- 1二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:01:58
目が覚めたら、知らない浜辺にいた。
ミルクティー色の空に浮かぶ檸檬のような太陽。小麦色の浜辺には所々バウムクーヘンみたいな流木が転がっていて、グレープジュースの波がざざざざと音を立てる、絵本の中のような幻想的な世界。
そして、
「ね~~~えっ! さっきからムシしないでよっ!」
アタシの隣には、何故か幼いテイオー? がいた。
元が童顔なせいか見た目はあのテイオーを丁度一回り小さくした感じで、しいて言えば髪が少し短いくらい。くりくりとした瞳には少年っぽい服装がよく似合っている。
そんな少女は今、小さな両手をぶんぶんと振り回して、精一杯怒りの感情を表現しようとしていた。
「もうっ! ほんとにシツレイだねキミっ!」
「あーはいはいごめんねー」
「ってにゃにするのさくしゅぐったい~~~!」
……あー可愛い。
不思議な状況に置かれているせいかちっとも頭が回らなくて、取り合えず目の前の少女のもちもちとした頬を両手で撫でる……こう、口では生意気なことを言ってるくせに気持ちよささを隠しきれていない表情が猶更アタシの心を刺激する。
そうやって暫くテイオーさまをからかって遊んでいたけど、流石に不機嫌になってきたので、ごめんねと謝って手を離した。
「……お姉さんに弄ばれた」
「ちょっと言葉の使い方間違ってるんじゃないかなー?」
この年頃特有のマセた言葉を使う彼女をやんわり窘めつつ、立ち上がって周囲をぐるりと見まわす。
──見知らぬ土地で遭難しているのとほぼ同じ状況だってのに、不思議と危機感のようなものはちっとも湧いてこない。それどころか退屈さすら感じていて、アタシは隣の少女に、何かして遊ばない? と呑気に聞いてすらいた。 - 2二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:02:08
「へいそー、しようよ」
少女は暫く考え込んだ後にそう提案してきた。
「おー若いねぇ……いいの? ネイチャさん、そこそこ疾いよ?」
「うん! ボクはむてきのテイオーさまだもん! もちろんキミにだって負けないよ」
ぴょこん、と勢いよく跳ねあがってワクワクさを隠し切れていない少女を横目に、アタシはゆっくりと身体の筋を伸ばす。眠気すら感じるくらい靄がかかっている頭とは対照的に、身体の調子はすこぶる良い。
木の棒で引かれた簡易的なスタートラインに立ち、隣の少女が指を伸ばした先に視線を向ける。
「それじゃあ、ゴールはあの向こうの岩で、このコインがおちたらスタートねっ! よーい、どんっ!」 - 3二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:02:58
ミミックのつもりで宝箱開けたらロトの剣入ってた気分だわ今
- 4二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:03:11
重力に従って自由落下したコインが、1メートルほど先でぱらぱらと砂を舞わせた。
先行したのは、コインが地面についたのとほぼ同時にリニアモーターカーのごとく砂浜へと滑り出した少女だった。
その半バ身後ろ、彼女の走りや息遣い、すべてが感じ取れる位置にアタシは付けてじっと、息をひそめる。
──正直、目の前を走る少女のフォームはぎこちないし、体幹だってトゥインクルシリーズで走っているウマ娘たちと比べればまだ弱くて軸がしっかりとしていない。
それでも、姿勢をぐっと下げて重心を乗せるストライド走法は。身体全体をバネのように伸縮させて、爪先で地面を勢いよく蹴りだすそれは、間違いなく。
「……テイオーステップ」
アタシの瞼の裏に鮮烈な煌めきを何度も刻んだ、アイツの走りだった。
「ぬぅ~~~!! くやしいくやしいくやしいーーーっ! もう一回、もういっかいうしょーぶしよーよっ!」
「ふふっ……ほれほれ、負けを認めなさいって。」
そこそこ値が張りそうな服が汚れるのも構わずに転がってじたばたと駄々をこねるテイオーを抱き上げて、空いている方の手で丁寧にこびりついた砂をはたいてやる。
当然のことだが、レースはアタシ、ナイスネイチャが勝利した。
そりゃまあ、いくらテイオーでもここまで基礎能力が違えばアタシの相手にはならない。100回やっても何らかのアクシデントが起きない限り負けることはないだろう。
でも、この子がこのまま成長していったなら、いつかあの無敵のテイオー様になる。そんな予感を覚えて、アタシは自然と口を開いていた。
「でもすごいわ……このまんまだと、すぐアタシも負けちゃうかも」
「えへへ~~でしょでしょ!」
そう笑って胸をフンスとさせた帝王様は、しかし一瞬で表情を変えるとじっとアタシの方を見つめた。
「ねぇ……、えーっと、ね、ネイチャ」
「ん、どしたの?」
「ネイチャはさ、ボクがシンボリルドルフさんみたいな、すごいウマむすめになれると思う?」 - 5二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:03:36
無垢で真っすぐな視線を向けられて、アタシはしばしば──答えに詰まる。
だってアタシは知ってるから。この世界のテイオーも同じ道を辿るなら、菊花賞に出れなくて無敗三冠に挑戦すらできなくて、何度も怪我に苦しむことを。夢しか知らない少女の答えに唯々諾々と頷けるほど、アタシは思い切りのいい人間ではない。
それでも──瞼を閉じてゆっくりと深呼吸をしてから──アタシは言い聞かせるような優しい声色で答える。
「うん──なれるよ、アンタは。皇帝すらも超えた、最強の帝王に」
それは……この子がトウカイテイオーだから。
きっと何度も困難が押し寄せてきて、時には膝を抱えてうずくまるしかなくなった時でも、涙と共に立ち上がるんだから。
その生き様はきっと、誰よりも輝いている。ライバル、というのはおこがましいかもしれないけど、アタシがそう、保証してやる。
「……! うんっ!」
大人びた微笑みを浮かべた横顔がだんだんと霞んで、そして──── - 6二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:03:55
「マーベラ―――――――スッ!!!!!!」
「……はぁ」
ナイスネイチャの朝には、どうやら夢の後味に浸る余裕はないみたいだ。
いつの間にか整えた、ナスカの地上絵みたいなツインテールを揺らしながら、元気に朝の支度をしているキラキラおめめの同居人を眺めながらため息を吐いて。でも、
「ネイチャ? なんだかすっごくマーベラスな笑顔だねー☆」
「そう? ……ふふっ、まあいいユメを見れたから、かな?」
「わあー! ネイチャのマーベラスな夢、アタシにも教えて教えてっ!」
「うーん、ヒミツ!」
何となく今日は、いつもよりも早くテイオーに会いたい。そんな気分だった。 - 7二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:05:35
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- 8二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:05:45
- 9二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:10:52
時たまこういう神作品に出会えるから俺は明日もミミックに引っ掛かるんだ
- 10二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:11:13
やっぱスレタイで損しとるわ
- 11二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:13:37
めっちゃ良かった
ちょっとニヤニヤが止まらん - 12二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:20:30
お腹いっぱいですわ
- 13二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 07:08:14
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 12:28:55
クソスレタイで釣るネタを自分もやってみたくなったんですが、案外スレタイを考えるのが難しかったので画像に逃げました。最後はテイオーに先立たれた老ネイチャとか、テイオーも同じ夢を見てて(幼少期にも一回見てる)……等を考えてましたが、同室のマベサンを登場させるのが自然かなとなってこうなりました
読んでくださった方々、ありがとうございます! - 15二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 23:03:49
ありがてえ
- 16二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 23:05:38
ぜってェネタスレだと思って開いたのに尊みの塊をぶつけられてノーガードで死んだ
- 17二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 23:14:15
あ〜〜めっちゃ引き込まれた〜!最初のふわふわとした描写がまさに夢の中って感じで良いし、夢の中に出てきた幼いテイオーとやることがレースで勝つことなのもネイチャの願望の表れやテイオーをどういう眼で見てるのかとか妄想が広がる
- 18二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 23:15:38
ネイテイがネイテイオに進化するんですね、分かります(未来予知)
- 19二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 23:22:44
寝る前にええもん見れたわ
明日もいいことありますように… - 20二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 10:51:03
ええやん
- 21二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 19:58:41
すばらしい…
ありがとうごとうございます