【SS】クソボケ堕とし

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:19:23

     ※ かなり長いです

     タイシンは焦りを感じていた
     まずストレートに言うと、タイシンはトレーナーが好きだった
     自分を崖っぷちから拾い上げてくれた、親友に並び立つG1ウマ娘に育て上げてくれた、スランプになったときだって支えてくれた
     禁断の関係だろうが何だろうが、好きにならないわけがない
     タイシンは自分なりにアプローチを仕掛けた
     実家が花屋だから花言葉に意味を込めて贈る、バレンタインにカレーを作ってあげる、温泉旅行であんたじゃないとダメだと言うなど、自分なりに大胆に迫った
     しかし、ダメ…!!
     まったく成果が上がらない

     焦りを感じる理由は他にもある
     ハヤヒデ、チケットの親友2人が、トレーナーとできていたのだ
     ハヤヒデはお互い真面目で奥手なようだから結婚までに時間はかかっても、いつかはくっつくビジョンがある
     チケットは、何かもうホントにいつの間にか出来ていた
     はじめて聞いた時、ハヤヒデと共に嘘でしょ…となった
     BNWの中で一番の恋愛上手はチケットだった
     ストレートに感情をぶつけこれまたストレートに返ってきたらしい
     もう家族にも紹介し、度々お呼ばれしてるそうな

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:20:24

    >>1

     ところ変わってナリタタイシン

     タイシンには、そういう進展を感じさせるものがまるでなかった

     妹に負けているハヤヒデを茶化している場合ではない

     ハヤヒデとチケットにも心配されている

     タイシンは、この状況にデジャブを覚えた

     ─親友2人が結果を出す中、自分は退学寸前まで追い詰められた状況

     心境はまさしくそれだった

     あの時はクソボケが助けてくれたが、今回はそのクソボケを堕とさなければならない

     ─クソボケを堕としてやる…!

      私の場所はクソボケの隣だって証明するんだ!

     親友2人の恋愛事情は参考にならない

     かくしてタイシンは、トレセン学園恋愛強者たちに指南を受けるべく立ち上がった

     トレセン学園には恋愛四天王と呼ばれる恋愛強者たちが10人数人存在する

     彼女たちからノウハウを得られればきっとクソボケもアタシに夢中だ


     まずはトリックスターと呼ばれるセイウンスカイのところからだ

     後輩ではあるが、噂によると自身のトレーナーを手玉にしているらしい

     タイシンはウンスに相談を持ちかけた

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:21:17

    >>2

     「えっ…!?恋愛強者だなんて、いや〜セイちゃん、そんな風に言われちゃってたんですねえ」

     「手玉の取り方って…別に大したことないですよ〜

     ただ私が釣りしてるとトレーナーさんが見つけてくれるだけで…」

     「先輩、バレンタインでトレーナーさんにカレーを作ったんですか!?

     あ、いえ、私は途中でちょっとヘタレちゃって…」

     「…その、はい、セイちゃん恋愛強者なんかじゃないです…

     見栄張ってトレーナーさんが私にドギマギしてるみたいなこと言ったらそれが広まっちゃって、今更違うって言い出せなくて…」

     「というか、私が弱いんじゃなくて黄金世代のみんなが強すぎるだけで…スペちゃんの初手実家紹介は禁止級でしょ…」

     

     ダメだった、本当に大したことがない

     セイウンスカイはタイシンを遥かに下回る恋愛弱者だった

     肝心なところでヘタレたエピソードを語るばかりでまるで参考にならなかった

     精々反面教師になるだけだ


     タイシンは、応援していること、なんかいい方法があったら共有することを約束して次に向かった

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:23:12

    唐突にスカイへ流れ弾飛んでて草

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:23:19

    >>3

     次にタイシンが向かったのは、トレーナーのはじめてのウマ娘ことダイワスカーレットの部屋だ

     体型的には対象的といっていいものの、ステータス補正は同じで覚醒スキルも優秀な者同士、何か得られるのではないかと期待に胸を膨らませた

     (…ステータス補正と覚醒スキルって何?)

     自分の頭によぎった電波を振り払い、ダスカから恋愛指南を受ける

     「そうですね、やっぱりいつもアンタはアタシのものって感じで独占欲を持ってることを感じさせるのを意識してます」

     「あと、新聞記者に記事を書かせるのもいいですね

     トレーナーと担当ウマ娘の絆、みたいな感じで

     世間にパートナーだと認知させるんです

     独占インタビューみたいにすると効果的ですよ」

     「いつも服装に変化を持たせて、どこが変わったのか気づかせるのもいいですよ

      今日は何が違うのかって、担当のことを注意深く見るようになります

     オシャレしてることを理解させて、意識をさせるんです」

     (─強すぎる…!!)

     ダスカと同室のウオッカも講座に参加したが、タイシンはウオッカと2人して唸っていた

     強い強いと聞いていたが、まさかこれほどとは

     世間に対して働きかけることを切り札に据えつつ、自分の毎日の服装の変化に気づかせるのは使える

     セイウンスカイとは次元が違う


     タイシンはホクホク顔でダスカに礼を言うと、次に向かった

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:24:35

    ダスカさんまじパネェっす

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:25:10

    >>5

     次に向かったのはエイシンフラッシュのところだ

     フラッシュの名の如く閃光のような速さでゴールインしたウマ娘で、もうドイツの両親が実家に迎え入れる準備を終えている、トレセンの恋愛チャンピオンだ

     「私の場合、トレーナーさんが一目惚れしたところからがスタートですから参考になるかどうか…」

     「ドイツ式のお付き合いと異なり、はっきりとした告白はカルチャーショックでもありましたがいい経験になりました」

     「トレーナーはドイツの事情を知らず、私の実家に迎え入れられることに気がついた時は少々面倒なことになりましたが、強引に差しきって責任をとらせました」

     「やはり実家を活かさない手はありません

     両親と面識を持つようにして、サポートを受けるのです」

     フラッシュと同室のファルコとともにしきりに頷きながら、タイシンはメモをとる

     フラッシュはキャー!フラッシュさんだいたーん!なんて言いながらクネクネしている  

     自身とトレーナーを今のシチュエーションに置き換えているようだ


     (実家…、確か母さんとトレーナーは面識があったはず)

     

     URAファイナルズ優勝のあと、タイシンは母がクソボケの元を訪れていたことを知っていた

     クソボケなら母に好印象を与えているはずだ

     タイシンは母に電話し、応援を求めた

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:28:52

    >>7

     母のとうとう春が来たのね!という言葉と共に応援の約束を取り付けたタイシンは次に向かう

     四天王ら10人数人の中では若干格が落ちると評されるも、まるでトレーナーを呼び名通り実験用モルモットの様に扱い、トレーナーは彼女を主人とするように甲斐甲斐しく世話を焼くという

     魔性のウマ娘、アグネスタキオンの元へ歩みを進めた

     「ふうん、話は分かった

     好意を伝えたいんだろう?

     モルモットくんが私に誠心誠意尽くすように、君もトレーナーに尽くしてみてはどうかな

     お弁当を作ってタコさんウインナーを入れてあげるとか、ね」

     「タコさんウインナーで喜ぶのは感性小学生?負け惜しみは見苦しいよ、私とモルモットくんの関係に並びたってから言いたまえ」

     「ちょうどここに素直になれる薬があってね、頭がボーっとするが効果はある

     一度自分の気持ちを素直に吐き出して、見つめ直すのにどうだい?ついでに実験体になってくれたまえ」


     「それって別名自白剤って言わない?」

     このタイシンの言葉は無視された

     タイシンは、呆れ顔のマンハッタンカフェと鼻血を垂らし立ったまま尊死しているデジタルを見ながら、素直になる薬を飲んだ

     「おっと、今飲むのかい?

     それ、効果が出るのに3時間くらいかかるんだ

     精神的な負担を極力抑えた会心の出来でね」

     

     もっと早く言えよ

     そう思いながら、タイシンは尽くす選択を頭に入れ、最後の四天王の元に向かった

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:30:36

    >>四天王ら10人数人の中では

    四天王ってなんだ……?

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:30:42

    >>8

    タイシンが10数人いる四天王の中から最後に選んだのは、ナイスネイチャだった

     万年3位で勝ちきれないことを自虐するが、間違いなく一流の実力をもつウマ娘だ

     一説によればトレセン学園で最も卑しいウマ娘とされる彼女を頼り、タイシンは指南を求めた

     「アタシがトレーナーさんをどうやって堕としたかって…いやいや、ネイチャさんにはそんな大それたことできないし、してませんよ〜」

     「ただ、アタシが弱気になってたのをトレーナーさんが信じてくれたからアタシも頑張れたっていうか、好きになったっていうか…みぎゃあああァァァァッ!?今のなし!!」

     「トレーナーさん、折り紙でできたトロフィーなんて作ってくれてさ

     ほら、これなんだけど

     アタシももう子供じゃないのに…

     一生懸命アタシのために…」

     「商店街のみんなも応援してくれてるわけだし、ネイチャさんとしては期待に応えないわけにはいかないってところでして

     トレーナーさんもそれに気づいてくれて…」

     

     なるほど、これは卑しさマーベラス級だ

     自分の世界に入り頬を赤く染めるネイチャを、同室のマーベラスサンデーのマーベラス空間に飲み込まれながらタイシンは思った


     このマーベラスさなら商店街に愛され、応援されるのも納得だ

     なんてマーベラスな卑しさだろう

     アタシもこのマーベラスさを見習わなくちゃいけない

     ああ、ネイチャはまさにマーベラス…!

     このマーベラスな2人にマーベラスな未来があらんことを…!

     タイシンは聖マーベラス神に祈りを捧げると、マーベラス空間を後にした

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:34:32

    >>10

     マーベラス神って何?

     まだくらくらするものの多少正気に戻ったタイシンは、ある事実に気がついた

     有効な作戦を授けてくれたウマ娘たちは、みんな自分にない武器を持っていたのだ

     具体的には言わないが、みんなでかかった

     タキオンとネイチャはそれほど大きいわけではないが、存在感は確かだ

     特にネイチャはアニメで明らかに盛られていた、どう考えてもサイズ以上だ

     ターフに寝転んであのボリュームはおかしい

     そして自分より先にトレーナーとできていたBもWもデカい

     Bはもう、長身でグラマラスでお姉ちゃん気質で頭がいいメガネ美人で、これに惹かれない男は不能かホモくらいだ

     Wは普段は意識されないが実はかなりデカい

     アニメでは何故か削られていたが、まあサラシでもつけてたんだろう

     いつもは子供っぽい癖に、そういったギャップでトレーナーを誘惑したに違いない

     (卑し過ぎでしょ…)

     タイシンは、今更ながら親友の卑しさに驚愕した

     


     そして、自身の体型に近いセイウンスカイは弱かった

     これではデカい=強い、小さい=弱いという、ハヤヒデすら気づくことのなかった方程式が導き出されることになる

     誰か、小さくても強いウマ娘からも話を聞く必要がある

     では、そのウマ娘は誰か

     タイシンはすぐにそのウマ娘の姿を思い浮かべ、彼女の元へ向かった

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:36:18

    >>11

     「男性は、速いの女性が好きなんです」

     「だからトレーナーさんは私を好きになってくれたんです」

     「…全盛期を過ぎたら遅くなる?タイム自体は私より早いウマ娘がいる?足が速くてモテるのは小学生男子くらい?

     そうですか…でも私の方が速いですよ?」

     

     (…イメージと全然違う)

     タイシンが選んだのは、サイレンススズカだった

     最速の機能美の異名を持つ、スレンダーなウマ娘だ

     スタイル、儚げなルックス、控えめな性格、声が噛み合い、謎の色気を醸し出している

     正直、グラマラスなハヤヒデやダスカよりも色気を感じる

     それがこんな先頭民族だったとは

     ダンボールいっぱいの人参を生で貪るスペシャルウィークも呆れ顔だ

     

     アニメで盛られ、円盤で削られた彼女なら何か得られるものがあるはずだと考えたタイシンの期待は裏切られた

     もっとクールビューティーな求道者だと思っていたが、かなりの天然なアホだった


     「何だか話をしていたら走ってきたくなりました

     ちょっと走ってきますね」

     「スズカさん、今日はオフで走っちゃダメって言われて…」

     

     スペシャルウィークの制止は耳に届かず、サイレンススズカは走りに向かった


     タイシンは部屋を後にした

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:36:21

    ウンスが何をしたっていうんだ
    何もしなかっただけじゃないか

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:37:59

    >>12

     タイシンは、トレーナー室を訪れた

     大きな実績を残したトレーナーとウマ娘だけに用意されるもので、タイシンとクソボケはここでいつも作戦会議を行なっていた

     タキオンの薬が効いてくる時間が近づいてきたため、1人になるべくここにきた

     寮の部屋にはクリークがいるかもしれない

    これから素直になる自分を誰にも見られなくなかったのだ

     ノートを広げてペンを持つ

     薬が効いてきたら、浮かんだ考えと今日学んだことを書き殴り、明日まとめる

     今日はオフで、クソボケも来ないだろう

     そう考えたタイシンは、少しずつボーっとしてきたことに気がつく

     (結構、きつ──)

     凄まじい眠気がタイシンに襲いかかる

     ほぼ無意識になりつつも、タイシンは自分の心に浮かんだ正直なことをノートに書き出した


     (ヤバい、忘れ物しちまった…)

     タイシンのトレーナーであるクソボケは、トレーナー室に急いでいた

     タイシンのトレーニングに活かせることをまとめたメモを置いてきてしまったのだ

     明日のために今日中にまとめておきたい

     トレーナーは、部屋に入り自分の机の中を探そうとするが、そこで、いつも自分が使っている椅子に座るタイシンを見つけた

    「あれ、タイシン?どうしてここに…」

     声をかけるも反応がない

     顔を覗いてみると、うつらうつらと眠そうにしている

     ノートには、何やら書き殴ったあとがある

     おそらく、勉強かトレーニングについて書き出している内に眠ってしまったのだろうとクソボケは推測した

     (偉いなあ、タイシンは

     オフの日でもこんな熱心で)

     クソボケは、開いてあるノートに目を向けた

     タイシンが寝ているのに勝手に読む気はなかったが、視界に入ったことで書いてあることを読みとってしまった

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:39:39

    >>14

     『好き 自分のものにしたい 家族に紹介 周囲に示す ヘタレ ドイツ マーベラス 一番 実家 一生待つ 結婚 いつ』


     クソボケは、パッと見てこれだけの文を読みとった

     クソボケに電流が走った

     (!…タイシンは恋をしているのか…!?)

     多少意味が分からない分が混じっているが、恋愛的なニュアンスを含むものが多いことを理解した

     思えば、アスリートとはいえ年頃のウマ娘

     恋くらいするだろう

     (悩んでいるようだが…タイシンは引くて数多だから大丈夫だろ)

     相談相手にはハヤヒデとチケットがいるし、自分の出る幕はないだろう

     (娘がとられる父親ってこんな気持ちなのかな…)

     正直、教え子が誰かに嫁ぐことを想像すると、寂しくなって心が辛い

     しかし、大人として応援して送り出してやらねば

     (相手は誰だ?こんな忙しかったのに見つかるか?…いや、そうじゃない

     相手がどんなやつか見極めないと

     俺は保護者でもあるんだ)

     G1ウマ娘は、栄光と財産を得た存在であるが故に、トラブルに巻き込まれる可能性が高い

     特に、ウマ娘は学生の内にそういったものを得て感覚が狂い破滅することだってある

     相手だって、タイシンの得た賞金目当てで言い寄ってきたやつの可能性だってある

     ──俺が守護らねば

     決意を固めたクソボケは、眠気眼なタイシンを見やると、タイシンを寮に連れて行ってくれそうなウマ娘を探しに向かう

     ウマ娘寮にトレーナーは入れないから、送ってやることはできない

     ─確か、食堂で同室のスーパークリークさんが自分のトレーナーと赤ちゃんプレイをしていた筈だ、彼女を呼ぼう─

     クソボケは、クリークを呼ぶためにトレーナー室を出ようとしたがクソボケの服を掴み、引き止める小さな手があった

     タイシンの手だ

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:42:23

    >>15

    「…行かないで」

     眠そうな目をしながら、タイシンは言った

     「大丈夫だよ、タイシン

     眠そうだからクリークさん呼んでお前を部屋に送ってもらうだけだよ」

     クソボケはそう言っても、タイシンは手を離さない

     どうも、寝ぼけているような状態で言っていることが認識できないようだ

     (一回寝かしつけて、それから行くか…?)

     寂しげなタイシンを振り払う気にはならないし、そもそもウマ娘のパワーはクソボケの力では引き剥がせない

     一度タイシンに眠ってもらおうと向き直ると、タイシンはクソボケの胸ぐらを掴み、顔を近づけた

     「ちょっ…!?タイシン、苦しいっ…!」

     そう訴えると、少し緩んだ

     しかし胸ぐらを掴んだ手はそのままで、タイシンは目を逸らさず、クソボケの瞳を直視しながら言った

     「あんたが好きだ」

     「…えっ…??」

     「アンタが好きだって言ったんだ」

     「タ、タイシン?」

     クソボケは混乱した

     さっきノートを見てしまったときに恋をしているのは分かったが、まさか自分だとは思いもしなかったのだ

     「今日、色んな人のとこ回って、どうやったらアンタを落とせるか聞いて回ったんだ」

     「一生待つってアンタも言ったし、アタシもアンタじゃなきゃダメだって言った」

     「だから、実家にも紹介するし、新聞にも載せてアピールするし、お弁当にもタコさんウインナー入れてあげる」

     「釣りもするし、デカくなるし、早くなる、商店街にも行く」

     「アンタとずっと一緒がいい」

     脈絡のない話をしたり、意味が分からない部分もある

     しかし、それでもタイシンは一生懸命自分の気持ちを話した

     クソボケはそれを遮ることはなかった

     混乱していたのもあるが、タイシンをスカウトしたときと同じような、彼女の本音、心からの叫びを感じとった

     タイシンはしばらくクソボケを好きだということを言っていたが、電池切れしたオモチャのように突然俯き、体から力を抜いた

     クソボケがそれを受け止めると、寝息を立てていた

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:45:01

    >>16

     (…聞いちまったなあ)

     タイシンはあの様子からして、今の出来事を覚えているか怪しい

     誤魔化すことも出来るかもしれない

     しかしクソボケは、担当の真摯な気持ちを理解した以上は聞かなかったことにはできない

     (覚悟、決めとくべきかなあ)

     いずれ、自分から切り出さなければならない

     タイシンをソファーに寝かせると、ひとまずクソボケはクリークを呼びに行った


     そして翌朝、タイシンは目覚めた

     (…なんかいい気分)

     まるで、心の奥底に封じ込めていた気持ちを洗いざらい吐いたような、さわやかな気分だ

     タキオンの薬のおかげだろうか

     (今度お礼でも言っとこうかな)

     そう考え、部屋を見渡し、タイシンは違和感を覚えた

     ─アタシはトレーナー室にいた筈

     帰った記憶がないのにいつもの寮にいる

     それに、もう朝だ

     薬で頭が働かない内に無意識に戻ってきたのだろうか

     「あら、目が覚めたんですね〜」

     頭を働かせていたタイシンに声を掛けたのは、同室の先輩スーパークリークだった

     タイシンは、彼女が自分を部屋まで送ってくれたのかと納得した

     「クリークさんがアタシを送ってくれたんだ

     …ありがとう」

     「いえいえ、お構いなく〜

     私はタイシンちゃんのトレーナーさんに頼まれただけですから〜」

     「…トレーナーが?」

     「はい、忘れ物を取りに行ったらタイシンちゃんがトレーナー室で寝ていたから、って」

     まずい、とタイシンは感じた

     自分は昨日の、薬が効果を発揮してから記憶が定かではない

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:46:44

    >>17

     何か変なことをしてないだろうかと冷や汗が出る

     (そうだ、ノート…!)

     タイシンが机の上を見ると、そこには確かに昨日自分が持っていたノートがある

     中身を見る、綺麗な字ではないが、確かに自分の筆跡でクソボケが好きだという内容が綴られている

     (アアアアアアアアアァァァァッ!!?

     ぜっっったい、見られた!!!)

     恥ずかしさで死にそうだった

     例え薬の影響で何もしていなかったとしても、ノートを見られただけで大惨事だ

     (終わった…もうダメだ…)

     顔を真っ赤にして沈むタイシンに、クリークは告げた

     「タイシンちゃんのトレーナーさんからで、起きたら伝えてほしいって言われたことがありまして〜

     タイシンちゃんのスマホにも、送信するって言ってましたけど、今お伝えしますね」


     タイシンはクリークの言葉を聞きながら、同時にスマホを見る

     ─トレーナー室で待ってる 


     それがトレーナーからのメッセージだった


     タイシンは服装を整えると、すぐにトレーナー室に向かった

     一応トレーニングできる服装を準備していたが、多分いらないと予感していた

     タイシンが到着すると、クソボケは神妙な顔で迎えた

     クソボケはいつもの椅子、タイシンはいつものソファーと、お互い定位置につくと、少し間を開けてクソボケが切り出した

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:48:20

    >>18

     「タイシン、昨日のこと覚えてるか?」

     「…トレーナー室でのことなら、アンタが来たことも覚えてない

     気がついたら寮で朝になってた」

     「そうか…」

     クソボケは一度深呼吸すると、言葉を続ける

     「実はな、タイシン

     お前は昨日、ここで俺に、俺のことが好きだって言ったんだ

     ノートもちょっと目に入って、これだけでも誰かが好きで悩んでるって分かった」

     「……!!?」

     タイシンの鼓動が跳ね上がる

     ─つまり、アタシはしたことも覚えていない告白の答えを出されようとしている

     そう理解したタイシンは、何か言おうとしたが、何も口から出て来なかった

     ここで恥ずかしがって誤魔化したら自分の想いを伝える機会が永遠に失われる確信があり、かといって覚えていないのに何かをいうこともできない

     「タイシン、昨日のお前は眠気眼で寝ぼけてるような感じだったから改めて聞くぞ

     ……お前は、俺のことが好きなのか?」

     タイシンは一瞬凍りつくも、頭を真っ白にしながらゆっくり頷き、そうだよ、と小さく呟いた

     その呟きは、クソボケの耳にしっかりと届いた

     「そっか、頭が働いてなかったとか俺の勘違いじゃなくて、本当に俺を好きになってくれたんだな

     …ありがとう、タイシン」

     その言葉に、タイシンは俯いていた顔をバッと上げた

     (今、ありがとうって言った…

     アタシに告白されて、嬉しい…ってこと?)

     もしかして、自分の昨日の覚えていない告白に応えて、トレーナーは自分の想いを受け入れてくれるのではないか

     心臓から響き続ける鼓動を耳障りに感じながらも、タイシンは不安を期待で打ち消し、クソボケの言葉を待った

     「それで、いずれ答えようと思ってたけど昨日の今日で答えるよ

     ごめん、タイシン

     今すぐにはお前の想いに答えることはできない」

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:52:41

    >>19

     「え」

     クソボケの言葉は、タイシンの期待を一気に打ち砕き、絶望に書き換えた

     ─嘘だ、一生って言った、アタシにはアンタが必要なんだ

     そう言おうとしても声が出ない

     肺が空気の取り込み方を忘れてしまったような感覚に襲われ、酸欠のようになったタイシンは顔を白くさせ膝から崩れ落ちた

     「タイシンッ…!?大丈夫か!!?」

     トレーナーがタイシンに駆け寄り抱き抱える

     ヒューッ、ヒューッと辛うじて呼吸の仕方を思い出したタイシンは、トレーナーの服を掴んだ

     「…いやだ、行かないで、一生一緒に居て、アンタじゃなきゃヤダ、ダメなとこなら直すから、もっと素直になる、絶対後悔させない、だから、」

     「分かった、分かったから今は喋るな!

     ほら、深呼吸だ深呼吸!」

     トレーナーがタイシンの背中をポンポンと叩き、次第にタイシンは冷静さを取り戻した

     顔色も徐々に戻りタイシンはソファーに腰掛けた

     「…ごめん、取り乱して」

     「いや、いいんだ。無事でよかった」

     「最低だよね、アタシ…振られといてこんな…」

     タイシンの瞳に涙が溢れる

     改めて振られたことを認識し悲しみが込み上げた

     「もう大丈夫だから、アンタは部屋出て…泣いてるとこ、見られたくない」

     そう言ってタイシンはトレーナーに背を向けた

     今にも涙がこぼれ落ちそうだが、必死に堪える

     「…悪い、タイシン

     まだ俺には言うことがあるんだ

     だから出て行くわけにはいかない」

     「…振られたのは分かったから」

     「振ってなんかない!!」

     「でもアンタ、応えることは出来ないって」

     「今すぐにはだよ、タイシン

     俺に最後まで言わせてくれ」

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 22:56:26

    >>20

     「俺にだって、トレーナーとしての立場がある

     だから今すぐにって言ったんだ

     …誤解させるような言い方でごめんな」

     「!それって…」

     「ああ、卒業したら正式に俺から申し込むよ

     よろしくな、タイシン」

     一度期待して絶望して、そこから天に登るような、感情のジェットコースターを体感して感極まったタイシンは、トレーナーに思い切り抱きついた

     「イダダダダッ!!?タイシン、痛いッ!」

     ウマ娘の力に痛みを訴えるも、今のタイシンは緩めることは出来なかった

     「…夢じゃないよね

     本当にアンタは、アタシを受け入れてくれたんだよね…?」

     トレーナーは、仕方ないと痛みを受け入れた

     「そうだよ、俺は受け入れた

     付き合おう、タイシン」

     それを聞いて、タイシンの感情は絶頂を迎えた

     しばらくの間、タイシンはトレーナーに抱きついていた


     「それでさ、何でアンタは最初にあんな誤解させること言ったわけ?」

     感極まった状態から我に帰ったタイシンは、誤魔化すようにソファーに座り、足を組みながら尋ねた

     「やっぱり、俺、トレーナーだからさ

     在学中は流石に不味いかなって」

     「…じゃあ、ついでに聞くけど、何で告白したの受け入れてくれたの?

     …アタシにいいとこなんか、ある?」

     「そういう意地らしいところかな

     あと、家事もできるし料理も上手いし

     俺、そういうの苦手だから尊敬するよ」

     「ふーん、他には?」

     一見するとそっけない返事だが、顔のニヤケで照れていることは明白だ

     突っ込めば照れ隠しに蹴られるだろうことを見越したトレーナーは、さらに答えた

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 23:00:42

    >>21

     「俺さ、タイシンのこと娘みたいに思ってたんだ

     でも、昨日タイシンに告白されて、本気だって分かったからさ

     さっきも取り乱してたし、そこまで好きになってくれるなんて男冥利に尽きるよ

     タイシンが誰かのところに行ったら寂しいし

     タイシンの想いには、立場を超えて向き合わなきゃいけないって思ったしな」

     それを聞いたタイシンはご満悦な表情を浮かべた


     「それで、さ

     アタシたちは卒業したら付き合うわけじゃん」

     「おう、そうだな」

     「でもさ、アタシ、恋人として学生のうちにやっておきたいこと一杯あるんだ

     …それには付き合ってよ」

     「あんまり進んだものじゃなければな」

     「今の言葉、しっかり聞いたから」

     そう言うとタイシンはニヤリとした笑みを浮かべて捲し立てた

     「じゃあまずは実家でお互いの両親に報告ね

     次はあの女性新聞記者にアタシとアンタがベストパートナーって記事を書かせる

     あと、周りにアンタはアタシのものだってアピールする

     アンタのお弁当はこれから全部アタシが作る、結婚前に好き嫌い全部知りたいから、それから…」

     「…ノートに書いてあったこと全部か?」

     「分かってるじゃん」

     今までツンケンしていたタイシンの猛攻を受け、トレーナーは珍しくたじろいだ

     (ま、これまでずっと自分を抑えてきたみたいだしな)

     トレーナーはそんなタイシンも受け入れた

     ─これから大変だな

     タイシンのやりたいことリストを聴きながら、トレーナーはひとりごちた

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 23:10:51

    >>22

     その後のタイシンとクソボケはというと、別段問題のない、ハッピーエンドを謳歌していた

     「やったね、タイシン!あたしたちも安心したよー!」

     「ああ、昨日の今日でこれほどの成果とは、私も驚いたよタイシン

     ところで、私とトレーナーくんの関係を進展させるために何かアドバイスを…」

     「いやあ、流石ですねタイシン先輩

     セイちゃんにも何かとっておきの秘策をば…」

     親友(と弱い後輩)にも祝われた

     まるで自分のことのように喜んでくれて、タイシンも心配をかけていたことをあらためて自覚したり

     「最近のタイシン先輩、トレーナーさんと距離近いよね」

     「お弁当毎日作ってるらしいよ

     あのクールなタイシン先輩がねえ」

     学園の噂にもなって、クソボケが自分のものだとアピールしたり

     「ウチのタイシンを、よろしくお願いします…!」

     「こんな立派な旦那を捕まえるなんて…よくやったぞタイシン!」

     両親への挨拶も済ませたり、

    「今回のゲストは、BNWの一角、ナリタタイシンさんとそのトレーナーさんです!!」

     テレビ出演してパートナーであることをアピールしたりした

     「怒涛の、密度の濃い日々だった…」

     そして今日はタイシンの卒業式

     正式なお付き合いが始まる日だ

     今思えば微笑ましいが、ここまでしなくても俺はどこかに行ったりしないと言ってもやるからと言って聞かなかったタイシンの独占欲には参ったこともあった

     でも、近い将来笑い話にできる自信がある

     これまでにあったことを振り返っていたトレーナーを見つけたタイシンが、駆け寄って行く

     「色々お待たせ、トレーナー」

     それを聞いたトレーナーは、万感の思いを込めて答えた

     「一生待つって言ったしな」

     2人は、手を繋いでこれまでを過ごしたトレセン学園を出た

                   おわり

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 23:13:42

    乙です

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 23:17:41

    神かっ!!!

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 00:00:00

    最高やん

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 00:10:16

    こういうのでいいんだよ

    こういうのでいいんだよ

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 00:41:04

    いいね最高

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 06:24:54

    おつです

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/29(水) 06:31:29

    >>12

    このスズカさんよくトレーナーを射止められましたね

    いや、トレーナーがおかしいのか?

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています