【SS】「あのね、トレーナーちゃん」

1二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 23:44:43

いつものデートの帰り道、意を決したかのようにマヤノはそう切り出した。
夕日の照り返しか別のせいか、その顔はいつもより赤みを帯びているように感じる。
頬を撫でる風が冷たい。
僅かな沈黙に思わず緊張する。
ふぅ、と小さく呼吸をすると、マヤノは少しずつ言葉を紡ぎはじめた。
「マヤね、最近トレーナーちゃんといるだけでドキドキしちゃうの。胸がぎゅーって締め付けられてるみたいに苦しくて、でもなんだか心地よくて。それだけじゃなくてね、喋ろうとしてもちゃんと喋れなかったり、目も合わせられなくなったり、今までできていたことができなくなっちゃったの」
マヤノの目が少し潤んでいることに気が付いた。
「それでね、マヤ気付いちゃったの」
再び小さく呼吸する。
「マヤはトレーナーちゃんに恋してるんだって」
彼女の精一杯の笑顔が涙で歪む。
「でも、トレーナーちゃんはマヤのことを一人の女として見てくれなくて、わかってるのにマヤは満足できなくて、それが苦しくて。マヤはトレーナーちゃんのことが好きなの。マヤのことをもっと見て。トレーナーちゃんがマヤのトレーナーだからとか、かまってくれるからとかじゃなくて、トレーナーちゃんのことが好きなの、マヤはトレーナーちゃんのことが大好きなの！」
叫びと共に溢れた涙がマヤノの手を濡らしていく。
きっと一人前のトレーナーならここでレースや将来のことを考えたて冷静に行動するのだろう。トゥインクルシリーズだってまだまだ半ばだ。選択一つで彼女の将来を潰してしまう可能性だってあるんだ。だからここは俺もトレーナーとして慎重に動くべきだ。
でも、
どうやら俺は自分が思っているほどまともなじゃなかったようだ。
気が付いたら腕の中にマヤノがいた。潰してしまうほど強くマヤノのこと抱きしめていた。一生離さないというかのように強く強く。
「トレーナーちゃん？」
「何も言うな」
「でも、こんなところ人に見られたら恥ずかしいよ？」
「構うものか」
「トレーナーちゃん……」
きっと俺は選択を間違えたのだろう、きっとこれからはより多くの困難が待ち受けているのだろう。
でも、今はそんなことはどうでもよいと思ってしまっていた。
明日のことは明日考えればいい。いまはただ、泣きじゃくる小さな体を抱き締めているだけででいい。
お互いの体温が僅かに混じり合う中、俺はそう思った。
きっと俺はトレーナー失格だ。