- 1二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:20:43
まだ薄暗い明朝。
私は朝食もそこそこに学園を抜け出して、彼のいる部屋のドアをそっと開けた。
「おはよう、トレーナー。まだ眠いだろうに、朝早くに来てしまってすまない。でも、どうしても顔を見ておきたかったんだ。今日は大事なレースだからな……」
いつ来てもこの部屋は何も変わっていない。まるで時間が止まってしまったかのように同じ姿を保ち続けている。
日当たりのいい窓辺、よくわからない機械、真っ白なベッド、誰かが来るたびに置いていくテーブルの上の果物籠。
「有馬記念……すごい数のお客さんが来るようだ。落ち着いてレースに臨めるか心配になってくる」
喋りかけても返事はないが、今更驚いたりはしない。
初めてここを訪れてからずっと変わらないことだからだ。
だから、辛くなんてない。
「私は人よりもずっと力が強いはずなのに、あのときは怖くて動けなかった。初めてだったんだ、誰かに直接悪意をぶつけられたのが。だからトレーナーが私を庇って……」 - 2二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:21:15
部屋の真ん中、ベッドで眠るトレーナーの顔は随分と血色がいい。まるで少し揺すればすぐにでも目を覚ましそうなのに、もう2か月は眠ったままだ。
どうして意識が戻らないのかお医者さんにも原因はわからないらしい。もしかすると明日目を覚ますかもしれないし、何十年経ってもこのままかもしれない。
「ううん、もう過ぎたことを悔いるのはやめた方がいいな。あの日、君が最後に言った通りだ」
穏やかな寝息。どんな夢を見ているのだろう。
布団をそっと捲って、私はトレーナーの胸に耳を当てた。
───とくん、とくん、と穏やかな鼓動の音が聞こえる。
目は覚まさなくても、彼が確かに生きていることの証。
苦しくて苦しくて、いっそ逃げ出したくなるほどの日々の中で、この鼓動だけが私をレースの世界に繋ぎとめている。
「生きている限り、望みはある。どんなに絶望的だったとしても、可能性が1パーセントでもあるのなら……私はそれを信じ続けていたい」
布団を元に戻して、今度はトレーナーの手を握る。
胸の鼓動ほど強くない脈拍を確かめるように、両手で強く。
「奇跡は起きる。いつか必ず、またあの頃のように笑いあえる日が来る。今日は、その証明に行こうと思う。……きっとそれは、私にしかできないことなのだろうから」 - 3二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:21:30
ふと、暗かった部屋に明るさが戻り始めた。
生きている限り朝は来る。さあ、今日も1日が始まる。
「見ていてくれとは言わない。ただ、この声が聞こえているならどうか祈っていてほしい。そうすれば、私は必ずここに勝利を届けに戻ってくる。───何故なら私は、"オグリキャップ"だからな」
私は自分の胸に手を当てる。
どうしたのだろう、近頃はすぐに乱れていた胸の鼓動が、今日はやけに安らかで。
ひょっとすると、彼のそれが伝播したのかもしれないと思った。
「……では、行ってくる!」
日が暮れるまでにはここに帰ろう。
そして夜が明けるまで話をしよう。
時間が進み始めたこの部屋を後にして、私は再び学園への道を駆け出した。 - 4二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:39:42
トレーナーのためにオグリは走るんやな...
- 5二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:40:06
トレーナーが倒れても折れないオグリ流石やね...
- 6二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 23:45:07
文章の各所にアプリ内の台詞やキャラソンの歌詞が入ってるのすげえ上手い
- 7二次元好きの匿名さん22/06/05(日) 01:32:41
カッコイイぜオグリ