お兄さま……っ、お兄さま……っ!

  • 1二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:52:33

    「お兄さま……っ」

    息が苦しい。身体が熱い。なのに寒くて、布団を被っているのに震えが止まらない。
    全身が酷い倦怠感に包まれていて、寝返り一つ打つことさえ簡単に出来ない。口から洩れる呼吸の熱が不愉快でしょうがない。
    喉の痛みが辛くて、傍にあるスポーツ飲料に手を伸ばす。身体を頑張って起こしてなんとか飲んで、またベッドに突っ伏した。

    ──昨日、雨に降られた。
    お兄さまと二人で学園の外を走っているときに、私たちを狙いすましたかのような豪雨に。
    私を取り巻く不幸はそれだけでは飽き足らなかったのか、見事にその日走ったルートには、雨宿りできるような場所もなくて。
    二人して這う這うの体で学園へと戻って、直ぐにシャワーを浴びて、大事をとってトレーニングはそれで終わった。
    それでも結局風邪を引いてしまって、平日のお昼なのに、ベッドの中で独りぼっち。

    「お兄さま……っ」

    この苦しさから解放してくれる、救いの手を求めるように、大好きなあの人の名を呼ぶ。繰り返し、何度も。
    けれど、その声に応える人はいない。当たり前だ、ここは寮の中で、トレーナーさんは入ってこれない。
    それに、例え入ってこれたとしても、お兄さまは来ない、来れない。
    お兄さまは、今私と同じように、ベッドの中にいる筈なのだから。
    ……私と一緒にいたせいで、大雨に降られて、風邪を引いているのだから。

    「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ、お兄さま……」

    また、あの人を呼ぶ。浅ましくも赦しを乞うように。
    どうして私はこんななんだろう。雨に降られて風邪を引くばかりか、大切な人まで同じ目に合わせて。
    この苦しさはきっと罰なんだと、自分のダメさ加減にうんざりして、余計に惨めな気持ちが広がって。
    誰もいない真っ暗な部屋の中が、自分が独りなのを嫌でも思い知らせてきて。
    このまま死んじゃうんじゃないかと思うと、悲しくて、寂しくて、苦しくて、辛くて、涙が零れ落ちてきた。

  • 2二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:53:20

    ウワーッ!
    深夜に神SS!?

  • 3二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:54:35

    ────無機質な電子音が、部屋の中に響いた。
    本当に辛くなったら呼んで下さいと、ロブロイさんが枕元に置いて行ってくれたウマホが震えている。
    布団の中から手を伸ばしてみれば、画面にばお兄さま゙の表示。
    ……どうしたんだろう。お兄さまは今寝込んでいる筈で、電話をしてくるような理由も無い筈なのに。
    当然の疑問は浮かんだけれど、お兄さまの声が聴けるかもしれないと。
    殆ど迷うこともなく、通話のボタンを押した。

    「……おにい、さま……?」
    「もしもし、ライスか?」

    ガラガラな私の声に、やっぱりガラガラの声で返すお兄さま。
    なんだかおかしくて、それ以上にお兄さまの声が聴けたことが嬉しくて、少しだけ笑うことが出来た。

    「ごめんな、寝込んでるのに、電話なんかして」
    「うっ、ううん、一人で寂しかったから、嬉しいよ。けど、どうして?」
    「……あーいや、ごめん。なんだか、無性にライスの声が聴きたくなって……」

    不意打ちだった。ただでさえ熱い体が、もっと熱くなっていくような気がする。
    お兄さまも自分と同じように思ってくれていた。それがとてもとても嬉しい。
    そしてそれ以上に……お兄さまに辛い思いをさせていることが、とても申し訳なかった。

    「……ごめ……なさい……」
    「ライス?」
    「ごめんなさいっお兄さま、ライスのせいで……」
    「違うよ、ライス。君のせいじゃない」
    「ライスのせいだよっ」

    思ったより大きな声が出て、反動で咳込む。喉が痛くて、電話の向こうで私を案じるお兄さまの声が優しくて、また涙がでた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:55:05

    「ライスが一緒にいたから、お兄さまも雨に濡れちゃって、風邪ひいちゃったんだよ」
    「違うよ、それにライスだって風邪を引いてる。俺がしっかり体調管理に気を配らなかったからだよ」
    「お兄さまは悪くない、全部ライスが悪いの、ライスが不幸だからっ……ライスが、ダメダメだから……」

    電話の向こうにお兄さまがいるのに、風邪のせいで弱った心が、また私を後ろ向きにしていく。
    きっとまた、悲しい顔をさせてしまっている。こんな愚痴を聞かせたかったわけじゃないのに。
    ただお兄さまの声が聴きたくて、今回のことを謝りたかっただけなのに。それもこれも全部私が──

    「……俺は本当に、ダメダメだね……」
    「えっ?」
    「自分の我儘で風邪を引いてるライスに電話なんかして、挙句の果てに悲しませてる」

    違う。声が聴きたかったのは私も同じ。それに風邪を引いたのは私のせいだ。
    私のせいでお兄さまに辛い思いをさせているのに、自分を責めてなんて欲しくなかった。

    「違うっ違うの、ダメダメなのはライスの方で、お兄さまはダメダメなんかじゃないんだよ」
    「じゃあ、ライスもダメじゃない」

    お互いガラガラの声で、元気も覇気もない弱弱しい声での言い合い。
    それでもなんだかお兄さまにしては珍しい、子供っぽい言い草だった。

    「お、お兄さま……?」
    「ライスがダメダメなんだったら、俺もダメダメだよ。でも俺がダメダメじゃないなら、ライスもダメダメなんかじゃない」
    「お兄さま……」
    「同じ、なんだよ。俺が辛かったらライスが辛いように、ライスが悲しんでたら、俺も悲しいんだ」

    漸く、お兄さまの言わんとしてることがわかった。
    風邪の熱さとは違う、温かいものが胸にこみあげてくるのがわかって、更に涙が零れた。
    部屋の中は何も変わっていないのに、あんなに寂しくて悲しかった気持ちがどこかに行ってしまって。
    同時に、電話してきた理由を話してくれた時に一瞬言いあぐねていた理由も、理解した。

  • 5二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:56:01

    「……お兄さま」
    「うん?」
    「……ありがとう。ライス、もう寂しくないよ」

    お兄さまは、きっと私が独りで寂しかったことをわかってくれていたんだ。
    どこまでも優しいお兄さま、どうして私にこんなに優しくしてくれるんだろう。
    その疑問は一生解けることはないのかもしれない、けれども。
    私は不幸でダメダメだけれども、お兄さまが傍にいてくれる。それだけで……きっと私は世界一、幸福なウマ娘だ。

    「うん、俺もライスの声が聴けたから、元気になってきたかも」
    「えへへ、そんなにすぐに元気にはならないよ……お兄さま」
    「なんだい、ライス」
    「あのね、ライスが眠るまでね、電話、繋いだままで……いい?」

    こうやって甘えて我儘を溢す私にも、風邪で枯れた優しい声でいいと言ってくれるお兄さまは。
    きっと画面の向こうでも、いつもの穏やかな笑みを浮かべていて。
    それを思うだけで、身体が本当に軽くなった気がして、先ほどまでの息苦しさが少し楽になった。

    「しっかり治して、また明日から頑張ろうな、ライス」

    そのまま、お兄さまの声に包まれて。私の意識は、優しい微睡みの中に溶けていった……。

  • 6二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 00:58:13

    ライスのSS少ない…少なくない…?

    とおもっていつもの如く酔いのテンションで書いたけど、もしかして深夜にSSってあんまり誰の目にも入らない?
    まぁいいやとりあえみんなもっとライスの概念投下だけじゃなくてSSを書くべきだと思いますはい

  • 7二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 01:15:24

    いいSSだ たすかる

  • 8二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 01:15:57

    ライス好きだから嬉しい・・ありがとう!

  • 9二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 07:04:35

    貴重なライスSSたすかる

  • 10二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 07:11:46

    ライスSSたすかる
    ありがとう…

  • 11二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 07:23:45

    ありがとう酔っ払い。
    サンキューフォーエヴァー酔っ払い。
    一生呑んでてくれ酔っ払い。
    朝から優しい気持ちになれました。

  • 12二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 07:28:32

    俺、貴方に忠誠を誓うよ

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