっ!なに!?
    ひょっとしてヒヨシだけじゃなくみんな情報ぶっぱすれば思い出したりするの??

  • 152二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 22:55:58

    乙です!
    ここの軸しか知らない筈のキャラでも、前の軸の記憶が残っていることはドラルク隊長の件(おじさんの実の吸血鬼の件や、物書きルドくんの件など)でわかっていたけど、まさかヒヨシもとは…。
    もう「辻斬りナギリ」でない筈の「不景気な顔のお巡りさん」をジョンが「ヌリヌリヌン(ギリギリさん)」って呼んでた時とかも不思議ではあったけど、意外と前の軸のこと覚えているキャラ多いのか?
    …とか思ってたのに!!!ヒヨシの影が不穏!!!!!!!

  • 153二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 06:57:50

    ゴポッさんだ

  • 154二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 07:14:31

    ヒヨニキがバグりそうで怖い

  • 155二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 10:04:10

    強烈なインパクトを伴ったきっかけさえあれば思い出せるってこと?なんとかなりそうだったのに最後が不穏で怖い!
    続き楽しみにしてます

  • 156二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:48:20


    真っ暗な空間がある。
    視覚的な暗闇ではないその空間に、原稿用紙が入っているらしい封筒と、バトルアックスを持った男性が一人で立っている。
    男性は、困ったように呟いた。

    「これはいけませんね」



    ヒヨシは記憶が混線した動揺で頭を抑える。
    なんなんだこの記憶は、……どちらが本物だった?
    ヒヨシの疑問に反応するように、ゴポリ、とヒヨシの影が揺らぎ、広がる。
    まるで世界を塗りつぶそうとしているかのように。

    「兄貴!?」
    ロナルドが叫ぶ。ヒヨシの影がまるで大穴のようにポッカリと空き、周囲の空間にノイズが入る。
    情報過多によって処理落ちが発生したゲームのようだ。
    周囲の空間は蜃気楼のようにぐんにゃりと歪んでいき、長時間見続けていくと吐きそうな光景を作っている。

    バグっている。
    ロナルドは直感的にそう感じた。
    「兄貴!」「来るなロナルド!!」
    ロナルドが急いでヒヨシに駆け寄ろうとするとヒヨシが静止の声を上げた。
    「これに巻き込まれたら、ダメだ」

    次の瞬間、ヒヨシの体が一気に黒く塗りつぶされた。
    「兄貴ッ!?」
    ロナルドの目の前には、まるで空間の中にヒヨシ型のシルエットがぽっかりと開いているような、あるのにない、そう形容できる光景が広がっている。
    ヒヨシの周囲にある残像のような歪みが徐々に広がっていく。

  • 157二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:49:23

    歪みはひいてはロナルドの足元にすら及び、そのままヒマリの方向へ向かっていく
    「やばい、ヒマ__!」
    ロナルドが手を伸ばすまでもなく、一陣の風のような少女が横切った。

    少女はわずかに残った足場を器用に飛び移り、素早くヒマリを回収しスライディング、危険地帯を一気に振り切った。
    「ヒナイチ!」
    「こっちは大丈夫だロナルド!」
    その少女、ヒナイチはロナルドに向かって大きく叫んだ。
    ロナルドはひとまず胸をなでおろす。

    『若造聞こえるか!そちらは一体どうなっている!』
    少し離れたビルの屋上からドラルクの声も聞こえた。
    ロナルドもメガホンスピーカーに負けないくらいの声で叫ぶ。
    「兄貴が影に飲み込まれた!どうなってるのか俺にも全然分からねえ!」
    『なんだあれ!?あれがヒヨシ君だっていうのかね!』
    「そうだ!」
    ドラルクも目の前の異常事態に面食らう。だが、一つ妙な気配を感じる。

    (いや、そんなバカな)
    「ヌヌヌヌヌヌヌ?」「……」
    ドラルクはピルケースから血液錠剤を取り出した。
    そして、ガリッと奥歯でかみ砕く。
    ……大当たりだ。

    『ロナルド君!』
    ドラルクが叫んだ。

    『ヒヨシ君が吸血鬼化しかけている!!』

  • 158二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:50:06



    「吸血鬼化!?なんでいきなり!?」
    『わからん!だが気配が吸血鬼になりかけのそれだ!早く手をうたないと取り返しがつかなくなるぞ!』
    「手をうつって言ったって……」

    ロナルドは考える。
    誰かに噛まれたとかではないのに、なんで吸血鬼化?
    このバグった風景は一体なんなんだ?
    兄貴が記憶を思い出したことに、関係がある?

    『記憶を保ち続けるには、吸血鬼になるしか方法はありません』
    『いいですか、ロナルドさん。デメリットはそれだけではないんです。今までの記憶を保持すると、これから降り立つ世界においての貴方の記録は全て消えてしまいます』

    『はい、なにもかも』

    散らばったピースがはまっていくのを感じた。
    逆だ。

    今いるこの世界において、「記憶を持ち続けるために吸血鬼になる」のではない。
    記憶を思い出すと「自動的に吸血鬼に変換」されるのだ。

    そして、人間としての痕跡が消える。

    その痕跡を消す動きが、今のこの歪んだ景色だとすれば。

    (止めねえと!)

    ロナルドは躊躇するのを止めた。一気に黒塗りの世界へと突っ込んでいく。
    『バカ!突っ込むなっ!』

  • 159二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:50:37

    今その忠告を聞いている暇はない。
    黒塗りのヒヨシを中心に近づけまいとする力の圧力がある。
    だがそのくらいの圧力、今のロナルドには無視できる。
    無視できなくとも、力でねじ伏せる!

    「____っぁ!!!」
    引き裂かれるような痛みをこらえ、ロナルドはヒヨシの腕を掴んだ。
    黒く塗りつぶされているヒヨシの腕の影が、ロナルドが掴んだところだけわずかに晴れる。

    (よし!)
    しかし、間髪入れずにドラルクが叫んだ。

    『まだ駄目だ!上から来るぞ、ロナルド君!!』

    ドラルクの嗅覚に急激に嫌な気配臭が届く。
    今宵のそれは風に乗り飛び立ってきた、六枚羽の大烏。

    「アレ」がとうとう最悪のタイミングでやってきてしまった。

    大烏の形をとった「あれ」は黒塗りのヒヨシを鷲掴み、ロナルドごと宙に連れてゆく。
    (クッソこんな時にっ!)
    ロナルドが舌打ちをする。
    まるで餌についた余分なゴミを採ろうとしているかのように、大烏はロナルドを猛スピードの飛行で振り回していく。

    (兄貴が吸血鬼化しきったら即食うつもりだなコイツ!?)
    一番隙がある状態を狙うのが確実とはいえ、その悪辣さに舌を巻く。

    ロナルドは必死に振り払われんとしがみつくが、飛行スピードがその上を行く。
    飛行に食いつくこと自体はできるが、今ロナルドがしがみついているのはヒヨシの身体なのだ。
    これ以上力を込めればヒヨシの体が危ない。

  • 160二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:51:12

    (ダメだ、これ以上は……!)
    ロナルドは断腸の思いで手を離し、あえなく地上へと落下した。



    ロナルドは新横浜の駅前通りの道路に落下し、コンクリート張りの地面に直撃した。
    上半身を強くうったせいか、息が上手く吸えない。
    吸っているようで肺から漏れ出るような感覚と、背中を撃った時の痛みの衝撃が重なって、とてもじゃないが動けない。

    周囲から人のざわつく声が聞こえる。きっと吸対や退治人たちだ。
    誰かに当たって不幸な事故が無くてよかった。

    ロナルドは静かに息を整える。
    少し息を止めて、吐く。
    すると、先ほどまでの吸っても吸っても息ができないような不快な感覚が消えている。
    背中にあった打ち身で動けない痛みも消えている。

    ロナルドは再び起き上がる。

    「おい、大丈夫なのかよ!」
    「動かないほうが」

    皆の心配する声が聞こえる。だけど申し訳ないが、今はそれどころじゃない。

    空を見た。
    ヒヨシを連れた大烏は猛スピードで離れていく。
    きっと跳躍だけでは追いつけない。
    もっともっと、早く飛ばなければ。

  • 161二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:51:45

    どうやったら追いつけるだろうか。

    脳裏に浮かんだのは、千々に分かれる蝙蝠たち。そして、大きな蝙蝠羽

    ロナルドはすっと、目を閉じた。
    今日の練習の時の事を思い出す。

    イメージするのは細かく分裂する自分。そして、早く飛ぶ自分。

    次の瞬間。
    駅前通り一帯に、黒い蝙蝠の群れが解き放たれる。
    蝙蝠の細かい鳴き声と羽ばたき音で一帯はにぎやかになり、そしてそれらはすべて上空へと飛んでいく。

    高く飛び上がった群れは、また一つの人間の形をへと集約された。

    だが、ただの人間の姿ではない。
    大きな蝙蝠の羽を携えた、異形の男の姿だった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 162二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:54:00

    処理落ちが発生したゲームのような、
    バグ……
    気になるワードはひとまず置いておいて、
    ロナルドくん吸血鬼として覚醒しつつあるな
    ノースディン師匠の指導が活きてる

  • 163122/05/18(水) 21:55:38

    明日もしかしたら更新厳しいかもしれないです。

  • 164二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 21:58:55

    >>163

    了解です。

  • 165二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 22:07:31

    お疲れ様です ヴァントルーは敵に回ると本当に厄介ですね
    裏方にいるらしきヘルシングやフクマさんも気になります

  • 166二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 22:14:33

    乙です!
    完全に思い出したら人間としての存在の記録ごと抹消される…救いはないんですか…?
    六枚羽の大烏って聞いて「あれ?!ヴェントルー敵だっけ?!」ってなったけど、モザイク敵か…。この世界のヴェントルーは人間なのかな?ナギリの例に倣えば、タビコと二人でフリーの退治人やってる…?それとも六枚羽の他に能力あったっけ?
    そして覚醒ルドきたーーー!!!

  • 167二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 00:02:36

    この世界線のタビコとヴェントルーの関係めちゃくちゃ気になるけどそれどころじゃないけど、それ以上に!ロナルドくんかっっっっっこいいな!?!?!?
    ずっと少年漫画の胸アツ展開が続いてるみたいでほんとに面白い

  • 168二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 07:08:32

    ぬしゅ
    変身シーン畏怖すぎる

  • 169二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 10:30:49

    ヴェントルーの能力もこうして見ると厄介だな…ロナルドは土壇場で能力発揮してるの少年漫画みたいで好き
    ヒヨシがどうなるかとか気になるワードも多い。無理のない範囲で書いてくださいね

  • 170二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 20:40:49

    ホシュ

  • 171二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:20:14

    夜空に黒い二筋のラインが引かれる。
    異形の男は翼をはためかせて真っすぐに目標を目指す。

    大烏は男に気が付いたようでわずかにこちらに視線を配ったのが分かる。
    あいかわらず首から上部分の頭部は酷くブレており、特段美しくもない乱雑なモザイクのように見えた。
    烏はグンっとスピードを上げ、男を突き放しにかかっているのを感じる。

    (させるかよ)

    異形の男、ロナルドにはそのスピードに食らいつくのが訳無いように思えた。
    実際、ただ闇雲にスピードを上げていく烏に、あっけなくロナルドは追いつく。
    これが本来の持ち主の飛行であれば、もう少し複雑な軌跡を描くなどして手こずらせることも出来ただろうが。

    ロナルドは並走する大烏の背中に大きく衝撃を与えると、急旋回して異形の足で大烏を掴み取る。
    その姿は、まるで猛禽類の狩りのようであった。

    大烏は掴まれたことに動揺したらしく、めちゃくちゃな軌道で翼を羽ばたき始める。
    6枚羽による馬力は相当なもので、ロナルドの足一本だけだとまだ振り回されてしまう。

    「と、ま、れぇっ!」

    空中戦での取っ組み合いだと分が悪いと感じたロナルドは、あえて自分の体を散らす。
    再び蝙蝠の群体になったロナルドは、大烏の翼一枚一枚に団子になってしがみつき、噛みついた。
    翼がまるで羽ばたかせず、身体全体の動かしづらさと重みで、大烏の動きが一気に緩慢になっていく。

    そしてとうとう飛行を保てず、ゆっくりと地上に落下していく。
    ロナルドは蝙蝠の群体状態で大烏とヒヨシを切り離すと、そのままヒヨシを捕まえて上空へと離脱した。

    ロナルドは再び人の形をとり、腕に抱えたヒヨシの無事を確認すると、眼下に落ちていく大烏を睨む。
    あの程度であきらめるわけがない。

  • 172二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:21:13

    その推測はまさに的を得ていて、錘を無くした眼下の大烏は再び翼を広げる。

    モザイク頭は黒い塵を振りまきながら、雛鳥が親にむかって餌をねだる様に大口を開けてロナルド目掛けて飛び上がっていく。
    大口は眼前まで迫っていた。だが、ロナルドは動かない。

    ダァンッ
    衝撃音とともに、モザイク頭の顔が横からの衝撃で吹き飛ばされる。

    動かなかったわけではなく、目標を引き付けていたが、正解だ。




    「ヒット。頭部に直撃したぞ、サギョウ」
    双眼鏡を構えた半田が短く言った。

    「いきなり目標変えるとかなんなんですか全く。しかも高速飛行してるし」
    サギョウがぶつくさ文句を言いながら銃を構えなおす。
    それでも直撃させてしまうところがこのスナイパーの天才たる所以であった。
    「気を抜くなバカめ。援護できそうならもう一発狙うぞ」
    「ハイハイ、分かってますって」

    サギョウは軽口を叩きながら目標を狙う。



    「よしっ」
    ある人物の協力で両手が自由になったロナルドは、あらためて気を張りなおす。最後の正念場だ。

    撃墜された「アレ」は頭部を撃たれた衝撃から戻ってきていないようで、ふらふらと中空を浮いている。

  • 173二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:22:14

    ロナルドは再び「アレ」に飛び掛かると、射撃によって歪んだ頭部分を片腕で掴み、「アレ」もろとも地上に向かって落ちる。
    落下し、じたばたと暴れる烏ともみくちゃになりながらもロナルドは両手で翼を一枚一枚引きちぎっていった。
    黒い羽がどんどん空へと散らばり、一帯には黒い羽根吹雪が舞い散る。

    最後の一枚まで引きちぎると、ようやく目当ての烏の胸部分を抉った。

    手のひらに硬い感触が触れた。それを握り締め、一気に引っこ抜く!!
    「そこだぁあああああ!!!」

    烏の胸部分から、キラキラとした赤い結晶が取り出される。

    吸血鬼の心臓。
    わずかに脈打つその結晶を完全に取り出すと、「アレ」の体は完全に崩れていき、塵へと還っていく。
    ロナルドは地面に直撃する間際に、蝙蝠の大羽を羽ばたかせてゆっくりと降り立った。

    また空を見た。
    羽根吹雪も徐々に塵へと、変換されて雪のように降り注いでいく。

    こじれにこじれた吸血鬼事件がようやく終焉に向かおうとしていた。

  • 174二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:22:55



    (そうだ、チノミダイダラ)
    まだ懸念材料が残っていたことをロナルドは思い出す。
    ヒヨシの事もあるし、まだ気をゆるんでいい場面ではなかった。

    ロナルドはもう一度飛翔し、急いで駅前通りの方に戻ろうとする。
    駅前通りにはまだチノミダイダラと巨大小ゼンラニウムがいた。
    だが、取っ組み合いはしていない。

    むしろ何かのコミュニケーションを図っている?

    ロナルドは目を凝らす。
    巨大小ゼンラニウムからいくつものツルが触手のように湧き出ていた。
    ツルはまるで緑でできた草原のような足場を作っている。

    そして、そのど真ん中にヒマリ。

    「ん?」

    ロナルドはもう一度目を凝らす。気を失っていた筈では?
    (いやでも戦闘に大分時間かけたし起きててもおかしくは……)

    ヒマリはチノミダイダラに手を伸ばすと、チノミダイダラも複数の触腕で軽く触れ、そして納得したように触腕を引っ込める。
    そしてチノミダイダラはゆっくりと方向を変え、山へと向かっていった。
    どうやら怒りが収まったようだ。

    ヒマリもツルでできた草原の上で大きく手を振る。
    チノミダイダラは振り向かず、だが代わりに手を振って返してくれた。

  • 175二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:23:42

    映画のラストシーンにでもなりそうな感動的な場面である。
    余分な知識が無ければロナルドも感動していたかもしれない。だが、


    「……ナウ〇カじゃねえか」
    ロナルドは流し切れなかった。




    「ジョン、ごらんよ。あれが、その者黒き衣を纏いて緑の野に降り立つべしという伝承になぞらえたワンシーンで」
    「ヌヌヌ」
    「何適当なこと言ってるんだドラルク。だいたい緑の野ってそれ伝説っぽさ0のただの草原だろうが」
    ヒナイチが目の前の汚いナ〇シカに対して投げやりなツッコミをする。

    「いやー、まさか子ゼンラニウムが王〇になるとは私も微塵も予想していなかった。ヒマリ嬢に感謝だ」
    「誰が予想できるんだそんなもの」
    ドラルクとヒナイチがあーだこーだ軽口を言い合っていると、後ろからうめき声が聞こえる。

    「……ここは?」
    「ヒヨシた……、レッドバレット!気が付いたか!」

    実は、先ほどのロナルドと大烏の戦闘の最中、ひそかにヒナイチが近づいてヒヨシを回収保護していたのだ。
    ロナルドからヒヨシの安全な場所への移送とある要件を頼まれたヒナイチは、大急ぎで駅前通りにとんぼ返りし、見事その頼まれ事も達成したのだった。

    「お前(おみゃー)はヒナイチ?うん?俺は確か影に飲まれたんじゃ」
    ヒヨシが一つ一つ記憶を思い出していく。影に飲まれた後、何故か大烏に捕まって……。
    そして一つの特大の違和感に気が付く。
    ドラルクの吸対服が布団がわりにかけてあったが、今の自分は裸だ。

  • 176二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:24:09

    「うん!?なんで、俺裸なんじゃ!?服は!?」
    「それは、いろいろと理由があって……」
    ヒナイチが非常に言いづらそうに言葉を濁す。
    「さらにいうと、申し訳ない事にただの裸ですらないんだ」

    そして、ヒナイチは誠心誠意謝る。
    「本当にすまない。これしか吸血鬼化を止める手っ取り早い方法が思いつかなくて……」
    その言葉に、ヒヨシは猛烈に嫌な予感がした。

    「いやー、私も初めて見ましたが凄い威力ですな」
    ドラルクもうんうんとうなずく。

    「ゼンラニウム氏の種」

    ヒヨシは吸対服で隠された下腹部をを見る。

    股間が満開であった。


    「_____っ!!!!??!」


    新横浜の夜に、ヒヨシの声にならない絶叫が響いたのであった。

    ヌヌヌ(つづく)

  • 177二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:25:23

    とりあえずヒヨシは助かったし命に別状もないっぽいが
    代わりに別の何かが犠牲に……

  • 178122/05/19(木) 21:25:34

    ヒヨシファン本当にすまない。

    パロディに関してはETかナウ〇カで迷ってナ〇シカになりました

  • 179二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:37:39

    やっぱすげえぜゼンラニウム!!!(白目)

  • 180二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:44:38

    やはりゼンラ……!
    ゼンラは全てを解決する……!!

  • 181二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:45:53

    「アレ」への対抗手段がゼンラの種なのか

  • 182二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:51:24

    ゼンラの種万能薬説出てきたぞ

  • 183二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 21:53:43

    ゼンラ回収できてなかったらと思うと…

  • 184二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 22:01:18

    ヒヨシが助かって良かった ※ただし尊厳を除く

  • 185二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 22:06:03

    ラン♪ランララランランラン♪

  • 186二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 22:20:20

    そうか、仮性吸血鬼対策のワクチンがゼンラ細胞からできてるってことは、種の方にも似た作用があってもおかしくはないのか

  • 187二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 06:26:23

    ヌシュ

  • 188二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 10:12:20

    何か大切なものを無くしてるけど命があるからヨシ

  • 189二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 19:28:35

    サギョウ君ほんとかっけえ
    高速で飛行する物体相手にヘッドショット決めるのはカッコよすぎるんよ
    ナチュラルな天才ムーブ助かる

  • 190二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:00:47

    ヴェントルー全体か能力だけか吸血鬼としてか体の一部も持ってかれてるのかわからないけど、能力取られたの確定か…取り戻せたのはいいけど血族とかタビコさんとの関係が気になるな…

    前回の引きでビビってたので無事に終わってよかったです! ヒマリの扱いとか記憶関係がどうなるのか期待しつつ待たせていただきます。

  • 191二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:03:34

    あとロナルドくんが土壇場であるとはいえ変身・分身使いこなせてたのは大きな進歩ですね!少年誌主人公してる!

  • 192122/05/20(金) 22:18:55

    一旦次スレ挟みますね。

  • 193二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:24:05
  • 194二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:28:22

    >>193

    立て乙です!

    梅茶漬け

  • 195二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:28:55

    立て乙! うめ

  • 196二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:30:58

    うめ

  • 197二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:32:08

    面白いな〜

  • 198二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:35:33

    うめ。
    すごくおもしろくて、続きもすごくたのしみです。
    無理のない範囲内でがんばってください!

  • 199二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:37:06

    うめ

  • 200二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 22:44:50

    ゼ ン ラ

オススメ

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