- 1二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 22:28:43
刻々、チクタク針進む。閉じたまぶたの裏側に、ぽわんと浮かぶあの笑顔。私のトレーナーさんは、温暖な気高さを持っている。リアクションもおかしくて、パッと光る星のよう。だから驚かせてあげたかった。
トレーナー室のど真ん中。会議で遅れるあの人の、愉快なセイちゃんお留守番。おっきな箱を用意して、中からパタンと閉じたのだけれど、狭いところが嫌な自分。おまけに暗くて、あとでやめておけばよかったなって、思うんだろうな……。
「私をあげますぅぅぅ!」
商店街に響いた、彼女の声を思い出す。
あんな風に。
あんな風に。
あんな風に。
私も逃げずにあげられるのかな……。そう思ったのに、どんどん身体が震え出す。
ピシャッ。天気予報は雨だった。ターフも悪くて泥々で、今は雷鳴ったんだ。
バチッ。電気。絶対停電起きちゃった。
がんばれ。
がんばれ。
がんばれ。
一人。やだやだやだやだやだ。
「……。ぐすっ、うぇ?ぶぇ、トレーナーさああああん!じいちゃああああん!フラワー、スペちゃああああん!キング、グラスちゃん、エル……?ひっく、ぐず」
「スカイ?」 - 2二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 22:33:01
「大丈夫?」
ぱか。と開いた箱のフタ。こんなに早いはずないのに。トレーナー室にいるって、一言も伝えてないのに。なんで迷いなく、真っ直ぐ確信しているの?彼の手に握られる、パチパチ明るい懐中電灯。それは私を見据えて離さない。箱から出てきて立ち上がった私の背中を、ただ優しく、ポンポン叩く。吹き飛んだ不安は、流れる涙を止めたんだ。
「ごめんね、よしよし。停電が起きた時、キミのことがすぐに思い浮かんだんだ。万が一取り残されていたらどうしようって」
祝福するかのように、再び電気が点いていく。部屋はすっかり眩しい世界。
「……まったく、セイちゃんはこんな時は逃げるに決まってるじゃないですか〜。たまたまですよ、たまたま」
「うん。スカイは勇気があって、逃げるのもとっても上手だよ。でも、一万回キミが無事でも、たった一回の危ない時に『そばにいるよ』って伝えたいんだ」
ああ。眩しくて、いけない人。儚くて、切ない人。だから。だから、好き。つい素直になってしまう。
「あのね、私ね……したいことがあるんです」
「うん、うん、ちゃんと聞くよ」 - 3二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 22:33:25
「あのですね〜、サプライズでトレーナーさんのことを驚かせたかったんです。でも、予定外のトラブルが起きてしまいまして〜。はてはて困った、どうしようかと」
「もう一回やろう」
「おお〜!話が早い!」
挑戦権であり戦利品。胸の内が熱くなり、晴れ渡る青空のもと、釣りをするかのような爽やかさ。
「ではでは〜、入りますね〜」
トレーナーさんが、じっと見つめる箱の面。ガタン。と音を立てて、直後にしんと静まる空間。なんだか穏やかで、パラノイアすら弾きそう。
ぎゅー。
箱に入ったと思わせて、後ろからの急襲ですよ、トレーナーさん。とあるマジック上手の大先輩に教わったんです。背伸びをして、耳元でささやくこの声に、この人はドキドキしてくれるのかな?
「さっき、したいことがあるって言ったんですけど、嘘なんです。ふふっ、釣られちゃいましたか?それはですね〜」
私をもらってくれますか?トレーナーさん。
あなたの支えになりたいから。
私をあげることで、あなたが癒されてくれるなら。
今日もおつかれさま、トレーナーさん。