- 1二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:48:22
「酔っ払ってるぜいやっほーう」
「ホントに酔ってるなあ」
賑わう居酒屋の一画、ゴザに座って気持ちよく酩酊しているセイウンスカイ。その対面に座るトレーナーは、テーブル上に並ぶ料理をつまみつつ、呆れながら彼女に話しかけた。
「今日はどうしたんだよ。いつもはこんなに飲まないのにさ」
「酔っぱらいモード発動デェェェス」
「……誰だっけそれ。エルコンドルパサーの真似か?懐かしいな」
懐かしい名前に思いを馳せるトレーナー。
トゥインクルシリーズから早幾年、セイウンスカイもそのライバル達もターフから去り、新たな道を歩み始めた。
一方トレーナーは、相変わらずトレーナー。
新しい担当ウマ娘と、シリーズを駆け抜けている。
そんな訳で、別の道を歩み始めた二人はすっかり疎遠に──ならなかった。
セイウンスカイの趣味は釣り。彼女の現役時代、合間の時間で付き合わされ続けたトレーナーは、立派な釣り好きに仕立て上げられた。まあハマった事に関しては、似た者同士だから、という部分もあるかもしれない。
そんなこんなで、予定が合えば釣り三昧。二人の交友関係は続いていた。予定が合えばと言っても、忙しいトレーナーに対してセイウンスカイは悠々自適、マイペースな毎日。
トレーナーさん、行ける日があれば教えてね。私は何時でも行けるよ〜。こんなふうに、彼女が彼に合わせる形だった。 - 2二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:50:10
「うひゃあ〜!このお酒に!このおつまみ!堪りませんなあ〜」
「そろそろ飲むのは止めときなって。あ、これ美味しい」
飲み続けるスカイ、食べ続けるトレーナー。何とまあ幸せな時間だろうか。後のことなど考えていない、そんな思考はとうの昔に置いてきた。
釣りの帰りは居酒屋へ。セイウンスカイが成人して、お酒が飲めるようになってすぐ、このローテーションは完成した。そうして一年は経つだろうか。
要するにいつも通りなのだ。いつものように、二人でぐだぐだ飲み食いイェイ。違うところは、スカイの酔い具合が酷いとこ。
とはいえ、それぐらいなものなので、トレーナーはそれほど深くは気にしていなかった。
「トレーナーさーん?」
「んー?どうしたー?」
話しかけられて、箸を止めるどころか、好物を見つけ加速させるトレーナー。机に突っ伏しているセイウンスカイはそれに気づかず、アルコールに浸され気味の脳みそから言葉を捻り出していく。
「いまカノジョさんいたりしますー?」
「いないぞー」
「ですよねー。いたら話しますよねー」
「悲しいなー。スカイはいるのかー?」
「いないんですよー」
「彼女はいないけど、彼氏はいるのかー?」
「なんでやねーん」
突然始まった言葉遊びにツッコミが入る。
顔を上げたセイウンスカイは、トレーナーが食べること優先で、あんまり話を聞いていないことに気がついた。実際、彼は酔っぱらいの戯言を受け流すくらいの心持ちだ。 - 3二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:50:56
「ちょっとー、食べてないでちゃんと聞いてくださいよー」
「聞いてる聞いてる、ちゃんと聞いてる」
「嘘つき。聞き逃したら許しませんよー?」
「大丈夫、一言一句聞き逃さないからさ」
幸せそうに食べ進めるトレーナー。やはり話半分に聞いている。しかし、彼の顔を見たセイウンスカイは、今度はツッコミを入れなかった。
彼に対しても、自分に対しても呆れ半分に、かえって好都合と言葉を紡ぐ。
勇気を出すには、ちょうどよかった。
「私、彼氏はできたことないけど、好きな人はいたことあるんですよ」
「へー、さしずめ告白できなかったってところか?」
「……そうそう。よくわかってるじゃん」
「スカイらしいなあ」
「……どんな人だったか、気になったりしない?」
「んー、気になる!」
「……いま、目の前にいる人」
「え」
──止まった。 - 4二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:52:24
「なんと私、昔はトレーナーさんのことが好きだったんだよね。ビックリした?」
「そりゃビックリだけどさ……」
驚愕、突如明かされた過去の感情。かつて自分は、彼女から並々ならぬ想いを向けられていたことに対する驚きと──
「……何で、それを?」
──困惑。好きだった、今は違う。ならばなぜ、それを掘り起こした?過去の清算、たまたま酔った勢いで、それを済まそうとしている?
箸を止め、いつの間にかまた突っ伏しているスカイの言葉を、一言一句聞き逃さないよう心を向ける。
彼女の耳はしぼられていた。
「聞きたくってさ、まだ担当ウマ娘だった頃の私を、どう思っていたのか。たくさんアピールしたつもりなんだよ?」
ああ、なるほど。昔の自分の答え合わせ、やはり過去の清算。
しかし、どれだれ悪酔いしているんだ?シラフじゃとても聞けないような質問だ。酔いから覚めれば、恥ずか死を迎えてしまいそう。
……これは彼女にとって、大きな勇気を伴ったものだろう。だったら、それに応えるだけの答えを返さなければ。 - 5二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:53:48
「……あの頃のスカイ、か。甘えん坊さんだったよな」
「うん。大好きだったもん」
「そうか。……恋愛的なものではないけど、俺も好きだったよ。捻くれてるけど、実は頑張り屋さんで他人思いなとっても良い子で、一緒にいて楽しい可愛い担当ウマ娘──こんな感じかな」
「ふーん、なかなか好感度高めだね」
「まあね。でも、生徒と先生みたいな関係だったし、それ以上ではなかったよ」
「私の好感度はマックスだったのになー」
「なら、告白すればよかったのに」
「……受け入れてくれたんですか?」
「……どうだろう、分からないかな」
「ですよね」
「あ、でも──」
「?」
「別の子を担当して思うのが、君は特別だったよ。やっぱり、担当の子に対する好き、っていうのは超えてたかも。なんと言うか、グッとくる時もあったしね。一緒に温泉旅行へ行ったときとか。案外、受け入れてたかも」
「……そっかー、そうですか」
「満足した?」 - 6二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:55:37
一切包み隠すものはなく、また色を付けることもせず、自分の想いを話しきった。
……かつて面倒を見ていた子に、自分がどのような目で見ていたかを話すなんていう、犯罪じみた事をする日がやって来るとは。
俺もそこそこ酔ってるな。我ながら素直な人間だけど、シラフなら流石に少し誤魔化しただろう。
ただ、こんなことが出来るぐらい、時間は流れたのだろう。思い出の中の彼女は小さかった。信頼はもっと積み重なった。
……見た目は、今も小柄だけど。
「……うん、満足しちゃった」
「なら良かった」
未だに突っ伏しているが、その分かりやすく動く耳としっぽから読み取れる。素直じゃないけど、素直。そんな面倒くさくて可愛いところも相変わらずだ。
「ね、トレーナーさん」
「どうした?」
「……付き合っちゃいません?私達」
「……」
どう答えろと。もちろんYESかNOか、なんだけど。
「好きだったのは昔の話じゃなかったのか?」
「今でも好きですよ?割となかなか。……というか、トレーナーさんもそうじゃないの?こうやってさ、いつもいつも一緒に遊んでるし、両想いだったし」 - 7二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:58:26
「両想いだったか……?」
「両想いでしょ。生徒と先生なんて余裕で超えたじゃん。まさか私に対して、異性に対する感情以外で、特別グッとくるものを抱いてた変態さん?」
「……それだとしても、変態じゃない?」
「はい、否定しない。やっぱり恋愛感情じゃん。じゃあ付き合うしかないでしょ」
「無茶苦茶だ……」
「違うの?」
「……」
強かになったものだ……違う、と言い切れない。どんどん追い詰められていく。体裁は悪くなるが、気分は高揚していくような──社会常識の影に隠れた本心が、顔を覗かせて来ているのか。
机に伏せながら顔を上げて、上目遣いで微笑む彼女は、それはそれはあざと可愛い。
「まるで真逆だな。逃げるスカイと追いかける俺だったのに、スカイから捕まえに来るなんて」
「好位追走には差しで。恋のトリックスターセイウンスカイからは逃れられない!なーんちゃって☆」
「はははっ、俺は未だにあのバレンタインを覚えてるぞ」
「無し、今は無しだからそれは」
顔が赤くなっているのは、アルコールだけじゃないだろう。そして、俺も同じだ。
今も昔も変わらない、こうやって彼女と笑い合うのは、とても楽しい瞬間で──
「ね、トレーナーさん。きっと、もっと楽しくなりますよ。だから……」
「そうだなあ、付き合っちゃうか!」
「っ!」
──これから先、もっと、ずっと、そう思った。 - 8二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 02:59:18
「うぅ……」
重い、ダルい、何だコレは?分からない。
記憶がない、何をしていた?ここはどこだ?
まぶたを開いた。見慣れた景色、自分の家だった。ソファで寝ていたようだ。
明るい日が差し込んでいる。おそらくお昼ぐらい。ぐっすり眠っていたみたいだが、寝る前に何をしていた?この感じは、二日酔い──思い出してきた。
そうだ、トレーナーさんと遊びに行ったんだ。
釣りして、飲んだ、いつものやつだ。
ただ、酔いが酷い。いつもよりお酒を飲んだからだ。そして告白して、さらに飲んだ。
……告白した。オッケー貰って、舞い上がって飲まれてしまった。記憶が飛ぶくらい。
……
「ほわぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?」
クッションに顔を埋めて、湧き上がる感情のすべてを吐き出す。胃の中身は吐き出さない。
告白したのだ、なんと、この私が!
酔った勢いで、素直になって、トレーナーさんに!そしてうまく行った!
何ということだ、何ということだ──作戦通り、よくやったぞ昨日の私ぃ! - 9二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:00:40
始めから酔っぱらうつもりだった。アルコールの力を借りるつもりだった。
ホントは、別の形が良かった。
卒業の時に告白しようとして、駄目だった。
成人したときにしようとして、駄目だった。
ならば、大人パワーでイイ感じにセッティングして、ムードを最高の状態に整えて……駄目だった。
どうしても、あと一歩が踏み出せなかった。あと一歩だけなのに。
子供の頃は、好き勝手甘えることが出来たけど、自分に自信がなくて、勇気が出せなかった。
大人になってから、自信は持てたけど、子供の頃みたいに甘えるのが、気恥ずかしくて出来なくなった。若干距離が離れたように感じて、いいイメージを持てず、これまた勇気が出せなかった。
お互いが、かつて隠し通した本音がしれて、結果的に関係が発展した。
──違う、そんなんじゃない。
私はトレーナーさんのことが、ずっとずっと好きだった。隠し通し“続けていた”。
勇気を出せない私に、残された手段の一つ──シラフの仮面を破壊する、つまり酒に頼る。
正直、告白は無理だろうけど昔みたくダダ甘え出来ればいいかなー程度の期待値だった。思ってたより上手く行った。大勝利である。
……やっぱり、普段と違う雰囲気で、準備した状態でこういうことはしたかったけど、出来なかったものは仕方ない。次に期待、むしろ次が本番ってね。
そうだそうだ、スマホに写真とか動画とか、昨日のものが残ってないかな。お、充電残ってる──
「うぅ〜ん……」
「え」
──机の下で、横になっているトレーナーさんがいた。何でそんなとこに? - 10二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:02:48
……何でって思ったけど、あの状態でどうやって帰ったんだと言う話になるし、送ってくれたんだ。
ふかふかのソファで寝る私、寝かせてくれるトレーナーさん、トレーナーさんにびっくりする私──初めて出会ったときみたいだね。
しかし、付き合ったその日からお家にご招待とは……チラリと自分の服を見る。酔って勢いがつき過ぎたりはしていなかった。セーフ!
……トレーナーさん、すんごいぐっちゃぐちゃの姿で寝てる。『シェー』のポーズじゃん。写真取っちゃえ。パシャリ。
「ぅん……?あれ……?」
あ、シャッターの音で起きちゃった。ごめんね。
まあでも、もうお昼だし、そろそろ起きなきゃだめでしょう。
さあ記念すべき1発目!彼氏を起こす彼女という定番シチュエーションをいざ、トレーナーさんに!
──いや、トレーナーさんじゃないか。
「おはよー、私のカレシさん☆」
「……!?
……!?」
あはは♪お手本のようなびっくり顔、かわいいな〜。
大物、いただき!ハマったね☆ - 11二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:05:30
あとがき
氷結うんめえええ
↓
セイちゃん酔ったらどうなるんだろう……?
↓
ハイハーイ、セイウンスカイデース
↓
スレタイ
以上です。読んでくれてありがとう! - 12二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:06:19
ええもん見せてもろたで!!!
- 13二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:06:37
氷結は美味いからな
- 14二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 03:07:18
これはいい飲みウンス
- 15二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 12:54:52
良き...
- 16二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 12:59:25
ああ^〜
- 17二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:02:03
いい……
- 18二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:03:51
素晴らしい…!ありがとう…ありがとう…
- 19二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:06:26
セイウンスカイいいよね…
- 20二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:07:20
いい……
- 21二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:07:30
うーん、解釈一致!
こういう告白良いよね… - 22二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:10:49
こういうのでいいんだよおじさん見習い「こういうのでいいんだよ」
- 23二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:13:03
多分トレーナーはシラフの時にもう一度しっかり告白するんだろうな…
- 24二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:17:20
ギュッて抱きしめながら起き上がらせそう
- 25二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:19:14
あー…すき………
- 26二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:20:03
甘えたがりのセイちゃんは解釈一致度100%
- 27二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:26:29
こういう後日談好き!
- 28二次元好きの匿名さん22/05/19(木) 13:29:55
ヤッベェ好みすぎる。めっちゃかわいい。
ごちそうさまでした - 29二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 00:17:02
バランスがよい
- 30二次元好きの匿名さん22/05/20(金) 00:21:21
ブラボーブラボー
明日また頑張れる