【SS】迷子のスズカさん【オリウマ娘注意】

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:01:30

    閲覧注意です。どの地雷にも配慮していない俺得SSです。中途半端に史実…史実?を齧っています。百合のつもりはないです。死ネタではありません。たぶん。閲覧注意です。あとクソ駄文です。書くの不慣れで遅いしキャラ崩壊あるかもしれませんがよろしくお願いします。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:02:32

    寝落ちしたらすみません。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:08:45

    あ、めちゃくちゃご都合主義ふんわり適当描写なので予めご了承ください。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:09:00

    「えっ!? もうこんな時間!?」
     その日、サイレンススズカはマチカネフクキタルと伴走する約束をしていた。走ることは好きだし久しぶりにフクキタルと伴走するのも良いなと思い二つ返事で引き受けたのだが、うっかり寝坊しててしまったらしい。約束した時間を十分ほど過ぎていた。
    「どうしよう……急いで準備しなきゃ」
     慌てて飛び起きて手早く準備をする。あまりにも慌てていて立てた音が大きかったのか、スペシャルウィークが「そんなに慌ててどうしたんですか……?」と目を擦りながら起き出した。
    「フクキタルと約束していたのに寝坊しちゃったの!」
    「え? スズカさん? フクキタルって」
    「それじゃあスペちゃん、行ってくるわね」
    「あ、はい、行ってらっしゃい……?」
     寝起きだからか困惑しているスペシャルウィークに見送られて、スズカは大急ぎで寮を飛び出した。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:14:44

    保守支援

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:19:39

     午後のことである。スペシャルウィークが食事を摂っていると、スズカが食堂に姿を現した。一緒に食事でも、と誘おうとしてなにやらきょろきょろと辺りを見回しているのに気づいた。どうやら誰かを探しているようだ。すると、ふとスペシャルウィークと目が合ったスズカが早足で近づいてきた。
    「スペちゃん」
    「はい?」
    「フクキタル見なかった? 朝から会えてなくて……」
    「え?」
     スペシャルウィークが首を傾げると、その仕草をどう受け止めたのかスズカが説明を始めた。
     曰く、午前にフクキタルと伴走する約束をしていて、うっかり寝坊してしまい遅刻してしまった。慌てて待ち合わせ場所に行くとフクキタルの姿はなく、他のウマ娘に声をかけたが知らないと言われた。スズカが遅れたからといって帰ってしまうような子ではないと思うが、どこにも姿が見えなかった。あちこち探し回ったが未だに会えていない。
     以上の説明を受けても、スペシャルウィークはやはり首を捻るしかなかった。
    「あの、スズカさん」
     考えても考えてもやはりわからなかったので、スペシャルウィークは思いきって聞いてみることにした。
    「その、フクキタルって誰ですか」
    「え──?」
     なにか変なことでも聞いてしまっただろうか。スペシャルウィークの言葉に、スズカが目を見開いて驚いていた。
    「フクキタルよ? えっ、スペちゃん本当に知らないの?」
    「はい」
    「占いと開運グッズが好きなあの菊花賞ウマ娘よ?」
    「菊花賞? いえ、知りませんけど……」
    「え……どうして……そうだ連絡」
     唇を戦慄かせて覚束ない手つきで携帯を取り出し、なにやら操作をしたスズカの顔が真っ青になった。
    「スズカさん? 大丈夫で──スズカさん!?」
     ポケットに携帯を仕舞ったスズカが脱兎のごとく駆け出した。尋常ではない様子のスズカに様子を見守っていた他のウマ娘もぎょっとして手を伸ばしたり声をかけたりするが、それらすべてを振り払ってスズカが食堂を後にした。
    「スズカさん……?」
     取り残されたスペシャルウィークは、事態がよく分からずただ呆然としていた。

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:34:01

     スズカはフクキタルの部屋の前に来ていた。ここまでずっと走ってきたため荒くなった息を壁に手をついて整えた。
    (スペちゃんが、フクキタルを知らないと言うなんて……)
     スペシャルウィークは、フクキタルのことを知っていたはずなのだ。彼女たち二人にそこまで交流はないが、スズカを通すなりレースなり学園の行事なりで顔を合わせる機会というのはそこそこあったはずだ。だから、スペシャルウィークがフクキタルを知らない者と扱うことは、スズカにはひどく不自然に感じられた。
    (フクキタル……)
     先ほど見た携帯の画面。たくさん並んだ連絡先のどこにもフクキタルの名前はなかった。それどころか、今までやってきたはずのやり取りさえ「最初からなかったかのように」消えていたのだ。しかしスズカには昨日も会って話した記憶も、今朝の為に昨夜も連絡を取り合った記憶もあった。なにかがおかしい。スズカの頭の奥で警鐘が鳴っていた。
    (たしかめ、なきゃ)
     恐ろしい想像をして、こみあげる得体の知れない不安を払拭するためにも確かめなければと強く思うのに、それ以上の恐怖がスズカを尻込みさせる。
    (フクキタルが、いなかったら)
     昨日まで普通に話して、走っていたあの明るい友人が「存在しなかったとしたら」。そう思うと手が震えた。
    (……そうだ)
     スズカの記憶の中の、フクキタルの部屋の前。未だにその扉をノックする勇気が出せないスズカは、携帯を取り出すと素早く検索エンジンを開いた。フクキタルはそこそこ成績を出していたはずだから、名前を検索すればヒットするのではと思い至ったのである。
     ここでトレセン学園の名簿に考えが至らない辺り、スズカは混乱してもいたしやはり躊躇していたのである。
    「ぇ……」
     はたして結果は無情であった。
     検索結果が見つからない、と表示されたメッセージに、スズカの指が震えた。
    「そ、そうだトレセン学園の……」
     それでもスズカは諦めなかった。トレセン学園のホームページを呼び出して生徒一覧を見る。高等部、中等部。隅から隅へと目を走らせて確認するが、どこにも「マチカネフクキタル」の文字が見当たらない。ぱっと飛び込んできた「マチカネ」に一瞬指が止まるが、求めていた名前ではなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:34:35

    …文字数多い気がするのでちょっと次から減らします。

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 00:39:53

    「嘘、でしょ……?」
     呆然と携帯の画面を見つめて、それからのろのろと緩慢な動作でスズカは顔を上げた。スズカの記憶だとフクキタルの部屋のはずの扉。スズカにとってはここが最後の砦のようであった。
    「…………」
     意を決して扉を叩いた。沈黙。少し待って、スズカはもう一度扉を叩いた。扉はうんともすんとも言わない。
    「フクキタル……いたら、返事をして」
     扉にぺたりと手と額を当てて呟くように言ったスズカの声は、懇願に震えていた。それでもやはり扉は沈黙しか返さない。
    (……フクキタルは出かけているだけ、だったりして)
     有り得ないとわかっていながら、往生際悪くもスズカはそう考えた。そうでなければなんだというのだ。昨日までいたはずの友人が「存在していない」など、誰が信じられるものか。誰しも自分がおかしくなったなどと思いたくはないのだから。

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:02:46

    次シーンより、オリウマ娘注意です。

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:03:06

     どれほどそうしていただろうか。祈るように頭を傾けたスズカの行為は、不意に差し込まれた声によって中断されることとなった。
    「おや、スズカちゃんじゃないですか」
     知っている声に少し似ているが、それでもスズカの求めているものではない声が、スズカの耳へと飛び込んできた。
    「私の部屋の前でどうされました?」
    「!?」
     知らない声の言葉に、スズカは勢いよく声のした方を見た。
    「フクキ、タ……ル……?」
     いいえ違う、とスズカは心の中で否定する。
     困惑するスズカの視線の先には、ウマ娘の少女が立っていた。フクキタルとよく似た顔立ちをしているが、彼女よりも大人っぽく髪は長めで、さらに彼女と違って髪飾りは一つしかしていなかった。右耳の近くにつけられた見慣れた色合いのリボンだけで、開運グッズのないその頭には少し違和感があった。
    「貴女は……?」
    「えっ、スズカちゃん私の名前覚えていないんですか? ■■■■■■■■ですよ!」
     ショックを受けたような顔で紡がれた名前はまったく聞き覚えのないもので、スズカは思わず首を傾げた。その仕草にスズカが本気で自分のことをわからないのだと悟ったらしい。少女はしょんぼりと肩を落としたがすぐに切り替えて笑顔を浮かべた。

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 01:31:42

     その笑顔に心苦しくなったものの、このフクキタル似の少女にはやはりまったく見覚えがなくて、彼女の名前も全然聞き覚えのないものでスズカは混乱していた。
    「スズカちゃん、この後はなにか用事でもありますか?」
    「え、いえ、ありません、けど」
    「なら、私と伴走してくれませんか?」
     きら、と目を輝かせて問いかけてきた少女に頷いて、それじゃあ早速行きましょう、と歩きだした少女の後ろをついて歩いた。スズカの頭はまだ混乱している。それもそうだろう。友人がいないことになっていて、本当にいないのかと怖くなって確かめにきたら似た顔立ちのウマ娘に捕まったのだ。なまじ顔が似ているので、見ていると「マチカネフクキタル」はスズカの見た夢なのではとさえ思えてきてしまう。
    (……いいえ。たしかにフクキタルは存在していたわ。していたはずよ)
     あまりにも状況に否定されすぎていて断言ができなくなってきてしまっているが、それでもスズカは覚えているのだ。
     フクキタルに差された神戸新聞杯を。
     フクキタルの様子がおかしくなったあの菊花賞を。
     フクキタルを正気に戻せた金鯱賞を。
     フクキタルから貰った、あの開運グッズの重みを。
     すべてをスズカは鮮明に思い出せる。あれが夢幻だとは到底信じられるものではなかった。

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 03:45:17

    保守

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 07:41:03

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 07:42:27

     かといってここまでなんの痕跡もなく、見覚えはないが彼女によく似たウマ娘が目の前に現れると、少しだけゆらいでしまうのもまた事実だ。かの「マチカネフクキタル」は本当に存在していたのか、この目の前の少女と混同して見てしまった夢なのではないか──夢にしては、些か長すぎるような気もするが、少女を目で追っていると頭の中がそう塗り替えられていくような錯覚を起こすのは事実だ。
    (■■■■■■■■……やっぱり聞いたことないわね)
     スズカにいろいろと話を聞かせる少女の少し後ろを歩きながら、スズカは検索欄に少女の名前を入れた。
    (■■■■■■■■……■■■■■■■■……この子ね)
     ずらり、と検索結果に並んだ文字を斜め読みすると、どうやらそこそこ結果を出している少女のようだ。G1タイトルも数個見受けられた。
    (あれ、このレース、私が一着じゃなかった?)
     とあるレースでスズカが二着、となっている記事が目に入って、それならこの少女のことを知っているはずなのではと疑問に思った。ついでにトレセン学園のホームページにもアクセスして名前を探す。今回はすぐに見つかった。どうやらこの少女はスズカより上の学年らしかった。

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 07:46:00

    誤字脱字あったらそっと教えてくれると嬉しいです。

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 09:09:40

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 09:25:15

    「あ、そういえばスズカちゃん、この前の宝塚記念は一着おめでとうございます」
    「え、あ、ありがとうございます……?」
    「前のレースじゃ負けちゃいましたけど、次は負けませんからね」
    「え、えぇ……えっと」
     急に振られた話に戸惑っていると、そんなスズカの様子を不審に思ったのか前を歩いていた少女が足を止めてくるりと振り向いた。どこか探るような目線にスズカも思わず足を止めた。
    「……スズカちゃん、今日少し様子おかしくないですか?」
    「えっ!?」
    「熱……はなさそうですけど……」
     す、と額に手を当てられた。少女の手は随分と冷えていた。
    「思えば部屋の前で会ったときから様子がおかしかったですよね。大丈夫ですか? 保健室に行きましょうか」
    「いえ、大丈夫、です」
     心配させただろうか。途切れ途切れながらスズカが答えれば、すっと目が細められた。
    「敬語」
    「え?」
    「どうしたんですかスズカちゃん。今まで私に敬語なんて使っていなかったのに……私がなにかしましたか?」
    「そういうわけじゃ」
    「スズカちゃんはマイペースでレースバカなところがあるので私の名前を忘れちゃったのはいつものうっかり天然だと思っていたのですが……」
    「待って……私いつもそんななの……?」
     聞き捨てならない言葉であった。そんな覚えはまったくない。今までだってそんなことはなかった。スズカの背中を冷たいものが滑り落ちた。

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 13:05:28

     狼狽するスズカに、なにか思いあたったらしい少女は視線を緩めた。
    「昨日タキオンちゃんに会ったりしませんでしたか?」
    「えっ……会ってない、けど」
    「そうなんですか?」
     なぜアグネスタキオンの名前を、と思うが彼女のトレーナーを思い出してああと頷いた。時たまタキオンの投薬実験に付き合った彼女のトレーナーが発光しているし、そういう不可思議な事象を引き起こせる彼女の実験に付き合ったから今の状態になっているのかもしれない、と考えたのだろう。
     直近どこかでタキオンと接触しただろうか、と考えるが全然浮かばなかった。
    「忘れているだけ、だったりしませんかね……スズカちゃん、やっぱり伴走は中止です」
    「え?」
    「タキオンちゃんに話を聞いてみます。スズカちゃんは……部屋で待っていてもらえますか? あ、私の部屋ではなくてスズカちゃんの部屋ですよ」
    「……わかったわ」
     有無を言わさぬ声色で言われて、大人しくスズカは従うことにした。その場で少女と別れて、寮の自室へと向かって足を進めた。
    (どういうこと……?)
     タキオンの薬で、スズカの今までの記憶が塗り替えられでもした、ということなのだろうか。スズカには信じがたいが少女のあの様子は完全にタキオンを疑っていた。

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 20:23:33

     少しずつ話は見えてきたがそれでもまだ納得のいかないスズカは、自室に帰りながら会った知人たちに聞いて回った。しかしスズカの思いとは反対に誰もフクキタルのことを知る者はいなかった。やはり、フクキタルの存在というのはスズカの錯覚であったというよだろうか。
    (でも、たしかにフクキタルはいたわ。間違い、ない)
     ゆるく頭を振って、言い聞かせるように思考した。顔も声も仕草も口調も、すべて鮮明に思い出せるというのにこれらすべてがまやかしだのと、あまりにもひどすぎるではないか。
    「……ただいま」
     部屋に着くと、どうやらスペシャルウィークはまだ帰ってきていないようだった。思えば彼女の反応でやっとこの異常に気づいたのだ。あのときは余裕がなくて逃げ去るように食堂から出ていってしまった。最後に見たスペシャルウィークの困惑の表情が脳裏に浮かぶ。
    (あの■■■■■■■■というウマ娘……私の記憶にはなかったわ)
     少女を待つ間、スズカは再び携帯を手にしていた。少女の名前を入れて検索して、できる限り情報を頭に入れる。
    (……菊花賞は、彼女が獲ったの? 神戸新聞杯……には出走していない。私が一着おいうことになってる)
     レースの結果や出走情報は、伴走のために向かう道中でもある程度見ていた。

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 23:20:16

    (このレースはフクキタルも勝っていた……このレースは……)
     スズカの知っている結果もあれば、あの少女がいることで変わっている結果もある。
     ぴたり、と情報を集めるべくスクロールしていた指が止まった。なにかのインタビュー記事だろう、あの少女について書かれたネット記事があった。
    (実家が、神社……?)
     フクキタルの実家も神社だったはずだ。再びでてきた妙な共通点に、スズカは眉を寄せた。そういえばフクキタルにはたしか、姉がいたはずだ。
    (でもこの記事には一人っ子だって書いてある……妹はいないのね)
     フクキタルに似た年上のウマ娘、実家が神社で、複数被る戦績──やはり関係がないとは思えなかった。しかしフクキタルはスズカの記憶にしか存在していない。壮大なドッキリではないだろう。ここまで手のこんだ悪戯などただの悪趣味だ。自分以外の誰も彼女のことを知らないなんて、まるで自分の頭がおかしくなったみたいだ。
    (フクキタル……)
     こんこん、と控えめに扉を叩く音がした。スペシャルウィークが帰って来たわけではないだろう。ここは彼女の部屋でもあるのだから、スペシャルウィークであればわざわざノックなどする必要がないのだ。
     では、一体誰が?
    「スズカちゃん? いますか?」

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:20:46

     聞いたことのある声に、あの少女が用事を終えて来たのだろうということを理解した。タキオンのところになにを聞きにいったのか、大体の予想はつくものだがはたして。
    「■■■■■■■■……」
     少女の名前を呟きながら立ち上がり、スズカは扉を開けた。やはりそこには少女が立っていた。
    「あ、スズカちゃん。ちゃんと待っていてくれたんですね」
    「ええ」
    「待っていてくれるとは思っていましたよ? ただ、戻ってきたらいつものスズカちゃんに戻っていないかな……と、少し期待しちゃっていました」
     やっぱりまだ私のことがわからないままなんですね、と酷く寂しそうな表情で少女が言った。あまりにも悲しそうなその姿に罪悪感を抱いた。しかし、どれほど記憶を探ろうとも少女の影はまったく見えなかった。
    「タキオンちゃんから話を聞いてきましたよ……まあ、あの子は今回本当に無関係だったみたいですが、それでもなかなかの収穫でした」
     タキオンは無関係。
     これでタキオンの実験に付き合って記憶が改竄されたのではないか、という懸念はかき消えた。なんらかの副作用や効能によるものなのではという疑念は未だ消えないが、可能性の一つは消えた。

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 12:07:12

     ……ただ、タキオンという今のところ最大の可能性が潰えたため、スズカを取り巻くこの事象の原因探しは振り出しに戻ることとなる。
     夢にしてはやけにリアルで、しかし現実にしては記憶の辻褄が合わない世界。
     いったいどうしてこんなことになっているのだろうか。
    「スズカちゃん、私とお出かけしましょうか」
    「えっ」
    (この流れで?)
     脈絡もなく落とされた提案にスズカは驚いた。しかし冗談を言っている風でもない。なにがどうしてそういう発想にいたったのだろうか、と思うがしかし断る理由もない。少女の思惑はまったくわからないが了承することにして、スズカは外へと出た。
    「少し歩きますが、構いませんか?」
    「ええ、大丈夫よ……どこまで行くの?」
    「ふふ。それは着いてからのお楽しみですよ」
     現場に着くまで話す気はないらしい。少女は微笑むと先行して歩きだした。ゆったりと歩く少女の後ろを、スズカも大人しくついて歩いた。
    「ねえ、■■■■■■■■」
     しばらく歩いていたが、どうしても気になったことがありスズカは少女に声をかけた。少女は不思議そうな顔をスズカへ向けた。
    「なんですかスズカちゃん」
    「貴女、妹はいる?」

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 12:25:23

     少女の足が止まった。顔を俯けていたためそれに気づかず数歩先へと追い越して、スズカは振り向いた。
     少女は無表情だった。
     やはりフクキタルに似ているな、とスズカは思った。彼女よりも凛々しい表情をしていて、瞳の煌めきがないが、それでもやはり彼女に通ずるものがある。
    「■■■■■■■■……?」
     ぱち、と瞬きをひとつして、少女は微笑んだ。形だけの笑みだ。
    「……なにを言っているんですかスズカちゃん。いませんよ、『私』に、妹なんて」
     静かな声で、薄っぺらい笑顔を張り付けて少女が言った。有無を言わさぬ声音にでかけた言葉を呑み込んだ。
    「それにしてもスズカさん、どうしてそう思ったんですか?」
     歩みを再開した少女がスズカを追い抜いた。その足は先ほどよりも早い。そして振り向きもせずに少女はどこか固い声音で聞いてきた。
    「なんとなく、そう思ったの」
    「へぇ」
     それだけ言って、それきり少女は黙り込んでしまった。気まずい空気が流れるが、下手に喋ると更に空気が重くなりそうでスズカにはどうしようもなかった。

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 20:59:55

     少女に連れて行かれたのは神社だった。神社の階段を一段一段上っていく。
    「タキオンちゃんが面白い仮説を聞かせてくれたんですよ」
     ようやく、少女が口を開いた。
    「スズカちゃん、今日会った中で知らなかったのは私だけですか?」
    「え、えぇ……」
     脈絡のない質問だ。前述のタキオンの話とはなんら関わりのなさそうな質問に少女の意図が読めず、スズカは困惑のまま素直に肯定した。言ってから、少女が傷つくのではという可能性に思い当たる。
    「ふうん」
     少女の反応は存外呆気ないものであった。また一段上る。
    「スズカちゃんの記憶と、今見ているこの景色に差異はありますか?」
    「変わらない、と思うけど……どうしてそんなことを聞くの?」
     この景色、という言葉に石段から見える景色に意識をやるが、そこには見覚えのある景色が広がっていた。スズカにとっての差異は、フクキタルと少女だけ。それはとても異質なことのように感じられた。
    「さっき、スズカちゃんは私に妹がいるかと聞いてきましたよね」
    「ええ、そうね」
    「スズカちゃんは私が一人っ子だってことを知っているはずなのに今さらどうして、と思いましたがタキオンちゃんの仮説通りだとすれば一応納得はできます」
    「仮説?」

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 21:59:48

     スズカの状態に対して少女が知っていることは少ない。知人に似た知らない少女の姿に戸惑っていたからフクキタルのことは聞けず、せいぜいスズカが自分のことを知らない(忘れている)だけだと思っているのではないか、と思っていた。だからその情報ではあまり納得のいくような仮説は立てられないのではないのだろうか。
     スズカはそう思って首を傾げた。
    「仮説、です。最初聞いたときはまさかと思ったんですけどね。でも、スズカちゃんの言動を見ていると荒唐無稽な話も信憑性があるんですよ」
    「それって、どんな話なの……?」
     荒唐無稽な話、とはどのことを言っているのだろうか。
     たしかに、一晩でここまで認識が変わるのはそうあることではなく、一人のことだけ知らないというのも不思議な話だ。しかし、部分的な記憶喪失などトラウマの観点から見ればまだ有り得る話なわけで──いや、まあ、心当たりは全然ないのだが。
    「『妹』は、どんな子なんですか?」
    「えっ?」
     妹はいないという話だったはずだ。インターネットの記事にもそう書かれてあったし、スズカ自身先ほど確認したばかりだ。それにも関わらず「妹」の話を振ってくるとは、どういう風の吹きまわしなのだろうか。
     そもそも、先ほどからまったく話の流れがわからない。一見なんの繋がりもないような話へとどんどん飛んで行ってしまって、スズカは話を追いかけるので精一杯だった。

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:44:59

    「……貴方に妹はいないのよね?」
     ようやく絞りだせたのは、そんな言葉だった。困惑を隠そうともしない声音にも、少女は動じなかった。ずっと前を向いているのでその表情は読み取れない。
    「そうですね。少なくとも『私』にはいた覚えがありませんが……でも、スズカちゃんは私の『妹』を知っているのでしょう?」
    「どういう、こと?」
    「タキオンちゃんと話して、当初は簡易的な記憶喪失だと結論づけました。そのときはまだ私のことだけ知らないとは思ってもみませんでしたからね。そしたら丁度スペシャルちゃんが来たんですよ」
     スズカの様子がおかしいと、姿を現すなりスペシャルウィークはそう告げたという。タキオンのところに来たあたり彼女もスズカがタキオンの実験に巻き込まれたことを懸念したというわけだ。そしてそこで、スズカの知識にムラがあったことと謎のウマ娘を探していたことが共有されたのだ。そこでタキオンが出したのが次の仮説。
    「『サイレンススズカ』の精神が、理由はわからないが別の世界の『サイレンススズカ』と入れ替わったのではないか」
     息を呑んだ。
     たしかに、そう言われると荒唐無稽な話だと言いたくもなるだろう。世界広しと言えど、別世界なるものが存在するという確実な証拠は未だに見つかっていないのだ。その可能性を言い出す方が正気を疑われてもおかしくはない。

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 06:28:43

     しかし、スズカはその話を違和感なく受け入れた。荒唐無稽だと思うよりも先に妙に納得して──フクキタルが実在していて、スズカの持つこの記憶は本物であるということに安堵した。仮説である以上確証などないわけだが、それでもスズカにはそれが正解のように思えた。
    「その反応、納得してもらえたようでなによです」
     知らず足を止めていたようだ。遠めに聞こえた声に我に返ると、少女は何段も先に立っていた。後ろを振り向いていないので、段差を上る彼女はスズカが遅れていることなど気づかない。
    「部屋の前であったときから少し違和感はあったのですが……なるほど、あの目はたしかに友人によく似ているのに友人ではない存在に向ける目でしたね」
    「私、そんな顔してた?」
    「ええ。それで私も少し考えましたよ。私への反応を見るに、貴方の知る世界では私がいないか、ウマ娘でないか、ウマ娘でありながら走っていないかのどれかと予想しましたが、どうでしょう?」
    「……ごめんなさい、わからないの」
    「まあ、そうですよね。個人情報なんてべらべら喋るものではありませんし」
     気にしていなさそうな声色だが、表情が見えないため少女がなにを思ってそんなことを言っているのかわからなかった。

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 10:43:21

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 19:21:07

    ほしゅ

  • 31二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 20:43:12

    保守ありがとうございます。

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 20:44:08

    「どちらにせよ、トレセン学園にはいないみたいですね」
    「……」
    「……私が積み上げてきたものが別世界ではなにもないことになっているなんて、思った以上にキますね、これは」
    「■■■■■■■■……」
     寂しげな声だった。少女に目をやれば、顔を俯ける少女の背中が見えた。
     ウマ娘は誰もがレースに本気だ。だから本気で努力して本気で勝ちを獲りにいくのだ。そんなウマ娘の努力と成果を別世界とはいえ否定されたとしたら? ──その心情など、到底推し量れるものではないだろう。
    「私の『妹』ってどんな子なんですか?」
    「貴方の妹だっていう確証はないけど……そうね、占いと開運グッズが好きな明るいウマ娘よ」
    「占いと開運グッズ」
    「結構当たるのよ? フクキタルの占い。まあ、そうね、あの開運グッズの量はもう少し減らした方が良いと思うけれど」
    「神社の娘が開運グッズ漬けとは……」
     呆れたような声が聞こえた。実際片手を 額に当てている。
    「外見は、似てますか?」
    「ええ。あの子はもう少し髪が短くて、あと、目がキラキラしているわ」
    「キラキラ……? マーベラスちゃんみたいな?」
    「そう」
    「えぇ……想像つかない……」
     苦笑混じりにそう言って、少女が足を止めた。石段の一番上だ。
     ややあって、スズカも階段を上りきった。

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 21:35:29

    「着きましたよスズカちゃん。ここが目的地です」
    「神社ね」
     荘厳な鳥居がどっしりと立って二人を迎えうった。なんとなく潜らず、階段を上がりきったその場で立ち止まっていると、同じく立ち止まったままの少女が口を開いた。
    「昨日、スズカちゃんがここに来たのが目撃されているんです」
    「私が?」
    「はい。なにをしに来たのかはわかりませんが……なにやら熱心に祈っているのを見た、と」
     私はレースの優勝祈願だと思ったのですがスズカちゃんってそういう子じゃありませんでしたので、と少女は続けた。
     レースだからと言って神頼みのようなことをする子ではなかった、と。その話が本当であれば、この世界のスズカはなにしに神社に来たのだろうか。
    「最近のスズカちゃんの行動で変わったことなんてこれぐらいしかありませんので、原因はやはりそれかな、と思ったんですよ」
     少女がスズカを見て、それから鳥居を見上げた。真っ青な空に、赤い鳥居がよく映えている。
    「貴方の様子を見るに、別に来たくてこっちに来たわけではなさそうですので、物は試しです。神様にお願いしてみませんか?」
     苦しいときの神頼み。誰の手も使わず非日常なことが起きたからこそ、神という非現実的な存在に頼み込もうというわけだ。

  • 34二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 22:31:54

     物は試し、という言葉が示している通り、少女の見立てでは帰れるかどうか怪しいのだろう。それどころか、少女の場合はスズカが別世界のスズカだということをちゃんと納得してくれているか怪しい。証拠もなければ証明もできない、感覚的な問題なのだ。
     納得した、とは言ってくれたが、はたして。
    「お節介でしたかね。貴方もスズカちゃんであることには変わりないでしょうし、早く帰れと言われているみたいで不快だと感じられたのであれば謝ります。ただ、スペシャルちゃんから聞いた様子だと貴方には約束があったみたいですから」
     約束。
     そうだ。フクキタルと伴走する約束をしていた。このまま帰れたとしても、フクキタルとの約束を守れるかはわからない。なにせ、もうすでに半日は経過している。普通のトレーニングではなく自主練とはいえ、いや、自主練だからこそ帰れたところで約束が果たせるかは微妙なところだった。
    「……いいえ、大丈夫」
     一瞬のうちにさまざまなことが頭をよぎっていったが、スズカはゆるく首を振った。
     お節介ではないことを伝えるためだ。
    「お節介じゃないわ」
     そう言って、スズカは鳥居へと踏み出した。
    「私だけじゃどうしようもなかったと思うから」
     ゆっくりと、着実に、鳥居が近づいていく。
    「ありがとう、■■■■■■■■」
     そう言って、少女を見ながら鳥居を潜ったそのときだった。

  • 35二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 22:40:38

     ぐるぐると視界が回ってその場で固まった。酔ってしまいそうなほど回る視界にどうにか踏ん張ろうと出した足はそこにあるはずの地面を捉えず、刹那宙に放り出されるような感覚がした。
    (え……?)
     階段を上がり終え、スズカは鳥居を潜ったはずだった。鳥居の向こうには平坦な道が続いていて、だから前に倒れるように放り出されるなんてあり得ないことだ。思わず伸ばした腕がなにかにあたって、反射で握ろうとしたがそれは叶わず。
    「──ッ!!」
     瞬きの後、かちりと合う焦点と、見慣れたトレセン学園内の景色。
     スズカはどうやら、階段で足を踏み外したところのようだった。
     先ほどまでたしかに神社にいたはずなのに、なぜかトレセン学園のなかにいるのだ。スズカの頭の中が瞬く間に疑問符で埋まっていく。
     本来であれば、階段から落ちている今、呑気に考えを巡らせている暇などない。しかしながら次から次へと起こる非常事態に動揺せずにはいられなかった。
    「スズカさん!!」
     久しぶりに聞くような耳に馴染んだ声が聞こえた次の瞬間、スズカは階段から転がり落ちた衝撃で意識を手放した。

  • 36二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 06:39:18

     ふと意識が浮上する。
    「こ、こは……痛っ」
     覚醒と同時にじんじんと体が痛んだ。それはどうやら一時的なものであったようで、なぜこうなったかを追想している間にみるみる引いていった。痛まないのを確認して、ゆっくりと上体を起こす。
     そうだ。今日はフクキタルと約束をしていて、起きたらフクキタルがいなくて、それで──
    「す、スズカさん! 目が覚めましたか!?」
     声がした。声を聞いていないのはせいぜい半日と少しほどだというのに、なんだか懐かしく感じてしまう。
    「スズカさん、私がわかりますか!?」
    「フクキタル……?」
    「はい、そうです、マチカネフクキタルです! ……ってアレ? もしかしてスズカさんですか?」
    「そうだけど……どういうこと?」
    「いえ、まあ、さっきまでもスズカさんだったんですけど、その……なんと言えばいいでしょうか」
     うんうん唸ってスズカに説明するべく言葉を探して始めたフクキタルに、一つの可能性に思い当たった。
    「別世界の『私』のこと?」
    「そうです! ということはやっぱり、スズカさんも別世界に行っていたということですか?」

  • 37二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 08:09:08

     こてり、と首を傾げたフクキタルに頷いて返した。そうなんですか、というフクキタルはどこか浮かない顔をしていた。
    「なにかあったの?」
    「いえ、大したことでは」
    「大したことじゃない、って顔じゃないけど。向こうの『私』となにかあった?」
    「……スズカさんが待ち合わせ場所に来なくって、珍しいなと思って部屋に行ったんですよ。そしたら」
     誰と、聞かれちゃいまして。
    (やっぱり)
     今のスズカの体に入っていたのは、あの「フクキタルのいない世界」のスズカだったのだろう。顔立ちや毛色が似通っていても、少女とフクキタルは別人だ。向こうから見れば、今日のスズカと同じく「知人に似た知らない少女」だったのだ。伴走の約束をしていて迎えに行けばこの仕打ち。フクキタルもかなり動揺したに違いなかった──実際、その時に突きつけられた残酷な一言が、未だにフクキタルに突き刺さっている。
    「『スズカ』さんの世界には、私はいないみたいです」
    「……そうね。誰もフクキタルのことを知らなかった」
    「追い討ちかけないでくださいよっ! ただ、向こうでは私に似た、優秀なウマ娘がいるみたいでして」

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:12:48

     フクキタルに似た優秀なウマ娘。
     この流れだ。十中八九、あの少女のことだろう。
    「■■■■■■■■のこと?」
    「会ったんですか?」
    「ええ。彼女がこっちに戻る手助けをしてくれたの」
    「そう、なんですか」
     絞り出すようにそう言ったっきり、フクキタルは黙り込んでしまった。行儀よくスカートの上で揃えられた手に力が籠っている。
    「…………私には、優秀な姉がいました」
     長い沈黙の後、フクキタルが言った。
    「『スズカ』さんがいる世界はどうやらお姉ちゃんが活躍している世界みたいなんです。いろいろ聞かせて貰いました」
     いろいろ、とはなにを聞いたのだろう。少し沈んでいる様子を見るに、あまり良い話ではなさそうだ。
    「お姉ちゃんが元気ならそれでいいと思いました。たとえ別世界だとしても健康で、元気に走っていてくれるなら、それで…………でも、やっぱりお姉ちゃんの方が良い戦績を残せたと思うと、少しだけしんみりとしちゃって」
     ──私が積み上げてきたものが別世界ではなにもないことになっているなんて、思った以上にキますね、これは。
     少女の声が甦る。
     少女は自分の出してきた結果が別世界では無いことに、そしてフクキタルは、別世界であれば自分ではなく姉が自分以上の活躍を見せていたということにダメージを受けていた。姉の記憶がある分、もしかしたらフクキタルの方が傷が深いかもしれない。

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 22:35:42

     どういう経緯があってフクキタルの姉が現在走っていないのかはわからない。しかし間違いなく、フクキタルは自分の姉が現在走っていた場合の「可能性」というものを突きつけられたのだ。「優秀な姉」だと評すほどの姉。そんな姉が「もしレースに出ていたら」という想像をしたことは、きっと一度や二度ではないだろう。一度でも夢想したことのある「可能性」を可視化されて、フクキタルはどう感じたのだろうか。
    「フクキタル」
    「いつまでもくよくよしていられませんね!」
     ばっと驚くほどの変わり身の速さで寂しげな表情を打ち消し、フクキタルが顔を上げた。
    「ところでスズカさん、つい長々と話してしまいましたがお体は大丈夫ですか?」
    「え、ええ……起きてすぐは痛かったけど今はなんともないわ」
    「そうですか。スズカさんは知らないと思うので状況を説明しますね」
     そう言って話し始めたフクキタルによると、『スズカ』が階段を降りようとしたときに唐突に大きくふらついて、そのまま足を踏み外して転がり落ちたらしい。
     幸いにもというべきか、咄嗟に頭を庇っていて腕や背中の打撲程度で済んでいる──というのが今のところの保険医の見立てなのだとか。

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 22:40:54

    もう少しで終われそうなんですが書けば書くほど文字数増えていく…予定の文字数めっちゃオーバーしてます(´・ω・`)

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 23:06:46

    頑張ってくだせぇ…
    支援!

  • 42二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 09:50:33

    >>41

    ありがとうございます!

  • 43二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 09:50:57

    「それではスズカさん、一度立ってみてくれませんか?」
    「いいけど……?」
     わけもわからないまま、フクキタルの要望通りにベッドから下りて立ってみた。
    「足に痛みは? 視界は正常ですか?」
    「なにも問題ないわ」
    「……ありがとうございます。もう良いですよ」
     ベッドに戻るように促されて入りなおし、スズカは首を傾げた。いったいなんの確認だろうか。
    「とりあえずは様子見で、目が覚めて異常があればすぐ病院に、という話だったのですがその様子だと大丈夫そうですね。結果も大吉ですし!」
     にこにこ笑いながらフクキタルが携帯を振った。なるほど、ちょくちょく使っているところを見るおみくじアプリだろう。それで大吉と出たというわけだ。
    (私じゃなくてフクキタルが引いているのに意味はあるのかしら……?)
     フクキタルが引いたということは、それはフクキタルの結果なわけで……と考えてその考えを追い出した。スズカの気分次第だろう。
    「でも気をつけてくださいよスズカさん。後で症状が現れる場合もあると聞いています」
     そのときはすぐ病院へ。あとで説明されると思いますが、と言ってフクキタルが続けた。

  • 44二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:48:15

    落ちちゃう
    とりあえず保守

  • 45二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 23:22:56

    >>44

    あーーー!!!すみませんありがとうございます!!!

    帰宅遅くなったのでもう落ちてるかな…と思っていました!!本当にありがとうございます!!

  • 46二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 23:24:51

    「スズカさんのトレーナーさんにも連絡しました。今は到着待ちです」
    「私、どれぐらい気を失ってたの?」
    「二十分ぐらいですね」
    「もしかして、ずっとついていてくれた?」
    「いやあ今日はずっと走り回っていましたから脚が痛くてですねぇ……」
     トレーニングをサボったと疑われたとでも思ったのか、フクキタルは両手をわたわたさせながら言葉を紡いだ。
    「脚が……? 待ってフクキタル、それ大丈夫なの? 折ってたり捻ってたりしてない?」
    「いえいえ! そういうわけではなくてですね、筋肉痛みたいなものです。いっぱい走ったので!」
    「……もしかして、『私』と?」
    「そうなんですよ! 一緒に走って貰うだけのつもりがいつの間にか模擬レース三昧でした!」
     全然歯が立たなかったと疲れきった顔で言いながら、しかし楽しそうに笑っていた。向こうの『スズカ』はどうやらこの異世界にも早く順応して楽しんだらしい。スズカはほとんどをフクキタル探しで潰したというのに。
     やはりこの入れ替わりは、向こうの『スズカ』によるものだったのだろう。
    (どうして入れ替わろうなんて思ったのかしら……)

  • 47二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 23:29:44

     同じ名を持つとしても、『スズカ』とスズカは異なる存在だ。彼女がなにを思って別世界に興味を持ったのかなどいくら考えようともわからなかった。
    (向こうのみんなと走ってみたかったな)
     事態が呑み込めずに奔走していたスズカから見れば、『スズカ』がこの世界を満喫していたらしい話はなんとなく面白くない。スズカだって生粋のウマ娘だ。走ることは好きで、レースだって好きだ。叶うことなら、あの少女と一度走ってみたかった。
    (私も、向こうの世界の『私』みたいに神頼みをすれば向こうへまた行けるのかしら)
     そんなことを夢想する。しかしまあ、帰る方法も祈りの方法も知らないので迂闊に願い事などできるわけもないが。
    「じゃあスズカさん、トレーナーさんもそろそろ来るみたいなので私は寮に戻ります」
     一瞬思考に耽るが、落とされた声にはった。気づけばフクキタルが荷物をまとめて立っていた。
    「スズカさん、お大事に」
    「フクキタル」
     ぴっと笑顔のまま軽く手を振って出口へと足を向けたフクキタルを呼び止めた。

  • 48二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 23:40:34

    「今日はごめんね」
    「いえいえ、スズカさんのせいではありませんから」
    「それでも、よ。トレーニングの埋め合わせは今度ちゃんとさせて」
    「…………なら、今度トレーニングに付き合ってください。スズカさんが空いているときでいいので」
    「ええ」
     スズカが頷いたのを見て、今度こそフクキタルは保健室から出ていった。話したいことがあったが、今日は二人とも非日常に振り回されて精神的にも肉体的にも疲弊していたので見送ることにする。
    (フクキタルのお姉さんの話、聞いてみたかったな)
     あの様子からしてあまり良い想像はつかないが、どのようなウマ娘であったのかを知りたいと、そう思ったのだ。もし今度機会があれば、その時はフクキタルに思いきって聞いてみようか。話してくれるかどうかはわからないが、彼女のことだ、きっと話してくれるだろう。
     ふと遠くからバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきて、トレーナーがこちらへと向かっていることを感じ取ったスズカは薄く笑みを浮かべた。


    --完--

  • 49二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 07:05:24

    昨日書くつもりが寝落ちしました。おはようございます。
    ここまで読んでくださった方、保守してくださった方、ありがとうございました。
    今読み返すと結構言葉や漢字間違っているところ多くてひぇってなります。

    いろいろ謎が残っている気がしますがわざとです。最初は「向こう側」のエピローグ的なアレもつけようと思っていたのですが蛇足感半端なかったので削除しました。

  • 50二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 12:46:07

    完走乙です
    カレンチャンの兄が生きてたりアヤべさんの双子の亡くなる方が逆の時空もあるんだろうなあ

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています