- 1二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:17:30
- 2二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:18:01
「……いちご大福を食べにいくんだろう?」
「えぇ、そうよ」
「ならばこの屋台はなんだ?」
「たい焼き屋さんよ」
「見ればわかる」
「ここ、とってもおいしいの。エアグルーヴはどれにする? あんこ、カスタード、チョコ……いろいろ種類があるのよ」
「スズカ、まず質問に答えろ」
「じゃあ、売れ筋をいくつか頼みましょうか」
「話を聞け!」
「ここは尻尾の先まで餡が詰まってるんだけど、尻尾が生地だけでカリカリに焼かれているのもおいしいわよね。エアグルーヴはどっちが好きかしら」
「……もういい、わかった。食べればいいんだろう、食べれば」
「そうよ。お茶も用意してあるから、近くの公園で食べましょう」 - 3二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:18:30
「いい天気ね」
「ああ。トレーニング日和だな」
「あら。今日はせっかくのお休みなんだから、トレーニングのことは忘れましょう?」
「なんだ、お前らしくもない。いつもなら走りたがるような好天だろう」
「嫌だわ。私、トレーニングがなくても走るわよ」
「それもそうだな」 - 4二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:18:58
「今年の夏物はどうするの?」
「ふむ。今のところ、特に購入の予定はないな。いいアイテムがあれば検討するだろうが」
「スカートなんてどうかしら。ワンピースもいいわね。少しゆったりしたシルエットにすると、風が通るから夏も快適よ」
「スカートか。思えば、普段はあまり選ばないな」
「よく似合うわよ。そうだ。私がよく行くお店を覗きましょう。きっと気に入るアイテムがあるわ」
「いちご大福はどうした?」
「ふふっ。エアグルーヴったら、そんなにいちご大福が楽しみなのね」
「……なぜそうなる」 - 5二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:19:34
「ラーメン?」
「ああ。確か、この先を……あったあった、この店だ」
「なんだか珍しいわね。それとも、前からラーメン好きだったのかしら?」
「そういうわけではない。ここはファインが行きたがっている店でな。今度案内してやろうと思っていたんだ。だからちょうどよかった」
「下見を兼ねてるのね。空いていてよかったわ──あ、二人です。はい、あっちのテーブル席ですね」
「水はセルフか。汲んでこよう」
「ありがとう」
「……少し匂いが強いな」
「豚骨ラーメンだもの。うーん、ちゃんとスープを仕込んでるってことじゃないかしら」
「それもそうか。さて、ファインが食べたがっていたのは──ああ、これだな。後で写真も送ってやろう」
「ねぇ、エアグルーヴ」
「どうした?」
「……ケア用のタブレットとか、ある?」
「安心しろ。用意してある」 - 6二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:20:03
「少し暑くなってきたわね」
「ああ。今年はあまり気温が上がらないと思っていたが、ここ数日はそうでもないな」
「梅雨がくるんでしょうね」
「雨の日はなるべく走るなよ」
「わかってる。ちゃんとレインウェアを着るわ」
「たわけ。そもそも走るなと言っている」
「……努力するわ」
「約束しろ」
「ところで、梅雨はどんな花が咲くのかしら?」
「話を逸らすな。……そうだな、やはり紫陽花と花菖蒲が有名だろう。空気に溶け出すようなあの青や紫は、雨の日にしか見られない。薔薇も満開を迎えるな」
「ツツジやサツキは?」
「もう萎れてきているだろう。梅雨まで保たないことがほとんどだ。さっき言った花は、ツツジやサツキと入れ替わるように咲いていく」
「季節の花というより、花で季節がわかるのかしら」
「そうとも言えるだろうな。今みたいに何気なく歩いていても、草花を見れば季節を感じれるものだ」
「やっぱり詳しいのね」
「お前も走ってばかりいないで、周りの景色をもっと見てみろ」 - 7二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:20:34
「おいしいでしょう、エアグルーヴ」
「そうだな、スズカ」
「シンプルないちご大福だけど、素材にとてもこだわっているのよ」
「ああ。いちごの酸味と瑞々しさが、こしあんの甘味とうまく調和している。大福の生地はもちもちしつつ歯切れがいい。お前がすすめるのも頷ける」
「口に合ってよかったわ」
「しかし、本当にどうしたんだ?」
「えっ?」
「今日のことだ。いつになく急な誘いといい、強引な話しぶりといい……少しらしくないのではないか、と思ってな」
「……お見通しね」
「何か魂胆があるのだろう。怒らないから言ってみろ」
「魂胆、ってほどのことじゃないの。ただ、あなたがちょっと疲れてるように見えたから」
「……私が、疲れてる?」
「うん。態度に出てたとか、走りにキレがないとか、そういうことじゃないのよ。でも、なんだか無理してるんじゃないかって」
「つまり、根拠はないということだな」
「そうなるわ」
「ならば最初からそう言えばいいだろう」
「そうしたら、エアグルーヴはきっと否定するでしょう? だから、多少強引にでも、息抜きに連れていこうって、そう思ったの」
「……そうか。気を遣わせたな。確かに、言われてみれば、そうだな。こうしてゆっくりお茶を飲むのも、久しぶりになるかもしれない」
「リラックス、できたかしら?」
「ああ。……すまないな」
「違うわよ、エアグルーヴ」
「何がだ?」
「私達は、親しい友人なんでしょう?」
「……ふふ、そうだな。ありがとう、スズカ」 - 8二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:20:53
茶屋の窓際の席には、五月晴れの青空から、気持ちよい日差しがそそぎ込んでいた。
エアグルーヴは、温かいほうじ茶をすすりながら、少し反省する。目の前の友人に対し、先ほど「周りを見ろ」と指摘したが、その言葉が、今は自分に返ってきている。思えば、ゆっくり歩きながら、草花の彩りに季節を感じることなど、いったいいつ以来になるだろうか。
いちごの旬は、もうじき終わる。そうすると、このいちご大福はしばらく食べられない。エアグルーヴは、土産を買って帰ることに決めた。生徒会室の中にこもっていては、季節の移り変わりを、鮮やかに感じることはない。だからこの菓子を差し入れることで、少しくらいは執務机を彩ることができるだろう。
いつしか二人は口を開かず、窓の向こうの生け垣の、サツキの花をただ眺めていた。その心地よい沈黙は、雲ひとつない青空のように、晴れやかで澄み切ったものだった。 - 9二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:22:18
以上です。
この二人が仲好くしてる様子は健康にいいと思います。 - 10二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:36:55
素晴らしい…こんな穏やかな気持ちになれたのは久しぶりです…
スズカの思いやりとか、なんだかんだ言いつつも付き合いの良いエアグルーヴの人柄とか
静かに優雅に流れていく2人の世界の空気まで伝わってくるようでした
エアグルーヴが花について語るのを、丁寧に書いて下さるのは個人的にもうたまらないです
少しじっとりしてきた夜に、こんなにも清涼感溢れるSSに出会えたことにただただ感謝ですわ…
良い夢が見られますわ… - 11二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:52:39
良かった。二人の友人としての距離感が素敵だなと思いました。
- 12二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:56:06
この二人は親密なはずなのにあんまり見ない組み合わせ
- 13二次元好きの匿名さん22/05/22(日) 22:59:50
感想ありがとうございます。
この二人の組み合わせが好きなので、書きました。もっと流行ってほしいです。実は流行っていて、私が知らないだけなのかもしれませんが。
こう、いかにもなイベントやアクシデントではなく、何気ない日常をいっしょに過ごしてほしいと思うのです。 - 14二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 10:27:52
ちらっと覗いたらとても良かった...
- 15二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 21:49:50
最高のssあげ
- 16二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 21:54:57
いいねぇ…
スズカは意外と交友関係広いよね