- 1二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 10:25:59
子供というのは、視野が狭い上にバカなもんだから、常に自分が一番だと思ってる。
俺もその一人で、足の速さだけは誰にも負けないと思ってた。
けどある日
「散っ々偉そうにしてくれたけどそんなもん?」
負けた。
しかも女に負けた。
思い返せば、たかだか近所のガキの中で一番かけっこが速いだけで威張ってた俺に非があったのだろう。
しかし、初めて会った帽子女にボロ負けしたとなれば、芽生えたばかりの男の子としてのプライドに傷がつく。
だから俺は、その傷を癒すために幾度となくその女に勝負を挑み、負けた。
いつしか俺は、帽子女に勝つために走っていた。
幼心に、目標が、ライバルができる楽しみを見いだした。
そして、71回目の敗北を喫した時、俺はその女に宣言した。
「はぁ…俺は…絶対にお前に勝つ!」
「はぁ、はぁ…はぁ?」
「だから、お前も俺以外の奴には負けんな!」
女は一瞬、何言ってんだコイツという顔をした。
少しして、吹き出した。そして
「ネイチャ、ナイスネイチャよ」
「俺は村崎翔陽だ!」
俺とネイチャは指切りをした。
「お前と俺で、一緒にてっぺんをとろう!!」
これが無理な約束だと気づくのは、中三の夏になってからだった。 - 2二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 12:15:03
翔陽「は!?陸上部ない!?何で!?」
担任「何でも何も無ぇものは無ぇんだからしょうがねぇだろ。不思議なことに先代が作らなかったんだよ」
ネイチャ「翔陽、ホラ、小学校の時入ってた陸上クラブ、あそこでいいじゃん」
翔陽「あそこだと、多分中学総体出られないだろ」
ネイチャ「うん、まあ多分というか絶対無理だけど」
翔陽「だからさ、無いなら作るんだよ!頼むよ無精髭先生!」
徒橋「徒橋だ。担任の名前くらい覚えろ。部を作るなら部員最低2名顧問最低1名はいる」
翔陽「部員はここに二人いる」
ネイチャ「あとは顧問だけ」
徒橋「…だいたいネイチャ、お前もお前だ。バスケや剣道ならともかく、陸上なんて一番アウトなやつだろうが」
ネイチャ「あ、あたしマネージャーなんで」
翔陽「え!お前走らねぇの!?何でだよあんな速いのに!!」
徒橋「やめろやめろ村崎。人には事情ってもんがあんだ。…こうしよう。俺が顧問になってやるからネイチャは走らせるな。これで創部完了だよWin-Winだろ」
翔陽「…なんか釈然としねぇ」
そして、結局ネイチャはマネージャーのまま2年が経った - 3二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 12:57:23
ネイチャ「ほいっ、おつかれ翔陽」
翔陽「ありがとぅ…」
疲弊した心身を、冷たい液体が駆け巡る。
こいつの作るドリンクは美味い。
ネイチャ「はーいみなさーん。ネイチャさん特製はちみつレモンですよー。食べる人ー」
「俺食べたいです!」
「ネイチャ先輩こっちもお願いします!」
ネイチャ「ゆっくりでいいよー。焦らなくてもレモンもあたしもどこにも行かないよー」
ついでにたまに作ってくる飯も美味い。
いいマネージャーだ。
だが、それが気にくわない。
ネイチャ「はい、翔陽も。次の種目も出るんでしょ?糖分とらないと」
翔陽「あぁ、ありがと……お前はこれでいいのか?」
ネイチャ「何が?」
翔陽「これ、最後の総体だぞ。このままだとお前、三年間で一回も走らなかったことに」
ネイチャ「いいの。あたしは翔陽みたいにキラキラしたのは向いてないから」
そう言ってネイチャは俺の横に座った。
ネイチャ「男子女子4人ずつ。あたし達がこの部を作ってから入ってくれた人の数。少ないって思うかもしれないけど、出来たばかりの部としてはよくやったほうだよ。みんな、翔陽が一生懸命走ってる姿を見て入ってきたんだよ。あたしはね、そんな翔陽をただ横で支えてるだけでいいの」
翔陽「だからって」
ネイチャ「翔陽言ったよね、『二人でてっぺんをとろう』って。これも一つの形だよ」
これも一つの約束の形…
そう言われると、不思議と納得できる気がした。 - 4二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 13:10:49
翔陽「女子リレー出られない!?」
「一人怪我しちゃって…」
リレーは、俺達が最も楽しみにしていた要素の一つだ。男女共に4人揃ったことで、今年初めて出られるようになったからである。それが中止とならんとしている。女子の心中は穏やかではないはずだ。
「なので…部長に女装していただいて」
「おい正気か!?」
「テロだよそんなん!」
「女装させるにしても人を選べよ!」
そこまで言われるとちょっと傷つく。
打つ手なしか…と思っていたその時、思い付いた。
翔陽「ネイチャを出そ」
「「「あ、それはダメです」」」
翔陽「何でだよ!?」 - 5二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 13:53:28
「駄目なものは駄目です」
「秩序とかが崩壊するんです」
翔陽「お前ら、いくらなんでもネイチャだってそこまで言われる筋合いないだろ!なぁネイチャ!」
ネイチャ「え、あ、それに関してはちょっと…」
翔陽「え?否定しないの?」
ネイチャが俺から目を逸らし出した。
マジで何かあるんだろうか?
「ネイチャ先輩…帽子の下についてるやつ…髪型って言い張れませんか?」
「ちょっと待てお前やる気か!?ネイチャ先輩加えて出る気か!?」
「しょうがないじゃない!女装よりはまだいい手段よ!!」
「先輩…とりあえず試すだけ試すのでロッカーに…」
数分してロッカーから帰ってきたネイチャは、いつも被ってる帽子を外していて、代わりに頭に包帯を巻いていた。
「「「いける…」」」
ネイチャ「あたしは知らないよどうなっても」
あいつ帽子の下あぁなってたのか。
『これより、女子リレーが始まります。参加される選手達は、本部に集まってください』