- 1俺の遺言21/09/28(火) 20:35:57
- 2俺の遺言21/09/28(火) 20:40:25
第一幕
―――鬼舞辻無惨との戦いから暫く、俺……「富岡義勇」は怪我の治療に専念した。
俺以外にも傷を負った鬼殺隊、隠も含めて蝶屋敷や鬼殺隊に携わる病院に運び込まれた。片腕を失ったが幸い俺は命に別状はなかったが安堵からか怪我が原因か数日間眠り込んでいた。目を覚ました時、俺の視界に入ったのは馴染みのある天狗の面を着けた人。元水柱であり、俺の師匠。「鱗滝左近次」その人だった。
「よくやった、義勇。お前は立派な子だ」
寝台からようやく上体を起こす俺を抱きしめながら、先生は俺にそう告げる。
その声は震えていて、表情は伝わらないが泣いているのがわかった。そんな温かな言葉に俺の目からも涙が溢れる。それから2人で落ち着くまで、泣き続けた。
「先生、……俺達はあの後……?」
落ち着いて冷静さを取り戻した俺は状況の把握を図る。
そんな意図を理解してくれたのか先生は俺に無事に無惨が討たれ、一時鬼と化した炭治郎も無事に人間に戻り今も安定した状態であることを教えてくれた。
どうやら炭治郎は蝶屋敷に運ばれた後も変わりなく人間のままでいるらしい。
安堵の吐息を溢す。
ふと、右腕に痛みが走り顔を顰める。そうだ。あの戦いで俺は右腕を失っていた。
「幻肢痛というものだそうだ。……失った箇所が痛むことがあるそうだ」
なるほど、確かに違和感。動かそうとしてもそもそも動くものは既にない。
「……もう、教えてもらった剣術を充分に扱うことはできないですね」
そう自嘲混じりに呟く俺の頭を先生が、刀を握り続けた硬い掌で優しく撫でる。昔は錆兎と一緒にこうして撫でてもらうのが好きだった。
「もう、刀を振るう必要はないんだ、義勇。お前はもう戦わないでいいんだ」
そう優しく俺を諭してくれた。
そこからは、先に書いたように治療が始まる。
やはり利き腕を矯正するというのはなかなか難しい。暫くは箸の扱いや幻肢痛に悩まされた。更に言うと戦いでの無茶が祟ってか急激な体力の低下が酷い。矯正の傍、呼吸を用いてある程度まで体力が戻るのを待った。
左腕での生活にも慣れた頃、退院を言い渡される。そこからは狭霧山に戻り、先生と生活を共にした。お館様から頂いた屋敷もあったが、そもそも俺にあんな豪華な屋敷は不相応なので御返しした。しかしなかなか引き下がってもらえず、いつでも使えるように掃除人に手入れをさせておくとのことだった、申し訳ない限りだ。 - 3俺の遺言21/09/28(火) 20:54:18
狭霧山では先生が俺の髪を切ってくれた。鬼殺隊に入ってからは強くなることを求め、鬼を狩ることに務めた。そのせいで気付けば髪はかなり伸びていた。
「懐かしいな、昔は錆兎とお前の髪も儂が整えていた」
忘れることはない、苦しくも楽しかった修行時代。
たまに先生が間違えて髪型が変になってしまうこともあった。その度に錆兎と俺とで笑い合い、申し訳なさそうにする先生を慰めるのが恒例だった。
「まさか、こうしてまたお前の髪を切る日が来ようとはな…。本当に、よく頑張った」
狭霧山に帰ってから、先生は事あるごとに俺を褒め、その度に涙を流す。
俺の寿命について、先生には話していない。先生を不安にさせることも、気を遣わせることもしたくなかった。……だが、先生は鼻が利く。きっと俺が誤魔化したところで、この人には見抜かれているんだろう。
無惨を倒せたことは良かった、自分が死ぬのも怖くない。
それでも家族である先生を遺していくのが気掛かりだ。
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第一終 - 4俺の遺言21/09/28(火) 22:18:59
第二幕
狭霧山での生活は昔を思い出す楽しい日々だった。
依然体力は元通りにはいかなかったので、修行時代に使っていた山道を先生の許可を得て使わせてもらった。
片腕を失ってからどうにも身体の軸がブレ、何もないところで転びそうになることも多かったが、逆にそんな状態の身体だからこそ狭霧山の山道は体力を戻すのに適した状態だった。
数週間後、その日の行程を終えて先生のいる小屋に戻ると小屋には一羽の鴉。
そう、俺の担当をしていた鎹鴉である「寛三郎」だった。
「義勇!オ館様ガオ呼ビダ!最後ノ柱合会議ダ!」
聞き慣れた声で伝達事項を伝える寛三郎。歳のせいもあり、大きな声で叫ぶと疲れるんだろう。言い終える頃には息も切れ切れの様子だった。
そんな寛三郎に水を与えながら小屋にいた先生は俺に顔を向け、小さく頷く。
あの日から修繕して、そこから着ていなかった隊服と羽織りを羽織って、俺は落ち着いた寛三郎を肩に下ろしお館様の待つ屋敷に向かう。
道中、幾つかの町や村を通り過ぎる。そこに住まう人達の笑顔が、とても愛おしく見えた。
「そこの兄ちゃん!食っていかねえか!」
暫く歩いて町に着く頃にはすっかり夜に。今日の夕餉と宿を探していると不意に声を掛けられる。
どうやらうどん屋の屋台のようだ、。勝気そうな店主が手招きをしてくる。
鮭大根が食べたかったが、町に着く頃にはどこの店も閉まっていて、ここ以外では食べられそうにない。
「……そうさせてもらおう」
屋台の前に設置された椅子に腰を下ろして、品書きに目を通す。これと言って希望のものもなかったので、適当に目に付いた山掛けうどんを注文した。
「お、兄ちゃんわかってるじゃねえか!うちの山掛けうどんは絶品だぜ!」
どうやら一押しだったらしく、店主は嬉しそうに笑いながら調理に取り掛かる。
少しすると、芳しい香りが漂ってくる。この匂いは空腹を誘う。空きっ腹を撫でながらうどんの出来上がりを待つ。
「よし、山掛け一丁お待ち」
出来上がったうどんを持ってきた店主は俺の片腕がないことに気付くと器をどこに置くか迷っているようだったので、俺は無言で膝を指差す。
「落とすんじゃねえぞ、勿体ねえから」
ぶっきらぼうに言いながらも、心配するように器を丁寧に膝の上に置いてくれた。 - 5俺の遺言21/09/28(火) 22:19:26
店主はまた屋台の中に引っ込んでいったので、俺は夕餉を食べ始める。
「いただきます」
手を合わせることはもう出来ないが、だからこそその挨拶だけはするように心掛けている。膝の器を落とさないように気を付けながら、左手で箸を持ちうどんを啜る。少し不恰好で品がないが仕方ない。
「……!」
一口食べて目を見開く。これは美味い。
なるほど、一押しなだけはある。温かな汁が夜の風で冷えていた俺の身体に熱を与える。もちもちとした歯応えも食べた実感の湧く食感で、腹を満たすのに丁度良い。
あっという間に食べ終えてしまった。
「随分美味そうに食うねえ、兄ちゃん」
もう屋台を畳む時間なんだろう。片付けを始めていた店主が俺の様子を見て感心したように呟く。
「随分前に来た兄妹は急に俺のうどんをぶちまけやがってな……。まぁ、ちゃんと謝ってきたしその後美味そうに食ってたから許してやったけどよ。その時の兄貴みたいに美味そうに食ってたぜ」
「……そうか」
そんなことを言われても困ってしまう。……だが、本当に美味かったので仕方ない。俺は店主に代金を渡して宿屋をまた探す。遠ざかる俺の背に店主は手を振りながら「また来いよー!」と声をかけてきた。返事として、軽く片手を上げておいた。 - 6二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:20:07
支援
- 7二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:21:50
良き哉……。
続きを待っているよ。 - 8俺の遺言21/09/28(火) 22:21:58
あ、すみません。今ので第二幕終わりです。入れ忘れてた
- 9俺の遺言21/09/28(火) 22:42:35
ひとまず今日は二幕までにしときます。
書き溜めとかしてないんで一幕一幕出来たらここに残していく形になるので気長にお願いします - 10俺の遺言21/09/28(火) 23:43:35
いかん、普通にスレが落ちる
- 11二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 10:33:52
保守
- 12俺の遺言21/09/29(水) 12:32:27
今日の夜に続き書きます
- 13二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 23:52:11
保守
- 14二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 11:34:22
保守