- 1二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 20:27:59
- 2小学校の卒業式です22/06/16(木) 20:40:44
- 3二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 20:52:43
- 4二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 21:00:53
マーベラース!! マーベラース!! マーベラース!!
声が聞こえる。男の、女の、老いの、若きの、人の、ウマ娘の、声が聞こえる。
暖かな日差し、ぬくもり、微睡みのように安らかで穏やかな光の中で私はその声の海へと沈んでいく。
世界に厄災がある、戦争がある、飢餓がある、あらゆる素晴らしくないものがしかしそこには存在する。
それでも目の前はいつだって明るい。瞳の中を常に照らしてくれる輝きがあるから。
ウマ娘はただ走る。私達はそれを見る。それは自覚だ。自覚であり寛解だ。カッパドキアの奥で彼女がそう囁いている。当たり前のことだ。
究極的には42だが、答えはいつだって46なのだ。私は理解した。あなたのことです。
「マーベラス☆」
声が聞こえる。
「卒業おめでとう! とってもマーベラスだよ☆」
声が聞こえる。 - 5二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 21:16:17
まさか卒業まで1回も話せないとはなぁ…。
気づいたら皆に囲まれてるし…帰ってゲームするか…。 - 6二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 22:15:16
- 7二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 00:39:03
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- 8二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 00:42:59
新しいサポカかな?
- 9二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 00:48:33
彼とこの学園の桜を見るのももう最後なのだろう。無意識に名残惜しいとでも思うのか歩調も徐々に遅くなる。
「もう卒業……なんですね、って!どうしたんですかその顔!」
そんな一緒に歩んできた横顔は涙でボロボロになっていた。
「この桜を見るのは最後だから……?
ふふっ、本当に涙脆いんですねトレーナーさんって」
でも、この涙脆ささえも私は好きなのだ。
淡紅色の桜ノ雨が、通り過ぎてゆく。
桜はどんな時、どんな場所でも綺麗で立派な花を咲かせる。これから先、今まで以上の困難が待ち受けようとも、
彼となら。
「トレーナーさん……ありがとうございました」
「……私だけではどうしようもない時、トレーナーさんが手を差し伸べてくれたお陰で、私は満開の桜を咲かせることができました」
未来の挫折も私たちはきっと、強さに変えられる。
「でも……一番見せたい人にまだ、"ローレル"という桜は見せられていません」
「それまできっと、これまで以上の困難が待ち受けてると思うんです。でも」
彼の少し前に行き、正面に立つ。
「トレーナーさん……いえ、"貴方"とならきっと満開に咲ける、そう思うんです」
「なので! これからも末永く、よろしくおねがいします!」
夢を見よう、彼と一緒に。いつまでも、いつまでも。 - 10二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 02:27:45
おや⋯?みんなレベル高いな?
- 11二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 02:37:22
「卒業おめでとう、ゴールドシップ」
アタシの人生で一つの大きな区切りとなるこの日、本来なら、トレーナーからはそんな感じの言葉をかけられていたんだと思う。
だが実際にトレピッピの口から発せられる言葉は、アタシを糾弾するものばかりだ。
「何を考えてんだゴルシ!!急に麻袋を被せてきたと思ったらまたこれか!?」
眼前に広がる真っ白な砂浜に、透き通った青色の海、そしてどこまでも広がっている空。案外潮の匂いは無いものの、非日常を体現するかのような光景の中、トレーナーの怒声と打ち寄せる波の音だけが響き渡る。
「あの袋チクチクするから全身痒くなるんだよ!被せるならせめてもっと肌触りの良い袋にしろ!!何回言わせるんだよ!?」
そう言って憤慨するトレーナーを見ていると、自然と口角が上がってくる。アタシのやること為すことにかき乱され、付いてくるのがやっとだった坊やがイッパシの口を叩ける漢になっているんだ。養殖職人としても鼻が高い。
「そう言うなって、愛しのトレピッピちゃん。ほら、そこで拾ったヤシの実でも食ってリラックスしろよ?」
「……いや、マンゴー見つけたからいらない」
一瞬の間を挟んでからそう言うと、平常心を取り戻してしまったらしいトレーナー殿は、ポケットから2つのマンゴーを取り出して一つをアタシに渡してきた。
「ん、サンキュ」
キャッチしたアタシの左手に、追熟させりゃ良いツヤを出しそうな宝玉の原石が収まる。このまま食べてしまうのを躊躇したくなるような最上級の素材アイテムをすんなり見つけ出すトレーナーは、やはり一流のハンターなのかもしれない。
それはともかく、日陰に打ち上げられた流木に腰掛けたアタシ達は、真空波で皮を剥いだマンゴーを無心でかじり始める。そしてマンゴーが一回り小さくなった頃、トレーナーちゃんが疑問を投げつけてきた。
「随分懐かしいけども、ここに拉致ってきたのはやっぱり思い出の島だからか?」
「んぁ?なんだオマエ、アタシ達の黄金伝説の開始点って気づいてたのかよ」
忘れろっていうほうが難しいぞ。そう言ってトレピッピは笑うけども、二人の思い出の場所をしっかり覚えていたのはかなりゴルシちゃんポイントが高い。スリーランホームランぐらいの威力はあるな。 - 12二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 02:37:54
「にしても今日に至るまで、本当に色々あったな。…………まぁ、その、思い出したくない事も結構多い気がするけども」
「冥王星で異星人の艦隊に袋叩きにされたやつとか?」
「それもその一つだな、いやぁあれは地獄だった。あんなもんは二度と御免だよ全く」
「まぁでも、つまらなくは無かっただろ?」
「今思うと、な」
いつの間にか、縁側に座り昔話に花を咲かせる老夫婦みたいになってるアタシ達。うーん困った、ゴルシちゃんこういう雰囲気にしたくなかったからこの島に拉致ったんだけどなぁ。逆効果だった気がしてきた。
「でもそういう波乱に満ちた生活も、今日で最後なんだよな………」
「…………え?」
「だって、お前は今日で卒業するだろ?ホラ」
「………オイ、何でオマエがそれを持ってんだよ」
「それはお前…、俺は破天荒ゴールドシップのトレピッピ様だぞ?『普通に感動の卒業式を迎える』なんて初めから出来ると思ってなかったんだよ」
「ははっ、そりゃあ悪かったなトレーナー」
トレーナーが渡してきた一本の筒。その中身が何なのかは考えるまでも無かった。なんだろう、悲しさとは微妙に異なる、なんとも言えない感情が押し寄せてくる。別に今生の別れなんて大袈裟なモンじゃないし、その気になれば普通に会えることは分かってる。
なのになんだろう、もうトレーナーと会えなくなるんじゃないか、みたいな不安のようなこの感情は。
「……ん?あれ、どうしたゴルシ?」
「………分かんね。けどなんか、今はこうしてたい気分なんだよ。悪いけど、ちょっと付き合ってくんね?」
「良いけど…。お前がこんなことするなんて珍しいな」
「だろ、アタシもビックリしてる」
気づけば、アタシはトレーナーの肩に身を預けてた。あぁ、なんだろう、すごい落ち着く。
もしかしたら、アタシは本能でこうなることを予期してたのかな。いやそれは無いか。だって今、別に面白くねぇし。 - 13二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 03:50:41
今日は卒業式。
たくさんのウマ娘たちが、このトレセン学園を巣立ち、新しい道へ旅立つ日。
自分の担当ウマ娘もその中の一人だ。
声をかけようと近づくと、あちらも自分に気付いたのか、友人たちに一言二言声をかけてからこちらにやってきた。
「卒業おめでとう、スペシャルウィーク。みんなとはもういいのか?」
「ありがとうございます、トレーナーさんっ!みんなも担当のトレーナーさんたちに挨拶するそうなので大丈夫です。それに、この後打ち上げもありますので」
「そうか。楽しんで来いよ。……しかしもう卒業か。早いもんだな」
「そうですね~。レースとトレーニングで、あっという間でした」
少し言葉が途切れる。
話したいことはたくさんあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。
「スぺは、卒業後は実家に戻るんだったか」
「はい。お母ちゃんのお手伝いをするつもりです」
「そうか。お母さんによろしくな。……そういえば、結局一度だけ挨拶に行ったきりだったなぁ」
「URAの時ですね!懐かしいなぁ」
「あったかい人だったな。スぺが真っすぐ育ったのがよくわかるよ」
「えへへ…自慢のお母ちゃんです!」
「うん」
「……」
スペシャルウィークは卒業後は実家に帰って家業の手伝いをするそうだ。
トレセンでトレーナーを続ける自分とは、こんな風に会話する機会もほとんどなくなってしまうだろう。
新しい門出を迎える教え子に、もう少しちゃんとした言葉をかけてやりたいと、そんな気持ちばかりが先走って、逆に言葉が出てこなくなってしまう。
そうしていると、今度はスペシャルウィークが口を開いた。 - 14二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 03:51:05
「トレーナーさん…。私、日本一のウマ娘になれましたか?」
『日本一のウマ娘』。それは、スペシャルウィークが目指したもの。…少し、考えて口を開く。
「……そうだな。日本ダービー、天皇賞春、天皇賞秋、そしてジャパンカップ。名だたるG1を制覇してきたんだ。スぺは、日本一のウマ娘と言っても差し支えないと思うよ」
「でも、ジャパンカップではエルちゃんに、宝塚記念や有マ記念はグラスちゃんに負けちゃいました。皐月賞や菊花賞ではセイちゃんに負けちゃいました」
「それでもだ」間髪入れずに答える。「黄金世代と言われたメンバーの中で常にトップを争い続けた。生涯一度の日本ダービーを勝ち取り、天皇賞春秋連覇を果たし、世界最強と言われたブロワイエに真っ向から打ち勝った。ここぞという大一番に勝ち切る力を持った、世代を代表する『日本総大将』。それが、スペシャルウィークだ」
「…なんだか、改めて聞くと、私すごいウマ娘みたいです」
「"みたい"じゃない。すごいんだよ。スペシャルウィークは、すごいウマ娘だ」
スペシャルウィークの目を見つめ、言い切る。
それを聞いたスペシャルウィークは、顔を伏せ、肩を震わせた。
「と、トレーナーさん…。そんな風に言われると、わたし…わたし…」
「ありがとう、スペシャルウィーク。君のトレーナーになれたことが、君とここまでこれたことが、俺の誇りだ」
「うぅぅ…うわぁぁぁんっ!…さいごは…えがおでって…わたしこそ…ありがとうって…うぐぅぅぅ」
自分の胸に飛び込んで泣き出したスペシャルウィークを受け止め、その頭を撫でる。
鼻の奥にツンとこみ上げる涙をごまかすように空を見上げ、あたたかな春の日差しに目を細める。
空は快晴。
スペシャルウィークの輝かしい未来を約束してくれるかのような日本晴れだった。 - 15二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 05:06:42
「おーっほっほっほ!あなた達、このキングとの実りある日々を決して忘れない事ね!おーっほっほっほ!」
「ううう~キング~!元気でねええ!」「キングも」
「…ふぅ、それで、最後はあなたなのね、トレーナー?」
キングは学友、いつもの取り巻きの子達、ライバル達や寮の子との別れをすませてきたようだ。
面倒見のいい彼女のことだ。別れを惜しむ同級生や後輩はさぞ多かったことだろう。
そして自分はどうしても最後に送りたいから校門で待っていた。
「卒業おめでとう、キング」
「ええ、ありがとうトレーナー」
「もっと泣きじゃくってるかと思った」
「あら、見くびられたものね?一流は去り際も一流なのよ?」
「そのようだ。なら送る側も一流の送別でないとな」
「ええ、その通り。私達は一流で、これからも一流であり続けるのだから」
スイートピーの花束を渡す。王道だが、今日の彼女に一番似合うと思った。
「花言葉は門出、飛躍、優しい思い出…ふふっ捻りはないけど、一流の未来にふさわしい花ね」
「ああ、君なら必ずこれからも華々しい活躍をすることだろうな」
「当然よ。あなたもこの一流のキングヘイローの格を落とさないよう気を付けることね」
「もちろん、君からもらった一流の心構え、決して失ったりしないさ」
「そう、なら心配ないわね」
校門前にリムジンが止まり、一人のウマ娘が降りた。キングの母だ。
──校門を跨げば本当の終わり、トレーナーとウマ娘のコンビの最後だ。 - 16二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 05:09:04
「…じゃあ、いくから」
「ああ、お母さんと仲良くするんだぞ」
「ふふっ、私だっていつまでも子供じゃないわ。暫くはあの人の下で世話になるのだしね」
卒業後はデザイナーの道を進むそうだ。母の下で下積みをし、いずれ独立し自らのブランドを立ち上げる。
彼女の描く一流のプランだ。それは必ず叶えられることだろう。何故なら今までがそうだったのだから。
「──そうだわトレーナー、あなたのそのスーツの第二ボタン、貰えない?」
「いいけど、俺が卒業するわけじゃないぞ?」
「わかってるわよ。でも、その……」
「……ならさキング、君のリボンと交換にさせてくれないか?えっと、そうだな……俺達の"再会の約束の証"として……」
「…っ! ええ、そうね! これが私達の"再会の約束の証"……」
ボタンを引き千切り、リボンと交換する。
「…さ、今度こそ行くわね」
「ああ、じゃあ、な」
校門を跨いで、これで本当に終わった───と思ったら突然こちらを、というより学園に向かって、いつもの高笑いのポーズで叫んだ。
「おぉぉーっほっほっほっほ!!この場にいる全員、お聞きなさい!!
この一流のキングヘイローとこの一流のトレーナーと共に築いた活躍の記憶、しっかりと心に刻み付けなさい!!」
「そしてこの一流のトレーナーがこのトレセンにいる限り、何度でもその記憶を思い出させ、薄れさせたりしない!!」
だから学園の側から叫び返した。皆が注目しているが気にならない。
数秒見つめ合い、無言の約束を交わし終えたキングはリムジンに向かって歩き出す。
───ボタンを掲げながら、いつかまた会おう、と。
リムジンが見えなくなるまで、キングのリボンを高々と掲げ続けた。 - 17二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 07:04:19
難しいであろうゴルシ書けるのヤバない?
もしかしてジャスタ? - 18二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 10:33:15
ゴルシのやつほんますごい。
- 19二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 18:02:34
みんなすごいなぁ
- 20二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:36:29
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- 21二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:36:45
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- 22二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:36:58
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- 23二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:37:08
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- 24二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:37:18
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- 25二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 19:37:40
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- 26二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 06:24:02
- 27二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 15:26:20
勝手に終わらすな
- 28二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 18:09:29
もうちょっとだけ続くんじゃ。
- 29二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 02:02:00
保守
- 30二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 02:09:28
- 31二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 13:58:27
- 32二次元好きの匿名さん22/06/19(日) 14:24:51
なるほど。シンプルイズベストだな。
- 33二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 01:31:37
- 34二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 11:52:32
出してえええええええ
- 35二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 22:44:59
とても良き
- 36二次元好きの匿名さん22/06/20(月) 23:16:10
「いただきま〜す!」
「…いただきます」
卒業式が終わった後、俺は、担当ウマ娘のヒシアケボノと一緒に鍋を囲んでいた。「卒業したらなかなか会えなくなっちゃうし、最後にとびっきりのボーノをご馳走したいな!」と彼女の提案で、いつもより少し豪華なちゃんこ鍋になっている。
「思えば、俺はボノに会えなかったら、今頃ここにはいないんだよな…」
初めてボノに会った時、無人島に1人取り残されていた時のことを思い出す。
「あの時は本当にびっくりしたよ〜。砂浜に人が倒れてるなんて初めてだったもん」
「味噌汁まで飲ませてくれてさ、まるで女神だったよ」
「へっ⁉︎あ、ありがとう」ボノの顔がいつもより少し赤い気がする。いつだったかの花火大会以来だ。
(この数年間でいろんなことをしたな…)色々な思い出が頭の中を駆け巡る。ボノが初めて走ったレースの時、脚への負担に気づいて診断を受けた後、最後までヒシアケボノらしい走りをすると決めた時。バレンタインには大きなチョコケーキ、クリスマスにはイタリアンのフルコースまで作ってもらった。そんな彼女と離れることの寂しさを改めて感じた。
「トレーナーさん、どうかしたの?」
ボノの言葉でふと我に返る。
「なんていうか、やっぱりボノは "大きい" なって思っただけだよ」
「…?」
「いや、なんでもない」
そうこうしている間にちゃんこ鍋を食べ終わってしまった。いつも通りの、とってもボーノな味がした。
「ありがとう、ボノ。一緒に食べるのもこれで最後かもしれないけど、ちゃんこ鍋美味しかったよ」
「そんなこと言わないで」
「え?」
「アタシがここまで走ってこれたのも、ボーノなご飯をいっぱい作れたのもトレーナーさんと一緒にいたからだよ!だから、アタシはトレーナーさんとまだ一緒にいたいな」
ボノの言葉に胸を打たれる。俺は今まで逃げていただけだった。卒業したら終わりだと勝手に決めつけて、ボノへの思いを忘れようとしていただけだった。彼女が正直に自分の思いを打ち明けたのなら、こっちもそれに答えるべきだ。
「ボノ、君さえ良かったら、卒業してからも俺のために料理を作ってくれないか?」 - 37二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 11:18:14
あげ
- 38二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 22:31:08
このレスは削除されています
- 39二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:27:53
「トレーナーさん!おまたせしました!」
閑散としているトレセン学園の中庭に、あの聞き慣れた良く通る声が響く。近くの花壇に向けていた視線を声がした方へと向けると、手を振りながらこちらへと向かってくるサクラバクシンオーの姿が目に入る。彼女の手には黒っぽいワニ柄の丸筒が収まっており、その存在が彼女がトレセン学園を卒業するのだという実感を改めて与えてきた。
「思ったより早かったな?もうみんなへの挨拶は済ませたのか?」
「はい!学級委員長として、クラスメイトの皆さん一人一人に丁寧かつバクシン的な別れの挨拶をしてきました!これで残るはトレーナーさんひとりです!」
「そうか、さすがはバクシンオーだな」
「お褒めに預かり光栄です!トレーナーさん!」
これまでに何度も見た、屈託のない笑顔を向けて来るサクラバクシンオーを見ていると、少しずつ寂寥感が増してくる。トレーナーとしてのキャリアは多少積んできているし、教え子のウマ娘との別れというのも別に今回が初めてでは無い。だがこの場面は、恐らく何度経験しても慣れることは無いだろう。
「おや?どうしましたトレーナーさん?表情が優れないようですが……」
「あぁ悪い、今日でバクシンオーとお別れだと思うと…ちょっとな」
「なるほど、そういうことでしたか!しかしトレーナーさん、人間もウマ娘も生きていれば出会いがあり、同じ数だけの別れがあります!お気持ちは分かりますが、どうか気を落としませんように!いずれ私に代わる優秀なウマ娘が、また貴方の目の前に現れるはずです!」
ベンチに座る自分の横に腰を下ろしてきたサクラバクシンオーが、俺の様子がいつもと違うことに気づいたらしく、明るく励ましてくる。まさか教え子にこういう言葉をかけられるとは……。
「…うん、そうだな。ありがとう」
「いいえ、私は学級委員長として当然のことをしたまでです!お気になさらず!……とはいえ、そうですね。今日でトレーナーさんとお別れだと思うと、私も多少寂しさを覚えますね」
俺に感化されたのか、サクラバクシンオーが急にトーンダウンし始めた。さっきまでと違い、今の彼女の笑顔にはどこか影があるような印象を受ける。 - 40二次元好きの匿名さん22/06/21(火) 23:28:25
「有マ記念で初めて一着を取ったのだってもう2年前の話だからな。そう考えると、随分長いこと一緒にいたな」
「二人三脚で歩んできましたのも、なんだかんだで5年以上になりますからね。京王杯やスプリングステークス辺りのレースを走っていた頃がはるか遠くに感じられますよ…‥」
「宝塚記念、秋の天皇賞、ジャパンカップ。2000m超えのレースにいくつもの出場して一着を取った事を、クラシック級のときの君が聞いたら驚くんじゃないかな」
「うーん、どうでしょうね?実際に勝利を収めたというのもありますが、私はあの時からステイヤーとして結果を残すことに、1ミリの懸念も抱いていませんでしたからねぇ。むしろ春の天皇賞を取っていない事に驚くかもしれませんよ?」
そう言うサクラバクシンオーだが、別に俺を責める様な意図は一切無いだろう。しかし『春の天皇賞だって勝たせてみせる』と彼女に誓ったものの結果を残せなかった事実に若干胸が苦しくなり、気づけば俺の口からは謝罪の言葉が漏れていた。
「……そうだな。結局最後まで春天で勝たせる事が出来ず申し訳ない、バクシンオー」
「ちょわっ!?急にどうしたんですかトレーナーさん……ああ違います!!そういうつもりじゃありませんってば!!」
「大丈夫、それは分かってるから安心してほしい」
尻尾を逆立ててあたふたとするサクラバクシンオーをなだめる。その最中に思ったが、彼女がこういうふうに取り乱したことは、あまり無かったような気がする。気のせいと言われればそれまでだが。
ここでふと時間が気になり腕時計に目をやると、表示は16時半。まだまだ語りたいことは山ほどあるが、そろそろ潮時だろう。
「さて、日も傾いてきたしそろそろ行くか?」
「……そうですね!まだまだお話したいことは山ほどありますが、私達はこれからもバクシンし続けなければなりませんからね!この話の続きは、バクシンの先にたどり着いた場所でまた改めてやりましょう!」
二人でベンチから立ち上がり、夕陽に照らされる正門へと歩みを進めていく。彼女の言う通り、俺達はまだバクシンし続けてなくてはならない。歩みを止め過去をふり返るのは、まだまだ先でいいはずだ。 - 41二次元好きの匿名さん22/06/22(水) 10:49:23
バクシンめっちゃいい
- 42二次元好きの匿名さん22/06/22(水) 21:42:36
あげ
- 43二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 09:02:28
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- 44二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 20:34:41
とても良き
- 45二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 20:42:07
「もう卒業かぁ……ふあぁ〜……長かったね、卒業式!」
式から寮へ帰る道。隣で歩調を合わせる彼の顔は、自分とは対称的な困り顔だった。
「……ん? 友だちと遊びに行かなくていいのか、って?」
確かに今日という日は一緒に青春を競い合った友人達と、別れを惜しむように交友するのもいいだろう。だけど、
「ちゃんと別れの挨拶もしたし! 今生の別れってわけでもないからね〜。でもトレーナーさんはどうせ一人ぼっちだろうから、クラちゃん今日は付き合ってあげる!」
今日この日この時この瞬間、少しでも長く彼と一緒に居たい、そう思ったのだ。
風に吹かれて舞う淡紅色の風が、二人の間を翔けてゆく。まるで二人を包み、祝福するかのように、優しく、そよ風のように。
「この桜を一緒に見るのも最後だねぇ」
この木の樹齢を覚えてはいない。けれど、見ただけでも判る雄大な桜を二人で見上げる。嬉しいことも、楽しいことも、辛いことも、苦しいことも見ていたであろう桜を。
「トレーナーさんはこの先どうするの? ……え? 決まってないの?」
聞けば自分以外の娘と上手くやっていく自信がないという。自分を育て上げたというのにその自信のなさは何故なのか。
"大丈夫だって!" そう励ますつもりだったのに
「じゃあ、さ。一緒に来ない? ……私の故郷にさ」
出た言葉は酷く女々しかった。
「……ゴメン。私何言ってんだ……」
けれど彼は
「へ? 一緒に行く、って……ホンキなの?」
心の底で、一番強く、強く願っていた事を。一番強く、強く強く願った言葉で
「"君が征く道を一緒に歩む事が自分の夢だから"……っ……!」
応えてくれた。
「……ぷっ……あっははっ! ……参っちゃうなぁ、トレーナーさんには」
誤魔化すように笑うけれど、溢れていくキモチは止まらない。止めたくなかった。
ひとしきり泣ききった後、ようやく面と向かって話す。今まで伝えきれなかった想いを。
「…………トレーナーさん!」
自分の気持ちを打ち明けられる日が来ることを祈ろう。
「……ありがとう!」
今はこれだけしか言えなくても、いつか。必ず。 - 46二次元好きの匿名さん22/06/23(木) 20:48:57
「今日まで!あざっしたー!!!」
元気のいい声が響き渡る。
風紀医院を務めていた彼女の長い日々も、今日で終わりだ。
後輩に泣きつかれているのを見ると、相当慕われていたのだろう。
かく言う自分も…
「トレーナーさん!」
不意に声をかけられる。
「トレーナーさんもあざっした!ここまでアタシがやれたのもトレーナーさんのおかげっす!」
そんな、感謝の。そして別れの言葉。
彼女との別れが、自分はどうしても耐えられなかった。
「…どうしたんスか?…え、LAME交換…?だ、ダメっすよ!生徒と…っと、アタシはもう生徒じゃなかったっスね」
そう言って、彼女はスマホを取り出し、あっさりと交換してくれた。
「それじゃあトレーナーさん、またいつか!困った時は連絡してくださいっスー!!!」
声が遠ざかっていく。
この長い日々は終わるが、今日から新しい日々が始まるのだろう。
…手始めに、今度の週末一緒に出かけようと誘ってみよう。 - 47二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 08:14:04
このレスは削除されています
- 48二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 19:33:15
めっちゃええやん