ここだけモザイク世界線 5

  • 1二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:54:20

    ※注意

    1がひたすらSSを書いているスレです。


    前スレ

    ここだけモザイク世界線 4|あにまん掲示板※注意1がひたすらSSを書いているスレです。前スレhttps://bbs.animanch.com/board/643411/以下初期設定。〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじ…bbs.animanch.com

    以下初期設定。


    〇ドラルク

    Δとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。

    本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。

    以前は吸対のカナリアとして活躍していたが、最近優秀な新人が入ったのでもっと楽ができるぞーと息巻いていたところに謎の吸血鬼コンビのお世話係に任命されてしまった。

    アルマジロのジョンとはいつも一緒。たまに酷い悪夢を見て寝不足になるのが最近の悩み


    〇ロナルド

    突然ドラルクの前に現れた謎の吸血鬼コンビの片割れ。

    日光やにんにく、そして銀とあらゆる弱点が通用しない恐るべき吸血鬼だが何故かセロリが苦手。

    吸血鬼としての能力は非常に優秀で、大抵の能力は使えるみたいだが、ここ一番の場面ではなぜか銃か拳を重用する癖がある。

    過去に致命的な失敗をしたとのことで表情が険しい。

    ドラルクの後先考えない行動によく口を出しがちで、特に夜の勤務時間時はヒナイチともどもひな鳥のようにドラルクについてまわる。

    ドラルクが就寝中などにヒナイチとふらっと出かけてはボロボロになって帰ってくることがある。しかし何をしているのか絶対に話してくれない。


    〇ヒナイチ

    ドラルクの前に現れた吸血コンビの二人目。

    ロナルド程は弱点に耐性を持っておらず、特に日の光に弱い。

    日光に関しては「素質が無いのに無理やり転化した代償」とのことで、髪の赤色も若干濁ってしまっている。

    代わりに夜の闇において彼女を捕まえられるものはいないほど俊敏であり、また二刀流の達人でもある。

    ロナルドとは兄妹のように仲が良いが別に実の兄妹でもなければ恋人とかでもないらしい。

    たまにロナルドともども泣きだしそうな顔でドラルクを見ている時がある。

  • 2二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:54:48

    〇ミカエラ
    吸対所属のエースその2であり、人間。半田の先輩筋にあたり、弟が一人いる。
    きっちりと制服を着こなし真面目に職務に当たっているが、最近現れた吸血鬼がその事に茶々を入れてくるので困惑している。
    何が問題なのだ!

    〇ケン
    突然ハンターギルドに現れ、ハンターをやりたいと言い出した謎の吸血鬼。
    催眠と結界の二重使用という極めて高度な技術を持つ。ロナルドとヒナイチは以前からの知り合いのようで、たまに共同で戦ったりもしている。
    何故か吸対所属のミカエラをよく茶化す。

    〇ディック
    「揺らぐ影」の二つ名を持つ古き血の吸血鬼。
    ロナルドとヒナイチがピンチになるとどこからともなく現れ、変身能力で場をかき回して去っていくタ〇シード仮面的存在。
    2人に協力するのは何か目的があるようだ。以前、息子がいたらしい。

    〇カズサ
    神奈川県警吸血鬼対策部本部長。
    人員不足だった新横吸対の為に、渋るイギリス吸対から人材を引っ張ってきた人。
    人員の一人はクソ雑魚ダンピールおじさんだったが十分働いてくれるのでオッケー。
    (ヒナイチを見て)おや、そこの吸血鬼のお嬢さん、オレの顔に見覚えがあるのかい?

  • 3二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:55:27

    〇ジョン

    ドラルクと永遠を誓う愛すべき〇。


    最近嫌な夢を見るんだヌ。黒い何かがドラルクさまに襲い掛かるんだヌ。

    そして、まるで存在をすする様にドラルクさまが消えていくんだヌ。


    ヌンは何もできなかったヌ。

    見ることしかできなくて、そしてヌンの体もぼろぼろと塵になっていくんだヌ。

    ……夢はいつもそこで終わりヌ。



    基礎ルール

    ・御真祖とフクマさんが存在していない

    ・そもそも竜の一族が存在していない。ノースディンは存在している。ドラウスたちは人間としてなら存在しているかもしれない

    ・記憶の持ち越しは元から吸血鬼か人→吸血鬼のみ。記憶のない吸血鬼もいる

    ・記憶を持ち越した者は、家族との血縁関係や友人関係がなかった事になる。

    ・吸血鬼が人間かダンピールになっている場合は確定で「何か」があった。

    ・本編で複数能力持ちだった吸血鬼のうち何人かは一部の能力が消えている場合がある(例、イシカナがタピオカの能力しか持っていない)

    ・一部の人間にもうっすらと記憶の残滓が残っている場合があるが夢のようにおぼろげ。

    ・存在が丸々消えている吸血鬼もいる(例、へんな)

    ・ロナルドヒナイチは頻繁に「何か」と戦っている


    ・「それ」は竜の臭いに惹かれている


    初代スレ

    ここだけ|あにまん掲示板ロナルドとヒナイチが吸血鬼の世界〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。以前は吸対のカナリアとして活…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:57:35

    前回のあらすじ
    怒涛の解説祭り~貧弱おじさんのキレ芸を添えて~

  • 5二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:58:23

    「で、落ち着きました?」

    「これぐらいはいつもの事だから気にしないでくれ!話を続けていいから!」「ファーーー!!」「ヴァーーーー!!!」
    ヒナイチが二人の間を微妙に取り持ちながらディックに次の話題に促す。
    二人は相も変わらず威嚇状態だが、一応周りの人間がいるのでひとまず矛を収めている。家だったら追加で30分くらいは罵倒が続いていただろうが。

    「これで解説できることは一通り話しましたかね」
    「そうだ、ひとつ質問なんだけど」「はい?」
    ロナルドが威嚇を一旦やめて質問をする。ずっと気になっていたのだ。

    「なんでへんなは戻ってこれたんだ?……吸血鬼として」
    「ああ」
    ディックが嬉しそうに声を上げた。

    「神だ神モドキだと散々言いはしましたが、限定された条件下でなければそこまで万能でもないのですよ、「アレ」は。人にも吸血鬼にも及ばぬ能力はもちろんありますが、条件を選ばなければ出せる出力にも限りがあります。それは抱え込める能力にも同様の事が言えるのです」
    「つまり、能力を入れる袋の要領が小さくなって、入りきらなくなったって事か?」
    ヒナイチもひょこっと横から訪ねてくる。
    「おおむねそれで合っています。もちろん息子が五体満足で戻れたのはもう一つ理由もありますが。まあここでは偉大な竜に感謝を、とだけ言っておきますかな」
    「なるほどな……。でもへんなってエッチな事考える必要があるけど能力は強力だろ?そんな強い手を手放すって事は結構弱ってるって事じゃ」
    「いやあ、それはどうですかねえ」

    「あの病院にいた「アレ」は相当な大きさまで育ってはいましたが、それでも持っていた能力的におそらく本体ではないでしょう。二軍くらいじゃないですか?戦果としては着々と育っていた個体が成長しきる前に潰せたくらいですかね」
    「まてまてまて、まだあのサイズ以上の敵が出てくるって事?」
    不機嫌そうに黙っていたドラルクも思わず口を出す。
    「ええ。私が確認している限りでも、明らかに温存している能力がありますから」
    「その能力の詳細は?」

    「氷と炎です。街一つ覆えるほどの威力の」

  • 6二次元好きの匿名さん22/06/24(金) 23:59:35

    「よい情報交換の機会となりましたな、では、私たちはこれにて」
    ディックとへんなが軽く会釈をすると、会議室の扉を開けようとする。
    しかし、ヒナイチが呼び止めた。

    「なあ、今疑問思い出したんだが、最後にもう一つだけ聞いてもいいか?」
    「なんでしょうか、お嬢さん?」

    「下半身透明は、どうしてあっちゃんを呼び戻せたんだ?一度「アレ」の中に完全に取り込まれてしまったのに」
    「それはもうあれですよ」「?」

    「愛のなせる業です」
    「あっ、愛!?」
    ディックはヒナイチをからかうように朗らかに笑う。

    「半分本気で半分冗談です。ですが、最後の土壇場の命運を分けるのは、案外そのようなものですよ。なりふり構わないのも一つの切り札。覚えておいてよろしいかと」
    「わ、わかった。一応覚えておく」

    「それではみなさん、また素敵な夜にてお会いしましょう」





    会議室から解散した後、ドラルクは一人悶々と懊悩しながらジョンを抱えて街を歩いていた。
    一人で考え事をしたいので少し散歩をすると言って出てきたのだ。

    ドラルクは後ろをちらっ、と見る。

    遠くの方で銀髪の吸血鬼がこっちを見ているのは気配でとっくに分かっている。後ろの方には控えめながら赤毛の少女がいるのも感じる。

  • 7二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:00:39

    「……」「ヌヌヌヌヌヌ?」
    ジョンが無言を決め込むドラルクに小首をかしげた。

    「ねえ、ジョン」「ヌ?」
    「今からちょっと隠れ鬼でもしてみようか?」「ヌヌ?」
    「あの2人を上手く撒けたら私たちの勝ちだ。ヨーイ」「ヌッ!?」
    「ドン!!」「ヌヌー!!!」

    ドラルクは血液錠剤を齧ると一気に脇道に視線を切るように隠れて走る。
    ここら辺一帯は新横にしては複雑な地形をしているので常人ならば撒きやすい。問題はあの二人は常人ではないことだが。
    だが、そこでこの血液錠剤である。
    ドラルクはあの二人の気配を追う事には自信があった、何だったら今あの二人がどこにいるのかだって手に取るように分かる。
    「ピャーッピャッピャッピャッこのドラドラちゃんエスケープの力をもってすれば若造ごときこのように鼻を明かすことなど朝飯前!!せいぜい二人とも見当違いの方向でドラちゃんさがせ!を楽しむがいいわ!!ファーッハッハッハッハ!!!」「ヌーーヌーーー!」

    時には雑居ビルに入ったり、ロナルド達が意識を向いていない時を狙ってとにかく相手の目を誤魔化しどんどん歩いていく。
    「フハハハハ混乱しているなバカ造め!嫌がらせにこの無人ビルに入ってやろ」
    ドラルクはテナントが特に入っていない適当な無人ビルにずかずかと入っていく。
    一応テナント内に無理に入らなければ大丈夫だとは思うが、もし何か問題になったとしても後付けで適当な許可を分捕ってくる腹積もりである。

    人気のない不気味な無人ビルの階段を上がっていく。
    薄暗くいかにも何か出そうです、という雰囲気満点だが、ドラルクは特にこの手の状況を怖いと思ったことは無かった。
    夜は親しむべき隣人なのだから。
    そういう意味では矢部病院の怪異は彼と相性が良かったと言えるかもしれない。

    (そういえば首吊り死体の事言ってなかったな、まあいいか)
    ディックやカメ谷が欠片も触れなかった所を見るに、まあ、本物なのだろう。

    それよりも今はこのイライラとした憤りについてである。

  • 8二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:02:33

    「まったく、なぁーにが墓場まで持ってくだ。何から何まで秘密にしおって。そう思わないかいジョン」「ヌン」
    その言葉にジョンも頷く。

    「おかげでこっちも「アレ」の対策の取りようがないではないか!情報が成否を分ける段階なんだぞ!それに……」
    そこまで言って、ドラルクは少し黙り込む。
    こんないい年したおじさんが何でこんな子供のように腹を立てているのか。昔はもう少し落ち着いたドラルク隊長だった筈なのだ。
    だが最近はどうだ?
    濁り切った澱みと、乱雑なムカつきが、腹の底で暴れまわって仕方がない。
    いや、やっぱ変だ。

    「子供返りなのか?私」「ヌ?」
    今日だって一人になりたくて無理やりな方法であの二人を出し抜いた。
    今の自分に護衛無し、襲われたらひとたまりもない。
    昔だったらもう少しマシに我慢が利いたはずだ。曲がりなりにも吸対の隊長なのだ、誰かの命を預かる責任だって時には発生する。

    だが、だが。
    「……もう少し」

    「信頼はされてると思ってたんだよね」


    いつかは話してくれるだろうと思っていたのだ。
    出会った直後の憔悴しきった二人の事情を、過去を。
    そして、自分でも本当にアホらしいのだが、何も教えないと言い切られたことに思った以上にショックを受けていた。

    そのショックと、いい加減にしろよというキレ、それらの感情が腹の中でぐっちゃぐちゃに混ざっている。
    本当にアホらしい。

    「ジョン、せっかくだからビルの空きテナントを冷かして帰ろうか。今の家だけじゃバカのせいで狭いし、私とジョンの遊び場もっと欲しいよね」
    「ヌー!!」

  • 9二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:03:11

    ドラルクがパっと表情を切り替えて階段をどんどん上がっていく。
    何時まで苛立っててもしかたない。楽しい事で塗り替えるが吉だ。
    ドラルクとジョンが一階、二階と順に冷かして回っていく。
    とくに面白みもない空きテナントだが、ジョンとアレを置こう、これやりたいなどと妄想を語りながら見ていけば意外に楽しいものである。

    そして、三階の空きテナントの扉の前へと立つ。
    「ここは何かの事務所っぽいね!住居スペースとかもあるのかな?ジョンはどう思うかい?」「ヌンヌヌヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌ」
    「いいね、探偵事務所。私とジョンで名探偵とかできそう。ほらこうやって」

    ドラルクがお遊びでドアノブに手をかけ、ドアを回すふりをしようとする。
    しかし、

    ガチャ

    「……あれ?」
    ドアノブが普通に回る。回したままドアを内側に押すと、スッとドアが開いてしまった。

    「鍵ついてないのか?不用心だな」「ヌンヌヌヌヌヌヌ」

    ドラルクはせっかくなのでドアをそのまま開けて中に入る。
    最初の空間は応接間なのか、シンプルな作りで広々としていた。
    だがそれ以上に

    「……?」「ヌ?」

    一人と一匹は違和感を感じる。
    なぜか、妙に居心地がいいのだ。

  • 10二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:03:59

    「デジャブ?まあいいや、鍵の事管理人さんに言っとかないとだね」「ヌー」

    ドラルクが空間をほどほどに楽しんだ後、部屋から出ようとする。すると

    今度はバシャ、という衣擦れの音が、ドラルクの背後から聞こえた。

    「なんだ?ラップ音か?」「ヌヌヌヌヌヌ!ヌヌ!」
    ドラルクが振り返って音の正体を見る。変化があったのは、部屋の中心。

    黒い、吸血鬼が着用するようなクラシカルなマントが、部屋の中心に落ちていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 11二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:19:52

    スレ立て&更新乙です!
    確かに氷と炎まだ出てないのは怖い…でもディックがここで最強の催眠術を挙げてないってことはあの黄色は無事?
    ドラドラちゃん、事務所との邂逅。合言葉なければただの空き室のはずだけど…マント…?
    続き楽しみにしてます!

  • 12二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 00:44:43

    強力な能力持ちの個体がまだまだいるようで恐ろしいですね… そしてちゃっかり本物が出てきている…怖…
    新スレ、更新お疲れ様です

  • 13二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 11:39:55

    保守

  • 14二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 11:40:01

    スレ立て乙です
    シンプルに強力なその二つがまだ出てないのが怖いんだよな…いつか相対するにしても対抗策はあるんだろうか?
    続き楽しみにしてます

  • 15二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 16:51:12

    特化型の炎と氷も怖いけど
    初っぱなに消えたのがオールラウンダーのドラウスってのも怖いよね

  • 16二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 21:02:56

    愛のなせる業……色々理屈を捏ねても、最後はそういう力押しがモノを言う時もある
    今後の伏線かもしれないな……

    しかし炎と氷か……メドローアみたいなことやらかしてきたらどうしようと思ってしまった

  • 17二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 23:47:26

    「なんだろうね、これ」
    ドラルクがゆっくりとした足取りでマントに近づく。つまんで広げてみると成人用のマントだ。

    「ロナルド君のに形状が似てるけど、ロナルド君に着せたら筋肉でパツンパツンだなこれ。誰のなんだろう」
    「ヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌ!」
    「なんだいジョン、私?……確かにサイズ的にいけるな、これ」
    ドラルクがバサッとマントを羽織ってみる。

    ……恐ろしいほどにぴったりだ。
    「いやー、まさかこんなにしっくりくるとは。オーダーメイドじゃない?ってくらいぴったりでびっくりするね」「ヌー!(パチパチパチ)」
    ドラルクはマントを羽織ったままひょこひょことテナントの中を歩く。

    窓から月明かりが射してきていて、室内には大きく自分の影が落ちる。
    影絵のようなそれが存外面白く、誰もいないことだし、つい芝居がかった口調で喋りはじめた。

    「我が名は真祖にして無敵の吸血鬼ドラルク!愚かな人間の退治人よ!私とジョンにひれ伏すがいいわ!」「ヌー!!」
    「おいそこのクソバカ吸血鬼なに無断でテナント入ってんだ砂にする……ぞ…」

    ドラルクが大見得を切った丁度のタイミング、そこでテナントのドアを乱暴に開いてロナルドが入ってきた。
    二人は固まり、無言で互いを見つめる。

    「……」「……」
    「ロナルド、先に行くなって言ってるだろうが。こっちにはいなかった……ぞ」

    遅れてヒナイチが駆け寄ってくるが、こちらも同じく固まってしまう。

    ドラルクは誰もいないと思っていた一本道で機嫌よく歌を歌っていたら後ろに人がいた事に気づいた時のようなドッキリ感と羞恥心に襲われていた。これから起こりうる未来は、クソロナ造あたりに死ぬほど馬鹿にされるか、勝手に自己都合で二人を撒いたことを死ぬほど怒られるかの二択だ。どちらにせよ死である。

    だが、二人は一向に話しかけてこない。

  • 18二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 23:48:21

    「あのさ……?」
    「あっ、すまん。ちょっと驚いたんだ」

    ヒナイチが気にしないでくれといいながら、ドラルク達に微笑みかける。
    しかしドラルクにはその笑顔が上っ面にしか見えず、表情の奥底に沈んだ憂いが見え隠れする事を見逃せなかった。
    ロナルドはひたすらに真顔で、無言を貫いている。

    ああ、久しぶりに何かをやってしまったらしい。

    「……見たまえ諸君!!このおノーブルな出で立ちまさに私の為にデザインされたように見えないかね?そこの吸血鬼らしさゼロ~!協力補修テープのCMに出るくらいしか能のなさそうなマウントゴリラ君よりも私の方がよっぽど似合っているだろういやあこのドラちゃんの魅力がはち切れんばかりに溢れているなあ!!」

    (よし、これで煽り耐性ゼロルド君ならウホウホ言いながらやり返しに来るはずだ)
    関節の節々が痛くなる弊害があるが、辛気臭い空気が続くくらいなら必要経費である。
    しかし、

    「そうだな……」「……」
    ロナルドは怒るどころかさらに表情を固め、一度笑顔を張り付けたヒナイチはとうとう取りつく事すらできなくなった。
    「ウァーーーーー!!!!改善するどころかさらに空気が悪化しおった!!!」「ヌーー!」

    「す、すまない。畳み掛けられてきたのでちょっと」
    「……そのマント」
    黙っていたロナルドがようやく口を開く。

    「どこで手に入れた?」
    「えっ?いやあ、ここのテナントに落ちてたんだけど」
    「そうか」
    そしてまた黙る。

    (なんか他に言えよバカ造!!ちょっとまて怒ってたの私の方が先だったのに何で私が悪い空気になってるんだ!?)

  • 19二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 23:48:55

    二人の地雷原を全力タップダンスしたなどとは知る由もないドラルクはいよいよどうしたもんか頭を抱える。
    (なんだ、何が問題なんだ!?……ハッ)
    ドラルクは羽織っていたマントをひっつかんでラフに畳むとヒナイチに渡した。

    「だがまあ!吸対の隊長たるこのドラちゃんには無用の長物だがね!」

    (これか?これで正解か!?)
    ドラルクは固唾をのんで成否を見守った。

    「……そうだな、ドラルクはドラルクだ」
    ヒナイチがぎこちなくはにかむ。
    (おっしゃあああああ!!!)
    ドラルクは心の中で勝訴の紙を持った。

    「気を使わせてすまない。誠実じゃないのは私たちの方なのに」
    「本当だよ努めて反省してくれたまえアダッ!」「ヌー!」
    ロナルドはまだ表情が硬いが、ムカついたのか強烈なデコピンをドラルクにお見舞いした。

    「んなことより早くここから出るぞ」
    「ファーーーー!?だんまり決め込んで開口一番がそれかね!?この謝罪一つまともにできない不躾男反射という反射が全て筋肉に繋がっているギャアアアアアア」
    ロナルドはドラルクの耳を引っ張りながらテナントスペースを出ていく。ヒナイチも後からトトトとついていった。

    「もう耳掴むのやめんか!私は繊細でゲームで言うならQS系列なんだよ!大して君は〇ンテンドーのしかも〇ームボーイだあの爆撃受けても動いた超頑丈な奴!車に引きずられた〇ームキューブでもいいぞ!!」
    ドラルクがぎゃいぎゃい言っているとパっとロナルドは耳を掴む手を放す。

  • 20二次元好きの匿名さん22/06/25(土) 23:50:04

    「ったく、掴み方も荒いんだから……」「ドラルク」「アア?」

    不機嫌そうにロナルドの顔を見ると、居心地悪いような、困った顔でドラルクを見ている。

    「……ごめん」

    最近思うのだが、ロナルドのたまに出るあの真顔無表情というのは、自分の感情を抑えるための制御弁のようなものなのかもしれない。泣かないように、悲しみを見せないように、やりすぎないように、知っていることを言いすぎないように。
    どれかは分からないが、無表情の時はきっと何かをこらえている時なのだろう。

    そう思うような表情の豊かさだった。

    ドラルクは呆れたようなため息をつく。だが、謝罪については返事はしなかった。
    ロナルドが珍しく素直に謝罪したという驚きはある。しかしバカらしくもアホらしい、自分の中の複雑な感情が咀嚼しきれていないのだ。

    全部許すは一番丸く収まるが、まだ、棘は少し残すことにした。

    「私は諦めないからね。隙あらば君たちの正体全て明かして見せるさ。それまで首を洗って待ってるがいい」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 21二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 00:22:15

    これドラルク2人の前で物凄く凄惨な死に方とかしてないです? 心の傷がえらいことになってる感じ…
    事務所にも偶然もいうより呼び寄せられた感じがありますね… なんだか不穏な空気…
    今回も面白かったです。ありがとうございます!

  • 22二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 00:55:08

    方やどシリアス、方やギャグの温度差がヤバい
    ギャグとシリアスが交互に来るのは定番だけど、まさか同時進行でぶつけてくるとは思いもよりませんでした。笑えばいいやら泣けばいいやら……真相解明した時にこのシーンを読み返したら、また違った発見があるかもしれないので、真相解明までこの物語を追っていきます
    、、

  • 23二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 10:27:57

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 19:46:41

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 23:43:30



    VRCが消失して数週間。
    いまだ行方不明者は発見されておらず、捜索は滞っている。

    それどころか状況は悪化している。
    次に消失したのは矢部病院のホラーホスピタルであった。
    当時お化け屋敷で働いていたスタッフ、客、全てが建物ごと行方不明になった。
    当然、誰が犯人なのかなど分かるはずもない。


    ロナルドがいつものように街をパトロールしていると、やはり街の変化を肌で感じざるをえなかった。
    以前のように気軽に変態が出てこなくなっている。それどころか、街を出歩く人の数が減っている。
    (そりゃあ、いつ何が起こるかわかんねえもんな……)
    行方不明になった人々がどうなっているのか、想像したくなかった。

    「しかし今夜もしけてるねえ、いつもだったらわけわからん性癖の吸血鬼の一人や二人出てくるっていうのに、ねえジョン」「ヌン」

    同行するドラルクはすっかりいつもの調子に戻ったように減らず口を叩いている。
    ムカつくので流れるようにチョップを入れておくが、ドラルクの言い分も分からなくはなかった。

    (なんか一つ笑えることでも起きねえかな)
    笑えなくても、くだらない事でもいい。町の濁った空気を吹き飛ばせるような何かが欲しかった。
    (へんながいたら勝手にエッチな話で盛り上がってるのに)
    だが、へんなはもういない。

    いつもならいらんことしいな癖に、こういう時に限ってY談も来ない。

    息苦しい。

  • 26二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 23:44:04

    「うん?珍しいな」
    ドラルクが目を細めて遠くを見つめる。
    ロナルドも同じ方向を向くとkeepoutの黄色いテープが道を遮るように張られているのが分かった。
    吸対ではなく、警察だ。

    「どうしたんですか?」「随分と物々しいね」
    ロナルド達が現場に駆け寄って、交通規制をしている警察官に尋ねる。
    「ロナルドさん。現場保全の為に今は立ち入り禁止になっているんです。吸血鬼関連ではなく刑事事件ですので、これ以上はお話できません」
    「ああ……、はい」「そういわれるとめちゃくちゃ気になるんだが」

    「よし、ジョン。名探偵ドラちゃんとその有能助手という体で私たちも現場に急行しよう」「ヌン!」

    「なぁーーに堂々とkeepoutテープ超えようとしてんだよてめえは高校生探偵でもなければ灰色の脳細胞も輝かないどころか脳みそごと灰になるただの角付きルーマニア人だろうが」
    「失敬な!殺人事件の被害者になって私自身で解決したことならあっただろうが!!」
    「普通ならただの障害事件で終わる話がクソ砂の体質のせいで殺人?事件になっただけだろうが!!大げさ度が100倍に希釈したカルピスみてーなもんなんだよ!だいたい真相もクッソくだらなかっただろ!!」
    「いやあ天井が舞い上がるとは斬新でしたね」「ヌー……」

    「二人と一匹とも何をやってるんだ?」「「ヒナイチ」くん」
    赤毛の凛々しい少女が二人に向かって話しかけてくる。

    「いや、なんか事件が起こったみたいだから、何があるのか気になって」
    「だがこちらの警察官くんがケチンボで私たちには状況がさっぱりなんだよ。ヒナイチ君は知ってるかい?」
    「ああ、それか」
    ヒナイチが重々しい空気で切り出した。
    「VRC失踪事件の行方不明者の所持品が見つかったんだ」
    「マジで!?」「何が見つかったんだい?」

  • 27二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 23:45:06

    「行方不明者が来ていたと思われる服全てと、所持品全て」
    ヒナイチが目を伏せる。

    「ヨモツザカがいつも持っている灰のフラスコや、仮面も見つかったらしい」




    「それで、着信がなかった理由は結局なんだったんだ?」
    半田が透から鍋をよそってもらった取り皿を受け取る。

    今日の半田はミカエラ達に夕飯にお呼ばれされていた。
    病院で色々迷惑をかけたから、とのことでさっそくもりもりとご相伴にあずかっている。
    うまい。

    「あー?それはあれだよ。宝石が原因」
    透はあっちゃんの分もよそって子供用のフォークと一緒に取り皿を渡す。
    あっちゃんはなかなかホラー的に圧のある見た目なのだが、取り皿をやけどしないように持つ姿や、食べた時の美味しそうな顔などみると本当に子供らしく見えるのだから不思議である。

    「あのクソ映画撮る宝石あったじゃん?あれつかうと付近が圏外になって空間内に閉じ込められちゃうんだよね」
    「じゃあミカエラに連絡がとれなかったのは」「宝石が原因だね」

    それを聞いたミカエラは食卓に顔を突っ伏していた。
    「それなら……、他の方法とか、時間帯をずらすなどして連絡してくれれば……!」
    「やだよめんどくさい」「透ゥ!!」

    「まあそれは半分冗談として」「半分!?」
    「あんまりあの時期ミカ兄と話したくなかったのも事実なんだよねえ。やってることバレたら絶対大ごとになるかめんどくさい事になるって思って。まあバレたし大ごとになったしこってり叱られたし反省文も書かせられたんだけど」
    「せめて私に相談してくれればもう少し別の方法の提案だってできていたはずだ!!」「いやどうだろ」
    透が最後にミカエラの前に取り皿を置く。

  • 28二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 23:45:48

    「あの変態どもに怯える姿しか想像できない」
    「事実、あのバカどもに引いてしまったしな……。俺もだが」「二人とも結構ピュアなとこあるよね」
    しかしミカエラは反論する。
    「だ、だが私には」「マイクロビキニの布教じゃ絶対解決できなかったと思うよミカ兄」「むしろあの変態どもがエスカレートする未来しか見えない」
    ミカエラは再び食卓に突っ伏した。あっちゃんがミカエラの頭を優しくぽんぽんしている。

    「もう一つ質問なんだが」「どうしたの半田君」
    「貴様があの病院に入り浸るようになったきっかけはなんだったんだ?」「ああーー」
    透が唸るように腕を組む。

    「最初はさ、友達と肝試しが目的だったんだよね。首吊り幽霊とか出るって噂だったし。でも病院一通り回ってみて、最後に行ったのが小児科の病棟でさ。そこで動けないあっちゃん見つけて、何とかしてあげようってなって」
    「それだけ?」「それだけ」

    鍋を囲んだ食卓にしばらく沈黙が落ちる。

    「いや冷静に思い返すと俺めっちゃ怖いことしてるな……?」
    「可哀そうだったから、ではないのか?」「いやでも初見のガチあっちゃん相手に同情は難しくない?可哀そうの前にまず怖いが出るよ。俺が言うのもなんだけど」
    あっちゃんがちょっと不機嫌そうに透の背中をポコポコしている。

    「あっちゃんごめん、ごめんて。……やったこと自体には全然後悔してないんだけどさ。あんとき何かに憑かれてたのかな?俺」
    「この子は子供達の集合霊なんだろう?この子の誰かの親とかが乗りうつったとか。オカルトにも程があるが」
    「無理やり理屈つけるのならそうなるのかなあ。いやでも俺、自分の事もうちょっと賢いと思ってたわ。こんな違法ギリギリ攻めないよ普通」
    「ふむ……」
    半田が鍋をの具一つ頬張り、飲み込むとまた口を開く。

    「良いんじゃないか、バカでも。俺は段々バカに染まっている自覚があるが以前よりは生きやすいぞ」
    「半田君が?」「ああ、こうして鍋を馳走になれたのもバカに染まった事が遠因の一つだからな」
    「へえー」
    半田の気楽な言い方に、なんとなく本当なんだろうなと透はしっくり来た。

  • 29二次元好きの匿名さん22/06/26(日) 23:46:09

    「二人とも、バカに染まるくらいなら私と一緒にマイクロビキニに染まら」「ビキニ名刺は受け取らんぞ」「その話したらマジで着信拒否するっつったろバカ」




    透はぼちぼち鍋が終わりそうなタイミングで、残りの具材の一部をスープジャーに入れる。
    そして適当な手提げ袋にスープジャーとシメ用に買っておいた袋めんを一袋入れると、手提げをもって玄関へと歩いていく。
    「何してるんだ?」
    半田が尋ねる。
    「んー、あしながおっさんへの謝礼」「?」

    透が玄関の扉をガチャっと開けると、ドアノブに手提げ袋ひっかけると、そのまま部屋に戻っていった。


    しばらくして。

    ピンク色の派手なジャンケン柄の着物を着た男がふらっと、透の家の出入り口前に現れる。
    そして手提げ袋に気が付いた男は、袋を取り出して中身を確認すると、少し上機嫌そうに手提げ袋をもって、きた道を戻っていったのであった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 30122/06/26(日) 23:53:13

    ミカエラ、マイクロビキニと兄へのコンプレックスな部分以外のパーソナルな部分の解釈が難しくて毎回迷います。下半身透明も口調のさじ加減とかどこまで踏み込むかの判断が難しい……

  • 31二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 06:31:06

    野球拳も何かあったんだろうなぁ…過去編とかあるなら楽しみに待ってます

  • 32二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 13:19:55

    保守
    いつも楽しみにしてます!

  • 33二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 22:42:25

    ほっしゅ

  • 34二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 23:50:37



    行方不明者が増えている。
    新横浜のビルや周辺施設がいくつか消えてなくなるという事件が立て続けに起こり、街は陰鬱な空気に包まれている。
    事件が起きるのは決まって深夜帯で、活動時間が重なるという理由で退治人も巡回パトロールに駆り出されるようになった。
    正直な事を言ってしまうと、吸血鬼事件よりもそちらの方がよほど深刻性を帯びている。

    「そのうちギルドも消失しちまったらどうしような」
    ショットがクリームソーダを飲みながら冗談めいた軽口を叩いた。
    「やめてくれよ、今の状況じゃ笑えないって」
    サテツがショットの冗談を窘める。

    「でもさ、俺達くらい軽口叩かねえとやってらんねえよ。皆顔が暗いしさあ」
    「だからって言っていい冗談と悪い冗談があるだろ」
    二人がぐだぐだと駄弁っていると、ギルドの出入り口からロナルド一行が入ってきた。

    「パトロール戻ったぞー!」「ヌー!」
    「ロナルド、ドラルクさんにジョン君」
    「今日はどうだった?」
    「……人も吸血鬼もすくねえ」
    「引っ越し業者もちらほら見るようになったね。今日も引っ越ししてる人いたよ」
    「そりゃあいつ発動するか分からんロシ アンルーレット見たいなもんだしな」
    「ヒナイチや半田も忙しそうで最近全然会えてねえし、……物騒だよな」

    「このままだとどうなっちゃうんだろうね、この街」
    サテツがボソっと呟き、ギルドに重い沈黙が流れる。
    消失事件は、原因も終わりも見えない。
    ただ、状況が悪化していることだけは分かるが、有効な手立てというものがまるで分からなかった。

  • 35二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 23:51:16

    このまま建物が消え続ければ、いつか街全体が消えてしまうんじゃないか?

    最悪の想像を頭の隅に追いやりながら、ロナルドは別の話題に無理やり切り替えることくらいしかできなかった。



    昼間の事である。
    その日のロナルドは珍しく昼間の街で用事ごとを済ませていた。

    「えーと、あとやる事……」
    吸血鬼が多くいる街なので夜間でも役所は開いており融通は利くのだが、それでもどうしても昼間にしか出来ないこともあるのでたまにはこうして太陽の出ている街にも赴く。

    いつもの街だったらあまり見ない学生の姿や、働く人々がいて、見慣れた街なのにちょっと光景が違って面白い。
    (そんだけ俺が昼夜逆転してるって事なんだけどさ)
    仕事柄仕方ないのだが、ちょっと不安を覚えないわけでもないのだった。健康とか健康とか。

    (あとは、ジョンとドラ公の買い物で最後か)
    駅ビルの方に行けば大体済むだろうか。そう考えて駅の方に移動しようとしたところで声をかけられる。

    「あっ、ロナルドさんじゃないですか。昼に会うなんて珍しいっスね」
    この微妙に何も考えてなさそうな声は、
    「武々夫」

    BBOパーカーをきたアホそうな青年がロナルドの元に近寄ってくる。
    「いやー奇遇っスね」「こっちのセリフだよ。なんか駅に用でもあんのか?」「大したことじゃないんスけど」

    「どっかで無料ポケットティッシュ配布してないかなって」「んなもん買えよバカ」
    「買った後にポケットティッシュ貰うと負けた気分になりません?」「別にならねえよ買ったポケットティッシュの品質舐めるなフワフワ感とか全然違え」
    「え、でも鼻かんで捨てる紙にそこまでの品質は求めてないっつーか。その100円弱で飲み物とか買いたいっつーか……」「もっともらしい事言ってんじゃねえ安物ポケットティッシュで鼻かみすぎて鼻血でも出してろ!!」
    「というわけでロナルドさんポケットティッシュください」「今の流れでどうしてもらえると思ったんだお前持っててもぜってえやらねえ!!!」

  • 36二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 23:52:10

    ロナルドと武々夫がくだらない事で駄弁っていると、次第に話題は今の新横の話に切り替わっていく。
    「それにしても減りましたねえ、人とか」
    「しょうがないだろ、こんだけ行方不明者増えてんだから」
    ニュースで連日報道される行方不明者の数が100を超えたあたりで、ロナルドは人数を数えないことにした。

    「そのうち、うちのヴァミマも失踪したりして」「怖いこと言うなよ」
    「大丈夫っスよ。ヴァミマが失踪した所で、いるのは俺か親父っスよ?二人程度じゃ見向きもされないって」
    「そうは言うけどな……」
    武々夫は冗談めいた様子で気楽に言うが、やはり、今の新横では冗談は済まされない響きだった。

    「そうだ、こんなことしてる場合じゃねえ。買うもん確認しとかないと」「俺にもなんか買ってくださいよー」「黙れ」
    ロナルドがスマホでお使いの内容を確認しようとすると、ニュース速報の通知が目に付いた。


    【速報 新横浜小学校が原因不明の消失。児童、教員、行方不明】

    「は?」

    ロナルドの思考が固まった。
    あの小学校が?全部?

    以前、吸血鬼の防犯グッズの講習に行った学校である。
    キックボードのガキや新横浜トリオ、見知った顔も当然いる。

    アイツらが、全員?

    「ロナルドさん、ロナルドさん」「なんで、小学校が……?っていうか今昼間だろ?事件が起きるのは深夜じゃ」
    「ロナルドさん!」「黙っててくれちょっと今考え事を」
    「そうじゃなくてアレ!」

  • 37二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 23:52:47

    しびれを切らした武々夫が無理やりロナルドの顔をある方向に向けさせた。
    視線の先にあるのは、街のシンボルとして鎮座する新横浜ヴリンスホテル。

    「なんだよ、ヴリンスホテルが一体……」

    そして、ロナルドは「それ」を見た

    まず、ヴリンスホテルの端に黒い斑点のようなものがまばらについている。
    一瞬汚れのように見えるそれだが、どれだけ角度をひねっても黒い斑点は斑点のままで、建物そのものについた汚れではなく空間に開いた穴のような物なのだと理解できた。

    斑点は真っ暗すぎて、まるで光を通さない。太陽があんなにきれいに照り返しているのにその光を全て吸収するような黒さで、ちぐはぐでだまし絵を見ているようで気持ち悪い。

    斑点は円形に波紋のように広がっていき、ヴリンスホテルの円柱のシルエット全てを綺麗に漆黒に塗りつぶしていく。

    ああいう風に、VRCもホラーホスピタルも、小学校も、全て食われたのだと直感的に理解できた。
    だが、真っ暗に飲み込まれたヴリンスホテルの異常は、それだけでは終わらない。

    黒く染め上げられたヴリンスホテルのシルエットは、そのまま大穴になり、中から何かが出てくる。

    __黒い、蝶?

    蝶々の大群が群れとなって大穴からとめどもなくあふれ出てくる。
    そして世にも不思議な事が起こった。

    明るくロナルド達を照らし続けている太陽が、蝶によって黒く染め上げられていくのだ。
    飛蚊の大群のようなそれは徐々に徐々に太陽を蝕んでいき、日食のように太陽光を遮っていく。
    当然昼間だった新横はどんどん薄暗くなり、そして、とうとう夜と変らぬ姿へと変貌していった。

    環境音として聞こえる鳥の声や、虫の鳴き声などが嘘のようになくなり、静まり返っている。
    人間はしばらくすると困惑と恐怖で声を上げはじめ、皆どうすればいいのか分からず立ち尽くしていた。

  • 38二次元好きの匿名さん22/06/27(月) 23:53:28

    一方ロナルドは、ヴリンスホテルの大穴から目が離せなかった。

    まだ、大穴の中に何かいる。

    しばらくすると大穴から何か巨大で白いものがはい出てきた。
    あれは、きっと巨大な白骨の両手だ。

    巨人ほどの大きさがあるだろうその両手は、ヴリンスホテルのシルエットをぐいっと開き、さらなる大穴に変えていく。それはまるで小さな割れ目を無理矢理こじ開けるような動き。
    事実無理のある動きだったのか、空間にひびが入り裂けていった。
    そして、その大穴からさらに巨大なものがはい出てくる。

    眼窩に目玉だけが入った、巨大な白い髑髏。

    髑髏は目玉だけをぎょろりと動かしている。
    何かを探しているようで、ロナルドと、目が合った。

    髑髏は、ロナルドを見つめ続けている。


    これが、終わりの始まりなのだと、ロナルドは悟った。


    続く

  • 39二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 00:10:52

    更新お疲れ様です
    嫌な感じがジリジリと背後に忍び寄ってくるような感覚ですね… 恐ろしいです

  • 40二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 07:39:07

    過去回想編と本編の温度差がすごいですね
    先が楽しみだけど既に怖い

  • 41二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 11:15:15

    日常を侵すタイプのホラー怖いな…
    続き楽しみにしてます

  • 42二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 17:44:13

    うわー!!!!大きく動き出したこの感じ最高です

  • 43二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 20:15:46

    変態たちがいなくなってしまってわかる、ふだんのシンヨコの賑やかさ……
    なくなってから尊いと感じていたことが理解できてしまうってことあるよね
    少なくともシンヨコはポンチで賑やかなのがいい……

  • 44二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:08:21



    カンカンッ!カンカンッ!

    「……ん?」「ヌ」
    ドラルクは棺桶を激しく叩かれる音で目が覚める。
    寝ぼけ眼で目覚まし時計手探りで取り、時間を見ると、時刻はまだ13時を回った所である。

    「なんだ、まだ昼間じゃないか……」「ニュー…ン」

    カンカンッ!!
    「分かったって!ちゃんとカーテン閉めろよ!!」

    ドラルクが陽の光に警戒しながらゆっくりと棺の蓋を開けていく。
    完全に閉め切ってくれたのか、蓋の外はかなり暗かった。
    だが、ドラルクの蓋を叩いていたのは予想外の人物?だった。

    「なんだ、ゴリラじゃなくて死のゲーム君か」
    「師匠~!!起きてくれて良かった!外が大変なんですよ師匠!!」

    「? 一体何があったっていうんだい?」「ニュ……」
    ドラルクが完全に蓋を開けて外を見ると、夜と見まごう程部屋が暗い。
    思わず窓に駆け寄って外を見るが、太陽は完全に隠れ切ってしまっている。

    「はあ!?日食でも起きたのか!?」「ヌヌ!?」
    「急に太陽が隠れちゃったんです……」

    ドラルクは状況を確認するためにテレビをつけるが、画面にノイズが入ってうまく映らない。
    仕方がなく、スマホで情報収集をしようとツィッターを開けるが、日食の事はおろか、新横浜の異変についてまるで情報がない。
    「なんだこれ、分断でもされたみたいに情報がないな。……ロナルド君は、まだ買い出しから帰ってないのか」

  • 45二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:09:32

    試しにロナルドやヒナイチにメッセージを送ってみるが、返事はおろか既読もつかない。
    「……嫌な感じするなあ」

    ドラルクは手早く着替えて身なりを整えると、ジョンに進言する。

    「ジョン、一回ギルドに行こうか。誰かしら集まってるかもしれない」
    「ヌン!」

    「この異常事態にわざわざ出かけるのか……グブブ」
    水槽からキンデメの声が聞こえた。
    「さすがにこの状態じゃ何もわからんのでね。納得出来たらまた戻ってくるから、それまで留守番よろしくキンデメさん」
    「お気をつけてくださいね!師匠、ジョンさん!」
    「そうだ、ロナルド君戻ったら私ギルドにいるからって伝えといて」
    「承知した」

    ドラルクがジョンを抱えて事務所の出入り口からバタバタと出ていく。
    ドラルク達が出ていった後、メビヤツが何かの気配に気が付いて静かに起動した。

    メビヤツの目が事務所の窓を見つめる。
    窓は真っ黒だ。外が見えないほどに。

    「ビ」
    メビヤツは出力を最低にまで抑えたビームを軽く窓ガラスに向かって撃つ。
    「メビヤツさん何やってるんですか……ってうわぁ!!」
    ビームが撃たれた衝撃によって、窓にびっしりと張り付いていたおびただしい数の黒い蝶が、空へと霧散していった。

    「いつの間にあんなに張り付いていたんだろう?」
    「ドラルクが着替えている間に張り付いたのかもしれん……グブブ」

    黒い蝶は飛んでいく、何か目的のものを追いかけるように。

  • 46二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:10:32



    新横浜のとあるビルの占い店の中。
    サンズはどんよりとした様子でフランチェスカに泣き言を言っている。

    「というわけであんまりうまくいかなかったんですよ先生~~」
    「ふむ、だが意中の男に近づけたのは事実だ。その調子で当たっていけ」
    「これで合ってるんですかね……?」

    フランチェスカは自分お手製シンヨコハマタロットカードをシャッフルすると、一枚カードを引き当てる。
    そこにはダチョウが走り回るカードが書かれていた。
    「仕事運が好調だ。仕事を頑張れば頑張るほど近づけると出ている」
    「な、なるほど今の姿勢は崩さずに、と」

    そしてフランチェスカはもう一枚カードを引いた。出た絵柄は下等吸血鬼のニンニクの群れ。
    「だが、仕事を頑張れば頑張るほど反比例して恋愛運が下がる」
    「ダメじゃないですか!!恋愛!重要なのは恋愛!!」
    「まあまて、対処法が無いわけではない」

    そして、サンズにぺらっとカードを渡した、裏返すと、そこにはアイアンメイデンに飲み込まれる男の姿が描かれている。
    「そのカードが恋愛運における最大の壁だ。壁を越えれば恋愛運は爆上がりするぞ」「ンナアアアアア!?」
    サンズはアイアンメイデンのカードをガン見する。
    「こいつ、こいつを超えればサンズちゃんはロナルドしゃんともっとお近づきに……!」
    「ただし難易度はルナティックだ」「高いんだか低いんだか分かんないですよその難易度」
    「心してかかると良いぞ。そして上手くいったら」
    「はい?」
    「私に紹介しろ。好みだ」「サンズちゃんの秘蔵写真で許してください先生」

    会話に花を咲かせていると、サンズのスマホのアラームが鳴る。
    「ああもうこんな時間ですか。今日もありがとうございました」

  • 47二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:11:09

    「荷物が多いが、用事でもあるのか?」
    事実、サンズは仕事用のカバンの他に大き目の紙袋を持っていた。
    「ちょっと野暮用がありまして」
    「聞かせろ」

    「この間の事件で知り合ったやつの戦い方がですね?サンズちゃん的にちょーっと痛々しいっていうか、心配になるっていうか。まあロナルドしゃんに会えるかなって下心ももちろんありますけどー、単純にお節介ですね。これは」
    「なるほど」
    フランチェスカはもう一枚シンヨコタロットを引く。かわいらしいアルマジロのカードだった。

    「気を付けて帰れ」
    「ありがとうございました!」

    サンズが店から離れていくのを見送りながら、フランチェスカはアルマジロのカードを見直す。
    アルマジロは友愛や永遠の絆を象徴するカードだ。

    「仕事からのアプローチは狂気的に難しい(ルナティック)が、友人としてのスタートはけして悪くない」
    だがフランチェスカはその事については言わないことにした。
    下手に知らないほうが好転することもあるのだ。

    「あの、遅れてすいません」
    店に戻ろうとするフランチェスカは女性に話しかけられる。
    ミディアムボブの凛々しい、だが少し自信がなさそうな女性だ。
    女性は細身だが、退治人らしく服の上からでも筋肉が無駄なくついているのが分かる。
    仕事が上手くいっていないようだが、少しのきっかけを得ればきっと活躍できるはずだ。

    「前回の占い結果はうまくいったか?」
    「いえ、ラッキーアイテムの靴下の意味がよく分からなくて……」
    「なるほど、足りないものがあるようだ。続きを占ってやろう」
    「はい、よろしくお願いします」

  • 48二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:12:12

    女性とフランチェスカが店の中に入ると、扉をバタンと占める。
    かしましい夜はまだまだ続いていく。




    ドラルクの逃走騒ぎが終わった後、ロナルドはまだ空きテナントの場所に残っていた。

    (よりにもよって、なんでここにいたんだか)
    記憶はないはずなのだ。

    最近、前とは別人と理解していても、どうしても前のドラルクと同一視してしまいそうになる自分に困っている。
    ちゃんと分けなくてはと、頭で分かっているのに。

    (そしてこのマント、落ちてたって言ってたけど事務所の誰か……死のゲーム辺りが出したりしてねえよな?俺ちゃんとしまってたぞ)
    うっかり記憶を刺激しすぎて前のヒヨシ騒動の二の舞になるのはごめんだ。

    ロナルドがあれこれ考えこんでいると、ロナルドの背後に黒い渦が巻き始める。
    そして、渦は徐々に空間に開く穴へと変化していった。

    穴からは冒涜的な恐怖を感じる複数の黒い触手がはみ出て、うねうねと動いている、
    だが、ロナルドを襲うような事はしない。代わりに、しっとりと落ち着いた男性の声が聞こえてきた。

  • 49二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:12:38

    『こんばんは、ロナルドさん』
    「ピャァーーーーー!!!!!」

    ロナルドは驚きすぎて穴と触手から体を回転させながら遠ざかっていく。
    まるで人間ハリケーンのようだ。

    「そ、そそそそs、その声は、フクマさん!?!?」
    『はい、お久しぶりです。フクマです。』
    「な、何の御用ですか!?俺何かしましたっけ!??」
    『いえ、今回はロナルドさんに折り入ってお願いが』
    「なんでしょうか……?」

    『この間の病院事件のレポート、なるべく早めに提出していただきたいんです』

    フクマの声はどこまでも優し気で、そして有無を言わさぬ圧があった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 50二次元好きの匿名さん22/06/28(火) 23:27:55

    更新お疲れ様です
    ドラルク狙われてる…怖…
    シンヨコタロットの絵柄らしいやつばかりでちょっとほっこりしました 人間の変態は未だ未開眼のようですが起こした方がいいのか寝かしといた方がいいのか悩むところですね

  • 51二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 10:33:59

    保守

  • 52二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 13:39:26

    乙です!
    前の世界線の終わり方怖すぎる……。
    サンズちゃんの恋愛運が前の世界と変わらなくて草。とは言え前の世界での、所属する出版社の編集者としての出会い&やらかしがない分友人としてはうまくいってるのか……。
    そして前の世界での人間の変態はまだ人生迷子な退治人のままなのか……。たしかにピヨちゃんいなかったら手も足も出なくてダメ元で靴下奪うほど強い吸血鬼にそうそう会えるわけないか……。
    そしてサンズちゃんの意中の人の前に現れるアイアンメイデンの暗示の男!!!レポートをせかすってことは急を要するレベルで廃病院以上のアレが育っているのか……?
    てか、同じ世界線にすらいないとか、サンズちゃんの打倒フクマさんが前よりもっと難しくなってません?いや元から難易度ルナティックだったけど。

  • 53二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 22:52:40

    おまけ

    ド「そういえばロナルド君のその吸血鬼の恰好って出所どこなの?」
    ロ「なんだよ藪から棒に」
    ド「だってその服ロナルド君の趣味じゃないだろ。私服とか放っておくと着回しという概念を知らない強くてド派手柄の服か中二病突っ込んだ謎服か悩んだ挙句買っておいて最終的にレギュラーになる無難な服ばかりイダダダダダダ」
    ロ「俺の服の趣味はどうでもいいだろ!!」
    ド「それにその服やけに仕立てが良いしさ!店とか単純に気になったんだよ!!いいだろそれぐらい聞いたって」
    ロ「あー、これはだな……」

    ロ「知り合いの爺さんに貰った」
    ド「知り合いの爺さん」

    ロ「俺、最初は適当な服着て活動しようとしたんだけど、その服のチョイス見た爺さんがさ」ド「うん」
    ロ「コレ、って有無を言わさず渡してきて」
    ド「子供にお菓子渡してくるおばあちゃんかなにかかな」
    ロ「んで着てみたらぴったりで……、俺、採寸された覚えないのに。後から詳しく聞いたらその服全部爺さんの手製だったらしくって、受け取らないわけにはいかなくって……。ヒナイチのもそん時に貰った」
    ド「現代に蘇るお仕着せか?その爺さん何者なんだよ」
    ロ(オメーの爺じゃ)


    ヌン(完)

  • 54二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 22:54:02

    「それは、締め切りを早くするって事ですか?」
    ロナルドがこわごわと空間の大穴に尋ねる。

    『はい、急なお願いで大変申し訳ないのですが』
    「が、頑張ります……。で、いつまでに」
    『三日以内でお願いします』「ンビャッポオーーーーーーーゥ!!」

    『今回に関しましてはいつものロナルドさん視点の詳細ではなく、事件の全容が大まかに分かる範囲で大丈夫です。こちらも無理を言っているのは承知していますので』
    「そ、それなら何とか。あの、あっちでもなんかあったんですか?」

    『そろそろあちらも強力な一手を出してくる可能性が高いとの事です』
    「でも、弱体化はしてるんですよね?今回はVRCも病院も取られてないし」
    『こちらの世界での収支はマイナスの筈ですよ。皆さんの活躍のおかげでひとまずは平穏ですから』
    「よかった」
    『ですが』
    フクマは安堵するロナルドに釘をさす。

    『あちらには以前の貯蓄がまだ十分にあります。相手の持ち駒がいつ飛び出してくるのか分かりません』
    「それはつまり、ひっくり返される可能性はまだ十分にある、と?」

    『最悪の目を引き続ければオセロのように状況が反転しうるとのことです。「アレ」の有利状況は一度火がついてしまえば我々個人では抑えきれませんから』
    「……」

    『ですが、悲観材料ばかりでもありません。こちらが有利なのは確かです。私たちにできる事は、明るい、日常的な空気の維持です』
    「怖がらないような雰囲気を作れって事ですかね」
    『それももちろん大事なのですが、守るだけでは足りないかもしれません。こちらも攻める姿勢を見せるべきかと』
    「攻める……。でも相手がどこにいるか分からないんじゃ、攻めるのは難しくないですか」

    『攻撃だけが手段ではありませんよ。例えば、お祭りごととかですね。町の人々が盛り上がるような事をすればあちらもかなり攻めづらくなるはず』
    「なるほど!」

  • 55二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 22:54:24

    雰囲気や空気に左右される存在だと言う事は分かっていたが、そういう攻め手があるとは。

    『私がそちらに行けるのであれば、オータム式企画術でイベントの主催もしたのですが……』
    「いえいえ!大丈夫ですよフクマさん!!そういうのはほらドラ公とかマスターとかもっと適任いますし!!俺だって考えるし声かけときますから!!!」
    『ではお言葉に甘えましょうか』
    (セーーーフッ!!!!セーーーーフッ!!!)
    オータムの企画など通した日にはどんな惨状が待ち受けているかわからない。
    ロナルドには明るく笑顔になれる企画というよりも(ドン引きで乾いた)笑顔の企画になるだろう事は容易に想像がついた。
    ついでにSAN値も減る。

    『今回ご報告できることは以上でしょうか。あっ、そうそうロナルドさん』
    「なんですかフクマさん?」

    フクマの声が聞こえる大穴の横に、さらにサブで穴が開く。中にはオフィスデスク一つとノートパソコンが一つがポツンと置かれているだけの部屋があった。部屋の壁からはどこからともなく名状しがたい黒い腕が生えてきて机の周りを遊んでいる。
    『原稿が滞った時の為に缶詰部屋を作ってみたんです。様々なモードがありまして、今は触腕モード、メイデンモード、ゴジラモードさらに編集合戦モードなど様々な執筆者の危機感を煽る工夫が施されておりまして』
    「うわあいすごいやふくまさんぼくげんこうがんばりますんでかえりますね!!!」
    『はい、楽しみにまっています。あと、こちらの缶詰部屋の鍵も用意しておきましたので、必要に応じてお使いください。原稿執筆意外に戦闘訓練にも使えますよ』
    「さすがふくまさんきがきいてる!!!」
    「はい、ぜひ有効的にご活用ください」

    ロナルドは怯えと震えで泣きながら缶詰部屋の鍵を受け取る。
    できれば使いたくないが、三日後の未来の自分はこの部屋に閉じ込められているような気がしてならなかった。


  • 56二次元好きの匿名さん22/06/29(水) 22:54:50

    「わざわざ私に用意してくれたのか?」
    ヒナイチはサンズから渡された紙袋を受け取ってきょとんとした顔をしていた。
    「そうですよー?部屋漁ってわざわざ取ってきたんですからね!サンズちゃんに感謝してくださいよ!!」
    サンズはドラルクによって給仕されたお茶を飲む。
    吸対に戻ってきた二人と一匹にちょうど出くわす形で合流できたのだった。

    「それで、サンズ女史は一体何を持ってきてくれたんだい、ヒナイチ君」「ヌー?」
    ヒナイチは紙袋をがさがさと開けていく。
    「ええっと、武器だ。手裏剣か?これ」
    「手裏剣というよりも投げクナイですよ。クナイの真ん中部分に溝引いてあるでしょう?本当は毒とか仕込むんです」
    サンズがクナイを手に取り、溝の部分をなぞって見せた。確かに液体が伝っていきそうだ。

    「ほーう、毒投げ!相手の肉に突き刺さると同時に毒が注がれる仕組みかな?まさに忍者っぽい技だねえ。でもヒナイチ君になんで毒?」
    「私、こういう絡め手は正直あんまり得意じゃないんだが」

    「まったくわかってないですねえ~!」
    サンズがグイっと胸を張って威張る。

    「床下なら、毒じゃなくてここに血を仕込めって言ってるんです!」

    ヌヌヌ(続く)

  • 57二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 06:04:20

    爺プレゼンツになる前のロナルドくんのコーデはどんな奇抜なファッションだったのか

  • 58二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 12:44:18

    ほしゅ

  • 59二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 23:08:03

    「それはつまり、私のあの血の作用を利用するって事か?」
    「そうです!それ!」
    サンズがびしっとヒナイチを指さす。

    「あのー……、心遣いは嬉しいんだが、炎に関しては実用はまだちょっと……」
    ヒナイチはかなり困った様子でサンズの提案に渋る。
    「正直あの時なんで燃えたんだかまだわかってないらしいしね」
    「そうだったんです!?あの時床下めちゃくちゃノリノリで燃やしてたじゃないですか!!」
    「まあ、それはそうだったんだが」
    「そうだったの?」「えーと……」
    その場にいなかったドラルクがヒナイチの顔を見てくるので、ヒナイチはさっと顔をそむけた。

    「見てる側はめちゃくちゃ怖かったんですよ。腕血まみれでこっちの声聞こえてなかったぽかったですし」
    「トランス状態ってやつ?」「ヌーヌン?(陰陽師の恰好をするジョン)」
    「だから!正直私自身も危険だと思うから、なるべく使わないことにしたんだ」
    「それはちょっともったいなくないですか?」
    弱気な姿勢のヒナイチにサンズが待ったをかける。

    「あの時の床下超怖かったですけど、あの大きな怪物?相手にはめちゃくちゃ効いてたのは確かでした。というかあの攻撃があったからロナルドしゃんの攻撃が入ったようにサンズちゃんには見えたんですよね」
    「そ、そうか?」
    「確かに、怪異の内部にいた私の方にまで炎の手が挙がってたし、めちゃくちゃ効いてたと思うよ」「ヌンヌン」
    「チン!?そっちは初耳だぞ!?そうだったのか!?」
    「ほら見ろ床下!だから、奥の手としてあるのであれば、床下が使いたくなくても使わなきゃいけないタイミングもあると思うんですよね」
    「ちーん……」
    「そんな大事な場面で使いなれてない能力で土壇場の賭けに出るくらいならもう腹くくって慣れちゃった方が得ですよ得!オータムなら積極的に使えってむしろ推奨してきます」「出版会社だったよね君の勤務先?」

    ヒナイチはサンズの説得に心が揺れたらしく、受け取った投げクナイを手に握ってうつむき気味に眺める。
    「暴走が怖いんだったら、その時の事思い出したらどうですか?サンズちゃんとおままごと野郎を燃やした時は床下普通だったじゃないですか」
    「そういえばそうだ」
    あの時の自分と、怪異と敵対していた時の自分、何が違うだろうか。

  • 60二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 23:10:06

    「……あ」

    「あの時の状況から、昔あった嫌な事を思い出して」

    ヒナイチが視線をスッとドラルクとジョンに移す。

    「血を使いながら「アレ」の相手をしているうちに、凄く凄く、腹が立ってきて」

    まだ覚えている、目に焼き付いている。

    太陽の上らなくなった常闇の街、あちこちの建物から火の手があがり、焼け焦げた匂いが漂っている。


    __燃やしつくさなければ

    「そしたら、自然と頭が、何が何でも絶対に消し炭にしてやろうと考え始めて、身体が勝手に」
    「……なんか、憑りつかれてません?」
    「ちんっ!!いやっ、でも腹が立ったのは私自身の感情だから、あれは確かに私の怒りだったんだと思う」

    「そんなに恨みが募るような事があったの?」「ヌン?」
    ドラルクとジョンが純粋な疑問としてヒナイチに尋ねてくる。
    ……詳しい理由など言えるわけがない。

    「ちょっとな。私が自分で考えているよりも、ずっと強く恨んでいたんだと思う」
    「うーん、恨みの対象を前にすると見境なくなってくるって感じですかね?」
    「なんかそこらへんは炎の発動条件にも関わってきそうだねえ」
    「現状だと分からないことだらけだしな」

    「とりあえず色々試してみるが吉です!この間みたいな腕切りながらスプラッタで戦われるのも怖いですし、効率的なやり方を模索ですよ!!」
    「お、おー?」

  • 61二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 23:10:49

    サンズの勢いにつられてヒナイチが控えめに片腕を上げていると、部屋の入り口から生気の抜けきったロナルドがふらふらと入ってくる。

    「ただいま……」
    「ロナルド、野暮用は終わったのか?」「終わった。そしてこれから俺は新たな地獄の幕開けだチクショー……」
    ロナルドはしくしくと静かに泣きながらタブレットを開いた。
    「ジョン、ごらん。あれは夏休み最終日に全て残ってる宿題みたいな、急で割とボリュームのある締め切りをねじ込まれたと思わしき五歳児の姿だよ。滑稽だね」「ヌー」

    「ろ、ロナルドしゃ、さん」
    ロナルドが両腕を巻き込む形の関節技をドラルクに決めていると、急に現れたロナルドにサンズが固まっていた。
    「え……、あれっ、サンズさんなんでここに!?」
    「フグァアアアッ!?えっとですねお久しぶりです名前を憶えていただけて嬉しいですオータム書店のサンズです!今回はこの床下にちょっと用があってですね!!」「ヒナイチに?」
    ロナルドはヒナイチに視線を送る。

    「私の使う武器についてもっと効率よく戦えないか提案してもらったんだ。ほら、この間の炎の能力を使って」
    「あれか!……いいなー」「いいなーってお前。私は結構怖いんだぞ、あの炎」

    「いや、でもさ!カッケエじゃん炎!!俺も必殺技っぽい凄い威力で派手な技欲しい!!」
    「空飛べて怪力で念動力使えて蝙蝠に化けれて再生能力もあるのにこれ以上なに望むんだそこの残酷な五歳児。新横浜在住のクソ能力学会のメンバーがむせび泣くぞ」
    「ウッ、ごめんなさいクソ能力学会の人たち……。確かに俺は結構恵まれてる方だってのは分かるんだけど!「アレ」相手には正直火力不足なんだよな」
    「ほう?火力不足の根拠は?」

    「俺の能力って物理由来が多いからさ、怪力や念動力で攻め切れなかったら攻め手が足りなくなるんだよ。この間みたいに再生能力で粘られると千日手になりやすいっていうか」
    「ポ〇モンで言う物理攻撃と特殊攻撃の壁にぶち当たってるわけか。吸血鬼なら銀とかニンニクとか弱点があるけれど、それは試しては見たのかい?」
    「銀もニンニクも大して効いてなかったし、燃やしても見たけどヒナイチみたいな劇的な効力は無かったな」
    「なるほどねえ」

  • 62二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 23:11:16

    ドラルクがうーんと唸る。
    「応用力が足りて無いってのもあるんじゃないか。君この間まで念動力に関してはよちよち歩きだったろう?正直今のロナルド君の精度だと怪力の下位互換みたいな使い方してるんだよね」
    「確かに……」
    前のインスタント爆弾状態に比べたら大分マシにはなったのだが、投げられた物を念動力で止めたり投げ返すことはできても、それ以上の事はしたことが無い。というか何をすればいいのかいまいち想像ができない。
    「結構幅広く応用できるよ、念動力。もうちょっと腰据えて練度練ったら?これはヒナイチ君もだけど」
    「私もか!?」「刀に頼りがちな癖直しなさい」「ちん……」

    吸血鬼二人は考え込む。さらなる訓練が必要なのは分かるが、応用の仕方がいまいち想像できない。

    「あのっ!」
    沈黙を打ち破ったのはサンズだった。

    「なら、考えませんか!必殺技!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 63二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 07:52:18

    更新お疲れ様です
    サンズちゃんの善意が清涼剤になって和やかな雰囲気ですね

  • 64二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 18:23:23

    保守

  • 65二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:27:57



    アルバイト帰りの20代ぐらいの軽薄そうな男が、夜の新横浜の街を当てもなく口笛を吹きながらぶらついている。
    男にはとくに目的が無かった。
    ただ、何となく面白いことないかな~とか、なんかもらえないかなあ~とか、綺麗なお姉さんいないかなあ~とか、ただただ暇をつぶすためだけに街を歩いている。

    幸いな事に、この新横浜という町は暇つぶしにうってつけだ。
    まず吸血鬼が多い。吸血鬼が多いと何が起こるか。

    畏怖欲をこじらせた吸血鬼が夜な夜な愉快なトラブルを起こしていくのである。
    トラブルの種類は多岐にわたり、退治人がそれを解決するため四苦八苦しているのを見るだけでも面白いものである。

    次に人間に変人と変態が多い。人間に変人と変態が多いと何が起こるか。

    吸血鬼の起こすトラブルに乗じてさらなるお祭り騒ぎを起こすことがあるのである。
    普通に迷惑こうむってる人間もいるにはいるが、この街に住む以上は皆慣れ、むしろ流れに乗ってしまった方が得だったりするのがこの新横浜である。

    そしてこの男もどちらかというと変人の方に振り切っている部類の人間だった。
    だからこそ、それに出会ってしまったのかもしれない。

    男はその日、いつもの道からそれて新横浜公園の方をぶらついていた。
    特に理由はない。理由などあったら男はもうちょっとマシな進路を歩んでいた筈だ。
    他人に「なんで?」と聞かれたら「なんで?」と聞き返すのがこの男である。

    だがその日は運が悪いというか、男にとって都合が悪い事に妙に盛り上がっているアベックが多かった。
    とくにアベックが群がり盛り上がるようなイルミネーションもろくにない夜は基本虚無の公園だというのに、なんでここでいちゃつくんだとっとと個室とか行けという荒んだ心でアベックの大群から緊急離脱していく。もちろん、男には彼女などという存在はいない。それは草原を走るピンクのユニコーンのようなものでありつまるところ男が男である限り手に入らぬすべて遠き理想郷である。
    ついでにニホンオッサンアシダチョウも絶賛繁殖シーズンでそこらじゅうでオスの取り合いが始まっていた。
    どいつもこいつも盛ってやがるくそったれ。

  • 66二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:28:26

    あらためて見ると、吸血鬼ルドくんの能力の豊富さ

  • 67二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:28:44

    そんな時だ。
    公園の出入り口付近の低木が不自然に揺れた。

    「ん?」
    その男は反射的に低木の方に視線を移す。
    なにか鳥か動物だろうか?
    「なんかいるんスかね?」
    深く考えずに低木の音がする方をかき分けようとしてみる。


    『ヴォzx:*ン』
    重低音の何かの鳴き声が聞こえた。
    そして、「それ」はゆっくりと男の前に現れる。

    シルエットだけ見れば、四つ足の狼に見えるかもしれない。
    だが、それを見ようとしてもピントが合わない、顔がよくわからない、これは本当に生物なのか?

    「こいつは……」
    男は少し悩み、そして自分の中で結論づけた。


    「犬か!」
    男はバカだった。


  • 68二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:29:25

    「必殺技……!」
    ロナルドがその言葉の響きについテンションが上がってしまった。
    必殺技、それは男のロマンである。

    かくいうロナルドだって、必殺技の一つや二つ夢想したことくらいはある。
    兄はかつてビームを放てたという。
    俺も少しで良いからビームの一つ撃てないかな!?と兄からビームの話を聞いた夜、必死に布団の上で練習したことがあったのだ。
    だが撃てなかった。あれは兄ぐらいの超すごい退治人でなければ出せないのだと子供ながらに納得し、そして泣いた。

    今の自分もビームは撃てないが、簡単な念動力くらいなら使えるようになっている。
    もしかしたら、ビームまではいかなくて兄に近づけるかもしれない……!

    「ロナルドさん?あの、ロナルドさーん?」「おい、そこの五歳児戻ってこい」
    「うぁっ、なんだよ!?」
    思考の海に深く潜っていたロナルドはサンズとドラルクの呼びかけに急に意識を浮上させる。

    「なんだよも何も無いだろうが、必殺技って簡単に言うけど、君何するつもりなの?」
    「え?念動力使うんだろ?……こう、風をめっちゃ起こしたりとか、モノをめっちゃ投げるとか?」

    はぁーーーーとドラルクが深い深いため息をついた。
    「結局発想がシンプルな暴力じゃねえか五歳児!!」
    「うるせえ!!じゃあなんか例言ってみろよ!!応用つってもすぐに思いつかねえよ!!!」

    「まず最初に、君が念動力を使っていた時に起こしていた現象はなんだ?」
    「えっ、物が爆発してたけど……あ」
    「そう!あれも立派な爆発現象だったろう!?念動力の威力が高すぎて急激な圧力の過負荷により物を爆発させていた。以前は無差別に起こしていたが、今なら自分の狙った物や場所にも起こせるんじゃないのかい?」
    「確かに今のロナルドなら場所の指定くらいはできそうだな」
    「言われてみれば」
    爆発現象そのものが、自分が能力の制御が上手くできていない象徴だととらえていたので、そういう考え方は目から鱗だった。

  • 69二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:30:33

    「あとはそうだな、物が動かせてかつ爆発させると言う事は、さらに丁寧に能力を制御していけば分子レベルで制御できる可能性だってあるんじゃないか?そうすれば温度変化だって思うがままだ。極端に動かせば灼熱地獄に、極端に止めれば極寒の大地にだってできるかもしれないぞ」
    「そこまで行くと科学の知識必要じゃないか?」
    「だがやってみる価値はあるだろうが。君特殊攻撃欲しいんだろ?」「そうだけど、頭こんがらがりそうだな……」

    「知識集めなら不肖ながらこのサンズちゃんもお手伝いしますよ!」「私も手伝うぞ」「ヌン!」
    「が、頑張ってみる」
    ここまで皆に背中を押されてはしり込みしてばかりもいられまい。
    「なら、具体的に再現したい現象を考えて……うん?」
    ドラルクがロナルドのスマホの様子に気が付く。

    「ロナルド君、さっきからスマホ何度も光ってるけど見なくて大丈夫なの?」
    「まじか?ちょっとま」


    『原稿の進捗 いかがでしょうか?』

    ロナルドは一度つけたスマホの液晶をすぐに消した。
    見られている。

    それぐらいできる人なのは分かっていただろうが。
    こわい、見られている。

    「ロナルド?どうしたんだ」
    「冷や汗かいてますよ!大丈夫ですか?」「ヌヌヌヌヌン?」

    ロナルドはたっぷり逡巡したあと、皆に向けてこう言った。

    「ごめん、俺、原稿するね……?」

  • 70二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:31:07

    その後死んだ目でタブレットに向き合い始めたロナルドを吸対に置いて、ドラルク、ジョン、ヒナイチは近くのコンビニまで買い出しに来ていた。
    「ロナルド君、かなり切羽詰まった顔してたけどあの原稿そんなにやばい代物なの?」
    「締め切りに関しては大体いつもの事だから気にしないでくれ」
    ヒナイチはお気に入りのお菓子を選びながら言った。慣れた様子である。

    「まあいっか。ジョンは何にする?」「ヌヌヌ!」
    「アイスか。食べ過ぎないようね」「ヌン!」

    二人と一匹がそこそこに清算をしようとすると、軽薄そうな男に声をかけられる。

    「こんばんはー!ドラルクさんたちじゃないッスか!」
    「武々夫君。ヴァミマじゃないコンビニで会うなんて珍しい」

    駅前のヴァミマでフリーターをしている武々夫だった。

    「大体いつもは俺が店員っスからね。ところでなんかください」
    「開幕物乞いは止めとけっていつも言ってるだろうがほれ飴」「ウェーイ!!」
    「だが物は与えるんだなドラルク……」「ヌン」

    飴に喜ぶ武々夫を眺めていると、ドラルクは武々夫のもつ荷物の違和感に気が付く。
    「あれ、珍しいもの買ってるね」
    「そうなんスよ、聞いてくださいよドラルクさん!!」
    武々夫はテンション高めに喋りはじめ、そして自分の手荷物をドラルクに見せびらかす。


    「最近俺、犬飼い始めたんスよ!!」
    そこには、一袋のドッグフードが入っていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 71二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 07:12:44

    更新お疲れ様です
    犬…、一瞬サテツ君かと思ったけどさすがに違うか…

  • 72二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 07:33:01

    更新お疲れ様でした
    武々夫はさては四足動物は全部犬だと思ってる人…?
    これからシンヨコを蹂躙してやろうという時に畏怖のかけらもなさいそうなやつに拾われてしまった犬(仮)の運命や如何に

  • 73二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 13:33:40

    乙です!
    四つ足の狼…オールラウンダーの得意な変身…?そういえば奥様からも犬扱いされてましたね…。
    必殺技にワクワクするロナルドかわいい!って…そうでした…締め切り3日前でした…。
    武武夫のバカッ…!それ下手に持ち帰ったら大惨事になる奴…!あ、でもバカのバカな雰囲気に封殺される可能性もあるのか?
    続き楽しみにしてます!

  • 74二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 23:52:40

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 00:32:23

    「へえ、どんな犬なんだい?」
    武々夫が生き物と一緒に生活をしているという様子が何となくピンと来ないドラルクは、単純に興味から質問をする。
    「黒くてデカい犬っスよ」
    「犬種は?」
    「さあ」「さあって」

    「なんか黒くてデカいなーくらいしかわかんなくて」
    「写真とか撮ってないの?」
    「じっとしてないからうまく写んないんスよね」
    「せわしない子なのかな」
    「うーーん?せわしない、というか元気っスね!俺にスゲーじゃれついてくるし」
    武々夫はニカっと笑う。随分と可愛がっているようだ。

    「そうか。じゃあ今度是非私たちにも紹介してくれ」「ヌー!」
    「人見知りだからドラルクさんの前に出ますかねえ~~?」
    「なんだと、この森羅万象あまねく生物に愛されているドラルクさんだぞ!?どんな生き物であろうとメロメロにして見せるわ!!」
    ドラルクがいつもの軽口を叩いていると、ドラルクの腕で静かにジョンがドラルクの腕をぎゅっと掴む。

    「……ヌヌヌヌヌヌ?」「ジョン、いや違うんだ。これはあくまでも私があらゆる存在に愛されているという自負であって、一番はもちろんジョンに決まっているじゃないか~~!」
    「ヒュー!ジョン君から黒いオーラ出てる~!」

    「ドラルク、もう少しかかりそうか?そろそろ会計するんだが」
    「おっと、ヒナイチくん。ちょっとまってね。じゃあ、そろそろ私たち行くから、武々夫くん。今度見せてね」
    「ウィーッス」

  • 76二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 00:33:37

    武々夫はコンビニから出ていくドラルク達を見送ると、自分も袋を持って口笛を吹きながら帰路についていく。
    「さって、これ食べるかな~?」

    何せ食わず嫌いの多い犬である、素直に食べてくれるといいのだが。

    武々夫が勤務先のヴァミマ近くの公園によると、適当な低木と木立の集まりに向けて声をかける。

    「おーーい、犬ーー」
    ガサガサガサ、という葉擦れの音とともに、それはのっそりと武々夫の元に歩いてくる。

    「なんだそこにいたのか犬」

    武々夫はさっそく買ってきたドッグフードを紙皿に盛ると、犬?の前に置く。

    「ほら、お前の飯買ってきたぞ。食え食え」




    翌日の夜。

    今日もドラルクとジョンはコンビニに買い出しに来る。
    本日のお供は半田サギョウコンビである。

    ロナルドは相変わらずタブレットの前で唸りながらフリーズをしており、ヒナイチはサンズに連れられて武器の見立てに行くとのことだった。
    二人が来れないと言う事で急遽の代打護衛がたまたまコンビニに用事があったこの二人だった。

  • 77二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 00:34:32

    「今日の夜食どうしようかなあ。コンビニ弁当続くと飽きてくるんですよね」
    「だからって連続カップ麺もつらくない?私だったら普通に体壊すんだけど」
    「フハハハハハたまには自炊くらいしろヴァカめ!!!」
    「それが出来たら苦労しません。二人の料理スキル三分の一で良いから分けてくださいよー!」

    三人がそんな風に会話をしていると、今日も今日とて軽薄そうな男がコンビニに入ってくる。

    「あっ、ドラルクさんじゃないっスか。チーッス」
    「おや昨日ぶりだね武々夫君……、手、ケガした?」
    ドラルクはすぐに武々夫の手にまかれた包帯に気が付く。
    手の甲がグルグル巻きだが大丈夫だろうか?

    「ああ、これっスか?ちょっと犬にじゃれつかれたんスよ」
    武々夫はとくになんともない様子で答えた。
    「大丈夫なのかい?傷跡的に大型犬なのかな」
    「そっスね!それくらいデカいかもっス。いやー、昨日餌あげたらじゃれつかれて噛まれちまって、血も出たんですけど、綺麗に舐めてくれたんで全然大丈夫っスよ!多分事故っス」
    「犬の噛み癖は気をつけなよ。結構大けがになったりするし。そういえばドッグフードは食べてくれたのかい?」
    「それが全然食べない!」
    武々夫が即答する。

    「アイツぜってーグルメっスよ。食へのこだわりジョン君並みに深そうだし」「ヌン!?」
    「ジョンは美味しければジャンキーなのも好きだよ。しかしそれは困ったねえ」
    「このまんま飢え死にされるのも困るっスよーー」
    「なら、フードを手作りするとかは?結構簡単にできるよ」
    「調理!?犬の癖に調理要求するんスか!?……ドラルクさん」
    「なんだね」
    ドラルクは面倒な事が起こる予感を感じた。

    「俺の為に犬の餌作ってくださ」「絶対ヤダ」
    「いいじゃないっスか!!可愛い犬の為に三肌くらい脱いでくださいよ!!」

  • 78二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 00:35:12

    「三肌も脱いだら私が骸骨になるわ!!私はもうすでにジョン以外に世話してるのが二匹いるんだよこれ以上キャパオーバー!!」
    「すでに二匹養ってるなら一匹増えたくらい誤差だと思いません?」
    武々夫が名案と言わんばかりンいパチンと指を鳴らす。
    「ガバの計算式を勝手に採用するな!自分で飼い始めるの決めたんならちゃんと自分で全部の面倒見きりなさい」
    「チェーー」
    武々夫が盛大にぶー垂れる。

    「あとはそうだな、動物にとって居心地のいい空間を作るってのもありじゃない?」
    「空間っスか?」
    「そう。動物なら、警戒心を解いて食事に専念できる場所ってのは結構大事だよ」

    「場所かあ」

    その日はそれでドラルクとは別れた。
    武々夫はドラルクからもらったヒントを元に頭の中でふわっと考えていく。

  • 79二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 00:35:57

    「あっ、武々夫さんじゃないですか~。どうしたんですかこんなところで」
    武々夫が珍しく考え事をしていると、おっとりとしたおぼっちゃん喋りの象芋虫が穏やかに話しかけてくる。
    最近出没するようになった高等吸血鬼、変な動物であった。

    「それがさー、最近犬飼い始めたんだけどかくかくしかじかで飯くわねえんだよ」
    「それは困りましたねえ。でも居心地のいい場所ってのは私もわかります。秘蔵のバブみを感じるエロ雑誌は親の目に触れぬ静かな場所でじっくり丹念に読みたいですもの」
    「それは俺も分かるな。居心地のいい場所……」

    犬?にとっての居心地のいい場所、それはつまり


    「よし、犬小屋を作ろう」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 8022/07/03(日) 00:40:19

    遅くてすいません、めちゃくちゃ難産でした。もっとアホな事を思いつきたい。

  • 81二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 09:13:27

    更新お疲れ様でした
    犬?どう見ても吸血種じゃないですかやだー
    武々夫は馬鹿だしちょっとアレな奴だけど怪我されるとちょっとかわいそうですね…
    三肌脱いだら骸骨のドラドラちゃん好きです

  • 82二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 19:52:27

    完全にホラーの文脈なのに
    それでも武々夫なら・・・武々夫ならなんとかなる!と思ってしまう

  • 83二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 23:09:52

    さらに翌々日の夜。

    「今日のおやつは何がいいかい?ジョン」「ヌーン」
    ジョンは悩ましげに唸りながらコンビニの棚を見ると、ぽんと拳を叩いてドラルクに物品を渡してくる。

    「なんだ、バナナか」「ヌヌヌーヌヌヌヌ!」
    「ほう、蒸しケーキを作ってほしいんだね?じゃあホットケーキミックスもついでに買っておこうか」「ヌッヌー!」
    ジョンが嬉しそうに両手を上げる。
    「今日のおやつは手作りかドラルク?私はクッキーがいい!」
    「ヒナイチ君。作っても即席簡単な奴だからいつもと味違うけど、それでもいい?」「大丈夫だ!問題ない!」
    「んじゃ、トッピング用にチョコも少し買っとくか。どうせゴリラも食うだろ」「やったー!!」「ヌー!」
    ドラルクが一人と一匹が嬉しそうにはしゃいでいるのを眺めていると、今日も今日とてあの愉快な茶髪の青年がいることに気が付いた。

    「武々夫君、最近よく会うね」
    「ドラルクさん」
    今日の武々夫は何やら大荷物を一杯持っている。
    木材やら、ゴムハンマーやら、明らかに何かを作りそうな道具の数々だ。

    「なんだ、DIYでもするのかい?」
    「そうなんスよ!ほらドラルクさん言ってたじゃないっスか。場所が大事だって」
    「ああ、新しく飼ったっていう犬の事か。やっぱりフードは食べてくれなかったの?」
    「全然ダメっスね。見向きもしなくて。だから、安心できる場所を作るために犬小屋を作るんスよ」
    「なるほど。犬、喜んでくれると良いね」
    「飯食ってくれたら万々歳なんスけどねー」

    その日のドラルクと武々夫の会話はその後二言三言の日常会話でつつがなく終わり、その後武々夫は張り切りながら帰っていった。

    問題は翌日である。

  • 84二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 23:13:05

    「はぁぁあ……、良かった、終わった……」
    元事務所のビルからふらふらと出てきたのは、三日ぶりの自由に喜び震えていたのはロナルドであった。

    急な締め切りにも負けず、たまにスマホとツィッターに逃げてフクマさんにもれなく筒抜けになり、チョコバナナ蒸しケーキとコーヒーでなんとかしのいだ地獄の三日間が終わった。ちなみチョコバナナクッキーは吸対のクッキーモンスターに食べられた。許してない。
    そして今は原稿をフクマさんに渡してきたその帰り道だった。

    流石にフクマさんとの邂逅はドラルクに見られるわけにはいかないので今日のロナルドは単独行動である。
    (今日ぐらいはどっか寄ってもいいよな!)
    最後の方は案の定の缶詰状態だったので、今日のロナルドは少しハイ気味だ。
    誰かと遊びたい、会いたい欲が唐突に沸いてくる。
    (サテツかショット……でも今仕事中かな)
    ロナルドがスマホ片手に懊悩していると、軽薄そうな声から話しかけられた。

    「あっ、吸対のめちゃ強吸血鬼!!」
    「なんだいきなり!……って、武々夫じゃん」
    ロナルドが振り向くと、やけに大荷物を持ち、ドラルクと会話をした時より包帯の数が増えている武々夫がいた。

    「? なんで俺の名前知ってるんスか」
    「あーー、……ドラ公から話聞いてたんだよ。最近連続で会うって」
    「へーー」「それよりどうしたんだ、その包帯」
    「これっスか?いや最近俺犬飼い始めたんすよ」「そういえばそんなこと言ってたな」

    「んで、犬の為に犬小屋作ってやったんです」「優しいじゃねえか、喜んでくれたのか?犬」
    「ハイ!喜びすぎて大暴れして作った犬小屋壊して俺にじゃれついて来たんスよ!」
    「ちょっと待ってそれは本当にじゃれついてたのか???」

    武々夫はロナルドの疑問に軽快に答える。
    「じゃれついてたっスよ!だって尻尾めっちゃ振ってたし」
    「犬は怒ってても尻尾振るんだぞ……?」

  • 85二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 23:14:28

    「でも怪我して血がでたらめっちゃ舐めてくれるっスよ!」
    「……なあ、その犬、俺も会ってみたいな」
    武々夫の言いざまに困惑していたロナルドはスッと表情を切り替えて武々夫に提案をする。

    「良いですけど、めちゃくちゃ人見知りっスよ?えーと」
    「ロナルドだよ」「ロナルドさんの前に出てくるかわかんないし」
    「それでも良いよ、俺もその犬のところに連れてってくれ」
    「んー?あと、俺これから犬のとこでやる事あるんスけど、それでも良いっスか?」
    「俺から言いはじめたことだし全然良いよ。むしろ悪いくらいだし。何やるんだ?」

    「それはもちろん」

    「今度は壊れない丈夫な新しい犬小屋を作るんですよ!」
    武々夫は大荷物をポンポンと叩いた。





    「それで、犬はどこにいるんだ?」
    武々夫に連れられてきた公園近くの空き地には、昨日武々夫が作ったと思わしき犬小屋の残骸が残っている。

    (すげえ壊れ方。……、やっぱ犬じゃねえよな。この威力は)
    「犬ならあの残骸の中から全然出てこないんスよ」
    「えっ!?あの中にいるの!?」
    流石にそれはちょっと予想外だった。

    「喜びすぎて壊したって言ったじゃないですか~!なんスか!?疑ってたんスか!?」
    「そうじゃねえけどさ!いや、まさか壊れた家にずっと居座ってるってのは流石にびっくりした」

  • 86二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 23:15:00

    「だから次の犬小屋困ってるんスよね~。新しい方使わねえかもしれないし」
    「あー、気に入るかどうかは作らねえと分かんねえもんな」
    「だから俺、秘策を考えてきたんスよ」「秘策?」
    ロナルドが疑問符を浮かべていると、背後の方からおっとりとした声に呼びかけられた。

    「あれ~?ロナルドさんじゃないですか~!」
    「へんな!?」

    ロナルドが後ろを振り向くと、そこにはおなじみのピンクの象芋虫がいた。
    「二人知り合いだったんスか?」
    「それはこっちのセリフだよ。へんなはなんでここに?」
    「私は武々夫さんに手伝ってほしいって言われたんで来ただけですよ」
    「手伝い?犬小屋作るのに?」

    ロナルドは予想外のへんなに驚きつつも武々夫の方を見る。
    武々夫は不敵な、大体ろくでもない事を考えている時の笑みで言った。

    「俺は考えたんスよ、ロナルドさん」
    こういう時の武々夫の言いざまは大体ろくでもない事を考えている時だとロナルドは経験則から理解しているが話を促す。
    「何を考えたんだ?」

    「ロナルドさんはバー〇パパって知ってますか?」「は?」

    「〇ーバパパ?あのピンクの若干へんなにも見えなくないスライムっぽいあれのことか?」
    「そうっス。俺は昔、バーバ〇パの絵本を読んだことをあるんスけど、バーバパパが自分の住む家を探す絵本があるんです」
    「もう伏字めんどくさくてやめちゃってるじゃねえか、で、その絵本が……?」

    「バーバパパは家を探すんですけど、しっくりくる家がなかなか見つからなくて最終的に自分で家を作り始めたんです。その時の方法が……」

  • 87二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 23:15:44

    「自分の自由自在に形を変えられる体で、家の型を作り、周りをコンクリっぽいので固めて家を作ったんス」
    「まってくれ、お前がやらんとしてることが何となく分かった。バカじゃねえの?」

    武々夫はロナルドのバカ発言にさして気にした様子もなく大荷物からどさどさっとコンクリートを作るための砂を取り出す。
    そして、さらに武々夫は自分のハンマースペースからある一品を取り出した。

    「ぶ、武々夫さん!それは!!」
    へんなが興奮気味に形を変えていく。
    武々夫が取り出したのはエッチな雑誌、アッハンパラディーゾである。しかもニューリンモンロー特集回。

    「俺、思ったんスよ。丈夫な犬小屋を作ってやりたい。そしてできれば、犬に喜んで移住してもらいたいって」

    「俺だったらどんな物に喜んでつられるか、一生懸命考えたんス」「まさかお前」

    「そう、俺がつられるのは、エッチなお姉さん!!!」
    武々夫は雑誌を握り締めて力説する。

    「この数々のエッチな本を元に、エッチな形をした丈夫な犬小屋を作るんスよ!!!」


    「バカじゃねえの?」
    ロナルド、心の底からのシンプルな罵倒である


    ヌヌヌ(つづく)

  • 88二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 08:05:11

    バカすぎる発想だ……

  • 89二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 10:11:28

    バカ…! いい感じにバカ…!!

  • 90二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 20:50:06

    さすが武々夫さん

  • 91二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 21:20:55

    いまでこそポンチギャグでバカやってるが、ここからシリアスに突き落とすのがこのSSなのでいつ地獄になるかヒヤヒヤしてる(誉め言葉)

  • 92二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 00:00:39

    「さあ!さっそくエッチな女体……犬小屋を作るっスよロナルドさん!!」
    「今女体って言ったな?」
    「女体が最終的に犬小屋になるから間違ってないっスよ」「目的と手段が逆転してるじゃねえか」

    武々夫はロナルドのツッコミなど意に介さず、さっそくへんなにエッチでおっぱいなお姉さんのグラビアを見せつけていく。
    「パヴォオオオオオ」
    へんなは歓喜のおたけびとともにみるみるうちに体を変容していく。

    しかし

    「整いましたー!」
    嬉々として変身したへんなは、おっぱいお姉さんにはなれなかった。
    いたのは、ふくよかな体つきとたくましい雄っぱい、控えめに言って肥満男性の巨体である。

    「「なんで!?」」
    武々夫とロナルドは叫んだ。

    「分かりません、おっぱいで興奮したら何故か男性の雄っぱいに……」
    「お前これ前にやった理想のエッチなお姉さんを作ろうとした時の名残の原出くん変身じゃねえか戻れ戻れ!!」
    「あー!なるほどあの時の!!」
    へんなはロナルドに萎える写真を見せられにゅるにゅると元のへんなに戻っていく。

    「まったくひどいものを見せられた……、つーかなんすか理想のエッチなお姉さんて」
    「その話はこじれるからまた今度な!それよりへんなの変身を直さないと」
    「それなんですけどロナルドさん」「なんだ?」

    「理想のエッチなお姉さんを作れなかった私たちにおっぱいなお姉さんは創造できないのでは?」
    「」

    「そうだった、俺達は前提条件から間違っていたのかもしれない」

  • 93二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 00:01:03

    「だからってあきらめるんですか!?おっぱいなお姉さんを作り上げる努力を!!」
    「私だって諦めたくありません!まだまだやりましょう!ロナルドさん!!武々夫さん!!」
    「二人とも……!」

    『ヴォ@[:uウ!!!』

    ロナルドが声のする方向を振り返ると、壊れてしまった旧犬小屋から犬の鳴き声らしきものが聞こえた。こころなしか怒っているように聞こえる。

    「……いや、ダメだわ。なんでおっぱいなお姉さん作る方向に思考がいっちゃったんだ、犬小屋!俺達が作るのは犬小屋!!」
    正気を保つためにロナルドはパンパンと自分の頬を叩く。武々夫とへんなのペースに流されてはいけない。

    「よし、考え方を変えようぜ二人とも。俺達が作るのはあくまで犬小屋!へんなのエッチなお姉さんの完成度は関係ない!外壁に使うのはコンクリなんだろ?」
    「シンヨコハマコンクリで骨組み無くても丈夫で壊れづらい奴っスよ」
    「なら、外側がエッチなお姉さんぽく見えればいいんだ。へんなに本当におっぱいお姉さんに変身させるんじゃなくて、ボール二つでおっぱいに見せかけるとか……」
    「やってみましょう!」
    へんなは変身が暴走した時の要領でボールを胸部分に生やす。だが、ボールはボールでもラグビーボールである。

    「おっぱいがロケット型っぽくなっちゃった」「くびれを作れば何とかそれっぽくならねえか?」
    「なんかエッチな感じのポーズとれへんな」「立った状態でポーズとると犬小屋には向かねえから寝ろ」

    そうしてあれやこれやと思い思いのエッチなお姉さんっぽいシルエットが生まれていく。
    「コンクリ流すぞー!!」
    「バッチこいです武々夫さん!!」

    へんなによって形づくられたお姉さんシルエットがコンクリートで現実の物へと変化していく。
    コンクリは安心安全なシンヨコハマコンクリなので20分くらいで固まり切った。
    中身のへんなが体をうまくほぐしてキュぽんと外殻から外れる。まるでサザエの殻から中身を取り出すような気持ちよさがあった。
    出入口を削りながら成型すれば、目的の犬小屋の完成である。

  • 94二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 00:02:40

    「やったぜ完成だーー!!」「だけど」

    「「エッチじゃねえエエエエ!!!」」
    ロナルドと武々夫は出来上がった犬小屋の完成度に嘆く。
    エッチなお姉さんとは明らかにかけ離れているのだ。
    何か、何かが違う!おっぱいもうなじもセクシーなポーズもしているのにできたのは控えめに言ってハニワである。
    新横浜に前方後円墳があればこのセクシーっぽいハニワが王の墓の一調度品として置かれたことであろう。

    「なんでエッチにならないんだ……」
    「うーん見れば見るほどハニワっスね」
    「やはり、私たちには嗜好のエッチを作る事は不可能なのでは……」
    絶望に打ちひしがれる三人。だが、そこに一筋の希望の光が差し込んだ。


    「諦めるのはまだ早いぞ、お前たち」
    ロナルドは聞き覚えのある声に顔を上げる。

    「こ、この声は……ショット!!!」
    「どうしてあなたがこちらに!」
    「さっきからずっと登場タイミング図ってたんスか?」
    私服姿のショットはひらりと三人の前に降り立つ。

    「ふ、俺がここに来たのは頼まれただけさ。エッチに迷う若人たちに光を……ってな」
    「誰に頼まれたんだよ」
    だがショットはロナルドのツッコミを無視して話を進める。

    「お前たちに足りないのは俺には分かるぜ、それは……エッチに対する心、ハートだ!」
    「それはどういう事なんですかショットさん!」
    「いいか、お前たちが今作ってるのは形ばかりのエッチ、いわばエッチの哲学的ゾンビって奴だ」
    「ごめんちょっとついてこれなくなってる」

  • 95二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 00:03:09

    「エッチのゾンビってどういうことっスか?」
    「哲学的ゾンビだバカ。要するに形ばかり整えて心がこもってないって事だよ(※本来の意味とは異なります)」
    「心……?」

    「じゃあ聞くが、お前たちはどんな時におっぱいにエッチを感じる?」

    「……え、触ったら、やわらかそうとか?」
    ロナルドがこわごわと答える。
    「おっぱいはデカければデカいほど正義。揺れるのも正義」
    「おっぱいそれそのものはもちろん最高なんですけど、バブみを感じるというかシチュエーションにスパイスを与えてくれるとか多角的な楽しみ方があると思うんですよね」

    「お前たちの言い分はよーくわかった。おっぱい一つとっても各々のこだわりがこれだけ違う!ただボール二つあればおっぱいになるわけじゃないんだ!!パーツ一つとってもそれだけの熱量があるのに、体全体でエッチなお姉さんを作ろうとしているからこだわりと情熱が分散してぼんやりとしたエッチが出来てしまうのだ!!」

    「な、なるほど……?分かったような分かんないような」
    「では、どうすれば私たちは心を込めてエッチを作れるっていうんですかショットさん!!」
    「まずは一つにこだわりぬくんだ」
    ショットは静かに言った。


    「おっぱいを、極めようぜ……!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 96122/07/05(火) 00:06:20

    今回エッチとおっぱいを書きすぎてゲシュタルト崩壊しそうになりました。

  • 97二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 00:11:55

    更新お疲れ様です
    ラグビーボールが生えてきて最終的に埴輪になったあたりで笑っちゃってダメでした おっぱいは奥深いですから仕方ないですね

  • 98二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 11:10:54

    真面目にえっちなお姉さん創造しようとして埴輪になるの面白すぎる。いや犬小屋作れよ犬なのか分からないけど
    続き楽しみにしてます

  • 99二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 13:12:54

    誰かツッコミを……! どんどん迷走していく状況にツッコミを……!! ドラ公でも誰でもいいから……!!!
    犬小屋作ってたはずなのに何がどうなっておっぱいを極める方向に……

  • 100二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 23:25:12

    おっぱいを極める。

    それはかつての男たちが失敗した命題に近しいものであった。
    この世界におけるショットと武々夫は知る由もないが、様々な試行錯誤で確かに再現しようとしたのである。

    それに、今、再び挑戦する。

    「で、具体的にはどうするんだショット!」
    「ふ、それはだな、ロナルド。こいつ(へんな)にささやいてやるのさ……、理想のおっぱいシチュエーションを」
    「なるほど分かんねえ!」「ようするに妄想喋るだけじゃん!!」
    ロナルドと武々夫は一蹴した。

    「まて、もっと詳しく話を聞いてくれ」
    「ショット、俺達はただでさえ迷走してるんだぞ?そのうえシチュエーションとかっていう具体性もない妄想100%の代物とか言いはじめたらハニワどころか今度は悲壮感の無いゲルニカ(※ピカソの名画)が爆誕したっておかしくないんだぞ?」
    「そうだ俺達には確かに具体性はない!!だが、おっぱいに対する心意気はあるはずだ!!」

    「目を閉じればいつだって見える筈なんだ、心の中の理想のおっぱいが」
    ショットは拳を握り締める。

    「理想のおっぱいは現実にはない。だからこそ、俺達が抱えるおっぱいのイデアを、理想形を!へんなにささやくことでへんなが感じるままに理想のおっぱいを顕現させるんだ!!!」
    「なるほど!!つまり私を妄想3Dプリンターにみたてシチュエーションを聞くことによって理想のおっぱいを出力させるんですね!!」
    「お前、自分の事3Dプリンターって言ってて悲しくないの?」
    「理想のおっぱいが完成するのであれば私はどうなっても構いません」
    「もうちょっとシリアスな時とかに言えなかったのかそのセリフ」

    「全員理屈は分かったな!?それじゃあさっそく理想のおっぱいシチュエーションをへんなにささやいていくぞ!」
    「本当にやるの……?」「やるのは決定事項なんスね」
    「みなさん何を迷っているのですか!!さあ!私に思う存分エッチなシチュエーションをささやいてください!!私は何時でも待っています!!!」
    「オメーはただY談が聞きたいだけじゃねえか」

  • 101二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 23:25:59

    だが、躊躇ってもいられない。
    バカ3人は思い思いのエッチシチュエーションを話していく。時にはロマンチックに、時にはでっかく、時には肉々しく……!

    「と、言う感じなんだ」
    「……」
    「へんな?どうしたんだ?」

    そして全てを語り終えた後、へんなは黙ってしまった。
    いつもならばエッチな話で大興奮して変身が暴走しているというのに。

    「ダメです、皆さん」
    へんなが珍しく弱弱しくしょぼくれている。
    「どうしたんだ、どっか具合でも悪いのか?」
    「違うんです、ロナルドさん。皆さんのシチュエーションおっぱいは大変すばらしいモノでした。録音して何度でも聞きたいほど。でも、ダメなんです」


    「あと一押しの具体性が足りない……!」

    「……どういうことだ」
    「ですから具体性です。つまり、今聞いたシチュエーションはどれも童貞の考える夢見るおっぱいで、ほんの少しの現実感、甘さを際立たせるためにスイカにかける塩のようなアクセントが足りないんです!!」
    「殴っていい?」

    「なんだって!?俺は必死に具体性を考えながら理想のおっぱいシチュエーションを考えたぞへんな!!」
    「ぶっちゃけショットさんのが一番ダメです!!おっぱいシチュエーションと銘打ちながらにじみ出るムダ毛への情熱が隠し切れない隠し味となってとにかくノイズなんです。例えるならばパクチーですよパクチー!!」

    「なら俺のは!?俺のおっぱい妄想力は大分具体的だった筈っスよ!!」
    「ええ。武々夫さんのは三人の中で一番いい線言ってました。ですが男に都合が良すぎるせいで聞き心地がジャンキーなんですよ!もちろん私だって男に都合のいいシチュエーションは大好物ですが武々夫さんのはちょっと都合が良すぎて女の子に生き生きとした活力が感じられない!そして気を抜くと現実の女子との会話バリエーションが足りないせいか、徐々に言動に店長が混ざってきておっさん化してくるんです」
    「やめろーーーー!!!親父を混ぜるなやめろーーーーー!!!」

  • 102二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 23:27:02

    「そしてロナルドさんですが……」
    「いいよ品評いらないやめて」

    「例えるならば、青春の風を感じる学園エロゲ」「やめて」
    「エロを抜いたら少女漫画でも通じると思います。でも私的にはこう……パンチ足りないんですよね!実用性にちょっと欠けます!!そしてストーリーが面白くてエロシーン入ってもエロが邪魔に思えてしまうあの現象を感じます。作家としての力量は感じますがエロシチュエーションとしては落第点です」
    「喜んでいいのか嘆いていいのか分かんねえんだよやめて」

    「というわけで、理想のおっぱいを具現化させるには力が足りなかったです」
    へんなの言葉の後には三者三様に崩れ落ちりバカどもが残されていた。

    「くそう、俺達じゃ、理想のおっぱいは作れないっていうのか……?」
    「なにアホなこと言ってるの?」

    嘆くロナルド達に、聞きなじみのある貧弱な声が投げかけられた。




    「ド、ドラルク!?いつのまにここに!?」
    声のする方向を見るとジョンを抱えて呆れ切った顔をしたドラルクがいた。後ろには当然のようにヒナイチが控えている。

    「メッセージにも返事しないし、全然帰ってこないでパトロールがてら探してたんだよ。ちょうど市民からの情報もあったしね」
    「情報?」
    「へんな吸血鬼と男どもが集団で集まってて気になるから見回ってくれって」
    「市民の方すいませんでした」「んで、何やってたの」
    「えーと、それが」

    ロナルドが今までの経緯をかいつまんでドラルク達に説明する。
    「なるほど、事情は大体わかった。バカだろ」「ロナルド、すまないが私もフォローできない。バカの行動だこれは」
    「ウェエエエエエン!!分かってたよ!!途中から流されちゃった辺りからどうにもできなかったんだよ!!」

  • 103二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 23:27:47

    「ドラルクさんもおっぱいシチュエーション喋ってくださいよ~!犬の為だと思って」
    ダメージから回復した武々夫が気楽にドラルクに迫ってくる。
    「嫌だよ私うなじ派だし。喋ってもショットさんの二の舞だよ?というか犬小屋の事忘れてなかったんだね」
    「もちろんっスよ!犬に喜んでもらう為に全力でやってるんですから!!」
    「その努力もっと別の事に使いなよ。でもまあ、私は喋れないけど喋れる助っ人ならアテがあるよ」
    「喋れる助っ人?」
    「ああ、具体性が必要なんだろう?」

    ドラルクがスマホを取り出してニヤッと笑い、どこかに電話をかけ始めた。



    「というわけで、頼れる助っ人のギルドマスターとヒヨシ君でーーす!!」「なんで!!」
    ドラルクがドンドンパフパフと辺りをにぎやかす効果音を鳴らす。一方のロナルドはゲストの選出に憤っていた。

    「こんなバカみたいな事になんで兄……レッドバレットさんとギルドマスターをわざわざ呼んだんだよ!!」
    「こんなバカみたいな事をとっとと終わらせる為じゃ」
    ドラルクは力説する。

    「いいか、しょせん童貞の妄想はどこまで言っても童貞の妄想なんだ。無いモノをバカの文殊の知恵で必死にディティール整えたところでどこかほころびは出る。それならいっそ経験者に語ってもらった方が絶対早い」
    「うっ……、正直百里ある。でもマスターは分かるけどなんで兄貴も呼んだんだよ!兄貴は女の子に手を出してない筈だ!」
    「へーーーー」

    ドラルクはヒヨシをじとーっとした目で見つめる。ヒヨシはさっと目を逸らした。
    「ドラルク、これはだな、その」「クソ映画10本」「……分かったそれで手を打ってやる」

    「なんだよ二人してアイコンタクトして」
    「いや、私とヒヨシ君に有意義な取引があっただけさ」「?」
    「ドラルクさん、それでは私たちは喋りはじめてしまっていいですかね?」
    「ああ、よろしくお願いするよ。マスター」

  • 104二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 23:28:23

    「なんだよ二人してアイコンタクトして」
    「いや、私とヒヨシ君に有意義な取引があっただけさ」「?」
    「ドラルクさん、それでは私たちは喋りはじめてしまっていいですかね?」
    「ああ、よろしくお願いするよ。マスター、ヒヨシくん」

    「では」
    ヒヨシとマスターがへんなの両隣につく。

    「なんか、これからエッチな事が起こりそうでドキドキしますね」
    「喋ってる最中に変身しないでくださいよ?」「今から喋る事は口外するなよ!絶対!」
    マスターとヒヨシがそれぞれの注意事項を言うと、さっそくへんなにささやき始める。

    変化はすぐに起こった。

    「えっ、そんな、……はい、はい。……ダメです、それ以上はエッチすぎます!あ、あああああ、エッッッッッ!!!!エッチが、エッチが私に襲い掛かってくる!!!あああぁぁああああああああ!!!!」

    「へ、へんなの体が!」「小刻みに震えはじめた!?大丈夫なのかアイツ」

    二人が語り終える前にキャパを超えてしまったらしいへんなはブルブルと振動のように体を震わす。

    そして、身体の内側から光の筋がこぼれだし、へんなを中心とした強烈な光の爆弾が炸裂した。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 105二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 09:35:08

    そんなー、レッドバレットは硬派でハードボイルドで女性からの誘いはみんな断ってたはずじゃなかったのかー(棒読み)

  • 106二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 10:08:15

    経験者の具体的なY談を流し込まれてへんなはどうなってしまうのか…
    個人的にはY談評論がそれっぽくてツボです

  • 107二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 21:06:37

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 23:21:03

    へんなから光の奔流があふれ出してくる。
    そしてへんなの本体が一気に膨張し始めた。

    「な、なにが起きようとしているんだ!」
    「へんな君の体が一気に膨張していく!!光の巨人か!?」

    ビル3階ほどの大きさに膨れ上がったへんなはうごうごと形を変えていく。
    その光のシルエットはどういう形をしているのかまるで分からない。だが見ているだけでむせかえるようなエッチを感じてしまう。

    「なんなんだあれ、見てるだけですげえエッチ……!」
    「なぁーーに怯んどるんじゃ若造!!とっととアレをコンクリで固めんか!!当初の目的を忘れるな!」
    「俺がやるの!?」「こういう時に念動力を使わんで誰がやる!!その無駄にありあまった破壊力を存分に発揮しろ!!」

    「わ、わかった」
    ロナルドがためらいながらもシンヨコハマコンクリートをへんならしき光の巨体にかけていく。しかし、

    「いやこれダメじゃね!?」「ドラルク、コンクリートの量が足りない気がするんだが!」
    「犬小屋サイズだった筈なのにいきなりビル一本分とかコンクリの予算足りないっスよ」
    「くそ、せっかく理想的なエッチが体現できそうだっていうのに!」
    「ヒヨシ君ビル一本分のコンクリ用意できる彼女とか存在しない?」
    「俺の人脈を何だと思ってんだいるわけないだろ!!」

    一同が予定外のトラブルにわたわたしていると、とある小太りの男性が光るへんなを見て静かに涙を流した。

    新横浜有数の大富豪金久祖有蔵「美しい……!なんて神々しいシルエットなんだ。あれが顕現する為なら投資は惜しみません」指パチーン
    金久祖の鶴の一声で突然大量のコンクリートが運ばれてきた。

    「というわけでコンクリ不足はたった今解消された。思う存分やれ」
    「いいのかなあこれ!!いいのかなあ!?」「やらなきゃ終わらんぞさっさとやれ」
    ロナルドは今度こそ思う存分流体のコンクリートを動かす。

  • 109二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 23:22:07

    光の巨体はみるみるうちに灰色のコンクリートで覆われていく、しかし。

    (これ、結構難しいかもしれない)
    ロナルドがある程度自由に物を動かせるようになったのはつい最近である。
    単純な物体であれば自分が狙った場所に投げたり、置いたりすることはできるようになった……と思う。
    だが、今回の操るのは流体であり、型役になっているへんなも柔らかいので力を入れすぎるとすぐに変形してしまう。
    きっちりと繊細に力を入れていかないとせっかくのへんなの理想的エッチシルエットからかけ離れてしまうのだ。
    さらに難易度を叩きあげているのはこのエッチシルエットそのものである。
    ぶっちゃけるとめちゃくちゃに気が散るのだ。

    (ダメだ、エッチな事を考えるな、エッチな事を考えるな。エッチな事考えたらまたボガンってしてチュドンだ!!力加減間違えるな俺!!)
    アホらしいにも程がある思考だがロナルドは必死だった。ここで力加減を間違えるといままでの苦労が水の泡である。
    今のロナルドはさながら煩悩と戦う修行僧のような心持であった。

    「ロナルド君急がないと端からコンクリが固まってくよ」
    「焦らせるな!くそっ!こうなったら、……ジョン!!」「ヌン!?」
    「エッチな事を考えようとする俺の気を逸らしてくれ!」「ヌ、ヌン?」

    ジョンは焦りながらも必死にフラダンスを即席で踊る。
    「ヌ~イ、ヌ~イ……?」
    「よし!!」「一体何がよしなんだ」
    可愛さで大分正気が戻ったロナルドは一気にコンクリートの操作を畳みかける。
    時に繊細に時に大胆にかたどっていき、そしてそれは爆誕した。

    「こ、これは……!」
    「なんてエッチなんだ……!」

    それは形容し難いエッチであった。
    まさに理想的なエッチな姿。だが一概に女体とも言い難い。人によっては男性と見えるかもしれない、女性に、あるいはそもそも人にすら見えないかもしれない。
    だがそこにあるのはエッチなのだ。誰しもが心の中に抱える理想的なエッチ。いわばエッチのイデアそのものである。

  • 110二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 23:22:51

    「なんだこれ、ただ目の前の物を眺めているだけなのに心にエッチな思考が浮かんで止まらねえ!!」
    「チーンチンチンチンチンチンチーン!!!!」
    「いかん!!ヒナイチ君のY談許容量が完全にオーバーして言語機能がバグってしまっている!!」「ヌピー」

    「ダメだ!脳みそがエッチな思考で埋め尽くされる!!真面目な事考えようとしても全部エッチな発想に繋がる!!中学生男子並みに思考能力が低下する!!」
    ショットが頭を抱えながら呻いている。
    「世界中がおっぱいでボインで母音が拇印なんじゃないスかね」
    「武々夫に至っては完全に思考することを放棄してやがる」
    「俺達は一体何を作ってしまったんだ!」

    「まさか」「なんか分かったのかドラルク!」「チン!!」

    「へんなくんにありとあらゆる理想的なシチュエーションを吹き込んだ結果、エッチな念がこもった呪物が完成してしまったのではないか?いわばこれは特級呪物ならぬ特級Y物」
    「語感がYせつ物一歩手前じゃねえかもうちょっとどうにかならなかったのかその名前。っていうかなんだよ特級Y物って!!」
    「エッチな念がこもりすぎて見ているだけでエッチな事を考えてしまう、エッチな気分になってしまう結果的に人の思考を支配する恐るべき代物だ。はやく対処しなければ新横浜にさらなる変態があふれ出すぞ!!」
    「エッチに思考か染まるとか思考洗脳版Y談じゃねえか!!そしてこれ以上どんな変態が集まるっていうんだもうすでに変態は飽和してるぞ!?っていうかこれ犬小屋だろなんでそんな見る媚薬みたいな効果が産まれちゃったんだよ!!」
    「知るか、盛り上がってできちゃったもんは仕方ないだろ!それより対策を……」


    「犬!ほら犬!犬小屋できたぞ~!」
    武々夫はいつの間にか犬用ちゅ~〇を振り回しながら犬を外に出そうと手招きしていた。

  • 111二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 23:23:17

    「待て待て待て!こんなカオスな状況で引っ越しなんてさせるな」
    「だいたいこれ犬小屋として機能するのか!?デカすぎない!?」


    しかし、壊れた元犬小屋が、ガタリと動く。
    メキメキと瓦礫を壊していくと、大きな犬のシルエットをした黒いモヤが突然ぶわっと吹きこぼれ、現れた。

    「な!?」

    そして、例の特級Y物の犬小屋に向かって一目散に走っていた。
    中に犬がすっぽりと収まると、特級Y物全体に黒いモヤが虫の大群のようにたかっていく。

    Y物を全身くまなく黒いモヤで覆われると、ゆっくりと、巨大な手の部分がバキバキバキという石が砕ける音とともに動き始めた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 112二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 08:01:08

    特級Y物というパワーワード

  • 113二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 16:24:07

    エロを追求した結果犬?に新しい器を与えてしまったようですがエッチな犬?になるのだろうか…?
    あと金久祖さん本当にこういうの好きですね

  • 114二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:57:59

    「こ、これは……!」
    「犬小屋?が犬が入った途端動き出しただと!!」

    犬小屋?だったものがモヤとともに動き始める。
    それはまるで巨大な呪いの偶像、動くたびに黒いモヤを噴出させ、巨大な手足でゆっくりと立ち上がっていく。

    黒いモヤはおぞましい気配を漂わせ、見ているとゾッとするような寒気がしてくる。
    犬小屋?との相乗効果でさらに恐怖を煽るかと思われたが……。

    「なんだろうな、あれ」「こわ、い……?」
    「なんかこう、見てると」

    「「「怖さとエッチさが混ざって頭がバグってくる」」」
    「チン……」「おヌンヌン」

    そう、特級Y物は多少欠けようが壊れようが特級Y物なのだった。
    どれだけモヤがおぞましかろうが憑りついているのがY物では恐怖を十全に体現する前にエッチで怖さが紛れてしまうのだ。

    「そういえば俺、昔エッチな話をすると幽霊が逃げてくって話聞いたことある!」
    ロナルドがぽんと拳を置いて納得した。ドラルクも珍妙なY物を眺めながら冷静に分析をしていく。
    「例えるならばグラビアのお姉さんがエッチなポーズとりながら実話怪談を話しているような感じなんだろうか」
    「どっちに集中しようとしても気が散る事だけは分かるな」
    「企画もののAVでありそうなシチュエーションっスね」

    「お前らアホな事いっとらんでとっととアレを解体するぞ!」
    「さすがに市街地破壊に移行するなら見過ごせませんしねえ」
    ヒヨシとマスターがまともな提案をするが、武々夫が渋る。

    「えっ、でも犬めちゃくちゃ喜んで引っ越したっスよ!?壊す必要なくないっスか!?」
    「いや、あれは喜んでいるというよりも……」

  • 115二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:58:43

    恐怖とエッチの偶像は武々夫の方をぐらりと顔を向けると、口をゆっくりと開く。

    『キァァァァアアアアアアア!!!!』

    「怒ってるだろ」

    偶像は鋭い金属で黒板をひっかくような激しく不快感のある金きり声をあげている。
    そして、二本の巨碗を振り上げて武々夫目掛けてバチン!!と両手で虫を叩き潰すように柏手をした。

    退治人勢とロナルドとヒナイチがそれぞれ反応し、柏手からタイミングよく高く飛んでうまく両の手のひらから逃れる。
    だが偶像はひたすら武々夫に狙いを定め、柏手が駄目なら真上からの叩き潰し、それが駄目なら武々夫の本体を鷲掴みにしようと握り込みと、ダンッ!ダンッ!ダンッ!!という物々しい破壊音とともに追撃を止めない。

    「しつけえっ!」
    武々夫を掴んでそのすべての攻撃をかわしていたロナルドだが、あまりにも攻撃がしつこいので一度蹴りで偶像部分を破壊しようと試みるが、しかし。
    「いや、ダメだ、壊すなロナルド君!!」「おわっ!なんだ急に!?」

    ドラルクの制止でロナルドは足蹴りに急ブレーキを入れた。だが、このままでは本来であれば蹴りとともに壊れていた筈の手のひらがそのままロナルドと武々夫に直撃してしまう。
    ロナルドは武々夫を自分の後ろに隠し、被弾を覚悟した。

    バキュン!!

    だが手のひらによる衝撃は来なかった。何かの攻撃を受けたのか、手のひらが一瞬動きを鈍らせる。
    ロナルドはその一瞬の動きを起点に、念動力で相手の手の動きを固める。そして武々夫を抱えて一気に敵からの距離を離す。

    「大丈夫かロナルド!!」
    「こっちは大丈夫!助かったぜレッドバレット!!」

    偶像の動きが鈍った原因はレッドバレットによる手首への狙撃だった。
    ヒヨシは二人の無事を確認すると、また偶像に意識を集中させていた。

  • 116二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:59:26

    まだ、相手の戦意は失われてはいない。

    「おいドラ公!なんで攻撃止めたんだ!壊すなってどういうことだ」
    「あの外側のY物そのものが奴の弱体化アイテムだからだ!」「はあ!?」

    「さっきも言ったろ、怖さとエッチ、どちらにも集中できないと!つまり今あの偶像は拮抗状態にあるのだ!エッチの源であるY物を壊せば前回の病院よろしくあの黒いモヤが恐怖で暴れまわるぞ!」
    「つーことはあの黒いモヤだけ攻撃しろって言うのか!?無理ないか!?」「無理があろうとなかろうとどうにかするしかないだろう!」
    「ロナルドさん!また俺の事狙ってるんスけど!?」「クソッ!」

    ロナルドは武々夫の首をひっつかむと、手のひらが来るすんでのタイミングで武々夫を宙に投げた。

    「悪い武々夫!」「うぎゃあああああ!!!!」
    武々夫を宙に放り投げた後、手のひらの攻撃が当たる直前にロナルドは蝙蝠の群体と化して散らばり、手の隙間から逃げ出していく。
    そして武々夫を投げた方向に急上昇していき、また人型に戻って見事にキャッチした。

    「なんつー乱暴な事するんですかロナルドさん!!」
    「悪かったって!でもここまで髙ければそう簡単に攻撃は」

    届くのである。
    偶像は再び武々夫たちに視線をロックオンすると、腕を空に伸ばして、グッと力を入れると、黒いモヤが腕の第一関節から噴出、その勢いのまま腕がとれてロナルド達目掛けて飛んでいく。Y物ロケットパンチである。

    「ウソぉおおお!!!??」
    「来てるじゃないスかあああああ!!!」

    ロナルドは背中に羽を生やすと円を描く複雑な高速飛行でロケットパンチをかわそうとする。だがこのパンチ、

    「かわしてもついてくるんすけどぉオオオオ!!??」
    どこまでも二人を執拗に追いかけてくるのであった。

    「なんで即席の偶像にロケットパンチとホーミング機能が搭載されてるんだよ!!!」

  • 117二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:59:50

    「そんなのわかるわけないじゃないスか!!そもそもなんであんなに怒ってるんスか犬!!」
    「いや犬は怒るだろ」「なんで?」

    二人がそんな漫才をのような掛け合いをしていく中でもパンチの勢いは止まらない。
    おまけにもう一本の腕が追加され、ダブルロケットパンチである。まるでロボットアニメさながらの空中逃避行である。

    (逃げててもキリがねえ!一本は不利覚悟で壊すか……?)
    ロナルドが逡巡していると、地上の方からショットの声が聞こえた。

    「ロナルド!下の方を地面スレスレに飛べ!!」
    「!?」

    ロナルドは地を這うようにしてギリギリまで地面に接近する。

    「こっちですロナルドさん!」「間を通れ!」
    ギルドマスターの掛け声に気が付くと、マスターとドラルクが少し離れた状態で立っているのが見えた。二人の間を通ればいいらしい。
    ロナルド達はまっすぐに二人の間を飛んでいった。
    二人が通った後、当然のように追尾してきたロケットパンチの一本が、フックショットの網によって絡み取られる。
    あれは、ショットの得物だ。

    ロケットパンチが網で動けずじたばたしていると、一本の投げナイフが黒いモヤの中に飛ばされていく。
    ナイフは黒いモヤの中に入ると、どこからともなく赤い炎が燃え広がり、腕一本を完全に赤い炎で燃やし尽くしてしまった。
    残ったのは、Y物の腕部分の瓦礫のみ。

    「俺達だって見てるだけじゃねえからな!」「チン!」

    残った瓦礫の跡に、二人の人物が現れる。
    捕り物に使ったフックショットを持ったショットと、サンズのクナイを改良したもの持ったヒナイチが頼もしく笑った。

    ヌヌヌ(つづく)

  • 118122/07/08(金) 00:01:16

    いつも読んでいただきありがとうございます。
    ちょっと明日は忙しいのでお休みです

  • 119二次元好きの匿名さん22/07/08(金) 08:10:32

    フックショットと投擲クナイにやったー!暗器カッコイイ!となりつつも
    特級Y物でデバフかかってる黒いモヤモヤに笑ってしまう

  • 120二次元好きの匿名さん22/07/08(金) 19:43:02

    保守

  • 121二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 00:07:11

    武々夫のメンタルの安定具合が頼もしい

  • 122二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 11:34:21

    ほしゅ

  • 123二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 22:37:19

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 23:50:41

    二人の攻撃で腕が動かなくなった偶像を確認すると、ロナルドは抱えていた武々夫をマスターの元へ移動させる。
    そして踵を返して偶像本体の動向を見つめる。

    偶像は腕から黒いモヤを濁流のように放出しており、周囲一帯にモヤがドライアイスの白い煙のように沈殿して漂っている。
    両腕のなくなった偶像はバキバキと背伸びをしていくと、胴と腹、足関節とそれぞれが分離していき、もやがそれらのパーツをつなぎとめるようにしてふよふよと浮いている。

    「他のパーツも分離できるのか。疑似ゴム人間みたいに伸ばし放題だな」
    「パーツがいくら離れようとさっきの要領でひとつづつ潰していきゃあいつかは終わるだろ!このショットさんに任せろ!」
    「頼もしいぜショット!」

    沈殿したモヤは徐々に濃さを増していくと、一度ヒナイチの攻撃で燃やし尽くされた腕に忍び寄っていく。
    そして、腕にまとわりついたかと思うと、再び宙に浮き、偶像の元に戻ってしまった。

    「わーお、パーツ復活仕様。RPGのボス戦かな」
    「悪い、ショットさん一人だと荷が重いかもしれない」
    「ショットォ!!」
    先ほどの頼もしい顔で真逆の事を言いはじめたショットにロナルドは涙した。

    「これは内側のモヤを一気に焼き尽くさないと終わらなさそうだ」
    「パーツ一つでも残すとそこから回復してきそうだね」
    「ヒナイチのさっきの投げ技だけじゃ不足か?」
    「2~3パーツなら一気に攻撃できるかもしれないが、全てのパーツ一気は相手も警戒してくるだろう。よっぽど不意を衝くか連携を取らないとうまくはまらない気がする」
    「だが不可能ではないね?これだけ人数いるんだ、全員で畳みかければいつもよりかは……ゴホッ」
    ドラルクが急に喉元を抑えて咳き込みはじめる。

    「ドラルク?」
    「いや、急に喉が……ッ、ゴホッ、ゴホッ!!」「ヌッ、ヌフッ!」
    「ジョンも!?おい、何なんだよいきなり、大丈夫か?」
    「ちょっと俺もヤバイっスね……ゲホォッ!!」
    ロナルドとヒナイチ以外の人間たちが苦しそうに一斉に咳き込み始める。

  • 125二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 23:51:19

    「全員ハンカチがあるなら口元を抑えてなるべく息を吸わないようにしてください、……毒の一種ですかね」
    「原因はこのモヤだな、さっきより濃くなってきた途端に肺が焼けるようじゃ……!」
    「兄貴、マスター!?」
    ロナルドが二人を見るとかすかに指が震えているのが分かる、神経毒のようなものも含まれているようで明らかに長時間吸っていいものではない。
    周囲を漂うモヤはどんどん濃さを増していく、このままでは病院の時のようにとり込まれてしまう。

    そして偶像も止まっているばかりではない。
    腕を完全に治した後、再び座り込んだ武々夫に向かって腕を突き出し、胴ごと前のめりに襲い掛かろうとしてくる。

    「……っ!ヒナイチ、もう一度腕だけでも燃やせ!!」
    「分かった!!」
    ヒナイチはナイフを再び取り出すと、それぞれ左右のモヤに突き刺さるように投げ入れる。
    腕は再び燃え上がり、急激に襲い掛かる勢いを無くす。
    前のめりになった胴はロナルドが念動力でワンクッション宙に止めて、壊れないように後ろに押し返した。
    それによってわずかに稼げた時間を使って、次の手を考える。
    周りには、モヤによって行動不能に陥った人間が4人と一匹。
    ヒナイチと協力させれば無理やり移動させることが出来ないわけでもないが、戦闘をする上では足かせになってしまうのは見えている。
    その手を使うとしたらあの偶像の対処を諦めて戦線離脱する時だ。
    だが、安易な戦線離脱も躊躇われた。逃げたとしてもあの偶像はモヤを街にまき散らしながら追ってくるのが確信できたからだ。
    そうすれば、次に被害が出るのは街の人々だ。

    (どうする!?せめてモヤはどうにかしないと!)

    せめて何かで吹き飛ばせれば。運がない事に今日はあまり風もない__。

    (あっ)

    一つ思いついたが、やった事がない。
    というより、物一つ動かすのですら必死だったからどうすればそれが起こるのか分からない。

  • 126二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 23:53:42

    大量に空気を動かすにはどうすればいいのか?ロナルドには想像が上手くできなかった。
    だがやるべきだ。それが今、一番の最適解だと分かっているのだから。

    ロナルドは周囲の空間に力を集中させてみる、だが空気の圧力が高まってくるだけで狙った効果はうまくは
    「物理法則に囚われすぎるな」

    ロナルドは力の行使を一旦止めた。

    「ゲホッ……、若造、君は今人間ではない。夜を思うがままに生きる化生の類なんだぞ?」

    「そんなものがいちいち物理法則で物動かすと思うか?違うな」

    「自分の思い浮かべるまま、心のままにだ」

    だいぶ弱った様子のドラルクだが、それでも口を大きく三日月の弧を描いて不敵に笑う。

    「そうじゃなきゃ、この街に変態吸血鬼どもが生まれるわけないだろうが。もっともクソ能力掴まされたいっそ能力が無い方がいい奴だっているがな!ゲホッ、ゴホッ……!」

    「ドラルク」
    「考えすぎるな、感じるままにやってみろ、君にできないわけがない」

    ロナルドは、

    ロナルドは、このモヤを上空に飛ばせればいいのに、と思う。

    皆を苦しめるものは嫌だ、
    邪魔だ。
    また偶像が武々夫をしつこく狙ってくる、いい加減にしろ。

  • 127二次元好きの匿名さん22/07/09(土) 23:54:55

    吹き飛べ

    全部吹き飛んでしまえ


    飛べ!!!

    その途端、ロナルドを中心とした辺り一帯に猛烈な風が吹き上げる。
    黒いモヤは全て上空へと吹き飛び、次第に濃くなっていった周囲のモヤは霧散していく。
    ロナルドが偶像を見れば、まだ地面に這いつくばっているのが見える。
    これ以上風の出力を上げれば、周りの皆も風に飛ばされてしまうのが感覚で分かった。
    だから、偶像だけが飛ぶように出力の幅を調整する。

    不思議だった。まったくもってその調整が難しい事だと感じなかった。
    偶像は狙い通り、モヤごと空へと吹き飛ばされていく。

    「ヒナイチ、飛べるか?」
    「……ああ、やってやるとも」

    ヒナイチが力強くうなずくと、ロナルドとヒナイチはそれぞれの方法で空に向かって飛び立っていく。
    一人は大蝙蝠、一人は赤い鳥。
    夜の化生は空中の獲物をしとめんとばかりに、大きく羽ばたいていった。
    まだ毒のダメージが残るドラルクとジョンは、地上でその飛翔を見ている。


    二人に、届かないな。

    まるで置いてかれてしまった子供のような表情で、ドラルクはじっとそれを眺めていた。

    ヌヌヌ(つづく)

  • 128二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 01:21:19

    切ない…‼︎ 置いていかれるドラルクはなにかと切ない‼︎

  • 129二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 07:10:54

    ドラルクにもパワーアップイベントがあるのかな?

  • 130二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 18:24:27

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:12:35

    ほしゅ

  • 132二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:31:25

    吹き飛ばされた偶像は、空高く放り投げられるが、たいして動じた様子もなく足元のモヤを噴出させて中空に自分の体を安定させようとする。

    しかし追いかけてきた二人の吸血鬼が体に張り付いたことで、偶像は挙動を変える。
    身体全体を捻りながら中空を飛び回る事で、張り付いた二つの虫を吹き飛ばそうとする。
    だが、当の二人は特に答えた様子もなく、着々と次の行動に向けて体制を整えていく。

    ヒナイチはロナルドの方に軽くアイコンタクトを送ると、日本刀の一本を鞘から抜き出し、鍔のすぐ近くにある刀の根元の刃の部分を親指でグッと抑える。
    親指からは血がこぼれ落ち、刀の腹部分に刻まれた溝に沿って血が流れていく。
    そして刀の刃先まで血がいきわたると、根元からまるで陽の光を掬ってきたかのような、紅蓮というよりも白くまばゆい炎が噴き出してきた。

    「ハァッ!!!」
    ヒナイチは炎の刀を片手で構え、偶像の首関節部分目掛けて突き立てた。

    『グxaアガァア@アxdaewte@;lk:』

    犬のノイズ交じりの絶叫とともに偶像の内部が一気に白い炎で燃え上がる。
    ヒナイチは自分の理性が保てるギリギリを計りながらも、内部を焼き尽くすためにさらなる炎を注ぎ込む。

    一方のロナルドはパーツを分離させ、一次離脱を計ろうとする偶像を一つにとどめるために念動力でガチガチに固めていった。
    次第にモヤの出力は徐々に下がっていき、とうとう飛行状態を保てなくなった偶像は力なく地面に落ちていく。

    ロナルドは落下直前までパーツの固定と着地地点の調整の為に偶像に張り付き、地面に直撃する寸前で胴体から手を離し、ヒナイチを回収して空に浮かび上がる。

    コンクリート造りの偶像はまるでビルを爆破解体したかのような轟音とともに地面に直撃。
    衝撃により上がった土煙が徐々に晴れるにつれ、偶像の全容が見えてきた。

    「……どうだ?」
    「沈静化はしたみてえだが」

    ロナルド達が黙って偶像を見つめる。

  • 133二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:32:32

    偶像は力なく体を大の字を広げ倒れており、パーツの端々からはまだ炎がわずかに燃え残っているのが見える。

    偶像はピクリとも動かない。

    これでモヤは燃やし尽くせたんだろうか?
    ロナルド達はゆっくりと地上に降り立つと、貧血で若干ふらつくヒナイチを支えながらも、さらに偶像の状態の確証を得ようと近づく。

    ピシ、パキ、パチ

    「?」

    偶像の方から細かく何かが砕けるような音が聞こえた。
    音は次第に大きくなり、偶像全体から何かが砕けるような音が響き渡る。

    音ともに偶像は粉々に崩れ落ちていく。
    偶像の全てが崩れ落ちた後。残ったものは、大型犬ほどの大きさの、狼のような黒いシルエット。

    「アレが、武々夫が言っていた犬……?」

    狼の輪郭が揺らいでいく、輪郭は徐々に縦長になり、最終的に人型になったようにロナルドには見えた。

    空間の圧力が不意に変わった事に気が付き、ロナルドはほとんど反射的に手を前に出した。

    ドゥンッ!!

    手を前に出した途端にとてつもない衝撃波が手のひらに食い込んだかと思えば、そのまま腕の感覚がなくなった。

    正確には違う、衝撃波で片腕ごと引きちぎられたのだ。

  • 134二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:33:57

    「ロナルド!?」「ロナルド君ッ!!!」

    ヒナイチとドラルクの絶叫のような声が聞こえた。
    だが、当の本人はいたって冷静であった。

    片腕を失った。傷跡がズクズクと疼きはじめ、次第に声を抑えるのが難しいほどの激痛に変わっていく。
    しかし、なんてことはない。


    今の自分ならすぐ元に戻せるのだから。

    事実、ロナルドがそう考えれば、腕はすぐさま元に戻った。
    まるで新品の腕が生えてきたかのように。
    生えてきた腕をグーパーで握っていく。確かに、今の自分は夜の化生らしい。

    人型に変わってしまった黒いシルエットを見る。
    退治人としての勘が、相手が異様な強さを持っていると警報を鳴らしている。

    黒い人型は瓦礫の山を一歩踏み込む。そして、次の瞬間。

    それはロナルドのすぐ眼前にまで迫ってきていた。

    (首、取られる)

    首元にゆっくりと迫ってくる大爪を見つめる。ゆっくりとはあくまで主観的にそう感じるだけであって、実際にはコンマ何秒かのスピードで自分の首を狩り切るだろう。これは避けられない。
    だが、首ですらさっきの腕みたいに復活するのでは?
    そう考えかけたが、すぐにその考えは捨てた。皆に怒られてしまう、
    ならどうするのか。

    爆ぜろ。

  • 135二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:34:20

    迫ってくる大爪そのものにめちゃくちゃな量のエネルギーを込める。
    その瞬間、大爪は、ロナルドの首を狩り取る前に爆発とともに粉々に砕け散った。

    爪が無くなったことで大きく空振りしてしまった黒い人型に対して、上半身部分を強く蹴っ飛ばすと、さっき掴んだ感覚を頼りに風の衝撃波で相手の首を狩ろうとカウンターを仕掛ける。
    だが放った衝撃波は全て相手の人型による衝撃波の相殺されてしまった。
    「チッ!」

    同じ能力を使っていても相手の方が経験値が数倍上な事に嫌でも気づかされる。
    だからといって、躊躇している時間はない。

    相手の人型はすぐさま別の攻撃に移っていく。
    偶像の砕けた破片を突然数十個浮かしたかと思えば、その全てをロナルド目掛けて鋭く弾丸のように投げつけていった。
    ロナルドはそれら全てを爆破で破壊していくと、破壊の煙に紛れて人型に近づき、掴みかかろうとする。
    だが人型は総身を黒い霧へと変化させ、実体を掴ませない。
    黒い霧の群体はロナルドの背後へと再び人型に集約されていく。

    手強い相手だ。
    そう、ロナルドは確信した。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 136122/07/11(月) 00:37:46

    もうちょっとバトル展開続くんじゃよ。
    バトル自体は好きなんですけどバリエーションを出すのに毎度呻いてます。

  • 137二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 06:25:48

    ぬしゅ
    着実に能力をモノにしていってるな……

  • 138二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 12:06:45

    ロナルドが能力をものにしていってるのいいね
    もしかしてこの犬の元になってるのはドラウスなのかな…描写で狼って出てるし戦闘経験の差や多芸さがそれっぽい
    続き楽しみにしてます

  • 139二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 20:36:06

    その人物のらしさを出しつつ動きを描写するのって難しいですよね…いわんや最低でも二者の動きを相互に絡ませながら書かなくてはいけないバトル描写をや
    応援してます

  • 140二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 00:33:32

    ロナルドとその人型はじりじりと黙ってにらみ合う。
    お互いに相手の出方を窺って動けないのだ。

    わずかに風が頬を掠める。
    二人を中心に風はどこからともなく吹きあがってくる。

    ごう、ごう、ごう。
    吹きあがってくる風が徐々に力強くなってくる。

    そして、なんの前触れもなく風が止んだ。

    ロナルドは真横に向かって一気にスライディングをする。
    見えない刃がロナルドが元居た地面を抉って土ぼこりを上げていくのを横目に見ながら、地面に置いた片手の平から衝撃波を出して無理やり横たわった体を起こした。その勢いを殺さずに走りながら体制を整え、空いた片手で横一線を大きく斬る。

    ロナルドによって放たれた向かいくる衝撃波を見ても人型は一つも焦る様子などなく、手を軽く前に出すことでそれら全てを相殺してしまう。
    人型が衝撃波に気を取られている間もロナルドは愚直に人型に向かって走り、そして一歩強く踏み込むことで瞬間移動にも等しい勢いで一気に人型への距離を詰めた。
    人型が前に出していた腕を握り締めると、相手の顔面目掛けてありったけの力で拳のストレートを叩きこむ。

    拳は顔面に直撃した。しかし、ロナルドが思っているような効果は得られなかった。
    直撃した拳は勢いよく弾けるどころか、スライムに拳を押し付けたかのように顔面にめり込んでいく。
    危険を感じたロナルドはすぐに腕を引くが、顔からこぼれる黒い泥が腕全体にまとわりつく。

    「っ!!!」
    「逃げろロナルド君!!」

    ドラルクの叫びが聞こえた途端背筋におぞましい寒気が走り、このままではドロドロに全身を飲み込まれると感じたロナルドはとっさに自分で腕を切断した。そして大きく後ろに飛んで人型から離れる。

    切断した肩の根元をロナルドは手で押さえた。
    少し念じれば、また腕は何事もなかったかのように生えてくる。
    切り落とされた方の腕は、黒い泥に完全に染まり、バリバリと咀嚼するようなしぐさで飲み込まれていった。

  • 141二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 00:34:39

    全身を飲み込まれたら自分もああなっていただろうことは想像に難くない。
    そして、ロナルドの腕を飲み込んだことで相手の存在感が膨れ上がったような感覚を覚えた。
    迂闊な攻撃をしては、きっと相手の力を強めてしまう。

    (物理はダメだ。それ以外でもっと追いつめていかないと)

    ロナルドが攻め手を考えあぐねていると、人型が自分の手番だと言わんばかりに大きく両腕を広げ始めた。

    人型はロナルドが飛行する時のあの大蝙蝠のようなシルエットに変わり、複数の小さな蝙蝠がちぎれて散らばっていく。
    小さな蝙蝠はロナルドを中心に円を描くように配置され、それぞれが同じ大蝙蝠のシルエットへと変化していく。

    (分身!?)
    分身たちはいずれも同じような動きで蝙蝠の翼を広げると、四方八方からロナルドに向かって襲い掛かる。
    隙間の無い攻撃で飛行での回避は許されない。
    ならばとロナルドは層の薄い2~3人の分身を一睨みし、分身を爆発四散させ、無理やりに回避のための穴をこじ開ける。
    身体を蝙蝠の群体で散り散りにすると、こじ開けた穴に吸い込まれるように退避した。

    蝙蝠のまま高く飛び上がり空中で再びロナルドは人型を取るが、まだ分身たちは追撃を諦めてはいない。
    小型の戦闘機のように隊列を作ると、猛スピードで飛行するロナルドの周囲を囲むように飛び始め、非常に動きづらい。
    まるで鳥による集団の狩りのように、一体ずつがロナルドに向かって体当たりをはじめ、じわじわとなぶりはじめる。

    スピードだけではこの分身たちを振り切れない。しかも体当たりの威力も恐ろしいほどに力強い。
    気を抜くと体が千切れそうになる。

    (このままじゃダメだ!!)
    ロナルドは自身の周囲をぐるりと覆うような風の渦を作って分身たちの隊列を何とか引きはがす。
    そしてわざと羽ばたきを止めて落下を入れることでスピードを上げ、距離を取った。
    途中で複雑に建物の隙間を縫うように飛行して、さらに相手を混乱させていく。

  • 142二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 00:35:26

    (よし、距離はとれた。なら……!)
    ロナルドは目的地に向かって一直線に飛んでいく。



    分身たちは、といよりも人型は、多少距離はとられたが、すぐに追いつける上に相手に対処方法はないと冷静に分析していた。
    力はあり余っているようだが、使い方がまだ稚拙。
    これがもう100年ほど経験を積んでいればさぞや強敵だったろうが、今の段階であればあの吸血鬼を取り込む事は容易い。

    人型には自負があった。
    力だけでは自分は倒しきれまいと。
    その自負がどこから湧いてくるものかの記憶については皆目見当もつかなかったが、身体に刻まれた経験があの程度おそるるに足らずと叫んでいた。

    さあ、もうすぐ狩り切れるはずだ。
    人型はロナルドに追いつこうとしていた。
    複雑な動きを諦めて、直線で逃げ始めた哀れな獲物など、遅れをとるはずもない。

    だが、この人型は一つ勘違いをしている。

    ロナルドは吸血鬼である以前に、生粋の吸血鬼退治人なのだ。

  • 143二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 00:36:39

    ロナルドを追いかけてるうちに、人型の視界が大きく開ける。


    そこに待っていたものは、海。

    身体に不快で冷たいものが降りかかってくる。
    雨だ。しかもただの雨ではない。ロナルドが海を爆発させてその勢いで一時的に作り出した、人工の雨だ。

    吸血鬼は水が苦手だ。
    雨が降れば調子を崩し、流れる川は渡るのを厭う、海なんてもってのほかである。

    人型も例外ではない。致命傷などにはなりえないが、それでも動きづらさは感じざるを得ない。
    だが、ロナルドだって同じように不調を感じる筈なのである。

    しかし、ロナルドは不敵に笑っている。

    ロナルドの背後の海から、海水がトルネードのように渦を巻いて立ちはだかっている。
    人型は猛烈に嫌な予感がした。


    「一緒に海遊びでもしようぜ。なあ、吸血鬼」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 144二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 02:10:55

    ロナルドくんかっこよすぎじゃない…?
    影も多分あの人だけど経験豊富な感じが畏怖いです

  • 145二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 07:07:24

    直前まで犬小屋つくろうとしてなぜかエッチなお姉さん談義になっていたとは思えないバトル展開
    シリアスとギャグのギャップに惹きつけられる

  • 146二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 17:10:02

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:39:56

    海から発生する複数のトルネードは独楽の軌道を描くように人型に向かっていく。
    人型はトルネードを一つ避け、二つ避け、そして最後に複数で一気に迫りくるトルネードを自身から発生させる衝撃波で一気に蹴散らした。
    だからといって、けして気を抜いてはいけない。

    案の定、蹴散らされた水滴はぎゅっと寄り集まって複数の塊の水泡と化し、人型の周囲をフワフワと浮いている。
    そして、そのまま圧力によって弾け飛んだ。
    連続で小規模な水蒸気爆発起こり、が体の四方八方にダメージを与える。
    無論この程度致命傷になどなりようがない。だが、ここにさらにダメージが加わるとなると話は別である。

    爆発のダメージでわずかに体の制御が利かない人型は見た。
    不格好に先端が尖った岩石の杭のようなものが数本が、自分に向かって放たれた事を。

    『ッ@ァアア゛3sa!!!』

    避けることも出来ず複数の杭で串刺しにされた人型はやむなく海へと落下していく。
    杭など一体どこから出したというのか。
    人型が海流にその身を流されている間も、冷静に己の傷口を観察する。

    傷口が不自然に冷たい、もしや、これは氷か?

    人型の疑問が氷解すると同時に、人型の体を激流が押し流していく。
    複数の大ダメージを抱えた体が再生が間に合わず徐々に削り取られていくのを感じる。
    このまま弄んでなぶり殺すつもりか。

    その事実に人型は憤怒した。

    ふざけるな。

    いかにこの身が零落したといえど我が名は【竜××#。u、dオr@Us】!
    このような退治人崩れのひよっこ高等吸血鬼に遅れなど取るものか!!

  • 148二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:41:11

    そして人型は、怒りのままにその力を顕わにさせた。


    海の水面が突然、ドーム状に膨れ上がったかと思えばすさまじい衝撃とともに爆発する。
    人型を中心に発生したその爆発は文字通り海を円形のお椀のような形で引き裂き、そして凄まじいスピードで周囲一帯の海を凍らせて形を完全に固着させた。

    穏やかだったはずの新横浜の海は、いつの間にやら身も凍るような凍土へと変りはてた。
    これで相手の手数の一部は奪えた。

    どこだ。

    人型は、周囲全体に向けて気配を探る。
    今すぐにこの怒りをどこかにぶつけたい気持ちを抑え、慎重に、見落としが無いように、次こそは仕留めきると決意を固めて、人型はひたすらにあの腹が立つ吸血鬼を迎え撃つ準備を整える。


    どこだ、あの男はどこだ。

    あの吸血鬼退治人はどこにいる!!


    その期待に応えるかのように、硬く凍り付いた筈の凍土は地鳴りとともに崩れ始めた。

    凍った海は酷い軋みとともに、細かく砕けた氷による津波が押し寄せようとしてくる。
    次はどんな絡め手を使ってくるのかと思いきや、呆れた。
    強大な気配は人型の真正面から襲い掛かろうとしていた。

    いいだろう。
    その愚直な手すら今の人型には好都合だ。
    海を使った追いつめ方は少しは褒めても良いが、しょせんはこんなもの。

  • 149二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:43:01

    最後最後の詰めが甘いとは嘆かわしい。

    その選択の浅はかさ、愚かさ、身をもって知るがいい!!

    人型は必殺の手札で相手を撃沈させまいと、分裂し、構え、巨大な気配に備える。

    氷の津波とともに、それは押し寄せてくる。
    津波によって運ばれてきたものが、人型の視界に映った。


    それは、巨大なサメであった。



    サメだと?

    鋭い牙を持った、獰猛な様子の人型の何倍もある巨大なそれ。
    わずかな逡巡の末、人型の頭に浮かぶのは大量のハテナマーク。
    サメに変化する吸血鬼など、少なくとも人型の体感記憶には無かった。

    変化できるのかもしれないが、根本的に吸血鬼は海を苦手とする存在である。
    ヒュドラのような元々海をナワバリとする吸血鬼でもなければ、海洋生物になどわざわざ変化したりなどしない。

    しかし、どれだけ意表をつかれようと所詮は巨大な一個体の生物だ。
    対処など、人型には造作もない。
    事実、巨大なサメの猛攻は人型の念動力一つで容易く止められた。
    ほらみろこれでおしまいだ。

    だが、人型は分かっていなかった。

  • 150二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:44:04

    巨大なサメの体の背後から、さらなる群体が時間差で追撃しに来ていることに。


    『!?』

    先頭のサメを隠れ蓑に近づいてきた数十体分の一回りほど小柄なサメが、人型とその分身目掛けて襲い掛かってきている。

    巨大なサメを止めることに集中していた人型はその力の方向を群体の方に向け切る事が出来ず、先頭のサメは止められたとはいえ後列の数体の追撃を許してしまう。
    人型の分裂の何体かにサメは直撃し、凍った海ごと突き破って大きな水しぶきを上げる。
    複数個所からしぶきが上がる事で人型のいる一帯がミストに包まれたかのような白い霧に覆われた。
    しかし、人型の本体は負傷していない。分裂体にすべて攻撃を割り振り、しのぎ切った。

    は。
    はは、ははは。

    経験が少ないわりによくやったと称えてやろう。
    それでも、最後とはこのようにあっけないものだ。

    これで邪魔をするものは誰もいないと確信した人型は、本体と思わしき巨大なサメを潰さんと力を込めた。


    パァンッ

    銃声が鳴った。

    人型の背後からだ。
    人型はゆっくりと自分の胸元を見る。

    銀の銃弾が、心臓を貫いている。

  • 151二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:44:43

    なぜ?
    変化したサメは全て処理できていた筈だ。

    なぜ?
    一体いつの間に私の後ろに?

    人型はゆっくりと後ろを見た。

    後ろには、白い霧から徐々に自分の形を取り戻し、リボルバーを握った銀髪赤目の美しい退治人がいる。

    そうか、サメは全てブラフか。
    巨大なサメの気配で、わざとサメに上げさせた水しぶきで、霧化した自分を誤魔化し隠すためのブラフ。

    そういえば、最初に霧化をしたのは人型の方であった。
    図らずも、敵に塩を送っていたらしい。

    「悪いが、これで終わりだ」

    退治人は、ロナルドは、少し申し訳なさそうに呟いた。

    そして、二度目の銃声が鳴り響いた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 152二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 07:47:55

    ロナルドめっちゃカッコいい…

    上で他の方も書いてたけど直前までBBOとエッチな形を追求していたのにギャップがすごい

  • 153二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 11:08:19

    一応公式で戦闘力上澄み勢に入ってるロナルドと推定あの人のバトルがすごく熱くてかっこいい…派手そうな絵面だ
    退治時には頭脳戦できるロナルドいいね…どっちも退治人or吸血鬼としての意地とプライドを感じてとてもいい
    続き楽しみにしてます

  • 154二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 13:14:32

    激しい戦いがあまりにも畏怖… 畏怖クラなら大金が取れるレベル
    戦いを通じて人型も自分を取り戻しつつあるように見える

  • 155二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 22:19:28

    このレスは削除されています

  • 156二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:37:29

    二発目に撃ち抜かれたのは、頭。

    人型は黒で塗りつぶされているからそれが正解かは分からないが、少なくとも通常の人間であれば額と呼ばれる個所をロナルドは撃ち抜いていた。

    人型が力なく落ちていく。
    人型のシルエットは落ちていくにつれてほろほろと崩れ、残った本体はボロ雑巾のようにスカスカだった。
    黒いそれは海に残った凍土に落下した。遠目から見ても、ピクリとも動かない。

    それでもなお、ロナルドは銃を構える腕をおろせなかった。
    何度も周囲の気配を確かめ、いよいよ動くことはないと自分の中で確信を得た段階で、ようやく腕をおろすことを許した。

    その途端、緊張で張り詰めていた体に一気に力が抜ける。
    ハッキリ言って恐ろしく手強く、怖かった。
    思いつくだけの手数を打ってようやくできた隙と決定打で、もしアレが覆されていたらと想像するとゾッとする。

    ロナルドは狼が落下した凍土にゆっくりと着地する。
    元人型を観察すると、意識はなさそうだが、小さく動いているのが分かる。

    「効いてよかった……、対吸血鬼麻酔弾」
    ロナルドはホッとした様子で息をついた。
    かなりギリギリな賭けではあったが、最後にロナルドが発砲したのは致命傷となりうる銀弾ではなく、使い慣れた麻酔弾の方であった。

    本当は退治しきるべきなのだろう。
    だがこの相手を完全に消滅させてはいけないとロナルドは判断した。
    戦っているうちに覚えた既視感と、何となくノースディン達を思い出させる古い吸血鬼のような熟練の戦闘の仕方。
    ロナルドは、この黒い人型の正体に心当たりがある。

    しかし眠らせたはいいものの、このボロボロの人型をどうしたものか。

    「このまま起こしたら不味いしなあ」

  • 157二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:38:26

    怪我もできれば直してやりたいが、さっきのような暴走を起こされれば今度こそ退治しなければいけなくなる。
    それはロナルドとしては何としても避けたいところであった。

    せめて完全に戻せる方法があればいいのだが。

    ロナルドが人型の処遇に対して考えあぐねていると、いつの間にか、人型の前に大きな黒い大穴が開いていた。

    「フクマさん?」

    ロナルドは大穴に向かって少しおびえながら聞いた。
    だが、答えは予想とは違うものであった。

    『いいや』

    大穴から響いてきたのは、落ち着いた理知的な女性の声。

    大穴からボロボロの人型に向かって、二つの腕が伸びる。
    腕は着物のような袖口の黒い衣装を着用しており、ひらひらと袖をたなびかせながら、黒い人型を優しく、だがしっかりと抱きしめた。

    『私だ』

    抱きしめられたボロボロの黒い人型は、両腕に抱きしめられた途端シルエットを変えていく。
    そして最終的に表れたのは、黒い立派な毛並みの狼であった。

    『口惜しいな。やっとこの手で触れられたというのに、まだ完全に取り戻すことができないなんて』
    「やっぱり、元には戻せないんですね?」
    『「アレ」の力が染み込みすぎている。「アレ」の始末を完全につけない限りは、おそらく』

  • 158二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:39:16

    「……面目ないです」
    ロナルドは力なく項垂れる。
    『君が謝る事ではない。むしろこうして取り戻してくれたことに私は感謝しているよ』


    『ありがとう。私たちだけではドラウスを取り戻せなかった』

    「えっ!えっと、まだまだ、これからですし……」
    心からの感謝に、ロナルドは居心地悪そうに言葉を濁す。
    昔からどうにも感謝を素直に受け取る事に慣れない。

    女性はその様子に微笑ましそうな表情を声ににじませながら、次の話を進める。

    『頼りにしているよ。そして、ドラウスの事なのだが、』
    「あっ、はい!」

    『一度狼の状態でそちらに戻そうと思う。こちらで保護出来れば本来は一番いいのだが、「アレ」の侵食値が濃すぎて障りが大きい。その後の事をお願いできるだろうか?』
    「それは良いんですけど、大丈夫なんですか?また暴走したりしたら、俺も庇いきれないかもしれないです」
    『その事なら大丈夫。戦っているうちに少し記憶や意識を取り戻したようなんだ。前のようにモヤに振り回されて感情のままに凶暴化まではしない筈だ。優しくしてやってくれ』
    「ならいいんですけど、吸対で保護できるかな……?」
    仮にも古き血なのに吸対で保護するってのものなんだかおかしな話である。
    だが女性は妙に自信に満ち溢れた声で言い切った。

    『それも大丈夫だ。この愛らしさともふもふならどんな吸血鬼、どんな人間であろうと陥落できる』
    「もふもふ」
    『ああ、もふもふだ』

    ロナルドはどこまで冗談でどこまで本気で言っているのか本気で図りかねた。
    しかし女性の声はあまりにも真剣だったので、これはへんな返答をしてはいけないと慣れない思考分野をフル回転させる。

  • 159二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:40:09

    「わ、わかりました。もふもふで推すんですね」
    『ああ、特別に許そう。ただし、あまりもふもふしすぎるとちょっと困った顔をするので加減はしてやってくれ』

    俺は対策という名目で夫婦ののろけを聞かされているだけなのではないだろうか?
    しかし無下にすることも出来まい。ロナルドは最悪は息子に全てを投げようと心に誓い、女性の注意点という名ののろけに対して頷きマシーンと化したのだった。




    『では名残惜しいが、そろそろ私も持ち場に戻らなければならない』
    「後始末の事ありがとうございました。助かります」
    『こちらも久しぶりに、わずかだが外の空気に触れられて良い気晴らしになったよ。……最後に、もう一つだけお願いしてもいいだろうか?』

    「なんですか?俺にできる事だったら言ってください」
    この女性にはただでさえいろいろな事でお世話になっているのだ。自分にできる事であればできる限り叶えてあげたい。


    『これからもあの子の事を、よろしく頼む』

    「……!」

  • 160二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:43:06

    ロナルドが女性に返事をする前に、穴は力尽きたようにかき消えてしまった。
    取り残されたロナルドはぽりぽりと頭をかく。

    どう返事をするべきだったろうか。
    返事をする前に穴は消えてしまったのだから、意味のない問答だと分かっていても、考えてしまう。


    「おーーい!ロナルド君!!大丈夫か!」「ヌーー!!」
    遠く、地上の方から聞きなじみのある声が聞こえる。

    ロナルドは女性に対して答えが出せなかった事に後ろめたさを感じつつも、それでもまああいつに対して今更どうこう言うのも癪なような絶対言いたくないようなだからと言ってどうでもいいとは思っていないがと、異様に複雑でひねくれた胸中を抱えながら、地上から近づいてくる貧弱な男と愛らしいマジロを眺めていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 161二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 07:29:18

    乙です
    ミラさんも裏方なんだね

  • 162二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 12:55:06

    乙です
    やっぱりドラウスだったか…完全に取り戻せなかったのはミラさんもロナルドも辛いだろうなあ、それだけ相手がやばいって証拠だけど
    この後ドラウスはどうなるかな?続き楽しみにしてます

  • 163二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 21:02:31

    侵食されたドラウスの冷静さを失わせた攻撃が氷結によるものだったのをノースディンが知ったら色々と面倒なことになりそう
    まぁ、ノースディンが今どんな状態にあるのかも不明だけれど

  • 164二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:10:22

    吸血鬼ほぼすべての能力が使えるドラウスさんを取り込む「アレ」……

  • 165二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:54:10

    あー!!!ミラさんが出てる!!ミラさんー!!!かっこいいよーー!!!!ミラさーーーーん!!!!
    更新乙です!!!

  • 166二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:43:28

    ドラルクは陸から吸血鬼たちの戦闘の残骸を見る。

    ところどころ溶けてきたとはいえ、氷漬けになって流氷でできた凍土と化した海。新横浜の新しい観光名所として流氷ツアーが出来そうだ。誰か北海道から流氷砕氷船でも持ってきてほしい。
    そしてあちこちに残る爆発の名残と焦げ臭い臭い。陸には大きな魚でも打ちあがったのか一部の地面がえぐれている。
    サメの大群がハリケーンとともに襲い掛かってきたのだろう。ならばこれはチェーンソーを持ってくるべき案件だ。

    あの猪突猛進吸血鬼め、猛スピードで私たちを置いていきやがって。
    サメの大群だー!!という市民の声を受けてドラルクは貧弱な足腰をできる限り走った。
    しかしたどり着いたころには全てが終わってしまっていた。悔しい。見たかった。
    クソ映画愛好家なら一度は現実に拝んでみたいシチュエーショントップ5に入る状況だったのに。

    と、そのような感じでドラルクはつらつらと現実逃避をしていた。
    待っている現実は籠目原総合監督官からのお小言と始末書の山である。
    この間の病院はまだ何とかなった。1施設の出来事だし。
    だが今回は屋外での大規模戦闘目撃者多数である。どう考えたって碌な事にならない。憂鬱だ。

    けれど、

    ドラルクは凍土の上で疲れ切った様子の銀髪の吸血鬼を見る。
    先ほど失われた腕は、綺麗に元通りになっていた。

    まったく呆れた再生能力だ。

    ドラルクはその望外の能力に呆れはてる。
    呆れはてると同時に、すこし安堵の息をこぼす。
    今回は、それで良しとしよう。

  • 167二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:44:28

    「ヌヌヌヌヌヌ?」「なんでもないよ、ジョン」
    ドラルクは肩のジョンを軽く撫でた。そして、彼を呼ぶ。

    「おーーい!ロナルド君!!大丈夫か!」「ヌーー!!」




    「で、これがあの大暴れした犬?」
    「犬っていうか、狼。吸対で保護できねえか?」
    ロナルドは一応訂正を入れた。
    綺麗に狼として整えられた黒い狼は、疲れ切っているのかまだ眠っている。

    「いや、難しくないか?起こした被害状況が派手過ぎて、新横はよくてもその上からのお小言は必至だぞ。VRC行きも防げないと思うし」
    「だよなあ、ヨモツザカに対して犬でゴリ押せばなんとか収容期間短くなるとかないかな……」
    「むしろ犬だから手元に起きたがる可能性も」「ヌャン」「八方ふさがりじゃん」

    二人が狼の今後についてあれこれ知恵を絞っていると、狼の目がゆっくりと開く。

    「あっ、起きた」
    「ちょっとまって、捕縛してないけど大丈夫なの?」
    「大丈夫らしいけど、どうだろう……?」「こんなタイミングでワヤワヤするんじゃない!また戦闘が起こったらどうするんだアホ造!!」

    狼は目を開いて伏せの状態で首を上げると、きょろきょろとロナルドとドラルクの顔を見比べる。
    そしてドラルクの顔をじっと見た。
    「な、なんだい?私は食べても骨と皮だけだぞ!筋肉をつけることにドクターストップをかけられ痩せたスズメ並みに食いどころがなく骨っぽいと評判うわっ!!」「ヌァーーーー!!!」
    ドラルクが全てを言い切る前に狼はドラルクに飛びついた。

  • 168二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:46:04

    狼は尻尾をぶんぶん振りながら飛びついたドラルクを見ている。
    誰もいなければ顔じゅうを舐めだしそうな勢いだったが流石にやめたんだなとロナルドは何となく察した。

    「随分なつっこい狼だね。さっきまでのおっかない様子は何だったんだ」
    「あー、つってもこの態度はお前にだけだと思うぞ」「そうなの?まあ、懐かれる分にはいいけど」
    ドラルクが拍子抜けした様子で狼を撫でる。しかし大丈夫じゃないのが一匹いた。

    ジョンである。
    「ヌ?」「ジョ、ジョンさん?」
    「ヌヌヌヌヌン。ヌンヌヌ、ヌヌヌヌヌヌヌ?」
    「あの狼の態度は一応理由があって」「ヌヌヌ?ヌンヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌ?」
    「ジョン怖い!オーラが怖い!」

    ドラルクに浮かれきっていた狼もさすがにジョンからあふれ出る負のオーラを察したらしく、慌てたようにジョンの腹毛を鼻でつついて撫でる。
    「ヌヒャーー!!」
    「よかったねえジョン、君も懐かれてるじゃないか」「ホントホント、気づいてくれてよかった」
    「ロナルド君は何言ってるの?」「ヌヒャヒャヒャ」

    ジョンを一通り構い倒したあと、ロナルドの方を向いた狼だが、先ほどまでの嬉しそうな顔と打って変わって非常にしょっぱい顔をしてプイっと顔を逸らす。
    「まあ攻撃されないだけいいか」
    「なんかプライド高そうだねこの狼」「お前……」
    ドラルクの非常に率直な感想にちょっとショックを受けた様子の狼は、非常に不本意そうな顔でしゃがんでいたロナルドの膝に顎を乗せる。
    「別にいいよ!そんな気を使わなくても!」
    「なんか塩対応の雑なアイドルのファンサービスみたいだな」「だからお前さぁ!!」「ヌン(握手会のポーズ)」

    「でも本当にさっきの暴れっぷりがウソみたいに大人しくなっちゃったね」
    「これならなんとかならないか?」「いやでもやった事がやった事だしな」
    狼はドラルクに引き取ってもらえるようにいじらしいほどにドラルクの足元をグルグル回ってアピールをしている。

  • 169二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:47:00

    しかし、

    「おーい!ドラルクさん!ロナルドさん!」
    遠くから軽薄そうな声が聞こえてくる。武々夫だ。
    「武々夫、無事だったか?」
    「喉痛かったけどもう平気っス!そういえばあの人型のヤベえ奴は倒せたんですか!?」

    「それなんだけど」「ああーーーー!!!」
    武々夫が何かに気が付いたのか大声を上げた。
    「なんだいきなり急に大声をあげて!」「なんだじゃないっスよ!!犬!!!」「はあ?」

    武々夫がドラルクの足元に擦りついていた狼に注目する。
    そしてガバっと狼に抱き着いた。
    「無事だったんスね!!犬!!!」
    「……あーー」「武々夫、そいつはだな」
    「犬小屋が大暴れして壊れてからどこに行ったかわかんなくてめちゃくちゃ心配してたんですよ!!よかったここにいたのか!!」

    ここでドラルクとロナルドが察した。
    もしかしてコイツ、人型と狼が同じものだと気が付いていないのでは?

    「犬小屋壊れちゃったっスけど、また新しいの作ってやるからな。んじゃ帰るか!」
    武々夫が狼を抱えて連れ帰ろうとしているのをロナルドは慌てて引き留める。
    「いやまってくれ武々夫、そいつはきゅ」「武々夫君」
    ドラルクは説明しようとするロナルドの口を無理矢理止めた。
    狼はドラルクに必死で救いを求める目で見ている。

  • 170二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:48:05

    「そちらのワンちゃんのこと、よろしく頼むよ。何かあったらいつでも連絡してくれ」
    「うっス!」
    しかし、息子には血も涙もなかった。

    ドラルクは涙目の狼に向かって語り掛ける。
    「私は君の事をよく知らないが、きっと君ならどんな環境でも対応して生きていけると信じていますよ」
    『ウォゥ』
    「たまに顔出しますから」
    『ウゥ』
    「どんな場所でも生きていける狼くんきっとカッコイイだろうなー!!スーパー畏怖ですよ畏怖!!」
    「ウゥ……ワフ!!」
    狼はドラルクのおだてで元気を取り戻し、見ててくれドラルクと言わんばかりにしゃなりしゃなりと武々夫の元へと向かって行く。

    「たまに血か牛乳飲ませてやってねー!」
    説得を終えたドラルクは一仕事終えた後のような顔でそれを見送った。
    「よし」「よしじゃねえんだわ」
    「なにがだい?」「いいのかあれ!!VRCに一旦送るんじゃなかったのかよ!!」
    「まあ聞け、武々夫君は狼と人型がイコールになってなかっただろ?」「それがどうしたんだよ!」

    「つまり、あの場にいた人間の口裏を合わせれば事件の原因を全て人型におっかぶせ、かつロナルド君が完全に倒した事にできるんじゃないか?」
    「まて、まさか」

  • 171二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:49:12

    「そして沈静化した犬は武々夫君とともに暮らしていただければ、オールオッケー!私は事後処理と書類が減るし監督官殿のお小言も少しは減る!そして武々夫君は可愛がっていた犬との暮らし!皆ハッピー!」
    「狼はハッピーじゃないだろ」「一次的なカモフラージュじゃカモフラージュ、無理そうだったら時期見て保護するよ」

    「本当に良いのか、それで?バレた時やべえだろ!」
    「幸い君たちの決着がついた凍土は陸から離れててかなり見づらかった。人型から狼に戻るところは私も見えなかったしね。口裏さえ合わせておけばドローンでも飛ばしてない限りバレはしないさ。これなら狼の処分で揉めづらいし、VRCにも下手につつかれなくて済む」
    「ええ……、確かに丸く収まるのか?これ」
    「あんだけやらかしてたら事後の根回し大変だしね。それなら別に責任をかぶせてしまった方がよほど納得がいくってもんだよ。そして何より」

    「私があの狼に四六時中監視されなくて済む」「本音そこだろお前」
    「ついでにジョンの心象が荒れなくて済む」「そこは……大事だな」

    ドラルクとロナルドは武々夫に不本意ながらもついてく狼の後ろ姿を見守った。
    息子の為に頑張るその姿に、ロナルドは哀愁をほのかに感じ取っていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 172二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 01:25:15

    ドラルクがお父様に気がついていないのお辛い…

  • 173二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 07:06:24

    あのいn……狼お父様か

  • 174二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 10:58:08

    これが一番丸く収まるんだろうけどお父様…VRC送りよりはマシってことで頑張ってね…

  • 175二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 11:21:44

    「ドラルクーーーー!!!」って感じの声が聞こえてきそうな狼でしたね
    狼にも敬語で話すなんて隊長はとても紳士なんだなと思いました。

  • 176二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 17:03:46

    そりゃあジョンは嫉妬するよなぁ…
    ぶぶおとドラウスという意外な組み合わせになったけど、戦闘能力皆無なぶぶおの傍に作中トップレベルの力を持つドラウスが居てくれるのはある意味安心かもしれん

  • 177二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 23:02:25

    「ロナルド、無事でよかった」
    ロナルド達が元いた偶像が暴れまわった現場に戻ると、ヒナイチがふらふらとした様子で近寄ってくる。
    「俺は平気だけど、ヒナイチこそ大丈夫か?朝起きた時のドラ公みてーな酷い顔だぞ」「おいコラ」
    「貧血ではないから大丈夫だ。これはどちらかというと火を使った後の反動というか……」
    ヒナイチはグロッキーな様子でロナルドの胴に頭を傾けて突っ伏す。

    「ただただ気持ち悪い……」
    「どっかで休んだ方がいいんじゃねえか?」「いや、そこまでしなくても大丈夫だ……。なんとかする」
    「無理しないでね、ヒナイチ君」「ああ」
    ヒナイチは気合を入れて体をしゃんと立たせる。はたから見てもまだ顔色は良くないが、本人がそうすると言った以上それ以上の気遣いは過剰だろう。
    ドラルクは少し話をずらすことにした。

    「それにしても、ずいぶん制御が利くようになったねヒナイチ君。腕もあんまりスプラッタじゃなかったし」
    「サンズにゃんに進められて血と炎の取り回しがしやすいように日本刀も調整したんだ。血の量も多少は調整できるから、前ほどひどい事にはならないと思うぞ!」
    「ほんとだ。日本刀に溝引いてあるし、峰部分に少し刃がついてる!かっけえ!」
    「そのうち炎そのものも動かせるようになるとバトルヒロイン力アップじゃないかヒナイチ君」
    「そこまでできるのかは流石にちょっと……」
    「いけるって!手から炎弾とか出して口から火吹こうぜ!!」「ヌァー!!」
    「やらないからなそんなゴ〇ラみたいなこと!!」

    3人と一匹がすっかりいつもの調子で駄弁っているとショットが瓦礫の山の方からロナルドの方に駆け寄ってくる。
    「ロナルド、休憩してる所悪い。瓦礫の中のへんなが取り出せないから手伝ってくれないか?」
    「いいけど、へんなが?」



    ロナルドが偶像の瓦礫跡の前に改めて立つと、雰囲気の違いにうっと顔をしかめた。

    「なんだこれ、さっきまで気が付かなかったけど」
    「ロナルド、お前も気が付いたか。そうなんだ、この瓦礫の前に立つと」

  • 178二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 23:03:22

    「「すごくエッチな気分になる……」」
    ロナルドとショットは口をそろえた。

    「どういうこと、瓦礫だろこれ!?瓦礫でシルエットもクソッたれもないのにまだエッチな気分になるの!?もはやその執念が凄いな!?」
    「それほどまでに強力なY物だったと言う事だろう。私でもむせかえるほどのY談力だ。見たまえヒナイチ君の言動がチンしか喋れなくなってる」「チンチンチンチーーーン!!」「ヌピーー」
    「もうそういうセンサーじゃん」「チン!!!」「センサー扱いは悪かったごめん!!」

    「私的にはなかなかちょうどいい空気感なんですけどね」「マスターたちもこんなアホみたいなことにお疲れ様です」
    「いえ、みなぎってくるので万事オッケーです。ねえレッドバレットさん」
    「そこで俺に話を振るな!!」

    「それで肝心のへんなはどうなってるんですか?」
    「それがですねえ、アレを見てくださいロナルドさん」
    マスターが指をさす方向にはうずたかく積もれた瓦礫の山と、瓦礫の隙間からわずかに巨大な繭のようなものが見え隠れしている。

    「なにあれえ」「立派な昆虫の繭だなあ」「チン」
    「濃厚なY物に囲まれた結果なんかバグったみたいなんですよね」「バグったってそんな雑な」
    「すいません私HTP生物学には明るくないんですよ」「へんなの一族以外に明るい人はいないんじゃないんですかね」
    「ともかく、あれがあるおかげで瓦礫の撤去も迂闊にできなくてな。近づいたらろくでもない何か起きそうと俺の長年の退治人の勘も猛烈に警鐘を鳴らしている」
    「兄貴の勘にすら引っかかるのあれ……」
    だがロナルドも過去を振り返ってみれば、あのへんなの能力が垂れ流しになったおかげで何度か変身騒ぎに巻き込まれたのでその警鐘は正しいとしか言えない。

    「しかし瓦礫の撤去をしなければY物のエッチな空気も垂れ流しと八方ふさがりだ。そこでロナルドに頼みがあるんじゃが、念動力で瓦礫の除去を手伝ってくれないか?」
    「それぐらいなら全然お安い御用なんだぜ!兄貴の頼みなら瓦礫の一つや二つや千個でもいくらでも」
    「落ち着かんかほれセロリ」「ンバラッシャッハピガァアアアア」
    「というわけで、瓦礫除去はこっちで承るからヒヨシ君はあっちの方の手伝いお願い」
    「あ、ああ。頼んだドラルク」

  • 179二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 23:04:09

    ドラルクはヒヨシたちが別方面に作業に行くのを見送ると、改めてロナルドに向き直った。
    「んでさロナルド君、瓦礫除去がてら一つお願いがあるんだ」
    「な、なんだよ」
    「あのY物の瓦礫、残さず全部回収したいんだ」
    「はあ!?エッチな気分になる瓦礫なんか処分しなきゃ不味いだろ!ただでさえ変態が多いこの街にさらにわけわかんない変態が出てくるだろうが!」
    「もちろん最後は処分するとも」

    「ただ、もう少し有効活用ができるってことさ」
    ドラルクはイタズラを考えた時のような悪い笑顔で言った。



    偶像の瓦礫は順調に回収され、最後のへんなの繭を覆っている瓦礫の層までたどり着いた。
    ロナルドが恐る恐る繭に引っ付く瓦礫を取り除いていくと、中には玉のような白い繭の全容が現れる。

    「一時間近くかけてようやく取り出したぞ」
    「慎重な外科手術みたいな光景だったな。しかしへんな君この中にいるんだろ?どうなってるんだこれ」
    「すげえ蝶の化け物になってたらどうしよう」
    「吸血鬼大戦の次はVSモ〇ラでも始めるのか?」「ヌヌヌ~♪」
    「これ以上は戦いたくねえなあ……。あっ、見ろ!繭にひびが入ったぞ!」「チン!?」

    三人と一匹が白い繭から出てくるものをじっと見守る。

    繭から出てきたのは菩薩であった。
    もっと正確に言うと、蓮台にのった仏像っぽい布だけ軽く羽織った感じの服装をしたへんなであった。

    「多大なエッチの染み込んだ偶像に囲まれて、私は悟りました。この世のエロスの心理を」
    「煩悩の化身がなんか言ってるぞ」「悟りという言葉に対するこれ以上ない侮辱を言ってる気がする」
    「ヌン(手を合わせる)」

  • 180二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 23:04:31

    「私の悟り力を侮っていますね……ハッ!!」
    へんなが一つ祈りを込めると、へんなの後ろからピンク色の後光が射してきた。
    「うわっ!?……あれ?」「この光を浴びていると」

    「「またエッチな気分になってくる」」「チン」「ヌピー」

    「これぞ、他者のエッチ力を触らずとも高める煩悩あらたかな私の新たな力!!これをもってすればどれだけご無沙汰であっても盛り上がる事間違いなし!!」
    「なんかもうツッコミに疲れたわ」「この話でどれだけエッチネタを擦りつづけるつもりなんだ正直オチの付け方に迷走して困ってるだろ」「チンチンチン……」

    「というわけでロナルドさんたち」
    「なんだよ」

    「私はこの新たに手に入れた力を使い、エッチの天竺を目指そうと思います」
    「お前天竺どっちにあるか分かってる?」
    「天竺は目指すものではなく作り出すもの……、煩悩あらたかな経典をもってさらなる性癖の追及を皆に広め発展を目指す所存です」
    「結局いつもとやってる事変わんねえだろ」

    「いや、いいじゃないか煩悩の天竺」
    「ドラ公?お前がこの手のネタまともに反応するの珍しいな」
    「まあ、普段だったらね。だけど、今はちょうどいい。渡りに船だ」

    「ああ?」「ちん?」「ヌン?」

    「祭りには、神輿が必要なものだからね」


    ヌヌヌ~(つづく)

  • 181二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 00:07:37

    神輿…神輿かぁ… なんか一つろくでもない心当たりがありますね…
    しかしエッチな気分になる瓦礫とはいったい何なのか??

  • 182二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 07:04:54

    さっきまでめっちゃシリアスにカッコよくバトルしていたというのに
    いまふたたびエッチに回帰した件について
    吸死のシリアスは長続きしなひ……

  • 183二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 14:46:29

    かーなまーら…?

  • 184二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 23:16:49

    あるいは希美さんか

  • 185二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 00:18:33

    真っ暗な空間に、ひらひらと黒い蝶が舞っている。

    ヨーロッパには、蛾の一種が死んだ人間の口から発生すると言われる伝承がある。
    あるいは、幽霊の周りをひらひら飛ぶとも。
    このように蝶や蛾といった昆虫は死霊といったものによく結び付けられ、伝説にも死者とのかかわりを示すものが多い。

    同様の言い伝えは日本にもあり、「蛾は死者の魂の化身である」という伝承が残っている所があるらしい。
    蝶が窓から入ってきたら、それは誰かの魂であるからそっと外に返してやるのがいいと言われているところも。

    だからなのだろうか。

    ドラルクは自分の周囲をチロチロと飛んでいく蝶の群れを眺めている。
    10や20の数ではない。

    何千匹いるのだろうか。

    いくら自分が死と再生を繰り返す存在だからと言って多すぎやしないか。
    自分は夜を生きる竜の一族であって、けして虫をガンガンに寄せ付ける花畑ではないと主張したいドラちゃんである。
    この骨と皮っぷりでは蝶が吸える蜜なんぞあるわけも無い。

    どうせ自分にプレッシャーをかけに来たなんかの名残なのだろうが、こんな人数の意図汲んでられるか。
    残留思念なんだからとっとと成仏しろと言いたかった。

    「ドラルク」
    そんなことを考えながら蝶の群れを眺めていると、自分の横に黒いマントを羽織った長身の老人がスッと立った。
    「なんでしょうか?」

    「そろそろ限界が近いんでヨロ」

  • 186二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 00:19:23

    「お爺様でもですか」「うん」「困りましたねえ」
    しかし老人はドラルクに対してわくわくした様子で尋ねる。

    「良いもの、見つけた?」
    「……いやまだ準備段階ですよ。本当に刺さるかは分かんないですし」
    「見つけた?」
    「顔面ドアップやめてください見つけました、見つけましたから!!」
    「楽しみ」
    ドラルクの様子を確認するとスッと老人は顔を後ろに引く。まったく押しの強い爺である。

    「ド派手によろしく」
    「そこはまあ、私の威信をかけて派手にやりますよ。そうじゃないと意味ないですから。あとは、ダメ押しのあの人がいればいいんですけどね」
    「足りない?」
    「ええ。どうせ逃げてるでしょうから。何を餌におびき寄せるか迷っているところですよ」
    「そう」

    老人はハンマースペースをごそごそと探ると、ドラルクに一つの物を渡した。
    「はい、これ」



    「ヌー!」
    ドラルクが薄目を開けると、ジョンがドラルクを起こそうと頬をぺちぺち叩いている。

    「おはよ、ジョン……。あれ私何見てたっけな」
    なんかめちゃくちゃプレッシャーをかけられたことだけは覚えている。
    ドラルクがのろのろと起き上がると、布団からゴトッという陶器が落ちるような音がベッド下から聞こえた。

  • 187二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 00:20:29

    「痛っ!!!!なんだ顔面になんか落ちたぞドラ公!!!」
    陶器は下で寝ていたロナルドの方に落ちたらしく、鼻を抑えながらロナルドが飛び起きた。
    「ゴリラの顔面に直撃したのか。というか何落ちたの?私もよくわかんないんだけど」

    「これだよこれ!なんか硬い置物!!」
    「うん?……香炉か?」

    ドラルクがロナルドが鷲掴みにしたものをまじまじと確認する。
    そこには手のひらで抱えられるほどの香炉のようなものが握られていた。

    「あれ、これよく見たらメッチャヒトクール香じゃん」
    「知ってるのかロナルド君」「ヌヌヌヌ?」
    「ああ。前に知り合いの爺さんが作った奴らしくて、一回だけ使ったことならあるぞ」
    「これ何ができるの?」「俺が使った時は人寄せだったけど。つーかなんで部屋にいきなりこれがあるんだ?」
    「なんでって、起きたらあったんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」「前のクッキーパターンか?」
    「クッキー!?」「お前は呼んでないしクッキーはない!」
    ロナルドはドアからひょっこりと顔を出したヒナイチの顔を抑えた。

    「しかし人寄せねえ……。誰人寄せするんだろう」
    「お前がわかんないのかよ。あっでも、前使ったやつとちょっと色とか違うかも」
    「どう違うんだい?」「なんか、黄色い気がする」

    「黄色?」



    結局メッチャヒトクール香についてはそのまま保留となった。
    人寄せと言う事だけは分かったが、現段階において人を呼び寄せる必要性が今のところ分からなかったからだ。

  • 188二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 00:21:43

    (いずれはどこかで実験したいけど)
    その実験をする前にはまず目の前の仕事を片付けなければ。
    ドラルクは机のPCに映し出された報告書類のファイルをポチポチと確認していく。

    あの謎犬小屋事件に関しては関係各所の協力の元無事、事実の捏造が完了した。
    監督官殿には当然のようにお小言を食らったがまあ予想の範囲内である。
    また今回は前回の反省点を生かし、カズサの方にもそれとなく菓子折りとともに念押しを送っておいた。
    これで多少誤魔化し切れない所があっても必要以上には突っ込まれない筈である。
    またSSR確定チケット付きCDとか販売しないだろうか。
    カズサは厄介極まりないが仕事ができるのも事実なのだ。今後やる事を見据えると、ドラルクとしてはどこかで恩を売っておきたいところだ。

    あと気になる事は武々夫の元に引き取られた狼、もとい犬の様子くらいだろうか。
    だがあの犬は多少へんな目にあわされても大丈夫だろうというドラルクの中で無根拠な自信があった。顔を見せるのは仕事が終わった後でもいいだろう。

    そんな様子で情報の整理をしていると、吸血鬼事件とは別の事件の記事がドラルクの目に留まった。

  • 189二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 00:22:04

    「新横浜で意識不明者が続出?」
    「あっ、隊長もその事件気になります?」
    丁度ドラルクの席の近くを通ったサギョウがひょいと顔を出す。

    「サギョウくん知ってるの?最近ちょっと他の課の情報はあんまり見れなくて」
    「始末書でヤバかったですもんね。刑事課の方の事件だそうですよ。一部地域、河川敷の方で原因不明の意識不明者が何人も出てるって」
    「やだ物騒~~!」「ヌヌヌ~!」
    「皆川の方でバタバタ倒れてたみたいですよ。人間による毒ガスの線で調べてるらしいですけど、原因が分からなかったらうちにも話が来るかもしれないですね」
    「ん?じゃあ被害者に吸血跡とかあるの?」「それがないらしいんですよ」

    「吸血鬼が起こしてもおかしくはない事件だけど、吸血跡無いんだったらうちに繋がるのかな。やった事を誇示するわけでもないから畏怖欲じゃなさそうだし」
    「そうなんですよね。犯人が人間の方がまだやってることが分かるのかなあ?いやそれでも怖い事件ですけど」
    「憶測を色々呼びそうな事件だね」

    ドラルクがそういいながらパソコンの画面から顔を逸らす。
    すると、窓の外の様子が妙に気になり、目がガラス窓の方に引きつけられた。


    __蝶がいる。

    数羽の黒い蝶が、窓の外を優雅に舞っている。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 190二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 01:23:13

    知ってるのか雷電ネタ……
    しかしまた不穏な気配が

  • 191二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 11:25:18

    次は黄色のおじさんかな?

  • 192二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 15:35:11

    黄色…アッ(察し)
    川の近くっていうのがネックかな?

  • 193二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:03:13

    あの能力、悪用されたらヤバイやつだ
    問答無用で本音を喋らす(ものは言いよう)力だもの

  • 194二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:03:20

    更新前にスレ立てますね。今日は小話です。

  • 195二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:10:04
  • 196二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:11:10

    おつです!

  • 197二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:24:26

    うめ

  • 198二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 01:22:23

    うめうめ

  • 199二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 02:47:53

    うめうめうめうめ

  • 200二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 03:42:16

    うめーっ!

オススメ

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