- 1二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 18:33:11
- 2二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 18:33:20
学園の校舎が夕陽に照らされて茜色に染まっている。
脚がずきりと痛む。
年明けすぐのレースで屈腱炎が再発した。
一年以上のリハビリを経ての再発。
神様から「お前はもう走るな」とでも言われたような気分だった。
トレセン学園での最後の日、お世話になった人たちにお別れの挨拶をした。
ルドルフ会長をはじめ、寮長のヒシアマ先輩、同期のネイチャにシガー……なぜか関わりの薄いターボが一番泣いてたけど。
あと、マルゼン先輩にドライブに連れて行ってもらった。
たづなさんが心配そうに見送ってくれたが、心なしかいつもよりゆっくりに感じた。
……別れ際に見せたマルゼン先輩のつらそうな笑顔は忘れられそうにない。
荷物も実家に送ったし帰らないと。
学園に背を向ける。
「リオナタール!」
後ろから名前を呼ばれる。
声だけでだれか分かった。
でも、なんであの子が。
頭に疑念を残したまま振り返る。 - 3二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 18:33:35
「……テイオー」
ジャージ姿のトウカイテイオーがこちらを見つめていた。
……なんか妙なタスキかけてるけど。
「私の名前覚えてたんだ」
「当たり前だよ!同じレース走ってたんだから!」
帝王の記憶に残る走りはできた、ということだろうか。
そう思うと少しだけ嬉しかった。
「……学園辞めるって聞いたよ」
「まあ、二回目の屈腱炎だからね。こればっかりはどうしようも……」
そこまで言って口を手で抑える。
テイオーも二度目のリハビリ中だ。
うかつなことを言ってしまったと後悔する。
でもテイオーの口から出た言葉は意外なものだった。
「リオナタールだってリハビリすればまた走れるようになるかもしれないでしょ?だから……」
目が丸くなる。
ここまで情の深い子だったとは知らなかった。
でも。
私は力なく笑った。
「二冠ウマ娘でジャパンカップも勝ったテイオーとたまたま菊花賞をとっただけの私を一緒にしちゃいけないよ」
「っ!たまたまなんかじゃ……!」
「それに、みんながみんなテイオーみたいに強くはないからさ。もう、いいんだよ」
テイオーが悔しそうにうつむく。
「じゃあねテイオー。応援、してるから」
テイオーに背を向け、立ち去る。
正門を抜けてしばらく歩く。
周りに人がいないことを確認してうずくまる。
ぽろぽろと涙があふれだす。
「……もう一回テイオーと走りたかったなあ」
落ちた涙が点々と地面に黒いシミを作った。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 18:34:14
不意に人の気配を感じた。
慌てて立ち上がり涙をぬぐう。
「初めましてリオナタールさん、メジロアルダンと申します」
アルダン先輩?なんでメジロ家のご令嬢が?
そう言う間もなくメジロの屋敷に連行された。
「菊花賞をとった?採用!」
その一言でメジロ家お抱えのトレーナー見習いに就職することになった。
いや、確かに学園を辞めた後どうしようとは思ってたけども!
とはいえすぐにトレーナーになれるわけはなく、トレーナー育成過程のある学校への入学を目指し勉強をすることになった。
自分が指導をする側になるなんて思いもしなかったが、不思議と悪くない気分だった。
そして受験を間近に控えた年末、テイオーが一年ぶりに出走した有馬記念を見た。
その姿は涙でろくに見えなかったけど。
とても、とても誇らしく思えた。
そしてふと思った。
私がトレーナーとして彼女の前に現れたらさぞびっくりするだろう、と。
その時の彼女の顔を想像してつい微笑んでしまう。
彼女ともう一度ターフで会うために私は再び参考書とのにらめっこに戻った。 - 5二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 18:34:28
ウマ娘のリオナタールの元になった競走馬レオダーバンは菊花賞をとったのち、二度の屈腱炎が原因で競走馬を引退
種牡馬引退後はGⅠ馬であるにもかかわらず行方知れずとなってしまったそうです
せめてウマ娘の世界では幸せに、そして現実でもこのような競走馬が少しでも救われてほしいとニワカながら祈っております
お目汚し失礼しました