- 1二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:16:58
コンコンコンと控えめなノック音がトレーナー室に響き、やがてドアが開けられる。
そこにはマチカネフクキタルが立っている、いつもの勢いで押す雰囲気はなく、
静々とした、これから神前の儀式を執り行う巫女であるかのような雰囲気を纏って。
「トレーナーさん・・・お話があります」
伏せていた目を見開いて、まっすぐとこちらを見据え、マチカネフクキタルはそう言った。
俺は目をそらしそうになった。
「・・・次の金鯱賞を最後に、引退・・・?」
「はい・・・」
覚悟はできていたつもりだった。
URAファイナルズの初代王者という栄冠を最後に、彼女の走りは衰えていった・・・
人気投票二年連続の一位で向かえた宝塚記念での惨敗・・・
意地を見せて入着は果たしたものの、世代交代を決定づけた有マ記念・・・
担当ウマ娘が走り続けたいと思う限りは、俺にできる事はなんでもしてやろうと思っている。
しかし・・・担当ウマ娘が本当の意味で、走るのを辞める理由を見つけてしまったならば・・・
受け入れる・・・そう決めていたのだが、実際にその時を迎えて俺の心は予想以上に冷えあがっていた。
「確かに金鯱賞は、お前の・・・俺たちの思い出の賞ではある・・・けどさ!
お前の引退を飾るレースとしては・・・地味じゃないか?ファンだってまだついてきてくれている、
次の宝塚記念だって!」
「トレーナーさん」
凛とした声が逸る俺の声を制する - 2二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:17:36
「私もできることならばもっと長くレースを続けていたかったです。
そうですね、理想なら今年の有マ記念くらいまでは・・・」
「だったら!」
「・・・でも時間は待ってはくれません。私が全速力で走れる時間は、
もうそんなに残されてはいないのです。トレーナーさんだってお分かりのはず。」
そう・・・やる気の問題ではないのだ・・・彼女の病気は、日に日に彼女を蝕んでいく。
無理にレースを続けるならば、彼女の今後の人生にも悪影響を与えていくだろう。
自分だってわかっていた。気持ちの上だけでもなんでさっき有マ記念じゃなく宝塚記念なんて言った?
俺自身がそこまで彼女が走り続けられる未来を信じていなかったからだ・・・。
「それでいいのか?」
「はい・・・ですがこれはただの終りではないのです。」
こちらの目をはっきりと見てマチカネフクキタルはそう告げる
「私達の星を掴む物語も、それは連綿と受け継がれてきたウマ娘達の歴史の一部なのです。
そういったものがなければきっと、私達は星を掴めなかった・・・今度は私の番なのです。」
「フクキタル・・・」
「歴史を繋いでいく、私が走れなくなってもその後にもウマ娘たちの道は続いていく・・・
私はそのお手伝いをしたいのです。メイショウドトウ・・・私が目をかけていたあの娘が、
ついに自分の道を踏み出そうとしている。その力になれるならば、私は今の私の
もてる全てを賭けても惜しくはないのです。」
そう、これまでのすべてのウマ娘たちの歩みが結局今に繋がっているのだ。
俺たちの物語がそこに連なる日がついにきてしまったというだけ・・・ - 3二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:18:11
名残惜しい、それは確かだ、だが彼女の言うとおりだ。
もし俺たちの物語が未来のウマ娘達の希望となるなら・・・
ここが潮時・・・それで良いはずだ・・・
わかったよ、そう言おうとして俺は口を広げていく
「嫌だよ!俺はもっとお前と走り続けていきたい!!」
頭にも浮かんでいなかった本音が俺の口をついて溢れ出していた。
情けなく涙を流して、マチカネフクキタルの前で膝を突いてしまう。
「ドレーナァざぁんッ!!!」
彼女も抑えていた涙を溢れ出させて身を寄せてくる
俺たちは自然に抱き合う形になり、しばらく涙をながした。
トレーナー室の前を通りがかった他の生徒たちのざわめきが聞こえる・・・
突然掃除用具箱の中から、ピンク髪のウマ娘が倒れ出てきて失神している・・・
そんなことを気にする事のない、二人の世界がそこにはあった。 - 4二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:18:30
ひとしきり涙を流し終えたあと、先に立ち上がったのはマチカネフクキタルだった。
「大丈夫ですよぉ!その後も学園を去るわけではありません!
今後のことも見届けていくつもりですしね!」
「そうだな・・・」
涙をぬぐって俺も立ち上がる
「このレースを見事走り終えた後は!妻としてトレーナーさんのサポートに注力しま・・・ふぎゃーー!?」
「誰が妻だ、調子にのるな!」
調子にのってキス顔を浮かべるマチカネフクキタルの顔面を片手で掴み持ち上げる。
「えええええーー!?なんでですか?今、絶対いける流れだったじゃないですかぁ!!」
「今、そんな話をしてる場合かっ!」
「ふんぎゃーー、そうでしたね、そうですね!だから離してくださいいい!!」
叫ぶマチカネフクキタルをアイアンクローから解放し、今度こそ頭に浮かんだとおりの言葉を口にする。
「そうと決まったらやることは山積みだ、俺も切り替えた!考えはあるんだろう?」
「・・・ッ、はい!ありますとも、それはもう怒涛のごとく!」
「よしっ!やるぞ!」
「いきましょー!」
こうして、俺たちは歩みをすすめる。
俺たちの物語の最後を最高のものとするために。
その先に、数多のウマ娘たちの幸せがあると信じて・・・。
終り - 5二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:20:43
何をしているんだアグネスデジタル
- 6二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:32:27
>>5 たまたま今日の推し活がフクトレフクだった所に
クリティカルな場面に遭遇してしまったんだろう。
- 7二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:48:22
あ、好き…
- 8二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:53:02
いい話だ
いずれ来る引退レースで想いを次の世代に繋いで行く先輩キャラは良いぞ
あとどこにでもいるウマ娘オタク混入してなかった? - 9二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 14:59:52
覚悟決めたのに本音が出ちゃうのいいよね…
- 10二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 16:32:46
>>8 アイツはどこにでもいるからなぁ
- 11二次元好きの匿名さん21/09/30(木) 17:20:17
書いたものですが、発想はまんまドトウのシナリオですね。
原作ではドトウと走った金鯱賞のあと、宝塚記念で引退となるのですが、
シナリオ内でもドトウの頑張り物語の一歩となる宝塚記念にはフクちゃんは出てこない。
ドトウはそのことを知るよしもなかったが、そんな裏ストーリーがあったのでは?
と思い、書きました。
構想段階で倒れ出てくるピンク髪のウマ娘なんて思ってもなかったんだけど
書いているうちに勝手に出てきました。どこにでもいるウマ娘おそろしい・・・