うおおおおおおおおスカイ！！！！！中に出すぞっっっっっっっ！！！！

1二次元好きの匿名さん22/05/27(金) 20:37:14

気づかれないように仕掛けるのが策士の矜持であり鉄則でしょうね。なんせせっかく考えた奇策。筒抜けじゃあ格好つきません。
　温泉でちょっと勇気を出してスキンシップしたことが功を奏して、今ではセイちゃんがお膝をせびるくらいは日常の範囲内に収まってまいりました。社会人特有の汗と大衆と人いきれの香り。不思議なことに妙な安心感を覚えてしまうものです。
　「……あのさ」
　「はい？」
　「……いや、なんでもない」
　たまに沖のほうから流れてくる塩っぽい風が、汗ばんだ肌に清涼をもたらしてくれます。トレセン最寄りから電車で数十分間。東京に自然の安らぎがないという方は単に生活圏内が狭いだけなんでしょう。
　防波堤に糸を投げ出したのがおよそ30分前。はてさて釣果といえば素晴らしいまでのボウズ。フラワーの気まずそうな顔いまから楽しみでなりません。
　ですがそれと同じくらい、この時間が続いてほしいなぁと思います。
　「……スカイ」
　「はいはーい、なんでしょう？」
　「……いや」
　「煮えきらないなぁー」
　そうしてセイちゃんはシャツの襟を引っ張って胸元に風を送り込みます。普段は口うるさい娘に伸びるとか注意されますが、あいにくこの海岸はふたりきり。
　視線はありません。意識しているかも定かではない。ずっと見続けてきたトレーナーさんの横顔は平静を保っているご様子。でも内心ちょっと荒れ模様なことがわかるのは、セイちゃんだけの特権だったりして。
　「……スカイ」
　「なんですかー？　魚逃げちゃいますよー？　集中してくださーい」
　「香水変えた？」
　「……」笑うのはいけません。釣りは耐久戦なのですから。「なんのことです？」
　「気のせいならいいよ。ごめんね」
　別に気のせいじゃないんですけどね。
　あなたの前だと他の使ったりだとか、回りくどいけど。
　「釣れませんねぇ」
　「気長に待つよ」
　「それはこっちのセリフなんですけどねぇ」
　「何が？」
　「にゃははー」
　まあいいでしょう。
　釣り糸がさえ垂らせなかった頃に比べたら、進歩したってことで。