- 1二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:04:06
お兄さまとライスはぼんやりと空を眺めていました。
空がだんだん暗くなり雲に覆われてきたかと思えば、あれよと言う間に雨が降ってきたのです。
「どうしよう、お兄さま…雨が降ってきちゃった…」
「そうだね…これはすぐには止みそうにないな…」
2人はこの日、ピクニックに行こうと考えていました。
お兄さまがライスのためにお弁当を作ってくれたのです。
それを持ってお出かけしようと準備を終えてさあ出発、という矢先のことでした。
「ごめんなさいお兄さま…ライスのせいでせっかくのピクニックが台無しになっちゃった…」
ライスはそう言うとうつむいてしまいました。
どうしようもなく悲しさがあふれてきて、目にいっぱいの涙をためて今にも泣き出しそうでした。
雨が降り出したのを自分のせいだと思ったのです。
「そんなことないよ、ライスのせいじゃない。この時期は天気が不安定で変わりやすいんだ」
お兄さまはライスに元気を取り戻してほしくて、ありのままの気持ちを伝えました。
「でも、どうしてそう思うの?ライスはいつだって良い子じゃないか」
それを聞いたライスは伏し目がちに話しました。
「だってライスたちがお出かけしようとした途端に雨が降り出したんだよ?ライスが悪い子だから…」
「だから、お兄さまのことも不幸にしちゃうんだ…」
そう言ってぎゅっと閉じた目からは涙がこぼれました。
そんなライスを見ていると、お兄さまも悲しい気持ちになります。
お兄さまは、ライスと一緒ならどんな時だって楽しいのです。
不幸だなんて思ったことはありませんでした。
雨が降り出したことは残念でしたが、それでライスが気に病む事はあってほしくなかったのです。 - 2二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:08:57
そんな時、ふと思い出したことがありました。
「そうだ!ライスに見てほしい物があったんだ」
急にお兄さまがそんなことを言うので、泣いていたライスもびっくりして顔を上げました。
「これを見て…じゃーん!」
そう言ってお兄さまがカバンから取り出したのは、きれいな青い折りたたみ傘でした。
「わあ…かわいい傘…」
ライスは涙を拭うのも忘れてかわいらしい傘に見入りました。
「実は最近、いい機会だなって思ったから買ったんだよ。今まではビニール傘で済ませてきちゃったから…」
「でも、それからは雨に降られることがなかったから一度も使ってなかったんだ。だからね、ライス」
お兄さまはしゃがんでライスの目元を優しく拭うとにっこり笑って言いました。
「予定は変わっちゃうけど、これから散歩に行かない?一緒に傘に入ってライスと歩きたいんだ」
「ライスは嬉しいけど、お兄さまはそれでもいいの…?」 - 3二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:11:50
ライスは、自分を慰める為にお兄さまが無理をして明るく振る舞っているのかもしれないと心配になったのでした。
でも、そんな不安を和らげるようにお兄さまはそっとライスの手を取って包み込みました。
「もしも、だけどね」
お兄さまは照れながら続けます。
「この傘を買った時に思ったんだ。もしも誰かがこの傘に一緒に入って歩いてくれることがあるなら、その時はライスだったら嬉しいなって」
「だから、今日はその夢が叶うよ」
お兄さまはいつもこうでした。
ライスが自分自身を責めたり、悲しみや苦しみに囚われそうになると、そっと寄り添ってくれるのです。
「ありがとう、お兄さま…ライス、一緒にお散歩に行きたいな。お兄さまの傘に一緒に入れて下さい」
ライスがそう言うと、お兄さまはほっとした様子でまた笑いました。
「あはは、大げさだよ。でも、喜んで。それじゃあ出発しよう!荷物は置いていこうね」
荷物を部屋に置いて、それからお兄さまは留め具をパチンと外して傘を開きました。
きれいに畳まれていた傘がするすると開いていく様を見てライスは思いました。
まるで、青いお花が咲いたみたい。 - 4二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:17:01
お兄さまとライスはいつもの散歩道を歩いていました。
しっかり手を繋いで、濡れてしまわないようにいつもよりぴったり寄り添って歩きます。
「なんだか不思議な気分だね、ライス」
「そうだね…みんなどうしちゃったのかな…」
散歩道には、ライスとお兄さま以外に誰もいないのでした。
他には車が数台通るだけ。
突然降り出した雨を嫌って、皆は外に出るのを控えているのかもしれませんでした。
「それに、すごく贅沢だと思うよ」
「贅沢…?」
ライスは思わず聞き返しました。
「だって、今ここにいるのは2人だけだから、まるで貸し切りみたいだなって思って」
「そっか…そういえばそうだよね。今は、ライスとお兄さまの2人きり…」 - 5二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:23:32
そう意識すると、気恥ずかしさでライスの頬はりんごのように赤く染まりました。
いつもの見慣れた風景も、今日はなんだかおとぎ話の世界のように不思議な空気を感じさせます。
それからお兄さまとライスは色々なお話をしました。
昨日の楽しかったこと嬉しかったこと。
これまでの数々の思い出話。
穏やかな時間の流れが控えめな2人をいつもよりも饒舌にさせていました。
ひとしきり歩きながらのお喋りを楽しんだ後、お兄さまは言いました。
「ライス、ありがとうね」
「え…?」
「今まで、雨の日になるとなんとなく気分が憂うつになることがあったんだ」 - 6二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:29:56
お兄さまは空を眺めながら続けました。
「でもこうしてライスと手を繋いで、雨に濡れないように傘を差してゆっくり歩いていると、いつもより落ち着いて長くお喋りできるでしょ」
「だから、雨の日がすっかり好きになっちゃったよ」
「ライスのおかげだよ」
ライスは胸にこみ上げてくるものがあって、泣きそうになりました。
でも、今度は悲しいわけではありません。
嬉しくて幸せで、自然と涙がこみ上げてくるのでした。
「ライスも、お兄さまとお話しながらお散歩できてとっても楽しいよ…」
ライスはなんとかそれだけ言うと、泣くのをぐっと堪えました。
お兄さまにまた心配をかけたくなかったのです。 - 7二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 21:35:58
それからしばらく歩き続けて、そろそろ帰ろうかという時にお兄さまが言いました。
「ねえライス。やっぱりピクニックしようか」
その言葉にライスは未だに雨が降り続く空を見遣りました。
「でも、まだこんなに雨が降ってるよ…?風邪を引いちゃうかも…」
心配そうなライスでしたが、お兄さまは落ち着いていました。
「うん。外ではさすがに難しいと思うんだ」
「だから、トレーナー室の床にレジャーシートを敷いて、そこでお弁当を食べたらちょっとした気分だけでも味わえないかなって」
「あの部屋なら温かいお茶も沸かせるし、硬い床の上でもクッションに座れば大丈夫かと思ってね」 - 8二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:17:40
それを聞いたライスは目を輝かせて言いました。
「とっても素敵だね!お部屋の中でピクニックするのはね、ライス初めてだよ!」
「喜んでもらえてよかったよ。それじゃあ、そろそろ戻ろうか。帰り道も転ばないようにね」
ライスは元気よく頷きました。
そして、
「「頑張るぞー!おー!」」
そう言って2人は小さく手を突き上げて笑いました。
それから学園に戻った2人は、お兄さまのトレーナー室でピクニックをしました。
お兄さまが作ってくれたお弁当の美味しかったこと。
ライスは少し前まで悲しかったことも忘れてしまうくらいに幸せな気持ちに包まれていました。
この日の雨はライスにとって、お兄さまとのいつもと違う一日を過ごさせてくれた恵みの雨となったのです。 - 9二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:20:14
少し肌寒さを感じさせる一日のことでした。
でも2人はぽかぽかと温かい気持ちでおりましたから、そんなことはちっとも気になりませんでした。
雨はまるで2人のお喋りに聞き入るように、しとしとと変わらず静かに降り続いていました。
おしまい - 10二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:23:34
ありがとうございました。以上になります。
- 11二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:23:43
素晴らしいものを見せてもらったわ…
絵本のような雰囲気がとても良かったです - 12二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:24:34
いいSSだ...
- 13二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:34:25
久々にいいもん見たわ……
- 14二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:39:17
はい、いい夢見ます…
- 15二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:40:47
良かった。
- 16二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 10:11:27
とても良い、また書いて
- 17122/05/15(日) 10:15:12
皆さま感想をありがとうございます
絵本のようなSSを書きたいと思っておりましたので、楽しんで頂けたのでしたら幸いです - 18二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 10:36:02
お兄さまが格好良すぎて惚れるしライス可愛い……あぁ~、浄化されるんじゃ……
- 19122/05/15(日) 12:33:04
- 20二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 13:50:27
かわいい