ナリタタイシン「一生って、言ったよね」

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 23:51:24

     ※ 一応ラブコメのつもりです、一部えぐい描写ありますがハッピーエンドです

     ナリタタイシン
     今やこのウマ娘を知らないレースファンはいない
     そう断言できるほどの知名度が彼女にはある

     当初、彼女に注目していた者は皆無だった
     しかし、皐月賞で大本命ビワハヤヒデと対抗バウイニングチケットを打ち破り皐月賞ウマ娘となってからはダークホースとして、クラシック期間が終わる頃にはこの3名のウマ娘を世代の代表としたチームBNWの一角として認知された。

     そして、ある赤毛の少女。
     一気に頭角を現した、バスケットボール選手の彼女がタイシンを尊敬するウマ娘として挙げたこと。
     当初は全く期待されずレースに出ないべきとまで言われていたものの、新人トレーナーと契約を結んでからメキメキと実力を伸ばし、トップクラスの実力者となったこと。
     BNWは3人が認知される前からのライバル関係であり、その3人が綺麗にクラシック三冠の天下を分け合ったことが世間に知られると、タイシンの人気は爆発的に上がった
     
     期待されていなかったウマ娘が新人トレーナーと運命の出会いを果たし、本来格上のライバルたちと互角以上に渡り合うというサクセス、シンデレラストーリーは民衆の心を鷲掴みにしたし、ビワハヤヒデ、ウイニングチケットとの仲の良さもピックアップされた。
     
     URAとしても、これらの事項は広報に利用しない手はない
     当然BNWをプッシュする
     様々な要素が噛み合い、タイシンは一躍スターウマ娘となり、URAの歴史に大きく名を刻んだのだ

     しかし、これが栄光を掴んだウマ娘の光の面であれば、必ず影の面も存在する
     タイシンにとっての影も、すぐそこまで迫ってきていたのだ

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 23:53:44

    ほう、続けて?

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 23:55:22

    >>1

     タイシンは、その日一人だった

     久々に実家に顔を出そうとしていたのだ

     本日は6月10日、彼女の誕生日

     久しぶりに会う両親が実家でお祝いをしてくれるのだ


     トゥインクルシリーズ期間中は目の前のレースに精一杯、一時期不調に陥ったこともあり、帰省の余裕はなく

     トゥインクルシリーズが終わってからは連日の取材、テレビ出演があり、その合間に取り戻すかのようにハヤヒデやチケットと共に虫取りや海水浴など青春を謳歌、時間がなかった

     

     それからしばらく経ち、一区切りつき落ち着いたときに初めて、タイシンはロクに帰省していなかったことに気がついた

     これまで実家とのやりとりはメールか電話

     両親とも、自分が強引にトレセンに入学したことで引け目を感じていたことも理由に挙げられる

     しかし、帰省しようと考えなかった理由としては彼女のトレーナーの存在が最も大きかった

     タイシンはトレーナーを心から信頼していて、居心地がよく帰る気になれなかったのだ


     タイシンは、実家に向かうべくの駅で電車を待つ合間に、自身のこれまでについて想いを馳せた


     あと少しでタイシンが卒業するトレセン学園

     中央トレセン学園に在籍するウマ娘は、皆エリートであり、末端のウマ娘でも地方ならば無双を狙えるほどの才能の持ち主が集まる

     しかし、それでもやはり年頃の少女

     親が恋しいとホームシックになる子もいる

     そして、そうなるウマ娘は結果が出せていないことが多い

     タイシンもかつては結果がまるで伴わないウマ娘であり、実家が恋しくなったことがある

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 23:56:14

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 23:57:07

    >>3

     ─啖呵を切った以上、結果を出せずには帰れない

     ─ここで諦めて帰ったら、一生負け犬だ

     ─私をバカにしたヤツらを見返してやる!


     そう思って努力した、そしてまるで結果が出ない

     親友からも心配された、情けなくて仕方なかった

     そしてついには退学勧告

     絶望し、頭が真っ白になった

     どうすればいいのかまるで分からない

     終わりだ

     私は何もなせないままだ


     もうこの世から自分がいた痕跡ごと消えてしまいたい


     そう思い詰めていたところに救いの手を差し伸べたのが、トレーナーだった


     退学勧告を受け、とにかくなんとかしたいとガムシャラに走り込んでいた彼女に声をかけたトレーナーがいたからこそ、ナリタタイシンの物語は始まったのだ


     タイシンは言った

     ─私の場所はここだと証明する

     ─ウィナーズサークルに立ち、見返してやる

     

     何の成果も成長の芽も見せない、それでいてある程度経験を積んだトレーナーからは道を諦めるべきと説得されたようなウマ娘がそう吠えたところで、戯言だと嘲笑するか可哀想なものを見るような目を向ける者が殆どだろう

     それ以外は興味すら示さない

     トレセンを退学することになるウマ娘がよく口にする負け惜しみだと相手にもされない

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:01:26

    >>5

     だが、トレーナーはバカにしなかった

     正面から向き合い、タイシンの才能を認めた

     これが、タイシンにとっての救いとなった


     ビワハヤヒデもウイニングチケットもタイシンの才能を認めてはいたものの、2人は将来を有望視されるほどの実力を示していて、強者故の無自覚な傲慢からくる評価であることが否めず、友人だったからこそ同情からくる言葉として素直に受け取ることが出来なかった

     もちろん2人はまったく悪くない

     それでもタイシンの自尊心は傷ついたし、2人の期待に応えられない自身を恨むこととなった


     そんな彼女の、ほとんどの者が気づくことが出来なかった才能に、トレーナーは気が付いた


     タイシンは、血の繋がった両親にも実力を認められず、周囲から見下され、親友に応えられない自身の弱さを憎み嘆いた

     

     だが、才能を肯定された

     強くなれると


     弱い自分から変わろうと必死にもがいても何も変えられなかったタイシンは、はじめて強さを認められた

     彼女自身すら、自分の強さを肯定することが出来なかった

     しかし、タイシンは肯定されることを、することを望んでいたのだ

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:02:42

    >>6

     それからトレーナーと契約を交わしたタイシンは、メキメキと実力をつけた

     模擬レースは連戦連勝といかないまでも一気にトップクラス

     そのままクラシック三冠の一つである皐月賞参戦の資格を得て、勝利を勝ち取った

     周りが自分を見る目が変わった

     

     かつてはトレセン内でも落ちこぼれ扱いだったのが、不屈の闘志で立ち上がった強靭な精神力の持ち主に

     はじめて自分を肯定できた

     ここが自分の居場所だと胸を張って言えるようになった


     自分を見向きもしなかったトレーナーたちが、自分をスカウトしなかったことを失敗したと言っていた

     

     世間も自分をスター扱い

     本来格上の親友と並んでBNWと呼ばれることが誇らしかった


     それでも、タイシンは慢心することはなかった

     自分にトレーナーがついたことは幸運があったからこそと理解していた

     素直になれずつっけんどんな態度をとりがちだが、タイシンはトレーナーに感謝していた


     彼がいなければ、心が折れてトレセンを後にする、いたことさえ忘れ去られるウマ娘の1人になっていただろう

     そうなっていたら、タイシンは本当に終わっていた

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:04:41

    >>7

     このままずっと走っていける

     そう思っていた矢先、タイシンは大きく調子を崩した

     ハヤヒデとチケットが恐ろしいまでの急成長を見せ、精神性でもタイシンが持ち得なかった気高さを示した

     周囲を見返すための走りでは勝てない、しかしそれ以外の走る理由がなかったタイシンは焦った

     正直なところ、皐月賞一つで十分な成績だ

     もう見返すために努力することすら必要ない

     なら、なぜ走るのか

     心身の調子を崩したタイシンはトレーナーに懇願し、菊花賞を走るも17位の大惨敗

     三日天下のウマ娘と言われるようにもなった

     また何もない自分になるのか

     タイシンはまだ諦めたくない自身に苦しみ、悩み、迷った


     そして想いの全てを、まだ自分を見捨てないトレーナーに吐き出した

     アタシが自分を取り戻せるまで待つのか


     トレーナーはすぐに答えた


           一生でも!!!!


     …その言葉があったからこそ、ナリタタイシンはそこから復活した

     勝ちきれないレースは続くも掲示板は外さない

     BNWの中では格が落ちると評されるも、それでもその一線級の実力と存在感を示し続けた


     そうして無事にトゥインクルシリーズを終え、BNWの中で最も早く引退し、ハヤヒデもチケットも続くように引退した

     

     そうして、ハヤヒデ、チケットたちと共にトゥインクルシリーズに集中していた分まで遊んで、卒業まで僅かな期間を残すのみ


     将来に向けて備えるべく進学する大学の内定を得て今に至る

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:05:45

    >>8

     タイシンは、将来のビジョンを描く

     レースの賞金は十分で、金銭面の心配はない

     あとは実家の花屋を継いで心配性な母親を安心させてあげたいと考えていた


     しかし、そのビジョンにはまだ足りないものがある

     隣にいてほしい人がいないのだ

     タイシンは内心、誰がいてほしいのか分かっていた

     いつだって自分に嘘はつけない、自分が一番よく分かっている

     

     それでも、あえて無視した

     トレーナーと担当ウマ娘が付き合うのは難しい

     散々世話になったトレーナーに、もうこれ以上迷惑をかけたくなかったのだ


     回想を終えたタイシンは駅を降りる

     ちょうど実家最寄りの駅に到着したのだ

     数年振りの地元だ、少し見て回ってから帰ろうか

     お土産も買っていこう、何がいいか

     視界の端に映った、

     『故郷の星!ナリタタイシン!』をはじめとする垂れ幕やポスターに呆れながらも歩みを進める

     (期待なんてしてなかった癖に…)

     そう思いつつも悪い気分はしない

     タイシンは随分様変わりしたらしい故郷に足を踏み入れた


     この時、タイシンは気づいていなかった

     背後に危機が迫っていることに

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:10:46

    >>9

     ─気に入らない気に入らない気に入らない

     ナリタタイシンが気に食わない

     チビのくせに、ボッチのくせに、本当は大したことない奴のくせに


     ナリタタイシンの中学時代の同級生

     今は地元の高校に進学したある女子高生

     彼女は、とにかくタイシンが気に食わなかった

     

     ウマ娘だから容姿が優れていて気に入らない

     私が好きだった人はタイシンの容姿を褒め、近づこうとした

     タイシンが振ったのもウザイ、何様のつもりだ

     カースト底辺だったくせに時の人になってチヤホヤされてるのも気に入らない

     母親は私がタイシンを嫌いだったことも知らずに、凄い子だったのねえ、なんて褒める


     皐月賞を取ったのも気に入らない

     都心に遊びに行くついでに、トレセンの近くを通り掛かったらちょうどタイシンに会ったからバカにしてやった

     私が第一志望の高校に落ちたのに何かの間違いで中央トレセンに入学しやがって

     私は行きたい場所に行けなかったのに

     中学時代虐めてやったから、あの時も萎縮してきて気分が良かったのに、見返された


     彼女がタイシンを見かけたのは偶然だった


     ちょうどタイシンが駅から出てくる時

     友人2人と楽しく話していた時

     「ねえ、あそこにタイシンがいるんだけどさ…」

     2人とも、中学時代から一緒にタイシンをイビってやった友人だ

     私の提案にすぐ乗った

     ─お前にスターは似合わない

      今すぐ相応しい底辺に落としてやる

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:12:32

    これハッピーエンドか?ほんとにハッピーエンドつながるか??
    どう転ぼうが好物だけど

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:14:53

    >>10

     タイシンは、お土産に饅頭を買って帰路についていた

     あまり人が集まるところは好きではないし、ナリタタイシンであると誰かが言い出せば人が殺到するだろうから、人通りがあまりない土手のルートから帰っていた


     (お土産に饅頭って微妙かな…)


     あまりに久しぶりなものだから、微妙に実家との距離感を計りかねていたが、楽しみではある

     ─今回もトレーナーとみんながいたらな

     そう思わなくもない

     トレセンにいる間は、誕生日をトレーナーが主催となり、ハヤヒデやチケット、それに加えてマチカネタンホイザなどの夏合宿で交流を深めたメンバーたちが祝ってくれた

     毎年参加者が増えていった

     騒がしくはあったけど、それ以上にタイシンは嬉しく感じていたのだ


     今回も期待していなかったわけではないが、家族が折角祝ってくれるのだからと戻ってきた

     それはそれで楽しみにしていた


     トレーナーがきっかけで聞くようになったセカイ系ポップス

     その中からお気に入りの曲をイヤホンをウマ耳に入れて聴く

     

     もし、イヤホンをしていなかったら

     もし、物思いに耽っていなければ


     タイシンは気づいたかもしれない


     でも、そうはならなかった


     背後から投げられた泥団子が数個、タイシンに直撃した

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:15:00

    あかん

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:16:32

    いい年して泥団子作りにいそしむのかわいいね

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:19:21

    続きは!?続きがないと眠れないじゃん!?

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:20:28

    >>12

     泥団子を急に投げられたタイシンは、この段階では何があったか理解できていなかったものの、すぐに振り返った

     見覚えのある3人が泥団子を持ってニヤニヤしながら立っていた


     「イェーイ、私が投げたの2個当たった〜!」

     「え〜、あたし0個〜、じゃああたしがタピオカ奢りかあ、マジ下がる…」

     「つーかさ、あのタイシンの顔マジウケる!!ホントマヌケだわ、撮ってあるよホラホラ!」


     一瞬タイシンはあまりの事態に言葉を失うも、すぐに込み上げてきた怒りに任せて吠えた

     

     「あんたたち、何のつもりだよ!?

     いきなりこんなことして、どうかしてるんじゃないの!?」


     タイシンの怒りにもヘラヘラとした態度で3人は返す


     「だってさ、折角タイシンちゃん見かけたから遊びたいな〜って思って

     懐かしいでしょ、私たちと遊ぶの

     まあ泥遊びはしたことないけど」


     その様子を見たタイシンは更に怒りに燃え、3人に向けて足を進める

     お土産だってメチャクチャだし、ハヤヒデに選んでもらった服だって泥まみれだ

     到底許すことはできない


     詰め寄ると、タイシンは1人がスマホをカメラ状態にして録画していることに気がついた


     「いつまで撮ってんだよ、あんたは」

     「ありゃ〜?気づいちゃったあ?ざんね〜ん」

     「いやあ、このまま詰めよって来た時に転んで見せてそれを拡散してやれば、あんたの評価も地に落ちるってやつ?」

     

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:22:22

    うーん
    地獄の炎で焼かれろ

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:23:10

    ラブコメの意味しってる???

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:23:16

    ヒト娘さぁ・・・

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:28:14

    >>16

     それを聞いたタイシンは、カメラに気づいたことに安堵した

     切り抜きでもされたら誤解を招くし、トレセン学園にもトレーナーにも迷惑をかけることになる

     何より、ウマ娘はヒトより遥かに優れた身体能力を持つため、他人に対してその力を振るうことが厳しく制限されている

     (こいつら、それを狙って…)


     今までこんな直接的で大胆な嫌がらせはしてこなかったはずだが、今回はやけに大掛かりだ

     危険を感じたタイシンは、この場を離れようとする

     しかし、1人がタイシンに組みつく

     ウマ娘に敵うはずがない

     そんなことは分かっているはずだが、彼女の口は嗜虐心に歪んでいた


     「ねえ、タイシンちゃん

     ジャレついてるだけのヒト娘ちゃんを振り払って私が怪我したらどうなるでしょーか?」

     「……!?」

     

     振り払うだけなら問題ないだろうが、そうしたら怪我をさせられただのないことを宣うだろう

     病院で診察を受けて怪我をしました、と言えば診断書は大体発行される


     「それにさあ、1人よりも3人の方が説得力あるよね〜

     マスコミも大好物だよね?スキャンダル!」

     

     (こいつら…!?)

     

     タイシンは何もできない、ただ身を守ることしかできない

     手を出してはいけない、ということは大前提にしても彼女は優しいウマ娘だ

     相手が嫌いな奴でも、見返したいとは思っても苦しめてやりたいとは思わないし、そもそもそういう発想に至らない


     3人は、抵抗できないタイシンを嘲笑い、猛攻を開始した

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:44:56

    まだか

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:50:08

    寝れないから続きお願いします……

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:52:26

    >>21

    ちょっと食い違う部分があったので修正しながらになります、すみません

    >>20

     まずは手に持っていた泥団子を叩きつける

     その後、2人が服を思い切り引っ張り、1人が撮影する形となる 

     「くそっ…!?やめろよッ!」

     「そんなこと言わないで遊ぼーよ!

     いや、私たちに遊ばせて、なんちゃって!」

     「タイシンの貧相な体でもちょっとひん剥いて撮ればマニアのおっさんとかに売れそうだしさ

     ちょっと小遣い稼ぎに付き合ってよ〜!」

     「ふざけんなッ!」

     「ダメダメタイシンちゃん、スターウマ娘がそんな口利いちゃあ、ホラ笑顔笑顔!」

     3人は心の底から喜んでタイシンを苦しめた

     自分たちよりも上に立ったやつが、自分たちにロクに抵抗できないのが、本当に楽しい

     まるで、幼児がアリを潰すことを楽しむ延長戦のようだ

     「あれれ、泣いちゃって〜、 泣き虫だねえ」

     「お前みたいな奴がスターウマ娘なんてさ、相応しくないんだよ!」

     「昔っから気に食わなかったんだよねえ

     こっちはお小遣い細々やりくりしてんのにお前なんかが大金稼いじゃってさあ」


     昔、こうして3人に詰められたことがタイシンにはトラウマだった

     いくら強くても、みんなのことを考えるとどうしてもこの場で振るうことはできない

     相手が怖くて、自分がもたらす最悪の結果に怯えて動き出せない

     (助けて…トレーナー…助けて)

     いるはずのない男に、心の中で助けを求める

     それは半ば現実逃避じみた、あるはずのない奇跡に縋るような行為ではあった

     しかし、この場においては確かな現実となって形をなした

     

     「お前ら、何やってんだ!!!」

     タイシンが最も頼りにする男が、怒声を上げてこちらに走り込んできたのだ

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:05:15

    >>23

     突然怒鳴り込んできた男に、3人はギョッとした

     トレーナーは男性の中でもかなりの体格を誇っており、それが怒りを露わにこちらに走ってきている

     これまでタイシンに精神的に有利に立っていただけの3人は怯み、タイシンから離れた


     「大丈夫か、タイシン?…遅れて悪かった」

     「…トレーナー…?なんでここに…?」


     一度は怯んだものの、タイシンのトレーナーであることを理解した3人は、タイシンを侮っていたように、トレーナーにも強気にで始めた


     「そこのチビに稼がせてもらってるでくの棒がしゃしゃりでてんじゃねーよ!」

     「せっかく気分良かったのに水刺してきてさあ、ホント揃って空気読めないよね」


     「いい加減にしろッ!!!」


     ただでさえ声の大きい男が、タイシンすら聞いたことのない声量で怒声をあげた

     

     「こんな優しい子によってたかって恥ずかしくないのか!!?俺は何があったか見ていたんだ、何があろうとタイシンのために動く!!反省の態度も示さないっていうならこの責任はとってもらう!!!」


     あまりの迫力に、3人は黙り込んだ

     しかし、すぐに逆ギレし、カバンから水筒を取り出す


     「ちょっと、マジでやんの!?」

     「それはマジでヤバイって!!」

     

     ヤバイヤバイ言いながらも、どこか浮かれた様子を見せる3人に、トレーナーは呆れつつも警戒する

     こんなことをしでかした上で想定外の乱入者が現れたことから、さらに常軌を逸した行動に移ろうとしていることを察したのだ

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:16:49

    >>24

     「最近の水筒ってさあ〜、いいのあんだよねえ

     手頃なサイズの魔法瓶とか、お湯の量もちょうどよくってさあ〜」


     言いながら蓋を開けて、湯気が出ることを見せつけるようにする

     

    「さっきの泥団子投げの続きってことで、ボーナスゲェエーム!

     デカブツに当たったら10点、チビに当たったら100点、両方に浴びせたら200点で一気に優勝?みたいなあ…

     これでも喰らえよッ!!」

     

     言い終わると同時に、熱湯の入った魔法瓶をタイシン目掛けて投げつける

     どうやら高得点狙いらしい

     

     いくら強靭な肉体を持つウマ娘とはいえ、耐熱能力はヒトと大差ない

     

     タイシンは目を瞑った


     しかし、何も起きない


     少しずつ目を開けて、タイシンは、トレーナーが自分の前に立ち、熱湯を全て受けたことを理解した


     「トレーナーッ…!!」

     「アチい…、お前にかかってないか?タイシン」

     「アタシは大丈夫、だけどトレーナー、腕が…!?」

     

     タイシンの言う通り、トレーナーの右腕は真っ赤になっていた

     まだ湯気が立ち上っている

     

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:30:54

    ヒト娘のやってる事、普通に傷害で芝枯れる

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:31:13

    >>25

     「チェッ、10点かあ」

     「でもさあ、10点が100点庇うの問題じゃない?」

     「だよねー、マジ空気読めよな〜」


     あいつらは、何を言っているんだ?

     

     タイシンは、一度はトラウマから弱気になっていたものの、今の自身からマグマの噴火のような怒りが込み上げてきていることを自覚した


     ─許せない、許せない……!!


     かつてない怒りの炎に身を焼きながら、タイシンは3人に歩み寄った

     反省の素振りどころか、斜め上の方向に開き直った3人は、タイシンが近づいてきたことに気がついた

     ─また同じ目に遭いにきたのか、助けが来てもバカな奴

     心底侮った気持ちでタイシンの方を見る


     そこには、鬼がいた


     黒い影を纏った、青い焔を両眼に宿す鬼だ


     一握りのウマ娘だけが至ることのできる、ゾーンがある

     タイシンのゾーンの名はネメシス

     神話において、復讐、義憤の意味をもつ女神の名だ


     レースにおいてさ見返すという目的から生まれたものとして発現していたが、今は正に、義憤とでもいうべき感情から溢れ、凄まじいプレッシャーを放っている

     

     3人は、手に持っていたスマホ、水筒の蓋を落とした

     ─聞いてない、私たちが侮っていたタイシンが、あんなに恐ろしかったなんて

     このとき、3人ははじめて真の意味でウマ娘が力を振るう制限が法で厳しくされていることを理解した

     彼女たちは、ただの人など塵芥のようらに消し飛ばせるのだ

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:33:33

    心が弱いオタクだから胸が痛いよ…
    ハッピーエンドって明言されてないと挫けそうだ…
    早く幸せなタイシンを見せてくれよ…

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:43:33

    >>27

    タイシンは逃げようとして腰を抜かし、お互いに責任を擦りつけ始めたに、水筒とスマホを踏み潰し近づく

     分厚い水筒が一度踏んだだけで粉砕された様は、恐怖を与えた


     (こいつらのせいだ…!)


     トレーナーがこんな目に遭うなんて

     もはや、タイシンの中には自身を止めるものは残っていない

     タイシンが腕を振り上げると、3人は恐怖に顔を歪める


     しかし、タイシンが怒りに飲まれるきっかけになったのがトレーナーなら、止めるのもまたトレーナーだった

     「やめるんだ、タイシン!」

     「…何で止めるのさ…」

     「お前がそんなことをする必要なんてないからだ!!」


     痛みから復帰したトレーナーがタイシンに駆け寄る


     「タイシン、俺はお前が優しいやつだって知ってるんだ

     今のお前が俺のために怒ってくれてるのも分かる

     でも、見てみろ、今のあいつらを」


     言われてタイシンは3人を見やる

     泣きじゃくり、恐ろしくて逃げ出すこともできない姿がそこにはあった

     タイシンは顔を歪めた


     「お前は、こんなのを見て喜べるようなやつじゃない

     今感情のまま動けば、やり過ぎたことを後悔する

     嫌いな奴らが苦しんでるのを見て楽しめるような心を、お前は持ち合わせてないんだよ

     俺は、お前に後悔するようなことをしてほしくないんだ

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:52:51

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  • 31二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:54:44

    >>29

    (アタシが後悔しないように…)


     トレーナーの言葉に、嘘は感じない

     燃え盛る心の炎が次第に消えゆく

     

     タイシンは、踏みとどまる決意をした


     「…ありがとう、タイシン

     あとは大人の俺がやる番だ」


     言うと同時に、トレーナーはどこかに電話をかけ始める

     そこから、事件の収束が始まった


     まず、あの3人については警察に連れて行かれることとなった

     処罰はそれほど重くはないものの、全員親に今回の所業を知られることとなり、しばらく軟禁状態が続くようだ


     全て許すことはできないが、親たちは平謝りだった

     あんなバカ娘のために頭を下げるなんて、とタイシンは思ったが、親とはそういうものかとも思い直し、これ以上の罰は望まなかった


     次にこちらの方が大変なことになったが、URAとの調整が始まった

     特にナリタタイシンに瑕疵はないとされたものの、スター選手に今回のような事件が起きたとなれば黙ってはいない

     

     マスコミが余計に騒ぎ立てないように情報統制を行い、今回のことについて知るのはトレセン学園内では理事長ら数名とシンボリルドルフ程度だ

     どうも、名家シンボリ家はそういった繋がりを持っているようだ

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:55:42

    このレスは削除されています

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:00:20

    このレスは削除されています

  • 34二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:01:22

    触らず静かに供給を待つことすらせんのか……!

  • 35二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:06:12

    >>31

     やることが多すぎて結局その日のうちに処理は終わらず、タイシンの誕生日会は翌日以降に持ち越しとなった

     トレーナーはタイシンに対して謝罪したものの、タイシンとしてはトレーナーを責める理由もない

     しかし、気になることがあったので、トレーナーに質問した

     「ところでさ、アンタは何であそこに来てくれたワケ?」

     「あー…いや、それはだなあ…」

     トレーナーは若干躊躇したものの、意を決して答えた


     「実は、俺、タイシンの誕生日会に呼ばれてたんだよ」

     「えっ!?」

     「タイシンのお母さんからさ、サプライズでってことで

     それで時間になるまでちょっとふらついてたんだけど、それでたまたまタイシンとあいつらがいるところ見かけてさ」

  • 36二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:16:05

    >>35

     「最初は遠慮したんだけど、タイシンも絶対喜びます、って言われてうなづいちゃってさ

     …嫌だったかな」

     「…ううん、その方がいい」

     「……」

     「…何?どうかした?」

     「いや、こんな正直なタイシンも珍しいなって…ってイタイイタイ!足をツンツン蹴らないでッ!」

     タイシンはいつものように照れ隠しでトレーナーを軽く蹴飛ばす

     トレーナーは痛いことを軽くアピールしながらも、嬉しそうだった

     「…何笑ってんの」

     「タイシンが調子戻ってきたことが分かって嬉しくてさ

     …そう言えばまた3日後に改めてやるって言ってたんだよ、誕生会

     もう俺が来るのサプライズじゃなくなったし、一緒に行こうか」

     「…ん、楽しみにしてる」

     「ホント、今日のタイシンは素直…イタタタタ!」

     「ちょっとは懲りなよ、バカ」

     再びタイシンが軽く蹴りつけ、またトレーナーが笑う

     これが2人のよくあるやりとりで、こうすることで、お互いが本調子を取り戻しつつあることを理解した

  • 37二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:30:14

    >>36

    「トレーナー、あの時、助けに来てくれた時なんだけど」

     「…タイシン、嫌な時のことは別に思い出さなくても」

     「ううん、聞いてほしいんだ

     …アンタが助けに来てくれたとき、あの時、アタシは心の中でアンタに助けを求めてた

     そして本当にアンタが来てくれた

     …本当に嬉しかったんだ」

     「…タイシン?」


     空気が変わりつつあることをトレーナーは感じとった

     ─タイシンが大事な話を切り出そうとしている

     かつて、タイシンをスカウトしたときと同じような感覚

     人生の分岐点となり得る選択を切り出そうとしていることを、トレーナーは予感した


     「アタシがスランプになった時、アンタはアタシに一生って、言ったよね

     ─それってさ、担当じゃなくなっても有効?」

     「勿論だ」

     一生、と口にした時と変わらず、トレーナーは即答した

     タイシンが担当でなくなっても、助けを求められたならすぐに向かう気概が彼にはあった

     「じゃあさ、」

     タイシンはそう口にして、一度間を空けて、意を決して言った

     「その一生をアタシにください

     アタシ、アンタじゃないと駄目なんだ

     …アタシと付き合ってください」

     口にして、タイシンは目を瞑った

     トレーナーが助けに来てくれたときから、やはり、トレーナーは自分に必要な人だと思うようになった

     自分の描く将来の中に、いてほしいと強く願うようになったのだ

     今、タイシンは勇気を持って口にして、返答に怯えて目を瞑っている

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:32:42

    エンダアアアアアアアアァァァイヤアアアアアアアアァァァ!!!!(掛かり気味)

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:45:30

    >>37

     トレーナーは、先程即答した時とは打って変わり、考えた

     まず、当然トレーナーと担当ウマ娘としての立場がある以上、関係はよろしいものではない

     しかし、タイシンもそれは覚悟の上だろう

     そして、自分がタイシンをどう思っているのか

     トレーナーにとって、タイシンはパートナーであり、正直女性としてはあまり意識していなかった

     ただ、一人の人格を持つ者として、その在り方に敬意を持っていた

     その中で、自分はどう返事をするべきか

     立場を理由に断ることは簡単だが、タイシンの気持ちには建前を抜きにして向き合うべきだと思っている

     トレーナーは、目を瞑るタイシンに答えた

     「タイシン、俺はそれを男女の中になるってことで考えてるけど、合ってるよな」

     「…」

     無言ながらもタイシンは頷いた

     その様子を見たトレーナーは、言葉を続けた

     「俺は、タイシンを尊敬してる

     タイシンがいいやつだってことも分かってるし、多分、将来も一緒にいられたら楽しいと思う

     …その上で言うけど、俺は今答えを出せない

     まだ自分がタイシンを好きなのか分かってないんだ

     この気持ちがトレーナーとしての気持ちなのか、女性を愛する気持ちなのか」

     その言葉を聞いたタイシンは瞳に涙を浮かべ始める

     ─やっぱりダメだった、振られた

     顔を俯かせる

     「だから、日間待っててくれ」

     「え?」

     今度は顔を上げ、トレーナーの目を見る

     「2日で答えを出す」

     誕生日会の前で、区切りがつく

     俺の気持ちを整理して伝えるよ

     だから少しだけ待っててくれ」

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:55:07

    >>39

     「……っていうのが、俺と母さんが結ばれたきっかけってワケだ、息子よ」

     「母さんから言わせてんじゃん

     父さんちょっと情けなくない?」

     あれから20年、トレーナーはタイシンの気持ちを受け入れた

     

     そして、それに至るまでの経緯を多少省きつつ、息子に話していた


     「それで、誕生日会が付き合ってることを報告する会にもなってな

     いやあ、おじいちゃんにはメチャクチャ怒られたよ、教え子の娘に手を出しやがってって」

     「だろうね

     そりゃこんなデカい大人が学生と付き合うわけだもん」

     「お前のそういう厳しいところは母さんそっくりだなあ…

     そこまで言われると傷つくぞ」

    「本当のことでしょ」

     トレーナーは息子に容赦なく切り捨てられ、撃沈する

     タイシンは久しぶりにハヤヒデ、チケットと会いに行っておりいない

     そんな状況で息子にせがまれて話したというのに厳しい言葉を投げかけられ、トレーナーは落ち込んでいた

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:12:46

    >>40

     「でもまあ、母さんはなんだかんだで幸せそうだし、悪くなかったんじゃない」

     「おお、珍しくフォローしてくれるな…いでっ!照れ隠しに蹴ってくるのもホントそっくりだ」

     トレーナーであった男は現在はタイシンの実家である花屋を継ぎ、店主となっていた

     元々正直な男であり、告白されたとはいえ生徒に手を出したのだからと辞職、そのまま次の職を探していたところ、家業を継がないかとの話が出たことからどう見ても花屋に似つかわしくない男が名物店主の花屋が産まれることとなったのだ


    「すみませーん、店員さんいますかー?」

    「はーい!只今ー!!」


     客が来たことで、応対のために向かう元トレーナーだった男は、今日も店を切り盛りする

     昔はトレーナーをずっと続けていくものだと思っていたが、今は違う職につき人生を歩んでいくこととなった

     だがそれでも、彼には家族がいて、自分を好きでいてくれる妻がいて幸せに過ごしている

     彼はいつものように幸せな日が続くように祈りつつ、今日も家族のために働いている

                        完

  • 42二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:13:23

    こいつらうまぴ(ry

  • 43二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:13:46

    おつおつ
    いいお話でした!

  • 44二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:17:20

    >>41

     まず初めに申し訳ありませんでした

     そもそも内容が人を選ぶものであったり、後半に行くに連れて雑になり、完全に方向を失っていました

     途中で修正しながらになり、やたらと時間もかかりました

     お怒りになった方がいたのも当然です

     今後は反省を活かし、ちゃんとしたものをお出しできるように勉強してきます

     お目汚し失礼しました

  • 45二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:19:38

    なにをおっしゃいますか、こっちはすごく楽しく読ませていただいたんですから!
    あと、お怒りっていうのが文句をつけてるやつのことならあまり気にしないほうがいいですよ
    ほかのSSスレとかにも出てるやつなんで

  • 46二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:38:22

    いやー良いものを見させて貰いました

    ちょっと話変わるけどデカくて厳つい花屋って言うと烈火の土門が浮かんだ
    アイツもちっちゃい娘に好かれてたし

  • 47二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 10:10:32

    >>46

    やめろ俺のタイトレのイメージがパイナップルオッ○イゴリラになるだろうが

オススメ

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