府中の休日【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:10:31

    ※ウマ娘化されていない史実馬のウマ娘が出てきます
    ※ウマ娘の妄想経歴あります
    ※ローマの休日要素は序盤で終わります

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:10:53

    私は王族の一員として色々なところへ行った。
    色々な人とも会った。
    そこに自分の意志なんてかけらもなくて。
    全部、“家”の言いなりだった。
    時々泣き出してしまうこともあったけど、なんとか務めを果たしてはいた。
    でも“ニホン”という国の学校に入学することになったときは、いよいよ殺人的なスケジュールを詰め込まれた。
    分刻みで管理された予定に何通りものスピーチ、そして見ず知らずの人たちの顔が重なって───
    気がつくと私は宿泊先のホテルを飛び出していた。
    こうして私は“ニホン”の街に自ら飛び込んでしまったのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:11:21

    ぽつねんと立ち尽くしていると目つきの悪い女の子が話しかけてきた。
    「オイ、新入生か?」
    自分の格好を見てみると入学する予定の学校の制服を着ていた。
    無意識のうちに一番目立たなそうな服を選んでいたようだ。
    「えっと、はいそうなんです」
    「ふーん……」
    私と同じくらいに見える女の子がじろじろと見つめてくる。
    どこか不審な点でもあったのだろうか。
    いや、冷静に考えれば不審が制服を着て歩いてるようなものなのだろうが。
    彼女は肩をすくめると私の手を取って歩き出した。
    「だったらこの辺のことまだよく知らねェだろ?案内してやるよ」
    「い、いや、貴女に迷惑をかけるわけには……!」
    「シャカール」
    「へ?」
    素っ頓狂な声を上げてしまった私に振り返る。
    「オレの名前だ。お前は?」
    「ふぁ、ファインです」
    言った瞬間しまったと思った。
    もしも彼女が私のことを知っていたら連れ戻されてしまうかもしれない。
    そんな不安をかき消すように彼女がニッと笑う。
    「そうか、いい名前だな」
    胸がとくんと鳴る。
    見知らぬ街で親切な人に出会ったからだろうか。
    たぶん、きっと、そうなんだろう。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:11:40

    シャカールはいろいろな場所に連れて行ってくれた。
    野菜を売っているお店や種々の蹄鉄を取り揃えているお店。
    クレープというものも初めて食べた。
    恐る恐る一口食べると甘さが口の中に広がった。
    思わずかぶりつくとシャカールが笑っていた。
    どうやら鼻先にクリームがついてしまったようだ。
    慌てているとシャカールは指先でクリームを拭ってそのまま舐めてしまった。
    なぜか頬が熱くなった。
    そのあとも公園に行ったり河川敷を散歩したり、たくさんの場所を案内してもらった。
    そして。
    そして……。
    お姉さまに見つかってしまった。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:11:55

    うつむいたままの私と後ろ手に縛られたシャカールが宿泊していたホテルの一室に放り込まれる。
    目の前には腕組みをしたまま耳を後ろに倒したお姉さまが立っていた。
    「……どういうことだファイン。心配したんだぞ」
    低く唸るような声で問いかけられる。
    私が答えるより先にシャカールが口を開く。
    「オレが搔っ攫ったンだ。だからファインは悪くねェよ、ピルサドスキー殿下サマ」
    驚いて彼女のほうへ振り向く。
    「……知ってたの?」
    「留学生、しかも王族とくれば嫌でも耳に入るっての……」
    お姉さまが苛立たしげにつま先で床を叩く。
    「……では、すべてきみの責任である、と?」
    「ああ、罰を受けるンならオレだ。ロジカルだろうが」
    お姉さまが一つ息をつく。
    そして後ろの鞄から一振りの鞭を取り出した。
    「……本来なら死罪でもおかしくはないのだが、その度胸に免じて鞭打ちにしてやろう」
    「そりゃどうも……」
    止めようにも言葉が出てこない。
    どうしてこんな時でさえ自分の意志で動けないの!?
    そう自分を罵っても、ただ息だけが荒くなるばかりだった。
    このままだとシャカールが。
    私の大切な人が傷つけられてしまう。
    ふとある考えが頭に浮かんだ。

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:12:14

    あ、ちょっと流血表現あります

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:12:31

    「……お姉さま、鞭打ちは私がやります」
    「はあ!?」
    「ああ……?」
    驚くお姉さまの手から鞭を奪う。
    ぽかんとしているシャカールに歩み寄る。
    そして鞭を持った右手を振り上げて───

    そのまま自分の左腕に振り下ろした。

    思ったほど痛くはなかったが、血が飛び散った。
    静寂ののち、お姉さまが顔を真っ青にしながら駆け寄ろうとする。
    「来ないで!」
    「ししし、しかし早く医者に診せないと!」
    「でしたらシャカールを解放してください!でなければもう一度自分を打ちます!」
    「わかった!わかったからもうやめておくれ!」
    お姉さまが泣きそうな顔で懇願する。
    「おいファイン!オレのことはいいから早く手当てを……!」
    彼女の声には答えず後ろに回る。
    拘束を解こうと指をかけるが血で滑ってしまう。
    思い切り引っ張るとプラスチック製の拘束がちぎれた。
    「……これ、シャカールなら自分でちぎれたんじゃないの?」
    「あン?オレが逃げたらファインがどうなるかわかンねェだろ?そんなことよりさっさと手当を……」
    言い終わる前にシャカールを抱きしめる。
    どっちのものかわからないドキドキが伝わってくる。
    「ありがとう、シャカール。私、初めて自分から行動できたよ」
    なにか言いたげに彼女の手が動いていたが、結局私の頭の上に置かれた。
    「……そりゃどうも。次は周りの寿命が縮まなそうなやつにしとけ」
    こうして私の初めての家出は終わった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:12:50

    次の日以降の公務は取り止めか、お姉さまが代わりに行くことになった。
    私が行くから、と言ってもお姉さまは断固として首を横に振るだけだった。
    「……妹がここまで思い悩んでいたことに気がつけなかった私の失態だ。私が勝手にやることだから気にしないでくれ」
    「そんな、元はといえば私が……!」
    「いいんだ……いいんだよ、ファイン」
    そういってお姉さまは力なく微笑んだ。
    そうこうしているうちに私が入寮する日になった。
    少しでも気分転換をと思い、お姉さまにも搬入を手伝ってもらった。
    同室の子はエアグルーヴと名乗った。
    どうやらこの学園の副会長らしい。
    なるほど確かにどことなく威厳のある佇まいをしている。
    挨拶を交わしていると荷物を持ったお姉さまが部屋に入ってきた。
    「ファイン、これはどこに……」
    お姉さまが言葉を失う。
    宙に放り出されそうになる荷物を慌てて受け止める。
    それでもなおお姉さまの視線はグルーヴさんに向けられたままだった。
    「……なにか?」
    「あ、いや、ええと……」
    普段の堂々とした態度とは打って変わって、大柄な身体を縮こませてもじもじしているお姉さま。
    「しょ、紹介しますね!私の姉のピルサドスキーです!」
    助け舟を出すとグルーヴさんが手を叩く。
    「ああ、貴女が!海外のレースでの活躍は聞き及んでおります」
    「そそそ、それは、とてもっ、ここ、光栄です……」
    にっこりと微笑む彼女と赤面しつつあたふたするお姉さま。
    その様子がなんだかおかしくてつい笑ってしまった。
    すると部屋の外から聞き覚えのある声が飛んできた。
    「おい、なんだよ騒がしい……って」
    入り口へと振り返る。
    ぽかんと開いた口からギザギザの歯が見えた。
    そこにいたのは───

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:13:24

    「ファイン!」
    聞き慣れた声で現実に引き戻される。
    「どうしたのシャカール?」
    「どうしたもなにも……お前から並走誘ってきたンだろうが」
    「えっ!もうこんな時間!?」
    ぱたぱたとジャージに着替える。
    「ったく、ゆっくりでいいから落ち着け。休日だってのに怪我でもされたら困る」
    「ごめんね~……よし!お待たせ!」
    シャカールと一緒にグラウンドへ向かう。

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:13:45

    休日でみんな出払っているのか廊下には私たちしかいなかった。
    彼女が手に持っている予定表をのぞき込む。
    「ねえ、シャカール。終わったらラーメン食べに行かない?」
    「ああ!?急になに言ってやがる!」
    「……ダメ?」
    シャカールのほうが背が高いため自然と上目遣いになる。
    「…………坂路二本追加な」
    「やったあ♪」
    頭を搔きながらため息をつく彼女に問いかける。
    「ね、シャカール」
    「ンだよ」
    「わがままな私は、嫌い?」
    しばしの沈黙。
    「……まあ、オレぐらいしか付き合わねェだろうからな」
    「え~!好きか嫌いか言ってよ!」
    「知るか!さっさと行くぞ!」
    言い合いのさなか、目が合う。
    シャカールの顔を見てつい笑みがこぼれてしまった。
    「なに笑ってンだよ」
    そう言う彼女もなぜか頬が緩んでいた。
    「シャカールも笑ってるよ」
    「あ!?気のせいだ気のせい!」
    やっぱり笑っている。
    今日もとてもいい休日だ。

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:14:58

    難産でした(白目)
    次はもう少し短くてファニーなやつにしたいです
    お目汚し失礼しました

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 01:35:41

    よかった(クソ感想)

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 03:21:33

    あげたい

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 07:54:40

    好きです(唐突)
    好きです(復唱)
    良質なシャカファイをありがとう 心穏やかに過ごせます

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 08:11:30

    良いものを見た

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