- 1二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:26:17
- 2二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:29:19
51戦を怪我一つなく走り抜き『鉄の女』と呼ばれたウマ娘。
彼女はなぜメジロ家にいるのでしょうか。
彼女はいったいどう生きてきたのか。
世界アンビリーバボー、また来週 - 3二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:29:35
ーー本日はお忙しい中ありがとうございます
「イクノさんの話とあらばいつでもお引き受けいたしますわ。それで、本日はどのようなご要件でいらっしゃいまして?」
メジロマックイーン氏は現役時代より少しふっくらとした顔で柔らかく微笑んだ。
我々はイクノディクタスの近況について話を伺った。ターフを去りトレセン学園を卒業後、大学に進学したことまでは分かっているが、表舞台に出ることもほとんどないため消息が不明となっているのである。
そこまで話を伝えると、マックイーン氏は少し時間をもらえますか、と取材をしている応接室から足早に立ち去った。時間がかかりそうだ…。
数分後。マックイーン氏が戻ってきた。
その手には一枚の葉書が握られている。
ーーーそれは?
「2…3年前でしょうか、イクノさんからいただいた年賀状ですわ。最近は私も忙しくて連絡が取れていなくて……この住所を訪ねればイクノさんに会えるのではないでしょうか」
葉書を拝見させていただくと、そこには驚きの内容が記されていた。こうしてはいられない。
我々は早速アドレスに連絡をとった。
…これは余談だが、イクノディクタスの学生時代についてマックイーン氏に訊ねたところ数時間にも渡って彼女の長所や素晴らしいところを語られた。 - 4二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:30:34
マックイーン氏との取材から数日経ったある日、我々はイクノディクタスに取材をしに約束の地北海道へと降り立った。数時間のフライトで東京とは大きく光景が様変わりしている。大雪で飛行機が飛べないかも知れないと言われた時はひやひやしたものだった。空港から出て見渡す限り一面の銀世界。分厚いコートに身を包んだ女性が、我々取材班を待っていた…。
ーーーイクノディクタスさんでしょうか?
「はい。私がイクノディクタスです」
一見何も現役時代と何も変わらない。トレードマークの眼鏡も恐らく同じものだ。
我々は挨拶もそこそこに車に乗り、イクノディクタスの自宅へと向かった。 - 5二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:31:34
ーーー今日はお仕事は大丈夫だったのですか?
車窓から流れる景色も銀世界から街並みに移り変わってきた頃、我々は話を切り出した。
「はい。今日は休みでしたので…。しかし驚きました。私はそこまでマックイーンさんやターボさん、タンホイザさんと比べて目立つ存在ではないと思っていただけに、まさか現役からかなり経って取材などとは」
ーーー51戦を故障なしに走り抜くことは容易ではないと思います
我々がそう伝えると、イクノ氏は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。
「かなり無理なスケジュールであったことは理解しています。今思えばかなり異常ですね」
その辺りは彼女のトレーナーであった南坂氏のサポートあってのことだろうか。
昨今の情勢などについてしばらく雑談をしていた内に、イクノ氏の自宅へ到着した。
そこは小さなアパートの一室だった。
彼女の服装を見るに生活に不自由している、とも見受けられないのだが、なぜここに住んでいるのだろうか。
「それは後でお話ししましょう。さあ、どうぞ上がって下さい。狭くて申し訳ありませんが」
彼女に促されて家の中に上がると、途端に身体が温まってきた。やはり北海道の家らしく、暖房器具が完備されているようだ。手狭という印象はそこまで見受けなかった。物があまりないからであろうか、寧ろ広いような気さえしてくる。
テレビの横にはクリップボードがかけられており、そこには現役時代の写真が丁寧に貼り付けられている。
ちゃぶ台に置かれたお茶を一口飲み、改めて取材を始めた。 - 6二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:32:23
ーーー現在のご職業は何でしょうか
イクノ氏は部屋の隅の本棚から大きなアルバムを取り出してきて、我々に見せてくれた。
「…かわいいでしょう?この子たち。皆元気いっぱいで…将来有望なウマ娘です」
そう、イクノディクタスはウマ娘専門の幼稚園施設の教師をしている。
「現役を退いて、学園も卒業して、とりあえず大学に進学して…。何をしたいかなんて考えたこともありませんでした。それで色々な分野の勉強をする内に思い出したんです。やはり私にはレースしかないと。URAに入るか、トレセン学園のトレーナーを目指すか迷いました。どちらでもウマ娘に関われるに違いありませんから」
だが、将来の転機となったのは何気なく受けた教育研修だったという。彼女は思い出すように、懐かしむようにまたゆっくりと言葉を紡いだ。 - 7二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:32:55
「教授から、教育研修を受けてみないかと誘われまして。言ってみるだけなら、と思って幼稚園へ行きました。…そこで、圧倒された。ヒトもウマ娘も一緒になって遊んだり、学んだりするその光景。子供たちのキラキラとした笑顔。でも、きっかけはそれではありませんでした。ある日、ウマ娘の子とヒトの子がぶつかってヒトの子が怪我をしてしまいました。そのことで、ウマ娘の子は気を病んで幼稚園を去ってしまったのです。…、親の間でもトラブルがあったようですが。子供の間の問題、ではありません。怪我をしてしまっているのですから。でも、どうしてもヒトとウマ娘では身体能力に差がありすぎる。また、小さいながらも脚の病気に悩むウマ娘の子の姿も見てきました。私も幼い頃に屈腱炎を患ったことがあるので、その辛さは誰よりもわかります。これらの問題を、何とかしたいと思うようになるのにそう時間はかかりませんでした」
そう言い切った彼女の瞳には、強い覚悟の光が宿っている。ここまで来るのに、どのくらい苦労をしたのだろうか。我々には想像もつかない。
ーーーなぜ、この北海道に?
「意外に思われるかも知れませんが、それはスペシャルウィークさんのお陰なんです」 - 8二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:33:41
スペシャルウィーク。エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイローと並んで"黄金世代"と称され、幾度となく熱いレースを繰り広げてきた"日本総大将"。
確かに彼女の出身が北海道であるということは周知の事実であるが、なぜ彼女が関係してくるのだろうか。
「彼女が大活躍をしたことで、北海道という地が注目されました。他にも優秀な成績を修めたウマ娘が多く、この広大で肥沃な土地が私達ウマ娘にもたらす何かがあるのではないかと。それで、北海道に幼いウマ娘の子を集めて英才教育を施す場所を作ろうということになったのです。その施設の職員に、という打診があった時、私は矢も楯もたまらず二つ返事で了承しました。私の"夢"が、そこにあったからです」
彼女が握り締めた拳が、どんどん熱の籠もっていく話が、如何に彼女のかける情熱が深いかということを雄弁に物語る。
「初めは苦労しました…。人員も、設備も少なく、知名度もないものですから、暫くの間は施設があっても入るウマ娘がいない、という状態が続きました。でも、私達は諦めなかった。来る日も来る日も、SNSや地道なビラ配りなどで知名度を高める働きかけをして、ファンの多い元競争ウマ娘ーーーネイチャさん達にも協力を頼んで、何とかここまで来ることができました。毎日大変です。子供、ましてウマ娘のエネルギーは凄まじいですから。でも、1日ごとに成長していく彼女たちの姿を見ることは、何よりも嬉しい。私は幸せ者ですね」 - 9二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:34:06
そこまで言い終えると、彼女は眼鏡を押さえた。目の端には一筋の涙。思わず感極まってしまったのだろう。彼女がどんなにウマ娘のことを想っているか、良く伝わってきた。彼女は、見事に"夢"を掴んだのだ。だが、彼女の夢は終わらない。
「いつかーーーこの地に、いや、もっと他の土地にも、同じような施設を創ることが今の夢です。ウマ娘たちが伸び伸びと成長することのできる空間を、それを提供する一助とならんことを。そのためならどんな苦労も厭いません」
彼女の言で、我々は察したーーーイクノ氏の質素極まりない生活は、彼女の夢のための貯蓄あればこそということを。その、自分の夢を叶えるために全身全霊を傾けるその鋼の意志。
やはり、彼女は、彼女こそは"鉄の女"イクノディクタスなのである。 - 10二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:36:57
(ドトウの終持ってなかったから許して)
- 11二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:40:10
ドキュメンタリーウマ娘だぁ…思わず世界に引き込まれたよ…
- 12二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:40:35
素晴らしい....
- 13二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:46:44
良い文章やこれは…
- 14二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:47:46
彼女の夢を追うようにメジロドーベルやビワハイジも同じ道に進み
そこから新たな世代を担うエール・ソダシたちのような新星や
フサイチホウオーのようなレースに適応できなかった子の新天地として
新たな道は続いていくのか - 15二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:49:07
マク上 私達はそう大したウマ娘ではない
- 16二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:49:35
良い流れぶち壊すようで申し訳ないけどイクノディクタスって屈腱炎にはなってないんじゃなかった?
- 17二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:03:37
え!?wikiえもんにそう書いてあったのに
- 18二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 21:19:49
素晴らしい…本物のドキュメンタリーを見たような満足感だ
もし史実で屈腱炎になっていなくとも、これはそうなっていた世界線だと思えばいいさ
その経験からイクノさんがたどった軌跡に感動したことに変わりはない - 19二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 22:41:49
- 20二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 22:50:23東スペ - スッペンペン Wiki*wikiwiki.jp
イクノディクタスの屈腱炎についてはソース不明というか漫画が出所では?という説もある
- 21二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 07:43:07
イクノディクタス編ということは他のウマ娘でも書いてくれるのでは?ボブ訝
- 22二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 08:06:21
あにまんに書くのはもったいないレベルで面白かったよ
他の子を追った続編もあると嬉しいな - 23二次元好きの匿名さん22/05/18(水) 19:23:38
他の子のやつも見てみたいね