ここだけモザイク世界線 4

  • 1二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:12:42

    ※注意

    1がひたすらSSを書いているスレです。


    前スレ

    ここだけモザイク世界線 3|あにまん掲示板※注意1がひたすらSSを書いているスレです。前スレhttps://bbs.animanch.com/board/604293/以下初期設定。〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじ…bbs.animanch.com

    以下初期設定。


    〇ドラルク

    Δとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。

    本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。

    以前は吸対のカナリアとして活躍していたが、最近優秀な新人が入ったのでもっと楽ができるぞーと息巻いていたところに謎の吸血鬼コンビのお世話係に任命されてしまった。

    アルマジロのジョンとはいつも一緒。たまに酷い悪夢を見て寝不足になるのが最近の悩み


    〇ロナルド

    突然ドラルクの前に現れた謎の吸血鬼コンビの片割れ。

    日光やにんにく、そして銀とあらゆる弱点が通用しない恐るべき吸血鬼だが何故かセロリが苦手。

    吸血鬼としての能力は非常に優秀で、大抵の能力は使えるみたいだが、ここ一番の場面ではなぜか銃か拳を重用する癖がある。

    過去に致命的な失敗をしたとのことで表情が険しい。

    ドラルクの後先考えない行動によく口を出しがちで、特に夜の勤務時間時はヒナイチともどもひな鳥のようにドラルクについてまわる。

    ドラルクが就寝中などにヒナイチとふらっと出かけてはボロボロになって帰ってくることがある。しかし何をしているのか絶対に話してくれない。


    〇ヒナイチ

    ドラルクの前に現れた吸血コンビの二人目。

    ロナルド程は弱点に耐性を持っておらず、特に日の光に弱い。

    日光に関しては「素質が無いのに無理やり転化した代償」とのことで、髪の赤色も若干濁ってしまっている。

    代わりに夜の闇において彼女を捕まえられるものはいないほど俊敏であり、また二刀流の達人でもある。

    ロナルドとは兄妹のように仲が良いが別に実の兄妹でもなければ恋人とかでもないらしい。

    たまにロナルドともども泣きだしそうな顔でドラルクを見ている時がある。

  • 2二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:13:20

    〇半田
    吸対所属のエース。とにかく仕事ができるのだが、真面目過ぎて余裕がない所がある。
    同じダンピールで先輩にあたるドラルクには懐いているようだ。
    新たに表れた吸血鬼コンビには大いに警戒しているのだが、なぜか軽口をたたきやすく内心ホッとしている。なぜだろう?

    〇ヒヨシ
    レッドバレットの異名を持つ腕利きのハンター。妹が一人いる。
    無類の女好きだが過去に盛大にやらかしたこともあり、ある程度自制している。
    最近現れた吸血鬼が自分に似ているのが妙に気になる。あの半分でも身長があればな……。

    〇ミカエラ
    吸対所属のエースその2であり、人間。半田の先輩筋にあたり、弟が一人いる。
    きっちりと制服を着こなし真面目に職務に当たっているが、最近現れた吸血鬼がその事に茶々を入れてくるので困惑している。
    何が問題なのだ!

    〇ケン
    突然ハンターギルドに現れ、ハンターをやりたいと言い出した謎の吸血鬼。
    催眠と結界の二重使用という極めて高度な技術を持つ。ロナルドとヒナイチは以前からの知り合いのようで、たまに共同で戦ったりもしている。
    何故か吸対所属のミカエラをよく茶化す。

    〇ディック
    「揺らぐ影」の二つ名を持つ古き血の吸血鬼。
    ロナルドとヒナイチがピンチになるとどこからともなく現れ、変身能力で場をかき回して去っていくタ〇シード仮面的存在。
    2人に協力するのは何か目的があるようだ。以前、息子がいたらしい。

    〇カズサ
    神奈川県警吸血鬼対策部本部長。
    人員不足だった新横吸対の為に、渋るイギリス吸対から人材を引っ張ってきた人。
    人員の一人はクソ雑魚ダンピールおじさんだったが十分働いてくれるのでオッケー。
    (ヒナイチを見て)おや、そこの吸血鬼のお嬢さん、オレの顔に見覚えがあるのかい?

  • 3二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:14:25

    〇ジョン

    ドラルクと永遠を誓う愛すべき〇。


    最近嫌な夢を見るんだヌ。黒い何かがドラルクさまに襲い掛かるんだヌ。

    そして、まるで存在をすする様にドラルクさまが消えていくんだヌ。


    ヌンは何もできなかったヌ。

    見ることしかできなくて、そしてヌンの体もぼろぼろと塵になっていくんだヌ。

    ……夢はいつもそこで終わりヌ。



    基礎ルール

    ・御真祖とフクマさんが存在していない

    ・そもそも竜の一族が存在していない。ノースディンは存在している。ドラウスたちは人間としてなら存在しているかもしれない

    ・記憶の持ち越しは元から吸血鬼か人→吸血鬼のみ。記憶のない吸血鬼もいる

    ・記憶を持ち越した者は、家族との血縁関係や友人関係がなかった事になる。

    ・吸血鬼が人間かダンピールになっている場合は確定で「何か」があった。

    ・本編で複数能力持ちだった吸血鬼のうち何人かは一部の能力が消えている場合がある(例、イシカナがタピオカの能力しか持っていない)

    ・一部の人間にもうっすらと記憶の残滓が残っている場合があるが夢のようにおぼろげ。

    ・存在が丸々消えている吸血鬼もいる(例、へんな)

    ・ロナルドヒナイチは頻繁に「何か」と戦っている


    ・「それ」は竜の臭いに惹かれている


    初代スレ

    ここだけ|あにまん掲示板ロナルドとヒナイチが吸血鬼の世界〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。以前は吸対のカナリアとして活…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:15:43

    前回のあらすじ。
    心霊現象(バケモン)には変態(バケモン)をぶつけるんだよ!!!

  • 5二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:17:35

    病院とは、生死の境に最も近い場所の一つではないだろうか。

    時にそこは誕生を祝い、時にそこは生還を祝い、そして、人知れず人生の幕を下ろす場所でもある。
    ゆえに、病院という場には潜在的な畏れがある。
    病気や怪我を直すという現実的で前向きな理由が頭で分かっていたとしても、ここにいる限り死が近いのではないか、家に帰れないのではないか、という本能的な畏れが。

    だからこそ病院には怪談が切っても切り離せない。
    たとえ実際の病院が明るく、心霊とは無縁の雰囲気であったとしても、うっすらとした人々の死への不安が積み重なり、自然と話がある事無い事盛られてしまったりもするのである。

    まぁそんな不安、吸血鬼であれば関係などないのだけども。


    「いだだ……」「ヌー……」

    ドラルクとジョンが目を覚ます。痛む体を起こすと、そこは見知らぬ場所。
    なにかの応接間のようだった。高価そうなソファや厚みのある木材で作られた上等な机が置かれている。

    「うう……」
    ドラルクが地面を見ると、先ほど確保した透がうつぶせに倒れていた。
    辺りを見回しても、他には誰もいない。

    「あれ、君だけ?……仕方ない。透君、起きなさい」
    ドラルクは透の体をゆさゆさと揺らす、透は意識を失っているだけで、特にけがはなさそうだ。

    「透君、透くーん」「ヌヌヌヌーン!」
    ドラルクとジョンが透をぺちぺちとはたいていく。
    早く起きないかなあと、気をもんでいると、ドラルクは真横に何かがユラユラと揺れているのに気が付いた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:18:47

    「?」
    ドラルクは何の気なしに、横をちらっとだけ覗く。


    薄汚い白衣を着た男が、首をロープで吊ってユラユラと揺れている。


    「なかなか起きないねえ、ジョン」「ヌー……」
    ドラルクはそのまま透を起こすことに集中する。そして芝居がかった口調で一つ提案をした。
    「よし、透君の口の中にあとでロナルド君に仕掛けようと思っていたこの特製ハバネロを突っ込んであげよう」
    「やめて!!今起きるから待って!!」「なんだつまらない、あと十分寝ててよかったんだぞ」
    「それやったらハバネロ入れるんだろヤだよ!!」

    ドラルクは透の反応に気楽に笑いながら透を立たせる。
    「さて、それじゃあロナルド君やヒナイチ君たちを探しに行こうか」「ヌー!」
    「え、もう行くの?」「善は急げだとっとと行こう」
    「別に押さなくても歩くんだけど」

    透が渋々ドラルクの指示に従って扉を開けて外に出る。そしてそのままジョンとドラルクも続く。
    最後に扉に出たドラルクはジョンを透に渡すと、両手で丁寧に扉を閉める。

    扉を閉める直前、扉の隙間から少しだけ正面が見える。

    天井から吊るされた男は、真っ暗に陥没した両目をドラルクにじっと向けていた。




    「あいたぁ……、何だったんですかアレ……」
    サンズが半泣きで起き上がる。謎の草刈り鎌の怪物タ〇ラントに追われ、誰かに助けを求めようとしても全員で逃げる羽目になるという散々具合だった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:20:17

    「っていうか、さっきぶつかった人たちは!?」
    サンズはキョロキョロとあたりを見回す。誰もいないし、おまけにサンズの見覚えのない通路である。

    「あれ?もしかしてサンズちゃんこれ一人って奴ですか」

    「エエ~~~~!!!」
    サンズは流石に泣きたかった。というか泣いた。あれだけの恐怖体験の後でボッチは辛い。

    「もう流石に帰っていいですよね……、でも私今どこにいるんだろう」
    地面に座り込んだまま途方に暮れるサンズ。
    しかし、救いの女神は意外と身近な場所にいた。

    ドンドン

    どこからともなく何かを叩く音が聞こえる。
    「ンナァ!?」
    サンズは飛び上がるがどこから音が聞こえるのかが分からない。

    「ど、どこ?どこ?まさかポルターガイス……」「チン!!!!!」
    その瞬間、サンズは床板ごと尻から打ち上げられた。サンズはロケットのごとく放射状に軌跡を描くとそのままドテっと顔面から床に着地をする、

    「フンニャアアアアア!!今度は一体なんですかなんで床下から衝撃が……ってあれえ!?」
    「ふう、やっと床下から出られた。……って、あなたは、サンズにゃん!?」
    床下からひょっこりと現れたのは少し埃をかぶったヒナイチであった。




    「いっつ……」
    ロナルドが衝撃でくらくらする頭を抱えながら目を開けると、そこは先ほど下半身透明達といた場所とはまるで違う場所だった。見たところ、元ナースルームだろうか。

  • 8二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:21:11

    床を見ると、ロナルドの他には半田とカメ谷が転がっている。ロナルドは慌てて二人を起こしにかかった。

    「おい、大丈夫かカメ谷!半田!」
    「む、ここは……?」「なんかぐわんぐわんする」
    二人とも大した怪我はないようで、ロナルドはホッとする。
    「よくわかんねーけど、さっきの場所から移動しちまったみたいなんだ。ナースルームじゃないか、ここ」

    三人が立ち上がると、改めてお互いの状況確認をする。
    「俺達以外の他の皆は?半田、お前確かマイ……ミカエラと一緒にいたよな?」
    「確かに途中までは行動していたが、さっきの衝撃ではぐれてしまったようだ」
    「じゃあ、吸血鬼の気配はしないのか!?ヒナイチだったらわかるだろ!」「待ってろ急かすなバカめ!!」

    半田が鼻を何度かさすって確かめる。
    「気配、はするのだが霧のように他の臭いも蔓延していてわかりづらい、……ヒナイチは少し離れた場所にいるな」
    「ドラルクさんたちも同じように離れちゃったのかな」「その可能性は高いな」

    「よし、それじゃあ急いで合流しよう。別れたままだと危険だ!」
    「危険だ!じゃないわ少し落ち着かんかバカルド!」「焦るのは分かるけど、まだここの状況を十分に確認してから行動しようぜ」
    「ご、ごめん」
    ロナルドは二人の制止で少し思考を落ち着かせる。分断されたことで頭がいっぱいになってしまい、浅慮な行動をとるところだった。

    「まず、分断前のお互いの情報を共有するべきだ。俺とミカエラ以外にも一般人や野球拳がいたし、奴らの安否も気にしなければ」
    半田が情報共有の音頭を取ろうとすると、会話はそこで別の音に遮られる。

    プルルルルルル、プルルルルルルル

    放置されていた古びた据え置きの電話が、鳴っている。


  • 9二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:22:09

    ミカエラと野球拳大好きは、トイレの個室の中で、二人そろって息をひそめていた。

    ズル、ズル、と足を引きずったそれが、二人がいる周辺一帯を探し回って徘徊している。
    だが、知能はそこまで高くはないらしく個室の扉を開こうとする動作までは見られない。
    それに少しだけ安堵するが、だからといって何も解決していない現状に二人は嘆息する。
    ミカエラの剣術を使えば無理やり場を切り開くことはできる。ただの下等吸血鬼であればそれを選択したはずだ。

    だが、現代的な価値観で生きるミカエラにとって、アレを切るのは確かな躊躇いがあった。
    (なんて卑劣な……!)

    野球拳は最近はほぼ見なくなった過去の遺物を見る。
    できればそのまま見納めたままでいたかったのだが、この怪異の主はそれを許してはくれないらしい。
    (いくらなんでも趣味悪いにも程があるだろ)


    (死体のグールなんてさあ……!)


    続く

  • 10二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 22:24:35

    ギャグからシリアスへの急転直下ふたたび……!!
    そして首吊り4体を華麗にスルーするドラ公と〇

  • 11二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 23:08:13

    ガチホラーの予感

  • 12二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 23:24:56

    乙です!
    前スレのあらすじに吹いたw
    とりあえず誰一人一人にならなくて良かったけど、また分断されたか…。その上怪異がガチヤバすぎる…。なにが怖いって、あっちゃんだけなら起こらなそうなことがバンバン起こってること。怪異側のボス、前の世界にはいなかった奴っぽいのが怖い。

  • 13二次元好きの匿名さん22/06/03(金) 23:41:37

    普通にSAN値チェック必須なホラー来てしまってガクブルしてる
    みんな無事でいてくれ……

  • 14二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 08:50:18

    ヒナとサンズにゃんの組み合わせも好きなのでこれは楽しみ

  • 15二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 10:08:38

    突然の本格ホラー!!!
    首吊り死体に動じないだけでなく透のフォローまでするドラドラちゃんマジ畏怖 ダンピールだけど
    死体製グールとなるとグールメイカーを思い出したりするけどどういうことか…

  • 16二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 19:30:22

    ガチやば案件ですやん...
    吸死ホラー好きなのでこの展開にテンションが高くなってますがどうやらガチやばっぽそうでもあるのでとりあえず続き楽しみにしてます。

  • 17二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 22:57:07

    サンズが持っていた懐中電灯で廊下一帯を照らす。
    ……こころなしか、埃臭さと建築物の古さがさっきより協調されている気がする。

    「ここは一般病室でいいんだろうか」
    ヒナイチがきょろきょろと周辺を見回す。吸血鬼は薄暗い所でも目が効くので、こういう時は便利だ。
    「そうだと思うんですけど、さっきサンズちゃんがいた病室のところよりボロッちいですね。築が十年くらい加算されたみたい。ところで床下」
    「もしかして床下って私の事か?」「他に誰がいると思ってやがるんですか」
    「私にはヒナイチと言う名前が」
    「そんなこと知ってますよ!サンズちゃんが何回週バンの特集記事を読んだと思ってやがりますか!!それはそれとしてサンズちゃんの個人的悔しい気持ちと尻が痛かったのとなんか語感が妙にしっくりくるので床下です!」
    「半分くらい私と関係ない理由で納得いかないんだが!?」「初対面でサンズニャン呼びしてくる奴に言われたかねーです!!」

    二人がかしましく騒いでいると、だんだんと怖さが紛れてきてお互いに余裕が出てくる。
    サンズ的にはロナルドさんじゃないのが残念だが、それでも一人じゃないのは正直言ってめちゃくちゃありがたかった。
    とにかく無言で静まり返りたくないので、話を続けるために適当な話題を探す。
    ……ずっと気になっていたことを、ずばり今聞いてみてしまおうか。

    「床下は、なんでロナルドさんと一緒に行動してるんです?」
    サンズがさりげなさを装いながらヒナイチに訊ねる。返事によっては大ダメージ確定だが、それでも聞かないわけにはいかなかった。
    「ロナルド?ロナルドとは、共闘しているんだ」
    「共闘~?随分大げさな言葉が出てきましたね。RPGの大ボスでも倒すんですか?」
    「うん、それが一番近い」
    「……」
    からかい半分で言った言葉が素直に同意されてしまい、サンズは逆に言葉に詰まってしまった。

    「そんなやばい奴、本当にいるんですか?」
    「正直なところ、退治の仕方が分からないんだ。弱体化の手段はあるが、いざ「アレ」に本気を出されたら私だってロナルドだってどこまで抵抗できるか分からない。前は手も足も出なかったから」
    「吸血鬼なんですよね?いっぱい弱点あるはずじゃないですか。日の光に当てるとかじゃ駄目なんですか?」

  • 18二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 22:58:11

    「前は日の光には頼れなかったんだ。そもそも、弱点だって利くのか……」
    ヒナイチは落ち込んだように顔をうつむく。よほどその敵にトラウマがあるらしい。

    しかし、サンズはあえて喝を入れた。
    「なんですかそのよわっよわの弱腰ペダルは!そんなんじゃ勝てるもんも勝てなくなりますよ!!」

    「どれだけ強大な敵であっても目的の為なら突っ走るのみです!サンズちゃんはたとえ勝てないと確信していても戦いを挑みます!!万が一、億が一があるのであればサンズちゃんは挑みますとも!」
    サンズの道には困難が多い。
    ※クm@がどれだけ恐ろしく強大であり、一度も勝てたことは無かったとしても、ロナルドに近づくためであればサンズは何度だって戦いを挑んでいた。
    奴関係なくたって同居人のダンピールとか毎回ロナルド関連の濃い記事を書く週刊記者とか、ただでさえライバル?は多いのだ。
    ちょっとくらいの困難で足踏みなどしていられない。

    それを聞いていたヒナイチは少しの間呆気にとられ、そして軽く笑う。
    「そうだな、怖がってばかりもいられないな」

    ほんの少し空気が軽やかになった所で、ヒナイチたちが歩いている廊下のはるか前方に何かのシルエットが見える。
    ヒナイチはサンズの前に腕をつき出して制止すると、ゆっくりとシルエットの方に向かっていく。
    さっきまで、あんなものいただろうか。

    近づいていくと、影色の輪郭に徐々にピントがあっていく。
    廊下のど真ん中で、男のシルエットのようなものが座り込んでいるように見えた。

    耳をよく澄ますと、何かの話し声が聞こえる。

    「ダメよ、リンダ。私のロビンを取らないで」
    「違うのメイ、これは誤解よ。私と彼はそんな関係じゃない」
    「何を世迷言を言ってるの!あなたはいつもそう!いつも貞淑でお淑やかな顔をしているけど、実際は男をたぶらかす魔性の女よ!この泥棒!」

    以上が、全て一人の男性の声による一人芝居である。

  • 19二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 22:59:09

    「なに、この、聞くだけで胃もたれしてくるドロドロ愛憎劇」
    サンズが小さく困惑した声をあげる。
    「なんでここにいるんだ、ジェントルおままごと」「知ってるんですか!?」
    「ああ、この声と妙に込み入った設定は奴に間違いないはずだ」「込み入った設定もポイントなのかよ」
    ジェントルおままごとは以前のヒナイチが退治した吸血鬼の一人だ。
    噛みつかれれば身体が小さくなってしまい、強制的に泥沼おままごとに参加させられてしまう。

    「だが、きちんと事情を話せば話は分かるはず……」
    ヒナイチがおままごとに話しかけるために声を上げようとする。

    だが、すぐに異常に気が付き、やめた。

    座り込んだ男の後ろ姿のように見えたシルエットは、実態が無い。
    まるで空間に落とされた薄墨のようなもやの塊であった。
    そして、以前ヒナイチがおままごとによって紹介されたウサギやくまの人形たちはどこにもない。

    おままごとを演じているのは、すべて小さくなってしまった本物の人間。

    ハンドメイドで作られたお洋服を着せられ、おめかしされた、おそらく、肝試しに来ていた若者たち。

    黒いもやは一つの人形、もとい、人間を握る。
    「あんたなんか、あんたなんか」

    そして、小さな果物ナイフを人形に握らせるふりをすると、それを「リンダ」と呼ばれた少女の人形向かって矛先を向けた。

    「ここで、殺してやる……!」


  • 20二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 22:59:51

    プルルルルルル、プルルルルルルル

    放置されていた古びた据え置きの電話が鳴っている。
    ロナルドはカメ谷と半田の顔を見た。
    二人とも受話器を取る気があるらしく、電話を取ろうとする手を宙で泳がせている。

    「なあ、二人とも。俺が電話をとっていいか」
    そんな二人にロナルドは提案した。一応理由はある。
    「さっき、吸血鬼の催眠術の対抗の仕方のコツを掴んだんだ。もしこの電話が、声を聴いたら術にかかるタイプだったら、今の俺なら抵抗できると思う」
    「この場における責任者は俺だバカめ!やらせられるわけないだろう!と、言いたいが……催眠術に関しては確かに一利あるな」
    「私が受話器を取っては」「お前が一番ダメに決まってるだろう一般マスコミ!!」

    プルルルルルル、プルルルルルルル
    電話はずっと鳴り続けている。

    「それじゃ、取るぞ……?」
    ロナルドは本音ではめちゃくちゃ怖いのを我慢しながら、震える手で受話器を取り、そして耳につけた。
    何が聞こえてくるのか、じっと待つ。


    「え?」

    「どうした?」「ロナルドさん、何が聞こえましたか?」
    しかし、ロナルドはそのまま電話の内容をよく聞こうとして受話器を耳に押し付けているが、どうにも釈然としない様子だ。

  • 21二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:00:27

    「うーん?ダメだ、電話が切れた。ノイズが混じってて、内容も良く聞こえなかった」
    「少しでも情報はなかったのか?」「幽霊の声とか聞こえましたか!?」
    半田とカメ谷が前のめりになって情報を聞き出してくる。
    しかし、ロナルドは微妙な表情で返事をした。
    「悪い、そこまでは聞こえなかった。本当にノイズだったから内容もなにもなくて」
    カメ谷があからさまにがっかりした様子になる。それを見て、ロナルドは苦笑いした。

    「ただのこけおどしだったか、くだらん!」
    「そうだな。……なあ、そろそろこのナースルームを出て皆を探そうぜ」
    二人はロナルドの提案に同意する。
    三人は別の部屋に向かう為、ナースルーム脇の扉を開けて次々に外へ出ていった。

    (……)
    最後に部屋から出たロナルドは、ナースルームの外から、延々と鳴っていた件の電話を見る。
    そして、さっきの電話の内容を噛みしめた。

    『ロナルドさん、他の方になるべく気づかれないように聞いてください』


    『ここに、××××がいますよ』


    ヌヌヌ(つづく)

  • 22二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:04:40

    弱腰ペダルwwと思ったら最後……シリアスのかほりが……
    もしかして電話の相手フクマさん……? いや、フクマさんは今の世界線にはいないハズ、となるとディック……?

  • 23二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 00:05:31

    おままごと怖い…怖くない…?

  • 24二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 09:05:24

    >>23

    怖い…子供の遊び全般は怪談になると怖いよね

  • 25二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 19:53:53

    いちお保守

  • 26二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 22:37:14

    腐臭と独特の土臭さをまき散らしながら、それは歩き続けている。
    服は汚水が染み込んだような汚れがひどく目立つが、現代の日本人が着るような一般的な服装だ。
    病気などが原因ではなく、まるでさっきまで普通に生きていた人間が急に亡くなり、起き上がったような印象を受ける。

    野球拳とミカエラは息を殺しながら、廊下を忍び歩きをしていた。
    知能が高くないとはいえ、いつ見つかるのかは分からない。気分はさながらホラーもののスニーキングゲームで、心臓が嫌な意味で高鳴っていた。
    野球拳は歩いている途中で適当な部屋の中を覗く。誰もいないことをよくよく確認すると、ミカエラの肩を軽く叩いて部屋の中に誘導した。
    二人がするりと部屋に入り込むと、そこでようやく息を吐く。

    「ハァーーー、あいつらいろんな所徘徊しすぎだろ」
    「どうしてこんなことに……」
    ミカエラは体育座りで項垂れる。

    「透とも結局会えずじまいだし、グールは出るし、この馬鹿と二人きりで逃避行だし」「お前隣に俺がいるのによくもまあ堂々とバカ言うよな」
    「黙れ!野球拳で服を脱がす吸血鬼が馬鹿以外の何がある!!」「昔だったら言い返せたが今は言い返せねえのが納得いかねえな!」
    そういえば、最近は弟(元)の着衣姿にも慣れてしまった。無くなったら無くなったで少し寂しい気もするのが魅惑のあの黒い三角形である。
    嘘、別に寂しくない。秋口に鳥肌立てながらほぼ全裸で闊歩されるくらいなら今のままでいい。

    そんなことより今ミカエラの口から気になるワードが出た。
    「というかお前、透探してたの?」「賢弟の事を呼び捨てにするな!そしてなぜ貴様が知っている」
    「名前は別にいいだろ、それ以外呼びようがねえし!知り合いかどうかで言えば俺が一方的に知ってるだけ」
    「ストーカー容疑で逮捕するぞ貴様!!」「それだけの容疑で逮捕されたらたまらんわ!というかお前そんなに騒ぐと……」

    ズル、ズル、と扉の外側からこちらに向かって近づいてくる気配がする。
    野球拳はミカエラの口をふさぐと、そのまま再び息をひそめる。外側の気配は、ただ歩いていただけのようでそのまま通り過ぎてしまった。

    「……本当になんなんだあのグールたちは」
    ミカエラが小さくつぶやく。下等吸血鬼としての土と微生物で構成されたグールならばミカエラも見慣れたものである。

  • 27二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 22:38:31

    だが、あのような人間を使ったグールなどこの新横浜で見たこと無かった。
    「服装からして一般人、おまけに一人ならまだしも複数人。だがここ最近の新横浜でそのような民間の行方不明事件は聞いたことはない」

    「一体どこから現れたんだ、あの死体は」
    現代の日本において、死体の入手というのはかなり困難だ。日本の葬儀方法は99%が火葬であり、死体が出ればしかるべき手続きによってすみやかに荼毘に付される。
    土葬も日本の狭い土壌では本当に限られた土地でしか行われず、ましてや新横浜近辺にそのような特殊な葬儀方法を選択している場所は無い。
    おまけにグールたちの服装はごく普通の私服なのだ。
    入院服ですらないということは、病院で生い先短い人間を死後何らかの方法で強奪したとかではなく、本当にごく普通に生きていた人間を殺害し、そしてグール化させたと考えるのが自然だった。
    あと考えられる可能性は自殺幇助によって集団自殺したものを吸血鬼が使った等だが、そのような集団失踪事件があればもう少し騒ぎになっているはずだ。

    だが、野球拳にはその出所に心当たりがあった。

    「あれはな、食い残しだ」

    「くい……?」
    ミカエラがその凄まじく嫌な予感がする言葉を深く探ろうとするが、それはできなかった。

    ダンッ!!ダンッ!!!
    二人のいる部屋の扉を激しくグールが叩く。音からして、複数人が集まっているらしい。
    鍵をかけてはいるが、何時扉を突破されるのか分からない。

    「やるしかあるまいか……!」
    ミカエラは覚悟を決めて刀を構える。
    人を切るのに抵抗はあるが、ここで躊躇をしている余裕などない。
    だが、野球拳はミカエラの肩を掴むとチッチッチと指を振った。

    「いや、お前がこれからやるのは野球拳だ」「は?」
    野球拳は大声で音頭をとる。これからの事も考え、一層気合をいれた。

  • 28二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 22:39:23

    「アウト!セーフ!よよいのよい!!」「なぁっ!?」
    ミカエラの体が勝手にジャンケンを強制され、野球拳を中心にバリアーが張られる。
    それにより扉の外にいるグールたちは強制的にバリアーによって押し出され、吹っ飛んでいった。
    野球拳は扉を素早く開けると、上着を脱ぐミカエラをひっつかみすたこらサッサと逃げ出す。

    「三十六計逃げるが何とかよ!!この勢いで透探すぞ!」
    「くっ、やり方が釈然としないが仕方ない!」

    最後の兄弟を探して、二人は病院を駆け抜けていく。





    そして噂の末弟である。
    ドラルク、ジョン、透の二人と一匹組は、戦闘能力が無いながらドラルクの察知能力を使い、上手くグールたちをやり過ごしていた。

    「まったく何なんだあのグール。どっか適当なところでTウイルスでもばらまかれたのか?」
    「でもするする回避してくの凄いな、吸対のおっさん」「オッサ……、ドラルク!私の名前はドラルク!」「ヌヌヌヌヌヌ!」
    確かに年齢的にはおっさんなのだがドラちゃん的には甘んじて受け入れたくはない。なぜならばドラルクの心はいつも若くてピチピチ、かわいいかわいいドラちゃんなのだから。……ピチピチって死語じゃないよね?

    「じゃあ、ドラルク」「敬称略なのが気になるがまあよかろう。なんだい透君」
    「今、他の奴ら探してるんだよな?」「そうなるね、ここから近そうなのは……、吸血鬼だと野球拳かな。ヒナイチ君とロナルド君からはちょっと距離がある」
    それを聞いて、透がおずおずと提案する。

    「あの、無理な事言ってるのは分かってるんだけどさ。どうしても近くに寄りたい場所があるんだけど、ちょっと寄っちゃダメ?」
    「うん?合流してからじゃなければダメなのかい?」
    「ダメっていうか、大人数はたぶん驚かせちゃうから、あんまりやりたくない」

  • 29二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 22:40:19

    「ふーん」「ダメならダメで良いんだけど……」
    ドラルクは今の安全性とか状況を鑑みつつ、しかしすぐに決める。

    「ジョン、行ってみようか」「ヌ!?」
    面白い事、優先で。



    透が寄りたい場所は、小児科病棟であった。
    入り口には子供が遊ぶためのプレイルームがあり、かつて子供たちを喜ばせたおもちゃの残骸が物悲しく転がっている。
    さらに奥に進むと、子供の患者が入院するための病室が並んであり、透はどんどん奥の方に進んでいく。

    そして、透は一つの個室の前で立ち止まる。いわゆる、一人部屋というやつだ。

    「ここかい、透君」
    「うん。……お願いなんだけど、これからちょっとショッキングなもの見せるんだけどさ、驚かないでくれると助かる」
    「一応善処はするが」「ヌーン」「意識だけでもしてくれるならそれでいいよ」

    透はドアをノックした。
    「あっちゃん、入るよー?」
    透はスライドドアを開ける。
    ドラルクの鼻に、ほんの少しの腐敗臭と、吸血鬼の気配臭のようなものを感じ取る。
    ドラルクは身構えながら、透に続いて部屋に入り、それを見た。

    「これは」
    ドラルクは目を見開く。

  • 30二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 22:40:47

    まずパッと見た印象は、何かの集合体。まるで生クリームをこんもりと持ったようなシルエット。
    そして細かく要素を捕らえていくと、複数の顔や体のパーツがまるでスライムのように溶けて、くっ付いているのが分かる。
    確かにこれを事前告知なしで見たら驚くだろう。まるでホラー映画のクリーチャーと言っても差し支えない風貌なのだから。

    だが、それよりもドラルクに違和感があったのは、足だ。
    その霊の集合体は、ベッドや床に深く根付き、禍々しく癒着している。
    足元はどす黒く濁っていて、そこからは特に強い腐敗臭をドラルクは感じ取っていた。
    『アレ』の気配だ。

    『あそ、ぼ?』
    霊の集合体から、声が聞こえる。声は想像していたよりも幼くあどけなかった。

    「この子、ここから動けないんだ」
    透がつぶやいた。

    「……地縛霊になっているのか」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 31二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 23:05:36

    あー、変態と仁義なき陣地争いしてたのは動けないあっちゃんの為か…動けなくなってるのも何かのバグ?それにグールの出どころも気になる
    続き楽しみにしてます

  • 32二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 23:49:03

    野球拳はやはり頼りになる 野球拳だけど
    あっちゃんは病室に縛り付けられてるのか…自由に歩き回るあっちゃんを知ってるとなんだか可哀想さが増すな…

  • 33二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 02:09:04

    食い残しってことは元世界とつながりが少し残ってるのか…? ジェントルおままごとも食残されたのかな、アレに。 なんかここにいるの汚染もされてそうだけとど。

  • 34二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 12:24:29

    グール怖いと思いつつ、ホラー文脈なら本来のグールはこっちだよな…

  • 35二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 16:35:39

    乙です!
    「食い残し」があるってことは、今9人と1匹がいるのは元の世界……?グールと言えばエルダーの家系だけど、そういえば人狼サテツがマナー君について声を詰まらせていたような……?
    トオル君はやはりあっちゃんのために怪異現象頑張ってたのか……。足だけ取り込まれて本人の意思疎通も元のようにできるパターンは初めてだな。大分特殊な吸血鬼だから全部は取り込めなかったってことか……?

  • 36二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:06:20

    あちこちに「アレ」の気配が……

  • 37二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:18:52

    「どうしたんですか、ロナルドさん」
    カメ谷がぼうっとした様子のロナルドに声をかける。
    「なに間抜けな顔をして突っ立ってるのだ。気を引き締めねば足元すくわれるぞ」

    「ごめん、二人とも」
    ロナルドは素直に二人に謝る。
    今、三人は半田の気配察知を頼りにヒナイチや野球拳を探していた。
    だが気配を頼りに道を進めど、二人にたどり着くことができない。
    廊下の果てになかなかたどり着かなかったり、階段を下りても同じ階に戻ってきたり、まるで何かに阻害されているかのようだった。

    「海外にあった増築し続ける家みたいですね」
    カメ谷はこれはこれでネタとして美味しいらしく、シャッターを切り続ける。
    「貴様、呑気にも程がないか」
    一方の半田はカメ谷の神経の太さに呆れ気味だ。

    「二人は元から知り合いだったのか?」
    ロナルドが内心気になっていたことを思い切って尋ねる。
    「今の様子を見てなんで知り合いだと思えたんだ」「私と半田は高校時代の同級生なんですよ」
    「……といっても卒業後は疎遠だったがな」「最近は仕事で絡みも増えましたけどね」
    「あっ、そうなんだ」
    自分がいない場合の二人もてっきり普通に友達をやっているのかと思っていたが、こちらの半田とカメ谷は少し距離があるらしい。
    元の仲の良さを知っているので、すこし寂しい。

    「そういうロナルドさんは一体どこのご出身なんですか?」「えっ」
    「どうしてヒナイチさんと一緒に吸対に協力してるんですか?レッドバレットとの関係は?」
    「ちょ、まっ」「突如現れた吸血鬼コンビ、うちの読者の注目度も高いんですよー!ぜひ聞かせてください!!」
    カメ谷が録音用のマイクをもってぐいぐいとロナルドに迫る。このハングリー精神あふれる記者根性はロナルドも知っているカメ谷そのものなのでそういう点では安心するかもしれない。
    普段だったら流されて質問にバカ正直に答えてしまいそうなロナルドだが、こればかりは答えるわけにはいかない。
    「えーと、その、その……」

  • 38二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:20:28

    (どうしよう!下手に事実を混ぜた嘘とか言ってまた兄貴みたいなことになったらやばいし、なんか適当なそれっぽい嘘を……!)
    そしてロナルドは火事場の馬鹿力で閃いた

    「俺とヒナイチはルーマニアに長らく強大で邪悪な吸血鬼によって封印されていたんだが、ドラ公の爺さんの協力により封印を解かれ、その恩返しとしてドラ公に渋々ながら協力してるんだ」

    嘘である。

    「なっ、そんなヒストリーが」「まてロナルド、お前レッドバレットと兄弟だとか言ってなかったか?」
    「(矛盾点を読者に指摘された作者の顔をするロナルド)」

    「ああ、兄貴とは確かに兄弟だぜ。だが子供の頃に俺が吸血鬼にさせられて封印されてしまって、そのまま会えずじまいだったんだ」

    真っ赤な嘘である。

    「レッドバレットさんにそんな苦労話が……!」「まて、なんで新横浜からルーマニアへ移動したんだ。というか封印する理由はなんだ」
    「……」

    「半田、知ってるか。横浜市とルーマニアには姉妹都市協定してる都市がある(ルーマニアのコンスタンツァ)」
    「そのつながりだけで全部ごまかせると思ってるのかバカめ!バカめ!ヴァカめッ!!!」「ピャーーー!!!」
    「で、実際のところはどうなんですかロナルドさん」「ウエーーーン全部嘘だって思われてる!!!」
    「誰が引っかかるかあんな露骨なデタラメ!!とっとと本当の事を話さんか!!このセロリ投げるぞ!!!」「ミ゜ーーーーーー!!!いやでも話すのは無理!無理だから!!」
    半田はじりじりと追いつめる姿勢を取るが、ロナルドもそれ以上聞かれまいと必死だ。
    二人の泥沼ぐあいをカメ谷は眺めつつも、穏やかな語り口で話はじめた。

    「でも私がロナルドさんの事を知りたいのは、取材とかそんなに関係ないんですよ。私の個人的な興味もあるんです」
    「カメ谷?」
    「以前に一度、透明な巨大吸血鬼相手に戦ったことがあるじゃないですか、ロナルドさん」
    「ああ、そういえばそんなことも」
    確かヒナイチと一緒に共闘した時の事だろうか。

  • 39二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:21:32

    「あの時の戦う姿に魅かれたんですよね。被写体として魅せられたというか」
    カメ谷は、少し遠くを見るような眼をしていた。

    「そういう相手の事ならもっと知りたくなるじゃないですか。要するにミーハーって奴なんですよ」
    「カメ谷……!」「だが知ったことは全部記事にするのだろう?」

    「もちろん!特集組んで全部丸っと掲載しますとも!!!」
    「やっぱダメだーー!!!!絶対話さねえ!!!」「なんでですか!!ちょっと週バン砲撃つだけじゃないですか!!」「もっとダメだ!!!」
    どんなに良い話っぽい雰囲気を出していたとしても、やはりこの週バン記者は根っからの地獄のマスコミなのであった。

    それにしても、
    (やっぱり、おかしいところはないよな)


    「こっちは行き止まりのようだな」
    半田が懐中電灯で道の先を照らす。さっきまで道が続いていたように見えた廊下はぷっつりと途切れていた。

    「またかよ。こうなったら暴力で解決するか?」「黙れその握りこぶしをおろせ脳筋バカ一人解体業者。……っあ」
    半田が握りこぶしを作るロナルドに向かって指を刺そうとすると、手が滑って半田の懐中電灯が地面に落ちてしまう。
    懐中電灯はそのままコロコロ転がってロナルドの足元で止まった。
    「おっと!半田、懐中電灯がこっちに……」

    ロナルドはそのまま懐中電灯を拾うと、半田とカメ谷に向かって懐中電灯の光を向けた。

    「こっちに向かって光を向けるなバカルド!」「ロナルドさーん、眩しいです」

    「悪い、半田がこっちまで懐中電灯を取りに来てくれ」
    「お前が俺に渡しにこんか!」
    だが半田は文句を言いつつもロナルドの方へと懐中電灯を取りに来てくれる。

  • 40二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:23:02

    ロナルドはそれに安堵し、そして、近寄ってきた半田の腕を一気に引っ張った。
    「なっ!?」
    驚く半田を自分の背後の方に放ると、ロナルドは懐から銃を取り出し、そして引き金を引く。

    バァンッ!!

    銃声が響いた。
    半田は、はじめは自分が撃たれたのだと思った。だが、何時まで経っても痛みは無い。では撃たれたのは……。


    ロナルドの銃口の先にいたのは、カメ谷だった。

    カメ谷の胸元から、どす黒い血液がこぼれだす。

    「なに、なんで……?」
    それはカメ谷そっくりの声で痛ましい声を紡ぎだす。

    「芝居を止めろ」
    ロナルドの声が、かすかに震えている。

    「分かってるんだよ、擬態してるのは」
    ロナルドが手持ちの懐中電灯の光を全てカメ谷だったものに向ける。
    それによって床に濃い影が落とされた。その影は人の形ではなく、巨大な蝶の芋虫と触腕を混ぜ合わせたよう怪物。

  • 41二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:23:26

    「……ぁzcvkop@」
    カメ谷そっくりのそれは、何語とも分からぬうめき声をあげる。
    ロナルドは今度は頭に向かって引き金を引いた。

    弾は見事に命中し、そしてカメ谷だった顔がひび割れていく。
    ひび割れた隙間から、ゴプリとヘドロのようなものが滲みだしていた。



    『ロナルドさん、他の方になるべく気づかれないように聞いてください』

    『ここに、ニセモノがいますよ』


    続く

  • 42122/06/06(月) 23:33:58

    えらい難産でした。説明不足あったらすいません。
    ルーマニアと新横浜をなんとかこじつけられないかと調べたら丁度横浜市と姉妹都市があってよかったです。

  • 43二次元好きの匿名さん22/06/06(月) 23:50:06

    ロナルドに親友の顔撃たせるのマジ人の心案件
    芋虫って言われるともしや能力の出どころはへんな…?
    すごいホラーで固唾をのんで読み進めてしまいました
    今日も面白かったです!ありがとうございます!

  • 44二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 00:01:25

    まさかの展開……というかカメ谷のニセモノ、本人の芝居がうますぎる

  • 45二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 01:24:48

    モノホンのカメ谷が無事なのかどうなのか気になる
    ニセモノカメ谷だと全くわかってなかった…色々奪い返せるのかなぁ…。

  • 46二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 12:30:24

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 15:01:28

    乙です!
    まあ、ロナルドがらみの奇行をしない高校生半田ってカメ谷が絡みにいく理由が無きに等しいからね、高校デビューで核反応起こさなかった半田はただの優等生だからね。とはいえここのカメ谷は偽物だから真偽は微妙だけど。
    透明吸血鬼で思い出したけど、ヒマリちゃんの件とか書かれた週バンにあった見出しにも「透明吸血鬼再び」ってあったよな?でもトオルは今のところ人間のまま……う~ん……?
    カメ谷の言動を改めて注意深く見ても、おかしな所はみつからなかったから、マジで懐中電灯の光でできた影が人外なこと以外にヒント無かったんだな……。

  • 48二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 19:03:50

    >>47

    透明吸血鬼は半透明の能力を使っていたと思われる状態のアレが既出だから多分それのこと

    ロナルドがビルの屋上の水タンク投げつけてた話

  • 49二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:40:01

    果物ナイフを持たせた小さな人形は今にも「リンダ」を刺し殺してしまいそうな気迫があった。
    その人形が本当に人形であれば、不気味ではあれど少し入り込み過ぎたおままごととしてまだ見守れただろう。
    だが、あそこにある人形は全て吸血鬼の能力によって小さくなってしまった本物の人間である。

    あの尺度の人間に刃物が刺さってしまったら大惨事どころではない。
    ヒナイチは考える。ここで下手に止めたら逆に修羅場がエスカレートするかもしれない。
    なんとか収める方法を、そうヒナイチが考えていると自分のポケットに何かが入っていることに気が付いた。

    (これは確か……、あっ!?)
    形状で入っていたものが何か思いついて一瞬悲鳴をあげそうになる。しかし、根性で堪えた。
    なんでこれがここにあるんだ。できればすぐにでも捨ててしまいたい。

    だが、これは使えるのでは?
    「サンズニャン、頼みがあるんだが」
    「一体何ですか……、ええ?」
    ヒナイチの耳打ちにサンズが困惑する。できなくはないが、本当にそれが通用するのか?
    「じゃあ、頼んだ」「あっ、待ちやがれですよ!」
    しかし、ヒナイチは歩みを止めない

    「まってくれメイ!」
    ヒナイチは修羅場の泥沼劇に向かって声をあげた。
    手には何かを握り締め、堂々と前に出る。

    「誰?」
    人形を持った影がぐるりとこちらを向いたように見える。

    「どうして止めるの?」
    声は明らかに男性なのに、何故か女性のように聞こえる。役に入り込みすぎているからだと分かっていても怖さが募る。
    ヒナイチは握っていた手を開いて、影に見せた。

  • 50二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:40:56

    「……私も仲間に入れてくれないだろうか?」
    ヒナイチが持っていたものは、ロナルドが拾ってヒナイチを驚かせたあのペンギンのキーホルダー。

    (これはペンギンじゃないこれはペンギンじゃない黒い鳥黒い鳥黒い鳥)
    ヒナイチは握っているペンギンで軽い小芝居をはじめる。
    「私の名前はキャサリン、ビクターの妻だ」

    「ビクター……?」
    「忘れてしまったの?メイ」
    「ち、違うわ。ビクターを忘れるわけないじゃない」
    「なら、私の言う事も聞いてほしい。リンダに危険な事をしないであげてほしい」
    「でもそいつは泥棒なのよ!もう私許せない!」
    「だけど私もリンダを愛しているんだ!!」

    (で、あってたよな?)
    ヒナイチは必死に記憶の糸をたどる。随分前の出来事で記憶もあやふやだが、確かキャサリンもリンダを愛しているという恐ろしい4角関係だったはずだ。

    「うそ、キャサリンが、私を……!?」
    影がメイからリンダに人形を持ち替える。
    よし、この調子で物語に介入していけば軟着陸できるかもしれない。
    「そうだ。貴方からも何か言ってくれ!メリエンヌ!」
    「メリエンヌ!?」

    ヒナイチの後ろからしずしずともう一人の役者が追加される。

    「ど、どうもー、メリエンヌです……!」
    サンズが自信なさげに自前の人形を手に持ちおままごとの輪に加わる。

    だが、持っている人形が問題であった。
    サンズだってそう都合よく可愛い人形など持ってはいない。なのでメリエンヌとしてお出ししたのは普段使っているキーホルダーなのだが……。

  • 51二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:41:50

    『南無パンチ!南無パンチ!』

    それは、うごく!大仏君キーホルダーであった。
    (なんでよりにもよってロナルドと同じアレなキーホルダーを!)
    (うるせえバカ!そんな都合よく可愛い人形なんて持ってるわけねえだろっ!!人形があっただけ感謝してほしいですね!!)
    ちなみにサンズが大仏君キーホルダーを持っているのは単純に推しとお揃いにする為である(週バン情報)

    (と、とにかくこれでなんとか押し通すしかない!)(もーヤケクソだー!!)
    「メリエンヌ!よく来てくれたわ!あなたからもメイに言ってあげて」
    「あ、争いはよくないですよメイ」『南無キック!』

    (ど、どうだ……?)
    ヒナイチは恐る恐る影の方を見る。

    「メリ……、エンヌ……?」
    影はしばらく熟考するポーズをとる。

    「だけどメリエンヌ!私はその女のせいでロビンの心が離れてしまってるのよ!こんなの許せるわけないじゃない(おままごと続行)」
    (やったーーー!!)(勝訴!勝訴ですよ!!このまま続けましょう!)

    「その気持ちは分かります。ですが私だったらリンダを刺す前にロビンを手裏剣で張り付けにしてアイアンクローかバックドロップをお見舞いしますけどね」
    「(審議中)」

    「メリエンヌはそんなくのいち女子プロレスはじめない!!!」
    「やっぱりダメだったーー!!!」「ガワじゃなくて精神性の問題でしたね!!!」

    「メリエンヌの偽物め!もうあなたの言葉なんて信じない!!」
    影は再び果物ナイフを取り出して、人形に持たせる。今度は並大抵の説得では止まりそうにない。

  • 52二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:42:29

    「覚悟しなさいリンダ!!」
    「やめろメイ!!」
    そしてそのままナイフを、リンダに見立てた人形目掛けて突進させた。


    だが、人形にナイフは突き立てられる事はなかった。

    「……っ、!」
    ナイフが突き立てられる寸前で、ヒナイチが素手でナイフの刃物部分を握りしめ、無理やり止めたのだ。

    ヒナイチの手から血が滲んでいく。握った指を伝って、血がぽとりと落ちていく。
    「床下!!」

    「……キャサリン、どうして?」
    「こんなおままごとは、してはダメだ」
    ヒナイチは影に言葉が届くか分からなかったが、それでも自分のできる限りの言葉で真摯に説得していく。

    「ジェントルおままごと。かつてのあなたは、誰かに一緒に遊ぼうと言える勇気を出せた筈なんだ。その勇気をこんなことで台無しにしてはダメだ。あなたの能力は、誰かを傷つけるために持ったものなんかじゃない」

    ヒナイチは人形に握られたナイフを丁寧にゆっくりと外す。
    「どうしてこんな風にあなたが歪んでしまったのかは分からない。だが、まだ間に合う。貴方のおままごとに、本物のナイフも、生きている人形も、どちらも必要ないはずだ」

    「私は、……わたしは」
    影は自分の存在意義に迷うように揺らいでいく。

    「元に戻ったら、また遊ぼう。今度はあなたのもっている人形で」
    ヒナイチは血で汚れてしまった手で握手を求める。
    影は、迷いながらも手をさまよわせ、そしてヒナイチの手を取った。

  • 53二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:43:15

    すると、ヒナイチにとっても予想外の異変が起こる。

    影がヒナイチの手に触れた途端、ジュウウウというまるで焼け石によって肉が焼かれるような音が聞こえ始めた。
    影は身をよじらせる。まるで熱さに苦痛を感じているように。

    「アァアアアアア!!!」
    「どうしたんだ、おままごと!?」「なんか苦しんでやがりますよ!?」

    焼けるような音は止まらない。そして、ついには影の手から火が上がり始めた。
    その火はあっという間に影の全身に燃えひろがっていく。
    ごうごうと形の無いモノを燃やし尽くし、塵一つ残さない。

    すべてが燃え尽きると、カラン、という音ともに床に宝石が転がった。
    その瞬間、影の能力も解除されたらしく、小さな人形になっていた人間たちが一斉に元の大きさに戻る。

    「……これは、心臓か?」
    ヒナイチが声を震わせながら宝石を拾う。血色の宝石が、静かに脈動している。

    「どういうことなんだ、なんでいきなり影が燃えて」
    「サンズちゃんには、」

    「床下の血の跡に影が触れた途端、燃えたように見えました……」
    「私の、血が?」

    ヒナイチは自分の手を見る。
    傷跡は大方塞がっていて、手には血の汚れしか残っていない。
    何が起きたのかまるでわからず、ただただ、自分のやった事に対する恐怖の感情だけが心に沈んでいく。

  • 54二次元好きの匿名さん22/06/07(火) 22:43:47

    「床下?……顔真っ青ですよ、大丈夫ですか?床下!」
    「なんで燃えたんだ?私は、そんなつもりじゃ……」
    「今は考えるのよしましょう!!!」
    サンズがなんとかヒナイチの思考を中断させようと声を荒げた。

    「私も血が触れたから燃えたとか言っちゃったのも悪かったです!!でも、まだそれが本当に原因だなんて分からないし、だから考えるの全部後です!いいですね!?」
    「う、うん」

    サンズの言っていることはもっともだ。今の状態じゃ何が原因だなんて断言はできない。
    切り替えなければ、考えることは後で良いはずなんだ。
    ヒナイチもサンズもなんとか思考が上向くように努力する。

    しかし、悪い事とは、続くものである。

    二人がいる廊下の隅から暗闇が染み込み始める。
    それは粘り強く、ドロリとしていて、ニセモノのカメ谷から溢れだしたヘドロにそっくりであった。


    続く

  • 55二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 00:02:26

    乙です!
    ロナルドしゃんとお揃いにしたくて大仏くんキーホルダー持ってるサンズちゃんかわいい!人形がアレだけど上手く軌道修正したと思ったら解釈違いでダメだぁーーーーー!
    と思ったらいい話で説得!たぶんここ原作でいう11ページ目とかだから成功する筈……………え?
    く、クルースニク……?
    流してあげたいのに、迫るアレ…!続き楽しみにしてます!

  • 56二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 07:34:14

    メリエンヌ勝訴からの敗訴草
    おままごとと和解したところでクルースニクの力の発動とは… ていうか今ヒナイチも吸血鬼なのに大丈夫なのかとか色々心配ですね…

  • 57二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 17:51:11

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 23:25:09

    野球拳とミカエラは、グールの追撃を避けながらなんとか病院内を駆けまわっていた。

    「こっちにもいねえなあ」
    野球拳は病院内の構造の違いに戸惑いながらも、なんとか自分の考える目的地を見て回っている。
    今のこの病院で闇雲に人を探そうとすると道が迷路のように変わって煙に巻かれるが、明確な目的地が頭にある状態でその場所へ向かおうとすると、多少道が変わっていてもなんとかたどり着くことはできるのだ。
    野球拳は多少不本意なところはあるが、病院内の施設の位置をおおむね把握していた。

    「貴様、さっきから一体どこを目指しているのだ」
    「心当たりのある場所って奴?透がいそうな場所回ってるんだがダメだな」
    どこかで立ち止まってダンピール組の合流を狙った方が良いのかもしれないが、グールの関係上野球拳たちはあまり立ち止まることもできない。
    だがミカエラは別のところが気になったらしい。

    「なぜ貴様が賢弟、透のいそうな場所を知っているのだ!!まさかストーカー……!?」
    「あ~~そっちの思考に行くのか。そんなんじゃねえよ、廃墟を出入りしてる不審な人物の見張りだ見張り」
    「透が不審人物な訳無いだろうが!」「いや廃墟に出入りしてるのはどうひいき目に見ても不審人物だからな?」
    「そうだとしても何か理由があるはずだ!」「というか、お前透がここでなにやってるのか知らないの?」

    「……」
    ミカエラは何かクリティカルを食らったらしく、落ち込んだようにがっくりと肩を落とす。
    野球拳はやっちまったなあ~と思いつつも、明確な原因が分からないのもあって遠回りにミカエラに尋ねる。

    「いや、まあ家族だからって四六時中見張ってるとかじゃねえし、そこまで落ち込むことはねえんじゃね?たまに連絡とってるならそれ十分だろ」
    「透は最近私にメッセージを返してくれない」「(さらなる地雷を踏んだかもしれない顔)」

    (ちょっとまってくれよこっちの2人そんなにこじれてんの?)
    野球拳も軽薄そうな顔で受け答えしているが、内心はわりと焦っている。
    弟二人から離れる判断をしたこと自体は後悔をしていないし正解だったと考えているが、自分がいない事の弊害がこんな形で出てくるのは予想外だったのだ。
    これが兄弟のままであればもう少しフォローは入れられたはずだ。ミカエラあたりに邪険には扱われたかもしれないが。

  • 59二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 23:25:52

    どうするべきか、アドバイスするのもさらなる地雷を踏みそうで微妙だ。そもそもミカエラが素直に言う事を聞くのか。

    だが何も言わないのも野球拳的には心穏やかではない。

    「これは俺の独り言みたいなもんだけどよ」
    野球拳はなるべくそっけない素振りでつぶやく。

    「助けてくれって言われたり、どう見ても困ってたら助ける程度で良いんじゃねえ?」
    「……」

    「弟つったって俺達とは別の考えがあるんだから、結局兄貴ができる事なんてそれぐらいだけだろ。何やってるかわかんなくてもさ」
    「それができたら、苦労はしない」

    野球拳はヒューと口笛を吹いて空気をごまかす。
    これ以上は今の自分には出過ぎた真似であろう。あとは二人で解決していくのを見守るしかない。

    (こういう時もう一人ぐらい間を取り持てる奴がいればなあ)
    そこで、ようやく野球拳は自分の見落としに気が付く。

    こちらの世界では透と一緒にいなかったから、あの子がどうなっているか野球拳にもよくわかっていなかったのだ。
    (確か、子供の霊だって言ってたよな?)

    ならば、次に行く所はおのずと決まる。……小児科病棟だ


  • 60二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 23:26:40

    ドラルクはあっちゃんと呼ばれた子供の複合霊?の足元をよく観察をする。
    根元に近づくと屍肉が腐ったような気配臭が漂ってくる。控えめに言っていつもの「アレ」の数倍匂いが酷い。
    あまりの悪臭にむせてしまうほどだ。

    「本当に酷いな、この気配臭」
    「俺はよくわかんないんだけど、やっぱりダンピールだと匂ってくるの?」
    「生肉か生魚を腐敗させたのち冷蔵庫で放置させ続けた匂いがする」
    「すげえハードなのは分かった。この腐った根本取り除けたりはしない?」
    「どうだろうな……。寄生型の下等吸血鬼って扱いなのか?癒着が酷くて下手な事をするとこのあっちゃんくんにもよくない影響が出るかもしれない」
    「やっぱ難しいか……」
    透がしょんぼりと落ち込む。この複合霊の子によほど思い入れがあるらしい。

    「君は、この子の為にあの怪奇現象を起こしていたのかい?」
    「そうだよ。あっちゃんが動けないのに変態にこの病院占拠されたら困るだろ」
    「確かに子供の情操教育にはよくない事だけは確信できるな」「ヌー」
    「本当は病院からも出してやりたいんだけど、根が張っちゃってるからどうにもならなくて」
    「ふむ」

    ひどく癒着はしているが、あっちゃん本体と根には境のようなものが見える。しかし混ざり切ってはいない。
    上手く腐敗部分だけ浄化できれば取り除けるのかもしれないが、今のドラルクにはその方法に心当たりはなかった。
    師匠あたりに聞けば、少しは手がかりはあるかもしれないが、少なくとも今どうこうできる代物ではない。

    ドラルクが思案にふけっていると、腐敗臭に交じって吸血鬼が一人近づいてくるのに気が付く。
    (これは……、野球拳か?)
    近づいてくる気配はロナルド程の規模はないが、ヒナイチみたいに少し煤けた気配もしない。となると消去法で近づいてくるのは野球拳となる。
    だが合流できるのは都合がいい、はぐれたミカエラ君か半田君もいるとなお最高だが。

    「? なんか外から足音聞こえない?」
    透もちょうど同じタイミングで外の異変を感じ取っていたようだ。
    「ああ、それなら大丈夫だ。多分野球拳がこちらに来てるのだろう」

  • 61二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 23:27:23

    そこでタイミングよくコンコン、とドアが叩かれた。

    「ちょうど来たみたいだね、……?」
    ドラルクはそこで、違和感を感じる。

    野球拳の気配はもう少し遠いはずだ。少なくともこのドアの前にいる人物ではない。

    「どうしたの?」
    「いや、やばいかも」「は?」

    それ以降はもう、後の祭りである。

    スライドドアがひとりでに動く。
    隙間から、真っ黒なヘドロが垂れ落ちて、部屋の床にインクをこぼしたように円形上に広がっていく。

    ドラルクや透の足元がヘドロに足元を取られて、上手く動けない。
    あっちゃんの根元からもヘドロはあふれ出し、部屋の四隅や角がじわじわと真っ黒に染め上げられていく。

    わずかにあった非常灯の光や懐中電灯は全て黒で塗りつぶされてしまい、二人と一匹はあっという間に暗闇に取り込まれてしまった。


  • 62二次元好きの匿名さん22/06/08(水) 23:27:46

    小児科に向かっていた野球拳とミカエラにも同様の異常が起きていた。

    追いかけてきたグールたちが突然床に倒れたかと思うと、顔面がひび割れ、そこから黒いヘドロがこぼれだしていく。

    「なんだこれは!」「クソッ!」
    気が付けば廊下の至る所にグールが倒れ込み、そしてヘドロの淀みを作り出す。

    視界にうつる廊下や壁はじわじわと黒で塗りつぶされていき、光源を全て奪っていってしまう。
    暗闇が、二人を包み込んでいく。



    黒いヘドロはすべての物を飲み込んでいく。
    ロナルドや半田、ヒナイチやサンズたちでさえも。

    暗闇が来る。
    光と、音一つすらない静寂の暗闇が。

    この怪異にとって、胃袋にも等しい暗闇が。


    続く

  • 63二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 01:53:35

    更新ありがとうございます
    ヒェ…怖い…

  • 64二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 07:02:57

    急にホラーが……
    ギャグとシリアスの緩急の差が激しい……

  • 65二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 10:22:16

    ホラーが仕事し始めたな…三兄弟のこととかあっちゃんとか色々気になるけどどうなるかな

  • 66二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 17:58:06

    乙です!
    よかった取り合えず2チーム合流……と思ったらなんかみんな飲み込まれた?!みんな無事でいてくれ!!!続き楽しみにしてます!!!

  • 67二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:04:16

    光一つ入らぬ暗闇というものは、実は日常からは意外と遠いものである。
    身近な暗闇と言えば夜があげられるが、都市であれば街灯による人口の光が、月があるのであれば月明かりが、新月であれば星の光といった具合に、まったくの真っ暗闇ではなくある程度の光が入ってくる。
    洞窟の奥深くや、わざと完全に閉め切った部屋などであれば完全な暗闇を再現することも出来るだろうが、普通に暮らしている程度ではそうめったに遭遇するものではない。

    ゆえに、真の暗闇とは非日常に近いのだ。



    ヘドロによる暗闇に取り込まれた半田は周囲を見渡す。

    何も見えない。
    ほのかな輪郭すらわからない。

    わずかな光すら取り込もうと、目に妙な力が入るのが分かる。
    光を探して瞳孔が最大にまで開こうとしているのだ。だが半田の目には何一つ光が届かない。

    今の暗闇と比べると、夜とは案外明るいものだったのだと半田は実感していた。
    目は頼りにならない、ならば気配(匂い)はと半田は神経をとがらせるが、吸血鬼の気配がそこかしこに感じられてまるで詳細な情報が分からない。
    不快な気配が体にまとわりつく。例えるならば真夏の高温で湿度の高い空気のようにじっとりとしていて、不快感のスープにでもつかり込んだのかと思えるような嫌な感覚だ。

    「誰かいないのか!?」
    半田は置かれた状況に堪らなくなって声を上げる。
    だが、声すらも上手く響かない。まるで音が吸い込まれてしまうようで、すぐに静寂に戻ってしまう。
    それでも、声を上げ続けるしかない。

    「誰か!!」「半田!?」

    二回目の呼びかけによってすぐそばから声が聞こえた。
    まとわりつく不快な気配すら貫通するこの巨大な気配、間違いなくロナルドだ。

  • 68二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:04:51

    「貴様どこに行っていたのだ!」
    「俺も状況が掴めなくて」
    「とにかく手を貸せ!ここではぐれたら本当にまずい事になる!」
    半田は手探りで手を振り、なんとかロナルドの体を見つけ出す。そして、片手を握った。

    「……?」
    半田はすぐにロナルドの異常に気が付いた。

    「どうしたロナルド。……なぜ震えている」
    「なんでもない」
    「こんな手汗びっしょりな奴がなんでもないわけがあるかバカめ。強がりも大概にしろ」

    そこで半田は一つの心当たりを言う。
    「……まさか、カメ谷を撃ったことを気に病んでいるのか?」

    「それもあるけど、」

    「それだけじゃない」
    「?」

    ロナルドの声が震えている。表情は見えなくとも、どんな顔をしているのかありありと分かるくらい声に動揺が現れていた。
    「俺、この空間が本当にダメなんだ」


  • 69二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:05:23

    「床下、何サンズちゃんにへばりついてるんですか!?床下!」
    「すまない、握ってないと、怖くて……!」

    サンズとヒナイチも同様に暗闇に飲み込まれていた。
    しかし暗闇に飲まれてからのヒナイチの様子が明らかにおかしい。
    いつもの凛々しさが影を潜め、何かにおびえるようにサンズの腕を掴んで離さない。

    「そんなに暗闇が怖いなら明かりでもつければいいじゃないですか!えっと、スマホスマホ。……あれ?」
    サンズが少しでも明かりを点けようとスマホの電源を入れる。しかし、何も反応しない。
    「こんな時に電池が切れやがったんですか!?なら充電器は……」
    しかし、スマホを充電器に差し込んでも電源は復活しなければ、そもそも充電器すら光らない。

    サンズは思い付きで大仏君のキーホルダーを取り出した。そして、引っ張れば大仏君が動き出す紐を、引っ張ってみる。
    大仏君は、紐が引っ張られたまま何も反応を返してはくれない。

    「まさか、電気製品が使えない?」
    ヒナイチは、ぎゅっとサンズの腕を握り締める。



    「離れんじゃねえぞミカエラ!!」
    「わ、わかった」

    常ならばこの物言いに対して何かしら言い返しただろうミカエラだったが、今の野球拳には素直に返事をするしかなかった。この空間に取り込まれてから野球拳が明らかにピリついている。
    ミカエラはなぜかわからないが、この状態のこの男には逆らってはいけないと感じていた。とても怖いとも。

    「透!!どこだ、どこにいる!!」
    音はすぐに吸い込まれてしまう為あまり響いてはくれない。それでも野球拳は呼びかけを続けるしかない。

    病院がこの状態になってしまったと言う事は、もう、時間がないのだ。

  • 70二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:06:40



    そして当の透はというと、ドラルクやジョンとも合流できず、一人孤立してしまっていた。

    「おーい!!誰かいる!?誰か!!返事しろ!!」
    誰も返事は返してくれない。
    視界は常に真っ暗闇、少し歩いてみても家具や壁には当たらず、ただ何もない空間が広がっているのだろうなという確信だけが得られる。

    まるで世界から完全に孤立してしまったかのようだ。


    怖い。

    透は軽いパニックを起こし始めていた。
    見えない、聞こえない、誰もいない。
    短時間と言えども、それは正常な思考能力を奪うのに十分な要因だった。

    そもそも自分が本当に今立っていることすら分からない。おぼつかない。

    (これ、本当にまずいんじゃ)
    一度そう考えはじめたら心の均衡が雪崩のように崩れだす。
    考えが悪い方悪い方に転がりはじめて止まらない。

    「だ、だれか……!」

    透が力ない声で呼びかけながらふらふらと歩いていると、ぶよん、と何かにぶつかった。

    よかった、と一瞬だけ考える。自分以外にも何かがいる。

    ヤバイ、とすぐに思考が切り替わる。自分は一体、何にぶつかったんだ?

  • 71二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:09:16

    透は後ろにのけぞって逃げようとするが、自分の体に触手のようなものが巻き付き、がっちりと縛り上げられていくのが分かった。もう逃げられない。
    目の前からメキメキと何かが変形していく音が聞こえた。

    『……ァ、gァャエア』

    ぶつかった何かの吐息のようなものが透に吹きかけられている。
    巨大生物に食べられる獲物はこういう気分なんだろう。

    あっちゃん一人にしちゃうの、悪かったな。

    ミカ兄に一回返信しときゃあ良かったな。

    どれももう遅いが。

    透はほとんど諦めの境地で終わりが来るのを眺めている。
    真っ暗闇で、何も見えないのが残念だった。

    しかし、そこでわずかな変化が起きた。
    巨大生物の後ろ側から何かほのかな光源のようなものが現れ、その生物のシルエットが透に見えたのだ。

    巨大生物は、リアルな芋虫のような形だった。
    形だとしか言えなかったのは、その生物がおおむね透明で、ほんの少しだけ形が見えたから。
    ヘッタクソな能力の使い方。

    それだけの変化。それだけの変化で、透に少しだけ活力が戻る。
    一回だけ、足搔いてみようと思えたのだ。

    透は大きく息を吸って叫ぶ。

    「助けてくれーーー!!ミカ兄!!!」

  • 72二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:09:36

    最後くらい、この名前を頼って呼んでも良いと思った。
    食べられそうになる直前に、巨大生物の後ろにあった光源がなんなのか分かる。

    あるのは、空に浮かんだ月。

    なんで月がここに、そんな疑問を浮かべるまでもなく、透に衝撃が走った。

    透の体が触手から解放されて雑に放りだされる。
    「……痛ってェ!!」

    投げ出された衝撃による痛みはあったが、噛まれたような痛みは無い。
    どうやら助かったらしい。
    透は芋虫のいた方向を見る。

    「はあ、はぁ……!」
    男が、息をきらして立っていた。

    「……私を呼んだか、透」

    まるで余裕のない様子のミカエラが、刀を握り締め、立っていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 73122/06/09(木) 21:11:26

    ロナルドヒナイチ野球拳は1d10くらいのSAN値チェックがあった感じです。

  • 74二次元好きの匿名さん22/06/09(木) 21:12:26

    暗闇……前の世界で暗闇に関する決定的な何かがあったということ……?

  • 75二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 02:36:33

    間に合って良かった…ホントに良かった…
    しかし記憶持ちが悉くトラウマになっているとは一体どんな恐ろしいことが起こったのか…

  • 76二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 11:55:04

    1d10のSAN値チェックレベルって結構な大きさだけど何があったんだか…
    続き楽しみにしてます

  • 77二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 22:42:12

  • 78二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 23:04:50

    「これはこれは、随分と厄介なことになっていますねえ」

    矢部病院の外側、一人の紳士が燕尾服をたなびかせながら怪異に取り込まれかけている病院をみやる。
    病院の外にいてすら明らかな異常が感じられ、近づくだけで吐き気がこみあげてくるような嫌悪感をまき散らしている。

    『アレ』がこの病院を食べきる前の前症状だ。
    このまま放置しておけば以前の世界でのVRCの二の舞である。

    「さて、ひとつ講義を始めるとしましょう。以前、満月の有無で狼男が場の主導権を握れるという話はしたかと思います」

    「それと同様に、怪異によっては場の空気の主導権を握る事によって、さらなる力を得ることができます。例えば、怪談を始める際の前振りって意外と重要でしょう?閉め切った薄暗い部屋でこれから来るぞ、という空気で怪談を始めるのと、真昼間のお笑い番組で笑いながら起こった怪現象を茶化しながら話すのとでは恐怖に対するのめり込み方が違うはずです」

    「空気の主導権とはシチュエーションと演出によって左右されます。いかにその場にいる人間たちに、自分は畏れるべき存在だと見せつけるか、恐怖で慄かせるか。そしてその恐怖の源が自分だ、と人々に認識させるか」

    「怪奇現象に対して多くの人に畏れさせ、慄かせ、かしこまらせる。その感情を人々に植え付けさせることを、我々は『畏怖』を得ると呼ぶのです」

    「畏怖を得たと言う事は怪異が場の主導権を握ったも同然、恐怖はさらなる恐怖を呼び、増大させます。そうなると、怪異は水を得た魚のように暴れまわる事が可能となる。爆アドって奴ですね」

    「ではこの病院の状況はというと、大分相手側に畏怖を取られてしまったようです。相手にとっての有利環境が続き、反撃の芽が非常に出づらい。この状態の怪異に取り込まれたものは、どれほど巨大な力があったとしてもなかなか打開は難しいはずです。なにせ、相手の巣のど真ん中にいるようなものですから」

    「ですが、まったく手が無いというわけではありません。畏怖は上書きができます」

    紳士は例えを考えながら、口元のちょび髭をさする。
    「そうですねえ。例えばクラスで一番運動が出来る人気者がいたとします。ですが、そこに全国レベルで運動ができる子が転入してきたらどうなるでしょう?注目の的は自然と全国レベルの子に移るのではないでしょうか。畏怖にもこれと同様の現象が起きます」

  • 79二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 23:05:53

    『では、より強い畏怖を集めることが出来れば、相手を弱体化させることが可能ということですか?』
    紳士ではない若い男性の声が、どこからともなく聞こえる。姿は見えない。
    紳士のすぐそばにある空間にあいた円形の黒い穴から、その声は聞こえてきていた。

    「そのとおり」
    紳士、変容のディックはパチンと指を鳴らした。

    「以前の私は狼男の月を盗みだしました。ならば、今回はその逆です」

    「暗闇に、月を浮かべましょう」
    ディックは懐から皮の手帳を取り出すと、パラパラとページをめくりだす。
    そこには、占いで手に入れた数々のY談ストックがメモされていた。



    視界がまるで開けぬ暗闇に戸惑う一同に、やわらかい天からの明かり落ちていく。

    「……月だ」
    ロナルドが呟いた。

    何もない空に満月が昇っている。雲もない、星もない。違和感だらけだ。
    だが、そこに光があるという事実だけで、恐怖が緩和されていく。

    「なぜここに月が」
    半田も突然の月の出現に困惑していると、遠く離れた場所から何かを叫ぶ声が聞こえる。

    「……て…ミ…にい」

    「誰の声だ!?」
    「声の方向に行ってみよう!今なら迷わずに行けるかもしれない!」

  • 80二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 23:06:21



    ミカエラは触腕を刀の振り降ろしで切っていくが、正直に言うと自分の手に余るのを感じざるをえなかった。
    なにせ相手は巨大であり、ヘイトが全て自分に向かってくるのだ。
    そして月明かりのおかげでわずかに輪郭が見えるとはいえ、相手はほぼ透明で見えづらい。
    斬っては引き、斬っては引きの繰り返しで被弾をギリギリ免れている。

    普段の作戦であったなら数人からのフォローが入るのだが、この閉鎖空間でそれを期待できるはずもない。
    ならば、相手が倒れるか自分が倒れるかのどちらかしか選択肢はなかった。

    「ハァっ!!」
    刀を下段に構えて滑るように撫で切らせ、そして反撃が来る前に後ろに下がる。これをずっと繰り返す。
    長期戦になると見たミカエラは、下方に刀を持つことでなるべく自分の体力を温存させ、そして手数で斬っていく事で相手の消耗を狙っていた。
    決定打はなかなか出せないが、粘り勝てる可能性は出る。

    後ろをちらっと覗けば、野球拳というふざけた男が透の前方に立って庇っている。
    最悪自分に何かがあったとしても、あの男が何とかするだろうという確信は持てた。

    後は、自分が粘るのみ。
    しかし、

    ガキッ!!

    「!?」
    硬い感触と音が鳴ったかと思えば、急に刃の通りが悪くなる。
    目の前の巨大生物からビキビキと音が聞こえてきたかと思えば、比較的やわらかかった表皮が硬く固まっていくのが分かる。
    どうやら、こちらの手を学習してさっそく対応してきたようだ。
    やわらかい触腕も全て変形し、硬い外殻に覆われた鋭い鎌のように見えた。

  • 81二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 23:07:51

    「貴様……!」
    だからといって泣き言などいってはいられない。
    ミカエラはこちらに振り下ろしてきた鎌を刀で受ける。
    だが力も先ほどとは段違いで、受けた刀がぎちぎちと嫌な音を立てていく。
    このまま受け続けると折れると直感的に感じたミカエラは、とっさに刀の刃を回して平地部分にずらし、鎌をそのまま受け流すように姿勢を変えた。
    ブンッという風切り音が耳元を掠めると、少し離れた場所の地面にひどい衝撃音が鳴る。
    あのまま受け続けていれば危なかった。上半身が無くなっていたかもしれない。

    「ミカエラ!」
    上手くかわしたミカエラに対して、野球拳が突然焦ったような声を上げ、そして駆け出してくる。
    なんだ、といっぱいいっぱいになりながら返事をしようとするが、焦った原因が目の前にいる巨大生物だと分かりミカエラは閉口した。
    (これは……!)

    目の前に第二、第三の刃が迫ってきている。
    このまま受ければ、ギロチンのように首が綺麗に斬られるだろう。
    走馬灯のような一瞬の思考。何もできない、躱せない。野球拳も間に合わない。
    また、繰り返してしまうのだろうか。

    「ミカエラ!」

    今度聞こえたのは、兄の声ではなかった。

    ミカエラに向かっていた刃の一本一本が破裂し、ひしゃげ散っていく。
    まるで強大な力によってねじ伏せられたかのようだ。

    「よかった!!上手くいった!!!」
    銀髪の吸血鬼の心底安堵するような声も聞こえた。
    破裂した時点で何が上手くいっただがこの際はどうでもよかった。

  • 82二次元好きの匿名さん22/06/10(金) 23:08:36

    ふらっと倒れかけるミカエラを野球拳が掴む。顔が妙に複雑そうな顔をしているのは何故だろうか。
    透の方を見ると遠目からも泣きかけているのが見えた。頼ってくれたのに期待に応えられなかったのが残念だ。

    二度目に名前を呼んだ男、半田が触腕の一つを乱雑に切り落としていた。
    「無事か、ミカエラ」
    「……面目ない」
    「一人で『アレ』に時間稼ぎをしただけ大金星だ。お前は誇っていい」

    「まだ戦えるな?」
    半田が確認する。そんなこと言われるまでもないと、気の抜けた体に力を入れなおした。

    巨大生物は大したダメージでもない様子で、触腕を自在に操り、形を変えているのが分かる。
    だが、その触腕目掛けて鋭い刃物のようなものが別方向から飛んできた。
    あれは、手裏剣?

    「サンズちゃん恨みの手裏剣受けやがれですよ!!」
    声聞こえた方向を向くと、今度は女性二人がこちらに向かって走ってきていた。
    「みんな!無事か!!」
    そこにいたのは、吸対でもおなじみのヒナイチと、スーツの見知らぬ女性だった。
    「ヒナイチ!?」「サンズちゃんもいますよ!!」

    女性二人組も加わり、これで一人と一匹を覗いて病院をさまよっていたほとんどのメンバーが集合した。

    となると、これからやる事は一つである。
    反撃の開始だ。

    ヌヌヌ(つづく)

  • 83122/06/10(金) 23:11:16

    アカジャの最中ですいません。明日の投稿は諸事情によりお休みです。

  • 84二次元好きの匿名さん22/06/11(土) 11:14:35

    ほしゅ

  • 85二次元好きの匿名さん22/06/11(土) 16:01:44

    やっとip規制解けた…!
    アカジャ中もお疲れさまです…!
    そうだよな前の世界組はアレに包まれるとか恐怖だよな…。
    ディックの登場で「人間の変態チームが役立つ時がきたか?」って思ったけど、確かに占いで集めたY談で大丈夫だわ。とにかくナイス月!!!
    その月のおかげで元三兄弟をはじめほぼほぼ全チーム合流!!………ってドラドラちゃんとジョンがいないの一番まずくない(主にロナルドとヒナイチの精神に)?!続き楽しみにしてます!

  • 86二次元好きの匿名さん22/06/11(土) 21:27:40

    畏怖…すごい畏怖…

  • 87二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 00:59:32

    ディックの強キャラ臭がたまらなく好きです

  • 88二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 10:41:23

    ほしゅ

  • 89二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 14:01:38

    ディックの畏怖講義めっちゃわかりやすい……

  • 90二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:19:55

    ドラルクとジョンが目を覚ますと、そこは白い空間だった。

    ……白い空間?
    ヘドロのような暗闇に覆われたのに、なぜ自分はこんな明るい空間にいるのだろう。

    しかもただ明るいのではなく、どことなく清潔感がある。
    もっと目を凝らせば、自分がいる場所が病院の廊下にいるのだと言う事がうっすらと分かった。
    廊下全体が廃墟の汚れが無く、綺麗になっていたり、視界の端が若干ぼやけていたりするので、ここは実際の病院ではないのだろう。

    (……!)
    ドラルクの横をパジャマ姿の子供が早歩きで横切っていく。
    子どもの顔を盗み見ようとしても、肌色でにじんでぼやけていて顔が分からない。
    その様子はまるでうろ覚えの記憶を思い出している時のような非常に曖昧なものだった。
    また、数人の子供が横切る。車いすに乗っていたり、点滴台を握っていたり、実に様々な子供達。
    そしてそのどれもが、どんな顔かわからない。

    「ヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌ?」
    「そうだね、ジョン。少し歩いてみようか」

    ドラルクはジョンを抱えて廊下を歩き出す。
    一人と一匹が横切った案内図には、『小児科』と書かれていた。




    まあるい月夜に照らされた、わずかに月光で白んだ暗闇の中。
    異形はその巨体を震わせ、それに相対するものは武器を構えて次の攻撃に備える。

    息が詰まるような緊張感、お互いににらみ合いが続き、先に動き出したのは怪異の方だった。

  • 91二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:21:07

    それまで硬い外殻に覆われた鎌が急に巨体に引っ込んだかと思うと、180度四方八方に向かってボールペンほどの大きさの何かが射出された。その数およそ1000以上。

    「わっ!」
    予想外の挙動に驚きはすれど、ロナルドは自分に向かってきた物体を念動力で雑に払う。
    払いながら地面に突き刺さった射出された何かを見ると、それはまるで予想外のものだった。

    (……注射!?なんで!?)
    病院で使われる注射のようなものが、地面に綺麗に突き刺さっている。
    もちろん先端が針なので刺されば危険ではあるのだが、先ほどの鎌と比べると拍子抜けというか、意図が分からない。
    他のメンバーを見るとそれぞれの方法で上手く避けていたが、やはりロナルドと同じ感想のようでどういう反応をしていいのか分からない顔をしていた。

    半田が突き刺さった注射を一つ取って眺める。
    「特に液体も入っていない普通の空の注射器だ。どういうことだ?」
    「俺だってわかんねえよ……」

    全て避けられた事を悟ったらしい怪異は、今度は本体の透明化を解除し、メキメキと硬い外殻から別の何かに変化していく。

    形は次第に人型を取り、長い艶のある栗色の髪が生え、そして豪奢なドレスを着ている。
    顔は精密に形作られ、両目には綺麗なガラス玉が埋められていた。

    「あれは、もしかして、フランス人形か?」
    真っ先に反応したのがヒナイチだった。

    人形と言えどもスケールは巨大である。大きさからして二階建ての住宅一つ分くらいの大きさはあるだろうか。
    ガラス玉で彩られた無垢な顔の人形は、一同に向かって振り向くと、腕をぶんぶんと振り回して体全体でタックルをかけてくる。

    「なんだこのふざけた人形は!呪いの人形か!?」
    「人形は人形でもアナベル人形じゃねえですかこれ!!」
    ミカエラやサンズが必死によけながら叫ぶ。人形とはいえ大きさ住宅一軒分によるタックルだ。直撃すると人間は圧死する。

  • 92二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:22:19

    そして、その大きさゆえに戦い慣れしていない下半身透明が逃げ遅れてしまった。
    「ウワァアアア!!」

    「透!」
    「心配すんな、おら!よよいのよい!!」
    野球拳が透相手に野球拳を開始することにより結界が張られ、人形のタックルは免れる。
    しかし結界にはじかれて一度バウンドした人形は、今度は野球拳の結界に興味を持ったらしく、再び下半身透明と野球拳の方に向かう。そして、

    『あ゛そぼう!!あ゛そ゛ぼうッ!!!』
    まるで録音したような感情のこもっていない声で、人形は髪を振り乱しながら野球拳結界を力の限りダァンッ!!ダァンッ!!!とはたき始めた。
    「ヒィィイイイイ!!!」「透こっちに集中しろ!!」
    幸い野球拳の結界に揺らぎはない。しかし大丈夫だと分かっていても、中にいる人間にとってはかなりの恐怖の筈だ。

    「ロナルド!!」
    ヒナイチがロナルドの名前を叫ぶ。暴れまわる巨大な人形に刃は通りづらい、ならば暴力には暴力である。

    「オラァッ!!!」
    ロナルドは助走をつけて飛び上がると、一気に人形の顔目掛けて怪力を込めた拳を叩きこむ。
    珍しい玩具に夢中になっていた人形は直撃を受けてぐらりと揺らぎ、ドスンっ、という象でも落としたような地鳴りとともに倒れ込んだ。
    ロナルドが拳を入れた顔を見ると、表面にひびが入っている。まるであの時の偽物カメ谷のような__

    『ひどいなあ、ロナルド』

    『オレを撃つなんて』

    半田が人形の首を力いっぱい込めて叩き切った。
    「……ふざけた猿真似をするな」

    人形は今度こそ沈黙する。
    しかし、また人形の形がドロりと溶け出し、さらなる別の何かに変形していく。

  • 93二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:23:19

    次に変形していったのは四つ足だった。今度は巨大ではなく、複数の個体次々に分裂して現れていった。
    その四つ足は、低い唸り声をあげる、獰猛そうな大型犬の群れ。

    大型犬は一斉にヒナイチやミカエラ達の方向へ群れで襲い掛かっていく。
    ヒナイチは二刀流で次々飛び掛かってくる大型犬を踊る様に切り落としていく。ミカエラもヒナイチ同様犬を切り捨てつつ、下半身透明側に犬が行かないように気を回す。
    「へいへーい!犬ども!サンズちゃんはこっちですよ!!」
    そしてサンズは二人のうち漏らしを手裏剣で処理しながら、時にヘイトを買って二人が動きやすいように立ち回っていた。

    数は多いがロナルド達が手を出すまでもなく処理が完了していく。
    だが、切り落とされた大型犬の残骸は再び何かに変形しようとしていた。

    「ダメだ、このままだとキリがない!本当に何なんだ、変形する法則性も全く分からない!」
    ヒナイチが叫ぶ。それに関してはロナルドも同感だった。
    「注射器、フランス人形、犬の群れ?俺たちがさっき見た時は芋虫ぽかったよな?」
    「影ではあったがな。確かミカエラの時も形が変わっていた」「私の時は鎌の怪物だったな」
    「ミカ兄が助けにくる前に俺が襲われてたのは、触手の怪物ぽかったよ。名前までは分かんないな」

    野球拳が盛大にため息をつく
    「マジで法則性がねえなあ。脈絡がなさすぎる」
    「なんか具合が悪い時に見る悪夢みたいですよ」

    「悪夢……、誰かの怖いもの、トラウマとか?」
    下半身透明がぼそりと呟いた。

    「トラウマって、誰のだよ?」
    ロナルドは嫌味とかではなく、シンプルな疑問として下半身透明に尋ねる。
    だが下半身透明もいまいち自分が呟いたことに自信がないらしくわやわやとした言葉が返ってきた。

    「分かんない、なんとなくトラウマだって思ったんだけど」
    「んー?」

  • 94二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:24:09

    そうこうしているうちに大型犬の残骸は別のものに変形していく。
    分裂していた怪物はまた一つにまとまり、今度は巨大な人型のようなものを作り出していった。
    だが、人形ではない。シルエットからして、大人だろうか?
    変形の詳細が分かっていくにつれて、一同の困惑がさらに広がっていく。


    「これは確かに、誰かのトラウマかもしれねえな」

    次に変形をしたものは、帽子を被り、マスクをして、青色の手術着を着た、大人の姿である。


    『大丈夫だよ、3秒数えたら意識がなくなるからね』
    やはり、声には感情がこもっているようには感じられなかった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 95二次元好きの匿名さん22/06/12(日) 22:32:01

    相変わらずホラー描写がすごい…
    でもなんというか物悲しさみたいなのも感じますね
    誰が怖いと思ったものなのか…

  • 96二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 07:05:49

    カメ谷くん(本物)の所在も気になる

  • 97二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 11:43:15

    小児病棟にいた子どもたちのトラウマなのかな…言動とか地の文の描写もどこか幼いし
    続き楽しみにしてます

  • 98二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 16:42:57

    乙です!
    ドラルクとジョンの飛ばされた場所(?)が誰かの記憶の中の小児科みたいなところなのが吉と出るか凶と出るか……。
    一方の反撃サイド……これ何人分の能力だ?トラウマを実体化する吸血鬼一人の能力なのか、複数の能力が組み合わさってトラウマが実体化しているのか……そして能力をとられた吸血鬼は何者なのか……。
    続き楽しみにしてます!

  • 99二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:11:02

    ドラルクが一つの病室の扉を開ける。
    人工呼吸器を取り付けられ、ベッドに横になっている一人の顔の見えない子供が、隣にいる母親らしき人物にぐずっている。

    『注射もうやだあ』
    『ごめんね、でも元気になるために、血液検査して体の悪い所毎日調べなきゃいけないの。もうちょっとだから、我慢しよう?』
    子どもの腕を見ると、何度も採血をされたせいか肌が青紫色に変色していた。

    『ほんとに?元気になったら帰れる?』
    『うん、そしたら好きなところにtur_agt……』
    母親らしき人物にノイズが走る。言葉の途中で、子供を置いて霞のように消えてしまう。

    残された子どもが泣いている。

    ドラルクが病室に一歩踏み込むと、子供もまた、幻のように消えてしまった。


    次にドラルクは病棟に設置されたプレイルームを見る。
    入院している子供たちが遊ぶために作られた部屋で、プレイルームにはさまざまなおもちゃやDVD、絵本などが置かれている。

    プレイルームの中で、女の子が一人、人形で遊んでいる。
    ぬいぐるみや人形を使って、一人でおままごとをしているようだ。
    だが、ある一つの人形だけはその子供にとって怖かったらしく、遠くに追いやられている。

    栗毛の髪にドレスを着たフランス人形。
    プレイルームに走って入ってきた男の子がフランス人形を乱雑に掴み取ると、人形を怪獣に見立てて女の子を襲うポーズを取らせる。
    女の子は怒ったように反撃するが、男の子もまた、霞のように消えてしまう。

    女の子は泣いている。
    ドラルクがプレイルームに一歩踏み込めば、泣いている女の子もまた幻のように消えてしまった。

  • 100二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:12:07



    ドラルクが窓を見ると、車いすに乗った子供が大人に連れられて外を散歩している。

    ちょうど、病院内の中庭を大型犬が散歩していた。犬は無邪気な様子で子供に近づこうとするが、車いすに座った子供は泣いてしまう。

    別の場所では、あれはおそらく兄弟だろうか?
    様々な虫を兄弟から見せられて、泣いている子供もいた。

    大人からすればなんてことない事も、子供にすればとても恐ろしいと言う事が往々にしてある。
    だから、ドラルクが見ているこの景色は、その小さな恐ろしかったことの積み重ねなんだろう。

    ドラルクの視界がフッと暗くなる。



    気が付けば、誰かの主観視点を眺めていた。
    そこは集合部屋の病室で、周りには同じくらいの年の子供が数人入院している。
    『ねえ知ってる?ナースルームの近くの部屋に移動すると病気がヤバいんだって!』
    『怖い事言うなよ』『ここ遠いから大丈夫だよ』
    そんな他愛もない事を、子供たちは仲がよさそうに笑いながら話していた。

    しかし、そんな仲の良い子供たちの一人が退院していく。
    親に連れられて晴れやかな表情で、子供は病室から出ていく。皆で手を振って見送った。

    一人、また一人と、集合部屋の見知った顔は減っていく。
    みんなみんな、手を振って見送った。

    そして最後に、集合部屋には自分一人だけが取り残される。
    視界の主が立ち上がろうとすると、視界が急に真っ白になった。

  • 101二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:13:02

    気が付くと、看護士さんたちが自分の周りを囲んで何か処置をしている。

    『〇〇ちゃん、病室移動するからね?』

    移動した先はナースルームの隣にある重病人を見るための特別な病室だった。
    視点の主の腕にはいつの間にやら人工呼吸器や点滴、様々な管で繋がれている。

    『……から緊急手術を……書類が』
    『はい…は…し…す』

    親らしき人物と先生が何か会話をしているのを横で聞きながら、視点の主が、力ない手つきでスマホにメッセージをうっていた。

    『これから、手術なんだって』
    『退院したら、あそぼう』

    ベッドに横たわったまま視点の主は手術室に運ばれていく。
    手術室には、青い手術着を着た執刀医がいた。

    医者は不安にさせないようにこちらににこやかに微笑む。

    『大丈夫だよ。3秒数えたら意識がなくなるからね』
    視点の主に、全身麻酔をする為の呼吸器が取り付けられる。
    そして、医者の宣言道理、3秒ほどで視点はブラックアウトした。




    ドラルクはハッと意識を取り戻す。
    立ったまま白昼夢のようなものを見ていたらしい。

  • 102二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:14:21

    「いや、走馬灯かな。あれは」「ヌ?」
    ドラルクはこめかみを抑える。
    非常に生々しい記憶であった。断片的ではあるが、重苦しい感情も同時に注がれたようで胸が息苦しい。

    ドラルクが歩き出そうと一歩また足を踏み出すと、空間全体がぐにゃりと歪んだ。
    そして、次に出た場所は病室とはまた全然別の場所であった。

    鼻孔に線香の香りが漂ってくる。

    あるのは長机に設置された簡易的な祭壇とご焼香台。
    そして、祭壇の前にはストレッチャーに横たわる、小さな子供の体。
    顔には、白布がかぶせられている。

    両親と思わしき人物と、黒いスーツを着た人物が部屋に入ってくると、ストレッチャーに横たわった子供の遺体が運ばれていく。
    霊安室近くの出入り口には車が待機しており、遺体はつつがなく車に運ばれていった。

    そして、霊安室には誰もいなくなる。

    『おかあさん、どこいっちゃったの?』

    ドラルク以外誰もいない筈の部屋で、無邪気な声が聞こえた。

    『でれない』

    また別の子供の声が聞こえる。
    ドラルクが声の方向を見ると、複数人の透けた子供が病院の出入り口で外を眺めている。
    だが、誰も外に出ることはできない。

  • 103二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:15:14

    『なんでおいてっちゃったの?』
    一人の子供が、明らかにドラルクの方に向いて話しかける。
    ドラルクは返事をするか迷った。しかし、無視はできない。

    「……行くべき場所が、違うからじゃないかな」

    『なんで?』『どこにいくの?』
    『おかあさんとおとうさんあいたい』『でたい』『ここからだして』
    「ワーーー質問の洪水!」「ヌーー!!」
    幽霊から答えづらい疑問を質問攻めされてドラルクは困り果てる。
    安易な返事をするんじゃなかったと小さな後悔をしていると、子供の一人がはっきり通る声で言った。

    『あそぼう』

    一人の子供の声が聞こえた途端、子供たちは顔を見合わせる。
    そして、子供たちはいっせいに一つの言葉を繰り返し始める。

    『そうだ』『あそぼう』
    『みんないるんだもの』『あそぼう』
    『あそぼう』『あそぼう』『あそぼう』

    子どもたちが手をつないで遊びはじめる。
    置いてかれてしまった寂しさを埋め合わせるために。

    だが、子供たちが楽しそうに遊んでいると、またドラルクの視界がぐにゃりと歪んだ。

    気が付くとドラルクが最初に目を覚ました時にいた、あの廊下の場所に戻ってきてしまっている。
    「なっ!?また最初の場所に戻ってきただと?」「ヌァッ!?」

  • 104二次元好きの匿名さん22/06/13(月) 22:16:16

    ドラルクは試しに一番初めに入った病室の扉を開ける。
    するとそこには、
    『注射もうやだあ』
    『ごめんね、でも元気になるために、血液検査して体の悪い所毎日調べなきゃいけないの』

    最初に見た注射を嫌がってぐずる子供の姿がいた。
    セリフも全く同じ、録画映像の再放送のようだ。

    今度はドラルクは外を見る。また車いすの子供は大型犬におびえ、兄弟は虫を使って脅かしている。
    プレイルームを見れば女の子がまた男の子に人形で脅かされていた。

    繰り返している。
    この病院にいた子供たちのトラウマを。

    「本当に趣味悪いね」
    「ヌヌヌヌヌ……」

    ドラルクはどうするか頭をフル回転させる。
    そして腹を決めた。

    「よしジョン、病院で宝探しでもして遊ぶとしようじゃないか!!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 105二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 07:58:32

    正統派ホラー!て感じで続きが気になります

  • 106二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 09:36:14

    かなりホラーだけど悲しさ切なさみたいなのも感じる
    更新ありがとうございます

  • 107二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 11:17:40

    哀しくて切ないな…宝探しって何する気だ?

  • 108二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 22:14:02

    地縛霊は動けないもんなぁ…あっちゃんは例外

  • 109二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:15:09

    自在に変形をしていく怪物相手に攻防は続いている。

    巨大な医者がメスやクーパーを繰り出して投げナイフのように投擲していく。
    ロナルドはそれらを飛び上がって回避すると、一度小さな蝙蝠になってに散らばって飛び、医者の顔面に張り付くことで視界を遮っていく。
    医者がひるんで顔面の蝙蝠をはがそうと躍起になっている間に、サンズはロープが取り付けられた手持ちのクナイ数本を取り出すと、医者の首目掛けて投擲した。
    クナイは首に刺さるのではなく弧を描いて首に巻き付いていく。サンズは巻き付いたロープをピンと張るとヒナイチに合図を出す。

    「床下ぁっ!一気に引っ張りますよ!!」「分かった!!」

    サンズだけでは足りない腕力をヒナイチで補い、二人は巻き付いたロープを一気に引っ張った。
    医者は前かがみにバランスが崩れて倒れそうになり、たまらず両手を前に出して姿勢を安定させようとする。

    しかし、両腕それぞれにむかって半田とミカエラが駆けだし、飛び上がり、そして両肩めがけて居合一閃した。
    倒れてくる自重も切断に一役買い、医者の両腕は付け根もろとも切り離される。

    医者は当然姿勢の立て直しができず、前のめりにゆっくりと倒れ込もうとしていた。
    顔面に張り付いていた蝙蝠はバラッと空中へ散らばり、倒れていく医者の後頭部側で再びロナルドの形を取り直す。

    「ったあああ!!!!」
    ロナルドは落下に身を任せながら姿勢を整えると、首目掛けて足を振り下ろした。
    全力のかかと落としである。

    かかと落としはギロチン台の刃のごとく首に直撃し、スッパリと医者の頭部を胴から引き離す。
    首と肩、それぞれの切断面からはヘドロがこぼれ落ち、巨体は力なく崩れ落ちた。

    常ならばこれでとどめに等しいのだが、まだロナルド達の攻撃は止まらない。

    さっきまでけん引役だったヒナイチとサンズも加わり、切り落とされた各パーツをさらに細かく切り刻んでいく。
    時には刀で、時には手裏剣で、時には拳と念動力で。
    ほとんど原型が無くなる勢いで刻んでいき、残ったのはヘドロのみというところまで千切ったあたりでようやく手を止める。

  • 110二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:16:10

    「どうだ?」
    一同は少し離れて様子をうかがう。

    普通の撃退では復活されてしまうのであれば、復活が難しいほど破壊をしてしまえば?という考えでの作戦だった。

    だが、ヘドロは思っていた以上にしぶとい。
    散り散りになったとしても、砂鉄の入ったスライムが引きあうように少しずつひと塊にまとまり、何かの姿を形作ろうと蠢いている。

    「ダメか……」
    ロナルドが残念そうに肩を落とす。
    「このまま物理攻撃で叩き続けてもあまり意味がないのかもしれん」
    「斬るだけではちょっと無理っぽいですよね。すぐ戻っちゃうし」
    半田とサンズの意見を受けて、ミカエラが別方向の意見を出していく。
    「アレも吸血鬼なのだろう?ならば銀で焼くとか」
    「さっきから銀の弾丸もぶち込んでるけど量が足りねえ。完全に仕留めるなら弾幕にしないと」
    「手持ちでは致死量に届かないか……」

    うーん、と一同が唸る。
    「俺が天井ギリギリまで飛んでこの結界を暴力でぶち破るとか」
    「そもそも果てがあるのか?この空間」「試してみようぜ」
    ヒナイチが呆れたように反論するが、ロナルドは本気だったらしく、手持ちの今は使いどころのない麻酔弾を一つ取り出す。ピンっと上に弾き、念動力を使い猛スピードで上へ上へと持っていく。

    しばらくロナルドは上を見続けていたが、途中で諦めの滲んだ声を出した。
    「……果てが全然ねえ」
    「やっぱりでたらめな構造しているな、この空間」

  • 111二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:17:21

    「なあ、色々作戦立てるのは良いんだけどよ、そろそろヤバそうだぞ」
    黙っていた野球拳が忠告をした。
    「なんだ?ヘドロならちゃんと様子をみて」「そうじゃなくて」
    「月!月が欠けてきてる!」
    下半身透明が焦った様子で天井を指さす。

    突然現れた満月は、いつの間にか三日月にまでやせ細っていた。

    「これ新月になったらまた真っ暗闇に元通りですか!?激ヤバじゃないですか!!」
    「そうなれば今以上に反撃が難しくなる……!」
    思っていたよりも余裕はない、なにか一手、何か致命的な一手を相手に与えなければ。

    「ここが本当に外だったら、日の出まで時間を稼ぐ方法もあるんだが……」
    「ヒナイチ!そろそろヘドロが動き出すぞ!」
    半田がヒナイチに注意を促す。
    ヒナイチは思考を切り替えて刀を構えなおした。
    そしてそこで、フッと考えが浮かぶ。

    燃やせばいいのでは?

    なにで?という次の考えがまとまる前にヘドロはひと塊に膨らみだす。
    注射や芋虫、人形や医者、犬、それらがブクブクと肥え太った巨大バルーンアートのようにヘドロから無造作に生えだしてきていた。
    もはや最初の頃にあった形の精密さや機能性はかけらもなく、悪夢の象徴のように柔らかく関節がない気持ちの悪い動きを繰り出している、

    「独創性追求しすぎて失敗した生け花みてえだな」
    「先鋭的になりすぎた時のパリコレじゃね」「奇をてらいすぎて失敗した現代アートにも見える」
    三兄弟(元)がそれぞれ好き勝手に感想を述べる。
    さっきまで感じられた誰かのトラウマによる怖さというよりも、全部盛れば怖がってくれるだろうかという雑さを感じる造形だ。

  • 112二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:18:16

    「とにかくもう一回暴力で沈静化させようぜ」「まて、ロナルド」
    「どうしたんだヒナイチ」「注射のあたりが震えてないか?」

    ロナルドが言われた通り注射に注目する。
    確かに、何か様子がおかしい。



    一方その頃のドラルクである。

    「へいジョン!!どんどん注射器を壊していくんだ!ローリングする時は針気を付けて!!」
    「ヌーー!!!」

    ドラルクはジョンと一緒に最初の病室付近にあった注射器をあらかた回収して壊して回っていた。
    どうせ今いる場所は幻覚のようなものだと高をくくっての狼藉である。

    「最後ォ!!」
    ドラルクは貧弱な腕で何とか注射器を壊し切る。
    こんな軽い運動でも息が切れるがまだまだ壊し、回収すべきものは残っている。

    「ハァ……ハァ……、よし次だジョン!次は人形の回収して芋虫ボーイを私特製のお菓子で買収!そして大型犬をジョンの説得によって遠くに行ってもらおう!」
    「ヌンッ!」

    一人と一匹はどんどん病院を闊歩していく。
    一人と一匹が去った後、病室に残されたあの注射を嫌がった子供は、その様子を見て笑っているように見えた。

  • 113二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:21:49

    「注射器が……」
    出来損ないのバルーンアートのようだった注射器は、みるみるうちにしぼんでいって消えてしまう。
    次に人形が、次に芋虫が、犬が、誰かの悪夢の形が消えていく。

    悪夢が消えていくにつれて、目に見えてヘドロの勢いが減っていくのが分かった。

    明らかに、弱体化している。

    「オブジェクトが消えるにつれて弱ってる?なんでいきなり」
    「分からない。でも、これはチャンスだ」

    ヒナイチは自分の刀を自分の指に当てると、そのまま傷つけ流血する。ロナルドは意味が分からずギョッとした。
    「ヒナイチ!?なにやってんの!」
    「大丈夫だ。心配しないでくれ、ちゃんと理由はあるから」

    ヒナイチは自分の血液を刀に伝わせた。
    ヒナイチとしては毒がよく回るようにという意図があったが、意図していない別の副次効果も表れる。

  • 114二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:22:08

    刀に伝った血から、小さな火の粉がこぼれ始める。火の粉はやがて小さな炎に変わり、そして、あっという間に刀全体を炎で包み込んだ。

    「なるほどな」

    ヒナイチは刀にまとう炎を眩しそうに見つめた。
    この炎には触ってはいけない、そう吸血鬼の本能が訴えかけてくる。
    扱いを間違えれば、この炎は自分すら傷つけるだろう。

    何故自分の血液にそんな効果があるかは知らない。
    だが、今はそんなことはいい。

    ヒナイチは炎に包まれた二刀流を構えなおした。

    決着をつけるべき時である。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 115二次元好きの匿名さん22/06/14(火) 23:23:29

    もしかして嘘予告クルースニクの力……?
    伝承だとクルースニクは炎の輪を飛ばして攻撃するという、炎にまつわる逸話もあるし……

  • 116二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 08:09:49

    月が細くなる=Y談の備蓄が尽きるということかな?
    改めてディックの能力すごいな

  • 117二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 11:35:43

    嘘予告も混じってるのか…そこまでスペック詰まないといけなかったとも言えるけど最終的に何と戦う気なんだろうロナルドとヒナイチ
    ドラルクとジョンもいい仕事してていいね!

  • 118二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 22:13:47

    ほしゅ

  • 119二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 23:25:36

    幻覚の病院内をひたすら駆けまわっていたドラルクは、両腕に人形やら大型犬のリードやらを両手に持ちながらもとうとう足が立ち止まってしまった。

    ドラルクが立ち止まるとまた景色がぐにゃりと歪んでいく。
    このままではまた手術を受ける記憶が再現が始まってしまう。これで通算8回目だ。

    「ファーーー!!駄目だ!精神的トラウマ系は根本原因が物理に依存しないからどうにもならん!!やるとしたら記憶改ざんとかメン〇ンブラックのピカッとする奴でももってこないと!」「ヌー(サングラスをかける)」

    ドラルクは泣き言を叫ぶが記憶の再生は止まってくれない。
    「くそう、詰んでる異世界転生でももうちょいやりようがあるぞ!」

    そうこうしているうちに視点が固定され、ドラルクは行動が出来なくなってしまう。
    こうなると記憶の再生が終わるまで何もできない。
    叫んでも手を動かそうとしても無理、このターンは詰みである。

    (ああ、また他人のメモリアルムービーを見せつけられる作業が始まってしまう)
    最初はドラルクも内容に同情的ではあったのだが、こう繰り返し見せられるといい加減飽きてくるのである。
    そもそも嫌な事を繰り返し反芻するというのが理解不能だ。
    不意に思い出すことはあっても、自分からその記憶を繰り返し思い出したりなんかしない。

    (どうせ思い出すなら楽しい記憶の方がよっぽどいいと思うんだけどねえ)

    (第一、死ぬのなんか別に怖くないし)
    ドラルクは、自分が死んだ経験など無いというのに、本当に軽くそう考えてしまった。


    『こわくないの?』

    そこで、初めての変化が起きる。

    『しぬの、こわくないの?』

  • 120二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 23:27:13

    いつのまにか、顔が見えない子供がドラルクを見ている。
    ドラルクの返答を待っている。

    「……死は特別なことなどではないよ」

    「意外に身近で、隣り合わせなんだ。それに皆絶対にいつかは死ぬんだからね。君たちは少し経験するのが早かっただけだよ」

    『みんな?』『おとうさんもおかあさんも?』『ほんとうにみんな?』『しんだらどこにいくの?』
    いつのまにか一人だった子供が複数人に変わり、わらわらとドラルクの周りに溢れかえる。
    「質問攻め再来か!待ちなさいちゃんと答えるから急かさないで!!」「ヌァーー!!」

    ドラルクがなんとか子供たちを制御しようと四苦八苦していると、視界の端に赤い光が映る。
    ドラルクは空間全体を見渡す。

    「空間が燃えてるだと?」

    火はたちどころに悪夢の記憶を燃やし尽くしていく、
    端から端まで、天井から吊るされたスクリーンシートを燃やしていくように、じわじわと。




    ヒナイチの握る刀の刀身が、篝火のように燃え上がる。

    炎とは、古来より魔祓いの象徴である。
    焚き付けられた火は、時に穢れを祓い、己の煩悩を焼き、神に祈りを捧げる祭壇となる。

    使い方を誤れば使用者すら傷つけてしまうが、だからこそ燃やすという行為は怪異にとっても脅威となりうるのだ。危険であるということは火、それそのものに畏れがあるということに他ならないのだから。

  • 121二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 23:27:56

    ましてや、それが太陽からもたらされた火であればたまったものではない。

    ヒナイチは姿勢を前に傾け、空気が抜けかけてダブついたような医者だったものの塊に斬り込んでいった。

    医者のぐんにゃりとした腕がヒナイチめがけて突っ込んでいく。
    ヒナイチは躱すが、腕は一度地面にぶつかった後何度か地面をバウンドしていき、手のひらだったものが宙に放り投げられた段階で数多の細い触手が針山のように生え、弾けたように四方八方に伸びていく。
    医者は、というよりも怪異はすでに己の形にこだわっていないらしく、紐のような触手を複雑に編み上げていく事で向かってくるヒナイチを捕らえようとしていた。

    だが斬る、ひたすらに斬る。
    目の前に覆いかぶさる投網も、気まぐれに殴りつけようとしてくる拳も、
    千々の襲い掛かる事象全て斬りつけ燃やしていく。

    ヒナイチは攻撃の手を緩めずに、少し勢いの衰えた刀の火に油を注ぐためにさらに自分の腕もざっくりと斬りつける。
    刀に血を吸わせると爛々と火の勢いが戻った。

    「アレ」を燃やし尽くさなければ。
    理由の分からぬ能力であっても、アレに致命傷を負わせることが出来るのであれば傷の一つや二つ負ったって構わない。
    全部塵にしなければならない。まだ血(燃料)が足りない。

    全部全部全部。全部。ぜんぶ。



    「床下、あれ、大丈夫なんですか?」
    ヒナイチの尋常ではない戦い方に、サンズがおびえたように呟く。

    「……ダメだと思う」
    ロナルドは答えた。

  • 122二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 23:28:36

    確かにあの怪異にヒナイチの炎は恐ろしいほどに効いている。効いてはいるのだが、
    ヒナイチは自分の服が血でどれだけ汚れているかに、気が付いているのだろうか。

    自傷行為を繰り返しながらの戦闘は確かに無駄は無いのだが、はたから見ていて恐ろしい。
    そして何故か、ロナルドにはヒナイチの理性が飛びかけているように見えてならない。

    「サンズさん、ここを頼みます」



    ヒナイチはようやく敵の頭部にまで到着した。

    頭部というよりも、最後の巨大な一塊とでもいうべきだろうか。
    それ以外は燃やし尽くしてしまったのだから。

    まだ最後の頭部は別の形を作ろうと哀れなあがきを見せている。

    ヒナイチはもう刀すら使わない。自傷しまだ血の滴る吸血鬼にとっての猛毒な己の腕を、そのまま怪力に乗せて頭部に突っ込んでしまおうとしたところで、腕は何者かによって阻止された。

    「そこまでだ、ヒナイチ」
    後ろから男の声が聞こえる。

  • 123二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 23:29:09

    「なんで止めるんだ。お前も燃やすぞ、吸血鬼」
    「……お前も吸血鬼だろうが。物騒な事言ってるんじゃねえ。オラッ、とっとと頭冷やせ!!」

    男によってヒナイチの顔に何か硬いものがバシッと張り付けられた。

    ヒナイチは張り付けられたものをよく見る。黒と白のツートンカラー、黄色いくちばし、そうだこれは


    「ペンギンッッ!!!!!」

    ヒナイチは掴んできた腕を逆に掴み返し、見事な背負い投げを男に決める。

    「アバーーー!!!!!!」
    その男ロナルドは、背負い投げられたことによって残された怪異の頭部目掛けて投擲され、そのまま突っ込んでいったのであった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 124122/06/15(水) 23:31:54

    思ったよりも展開が進まねえ……。
    ロナルドが使ったペンギングッズはVSおままごとの時に使ったキーホルダーです。(サンズが預かってた)

  • 125二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 04:52:12

    クルースニクの本能的なもの怖いですね…正気に戻って良かった
    ドラルクの対話が何かしら良い方向に進めてくれるのを祈るばかりです

  • 126二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 11:21:48

    ヒナイチの血は諸刃の刃だな…理性というか自意識がクルースニクに引っ張られるデメリットはなかなかきつい
    続き楽しみにしてます

  • 127二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 22:44:34

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:06:40

    ロナルドはヒナイチの見事な一本背負いにより怪異に向けて吹っ飛ばされる。

    「ァアアアーーーーー!!!」
    猛スピードで飛ばされている最中、残った塊から何かが光るのを見つけた。
    ロナルドは吹き飛ばされたそのままの勢いで拳を振り下ろせるように、空中で体制を立て直す。

    身体をひねり、拳を引き、衝突のタイミングと同時に突き出す。
    ありったけの力とともに叩き込まれた拳により、円形に衝撃波が生まれ、怪異からこぼれたヘドロはクレーター上に形をくぼませる。

    拳を突きつけた最後の塊は衝撃で歪んでいき、そして張力の限界を超えるとパキッと空間にヒビが入った。



    ドラルクのいる白い空間が燃え尽きようとしている。
    それなりの広さがあった空間はじわじわとスペースが無くなっており、残りは四畳半ほどの広さ。
    空間ごとドラルクがこんがりと焼きあがるのは時間の問題である。

    「やばい焼ける!!このままじゃ私とジョンが焼けたミイラと焼マジロになってしまう!!」「ヌヌーー!!」
    『しぬのこわくない』『こわくないんじゃないの?』
    「死ぬのは怖くなくとも焼けるのは怖いんじゃい!!くっそどうする、こんなところに水なんかないし……」

    ドラルクが残された空間の中心でじたばたと足搔いていると、パキッというガラスがひび割れたような音が頭上から聞こえてくる。

    「なんだ?ここで天井なんか落ちてこられた日には私は何一つ抵抗できずにそのままサンドイッチお陀仏になる自信しかないぞ」「ヌー!(泣きながら大ぬさを振って願掛けする)」

    ピシ、パキ、パチ、何かの圧力によってじわじわとひびが広がっていくような音がする。
    ドラルクはジョンを抱えて身構える。

    そして、圧力は限界を超えた。

  • 129二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:08:12

    ガラスが細かく砕け、大きなひび割れとともに頭上に巨大な裂け目が開く。
    いまだに火が燃え盛る閉鎖空間に、銀髪の見慣れた派手な男が裂け目から落ちてきた。

    「ジョン!ドラ公!?ってか、なんだこの空間!?」
    「なんだはこっちのセリフだロナルド君というか状況確認は置いといて私とジョンを可及的速やかに救出してくれんかね限界だから!!ハリーハリー!!」「ヌヌー!!」
    「そう簡単に次の行動に移れるかバカっていうか、なんかこの空間おかしくないか!?」

    ロナルドが叫んだ通り、白い空間の空中や床、いたるところにロナルドが開けた裂け目が発生し、まるで穴あきチーズのように3次元的に穴だらけの空間という文章的にも訳の分からないものが生まれている。

    複数に見える裂け目は元をたどれば全て同一の物らしく、裂け目の外から見えるヒナイチや半田たちの光景はどの裂け目を覗いても同じものだ。

    「どういう構造だこれ。空間そのものが歪んでるのか?」
    「とりあえずどっか適当な裂け目から脱出するぞ。ドラ公手ェ貸せ!」
    ロナルドがドラルクの腕を鷲掴みにすると、手短な裂け目から脱出しようと走り出す。

    ドラルクは引っ張られるがままに走り出すが、先ほどまで質問攻めにしてきた子供達が気になり、つい、後ろを振り向いてしまった。


    『おじさんも、おいてっちゃうの?』

    「私は」「裂け目通るぞ、ドラ公、ジョン!」「ヌン!」

    ドラルクが返事をする前に腕を強く引っ張られる。
    裂け目にあっという間に飲まれてしまい、ドラルクは結局答えを出すことが出来なかった。


    『おいてかれちゃった』
    『だれもいない』『いないね』

    子どもたちは少し寂しそうに、だがさして気にした様子もなくまた戯れ始める。

  • 130二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:09:15

    置いていかれるのには、慣れている。

    『あそぼう』『あそぼう』
    『みんなであそぼう』

    取り残された子供たちは輪を作って回り始める。
    きっとこの調子で今までずっと廃病院で遊び続けていたのだろう。

    今日もきっと、この場所が燃え尽きるその時まで遊び続ける筈だ。
    だってここにしか、彼ら彼女らの居場所はないのだから。


    「ねえ」

    子どもたちが一斉に顔を声のした方向に向ける。

    「遊ぶならさ、こっちで遊ぼうよ」

    裂け目から、一人の死に装束を来た男が立っていた。
    男はなるべく優しい声で子供たちを手招きする。

    「こっちの方がきっと楽しいよ。だから、こっちこようよ」
    子どもたちは顔を見合わせた。

    『でれないよ?』『ここしかいられない』『おにいちゃんがこっちきて』
    「それは、ダメ」
    男は断固として拒否した。

    「一緒に出よう。絶対置いてかないから、一緒に出よう」
    最後はほとんど駄々と懇願に近かった。

  • 131二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:10:02

    火が燃え上がる。空間の温度はどんどん上がっていく。
    タイムリミットは近い。
    だが、死に装束の男はそれでもギリギリまで粘っている。

    子どもたちは再び顔を見合わせた。
    子供たちは手をつないで、男のいる裂け目の方へと歩いていく。
    やっぱり、出ようとすると見えない圧力にぐっと阻まれてしまう。
    でももう少し頑張ってみようと足搔いた。死に装束の男のところに、純粋に行きたかったのだ。

    圧力の先に行こうと、無理やり体を押し付けていく。
    子どもたちの輪郭やシルエットが圧力に負けて溶け始めてしまった。
    このままでは向こう側には行けない。その前に体が完全に溶けてしまう。
    でも、皆でやったら?

    複数人だった子供たちの体はパーツをまばらに残しながらに溶けていく。だが、一つの大きな物体として溶け合い、変わっていく。


    『『あそ ぼ う !』』

    そこにいたのは、透と病室の個室で見た、あの病院に縛られてしまった複合霊(アマルガム)。
    透は歪な交じりたての腕を一つ握ると一気に裂け目の向こう側に引っ張り込む。

  • 132二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:10:22

    巨大なお化けはきゅぽんと、裂け目から飛び出る。
    お化けが飛び出た途端、裂け目の向こうが完全に燃え尽きたの見て取れた。

    裂け目が消えると同時に、暗闇だった空間が揺らいでいく。
    暗闇に白が混ざり、夜明け前のような白んだ空へと変化していった。
    そして、霧が晴れていくように白んだ空も消えていく。背景の隙間から見えるのは、最初の廃病院の病室。

    霧が晴れきり、ようやくロナルド達一同は閉鎖空間から解放されたのであった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 133二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:31:59

    透が優しくて泣いてる

  • 134二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 06:32:45

    この子供達の集合体があっちゃんってことかな

  • 135二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 10:44:56

    乙です!
    いつもの吸血鬼能力とは勝手の違うアレ相手にみんな自分のできることをしていて胸熱でした!トラウマ壊して回ったドラドラちゃんとジョンも、いきなり目覚めた力を使ったヒナイチも、大事なコを死なせなかったトオルも、もちろんロナルドも、みんなみんな格好良かった!!!続き楽しみにしてます!

  • 136二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:24:54

    病室の地面にべったりと根付き、動けなくなっていた複合霊に変化が起きる。
    根、そのものがひとりでに延焼しはじめ、あれほど禍々しかった根の部分が煤となって消えていく。
    そしてようやく、大方の濁りが消し飛び、複合霊の足が自由になった。

    複合霊が嬉しそうに足をプラプラさせると、黒いモヤが空間全体に漂っていく。
    そしてぐにゃりと空間が一気に歪むと、歪んだ場所から複数人の人間が病室に雪崩込んできた

    「ドゥワーーー!!!」「ワーーー!!!」「ヌーーー!!」
    ドサドサドサとロナルドやドラルク達が地面に転がっていく。
    霧が晴れると急に足場が無くなったためそのまま無様に落ちていったのだ。
    といってもせいぜい階段2段分くらいの高さを踏み外した程度である、ご安心です。

    「あっだだだだ……、ここは小児科の病室か?」
    ドラルクが姿勢を立て直して周囲を見ると、複合霊ことあっちゃんが捕らわれていた病室のようだった。
    ようやく霧が晴れた空間にはまだ黒ずんだモヤが残る。
    モヤそのものが重たいのか下に沈み込んでいて、ドライアイスで作った白煙のように漂っていた。

    モヤは病室の底でしばらく右往左往していると、ドアの隙間を見つけ、まるで掃除機の吸引機でも吸われたかのように一気に吸い込まれていった。

    「うっわ、なんだあのモヤ」「まっくろく〇すけかな」「ヌン!(手を正面ではたく)」
    「これは逃げたのか?あのモヤも『アレ』の一部だったのか」
    半田が疑問点を言いながらモヤに逃げられたドアそのものを開ける。
    外は変わらず病院の廃墟の廊下があって、窓からは新横浜の夜景と月が見えた。

    「床下生きてます?」
    「きぼちわるい……」「ダメみたいですね」
    ヒナイチは暴れまわった反動かぐったりと床に座り込みサンズに体を預けてグロッキー状態になっている。
    自傷行為しまくった結果衣服が血の汚れで染まり、さらにところどころ焼け焦げている。何も知らないで見たらさぞホラーな状態だろう。

    そしてグロッキーなのはヒナイチだけではなかった。

  • 137二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:25:32

    透も座り込んで壁に体を預けてきっていた。白装束はギリギリまで火事場にいたせいか煤汚れがひどかった。
    「生きてるかー?」
    野球拳が気楽にポンポンと背中を叩く。
    「ムリ。喉痛くて頭くらっくらする……」
    「煙吸ったな?病院行かせねえと」
    「と、透!?」
    ミカエラがわたわたと焦るが野球拳がミカエラの腕をひっつかむと念入りに言い渡す。
    「透は、お前が運ぶ。いいな?」「……わかった」
    指示を出されたことでミカエラの頭が一旦落ち着き、粛々と背中に担ぎ上げた。

    あっちゃんが担がれた透に近づき、よしよしと頭を撫でた。
    「あっちゃん動けるようになってよかったよ」
    『よ かっ  た』

    ロナルドもヒナイチを同様に担ぎ上げようとすると、ドラルクの電話が鳴る。
    「はい、ドラルク。カメ谷君?どこいるの」「カメ谷!?無事なのか!?」
    ずっと気がかりだったカメ谷からの電話だった。
    カメ谷はさっきのエントランスホールから少し離れた場所にいたらしい。

    『気が付いたら掃除用のロッカーに突っ込まれてたんです!さっきまでスマホも繋がらないしで散々でしたよ』
    「カメ谷君が無事でよかったよ。こっちはなかなかハードなお化け屋敷体験ができた」
    『そっちでは私がいない10分間に何か起きてたんですか!?』
    「ああ、大分トラブルが……いやまて10分?10分って言った?」

    『はい、皆さんがいなくなって10分たったくらいですよ。時計見てましたし』
    ドラルクはばっと周りの様子をうかがう。

    「30分以上は絶対さまよってたよな、半田」「道にも迷ってた、10分は絶対にありえん」
    「サンズちゃんと床下も道に迷ってたりおままごとしてたんで10分は絶対無理です」「どうかんだ……」
    「こっちもかくれんぼしながら病院回ってたしなあ」「暗闇での時間もいれれば一時間近くいたのでは?」

  • 138二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:26:14

    ドラルクはこめかみに指を置く。
    (時間すら歪んでいたのか?そんなバカな、いやでも)
    「……やめとこう、これ以上の検証は後回しだ。今は意味がない。それよりもカメ谷君、こちらに合流できるかね?」
    『いけますよ!場所はどこにいますか?』

    ドラルクとカメ谷がいくつか言葉を交わすとドラルクが電話を切る。
    「よし、カメ谷君と一度合流してから仕切り直そう。合流したら透君とヒナイチ君を病院送りにして別の病棟にいた変態達の安否確認……だ?」

    ドラルクの鼓膜に足音が聞こえてくる。カッ、カッという子気味のいい音は確実にこちらに向かってきていた。
    「えっ?カメ谷じゃないよな?早すぎるし」
    ロナルドが青ざめている。
    「ねえ!私もうその手の演出おなか一杯なんだけど!!天井ネタが許されるのはギャグだけってお化けの広辞苑には載っていないのかね!」
    『 し ら ない』「あっちゃんはそんなこと反応しなくていいから……ゲホッ(咳)」

    「だが確実にこっちに向かって近づいてきてるぞ」
    半田が刀を構えて入り口前に待機する。
    そして、扉を一気に開けた。

    扉を開けた先にいたのは手に持った刃物で人を道すがら3人ほど殺し、次の獲物を見つけて心から喜んでいる悪夢の象徴のような笑顔をした男だった。

    「バジャラハフンダッハァァアアア!!!!!」「ヌヌヌヌヌヌヌヌーーーーー!!!!!」「ビャァアアアアアア!!!」
    そのあまりにも恐怖の象徴としてミーム汚染されそうな笑顔に一同取り乱す、が

    「あ、桃くん?どうしてここにいるんだい」

    「……それはこっちのセリフだお父さん」
    恐怖の大魔王の正体は半田の父、白であった。

    「いやあ、病院の中で迷っちゃって。あっ、そこのくのいちさん」「ンナアアアア!?」

  • 139二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:26:57

    「この手裏剣お返ししますね」「えっ!?あっ、はい!??」
    サンズがビビりながらも白から手裏剣を受け取る。そういえば、一つ手裏剣が足りなかったことを今更思い出した。

    「お父さん、まさかと思うがこれを渡しに……?」
    「落とし物だったんだ。手裏剣高価そうだったから直接手渡した方が良いかなって。くのいちさんって早いんだねえ」
    「……」
    半田は何か言う事を諦めた。


    恐怖の男の正体が分かったことで少し息をついた一同。
    しかし、まだ廊下から何かの音が聞こえてくる。

    「あれっ?まだ音聞こえてくるんですが!?」
    「……今度は何なんだよ」「最近の怪異は天井ネタは3回までだって習わんのだろうか」「どこで習うんだよそんな知識!もういい、俺が見てくる!」
    流石に驚き疲れと怖がり疲れでうんざりしてきたロナルドはヤケクソ気味にドアを開いた。
    もうじわじわ来られるのは嫌だった。

    廊下に飛び出すと、奥の方から何かがずりっ、ずりっとこちらに這い寄ってくる。
    ヤケクソで飛び出してきたは良いが、思ったよりもガチめのホラーの気配にあっという間に後悔が出てくる。
    だが、自分で飛び出した以上は向き合わねばなるまい。
    ロナルドは念動力で対象を吹き飛ばす準備をしながらも、息をのんでその存在待った。

    ずり、ずり、それは芋虫のような巨体を引きずっている。
    わずかな月の光で照らされたその体色は、ピンク。

    「は?」
    ロナルドは良い意味で意表をつかれた。

  • 140二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:27:13

    なんで?
    だって、アイツがこんな所にいる筈がない。

    相手もロナルドの姿を確認したのか、ぴょこんとその長いシルエットを直立させた。

    「ああ~~~!?ロナルドさんっ!!!」
    お育ちの良いのんびりとした声が少し涙声になりながら叫んでいる。
    その声は、もうすっかり聴かなくなって久しい声だった。

    「へんな?」

    ロナルドが名前を呼ぶと、ピンクの芋虫はモッチモッチ動いて体当たりしてくる。
    人間の姿だったら、きっと感極まって飛びついたように見えただろう。
    「よかったぁ~~~!!気が付いたら病院のど真ん中でどうしようかと思ったんですよ~~!!!」

    ピンクの長鼻を持った芋虫、こと変な動物は泣きながら感情を爆発させていた。


    ヌヌヌ!(つづく)

  • 141二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:30:44

    へんな……フォンさん!?
    「消された」って聞いたような……無事だったのかな??

  • 142二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:41:01

    変態紳士イモムシなディックの方じゃなくてへんなの方が来るとは思わなかったわ

  • 143二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 22:41:36

    うわああへんなだ!!流石に本物だよな…
    本物なら是非お父さんにあせてあげたい…今回ナイスアシストだったし…

  • 144二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 04:07:43

    カメ谷くん(本物)も無事でよかった

  • 145二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 11:42:37

    へんなは本物かな?吐き出されたのかなんなのか分からないけど救出されたようでなにより

  • 146二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 22:32:00

    事件から翌日。

    ドラルクがカーテンを少し開けると日の出による日光が、吸対の室内に射してきた。
    今回の病院怪異事件による事後処理で、荒れに荒れたドラルクの机周りは書類やら事務仕事で混沌の地と化している。傍らにはすややかに仮眠をとるジョンと、ソファで報告用のタブレットにしかめっ面しているロナルドがいる。ヒナイチはVRCでの検査で出払っていた。

    時刻を見ると午前4時半。ほぼ徹夜である。
    ドラルクがガラスに映った自分の顔をみると疲れの様子が色濃い。
    貧弱にはなかなか辛いハードワークだ。しかし、どうしても検証する必要があったので仕方ない。
    (まあ、やった甲斐はあったかな)
    ドラルクは自分のスマホの履歴を見ると、カメ谷からのメッセージが届いていた。



    ロナルドとヒナイチは吸対の会議室に呼ばれて入ると、何故かそこにはカメ谷がいた。
    「あっ、先日はどうも!」
    「カメ谷!?なんでここに?」

    「ほら先日の病院怪異事件で肝心な所が撮れなかったじゃないですか」
    「ああ、偽物と入れ替わってたからなあ」
    ロナルドは不気味だった偽物カメ谷の事を思い出す。
    「その件に関してはホント惜しかったんですよね!自分のドッペルゲンガーがいたとか最高じゃないですか!」
    「いやあれは偽物……っていうかドッペルゲンガーは会ったら死ぬだろ」「危険にこそ特ダネはあるものですよロナルドさん!」
    「やめろバカ!そんなことで命張るな!」「ネタに魂まで売ったマスコミだなあ」

    「それは置いときまして、今回の事件、記事にするにはちょーっとネタが足りなかったんですけど、ドラルクさんが極秘情報たれ込むから事件の情報整理手伝ってくれって言われたんです!」
    「良いのか、そんなことやって。守秘義務とか」
    ヒナイチがドラルクを咎めるように見る。
    「私が集めたロナルド君のセロリによるマル秘恥辱写真で手を打ったから大丈夫」「よしドラ公そこなおれ、今日は逆エビ硬めだ」

  • 147二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 22:32:32

    「それで、カメ谷さんは何について情報を整理してたんだ」「ヒナイチ君ヘルプ!!ヘルプミー!!!」「ヌー!!」
    「それはもちろん、今回の怪異事件についてですよ!」
    カメ谷は会議室の机にノートパソコンを置き、ホワイトボードにいくつかの書類を張っていく。
    まるで操作会議のようだ。

    「事件は俺らが実際に体験してるんだし、整理とかいるのか?」
    「今回の事件は人数が多いし、私たちのあずかり知らぬ所で起きていることも多かったからね。原因と起きた現象は一度整理した方がはじめシンヨコ原人のゴリルド君や視点移動多すぎてマジで読みづらかっただろう読者さんにも分かりやすかろうと判断したわけだ。アフターフォローもばっちりなドラドラちゃんを五穀豊穣の恵みが降ってきたがごとく崇めなさい」
    「いきなりメタぶっこむなエリア51で捕まりそうなグレイおじさんあとでキャメルクラッチくらわす。あとテメーのその貧弱骸骨スタイルは五穀豊穣のシンボルから最も遠い存在だろせめて腕に力コブが形づくれる程度の筋肉つけてから言え」「ファーーー!!!」
    「二人とも話を進めろ」「ヌン」

    ドラルクがごほん、と咳払いをして表情を締めなおした。
    「さて話を本筋に戻すが、怪談を聞いてもよくわからない事ってないかい?ポルターガイストやラップ音、人が介在していないので明らかに不思議な現象が起きているんだが、原因や理由が分からない怪談」
    「アレは一体なんだったんでしょうか?みたいな締めで終わる奴か?意味が分からないからそれが逆に不気味で怖くなる奴」
    「そうそう。心霊番組だったら有名な霊能者とか連れてきて解説してもらって、腑に落ちたりするよね。今日はそれをね、やろうかと思うよ」

    ドラルクがホワイトボードの開いた場所にさらさらと図を書いていく。
    矢部病院と書かれた病院の記号の下に二つの勢力が書かれた。

    【透・あっちゃん勢力】 VS 【変態人間ズ】

    「まず前提条件から話すとしよう。あの矢部病院では二つの勢力がいて、お互いに勢力争いをしていた。病院に縛られて動けないあっちゃんくんの為に動いていた透君勢力と、病院の怪異を祓う為に雇われた変態人間同盟だ。お互いにお互いを追い払う為に日夜脅かしたり、リビドーを発散したりしていたわけだ」
    「その並びでリビドーがくるのマジで意味わかんねえな」「私たちは下半身透明側にいてよかったな……」「ヌーン」

  • 148二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 22:33:42

    「これだけならシンプルな対立構造だ。だがしかし」
    ドラルクがさらにVSを付け足す。

    「ひそかにここにもう一つ勢力があったとすれば?」

    VS 【 「アレ」、黒いモヤ 】

    「質問です、ドラルクさん」
    「はい。カメ谷くん」
    手を挙げるカメ谷をドラルクが指名した。

    「どうして勢力として黒いモヤ、「アレ」が関わっていると言い切れるんですか?」
    「確かにそうだ。「アレ」はいつも突然現れて場をかき乱していくから、病院にあらかじめいるとは言い切れないんじゃないか?」
    「この間の大烏だって急だったしな」

    「言い切れる根拠はあるよ。まずここだ」
    ドラルクが【透・あっちゃん勢力】に〇をつける。

    「下半身透明に根拠が?」
    「いや違う。重要なのはあっちゃんくんだ。そもそも思い出してほしい、なぜ透君は病院で変態相手に脅かしあいをする羽目になった?」
    「あっちゃんが地縛霊になってて、動けなかったから……?」
    「そう。そして私は地縛霊になっている状態のあっちゃん君を見ているが、黒い根っこのようなもので根付いていて動けなくなっていた。まるであっちゃんくんを自由にさせないように」
    「あっ」「もしかして……、「アレ」に捕まってたのか?」
    「正解」

    ドラルクが図の「あっちゃん」を四角く囲った。
    「だからね、これは順序が逆なんだよ。透君たちと変態たちが暴れているから「アレ」が来たわけではなく、「アレ」は最初から矢部病院にいて、そして人を呼び込むために透君たちを逆に利用していたんだ」

  • 149二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 22:34:04

    「まて、最初から「アレ」がいたならなんで下半身透明達は俺達が来るまでなんともなかったんだ?大体下半身透明を利用してたっていうのも意味が分からねえよ」
    「私からも一つ疑問なんだが、下半身透明が持っていた吸血鬼の心臓も意味が分からない。「アレ」にしてみれば能力が減るのにわざと落としていたってことにならないか?」
    「はいまってまって、質問を矢継ぎ早に言わない。今回はその手の質問に丸っと答えていただくために特別講師をお呼びしました!先生どうぞー!!」

    ドラルクが扉に向かって合図をすると、会議室の扉が開かれる。
    扉の先には、燕尾服にちょび髭を蓄えた紳士がいた。

    「どうも皆さん、解説役を承りました!ディッケー・ナ・ドゥーブツです!そして」

    ディックの後ろから、金髪の線の細い青年がゆったりと入ってくる。

    「助手のフォン・ナ・ドゥーブツです~」

    ヌヌヌ(つづく)

  • 150二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 22:44:41

    ドゥーブツ親子だ‼︎再会できてて嬉しい
    そして下半身透明がゲシュタルト崩壊してきた

  • 151二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 23:01:04

    このレスは削除されています

  • 152122/06/18(土) 23:06:50

    基本的にドラルクは透君呼びなので下半身透明呼びあったらミスです

  • 153二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 23:08:33

    あー自分の読み違いだった

  • 154二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 11:00:20

    ヌシュ

  • 155二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 17:07:32

    乙です!
    キャードラドラチャンキガキイテルー!1さんいつもお疲れさまです…!
    前回のへんなマジでへんなだったのか…偽物だったらSAN値チェック案件だったから良かった…!
    次回も楽しみにしてます!

  • 156二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:04:51

    「へんな!あの後どっかに連れてかれたなと思ってたら親父と一緒にいたのか」
    「正確にはVRCに収容されてたんですよねえ。私VRC収容は初めての経験だったんですが、助手の方が白衣眼鏡のダウナーお姉さんで大変エッチでした」「初手話の腰折るのやめてくんない?」「ヌヌヌー」
    エルフの精霊のような美貌を持つフォン、こと変な動物はあっという間にピンクの象芋虫に変化した。
    ロナルド的にはこっちのが見慣れてるのでちょっと安心する。
    ドラルクがこほん、と咳払いした。

    「えー、へんな君は突然現れた正体不明の吸血鬼ということで一度確保のちVRC収容だ。ひとまずの安全は確認されたので今回めでたく事情聴取と相成った」
    「お犬さんの仮面の人にあんなことやこんなこと調べられて大変だったんですよ!私基本無害なのに」
    「精巧な偽物カメ谷とかも出たから検査は仕方ないだろ。無害かどうかはY談結界とエロ本の解釈に迷走した挙句町中の奴らを強請変身させた時点有罪だバカ」「私も鳥になった事忘れてないからな」「パオーン!!」
    「なんか私のあずかり知らぬところで色々事件があったみたいだがそれは置いておこう。では、ディック氏、解説していただけますかな?」

    「おや、出番ですかな?」
    会議室の椅子に座っていたディックが、優雅なしぐさで口ひげをなでる。

    「そうですね、まずは畏れについて語るとしましょうか」



    「というわけで、怪異にとって畏怖というものがどういう性質があるのか分かりましたかな?読者の皆さんは何言ってるか分からない場合は月が出るあたりの下りを読んでいただければわかるかと」
    「メタ情報どうも。とにかく、その畏れ?がまあ黒い奴らをパワーアップさせるってのは分かったよ。それが病院の変態バトルと何の関係が?」

    「畏怖は場の空気とシチュエーションにも左右されます。では皆さんに質問です。貴方がたが怖いという感情を誤魔化す場合、どういう行動をとりますか?」
    「怖い感情を誤魔化す……、あまりピンとこないな」「ヒナイチ君、ホラーゲームとかホラー映画にあまり驚かないものね。こっちの新横浜のビッグフットには効きまくるけど」「うるせえ!!ヒナイチはあれだ、ペンギンの事とかで良いだろ」
    「ペンギンは怖いと感じる前に視界から外すか目標物を殲滅する」「やってる事がバーサーカーなんだよなあ」

  • 157二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:06:03

    「この話題はロナルドさんの方が適任のようですな。ロナルドさんは怪談やホラーゲームをした時どう対処しますか?」
    「ええ……、明るい音楽を流したり、気分を切り替えるためにコント番組流したりするとか?」「ドリ〇とかこ〇亀のBGM垂れ流しとかわりと有効的だよね」
    「結構!」
    ディックがパチンと指をならす。

    「つまり怖い感情を誤魔化す時、場違いのBGMなどで場の空気を壊し白けさせる事、あるいは笑いによって日常の安心感を取り戻す事などが恐怖にとって有効なわけですな。もちろん人によって別の方法で恐怖を克服する事もあるかもしれませんが、今回は比較的パブリックな方法で解説するとしましょう」

    「さて矢部病院の話に戻りましょうか。ロナルドさんは何故、病院の愉快な仲間達一同が無事だったのか疑問に思っていましたが、これは比較的簡単です。危害を加えるには畏怖が足りなかったのです」
    「畏怖が足りない?」
    「はい。ロナルドさんはホラーゲームの最中などに明るいBGMを流すと恐怖を誤魔化せるとおっしゃいましたが、それは何故ですか?映像そのものは恐怖をあおるモノなのに、何が違うでしょうか?」

    「いくら怖い映像でも、明るいBGM流してるとそっちに気が散るっていうか、映像と演出が合ってないから笑えてくる、から……?」
    「それと同じ現象が矢部病院でも起きていたんです」「へ?」

    「あの病院にいた「アレ」はあっちゃんくんを核に場の空気を作っていました。途中で下半身透明氏も加わり、さらにホラースポットとしての格が上がったはずです。様々な怪奇現象が起こり子供の幽霊がさまよう、本当に出るという噂の心霊スポット。恐怖はさらなる恐怖を呼び、怪異にとって非常に心地の良い空間となったはずでした、しかし」

    「ここに素晴らしい見聞を持つ人間たちが同盟を組んで殴り込みに来たのです」「素直に変態人間どもって呼べや」

    「彼らはその性癖をいかんなく発揮することで、病院に新たなムーブメントを呼び込みました。あそこの病院には、怪奇現象以上にヤバイ人間がいるという噂で恐怖を上書きしてしまったのです!!」「怪異もさぞ不本意だったろうよ」「ヌヌーン(ビキニ煽り)」

  • 158二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:07:11

    「後はもうわかりますね、彼らはこの病院におけるド〇フであり〇ち亀BGMです!」
    「なるほど!どれだけ恐ろしい現象が起きようと、頭に変態人間どもがちらつくことにより恐怖の質が変わり、さらに病院のホラー度が半減してしまったのか!」
    「その通り!おかげで「アレ」の病院における脅威度や畏怖が目減りし、単純にパワーダウンしてしまったのです!!」
    「まってよあの変態人間どもそんなに重要な役割あったの!?」
    ロナルドが頭を抱えて叫ぶ。以前ロナルドもY談で怪奇現象を追っ払おうとしたが似たような事が実際に成立するとは思わなかった。

    「誰か警察を呼べ」
    一方ヒナイチは冷ややかである。それに対してカメ谷がにこやかに答える。
    「あれ地主許可済みだから変態人間に関しては違法じゃないですよ」「嘘だろ……」

    「そしてこれでもう一つの疑問にもお答えできます。なぜ下半身透明氏の元に吸血鬼の心臓が集まったのか……それは、」

    「テコ入れです」「テコ入れ」

    「ここからは完全に状況証拠による推測でお話しますが、怪異としてもあの変態達に手をこまねいているわけにはいけません。ならば畏怖を取り戻すためには何が一番手っ取り早いか?より強力な怪奇現象を起こすことです。そして、外付けの演出装置として心臓はその役割にぴったりだったわけですね」
    「心臓を演出扱いって、そんな」「「アレ」にとってその程度の価値で扱われてるって分かるのは、嫌になるな」
    ロナルドとヒナイチがげんなりとした顔をする。

    「心臓を放出すること自体はかなりの痛手だったと思いますよ。能力が減ると言う事は「アレ」にとっての確実なパワーダウンに繋がりますから」
    「そうまでしてやるって事はどれだけ変態厄介だったんだ。こびりついたしつこいカビかな……」

    「ですが、ここで「アレ」にとっての想定外な事態が起きてしまいます。なんと、心臓を使った怪奇現象を起こさせても人間の同胞たちは全く懲りなかったのです!!」
    「本当にこびりついたカビじゃん」

  • 159二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:07:38

    「それどころかさらなる性癖発露に盛り上がる始末!!!ゆえにこそこの病院では膠着状態が続いてしまったのです!!!」
    「人間カビ菌VS怪奇現象、仁義なき戦い」「クソ映画のタイトルがこうして一つしたためられたな」「性癖発露で30分尺使ってそう」

    「私にはわかります、ロナルドさん」「へんな」
    「ニッチすぎる性癖は同胞を得るのが非常に難しい上に、発露も難易度が高いのです。理解者に囲まれた性癖同盟の人々がこの奇跡にどれだけ喜び、この場所を守ろうとしたのか、私にはわかります……!」「家でやれや」

    「あれ?じゃあどうして私たちが来た時に「アレ」はパワーアップしてしまったんだ?」
    「膠着状態になってたんなら、あのタイミングで事が起こったのはおかしいよな」


    「それには、もう一人のキーパーソンの名前を挙げねばなりません」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 160二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:13:50

    変態同盟を「素晴らしい見聞を持つ人間たち」って称するあたりさすがシンヨコの変態吸血鬼と言わざるを得ない……世界線変わってもシンヨコはシンヨコだったな……
    そして説明パートが相変わらず上手い、本当に分かりやすいし読みやすい

  • 161二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 23:26:05

    へんなが帰ってきて本当に嬉しい
    あの変態たちそんな有効な役割してたんだな…

  • 162二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 08:01:51

    ほしゅ

  • 163二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 13:13:48

    ちゃんと役割あったんだあの変態達…

  • 164二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 23:47:51

    「キーパーソン?」
    「はい、それは重要なキーパーソンがいたんです」
    ディックは再び口ひげを撫でる。


    「その方の名を、半田白氏といいます」「待てや」
    ロナルドは思わずディックを止めてしまった。

    「なんでそこで半田のお父さんの名前が出てくるんだよ!!あの人は一般人だろ!!多分!!」
    「多分といった時点でもうすでにそこで答えが出てるじゃないですか!本当に一般人か迷ってしまうあの強烈な顔圧とオーラ!物騒なもの持たせた時点で相手にいらぬ誤解を雪だるま式に提供しア〇ジャッシュが勝手に発生する恐るべき一般人ですぞ!」
    「事情聴取しても半田君のお父様事態は本当に悪気なかったのが困るよね」「誤解さえなければ善良な一般市民だからな……」

    「で、半田のお父さんが何したっていうんだよ」
    「彼が廃病院に現れたことにより、足りなかった畏怖を補強してしまったんです」

    「畏怖はより強い畏怖が現れるとそちらに引っ張られます。これが個人の吸血鬼とかでしたら畏怖を取られた方の吸血鬼が弱体化するだけなんですが、問題は「アレ」の効果範囲です」
    「「アレ」はあっちゃんに憑りついてるようなもんじゃないのか?核にしてるって言ってたんだし」
    「それだけではないんですよ」
    ロナルドの疑問点にディックが答える。

    「もっと正確に言いますと、「アレ」は病院全体を根城にしていたんです」
    「……これは私の推測も入るんだけど」
    黙って聞いていたドラルクが急に口火を切った。

    「「アレ」の巣を探してるって私始めの方で言ったじゃない?」「そういえばそんなことも言ってたな」
    「結果的にだけど、矢部病院全体がすでに巣になってたんじゃないかと思うんだよね」「はあ?」
    「私も同見解です。「アレ」は個体の吸血鬼ではなく、モヤのような本来は形のないか細いもの。モヤとしてはすでに矢部病院全体に憑りついており、取り込みきるまで秒読み段階だった」

  • 165二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 23:48:31

    「病院が憑りつかれると何が問題なんだ?」
    「病院内で起きた恐ろしい現象は全て「アレ」への畏怖、つまりパワーアップに繋がってしまうのです」
    ディックがひそかにジョンが給仕していたコーヒーをすすった。

    「半田白氏がひょんなことから病院に現れたことで、様々な人の悲鳴や恐怖を発生させました。まず最初にサンズ女史、そして性癖同盟のみなさまや半田氏やミカエラ氏。パニックはどんどん膨れ上がり、そして最後にとうとうドラルクさんたちのところまでたどり着き、恐怖の閾値を超えてしまった。そして、「アレ」は己の領域を発動させたわけです」
    「つまり、半田のお父さんが歩くホラー発生器だったから、変態で誤魔化されてた病院の怖い空気が完全に怖い方に振り切っちゃって、「アレ」がパワーアップ、俺達がピンチになったって事?」
    「ぶっちゃけその通りです」
    「半田君のお父様新手のSCPとかに登録されてない?」

    「ですが、まだ完全にロナルドさんたちを仕留めるには今少し畏怖が足りません。まだ獲物を口に含み、かみ砕いた程度。消化をする為にはさらなる畏怖が必要です。畏怖のパーセンテージ的に60%といった具合でしょうか。さらなる力を使うためにはもう少し恐怖を増やす必要がある。よって皆さんは分断されたわけです」
    「ここからは私、カメ谷が四つの視点をまとめておきましたよ!」
    カメ谷がいそいそとホワイトボードに書き込んでいく。

    ・ドラルク&透 首吊りした霊?
    ・ロナルド&半田 偽物カメ谷
    ・ヒナイチ&サンズ おままごとの吸血鬼?
    ・ミカエラ&野球拳 人間のグール

    「こうしてみると皆全然違う事が起きてんな」
    「なんかやってる事のスケールもまちまちだ」
    「相手にしてみれば何か一つでも刺さればそれで良いんです。一番重要なのは分断させることですから」
    「確かに全員集まってればそれなりに戦えるもんな」
    「そういう事ではなく」「?」

  • 166二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 23:49:04

    「人数が多いと安心感がでてくるんですよね。一人でお化け屋敷をさまようのと5~6人で会話しながらお化け屋敷に入るのとでは恐怖感がちがうんでしょう?」
    「この病院においてはどこまでも恐怖が基準なんだね」「ヌン」

    「じゃあ、あの黒い空間に取り込まれたのもまた俺たちの恐怖の閾値が超えたから?」
    「そうなりますね。おや、ロナルドさんは心当たりありますか?」
    「……まあ、な」
    ロナルドはカメ谷の影を見た時の事を思い出す。偽物の正体が分かった時の衝撃と、カメ谷相手に銃を向けなければいけないためらいはいまだに口に苦く残っている。だが当のカメ谷は
    「私も入りたかったです……!なんでわざわざ私を置いてったんですか「アレ」は!自分のドッペルゲンガーとかネタとして最高なのに!!」
    この調子である。
    「カメ谷もうちょっと自分の事大事にしよう?」

    「私もそういう意味では「アレ」のパワーアップに貢献してしまったかもしれないな」
    ヒナイチは自分の腕を見た。ヒナイチの場合、恐怖してしまった直接的な原因は自分にあるのだが、それすら相手のパワーアップに貢献してしまうのは厄介極まりない。

    「でもあの火のおかけで「アレ」にも攻撃が通ったんだぜ、結果オーライって奴だ」
    「今回の矢部病院に関しては間の悪さがひたすら災いしていますね」
    「ヒナイチ君結局VRCでの血液検査の結果はどうだったの?」
    「それが、普通の吸血鬼の血液と変らないとのことで、あの火についてはよくわからなかったんだ。結局あれ以来血液が燃える事なんてなかったし……」
    「ふむ、発動条件でもあるのもしれないな」

  • 167二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 23:49:32

    「そういえば、マイクr……ミカエラ達の人間のグールはどうなったんだ?結局あの後探しても見つからなかったんだろ?」
    「一旦しまったんじゃないですかね。まだ隠し玉として残してる気はしますよ。グールにできた人間はまだまだいた筈ですから。そのうち対峙することも視野に入れた方が良いでしょう」
    「そうだな……」
    ロナルドが落ち込んだような顔をしてしょげる。ドラルクはそれが妙に引っかかってしまい、さらに深堀をいれていく。

    「なんだい、君たちの話を聞いてると大量殺人でも起こったような口ぶりだな?そんなにグールにできるような事件、そうそう現代社会においておきるものかね?」
    「起きたとも起きていないとも言えますね」「何その返事」
    「それに関してはまだ口をつぐみましょうか。ここで深堀をするにはカロリーが高いので」
    「なんかあからさまにはぐらかされた気がするんだが!?」
    ドラルクがぎゃんぎゃん文句を言っているが、ディックは素知らぬ顔で話を続ける。

    「それでは、最後の暗闇について解説行ってみましょうか」

    ヌヌヌ(つづく)

  • 168二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 00:01:20

    解説わかりやすいなぁ
    元の世界で何が起きたかも気になりますね

  • 169二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 07:45:42

    半田パパの畏怖さよ…

  • 170二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 13:57:09

    白さんが怖すぎたせいで大惨事起きたの草
    へんな動物復活してよかった

  • 171二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:20:18

    「暗闇は「アレ」にとっての有利環境のど真ん中である事はお話した通りです。大体の生物はあの空間に完全に取り込まれた時点で詰みです。長くないのであきらめましょう」
    「詰みって……、私は体験していないからいまいちピンと来ていないんですが、そんなに不味いものなんですか?」
    カメ谷がそぼくな疑問を投げかける。
    「大抵の生物はあっという間に取り込まれますよ。ロナルドさんたちが取り込みに時間がかかったのは、私の月とロナルドさんやヒナイチさんたちそのものに強大な畏怖があったからですね」
    「取り込まれるとどうなるんですか?」

    ロナルドとヒナイチが顔を見合わせた。
    「「……溶ける」」
    「とけ……?」

    「あの暗闇は有利環境である以上にあの怪異にとって消化器官のようなものです。暗闇全体が消化液のようなもので、長時間いると、まず形が保てなくなります」
    「それが溶けるという意味ですかな?」
    「いえ、次に形を保てなくなった生物は「アレ」の性質に染まってくるんです。具体的に言うと体そのものが腐り、変質していって黒いヘドロに変化します」
    ドラルクはあっちゃんの根元から黒いヘドロがこぼれ落ちてきたことを思い出した。
    あれは、一部溶けていたということだろうか。

    「そして、最終的に「アレ」の一部として完全に取り込まれるのです。これをもって「アレ」の食事は完了したといえますでしょうな」
    「……随分と具体的な内容だが、まるで見てきたような語り口ですな」
    「ええ、実例を見ていましたので」
    ディックはドラルクの棘のある追及にしれっと返答した。

    「その時の事を詳しくお聞かせ願えませんか!」
    カメ谷がここぞとばかりに新ネタに食いついていく。
    「それは今回のお話とは関係ありませんのでノーコメントで」
    だが、ディックは優雅に微笑んではぐらかした。しかしこんなことで引っ込むカメ谷ではない。
    「ではこちらの没データ込みの秘蔵グラビアと交換というのは」「父さん私がかわりにお話をしてあげますよ!!」
    「待ちなさいフォン!このお話は父さんに来たものなのだからまずは父さんがカメ谷さんと交渉する必要がある。ところでカメ谷さんその秘蔵グラビアについてもう少し詳しく」

    ドガッ

  • 172二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:21:13

    「続きを言え」
    「「はい」」
    興奮した象鼻芋虫二匹がロナルドの拳によって鎮圧されていた。

    「では次に、あなた方が対峙した化け物、トラウマの塊は何だったのかという話をしましょうか。ドラルクさんは心当たりがあるのでは?」
    話を振られたドラルクがポリポリと頭をかく。
    「あー、まあね」
    「そういえばドラルクだけあの時別の場所にいたみたいだが、あれはなんでなんだ?」
    「特別待遇ってのもあると思いますけど、おそらく単純にあの時いた面子の中で一番消化しづらいからでしょうね」
    「なにその消化に悪い食べ物みたいな扱い」

    「ヌ゛ァーー……」「ジョンが凄い顔してる」
    「なんでドラ公は消化しづらいんだ?」
    ロナルドがこそこそとディックに尋ねる。
    「ドラルクさん、血の性質もありますけど、ちょっとやそっとの怪異や畏怖では動揺してくれないので。ほら、こちらで記憶がないとはいえ、元々生まれ育った時にいた比較対象のお爺様がアレでしょう?」
    「ああ……」
    ロナルドは少し納得する。確かにあの小さなゴジラ爺さんが隣にいればマヒしてくるのも仕方ないかもしれない。

    「話を戻しましょう。答えとしてはドラルクさんが隔離された場所が全てです。ドラルクさん、何が起きていましたか?」
    「病院内の記憶みたいなもの……、入院していた子供たちのトラウマ映像をグルグル何回も見せられていたよ。ロナルド君たちを襲っていた怪異とおおむねシンボルも同じだし、関係あるんだろうね。そして、これは推測ではあるんだけど」

    「あれは、あっちゃんくんの元になった子供たちの記憶なんじゃないかな」
    推測というにはきっぱりとした様子でドラルクが答えた。証拠はないが、ドラルクとしてはほとんどこれで相違ないだろうという態度だ。

    「それには私も同感です」
    「子供たちって……、なんでその子たちにトラウマをずっと見せなきゃいけないんだよ」
    「あっちゃんくんが「アレ」の苗床になっていてかつ、効率よく畏怖を得るためですよ」

  • 173二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:22:06

    「時間の進まぬゴーストたちに何度も同じトラウマを見せつけることで新鮮な恐怖引き起こせば、畏怖をいつでも得れるようになります。いわば「アレ」にとって燃料タンクの役割もあの子たちにあったわけです」
    「そんなのって」「それくらいはするでしょう?今までやってきたことを考えれば」
    ロナルドは黙りこくった。

    「ですが、ドラルクさんがトラウマの根本原因を排除していく事で事態は変わっていきます。ロナルドさん側では何が起きていましたか?」
    「えっ、だんだん出てくる化け物が減っていったけど」
    「はい、明らかに弱体化していますね。根本のエネルギーソースが減ったことにより「アレ」にとってやれることが減った。そしてヒナイチさんの炎により致命傷を受けてしまい、あの場の空間は瓦解してしまったわけです」
    「私、ほとんど暴走していたようなものなんだが、あれは良かったことなのか……?」
    ヒナイチが不安げに尋ねる。

    「暴走については考える必要もありますが、あの炎が決定打になったことは確かですよ。無ければもう少し手こずっていたでしょうね」
    「そうか……」「助かったのは事実だから、自信もって良いと思うぜ」「ヌン!」

    「そして、ロナルドさんの怪力も手伝って無事脱出となったわけですが……、なにか疑問がありそうですね、ドラルクさん」
    「いや、あの空間そのものに疑問がちょっとね」
    「お聞かせ願えませんかな?何かヒントを出せるかもしれませんし」

    「あの空間、空間そのものどころか、時間も大分歪んでいたけど、本当にこれ吸血鬼が起こせる事象なの?」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 174122/06/21(火) 23:24:32

    解説が終わらん……、終わらん……!

    明日は私事によりお休みです。

  • 175二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:45:32

    お疲れ様です 解説も楽しんで見てます!
    ドゥーブツ親子ほんと好き

  • 176二次元好きの匿名さん22/06/22(水) 07:09:36

    解説掘り下げ回ありがたいです

  • 177二次元好きの匿名さん22/06/22(水) 18:02:05

    お疲れ様です保守

  • 178二次元好きの匿名さん22/06/22(水) 20:24:22

    解説めっちゃわかりやすい……
    「アレ」に飲み込まれた者は溶けて消えてしまうとのことだけど、現在人とかダンピールに変化してる元吸血鬼はそうやってやられたのかな…

  • 179二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 01:15:48

    象イモムシになれてるってことはへんなにちゃんと変身能力があるのか

  • 180二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 07:11:09

    ほしゅ

  • 181二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 18:06:10

    存在消えてたへんなが戻ってこれたって事は、他の消えてる吸血鬼も戻ってこれる可能性あるってことか

  • 182二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 23:42:47

    「空間と時間が歪んでるって何ダイヤとパール見たいな事言ってんだよ」
    「今ならブリリアントとシャイニングをつけたいところだがそうではなくてだね。真面目な話、空間の歪みは100歩譲ってできても時間は普通歪められる?って話だよ」
    ドラルクが何か考え事をするように手を遊ばせる。

    「そもそも一応便宜上「アレ」の事を吸血鬼として扱ってるけど、行動は下等吸血鬼のように見えても使う能力がデタラメすぎる。かといって手を変え品を変え度々私たちの前に現れては危害を加えてくるが、高等吸血鬼のような人の形を持つわけでもないし、明確な意図が見えるわけでもない」
    「何が言いたいんだ、ドラルク?」
    「うーん、なんていうかキャラクター性とかそういうのが見えないんだよね。普通の吸血鬼ならもっと畏怖欲とかに振り回されてポンチするもんだけど、そういう欲は感じられない。虫っぽいって言えばいいかな」
    ドラルクが腕を組んで唸る。

    「畏れられたいからとかの人間味のある名誉欲とかじゃなくて、やってる行動が本能と走性で動いてる感じ」
    「……確かに「アレ」の行動に人間味とかは感じたことはねえな」
    「でも、完全に人間的な知能がないわけではない。そうじゃなければロナルド君に偽カメ谷くんなんて出さないでしょう?あっちゃんくんにだってあんな的確にトラウマ抉ることなんてできる?」
    「だが、最後の方は私たちに対する脅かし方も雑だったように見えるぞ?とりあえず盛ればいいというか」
    ヒナイチが最後に対峙した全てのトラウマがぐちゃぐちゃに混ざった怪物の事を思い出す。

    「だから、根本的な部分は上っ面だけなんだよ。知識としてそれが相手の恐怖を煽ることを知っているからやるけど、なぜそれがトラウマなのかの感情的な実感はない。笑ってくださいと言われても笑いの感情を知らないので、唇を引きあげ、目元を細めれば笑顔になるからそのように再現しているようなものだ。そこに実感はない」
    「なるほど。知識や知恵はあるが人間的な情は持たず、時間と空間を歪ませるような恐るべき能力を持って我々に危害を加える存在。ドラルクさんは「コレ」の正体をどのようにお考えですかな?」

    ドラルクは黙る。語り口に迷っているようだった。
    誤解のないように慎重に言葉を選び、そして言った。

    「私は、「アレ」が、次元が上の存在のように見える」

  • 183二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 23:43:37

    「次元が上?」「それはあれですか!二次元の雑誌グラビアが立体のエッチなお姉さんになって飛び出してくるとかそういう」「へんなは黙ってろ」

    ディックは口ひげを撫でる。
    「もう少し恐れずに踏み込んでみましょうか。貴方の推測は、そこまで的外れなものではないと私は考えていますよ」
    「……もっと分かりやすく言うのであれば」


    「「アレ」は、神や、精霊と呼ばれるものに近い存在なんじゃないか?」

    「神様?「アレ」が?」
    「誤解のないように言っておくが一神教とかのご大層な神とかじゃないよ。日本の多神教的な、あくまで神に近いモノであって、「アレ」が神そのものだとは思ってない。せいぜい神崩れだ」
    「そんな神モドキがなんで新横を執拗に狙ってるんだよ!新幹線が止まるとはいえスタジアムと変態吸血鬼くらいしか大した見所がない虚無の街だぞ!!虫ポ〇モンでいう二段階目のサナギ〇ケモンくらいの存在感しかない!」
    「黙れバカ私が知るか!今はせいぜい神モドキっぽい何かがありとあらゆる方法で地獄のシンヨコハッピーランドを作ろうとしてる事くらいしか分からん!!」
    「変態だらけのハッピーランドも最悪だが正真正銘の地獄からなるハッピーランドも最悪なんだが」
    「前門の変態、後門の地獄」「まだ変態の方がマシと言えばマシ」

    「大体、私ばっかり推測を喋らせられるのも癪なんだが!?」
    ドラルクはキッとロナルドを睨む。

    「若造、お前も「アレ」についてなんか知ってることあるんだろ!この期に及んで黙ってないでいい加減に全部話さんか!!」
    「だ、誰が話すか!?これは俺が墓場まで持っていく……」
    「ファーーーー???吸血鬼に墓場の概念なんてあるんですかーーー!?この吸血鬼のキホンのキもろくに知らないシンヨコハマアマゾン未開の地から突然現れたシンヨコハマキングコングのゴリルドくん!!」
    「うるせえフェイスロック!!」
    「いだいいだだだだだだ!!!!」「ヌーー!!」

    だが、今回のドラルクは関節技を決められても引かなかった。
    「暴力に訴えられようと引くか!もういい加減こっちも匂わせられっぱなしも飽き飽きなんじゃい!!」
    ドラルクがグイっとロナルドの顔に迫る。

  • 184二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 23:44:18

    「そろそろ喋ってくれたっていいだろう。今回、何かが狂えば「アレ」にそのまま取り込まれた可能性は十分にあった。この運が引けなかった時の可能性を君たちは知っているんだろう?」
    「ドラルク、それは」「ヒナイチ君も立場は同じだからね。若造が喋らないならヒナイチ君にだって尋問するよ」

    「……待て、尋問するなら俺にしろ」
    ロナルドが苦い顔でドラルクの矛先を戻させる。
    「へえ、じゃあ聞かせてくれるのかい?君たちに起きた過去の事」


    「絶対言わねえ」

    先ほどのうろたえ方が嘘のように、ロナルドは迫力のある眼圧でまっすぐにドラルクを見て言い切る。
    ドラルクは一瞬呆けたような顔になり、そしてじわじわと顔を歪ませていった。
    「そうかい、この期に及んでまだ黙ると」

    ジョンがビクッと体を震わせる。場の空気を察したへんながあわあわと象芋虫の手足をバタつかせた。
    カメ谷は淡々と二人の様子を記録し、ディックは黙ってシルクハットを目深にかぶった。
    ヒナイチも声音で分かる。

    怒っている、と。

    「君の頭脳には万全の状態で対策を練るという先行きを重んじる選択肢はないのかね?ないんだろうなあ私情を優先する五歳児だもんね~?報連相の言語スキルを取り損ねたゴリゴリゴリのウッホッホ君は余計な事をする前にシンヨコハマアマゾンの奥地へと帰ったらどうだい?もれなく吸血鬼化したセロリをお供に見送ってあげようか?」

    「誰がんなところ帰るか。あいにくアマゾンは宅配便でしか縁がなくてな。セロリもいらねえわ。クーリングオフしとけ」
    しかし、ロナルドが珍しい事にこの見え見えの挑発に乗らない。普段であれば関節技の一つや二つ飛び出してるはずだ。

  • 185二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 23:44:36

    「なんだと!?ではシンヨコハマ動物園に案内しようか。今なら類人猿同士の合コンパーティが開催されているとのことで君ならさぞかし立派なオスゴリラとしてもてはやされるだろうよ。よかったなモテ期だ。今ならゴリラのダインホくんともきっと仲良くなれるだろう。ねえジョン!」
    「ヌ、ヌー……」
    「悪いがしばらくその手の話題に参加してる暇はねえんだ。ダインホくんには謝っといてくれ。吸対のレポートあるし、ヒナイチ一人にどっかの常時ガリガリ貧血おじさんの世話を任せっぱなしにするわけにはいかないだろ?な、ジョン」
    「ヌ…」

    ジョンが返事に迷ってると、二人の間に明らかに亀裂が入るのが分かった。

    「ハイバカー!!カッコつけてマントつけてはいるものの階段でしょっちゅうマント踏みそうになってこわごわとドレスの裾持ち上げるようにマント持ってるバカー!!」
    「うるせえこの家系ラーメンで必ずハーフサイズで終わるしそれでも腹を下す胃弱弱おじさん外食したら大体小ライスかおかゆ食べてる!!」
    「お前が悪食すぎるんじゃ!!なんだニンニクマシマシラーメン真昼間から平気で食べおって!!行動が吸血鬼じゃないんだよ鶴見川で一人トライアスロンしてどぶ臭さで切ない顔でもしてろ!!!」
    「実際の鶴見川に入ったこともねえのにどぶ臭さとか言ってんじゃねえよ失礼だろ!!!」


    「……二人とも、いいかげんにしろぉおおお!!!!」
    かくして、ヒナイチの気合の入った怒声が会議室内に響いたのであった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 186二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 08:06:34

    乙です
    続きが楽しみ!

  • 187二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 18:41:27

    ほしゅ

  • 188二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 22:59:35

    ダイヤでパールとか時事ネタ入れてくるのよき……あとロナルドとドラルクの会話のテンポが原作そのものでさらによき……

  • 189122/06/24(金) 23:51:35

    次スレ立ててから投稿します

  • 190二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:56:18
  • 191二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:25:03

    >>190

    立て乙です!

    埋め🌼

  • 192二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 01:58:25

    うめうめ

  • 193二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 08:35:41

    うめ

  • 194二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 11:28:13

    乙です

  • 195二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 14:53:21

    ヌヌ(埋め)

  • 196二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 14:59:51

  • 197二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 17:44:01

    セロリうめ

  • 198二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 18:08:11

    セロリ

  • 199二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 18:08:37

    うめ

  • 200二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 18:09:09

    埋め

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