- 1変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:14:02
- 2変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:15:03
最初は孤独の社編だけ書こうとしましたがライツナイトの方も出来ちゃったのでもう両方出します
暫しお付き合いくださると幸いです - 3変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:19:18
3枚ほど挿絵がありますが全てトレス素材を使用しております
- 4変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:25:19
『孤独の社より悪縁断鋏の入手』
孤絶の社は「泣き別れの洞窟」と呼ばれるCランクダンジョンの奥に存在する、縁切神の神域で、記録上はAランクダンジョンとなっています。
「泣き別れの洞窟」は2人以上で入るとなぜかその場は仲違いしてしまうという洞窟ですが、「孤絶の社」は同時に1人しか入れない、仲違いすら存在しない領域となります。
依頼主はストーカーに悩まされており、その奥にある縁切神のアーティファクト、悪縁断鋏を入手してくることを求められています。
『光角騎竜ライツナイトの角の納品』
光角騎竜ライツナイトは、額にサーベルのように鋭く長い角を持つ竜の一種です。その角は光の魔力と素晴らしい斬れ味を持つため、それを使った剣を作りたいというのが依頼主の要望です。
問題はライツナイトは上級相当に強いだけではなく、非常に気難しいことで知られていることです。
正々堂々とした一騎討ちで負ければ相手に自らその角を折って差し出しますが、少しでも非礼な素振りや竜の戒律に背く行為があればすぐさま飛びさってしまうでしょう。
※現文コピペさせて頂きました - 5変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:29:13
擬術士
本名、ツヴェルフ・ミッシングリンク
種族、人間
年齢、21
性別、男
長い黒髪と黒装束がチャームポイントの、パーティ『変化カルテット』に所属する真面目な性格の青年。人ならざる種族に一時的に人の姿を与える希少魔法の使い手であるが、最近は魔法を用いた物理戦を行うことが多い
優秀な魔術師の家計に生まれたが、生まれ持っていた魔力が少なく、いつまで経っても擬人化魔法以外の希少魔法を覚えられなかったせいで親に勘当され捨てられた過去を持つ。その後はパーティメンバーでもあり師でもある冒険者、愛の貴公子に育てられ現在に至る
事前情報は以上です。早速始めさせていただきます! - 6変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:30:16
〘孤独の社より悪縁断鋏の入手〙
「……ここが泣き別れの洞窟か…」
【極東にある、人気もないような洞窟の中を、黒装束の長髪の男___『擬術士』が歩いていた】
【上級昇格試験、第1の依頼『悪縁断鋏の入手』。特に目立った強さの魔物の情報もなく、特殊なトラップがある訳でもない洞窟の奥から、鋏のアーティファクトを持ち帰るという依頼だ】
【しかし、上級試験に当てられる程の場所だ。到底まともな所だとは思えない】
「確かここは…2人以上で入ると仲違いをすると言われていて、鋏がある社は…神の神域に当たる。だったか…」
【いつものように帽子を深く被り直し、この日のために新調した杖剣をしっかりと握り直す。途中で大した強さでもない魔物が数匹ほど現れたが、なんてこと無く倒していった】
【真っ黒で、水面が張っている静かな洞窟、1歩1歩進んで行く度に、足音が一面に広がっていく】
【1歩、また1歩_____】
【___一体、いつまでこの道は続くのだろう。そう思い始めた頃、『それ』は姿を現した】 - 7変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:31:47
【それは、大人1人が通れる程度の、小さな錆び付いた鳥居だった】
【鳥居の奥には、木製の小さな台座と、黒く輝く鋏が置いてある。それらは全て明らかに異様な雰囲気を…自分のような「人間」とは違う何かを発している】
「ここか…」
【ゴクリと唾を飲み込むと、鳥居の中に足を踏み入れる。やけに周りは静かで、自分の心臓の鼓動や足音が嫌という程ハッキリと聞こえる】
【息を吸って、吐いて、覚悟を決めると台座の上の鋏を手に取った】
【その瞬間、辺り一面に生暖かい風が吹き、『世界』がネジ曲がる】
【目の前の台座と手に持つ鋏はそのままだったが、そこは先程の暗闇とは一点として変わった『白』だった】
【奥行きも、高さも、何もかもを超越している。たただただ、『ここは普段の世界とは違う』と、全神経と本能から直感させる、真っ白な空間の中だった】
(………相手は神格、それもこの空気…"本物"だ…)
【そうとなれば、余計な真似をするのはよくない。相手は今、全てを通して己を観察している。なぜならこの空間は、奴の目であり、腹の中であり、掌の上であり、奴そのものでもある。それが気が狂ってしまいそうな程にハッキリと伝わった】
【正気を保つため、軽く頬を叩き、鋏を握りしめる】 - 8変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:34:31
『________人の子よ。』
「なっ…!?」
【突然の声に思わず驚き周囲を見渡す。そのやけに響く声は、どこから聞こえるのかも分からない。いや…声の出処そのものが存在しないのだろう】
『____何も話す必要は無い。理解している。理解している。』
「……………」
『理解している。汝がここに来た理由も、汝が紡いできた縁も、理解している。我は理解している。』
「…そうかい。で、私をここに留める理由なんだ?コレをタダで渡す訳にはいかないということか?」
『如何にも』
『"悪縁"、"良縁"。人の子がその因果を操るには代償が多過ぎる。無償で渡す訳にはいかぬ。』
【パチン___と、鋏で糸か何かを切る音が聞こえる】
【その音を合図に、擬術士の目の前には無数の色とりどりの糸が垂れ下がってきた】
【紅に、蒼に、白に、黒に………糸はそれぞれ違う輝きを放っており、擬術士にはそれがやけに美しく見えた】
「…何が目的だ?」
『人の子よ、これは"げえむ"である。』
『目の前に吊るされたこれは、大半が御主が紡いできた"良縁"そのもの。御主が手に持つその鋏で糸を断ち切った瞬間……その"縁"は消滅する』
『……汝、この中から、"悪縁"を一つ選んで断絶する事が目的也』
「はぁ…!?」
【掲示された「げえむ」の内容に、思わず擬術士は声を上げる】
『睨むでない。恐るでない。早急に急かす真似はしない。我はただ、汝の選択を見据えるのみ。御主の心を試すのみ』
『たとえ良縁であれども、切られた縁は二度とは帰らぬ。汝、選択せよ。汝の運命を選抜せよ。』
「あっ…待てッ!」
【目の前で消えていく黒い手を掴もうとするも、擬術士の手がそれに届くことは無かった】
「__これが、私の"縁"…?」
【試しにそっと左手で、白く輝く糸に触れてみる】
「______ッ!?」
【指先に電撃のような衝撃が伝わる。糸を通して、擬術士の脳内に突如、鮮明な記憶が再生される】 - 9変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:35:26
『なあ………なんで私なんかなんだ?』
【大して広くはない、少しボロい部屋で、擬術士は背を向けながら小説に目を通している。そしてその後ろには、肌も髪も透き通るように真っ白な、赤い目の青年が……白蛇が立っていた】
『”一時的ではなく、永久に人になりたい”という気持ちはわかるさ、ただ…そのために私の使い魔魔法を使う必要はないだろう』
「けど だって…おれ 最初 きみ に 人 なる して もらう して…!」
『…コレはオマエのためを思って言ってるんだ』
【白蛇が反論しようとするも、その言葉を擬術士が背を向けたまま遮った】
『…私がオマエを助けて擬人化魔法をかけたのはただの気まぐれだ。そこに深い意味なんてありゃしない』
『それに…オマエは白蛇、それに対して私は人間だ。死する運命すらも共にし、私の使い魔になるということは、すなわち自分の寿命を大幅に縮めるのも同然なんだぞ?きっと探せば他にも良い擬人化魔法の使い手……がッ!?』
【___突如、白蛇の細くも血管が浮いたゴツゴツした手が擬術士を掴み、一気に自分の方向へと向かせた】
「うるさい!おれ は きみ が いいの!」
「あの時 ダンジョン 奥 死ぬ なりそう なった おれ 助ける して くれた は きみ だけ だもん!」
「おれ こんなに 優しい された 人間 きみ 初めて…他 やつ ダメ!なの!」
「おれ は 人間 なる したい 違う!君 恩返し したい の!そのため なら 一生 使う できる の!」
【最初は本当に気まぐれだった。ただ、ダンジョンの隅っこで転がっていた死にかけの蛇に何となく目がいって、回復魔法と擬人化魔法をかけてみた。ほんの少しの寂しさを埋める暇つぶし、そんな感覚で言葉を教えたり、世話をしていただけだった】
【彼の白い睫毛に瞳の紅が反射し、擬術士にとっては、それがより一層眩しく思えた】
『…………全く…』
『_____覚悟は出来てるんだろうな?』
「もちろん!」
【擬術士は大きくため息を着くと、白蛇に向かって手を差し出した】
【明確は理由や根拠はないが、きっと彼なら、本当に自分と全ての運命を共にしてくれるだろうという謎の確信があったのだ】
【あの瞳の眩しさは、以前にもどこかで見たことがある気がした】 - 10変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:36:13
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ッ、これ………白蛇との……?」
「ダメだ…!この糸だけは絶対にダメだ!」
【擬術士は白蛇との"縁"から手を外すと、今度は別の桃色の糸に触れた。再び電撃のような衝撃が走り、彼の目の前にかつての記憶が浮かび上がる】 - 11変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:38:24
「____何をしているんだい?」
【豪華ながら、どこか光が刺さない空気の屋敷にて、1人の青年が扉を開ける。アメジストのような瞳に夜空のような長い黒髪と角、黒いコートをはためかせた美しい男は、目の前の惨状に思わず顔を顰めた】
【目の前には2人の優秀な大魔道士の夫婦、そして彼らにぶたれ、罵られ、泣きじゃくりながらも必死に許しを乞う傷だらけの幼い少年……幼い頃の擬術士の姿だった】
『ッ…とうさま、かあさま…!ごめっ…なさ…もっと…もっとがんばるから…だから…!』
「煩いのよ、暫く何も喋らないでちょうだい」
『ゔぁ゙ッ…!』
【母親が、目の前で実の息子を叩いて無理やりひかせる。そして、扉の前の美青年の方向へ顔を向けた】
「__”愛の貴公子”、今までお疲れ様でした。今日限りで、貴方の専属講師としての仕事は終わりです」
【今度は男の方が口を開く】
「私たちは今日をもって、我が息子ツヴェルフ・ミッシングリンクを勘当する事にしたのだ」
「根本的な魔力も足りず、使える希少魔法は余興にしかならない擬人化魔法と厄介な手段の使い魔魔法のみ。いくら叱って世話をしても成長の見込みもない……このような存在は、我がミッシングリンク家には相応しくありません」
「…え?」
「そういう訳だ。こんな出来損ないのために時間を使わせてしまって申し訳ない」
「”冒険者”という蛮族な身ではあるものの、貴方の優秀な魔力や実力は重々承知しております。これからはまた、別の業務を行ってもらう形で…」
「……………そうか」
【彼の人のものでは無いと直感させられる程に綺麗な紫色の瞳は、まっすぐと擬術士の怯え、泣きじゃくる姿を写していた】 - 12変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:39:05
【__そして彼は…………擬術士の手を取ると、彼の"元"両親の方向を睨みつけた】
「なら、ボクも今日をもって、キミ達ミッシングリンク家との縁を断絶させて貰うよ!」
『…!?』
「はぁ!?何を言っているのです!?」
「誰が雇ってやったと思ってるんだ!!そんな奴如きのために、我がミッシングリンク家との縁を切ろうと言うのか!?」
【男の方が椅子から立ち上がり怒鳴り声をあげる。が、貴公子は前へ出ると、怒りに満ちた形相で彼の胸倉を掴んだ】
「ふざけんな!!オマエらみたいな愛も欠片もないクソ野郎共との縁なんていらねぇんだよ!」
「目の前の子供も愛せない癖して何が大魔道士だ!何が誇り高きミッシングリンク家だ!そんなゴミみたいな誇りなんて滅んじまえよ!」
【瞳孔を開き、目の前の男に平手打ちをかます貴公子の姿は、普段は愛嬌に満ちた華やかな笑顔で笑う彼とは、至って別人のようだった。しかし、この怒りも何もかも、全ては自分への「愛」故なのだということは、幼き擬術士にもよくわかった】
【貴公子は擬術士を抱えると、一気に屋敷の外へと向かって駆け出す屋敷の中には緊急警報が鳴り響き、門番や召使いがありとあらゆる攻撃魔法をしかけながら2人を追ってきた】
『ッ…貴公、子……?』
「大丈夫、大丈夫だから……」
「同胞、約束しよう……ボクは絶対に、キミを1人になんてしない!」
【貴公子は薔薇色に輝く魔法陣を展開させ、その中へと擬術士と共に飛び込んで行った】
【その笑顔は優しくて、眩しくて、花が咲いたようで…とても『愛』に満ちていた】 - 13変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:39:33
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こッ…これもダメだ!絶対にダメだ!」
【擬術士の息が荒くなる、そのまま彼は縋り付くように、今度は黒い糸を握りしめると、また別の記憶が流れるのだった】 - 14変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:40:56
【夜も更けた頃、旅先の宿のベランダにて、黒髪の女性と擬術士が2人、他愛もない雑談をしていた】
【最初こそは頓痴気じみた出会いだったものの、色々とあって、最終的には恋仲になった不定族の女性は、風に吹かれながらも、柵にもたれかかって夜空を眺めていた】
「……擬術士様」
『…なんだ?』
【ふと声をかけられ、擬術士は顔を向ける。彼女は自分よりも背が高いので、自然と視線を上げることとなっていた】
「私達不定族って…『何の姿も持たない種族』って扱いじゃないですか、それこそ…不定形種族のような…」
『まぁ…そうだよな』
「けど……わ、私……最近、こ、こう思うようにもなっているんです…」
「私達は…何者でもないけれど、だからこそ、"何にだってなれる"……そんな種族なんじゃないかな…って」
「わ、私も…ずっと、何にもなれない自分が苦しくて仕方なかったんです。…魔物にも、人間にも化け物と言われて…腕も足も瞳もない…そんな自分が…自分を持たない自分が憎たらしかったんです」
「だからこそ…あの時私を魔物から庇ってくれて…私の姿を見ても…何も臆することなく、ただ『大丈夫、大丈夫だから』…って。そう言ってくれたあなたに私は救われたんです」
「目の前の相手が何者かとかは関係なく…ただ"私"に手を差し伸べて、助けようとしてくれた…そんなあなたに救われたんです。だから……あなたは私の"救世主様"なんです」
『……………』
「……へへ、えへへへ……ちょ、ちょっと難しい話でしたか…?す、すみません…」
【彼女は照れくさそうに、申し訳なさそうに頬で軽く指をかく仕草をした】
【はにかむその瞳は、貴公子や白蛇とは違って、光を通さない漆黒だったが、なんとなく今の擬術士には、その寄り添うような黒が、愛おしく感じれたのだ】 - 15変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:41:27
【そっと彼女に触れるとそのまま自分の元へと引き寄せ、ぽすんと肩に頭を乗せる】
「ッ!?!?えっちょっその…えっ!?ぎ、ぎぎぎ擬術士様!?」
『大丈夫……どんな姿になっても、ヤンさんはヤンさんだよ』
『たとえどうなっても…私はヤンさんが好きだからさ』
【そのまま彼女の黒い髪先に触れる。そう言えば、自分も含めてこのパーティは皆髪が長いんだよな。そんな事を考えながら、ぼんやりと夜空を眺めている】
「………えへへ………私…」
「私…今、少しだけ…朝が来るのが遅くなっちゃえばいいのに…なんて思っちゃいました……」
『…奇遇だな、私もだ』
【2人は身を寄せ合い、ただ夜空を眺めていた】
【満天の星空という訳でもない、満月が輝いているという訳でもない、それでも…この暗闇が、2人にはやけに心地よかったのだ】 - 16変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:42:20
「ッ…ダメだ!ダメだダメだダメだダメだ!」
【再び擬術士は糸から手を離し、また追憶に浸っては別の糸を掴むことを繰り返し続けた】
【しかし、どれもこれもが彼にとっては愛おしく、大切で、失うなんて耐えられないような美しい"良縁"ばかりだった】
「違う!」
「これは切れない…」
「次だ!」
「次!」
【ありとあらゆる冒険者達や依頼主、どうやら彼は、自身が思っていたのの何倍も、美しく素晴らしい"良縁"を紡いで来ていたらしい】
【擬術士は、最後の糸から手を離すと、そのまま地面にへたりと座り込んだ】
【もはや彼は過呼吸になっており、意識して息を吸わないと、心臓ごと止まってしまいそうだった。全身は冷や汗をかいており、その癖体の震えは止まらなかった】
(この中のどれか1つを切る…?そんなの、そんなの無理だ…)
(白蛇と、貴公子と、ヤンさんと、皆と……今まで出会って来た証が、"縁"が消えるだなんて…そんなの耐えられるはずがない…!) - 17変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:44:50
【擬術士は再び、糸を手に取り数多の記憶を垣間見た。この神の気まぐれとも言える"げえむ"を突破するヒントは、この中に隠されていると直感したのだ】
(考えろ!)
(考えろ!)
(思い出せ!)
(抜け出すんだ!)
(誰との縁も切り裂かず…)
(ここから抜け出す突破方法を!)
【1つ、また1つの糸に触れ、彼はその思考を働かせ続ける】
【そうして時間もどれ程経ったが分からない頃_____彼の頭に1つ考えが過ぎる】
「………分かったぞ。私が……本当に切るべきもの…!」
【擬術士は神の鋏を手にかけると、黒く、長く輝く____ - 18変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:45:32
________自身の”髪”を断ち切った】
【その長い髪は、魔術師にとっては微かながらに魔力を溜め込むものであった。それを何故か、彼は"悪縁"として判断したのだ】
『……………』
「…最初に髪を伸ばし始めた理由は、父や母の姿を追っていたからだったな」
「あの二人に認められたくて、少しでも魔力を上げたくて……けど、憧れの対象はいつの間にか変わっていた」
「いつの間にか、私は師匠に憧れ髪を伸ばすようになっていた。あの夜空が映るかのような綺麗な黒髪に、あの男の見る景色に近づいてみたかった」
「私は常に、誰かの後を追いながら生きてきた。…追い越そうとかは考えたこともなかった。そんな奴が…パーティの『リーダー』を名乗っていいはずがない」
「皆が信じてくれた『私』を信じれない…そんな私の弱さの象徴でもあったこの”髪”こそが!この臆する”魂”こそが!私の真の"悪縁"だ!」 - 19変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:46:59
- 20変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:48:21
【そして
次に擬術士が目を覚ましたのは、孤独の社の中だった】
【台座を背に座り込んだまま眠っていたらしく、その手には悪縁断鋏が握られたままだった。震える手で恐る恐る己の首に触れてみるも、何も異様な点は存在しなかった】
「生きてる…?」
【あれは全て、支配領域で起きた幻影だったのだろう。あそこで自死を取ったはずの擬術士が生きているのは……まぁ、神の気まぐれというやつなのだろうか?】
【擬術士は、やけに疲労しきった体でよろよろと起き上がり、鋏を握りしめながらも社に背を向けた】
『____汝、"げえむ"を通過した者よ』
「なっ…!?」
【どこからともなく、先程の神の声と、拍手の音が響き渡る。しかし…先程のような重く伸し掛るような感覚はどこにもない】
『全てはまやかし、それはげえむなどではなく、"神の試練"に過ぎず。』
「…試練?」
『如何にも。悪縁断鋏は強大故、国を滅する火種と成りかねぬ。あれを使役する者…〘全ての良縁を守り抜き、如何なる悪縁すらも断ち切れるだろう心の強きもの〙のみにあり』
「心の、強き、者………」
『汝、「過去」「弱さ」を切り抜き、神に反逆し縁を守り抜く。実に滑稽。実に愉快。』
【神はケラケラと笑い声を上げる。…奴の思考は理解には程遠いが、少なくとも擬術士を嫌っているわけではなさそうなのはよくわかった】
『尚…汝、聡明な者也。鋏を渡す価値はある』
『__ツヴェルフ・ミッシングリンク……』
『それが、汝の名か』
「………ああ、覚えておけよ」
【再び、薄く水が張った道を歩み、出口へと進んでいく】
【行きとなんの代わりもない、暗く静かな洞窟だったが、不思議と彼の心は晴れやかになっていた】
【まだ上級試験は終わった訳では無い。あくまでも、難関のひとつを乗り越えただけだ】
【それでも…きっと彼は、もう二度と、振り返ることはしないだろう】
「……うーん、帰ったら毛先整えなきゃな…。」
【短くなった黒髪を指先で弄りつつ、彼は洞窟を後にした】
〘依頼達成〙 - 21変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 19:51:37
あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ライツナイト編序盤の文章間違って消えましたちょっとお待ちを
- 22変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:00:33
〘光角騎竜ライツナイトの角の納品〙
「………はーあ…」
【無事(?)、泣き別れの洞窟から脱出し、依頼を達成した擬術士。彼が次に向かったのは、とある森の奥だった】
【今回の相手でもあるライツナイトは、この奥にある建物の中に、時折姿を表すそうだ】
【彼は帽子を深く被り直しながら、森の中を歩いていく。緊張する時や大きなことがある前はこうするのが彼の無自覚な癖のひとつだった】
「気難しくて、仁義と礼儀を大事にする竜、か…」
「交渉……じゃあ、上手くは行かないだろうな」
【溜息混じりに、背中にきちんと杖剣を背負っているのを確認すると、彼は再び森の中を歩いていく】
【歩いて、歩いて、歩いて、その先に…宮殿は確かに存在した】
【そこは、今までの単調な人気のない森の中で異様に目立つ、朽ち果てた真っ白な宮殿だった】
【その外壁や天井にはヒビが入り、所々に崩れ落ちた瓦礫が落ちているが…不思議なことに、塗装は新品なままのように、全てが綺麗な白色に包まれていた】
(やけに今回の試験には、白が関係しているな………)
【まぁ、とにかくずっと立ち往生している訳にもいかない。彼は自分に言い聞かせるように首を振ると、そのまま扉を開け______】 - 23変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:01:11
「突然の来客だが、すまない!」
【____ようとする前に、深く一礼をすると、まずは『挨拶』をする事にしたようだ】
「私はツヴェルフ・ミッシングリンク、またの名を『擬術士』!この度は、セントラリア冒険者ギルド、上級昇格試験の一環として、お宅の角を頂きに来た!」
「性は男、種族は人間、年齢は21!よろしく頼む!」
【…今回の相手にはとにかく『正々堂々と向かうこと』が大切らしい。例え違う種族だとしても、戦う相手だとしても、挨拶もせず勝手に居住地に足を踏み入れ奇襲を仕掛けるなど、非礼にも程がある】
【__そんな考えで、彼は再び深く頭を下げる】
【その瞬間、重たく錆び付いた音と共に、真っ白な扉が徐々に開いていった】
「……!」
【開いた扉の向こうには、ほのかに輝く球体が、まるで精霊のようにふよふよと浮いていた】
「…改めて、ツヴェルフ・ミッシングリンクだ。よろしく頼む」
【光球はお辞儀をするように何度かゆらゆらと揺れ動くと、光の尾を描きながら、宮殿の内部へと進んで行った】
【どうやら、先程の挨拶はしておいて正解だったらしい。ほっと息を撫で下ろしつつ、擬術士は光球の進む先へとついて行った】 - 24変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:01:52
【宮殿の中は、時折崩れて足場が不安定な所や、天井に穴が空き、空の光が差し込んでくるところが頻繁に見えたが、相も変わらず真っ白な塗装は綺麗なままだった】
【あまりキョロキョロ見渡すのも失礼かと思い、擬術士はただ黙って光球の後を着いていく。】
「……わざわざ済まないな」
【竜の意志そのものか、はたまた使いかもわからぬその光に、擬術士は再び礼を言う。光球はそれに応じるように何度か上下に揺れ、再び入り組んだ宮殿の中を進んで行く】
【周りは静寂…と言う訳でもなく、外から差し込む木々の揺れる音や、鳥の心地良い鳴き声が時折周囲をこだましていた】
【___何度か階段を登り、更に何往復も道を曲がって行った先、傷一つない綺麗な扉が見えたところで、光球はピタリと動きを止めた】
「………ここにいるのか?」
【光球は再び頷くように上下に揺れる】
「…わざわざここまで連れてきてくれてありがとう。おまえがいなければ、私はどうなっていた事やら…」
【擬術士が最後に礼を言うと、光球はどこか嬉しそうに、くるくると光の尾を回していたが、目の前の扉が開くと、やがてつかの間の夢のように光の粒子となって消えていった】 - 25変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:03:33
「邪魔するぞ…」
【案内人も消えた今、改めて擬術士は帽子を被り直すと、扉の中を潜っていく】
【__扉の向こうは、光に満ちた大広間となっていた】
【天井には大穴が空いており、そこから雲ひとつない青空がよく見える。眼前の壁はほぼ崩れ落ちており、下に落ちたら一溜りもないだろう】
【_________しかし、そこに光角騎竜ライツナイトの姿はなかった】 - 26変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:10:58
「……!?」
【頬に冷や汗がつたいながらも、部屋の周囲を見渡すが…そこに竜の『姿』は一切なかった】
【………しかし、相手がここに『いる』という感覚だけは、ビリビリと痛いほどに伝わってくる。ただ、姿だけが見えないのだ】
【正直、『案内人』が来た時点で油断していたところはある…案内人を持ってしても、相手はまだ自分のことを見定めていると言うのだろうか?】
(なるほどな…気難しい性格というのは事実のようだ)
【そうなれば、彼は今、自身が『非礼』である要因をつかみ出す必要がある。再び彼は、思考を張り巡らしはじめた】
・・・・
("心当たり"はある…しかし……それをやってしまえば私は…私は勝てるかどうか…!)
【帽子のつばを持つ手が震える。視界と音が遠くなっていく感覚と、絶え間なく相手がこちらを見定めているだろうという確信だけが漠然と襲う】
(……ここまできたら、引く訳にはいかない!)
【全身の震えも、不安も一向に収まらない。ただ、ここは乾坤一擲の大勝負に出る必要がある】 - 27変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:11:30
【_____彼は部屋の向こうの崖の近くまで近づくと、スクロールを崖の下へと投げ捨てた】
【続いて、袋に入れていた転移鉱石を中心としたアイテムも捨て去っていく】
【…万全に準備をしたつもりだったが、もし、『外部と通信を取ること』が、『自身の力だけに頼らずアイテムに頼ること』が、非礼に当たるのだとしたら…今はそれに答えるべきだ】
【もちろん、自分でリスクをあげる危険は重々承知しているが、ここで引下がる方が、彼にとっては耐えられない苦痛となることは確かだったのだ】
「…………ッ!」
【アイテムやスクロールが見えなくなっていくのを確認すると、今度は自身の帽子に着いている鉱石を引きちぎようとした_________が、】 - 28変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:12:07
【背後から、『やめろ』と言うかのような澄み切った咆哮が聞こえ、擬術士はその動きを止めた】
「……………!」
【そこに見えたのは、サーベルのように銀色に輝く角を持つ、天界の使者のように真っ白な巨竜の姿だった】
【意味を持つ言葉を発した訳でもない、テレパシーを使っている訳でもない…しかし、擬術士には、目の前の相手の真意が読み取れた気がした】
【『それは捨てる必要は無い』と、聞こえたような気がしたのだ】
【黙ってその青空と同じく輝く蒼い瞳を見つめていると、ライツナイトは突如、自身の羽にマジマジお見つめる】
「なっ…何を…?」
【____竜は自身の羽を噛みつくと、そのまま勢いよく引きちぎった】
「_____!!」
【ライツナイトの羽からは、紅の鮮血が滴り落ちるも、彼はこちらが動き出すのを待つように構えている】
【__相手が自信で逃げる手段を捨てたのだから、自身も「それ」を捨てて立ち向かわねばならない】
【これは、そんな彼なりの竜の仁義なのだろう】
「…わかった。全力で行かせてもらおう!」 - 29二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 20:12:30
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- 30変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:15:20
【姿勢を正し、背に背負った杖剣の竿を抜くと同時に、ライツナイトが角をこちらに向けながら瞬時に駆け出してくる】
【剣でギリギリ角をかわすと、そのまま意識を集中させて魔力を込め、炎の斬撃を竜の眼前へと向かって飛ばすが、竜の咆哮の衝撃で斬撃は跡形もなく吹き飛ばされる】
「グッ…!」
【自身の斬撃が跳ね返って額をかすり、どくどくと血が流れ始めるが、それでも彼は攻撃を辞めない】
【バランスを取り直すと再び駆け出し、杖剣の柄で勢いよく相手の腹部へと打撃を与える】
「まだまだァァ!!」
【躱して、防いで、斬って、殴って、斬って_!】
【いくら傷だらけになろうとも、息が切れそうになっても、今は…今だけは、何があっても止まる訳にはいかなかった】 - 31変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:15:56
【そうして、互いに時も忘れていき___】
「……ッハ…ハァ……!ハァ……ッ…!」
【荒くなった息を整え、ひび割れた装飾の鉱石を拾いなおし、今にも崩れ落ちそうな程に疲労が溜まった足を何とか立て直す】
【既に擬術士の身は疲労と負傷を溜め込んでおり、以前の彼ならとっくに再起不能になっていただろう状態だった】
【しかしそれはライツナイトも同じであり、光り輝く真っ白な体は泥と砂埃と血に汚れていた】
【互いの魔力と体力を駆使した一騎打ちは終盤を迎え、もはやどっちが先に倒れてもおかしくない状態だった】
【____しかし、互いに「逃げる手段」を捨てた者同士、死んでも引く訳にはいかなかったのだ】
【まず先に、ライツナイトが一気に擬術士の方へと迫り、至近距離から光のブレスを吐き出す】
「………ッ゙ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
【それを擬術士は最後の魔力をふりしぼり、魔法陣を展開させて防ぎ、はね返そうとする】
【手に、全身に、波動の衝撃が伝わる。耳鳴りが酷く、今にも気を失いそうになりながらも、擬術士は眼前の相手の瞳を見つめ続けた】
【パッと辺り一面が閃光に包まれ、ブレスがライツナイトの方向へと跳ね返り、勢いよく吹き飛ばされる】
【そして、それを合図に擬術士が勢いよく助走をつけて、竜の頭上へと駆け上がる】
「くらいやがれ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!!」
【振り下ろした杖剣の一撃が、ライツナイトの角に直撃し…ぶつかりあった衝撃で、辺りには火花が飛び散っていく】
「ぐっ……!」
【既に彼は指の何本かの骨は折れ、杖を持つのすら精一杯の状況だった】
「……ッあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
【それでも…彼は己の限界を超え、全身全霊、剣に力を込め続けた】
【ガキィンッ………と、何か、金属のようなものが『折れる』音が宮殿全体に鳴り響く】
【その音がこだまする中、彼らはぐらりと姿勢を崩し倒れていく】
【折れたのは_______ライツナイトの角だった】
【そして、先に再び起き上がったのも、ライツナイトなのだった】 - 32変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:16:21
【傷付いた竜は、再びゆっくり身を起こすと、意識を失った擬術士の方へと近づいていった】
【決闘を繰り広げた人間。黒い髪に黒い服の、輝かしい瞳をしていた若き青年。その存在を興味深そうに、どこか慈しむように、じっくりと見つめていた】
【やがて竜は、加えていた『何か』を擬術士の傍へと落とした】
【それは…先程擬術士が投げ捨てたはずの、スクロールとアイテムだった】
【彼の息があるのを確認すると、竜は己の光り輝く角を残し、傷だらけの身を引きずりながら扉を開く】
【そして、清く美しき戦友へと向けて、お辞儀をするように頭を下げ、礼を言うように咆哮すると、再びその姿を消したのだった】
〘依頼達成〙 - 33変化カルテット◆7QYSFer3VU22/06/15(水) 20:20:40
※…で、目覚めた後に疲労困憊しながら転移鉱石を使って帰ってきて現在に至ります
以上です!長々と御付き合い頂きありがとうございましたー!