- 1海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:08:48
イベント名
〈飛び級試験:海底魔界牢にて「淵の魔女」の討伐〉
〈あらすじ〉
『君の場合だと順当に昇格すると上級にならないと思うよ?
君って冒険より安定を求める質じゃん?だから上級試験に挑戦出来る実力を手に入れる頃には安定した冒険者生活が手に入っているだろうし、無理して故郷を探す気力も無くなってるよ絶対。
捜索事態は続けてるだろうけど、今ほど必死じゃないだろうし何より「上級推奨の危険地帯」とかには行かないだろうから狭い範囲しか捜索しないって。本気で故郷に帰りたいなら今のうちに上級になった方がいいよ』
師匠に言われたそれに海底ペンギンは一切の反論が出来なかった……。
このままでは故郷に一生帰れないと確信した海底ペンギンは自分を奮い立たせて飛び級試験を受けることを決意する。
向かうは《海底魔界牢》。そこに収監されている「淵の魔女」討伐が課題であった。
〈概要〉
5レスに収まらなかったので飛び級試験をSSにしました。
合いの手歓迎でございます。 - 2海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:22:54
では投下していきます。
【映像記録魔晶石が映像を再生する】
【最初に映ったのは海の底にいる海底ペンギンであった】
「ふむ……」
【海底ペンギンこと、スネアーズは今海底にいた。地図を確認しながら前方の何もない空間を見ている】
「ポッド、周囲の地形と地図を照合を」
『了解』
【スネアーズの背中、鎧と一つなっているポセイトピア型79式小型支援機、通称ポッドが指示に従い周辺地形を確認する】
『齟齬0.01%以下。目標地点の確率99.9%』
「ではここが、海底魔界牢……情報通り何もないように見えるでありますな」 - 3海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:24:04
【スネアーズは氷の礫を生成して目の前の空間に飛ばす。暫く進むと何もない筈の地点で弾かれる】
【その瞬間、ほんの僅な時間だけ水が波打ち巨大な壁が現れた】
「ポッド!記録と解析!」
『了解』
【スネアーズが指示を出す頃には壁は消えてしまったが、ポッドは確かに不可視の壁を捉えた】
『解析完了』
「兜を形成。視界内に水壁を表示、情報は常に最新の物に更新であります」
『了解』
【鎧の首元の部分が展開、変形してスネアーズの頭を覆う兜となった。傍目にはわからないが兜の内部にはダンジョンの情報が表示されておりスネアーズの補助をしていた】
【解析された水壁が赤く表示され、ようやくダンジョンの全容が見える】
「これは、なんとも巨大でありますな。こんな建造物が目の前にあったというのに気づけなかったとは」
【水壁が赤く染まり、視界の端から端まで真っ赤な壁が続いていた】
「入り口を探すのも一苦労でありますな」
【スネアーズは入り口を探し始めた……】
─────
───
─ - 4海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:25:31
「壁しかないであります!」
【捜索から数時間、海底魔界牢の上下左右隅々まで探したが入り口らしき物は見当たらなかった】
「ポッド、隙間もないであります?」
『計測範囲に侵入可能な経路は確認出来ず』
「うーん、牢である以上出入り出来る筈でありますし、何か必ず方法が」
『警告、水壁に変化を感知』
「うん?」
【海底魔界牢の屋根の上で思案していると、水壁が波打ち始めた】
【それはスネアーズを中心に発生しており段々と勢いを増していく】
「これは、不味いであります!」
【危険を感じたスネアーズが水壁から離れるのとほぼ同時に渦潮が発生した!】
「おわぁぁぁぁぁ!」
【渦潮に煽られながらも何とか水流を操作して体勢を整える。気を抜けば海の果てまで飛ばされてしまいそうだった】
─────
───
─ - 5シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 18:26:44
へえ…あの箱?っぽいの…あんなに高性能だったの…
- 6海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:27:53
【渦潮に揉まれること数分間】
「や……やっと収まったであります……」
【近場の岩場に腰を落ち着けるスネアーズ。海底魔界牢は元の姿に戻っていた】
「おそらく侵入者迎撃用の渦潮でありますな。死ぬかと思ったであります」
【そう呟いてから何かに気づいたのかポッドに指示を出す】
「ポッド、先程の渦潮時の記録映像を出すであります」
『了解』
【兜内に映像が表示される。渦潮に揉まれて視点が定まらないが、スネアーズが見たいものは見つかった】
「やはり、先程の渦潮が発生すると水壁が一部解かれるみたいであります」
【映像内に赤く映る水壁。それが渦潮の発生地点を中心に消失している部分があった】
「侵入方法は解ったでありますな。渦潮から内部に侵入であります!」
『危険。その侵入方法は非推奨』
「確かに危険ではありますが、他に道もないであります。ポッド、サポートよろしくであります」
『了解』
【ポッドの警告があったがスネアーズは他に道は無いと渦潮からの侵入を実行に移す】 - 7〈斬糸〉◆dlOeiCHAaM22/05/16(月) 18:29:29
実際、人間なら命は無かったでしょうね
ペンギンさんは向けの依頼だわ - 8黒槍鮫魚22/05/16(月) 18:31:29
必要があってのこととは言え渦潮に飛び込むなんて恐ろしい…あのペンギンの彼はとても勇敢なのね
- 9海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:32:22
「……よし、ではここから」
【海底魔界牢獄の屋根の上に立ち、槍を構える】
【そしてそのまま槍を振り下ろした!】
「お、おお、よしよし」
【直ぐ様水壁が波打ち、渦潮となってスネアーズを彼方へと吹き飛ばそうとする】
【スネアーズはポッドのサポートを受けながら周囲の水流を魔術で操作し、吹き飛ばされまいとその場に止まり続ける】
「ぐうぅぅぅぅ!ポッド!渦潮の流れと速度を計測!」
『了解。計測中……計測中……』
「早めにお願いするでありますよ……!」
【自分の水流操作が渦潮にガリガリと削られていくのが判る。魔術を維持するのも直ぐに限界が来るだろう】
(それで充分!もとより耐えきる自信など無いであります。本官の目的は)
『計測完了。データを表示します』
「よし、では渦潮に乗るであります!計測したデータから最適なタイミングを表示するであります!」
『了解』
【渦潮のある一点が点滅するのがスネアーズの視界に写る。その地点は徐々にこちらに迫ってくる】
『目標地点と接触まで5、4、3、2、1、0』 - 10海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:33:02
「今!」
【ポッドの計測にあわせて水流操作を停止。渦潮に身を委ねる様に流れに乗る】
【無論、真に身を委ねてしまえば遥か彼方の海域に飛ばされてしまう為実際は違うが】
【では今スネアーズは何をしているのか?ただ渦潮に乗っただけでは飛ばされる。かといって外に吹き出す渦潮に逆らって中に進む事も出来ない。彼がしているのは】
「おおおおおお!」
『現在速度60、突破可能速度まで後40……』
【渦潮を利用して、渦潮を突破出来るだけのスピードを確保しているのだ】
【渦潮から弾き出されないように、渦潮に乗りつつスピードをあげていくスネアーズ。早くなるにつれて水流操作が難しくなっていくがスネアーズは必死に魔術を行使して飛ばされないようにスピードを確保していく】
(こんなのっ師匠の扱きに比べればっ!)
『90……95……100。突破可能速度に到達』
「でりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
【ポッドが無機質に速度を報告する。スネアーズはその勢いを維持しながら無理矢理方向転換。渦潮の発生点、海底魔界牢に向けて一直線に突撃する!】
─────
───
─ - 11〈斬糸〉◆dlOeiCHAaM22/05/16(月) 18:34:52
確かに、一桁ランカーのしごきと比べたらこの世の大抵の事柄はマシに感じるでしょうね……
- 12海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:35:36
「ぐえぁ!?」
【渦潮を突破して海底魔界牢に侵入したスネアーズ。その勢いのまま頭から床に激突してしまう。兜がなければ頭を強打して試験どころではなかっただろう】
「痛ててっと。どうやら中に入れたみたいでありますな。しかし、これは……」
【海底魔界牢獄の内部を見渡す。外から見た時は無色透明であったのだが内部は別物であった】
【内部は地上の牢獄の様な石造りの通路であった。等間隔に並んでいる格子扉も鉄そのものだ。唯一の違いは内部が水に満たされている事だけであった】
『解析の結果、建造物の構成は全て水分。石及び鉄は一切不使用』
「マジでありますか。では水の圧縮率や光の屈折率を調整してこのような見た目にしているって事でありますな。うっわ手触りまで再現してるであります。これ作ったのは変態でありますな……」
【ポッドの報告にスネアーズは感嘆を通り越して呆れる。ここまでの術者は彼の故郷にもいなかった】
「とにかくとっとと探索であります。早くしないと内部構造が変わるらしいでありますし」
─────
───
─ - 13シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 18:36:24
魔界牢作った奴も、まさかこんな正面突破されると思わなかったでしょうね…
- 14海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:38:30
「やっと……やっとたどり着いたであります……」
【探索開始から数時間、魔界牢の牢番の居場所と思われる部屋までたどり着いた】
【ここまで幾度となく渦潮に巻き込まれ探索が無意味になり、何度も何度も最初からになったがそれでも彼はたどり着いた】
「ダンジョンの構造に気がついていなければ永遠に彷徨っていたでありますな」
【彼の言う構造とは『変化しない区画もある』と言う事である。おそらくポッドがいなければ気がつかなかっただろう。外側を隈無く探索していた事も功を奏した】
【内部構造が判らなくても現在位置なら判るだろうとポッドに立体マップを構築してもらっていたのだ。それを見た限り数度渦潮に巻き込まれたにも関わらずスネアーズの位置は常に牢獄の外壁近くに飛ばされており、中心には全く近づいていなかった】
【なら考えられる事は一つ。牢獄の中心にこそ魔界牢の牢番が存在する可能性が高いと踏んだのである】
【その証拠に牢獄の中心部であるこの場所には、明らかに他とは違う立派な扉があった】
「間違いはなさそうでありますな……ポッド」
『はい』
「防御用プログラムを起動してスリープモードに移行であります。事前情報通りなら、おそらくポッドはこの先の戦いには参加出来ないと思われるであります」
『……了解。御武運を』
【ポッドがスリープモードに移行する。これでポッドによる魔術支援及び対象の解析は不可能となり、スネアーズ本人の力量のみが便りとなる】
【ポッドが完全にスリープモードに移行したのを確認して扉を開け中に入る】 - 15海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:38:56
【そこは一段と広い部屋であり、中心には巨大な影があった。影に近づくとその姿がはっきりと見えるようになる。鮫の頭部と無数の触腕を持つ魚人、魔界牢の牢番であった】
《侵入者よ、目的と名前を名乗れ。でなければ排除する》
【牢番は簡潔に、そして相手を押し潰すかのような低く重い声でスネアーズに質問する。スネアーズも負けじと大声で返す】
「本官はバトリーグ・スネアーズ!この牢獄に収監されている「淵の魔女」を討伐に来たであります!魔界牢の牢番とお見受けするが牢の鍵を譲っていただけないでありましょうか?」
【スネアーズの問いに牢番はただ一言】
《ねだるな、勝ち取れ》
【とだけ返した】 - 16シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 18:40:10
ああ、あの魚人牢番だったの…
- 17海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:42:18
【先に動いたのは牢番であった。鉤爪のついた触腕をスネアーズに伸ばして引き裂こうとしてくる。一つ一つがスネアーズを真っ二つにするには充分な大きさを誇っていた】
(1本でも本官には致命傷になるでありますな。回避に専念……!?)
【移動しようとした時に気がつく。槍や鎧に刻まれていた魔術刻印が封印され、兜もただの兜になっている事に。既に牢番の能力である「器物支配」が発動し、装備を無力化していたのだ】
(これでは触媒には使えない!?加えて水壁も見えなくなっている。魔術も本官の力のみで行使し、水壁にも気をつけなければ)
「っとぉ!危ない!」
【スネアーズがさっきまでいた地点に触腕が振り下ろされる。その後も次々に触腕が襲いかかるが、高速水泳を繰り返し避け続ける】
【隙の無い触腕の波状攻撃にスネアーズはただひたすらに逃げる】
(隙がない!何とか反撃を……っ!?)
【それはただの直感であった。目の前の何も無い筈の空間に透明ななにかが現れたのだ。それをギリギリで避けるも、進む先々で見えないなにかが現れ、回避に手間取る】
「師匠の扱きがなければとっくに死んでいるでありますなぁ!」
(見えない何かは恐らく牢番が生成する水壁であります。見えない障害物で思い当たるのはそれしかない!)
【内心で見えない障害物を分析するも、避ける以外の対処法は無い。水壁と触腕に挟まれ徐々に追い詰められていく】 - 18海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:43:48
「くそっこの!」
【避けきれず前に来た触腕に槍を振るう。たいしたダメージも与えられず、魔界牢の牢番の能力によって奪われてしまった】
「しまった!」
【その一瞬が命取り。動きを止めたスネアーズに槍のごとき触腕が殺到する!】
「ぐおおおお!」
【とっさに氷で盾を作るも全ては防げない。何本もの触腕に貫かれスネアーズの体に傷がついていく】
【更に触腕の攻撃は続く。氷の盾を張り続けるがとにかく致命傷を負わないようにするので精一杯であった】
(このままではジリ貧であります!しかし反撃の隙が無いであります!何か、何かないか?)
【必死に考え一つだけ思い当たる。その策はほぼ博打、外せば必死の策。以前のスネアーズなら取らない策であったが】
(やらねば死ぬ。ならばやってやるであります!)
【今のスネアーズは覚悟を決めて実行する。触腕に肉体が削られていく中、懐から魔力回復カプセルを取り出し、一つで充分なところを三つまとめて飲み込む】
【魔力の過剰回復により肉体に多大な負荷が掛かるが構うことなく魔術を行使する】
【次の瞬間氷の盾が巨大化、触腕でも貫けない硬度になる。その氷の盾から六つの影が飛び出す】 - 19海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:45:01
《分身か、小賢しい》
【飛び出たのは氷で作った分身。1体1体が全身を氷で被っており本物がどれかはわからない。触腕の
合間をぬって魔界牢の牢番本体に殺到する】
《全て打ち落とせば同じよ》
【魔界牢の牢番が触腕で氷分身を破壊していく】
【一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、叩き割られ貫かれ氷のスネアーズは数を減らしていく】
【最後に残った1体。他の分身は全て氷であった。ならばこれが本体だろう】
【確実に殺す為に複数の触腕で同時攻撃を仕掛ける。上下左右の逃げ道を塞ぐように触腕が襲いかかり、最後の1体を正確に貫いた】
《……肉の感触がない?まさか》
【貫いたところで違和感に気づく。最後の1体は装着者のいない鎧を氷で被ったものだった】
【では本体は何処にいるのか】
《上か》
【魔界牢の牢番が見上げるとこちらに向かって急降下してくるスネアーズがいた。分身を囮にして頭上から不意打ちを狙っていた。その姿は生身に氷を纏っており、落ちてくる様は隕石にも見えた】 - 20海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:46:26
【牢番が触腕を動かし迎撃しようとした瞬間、氷の分身達が爆発する】
《わが腕が!分身はこれが狙いか》
【爆発すると周囲の水を触腕ごと凍らせて動きを封じる。止められるのは一瞬でも、スネアーズがこちらに到達する前には動かせない】
(このまま奴めがけて一気に!)
【しかし牢番の武器はそれだけではない。スネアーズの前に不可視の壁が無数に立ちふさがる】
【それも既に予測済み。越える為の策は用意している。即ち】
(限界を超えた速度での、高速遊泳!)
【肉体の限界を無視した速度で水壁が完成する前に駆け抜ける。未完成の水壁に氷の鎧が削られるが構うことなく突き進み、氷の隕石は牢番の鼻先を捉えた!】
《ガッアアアアッ!!》
【牢番が叫ぶ。鮫は鼻先に神経が集中しており、そこを攻撃されると大きく怯む。この魚人も見た目どおり鼻先が弱点だったようだ】
「マダァッダァッ!」
【過剰回復した魔力と無茶な速度で遊泳した反動が全身にきているがスネアーズは止まらない。確実に止めを刺すまで安心は出来ない】
【過剰回復した魔力の残りを全て費やし巨大な氷の大槍生成する。それを大口を開けて悶絶する牢番の口に向けて放った】
【無防備な牢番の喉に氷の大槍が突き刺さる!】 - 21〈斬糸〉◆dlOeiCHAaM22/05/16(月) 18:46:34
文字通り全身でぶつかって行ったわね
どうなる……? - 22シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 18:47:54
全力出すのはいいけど…このあとの戦い大丈夫かなあ…
- 23海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:50:42
「……やったでありますか?」
【動かなくなった牢番を見て漸く一息つくスネアーズ。しかしまだ終わりではない。牢獄に囚われている「淵の魔女」を討伐して初めて試験完了なのだ】
「本命前でありますが、もうだいぶキツイ……やはり飛び級は一筋縄では……?」
【視界の端で何かが動いた】
【目を向けるとそこには氷漬けにした触腕が氷を砕き自由をてにしていた】
(生きている!?しまった、回復薬は全て鎧に!取りに行けば触腕に切り刻まれる。どうすれば)
【考えている間も触腕は動き、喉に刺さった氷の大槍を引き抜く。血が煙の様に周囲の水に広がるが牢番はさして気にしていないようだ】
【牢番がスネアーズに近づいてくる】
(ここまででありますか……)
【覚悟を決めて目を閉じて衝撃に備える】
【………………何も起きない】
【疑問に思い目を開けると、何かが目の前に差し出されていた】
【それは奪われた槍と鎧、そして一つの鍵であった】
《バトリーグ・スネアーズよ、貴殿を執行者として認める》
【彼が手渡してきた槍も鎧も新品同様になっている。彼の能力で修繕してくれたのだろう】 - 24ゴースト冒険者◆WS0qu6lvi222/05/16(月) 18:50:43
そういえば淵の魔女倒さないといけないんだっけ
- 25海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:51:53
「……ありがとうございます!」
《礼は要らぬ。貴殿は己の力で勝ち取ったのだ》
「だとしても槍と鎧を修繕して返す必要はなかった筈であります。だから感謝するであります」
【牢番は返事は返さない。無言で触腕をスネアーズの鎧に向ける】
《貴殿の地図に「淵の魔女」の位置を記した。行くがよい》
「ありがとうございます!では行ってくるであります!ポッド起動。ナビをお願いするであります!」
『再起動完了。追加された情報を確認……ナビゲート開始』
【スネアーズは本来の目的「淵の魔女」の討伐に向かう……】
─────
───
─ - 26〈斬糸〉◆dlOeiCHAaM22/05/16(月) 18:53:00
……いよいよ本場か
- 27海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:55:11
「驚くほどスムーズにこれたでありますな……ここに「淵の魔女」が」
【牢番に貰った地図を頼りに進むとあっさりと目的地に到達する。目の前に一際大きな水格子があった】
【スネアーズは鍵を取り出し鍵穴に刺す。ゆっくりと格子扉が開き、スネアーズが中に入る】
「……何もいない?」
【広い牢屋には何もない空間が広がっていた。牢屋を間違えたか?しかし鍵は合っていた。ならば何故等々考えていると、頭上から視線を感じる】
【ゆっくりと何かが降りてきた……】
「貴女が、「淵の魔女」……」
【降りてきたのは三つの尾を持つセイレーンであった。スネアーズが小さいのもあるが、それは通常のセイレーンより大きく見える。その顔には邪悪な笑みが張り付き、何体もの水の精霊を従えていた】
《貴方が「執行者」?こんなのに許可を出すなんて牢番も耄碌したかしら?》
「いかにも。本官は牢番殿に許しをいただき「執行者」としてここに来たであります」
【スネアーズの言葉に魔女は心底嬉しそうに笑う】 - 28海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:55:54
《アハハハッ!間違いなく耄碌したわねアイツ!ねぇ貴方、私をここから出してくださらないかしら?出してくれるなら、たーっぷり御礼するわよ?》
【簡単に落とせると思ったのだろう。胸を強調し、数多くの船乗りを誑かした美声でスネアーズの耳を擽る。しかし彼は揺るがない】
「申し訳ないでありますが本官の目的は貴女の討伐であります。お覚悟を」
【短いやり取りだがスネアーズは確信する。こいつは外に出してはいけない生き物だと】
《ふぅん……私に楯突くんだ、男が……私に靡かない男なんて出来損ないじゃない。あ、だからここに来たんだ。つまんなーい。もういいや死んじゃえ》
【何処までも軽い言葉を吐きながらスネアーズに殺気を向ける。周囲に侍らしていた水の精霊が襲いかかってくる】
「牢番殿とは真逆でありますな!」
《当たり前でしょ。あんな陰気なのと一緒にしないで》
【精霊達が水の槍を作りスネアーズ目掛けて投擲する。スネアーズは当たらないように常に游ぎ続けながら魔女を観察して分析する】
(魔女の身体的特徴から種族は恐らくセイレーン!なら必要なのは)
「ポッド、呪歌防御結界を展開であります。最大出力!」
『了解。呪歌防御結界最大出力で展開』 - 29海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:58:58
《変わった耳栓ね。ま、意味ないけど》
【魔女が歌い始める。それはセイレーンの名に相応しくあらゆる者を魅了する蠱惑的な歌声であった】
【防御結界を展開している筈のスネアーズの耳にも届き、脳を揺さぶる】
「馬鹿な、歌が聞こえる……」
『いいいい異常以上委譲はっせせせせせせいいいいい』
「ポッド!?」
【その歌声は機械のポッドすら狂わせる程であった。展開している呪歌防御結界が崩れていく】
「くっ、ポッド!緊急停止コードC4S!」
『りょかりょかりょかいいいいいいシャシャシャシャシャットダブツッ』
【ポッドが狂いきる前に強制停止させる。同時に展開されていた防御結界が消失。魔女の歌が直接脳に響く】
「アガガガガギギガカギゲ!?」
(思考が、纏まら、ない。おかしく) - 30海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 18:59:56
「ガヒュッ!?」
【歌で身動き出来なくなったスネアーズに水の槍が直撃する。鎧が易々と貫かれ腹に穴が空いて血が水に溶けていく】
《アハハハッやっぱり牢番は耄碌しているわね!こんな雑魚に「執行者」の権限を与えるなんて!》
【一瞬ではあるが歌が止まる。その隙に呪歌防御結界を今度は自力で再展開する。ポッドの結界に比べれば貧弱なものであった】
《また耳栓ね。でも、さっきより全然弱ーい。諦めたらー?》
「グギギギギ!」
(また歌が。だけど、さっきよりは動ける!)
【魔女の歌が再開し脳を揺さぶる。それでもスネアーズは止まらず動き精霊の1体を槍で貫き倒す】
(槍も鎧も魔術刻印は動作している。これなら牢番殿との戦い程無茶はせずとも自己強化は可能。落ち着け、勝ち目は必ず)
《あーやられちゃった。なら増やさないとね》
【魔女が歌を歌う。すると周囲の水が形となり精霊化した。魔女にとって精霊はいくらでも増やせる駒なのだ】
「くそっ!」
【悪態をつきながらも応戦する。精霊を1体槍で貫けば二体増えて、二体を魔術で破壊すれば3体増える。こちらが完全に不利であった】 - 31シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 19:01:13
機会に通じる狂気ってなんでしょうね…
ウィルスでも発生させてるのかしら… - 32海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:06:00
《アハハハッガンバレーガンバレー》
【きの抜けた応援すらも呪いとなってスネアーズの脳を蝕む。最早結界は意味を成しておらず気合いのみで耐えている状態であった】
(このままでは勝てない。なら取るべき手は……)
「もう無理であります!本官何かが勝てるわけがなかったのでありますー!」
《……アハハハハハハッ!アーハッハッハッ!逃げた!ホントに逃げた!》
【弱音を吐きながら一目散に逃げ出した。それを見ていた魔女は腹を抱えて爆笑する】
《アハハハ……はー笑った笑った。あら?》
【スネアーズが逃げたした水格子を見てみると、鍵が空いていた。何時もなら閉まっているそれが開放されていたのだ】
《あーあ、あの子締め忘れてる。教えてあげないとねー♪》 - 33海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:06:53
【意気揚々と魔女が牢屋を出る。すぐ近くにスネアーズが踞って息を調えていた】
《ハローペンギン君、何してるのかなー?》
「な、何で外に!?」
《誰かさんが鍵を締め忘れたからじゃないー?》
「……っ!」
【スネアーズは飛ぶように游ぎ逃げる。対する魔女はいいオモチャを見つけたと言わんばかりに追いかける】
《待ってよーもっと私と遊びましょう?》
「嫌であります!来るなー!」
《いいわねその悲鳴!もっとき聞かせなさい!》
【水の槍の弾幕がスネアーズに襲いかかる。彼は必死に避けるも何発かは食らってしまった】 - 34ゴースト冒険者◆WS0qu6lvi222/05/16(月) 19:11:58
うわー性悪う
- 35海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:12:12
「ギャアァァァ!」
《アハハハッ!いい声!さぁもっと聞かせてっ!?》
【突如、スネアーズと魔女が渦潮に飲み込まれる。魔女はこれがなんなのか直ぐに思い当たる】
《これはダンジョン組み換えの渦潮!ミスった、これを忘れていたなんて》
【早く脱出しなければ牢屋に逆戻りだ。それだけは避けなければならない。踠いて抜け出そうとしているときに、それを見た。スネアーズが体勢を調えて渦潮の水流に乗っているのを】
《あいつ、さっきまでの動揺が見えない。まさかこれを狙っていた?あれは誘い込む為の演技!?》
【その通り。全てはこの状況に持っていくための演技であった。何度も渦潮に巻き込まれたスネアーズは渦潮の大体の周期と乗りこなし方を理解していた。故に実行できた策である】
【この渦潮の中では元が水の精霊は水に分解され、歌声も渦潮にかき消されほぼ無力化されてしまっている。魔女を倒すにはここしかない】 - 36海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:12:44
「ポッド再起動!水流操作術式及び決戦礼装過剰起動!」
『再起動完了。各部異常無し。水流操作術式及び決戦礼装過剰起動』
【スネアーズの周囲の水が槍に渦を巻いて収束していく。それは次第に輝き水中の星となる】
【その槍を持って渦潮に乗り次第に速度を増していく。その姿は光が尾を引く流星の様であった】
【その流星を携えてスネアーズは渦潮に捕らわれている魔女に吶喊する!】
《嘗・め・る・な・ぁ!》
【魔女も負けじと叫ぶ。その声は最早歌ではない。しかし衝撃波となって流星を阻む壁となる】 - 37海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:13:18
《アアアアアア!》
「おおおおおお!」
【流星と叫びが火花を散らしながらお互いを削りあう。いつまでも続くかと思われた均衡は、唐突に破られる】
《アアアアッ……!?》
(声が……!)
【魔女の声が枯れる。歌ならば何時までも歌えるが、叫び続けるのは不可能だったようだ】
【壁の無くなった流星はそのまま魔女の躯体を貫いた!】
《……!!》
【歌で多くの男を誑かし破滅させてきた「淵の魔女」。その最後は声を発すること無く絶えた】 - 38海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:14:12
「……グボッ」
【渦潮が過ぎ去り、ただの通路に戻ったその場所にスネアーズが倒れていた】
【全身から血を流し、鎧や槍はボロボロで見る影もなかった。先程の魔女を倒すために装備の能力を超過駆動し、自分の魔力も肉体も限界まで酷使した結果であった】
「帰らな……ければ……」
【体にムチ打ちながら何とか懐から帰還用の魔術スクロールを取り出す。震える手でスクロールを起動するが転移魔術が起動しない】
【それもその筈。転移奈土でここから出られるのであれば牢獄とは呼ばれないのである】
【最後の望みを断たれスネアーズは意識を手放した】
《…………》
【気絶したスネアーズに何か大きな影が近づく。それは魔界牢の牢番であった。彼はスネアーズを抱えると】
《見事である》
【と一言呟きスネアーズと共に海底魔界牢から消えてしまった】
【その後の映像は次元の海を抜けて冒険者ギルドの釣り堀に到達したところで止まる】
【記録されていた映像はこれで全てのようだ】
【魔晶石が停止する……】 - 39海底ペンギン◆N4rysfkBiA22/05/16(月) 19:16:40
という訳で自己満足SS終了であります。
お目汚し失礼いたしました。 - 40〈斬糸〉◆dlOeiCHAaM22/05/16(月) 19:17:00
……ペンギンさんの耐久力が上回ったわね
いい勝負だったわ - 41シャドウナイト◆YYwoqOEEiE22/05/16(月) 19:17:11
なるほどねえ…あの状況でブラフまで撃てるとは恐ろしい…
- 42ゴースト冒険者◆WS0qu6lvi222/05/16(月) 19:18:43
やるなあ、しかし性悪だったね
- 43ギルド面食いちゃん◆gDgku.LVZk22/05/16(月) 19:19:15
(※お疲れ様でした!すごかったです)
- 44迷子スキル◆u6S3.q9sUU22/05/16(月) 19:25:28
(※すごい文章力…!!かっこよかったです!)(ペンギンさん…つよい…!!)