- 1あんこうなべ22/05/11(水) 19:18:51
普段は囚人尾形のSSに参加させていただいているあんこうなべです。宇佐美上等兵は好きなキャラだし、前回安価スレでも好評いただいたので、調子に乗って宇佐美メインのSSスレ立てました。
↓前回の安価SS
【閲覧注意・安価SS】看守「尾形百之助?」|あにまん掲示板このスレの『囚人尾形』の概念をもとにしています。https://bbs.animanch.com/board/587094/ここで囚人尾形のパートを書いていました。https://bbs.animan…bbs.animanch.com・同性愛的描写があります。
・ミステリー仕立てで、オリジナルキャラクターが数人出てきます。
以上が苦手な方はご注意ください
- 2あんこうなべ22/05/11(水) 19:26:38
鶴見中尉「……現在〇〇町を訪れている旅一座の劇場に、ここでは見慣れない顔の男が度々現れるという情報が入った」
鶴見中尉「当然単なる誤解の可能性も高い、しかしあらゆる情報を追い続けていれば、必ず本物にぶち当たるだろう」
鶴見中尉「そこで宇佐美上等兵、お前にはその劇団にしばらく潜入し、刺青を彫られた囚人がいないか確かめて欲しい」 - 3二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 19:34:14
あのSSの人か!
宇佐美のキャラ再現良かったから期待待機 - 4あんこうなべ22/05/11(水) 19:35:18
宇佐美「……って言われちゃった。またしばらく鶴見中尉殿に会えないのか~……チェッ」
宇佐美「いやいや、中尉殿が僕に期待してくださってるんだ、頑張って成果をあげないと!」
宇佐美「とりあえずこの劇団の出し物は……へえ、独楽芸と幻燈器?けっこうハイカラな道具つかってるんだなあ」 - 5あんこうなべ22/05/11(水) 19:39:31
幻燈器とはマジックランタンのことで、活動写真が発明されるまでは庶民の間で流行したスライド映写機のこと。
硝子に映した絵や写真を幕に投影し、映像を楽しむものだ。 - 6あんこうなべ22/05/11(水) 19:47:16
……劇場に着いた宇佐美は、大賑わいの劇場を眺めながら、注意深く演者を観察する。
この幻燈器を使っているのは宮田百合という、珍しい女性手品師だ。顔も日本人離れした彫りの深さで、女性にしてはかなり背が高い。
そして舞台の中央で舞っているのは、紅児という芸名の女形の少年。まだ16歳ながら、ゾッとするような艶やかさの美少年だ。
もう一人は、まだ駆け出しとはいえその愛らしさから人気子役になりつつある小紅という少女。こちらも絵に描いたような美少女である。 - 7あんこうなべ22/05/11(水) 19:52:10
――― 終演後
宇佐美「お疲れ様です~、いやあ今日も大盛況でしたねえ!」
座長「え、誰ですあんた!」
宇佐美「ああ、新聞記者の宇佐美と申します~。最近この町じゃ、この劇団の噂話で持ち切りなので、是非ここの方にお話を聞いてみたいなーって思ったんですよお」
座長「おお、そうかいへへ、そう言ってもらえると照れるなあ。今なら丁度全員揃ってますよ。誰から話を聞きます?」
宇佐美「あー、そうですねえ……」
- 8二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 19:53:44
安価SS?
宮田百合 - 9二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 19:59:45
宇佐美単体欲しいって言った宇佐美推しの者です!!!めちゃくちゃ嬉しい!!!!
- 10二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:04:15
紅児
- 11あんこうなべ22/05/11(水) 20:09:04
宇佐美「あ、紅児さーん、新聞記者の宇佐美と申します。お話伺ってもよろしいでしょうか」
紅児「あら、なにがお聞きになりたいんです?」
宇佐美「紅児さんはまだ16歳の若さで、この劇団の花形でいらっしゃるとか。それも頷けますよ~、妬けちゃううくらいの美人さんだもんなあ」
紅児「まあ、お世辞でも嬉しいわあ」
(女形であるが、普段からこの女性的な話し方らしい) - 12あんこうなべ22/05/11(水) 20:13:42
宇佐美「……ところで、最近この劇場にここじゃ見かけない顔の男が頻繁に出入りしてるって言う話も聞いたんですが……何か心当たりってあります?」
紅児「…………」
宇佐美(顔色が変わったな)
宇佐美「いえ、ご存じでなければそれでいいんですが……」
紅児「……多分あの子の、小紅の良い人よ」 - 13二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:18:59
ミステリーの雰囲気めちゃくちゃある 良い…
- 14二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:21:35
紅児「最近小紅を見かけて入れあげてるらしくって……。それなりに金もあるらしくて、何度も楽屋に差し入れしてきたりするのよ」
宇佐美「へえ、まああれ程の美少女だったら、夢中になるファンだっているでしょうね」
紅児「そうね。あの子もけっこう本気になってるみたいよ。楽屋に入るとチラチラ裏口の方見てるんだから。……でも素性も怪しいもんだわ。あたしらみたいな旅芸人を本気で嫁にしたい人なんていないんだから、夢なんて見ない方がいいのにね」 - 15二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 20:24:08
宇佐美(ふーん。じゃあその男っていうのが噂になってる怪しいよそ者、かな)
宇佐美(これだけじゃあ、囚人かどうかなんて分かんないな)
宇佐美(……それにあの子、随分小紅に嫉妬してるみたいだった。仲良くないのかもね) - 16あんこうなべ22/05/11(水) 20:58:32
座長「おーい、小紅ー。……あ、紅児、小紅を見なかったか?」
小紅「え?見てませんけど。おおかた、近所の菓子屋さんへでも出かけたんじゃありません?」
宮田「……座長さん、手間取るようでしたら、私先に帰らせていただきますよ」
座長「ああ、分かった。おかしいなあ、どこ行ったんだか……」
それからしばらくして、紅児が表に出ていたが、どこにも小紅はいなかった。 - 17二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:09:43
宇佐美(もし例の『良い人』が本当に囚人だったら……マズいな。少女好きの奴だったのかも)
宇佐美「座長さん、もしよかったら、僕も探しに行きましょうか?何かあったら大変ですし」
座長「あ、ああ。記者さん、助かるよ。ひょっとしたら何か相談事で俺の家に来てるかもしれない」
そうして宇佐美は座長と共に家で待っていたが、とうとうその日、小紅は見つからなかった。
……そして、宇佐美は数日間様子を窺い続けたが、遂に小紅は帰ってこなかった。 - 18あんこうなべ22/05/11(水) 21:37:52
流石に警察に捜索願が出されたが、それでも依然見つかる気配がなかった。宇佐美も聞き込みをしていたが、一向に足取りがつかめない。
そして10日も過ぎてしまった頃、不意に小紅からの手紙が、座長の許に届けられた。 - 19あんこうなべ22/05/11(水) 21:43:47
『座長さんにご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありません。
私はある事情の為、当分劇には立てません。
座長さんにはお目にかかって、お話したいのですが、どうかこっそりいらっしゃってください
私が今いるところは、『異人館』と聞けば、すぐに分かると思います
小紅』 - 20あんこうなべ22/05/11(水) 21:46:08
座長「い、異人館?」
宇佐美「初めて聞きましたけど、どこにあるんです?」
座長「ここの丘の上にある。大きい屋敷だからすぐに分かるよ。でも……」
座長「あそこは随分前から空き家で、それに……幽霊が出るって噂なんだ」 - 21あんこうなべ22/05/11(水) 21:53:51
座長「しかし、手紙にも私に来て欲しいと言っているし……私が一人で向かうべきだろうか」
宇佐美「……いえ。あまりにも不審な点が多すぎます。小紅さんを拘束してる誰かの罠かもしれない」
座長「えっ!?」
宇佐美「座長さん、よろしかったら、僕が代わりに行きましょうか。こう見えて腕には覚えがあるんです」 - 22二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:57:30
ほう……
- 23あんこうなべ22/05/11(水) 22:07:19
宇佐美(……ここで小紅さんを保護できるか、せめて手掛かりを見つけられたら信頼されるし好都合。)
宇佐美(犯人が脱獄囚だったら正直有難いけどね) - 24あんこうなべ22/05/11(水) 22:09:14
こうして宇佐美は例の『異人館』に辿り着く。
そこは廃墟のようになった洋館で、誰も管理していないらしく、雑草が生い茂り幽霊屋敷のような有様だった。 - 25あんこうなべ22/05/11(水) 22:11:56
宇佐美(扉の鍵も掛けられてないな……うえっ、カビ臭!)
宇佐美(……客間も荒れ放題。こんなところに女の子が一人で隠れ続けられるわけないよな) - 26あんこうなべ22/05/11(水) 22:14:24
宇佐美(……うん?)
宇佐美は、客間の奥の扉からぼんやりと人影が佇んでいるのが見えた。
次第に、こちらに近づいてくる様子である。
宇佐美(……誰だ?) - 27あんこうなべ22/05/11(水) 22:17:47
宇佐美「……!? 小紅さん!」
それは確かに、目のぱっちりと大きい小紅だった。しかし、その眼はぼんやりとこちらを見つめており、表情はまったく動かない。
宇佐美「小紅さん、大丈夫ですか?」
宇佐美がそう声を掛けながら近寄ろうとすると
小紅は急に扉を閉め、ガチャンと鍵の閉まる音がした。 - 28二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 22:19:25
小紅さん…?
- 29あんこうなべ22/05/11(水) 22:21:41
宇佐美「ちょっと、小紅さん!?」
宇佐美はすぐに駆け寄り、ドアを叩く。
宇佐美(くそっ、ビクともしない!多分掛け金を掛けられたな)
宇佐美「………ふんっ!!!」
バキッ!! - 30あんこうなべ22/05/11(水) 22:25:25
宇佐美(………誰も、いない……?)
宇佐美が無理に蹴破った扉は、恐らく元は書斎だったのだろう。
しかし今は、もぬけの殻だった。
宇佐美は念のために屋敷全体を探ってみたが、とうとう人影さえ見つけることはできなかった。 - 31二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 22:35:43
同性愛描写ありって注意書きががSS登場人物のことなのか宇佐美のことなのかわかんないのがなんか宇佐美っぽくって笑った 楽しみ
- 32あんこうなべ22/05/11(水) 22:35:56
宇佐美(くっそー、どうなってる……?でも、とにかくここには誰もいない。戻ってそう伝えるしかないよな……)
宇佐美は一旦劇場に戻って、異人館で小紅さんらしき人影は見つけたが、すぐにいなくなってしまったこと、他には誰もいなかったことを伝えた。
他の座員の少女たちは不安げに顔を見合わせ、座長も訳も分からず頭を抱えた。その時宮田はおらず、紅児は真っ青な顔で体を震わせていた。
…………その次の日、紅児が行方不明になった。 - 33あんこうなべ22/05/11(水) 22:37:37
しかし、紅児は小紅とは違い、すぐに発見された。
例の異人館で、紐で首を絞められた状態で見つかったのだ。 - 34あんこうなべ22/05/11(水) 22:39:14
(本日はここまでとさせていただきます。明日も更新する予定です。よろしければ、保守お願いします)
- 35二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 22:49:11
すごくちゃんとしてる
- 36二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 22:50:11
これから物語がうごくぞ~って感じで面白い!あと宇佐美がまっとうに探偵してるw
明日も楽しみにしてます! - 37二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 23:52:16
おお凄く事件ものっぽい
- 38二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 03:05:19
楽しみ保守
- 39二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 09:57:35
保守
- 40二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 17:37:36
保守
- 41あんこうなべ22/05/12(木) 17:54:05
保守ありがとうございます! 再開します!
- 42あんこうなべ22/05/12(木) 18:00:01
囚人の調査の為、ある旅一座の許を訪れた宇佐美。
しかしそこの一座の人気子役である小紅が失踪。そして、女形の紅児が首を絞められ殺害された姿で見つかったのだった。
宇佐美(……例の『見慣れない顔の男』がやったのか?でも、小紅さんが見つからないのは何故だ?………他の座員にも話を聞いた方がよさそうだな) - 43あんこうなべ22/05/12(木) 18:06:27
座員「……紅児さんと小紅さん、ですか?」
宇佐美「ええ。2人ともあの異人館を訪れて、事件に巻き込まれてる。なにか2人に接点はないかと思いましてね。……どんな些細な事でもいいです。思い付くことはありませんか?」
座員「あの、死んだ人を悪く言いたくはないけど……紅児さんは小紅さんを酷くいじめていました。必ず座長のいないところでやってたから、誰も止められなかったんです。あの人がここの目玉だし……」 - 44あんこうなべ22/05/12(木) 18:14:28
宇佐美「それは、あっという間に売れっ子になったことへの嫉妬ですかね?」
座員「それもあると思います……でも一番の理由はきっとそれじゃありません」
座員「最近小紅さんと仲良くなってたあのお客さん……元々は紅児さんのご贔屓さんだったんですよ」
宇佐美「!」
座員「あいつがあたしの良い人を横取りした、泥棒猫だ、って凄く怒って……。でも小紅さん、その人を諦めることだけはしませんでした。本当に好きだったのかもしれないけど……。深い仲になれば、ここを出ていけるって思ってたのかも。長く続けていける仕事じゃありませんもの」 - 45あんこうなべ22/05/12(木) 18:20:50
宇佐美(なるほどね……。痴情のもつれで殺人に、っていうのは珍しい話じゃない)
宇佐美(小紅さんが、異人館まで紅児さんをおびき寄せて首を絞めた?……それなら何故最初から小紅に宛てて手紙を出さなかった?)
宇佐美(男が面倒になって紅児を殺した? それでも、小紅さんを利用する理由はないし……) - 46二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:27:20
このレスは削除されています
- 47あんこうなべ22/05/12(木) 18:34:53
そこで、ふと舞台裏に置かれてある大独楽が宇佐美の目に入った。
これは大道芸に使われるもので、回る独楽が止まった瞬間ぱかりと2つに割れ、中から人が出てくる仕掛けのものだ。
宇佐美(……人通りの激しい舞台の近くで、女の子を1人攫って行くなんてこと、まず難しい)
宇佐美(薬でも嗅がせてから、この独楽に入れて道具係の振りをして持ち出せば、怪しまれないか……?)
「何をなさってるんです、記者さん」 - 48あんこうなべ22/05/12(木) 18:43:31
宇佐美「!」
宇佐美が振り返ると、そこにはあの幻燈使い、宮田百合が立っていた。大きな葛籠を抱えている。恐らくそこに映し絵の写真や機械を入れているのだろう。
宇佐美「どうも、宮田さん。随分重そうですね、それ持ちましょうか?」
宮田「いえ、結構です。長年これを使ってるんですから、もう慣れてますよ」
そう言いつつ、宮田は葛籠を事も無げに下ろした。女性にしては随分筋肉質なのも、こうした道具を日頃から扱っているからかもしれない。 - 49あんこうなべ22/05/12(木) 18:52:49
宮田「随分熱心に独楽を見てらっしゃいましたけど、ご興味があるんですか?」
宇佐美「ああいや、こんなところにしばらく入ってグルグル回されるの、怖いだろうなあって思ったんですよ」
宮田「アハハ。それね、役者は中に入らないんですよ。独楽が止まった瞬間に、入れ替わりに役者が出てくるんです。目くらましですよ」
宇佐美「あ、そうなんですか……」
宇佐美(なあんだ、じゃあこれが使われた線は消えるなあ……) - 50あんこうなべ22/05/12(木) 18:57:09
宮田は話しながらも、てきぱきと幻燈器を組み立てていく。
宇佐美「……それ、随分人気ですよね。やっぱりみんな新しいものが好きなんだなあ」
宮田「でしょうね。……でも私、純粋にこれが好きなんですよ。子供の頃から、趣味で幻燈器を持ってた父に使い方を教えてもらいました」
普段は不愛想であまり笑わない宮田の顔が、その時だけは嬉しそうに緩んだ。 - 51あんこうなべ22/05/12(木) 19:01:50
宮田「これさえあれば、どんな異国の景色でも、おとぎ話の世界でも、目の前に本当にあるみたいに見ることができる。……幻だとしても、幸せになれるでしょう?」
宇佐美「………そうかなあ。僕は、例え優しくなくても好きな人が本当に目の前にいてくれる方が幸せですけど」
宮田「あら。変わっていらっしゃるのね」
宇佐美「アハハ、そうですかねえ。……じゃあ、お邪魔しました。僕はこれで」 - 52あんこうなべ22/05/12(木) 19:09:59
宇佐美(さて、後は……あの不気味な『異人館』だ。人が急に消えるわけない。見落としたけど隠し扉みたいなのがあるのかも)
宇佐美(まだ日が差し込む時間の間に確認しちゃおう。あと、聞き込みもしておきたいな) - 53二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 19:16:11
優しくなくても、って宇佐美が言いそうですごく良い 良い…
- 54あんこうなべ22/05/12(木) 19:31:44
そうして、宇佐美は『異人館』へと向かう。
宇佐美(うん……?あっ!!!)
宇佐美(上着のポケットに入れてた中尉殿の写真がない!? 劇場で落とした!?)
宇佐美(でも今から戻ってたら日が暮れちゃうな……万が一掏られたんなら座員みんな絞めてでも取り返してやる……) - 55あんこうなべ22/05/12(木) 19:37:12
宇佐美「すみませーん。お爺さん、この辺りの方ですか?」
お爺さん「うん?そうだがあんたは……」
宇佐美「新聞記者をしております。最近異人館で事件があったようなので、聞き込みをしていまして~」
お爺さん「ああ、あの……。あそこは元々お雇い外国人のミュンターとか言う人の屋敷だったんだ。でもだいぶ前に亡くなられてねえ。一応子供がいるから、屋敷はその人のものになるはずなんだが、ずっと行方不明らしい。処分の仕様がないから、ずっと空き家のままなんだ」 - 56あんこうなべ22/05/12(木) 19:39:28
宇佐美「成程……そのお子さんの名前って分かります?」
お爺さん「ええっと……。可愛らしい女の子だったよ。外国人らしい彫りの深い顔でねえ。……あ、そうそう思いだした!」
お爺さん「ユリヤ・ミュンターっていう子だ。生きていれば、もう20は越えているかなあ」 - 57あんこうなべ22/05/12(木) 19:47:56
宇佐美(ユリヤ・ミュンター、ね。一応覚えとこう)
宇佐美(……小紅さんが消えたのは屋敷の書斎。そこをもう一度ちゃんと調べよう)
宇佐美は、荒れ果てた屋敷にもう一度足を踏み入れた。 - 58あんこうなべ22/05/12(木) 19:50:55
宇佐美(隠し扉っぽいものは……ないなー。……あれ?)
宇佐美(部屋の隅だけ埃が溜まってない……。家具が動かされてる?)
宇佐美(……まさか) - 59あんこうなべ22/05/12(木) 20:06:04
宇佐美は屋敷の庭へ出る。
宇佐美(……ここだけ土の色が違う。確か、物置が庭の隅にあったよな)
宇佐美は急いでスコップを出して、その部分を掘り始めた。
…………しばらく掘ると、書斎の隅にあったと思われる長くて大きな木箱が出てきた。 - 60あんこうなべ22/05/12(木) 20:08:33
宇佐美(衣装入れのための長櫃だな。)
宇佐美(………考えが当たってるとしたら……)
ギイッ - 61あんこうなべ22/05/12(木) 20:11:34
宇佐美が長櫃を開けると、入っていたのは
――――― 小紅の亡骸だった。
紅児と同じ、細い紐で首を絞められている。箱の中には毛布が2,3枚敷き詰められていて、丁重にそこに寝かされているような形だ。
失踪前に着ていた舞台用の真っ赤で華やかな振り袖に、紅白粉で綺麗に化粧がされている。一見したところ、まるで精巧な人形のようだ。
しかし、その亡骸は既に腐敗が進みつつあった。 - 62あんこうなべ22/05/12(木) 20:16:34
宇佐美(多分死んでから一週間以上は経ってるな。これで、紅児さんを殺したのは小紅さんじゃないってことが分かった)
宇佐美(しかも、丁寧に死に化粧がされてるし、わざわざ箱の底に毛布まで敷いてる。)
宇佐美(………小紅さんを愛してる人じゃなきゃ、こんなことはしない) - 63あんこうなべ22/05/12(木) 20:18:33
宇佐美「……悪いね、小紅さん。今はまだ弔ってやれない」
宇佐美「その代わり、犯人はちゃんと捕まえてあげる」 - 64二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:19:02
展開が面白くて口を挟めずについ見守ってしまう…ドキドキする…
- 65二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:20:15
死体の様子見て『愛してなきゃこんなことしない』って思うの本当名探偵かつ愛に人生捧げてる宇佐美の推理っぽい
- 66あんこうなべ22/05/12(木) 20:30:49
宇佐美がもう一度小紅を埋め直してから劇場に戻ると、心配そうな顔をした座長と宮田が待ち構えていた。
座長「ああ、記者さん。どうでした、まだ小紅はみつかりませんか?」
宇佐美「……残念ながら。でも、重要な手掛かりは見つかりましたよ」
座長「!」
宮田「…………」
宇佐美「でもまだ、確かめたいことがあるんです。今晩、もう一度異人館に向かいたいと思います」
宇佐美(………僕の推理が正しいなら、犯人を今夜おびき寄せられるはずだ) - 67あんこうなべ22/05/12(木) 20:32:14
(本日はここまでにしたいと思います。明日は真相解明編になるはずです。コメント大変励みになります。)
(できれば保守お願いします) - 68二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:33:57
乙!楽しみにしてる!
- 69二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:40:22
乙!囚人尾形とはまた違った宇佐美の考える愛が発言から伺えるのすっごく好きだな
- 70二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:43:01
ユリヤ・ミュンターが気になる…
これから出てくるのかな - 71二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 21:04:56
茶々入れたい気持ちと固唾を飲んで見守りたい気持ちが喧嘩して結局見守ってしまう
- 72二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 21:18:04
ユリヤ・ミュンターね…
- 73二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 22:11:42
保守
- 74二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 03:39:08
保守
- 75二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 07:23:59
保守
- 76二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 08:07:48
保守
- 77二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 12:16:04
保守
- 78あんこうなべ22/05/13(金) 18:28:48
(保守ありがとうございます!再開していきます!)
- 79あんこうなべ22/05/13(金) 18:31:44
夜も更けた頃、宇佐美は再び、異人館の中に居た。小紅を見た客間の真ん中に立ち、油断なく周りに視線を走らせている。
宇佐美「………さて」
宇佐美「いい加減出て来なよ。あんたが紅児さんを殺したんだろ」 - 80あんこうなべ22/05/13(金) 18:35:03
答えはない。強い風が吹き始めているらしく、壊れかけた窓がギシギシと鳴る。
………その時、書斎の方を睨んでいた宇佐美の目の前に、白い影がぼんやりと見えた。
次第にその影は輪郭を強くし、宇佐美には見間違えようのないある人間の姿を取り始めた。 - 81あんこうなべ22/05/13(金) 18:44:15
「………鶴見中尉、殿……?」
その影―― 宇佐美の愛してやまない鶴見中尉は、こちらに優しい笑みを浮かべ、まるでこちらに来いとでも言いたげに、腕を伸ばしている。
宇佐美はゆっくりとそちらに歩を進め………
後ろから伸びてきた腕をつかみ、そのまま背負い投げの要領で前へ体を投げ飛ばした。 - 82あんこうなべ22/05/13(金) 18:49:28
痛みに呻く犯人の手に握られている紐を取り上げ、宇佐美は淡々と語り掛ける。
宇佐美「成程ね。紅児さんもこうして殺したってわけ」
宇佐美「僕の上着から中尉殿の写真を盗んだのもあんただろ。わざわざ内ポケットに忍ばせてあるから、僕にとっての大切な……憧れてやまない人だって当たりを付けた」
宇佐美「……それで、僕がこの幻に浸るって思った?身動きが取れないくらい呆然としてるって思った?」
宇佐美「舐めるなよ」 - 83あんこうなべ22/05/13(金) 18:50:54
宇佐美「宮田百合、いや……」
宇佐美「ユリヤ・ミュンター。」 - 84あんこうなべ22/05/13(金) 19:04:38
ユリヤ「………どうして、その名前を」
宇佐美「領事館に行けば当時の資料もそのまま残ってると思って、見せて貰ったんだ。そしたら、ミュンターには確かにユリヤ・ミュンターという名前の子供がいた」
宇佐美「……でも、私生児だ。日本に来て、そこの芸者に産ませたのがあんた。そう考えたら随分背が高くって、日本人にしてはちょっと彫りが深いのも納得するよ。この屋敷の見取間取りもちゃんと把握していたこともね」
宇佐美「あと、その芸名。宮田百合って、ユリヤ・ミュンターのもじりだろう。父親の血を誇りにしてた?」 - 85二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 19:17:08
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- 86あんこうなべ22/05/13(金) 19:27:32
ユリヤ「……ハッ。まさか。可愛がってたのは私がまだ小さい頃までで、母と私をあっさりと捨てて、旅芸人にまで身を落とさなきゃいけないようにした男の、何を誇るって言うの?当てつけよ。ご立派な名前を、卑しい芸人の名前にしてやった」
ユリヤ「私生児だから、あの男が死んでも屋敷は相続できない。……でも、ここは確かに私の屋敷よ。捨てられてすぐに死んだ母と暮らした思い出はここにしかない」
ユリヤ「だから、たまに忍び込んであの男が置いて行った幻燈器で、写真に彩色をして人の姿を映した。幽霊屋敷って噂が立って、だれもこんな屋敷買い取ろうなんて気を起こさないようにね」
ユリヤ「……それに時々は家族の写真を映した。……まだ幸せだった時が甦るみたいで、それだけが楽しみだった」 - 87あんこうなべ22/05/13(金) 19:29:48
全てを諦めたように、自分の身の上を語り始めたユリヤを見て、宇佐美は拘束していた腕を解いた。
宇佐美「それでも、幻じゃなくて本当に愛せる人ができた。……それが、小紅さんだろう?」
ユリヤは弾かれたように、俯かせていた顔を上げた。 - 88あんこうなべ22/05/13(金) 19:43:05
宇佐美「死体を見せてもらったけど、体には首を絞められた跡以外に全く傷が無かったし、綺麗な着物を着せたまま葬って、わざわざ死に化粧まで施してる。特別な愛情が無ければできることじゃない」
宇佐美「でも小紅さんはよく来る馴染みの客とそういう関係になってた。座員達でも察せられるくらい、親しかったんだろう?でもあんたは何もできなかった。……女に対して愛を訴えるわけにもいかないから。」
宇佐美「このままじゃ身請けされて出て行くのも時間の問題かもしれない。それであんたは小紅さんを誘拐した」
宇佐美「小紅さんが居なくなった時、一番に劇場を出て行ったのがあんただったろ?あの時運んでた幻燈器用の葛籠に、薬で眠らせた小紅さんを入れて運んだ、ってのが僕の見立て。いつもあの大葛籠運べるんなら、女の子1人くらい余裕だろう」 - 89あんこうなべ22/05/13(金) 19:53:55
ユリヤ「………一生、黙ってるつもりだった。受け入れられるわけないことくらい分かってた」
ユリヤ「でも、あの男だけは……そもそも紅児に目をつけてて、他の子にだって手を出してた」
ユリヤ「あの子だって本気で愛してたわけじゃない。今よりもっとうな生活ができるかもって、夢を見てただけ」
ユリヤ「この屋敷に閉じ込めて、必死で思い直してくれるように頼みこんだ。あなたを愛しているって、血を吐くような思いで告白した」
ユリヤ「………あの子は毎日泣くだけだった……。お願いだから帰して、って」 - 90あんこうなべ22/05/13(金) 19:58:09
ユリヤ「……もう、諦めるつもりだった。この子を自由にしてやろうって、思ってた」
ユリヤ「まさか、紅児が後をつけてたなんて思わなかった」 - 91二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 20:05:35
まさかのそっちか…!ドキドキする
- 92あんこうなべ22/05/13(金) 20:06:59
宇佐美「紅児さんも例のよそ者の男を愛してた。ある意味『似た者同士』で、あんたの小紅さんへの想いにも勘づいてたのかもしれない」
宇佐美「それで、あんたの様子がおかしいと思って、こっそり後をつけた。あんたが屋敷から出てきた後に忍び込んで………小紅が箱に閉じ込められてることを知った」
宇佐美「最初は、単なる好奇心だったのかもしれない。でも、今目の前には弱り切った憎い恋敵がいる」
宇佐美「それで、恐らく衝動的に絞め殺した」 - 93あんこうなべ22/05/13(金) 20:13:44
ユリヤ「………屋敷に戻ったら、あの子は箱の中で死んでた」
ユリヤ「すぐに紅児だと思った。ただのゴロツキならここを気味悪がって近づかない。誰にでも優しかったあの子を憎んで殺すとしたら、あいつだけ」
宇佐美「だから、座長に小紅の名前で手紙を送りつけた。そこで座長が『小紅を見た』って言えば、不安になった紅児が確かめに屋敷までやって来るはずだって睨んで」 - 94あんこうなべ22/05/13(金) 20:21:58
ユリヤ「座長じゃなくてあんたが来たのには驚いたけどね。でも、小紅を見たってことを紅児に伝えてくれさえすればいいから、作戦に変わりはなかった」
宇佐美「僕が小紅さんだと思ったのは、幻燈器で映した小紅さんの写真だ。随分うまく色を付けてたから騙されたよ。本当に生きてるみたいだった」
宇佐美「屋敷に来た紅児にも同じものを見せたんだな。紅児は幽霊だと思って震えあがったのかもしれない」
宇佐美「その隙に、幻燈器を立ち上げてたあんたはこっそり後ろから近づいて……小紅さんがされたのと同じように、紅児さんの首を絞めて殺した」 - 95二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 20:23:38
上手いな〜…誘拐犯と殺人犯が別々にいたのか…
- 96あんこうなべ22/05/13(金) 20:40:07
ユリヤ「最初は、小紅の前で罪を吐かせてやろうと思ってただけだった。……でも、目の前の奴が仇だって思ったら……やっぱり許せなかった」
宇佐美「それで、真相に気づいたとか言う僕も同じように殺す気だったんだな」
宇佐美「残念だったね。でも、僕の話をちゃんと聞いてたら同じやり方じゃ無理だってわかっただろうに」 - 97あんこうなべ22/05/13(金) 20:41:37
宇佐美「例え優しくしてくれなくっても、愛してる人が本当に目の前にいてくれる方が幸せだって」
宇佐美「…………幻じゃ、意味ないんだよ」 - 98あんこうなべ22/05/13(金) 22:26:12
宇佐美の言葉に、ユリヤは黙り込んだ
………次第に、外が騒がしくなってきたのが分かる。
座長が、宇佐美が異人館から帰ってこないこと、ユリヤが急に消えたことを心配して警察に通報したのだ。 - 99あんこうなべ22/05/13(金) 22:33:19
宇佐美は、ちらりと窓の方に視線を走らせ、ユリヤの方に向き直った。
宇佐美「……ねえ、ユリヤさん。僕は警察じゃない。別にこのままあの人たちにあんたを突き出してもいいんだけど、そんな義理もないし」
宇佐美「今から出て、ここであった事の説明とかを始めたら10分くらいは稼げるかな」
宇佐美「最後の幕の閉じ方だけは、あんたに選ばせてあげる」 - 100あんこうなべ22/05/13(金) 22:36:12
ユリヤは、一瞬驚いたように目を見開くが、次第に宇佐美の言いたいことを理解したのか、かすかに微笑む。
ユリヤ「………ありがとうね、宇佐美さん」
ユリヤ「実はもう一枚、私のためだけに作った幻燈があるの。10分もあれば、沢山だわ」 - 101あんこうなべ22/05/13(金) 22:40:55
扉の外は、今まさに突入しようとしている警察たちでひしめいていた。
すると突然、扉が開き、奇妙な男が現れた。
宇佐美「あ〜、すみません。お忙しい所ご苦労さま。入るのはもう少し待ってもらえます?」
警察1「な、なんだ貴様は!?何者だ!」
警察2「あっ…!待て、この人は宇佐美上等兵だ!あの第七師団の……」
警察1「えっ!?」 - 102二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 22:43:23
良い………
- 103あんこうなべ22/05/13(金) 22:44:57
宇佐美「ああ、良かった。ご存知なら話が早い。実は、僕は極秘で今回の事件を調べていたんです。犯人はこの中に居ますが、ご安心ください。そいつはもう逃げませんよ」
そう言いながら、戸惑う警察たち相手に、宇佐美は最初から説明を始める。
奇妙な事件のあらましに、一同が目を白黒させながら聞き入っている間に
10分が過ぎた。 - 104あんこうなべ22/05/13(金) 22:47:43
やがて、警察の1人がやっと思い出したと言うように声を上げる。
警察「お、おい。さっきから何の物音もしないぞ!逃げたんじゃないのか!?」
その言葉に、全員が正気に戻ったかのように、一斉に屋敷の中に入っていく。
その後ろを、宇佐美は悠々とした足取りでついて行った。 - 105あんこうなべ22/05/14(土) 11:18:21
客間の奥から、ぼんやりとした光が見えている。ここがユリヤの部屋だったのだろうか。扉を開き、ずかずかと押し入った警察たちは思わずアッと声をあげた。
- 106あんこうなべ22/05/14(土) 11:32:08
……そこには、部屋いっぱいの桜があった。一面の薄桃色の花びらの中、蝶が舞い、鶯の羽音まで聞こえてくるようだ。
その中央に、小紅がいた。
舞い散る桜の花びらの中で、こちらを向いてにっこりと微笑んでいる。こっちに来て、と言いたげに手を差し伸べている。
そして、自分の喉を自分で掻き切り、血で真っ赤に染まったユリヤが、ぐったりと向かいの壁に寄りかかり、息絶えていた。
その眼は小紅の方へ向けられ、うっとりと美しい夢を追うかのように、口元は微笑んでいた。 - 107二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:32:39
クライマックスか…
それにしても鯖落ちしてたの大変だったな - 108あんこうなべ22/05/14(土) 11:41:57
騒然とする警察たちを尻目に、宇佐美は部屋の奥に隠されてあった幻燈器に近づき、一枚の写真を取り出す。
それは、宇佐美が持っていた鶴見中尉の写真。幻燈器に映し出すために、丁寧に彩色が施されていた。まるで、鶴見中尉がカメラを向いたその時間だけを切り取ったようだ。
宇佐美はそれを大事そうに上着のポケットにしまい込み、警察たちを取り残して屋敷を去って行った。 - 109あんこうなべ22/05/14(土) 11:55:08
宇佐美「まあ、ああするしかなかっただろうね」
宇佐美「愛する人がいない世界になんて、用はないしさ」 - 110二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:56:25
愛による犯行や心理を完全に理解してるの流石宇佐美…
- 111あんこうなべ22/05/14(土) 12:02:13
結局、事件自体は宇佐美が説明した通り、紅児の嫉妬による小紅の殺害、そして、それを恨んだ宮田百合の計画殺人だという形で片付けられた。
そのあまりに特異な事件の内容に、世間は一時騒然とした。
花形の役者を一気に失った一座にとっては悲劇だが、この事件のおかげで劇場に今まで以上に人が殺到したというのは、皮肉な結果である。 - 112二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 14:43:59
宇佐美「……残念ながら、今回の件に囚人は関わっていませんでした。怪しい男がいるという通報も、誣告だったようです。恐らく客の誰かが小紅との親しさに嫉妬したのでしょう」
鶴見「……そうか。ご苦労だった、宇佐美上等兵。下がってよろしい」
宇佐美「はっ」
そのまま踵を返し、去って行こうとする宇佐美だったが、ふと足を止め、鶴見の報を振り返った。
宇佐美「鶴見中尉殿」 - 113あんこうなべ22/05/14(土) 14:45:48
鶴見はすぐに宇佐美の方を向く。
鋭く、まったく油断のない視線だ。
鶴見「なんだ、宇佐美上等兵」
宇佐美は、にこりと笑って答える。
宇佐美「いえ、なんでもありません。失礼いたしました。鶴見中尉殿」
そう言って、宇佐美は鶴見の執務室を去った。 - 114あんこうなべ22/05/14(土) 14:49:39
宇佐美(嘘の優しさなんていらない。あの人からのお情けが欲しいんじゃない)
宇佐美(幻の陰に縋りついて、幸せな振りをするなんて僕は御免だね)
宇佐美(………嘘の愛の言葉も、微笑みもいらない、だからせめて)
宇佐美(最期の瞬間にだけは、たった一度、本当の言葉が欲しいなあ) - 115あんこうなべ22/05/14(土) 14:52:13
一瞬だけ、宇佐美の顔が寂し気に曇ったが、それもすぐに消える。
宇佐美はまた、何事もなかったかのように任務に戻っていくのだった。
終 - 116あんこうなべ22/05/14(土) 14:55:15
(これで終わりになります。保守やコメントくださった方、本当にありがとうございました。とても嬉しかったです)
(幻影に縋りついていた尾形やユリヤと、例え望んだような愛が手に入らなくても、相手を見つめ続けた宇佐美との対比のようなものを書きたくてこの話を思い付きました)
(実は日影丈吉という作家さんの小説が元ネタになっています。楽しんでいただけたら幸いです)
(また思い付いたらSS投下するかもしれません。そのときはまたよろしくお願いします) - 117二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 15:00:49
掲示板不安定だったなか完結乙!
上等兵2人は本当対照的というか宇佐美のこの愛の捉え方それっぽくて好きだなあ
SS投下することあったらまた応援してます! - 118二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 17:01:17
乙です
面白かった… - 119二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 02:51:29
一気に読んじゃった
尾形への理解度が妙に高い原作の宇佐美好きなんだけど、尾形と似てるユリヤさんの心の動きも「あ~ね」って感じですんなり読み取ることができたんだろうなぁ
宇佐美は精子探偵でもあるけど愛憎探偵でもあるんだな…という謎の感慨を得られました良きSSをありがとうございます!! - 120二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 03:21:58
SS乙でした!鯖落ちで落ちたりしなくて本当によかった
愛に生きてる宇佐美らしく最期を選ばせてあげるのすごく良いな…