- 1二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 20:09:10
- 2二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 20:43:55
「懐かしい歌だな」
そう言って振り向いた彼に、スカイはご機嫌に動かしていた唇と手を止め、微笑みを返した。
「素敵な歌じゃありません? どんなに遠く離れてても、瞳を閉じれば会いに行ける……なんて」
「確かに」
「寂しい思いをする事もあるんですよ? 何せ私の旦那様は、遠征が多くございますからね」
そう続けて、スカイはイタズラな笑みを浮かべた。彼も、それに返すように微笑みを浮かべる。
「学生だった頃からいつでも一緒だったのにか?」
「ふふ、それはもう、なにせ担当ウマ娘でしたから。けど、もう私はあなたの担当ウマ娘じゃないし、あなたとの関係も変わった……だから、足りないんです。あの頃より……もっと一緒にいたいんです……なーんて言ったら、どうします?」
イタズラな口調に反し、静かに微笑みを浮かべ、目を細めるスカイ。まるで彼がどんな答えを返すか、分かっているようだった。彼は今の担当ウマ娘のレーススケジュールとトレーニングメニューが書かれたレポートから手を離し、その手でスカイをそっと抱きしめた。
「スカイが満足するまで隣にいるよ、どんなに遠く離れても」
彼の言葉に、スカイは嬉しそうにくしゃりと表情を崩し、上目遣いで訪ねる。
「夢の中でも?」
「勿論。春風にでも吹かれながら待っててくれ。真っ直ぐスカイの所へ駆けて行くから」
そう言って、彼は腕の中のスカイにそっと顔を近づける。スカイもまた、静かに目を閉じて、彼の思いを両の腕の中でしっかりと受け止めた。
あの時にそう、君に、あなたに逢えたから、今まで思っていた事が現実になった。今だから言える。きっと言える。もう一度……いや、何度でも君を、あなたをそっと抱きしめて、そして。
「好きだよ、スカイ。愛してる」
「私も……愛してますよ、トレーナーさん」
敢えて彼にとって懐かしい呼び方で答えたスカイは、先程よりもずっと強く、もうすぐ永遠の愛を誓う人を愛おしそうに抱きしめるのだった。 - 3二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 20:49:42
名作や…ありがてぇ。
- 4二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 20:52:50
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- 5二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 21:50:47
ちゃんと歌詞と台詞がSSに組み込まれてる……良い……
- 6二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 21:52:54
あぁ…なんだろう…夫婦って感じがしていい
良作ありがとうございます…! - 7二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 22:08:53
色んな人がカバーしまくって誰が原曲か分からないタイプの曲来たな……
それはそうと時間から察するに>>2は辻かな?幸せマシマシなセイちゃん丁度切らしてたから助かったわ。
- 8二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 22:09:58
- 9二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:08:56
「いやぁ~、流石はキングですなぁ! 相変わらず一流のボディを維持しておられるようで!」
夏の日差しが照りつける海において、スカイは浜辺に現れたキングを見てまずそう言った。褒めてはいるのだが、スカイが言うとどうにもイタズラ半分に聞こえてしまうのが、キングの現役時代からの悩みの種でもある。
「ありがとう……そうやってジロジロ見られると気になるのだけど」
「いやぁ……そりゃあもう……そんな水着姿のキングを見せられたら、ねえ?」
当時の勝負服と見紛う美しい緑色の水着を身に纏い、キングヘイローは髪を海風になびかせている。現役時代から全く変わらないスタイルと引き締まった一流の肉体美は歩いて行くだけで浜辺の男たちの心を奪っていった。
渚を走る噂はひと夏の恋を次々と砂浜へ引き込んでいくが、本人はそれを知ってか知らずか、ニヤニヤと笑みを浮かべるスカイにため息を一つ。
「そのやらしい笑顔をやめなさい。いい加減怒るわよ」
「はいはい、んじゃ一個だけ。その水着はキングが選んだの? それともキングのトレーナーのチョイス?」
スカイはトレーナーと呼びはしたが、既にその関係は終わっていた。スカイと同じく、キングの左手の薬指に光る指輪がその証拠だった。
スカイの問いかけに、キングは胸を張って応える。
「勿論、キングのデザインよ。彼にも意見は聞いたけど、大体は私がやったわ。今年こそあの人の水着に負けるわけにはいかないもの。まあでも、この注目度を見れば勝負は決まったようなものね」
そう言うと、キングは涼しげに髪を海風になびかせ、周囲の目線に軽く流し目を向けると、パチリと片目を閉じて応えた。スカイは内心、注目を浴びてるのは水着ではなく水着姿のキングの方だと思っていたが、それは言わない事にした。 - 10二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:10:08
「そう言う貴方こそ、その可愛らしい水着は貴方のトレーナーの好みかしら?」
「えー? それはどうかな? セイちゃん、こういう水着も好みだったりして?」
意趣返しか、トレーナーという呼び方を使って問いかけたキングに対し、スカイは現役時代と同じく、飄々とその問いかけを流そうとした。
しかし、キングはそれに涼しげに笑みを浮かべて応える。
「あら、やっぱりそうなの。そうよね、貴方のトレーナーはビキニの方が好みだって彼が言ってたし、すれ違っても不思議ではないわね」
「えっ? ちょっとそれどういう事? トレーナーさんはワンピースの方が好きだってこの間……」
そこまで言って、スカイはハッとしてキングの方を見た。かつては自分がよくして見せていたようなしたり顔で笑みを浮かべ、スカイを見つめている。さっきまでのイタズラな笑みはどこへやら、スカイは抗議するように膨れっ面を返した。
「……キング、さては私を釣ったね?」
「ふふ、語るに落ちるとはこの事ね。トリックスターの名が泣くわよ?」
得意げなキングにスカイが反論を試みたその時、2人の目に手を振りながら向かってくる二つの影が見えた。好みだと言っていた水着を披露するのが今更恥ずかしくなったのか、スカイは思わず両手を前に出して水着を隠そうとする。
「ほら、しっかり見せてあげなさいな。折角彼の為に選んだんでしょう?」
すっかりトリックスターの立場を奪われたスカイは、仕方ない子ねと言わんばかりに笑みを浮かべて促すキングに、分かってるよ、と返すのが精一杯だった。
そうして披露されたスカイの水着姿は、無論彼の好みにピッタリ添った姿であった事は言うまでもない。
思わず頬を赤らめた彼がすかさずストレートな感想と好意を口走った為、スカイはその日の夕焼けよりも顔を赤くする羽目になるのであった。 - 11二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:12:58
うーん、>>2に便乗してめ組のひとを意識して書いてみたけど、困った。夢で逢えたらが強すぎる。俺からも素敵なSSをありがとう。
けどまあ水着姿を見せるとき照れちゃうセイちゃん書けて満足だからここで供養しちゃうぜ!
- 12二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:28:13
またなんか辻SSが!
水着照れるセイちゃん可愛い - 13二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:07:30
自信満々に旦那好みの水着選んできたのにいざとなったら照れちゃうセイちゃんは健康に良い。
- 14二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:10:39
- 15二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 07:29:07
- 16二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 13:40:57
- 17二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 20:36:53
あーいいですねぇ
シリーズ化して欲しいくらい良い - 18二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 01:38:00
「髪型……よし、アクセサリ……よし、メイク……よし。うん、大丈夫。我ながらなかなか」
人々が行き交う大通りの交差点から、坂を登って10分。カップル御用達の待ち合わせ場所となっているシアタービルの前で、セイウンスカイはコンパクトを開き、自分自身を隅々までチェックしていた。
普段よりずっと気合いの入ったコーディネートとメイクアップを見たあの人はどんな顔をするだろうかと考えてみる。半分は、驚かせたい気持ち。いつもと全く違う姿の自分自身に、目を丸くする姿を見たい。
『にゃはは、見たこと無い美少女が待ってたんで驚いちゃいました? 普段はちょっと目立たないセイちゃんも本気を出せばホラ、この通り!』
そして、もう半分は────否、きっと、初めから気持ちは一つだ。そう、自分に魅力を感じて欲しい、もっと言えば、好きになって欲しい。そんな気持ちだ。
「……なんて、ね」
誰にともなくそう呟くと、ついさっきまでからかう気満々だった自分を、頭から振り払った。
今日はなんだか朝から怠くて、頭の回らない日だった。普段ならすぐに思い付くサボりの口実も企みも何も思い付かなかったので、真っ直ぐトレーナー室へとやって来て、やっほー、と軽い挨拶。その様子にトレーナーがあまりに不思議そうな顔をしていたので、ため息交じりに正直に話してみる。すると、トレーナーは思いも寄らない事を言った。
「今日は、2人でサボってしまおうか」
トレーナーが言うには、今の私はサボる為の策を講じる程に疲れが溜まっているのだという。あまり自覚は無かったが、そう言えばここ最近はトレーニングとレースを繰り返す日々が続いているような気がする。
何せ、一緒にシニア級に入ったキングやスペちゃんは勿論、今やフラワーもトレーナーの下、一生懸命に取り組んでいる。だから、サボる策と称して考えているのはどうあの子達の度肝を抜いてやろうか、という事だったし、軽口を叩きながらも実際にはサボったりする事は無かった。
「スカイが俺の想像以上に頑張ってくれるからって、最近は少し詰め込み過ぎてたかもしれないな。だから、今日はサボる日にして、心身をリフレッシュしよう」
そう言って、トレーナーは机の上の書類やなんやらを片付けると、私に向き合ってニッと笑った。
- 19二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 01:45:49
「今ならまだ日も高いし、すぐに許可を貰えばちょっと脚を伸ばせる。どこか行きたい所はあるか?」
その言葉に、返事をする為の唇が一旦止まった。普段ならすぐ、釣りだったり、お気に入りのお昼寝スポットだったり、やる気がある時ならキングにちょっかいと言う名の偵察を、と言う所だ。けれど。
「────なら、ちょっとお出かけ、良いですか? 実は、ずっと行きたかった所があるんです」
ちょっかいを出す代わりに、適当に名目を付けてキングに借りたファッション誌は、今日のコーディネートを完成させるのに大いに役に立った。別れ際に、頑張りなさいね、と言って微笑んだキングの表情が妙に頭に残っている。多分、キングは気付いている。
スマホのボタンを押して、時間を確認。10分前、今頃あの大きな交差点辺りで、私の事を思いながら坂を登ってくる頃だろうか。思わず、胸の音が早くなる。そして────。
「お待たせ、スカイ」
毎日のように聞いていた声にすかさず振り向くと、私と同じように、いつもよりずっと素敵な服に身を包んだ彼の姿があった。一瞬、見惚れてしまったが、すかさず表情をいつものセイウンスカイに戻す。
「遅いですよー? 女の子を待たせるなんて、トレーナーさんもまだまだですね」
「面目ない。けど良かったのか? こんな時間からで」
「ちゃんと学園に外出許可取ってますし、大丈夫ですよ。スケジュール管理の上手いトレーナーさんの事ですし、使える時間いっぱいしっかりセイちゃんを満足させてくれますよね?」
まずはいつものように、軽い口調で。そして、まるでレースの時のように、静かに、恐れず、正確に、右手を伸ばす。そして────彼の左手を取った。 - 20二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 01:47:09
「この手でしっかりナビゲートして下さいね、トレーナーさん」
勇気を持って右手を伸ばしたスカイに対し、彼は迷わずその手を握り返すと、笑顔で応える。
「ああ、もちろんだ」
「……!」
繋がった掌から伝わる暖かさが、スカイの心までしっかり届いた。赤らめた頬を隠すことなく、スカイは笑顔で応える。
「それで、どこへ行こうか」
「そうですね、それじゃまずは……」
待ち合わせ時間ぴったり。キラキラとした街角は、そこに集う人達を暖かい灯りで包んでいく。
手を取り合ったスカイとトレーナーは、今はまだ始まったばかりの、長い長い恋の道を、一緒に歩み出したのだった。
おしまい。
- 21二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 01:47:32
また新しいのが来てる!!!
ありがたい… - 22二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 02:14:23
ウワーッ!新作ありがとうございます!
なんかもう素晴らしい…恋するセイちゃんは健康にいい - 23二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 10:11:00
甘々なセイちゃんはいくらあっても困らない
- 24二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 15:28:55
ちょっと哀しい雰囲気だけどMIDNIGHT TRAVELERとかも見てみたい
- 25二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 21:46:14
懐メロによる良質なSSありがとうございます
- 26二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 01:50:44
- 27二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 10:41:57
違う、そうじゃないも見てみたい。
ちょっとしたボタンの掛け違いから逃げだしたセイちゃんを追いかけて追いついてするトレンディなセイトレもアリかもしれん。 - 28二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 16:15:37
違う、そうじゃないはトレンディすぎて難易度高そうだけど実際にやって見せたら最終話並みに盛り上がるのは間違いない。
- 29二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:49:30
「……1人にしてくれませんか、お願いだから」
今にも消えそうな声が、夜の潮騒に飲み込まれていく。遠ざかるその姿に感じるのは、自身に今できる事はこの場から去る事だけだという、重苦しい実感だけだった。
けれど、それは決して諦めじゃない。彼女は、セイウンスカイという、自身にとって初めての担当ウマ娘は、今はただ1人、必死になって戦っている。だから、自身にできる事は────
「壁が、見えるんだ。あなたが行けるのはここまで、って書いてある壁が。そこに向かって走るのは……怖い」
「怖いんだ。もう無理だって、思い知らされるのが……」
そうして日が昇り、沈み、迎えた静かな夜に、涙と共に溢れ出した彼女の本音を聞いた。宝塚記念のあと、不意に口をついて出た『つまんない』の、本当の意味を。策を練って、ひたすらに先頭を走り続けていた彼女にとって、後ろから迫ってくる重圧は際限なく膨れ上がり、知らず知らずの内に自分自身を傷付け、追い詰めていった。そして今、彼女は自分自身に突き付けられた限界という壁を前に立ちすくんでいる。
彼女を信じる、1人のトレーナーとして、今こそできる事。それは────
「────壁を壊すことは、まだ試してない。勇気をだしてぶつかって欲しい。今のスカイなら、きっと……いや、絶対に壊せる」
「……レースは分かんない。怖くて逃げちゃうかも……いいの、それで?」
「信じてる。それに……」
レースとトレーニングの為の資料を握りしめ、それでも微かに震えていた手を、その上から自身の両手で包んだ。
「勇気が出るまでずっと側にいる。怖かったら、迷わずこの手を思いっ切り握ってでも良い。2人で前へ進もう、スカイの手を、絶対に振りほどいたりしないから」
「……っ。何ですか、その……もう、あなたって、本当に……」
そう言って、彼女は静かに微笑んだ。瞳に浮かんだ涙の粒が、月明かりを映して宝石のように輝いていた。
- 30二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:54:26
東京レース場には、レースが始まる前から観客の歓声と、伝統ある天皇賞に挑むウマ娘達の闘気が渦巻いている。そして、その舞台へ赴く為の地下バ道には、セイウンスカイの姿もあった。
「ここでいいですよ、トレーナーさん」
そう言って微笑んだスカイに、笑顔と頷きで応える。あの夜の海で聞いたものとは違う、芯のある声だった。控え室での言葉を思い出す。
『皆にとっては平坦な道も、私にはずっと、山みたいにキツかった』
『劣等感を力にして、勝つために踏ん張り続けたんだ。だったら、勝負所で誰かに負けるわけにはいかない』
『期待して、見守っててよ。壁、壊して。勝ってくるから!』
あの夜、背中を丸めて不安に苛まれるまま俯いていたスカイはもういない。勝利を目指す1人のウマ娘として、堂々と闘気と熱気が渦巻くターフへと脚を進める。地下バ道に差し込む光の中に溶けていくような後ろ姿に、不安は微塵も感じなかった。
スカイの歩む道は、平坦でも、平凡でもない。けれど、彼女は力強く、静かに、もう一度その道の上を、確かな一歩を踏み出したのだ。
ゲートは窮屈だから苦手。けれど、どうしてか、今日は素直に枠杁を済ませる事が出来た。私の作戦はとっくにみんなに知れている。キングも、スペちゃんも、私を逃がすまいと、必ずあの長い直線を一気に駆け上がってくる。分かっているのに、今の私は、不思議と不安を感じていなかった。心が、あの日の朝焼けのように凪いでいる。不意に、自身の掌が目に入った。
『勇気が出るまでずっと側にいる』
『この手を思いっ切り握ってでも良い。2人で前へ進もう、スカイの手を、絶対に振りほどいたりしないから』
あの時の彼の手の温もりを、今もう一度、感じたような気がした。瞳を閉じて、掌を拳に変える。
もう涙はいらない。勇気は手に入れた、あとは壁を壊すだけだ。今日は……ううん、今日だけじゃない。これからも、もっともっと面白いレースをして見せよう。もちろん、あなたと2人で。いつまでも、どこまでも。
最後の1人が枠杁を終え、そして────セイウンスカイは、誰よりも速く、力強く、ターフを蹴って飛び出した。 - 31二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 23:55:18
電王のジャケットが怖いやつのほうかと思った
- 322922/07/13(水) 23:58:33
もう涙はいらないを出すなら釣果ゼロ……って思ってやってみたけどムズい!ムズいよ!>>2のセンスが羨ましい。でもせっかく書いたので俺も投げておく。
- 33二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 08:28:25
新しいの来てる!釣果ゼロは何度見ても良いよね、SSも良かったよ!
- 34二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 08:31:20
またまた新作ありがとうございます!
やっぱり釣果ゼロって育成屈指のイベだから何回見てもいい…。 - 35二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 12:16:30
- 36二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 18:02:43
ここのセイちゃんは連絡手段がポケベルでも違和感ないわ
- 37二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:03:06
激マブさんのアイデンティティが!
- 38二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:06:45
いつも寝る前にラインで連絡取り合ってるんだろうな
- 39二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:14:22
良質なセイちゃんSSだぁ
- 40二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 07:18:00
ありがたい…。
- 41二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 14:34:08
どれももう大分前の曲なのにいつ聞いても色あせないよなぁ
- 42二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 22:32:10
古い曲なのにずっと沁みるんだよね、心に
- 43二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 07:36:35
こういう雰囲気のセイちゃんもいいね
- 44二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 10:24:22
しっとり甘いセイちゃんいいよね
- 45二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 21:22:55
SSが良過ぎた結果、懐メロを漁り始めたわ
- 46二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 03:33:05
ほしゅ
- 47二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 11:59:03
とっても甘くてよかった...
- 48二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 19:05:55
また書くタイミングがあるなら見たいですわ
- 49二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 19:25:59
夢であいましょう
- 50二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 01:57:05
- 51二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 09:30:56
色褪せないね、昔の恋愛ソング
- 52二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 19:43:28
今も新しい歌出し続けるってすごいよな。
- 53二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 23:50:36
- 54二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 07:03:37
わかる、いいSSをありがとう
- 55二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 12:55:04
懐メロって最高なんだな
- 56二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 23:40:20
おまおれ。SSになった歌の時代がドンピシャなのよ……
- 57二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 10:17:26
- 58二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:27:12
青春な方のトレンディか……いいな……
- 59二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 00:26:06
- 60二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 09:41:38
- 61二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 14:11:13
温泉旅行まであると完璧
- 62二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 20:16:48
叶うならばもう一曲聴きたいところ
- 63二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 20:28:40
- 64二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 00:04:47
山下達郎は爽やかな歌多いからセイちゃんに合う歌多そうね
- 65二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 09:25:04
夏のコラージュとか合いそう
- 66二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 15:53:13
青空を連想させる曲が多いから結構合ってる曲多いよね
- 67二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 19:31:50
夏の曲とかよく似合うよね
- 68二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 22:04:54
トレンディな甘酸っぱい恋愛してるセイちゃん、健康にいい
- 69二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 08:23:06
時代が変わっても良いものは良いんだなぁ
- 70二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 16:03:04
最近の曲もいいけど、ちょっと前の曲ってわりかしストレートな内容だから胸に響くよね
- 71二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 23:45:15
史実+アプリ下敷きで。
その日の夜は、前の日から降り続いていた雨のせいで、時節の割に冷えていた。もうすぐ衣替えかという時期にこの肌寒さは多少堪える。故に暖かめのコートを身に纏っていた彼は、改札内の売店で買い出しを一通り済ませ、荷物を持ってホームに立った。
「あっ、トレーナーさん。こっちこっち」
その声に軽く目線を動かし、彼はホームに立つ彼の担当ウマ娘・セイウンスカイの姿を瞳に映した。笑顔を返して、脚を彼女の元へ動かす。
「お待たせ、それにしても冷えるな」
「まあ、昨日からずっと雨降りでしたからね」
そう言って互いに困ったような笑顔を見合わせる。予約した指定席のある車両の乗車位置案内に並び、荷物を置いてまずは一息。
「スカイ、寒くないか?」
「大丈夫ですよ、こう見えて季節外れの防寒対策はバッチリですから。あ、でも……」
そこで少し言い淀み、スカイはニッとイタズラな笑みを浮かべ、彼に流し目を送る。
「……こんな時、程よい暖かさの飲み物があると嬉しいかな~?」
その言葉に、彼は予想通りとばかりに口角を上げると、先程売店で買った暖かい飲み物を取り出した。
スカイもまた、満足げな笑みを浮かべる。
「流石は私のトレーナーさん、分かってますね♪」
「買ったばかりでまだ熱いかもしれないから、気を付けてな」
そう言ってスカイに暖かいペットボトルを渡したその時、ホームを貫くような汽笛と共に宵闇から電気機関車のヘッドライトが見えた。
- 72二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 23:49:43
「楽しみだなぁ、夜行列車なんて初めてです」
「スカイに同じく。でも、本当に良かったのか? 寝台車は揺れるから少し寝にくいって聞いたけど……」
「確かにそういう話も聞きますねぇ。けどまあ、少しの不便も旅の醍醐味って事で♪」
そう言って、スカイは右手でピースを作りお決まりのポーズを返した。その様子に、彼もまたホッとしたように笑顔を返すのだった。その内にゆっくりと動き出した車窓はすぐにホームの景色から夜の街へと変わった。流星のような街灯りが、車窓にキラキラと流れていく。向かい合って座席に腰掛け、2人は静かにその景色を眺めていた。
「いよいよ旅の始まりって感じですねぇ、トレーナーさん♪」
「こうして窓の向こうを見てると、子供の頃を思い出すよ。駅弁はどうする?」
「んー、もう少し夜景を楽しんでからでお願いします」
そう言って、スカイは再び視線を窓の外へやった。声色は明るかったが、車窓に反射して映ったスカイの表情は、どこか遠くを見ているようだった。彼は敢えて何も言わず、スカイと一緒に夜景を見つめていた。
スペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサー、キングヘイロー、そして、セイウンスカイ。彼女達の世代はとりわけ実力者が集まり、"黄金世代"と持て囃された。彼の担当ウマ娘となったスカイは、クラシックでは皐月賞と、ダービーではスペに及ばなかったものの菊花賞を制し、クラシック二冠ウマ娘となった。
それからも、ジャパンカップ、凱旋門賞、有馬記念、天皇賞、宝塚記念……彼女達の活躍は各所で響き渡り、黄金時代と言っても過言ではなかった。元より仲も良かった5人は、同じ世代のツルマルツヨシや先輩のサイレンススズカ等と時に一緒に遊びに出掛け、時にライバルとして鎬を削り合ったりと、ウマ娘としての青春をありったけ謳歌していた。 - 73二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 23:51:42
それから時は過ぎ、最初にエルが、その年の終わりにスペ、そしてグラスが、トゥインクル・シリーズのターフを去った。
昨年の有馬記念を最後にキングも去り、クラシックの黄金時代と呼ばれた面々でトゥインクル・シリーズのターフに残っていたのは、当時休養中だったスカイを残すのみとなった。
そして、休養から復帰して迎えた二度目の天皇賞(春)。セイウンスカイは、黄金時代から新時代への移り変わりをその目で見届け、トゥインクル・シリーズから黄金世代の幕を下ろしたのだった。
華々しく執り行われた引退式の夜。スカイと彼は、青春の煌めきを分かち合ったライバル達と、スカイの一番の理解者だったニシノフラワーに出迎えられた。その脚でスカイのトレーナー室へ向かうと、こっそり用意していたと言う豪華な装飾と沢山のごちそうが待っていた。二度目の引退式、という名のセイちゃんお疲れ様会はそれから夜通し続き、スカイはデビューから今までで一番笑い、一番食べ、そして、一番涙を流した。
ひとしきり食べ、呑んで、思い出話に花を咲かせていたその時、不意にスペがスカイに問いかけた。
「────セイちゃん、ドリームトロフィーリーグはどうするの?」
スペの一言を、あるいは誰かが話題にするのを待っていたかのように、他の皆も揃って続く。
「結局全員そろってのレースは叶いませんでしたから、今度こそ5人揃ってレースがしたいですね~」
「全員揃っても、最強はエルに決まってマース!」
「何言ってるのよ、貴方達全員、このキングのバックダンサーにしてあげるわ!」
変わらない親友達の楽しげな声に、スカイは笑顔で応えた。スカイがドリームトロフィーリーグに移籍したら、あの頃のようにこれからも一緒に走り続けたいと、ライバル達の誰もが思っていた。実際、スカイの元にはURAから移籍の打診が来ていたし、引退式の記者会見でもリーグ移籍は話題に上がっていた。
しかし、スカイはその場で明確な答えを返さなかった。
「……引退式も終わったばっかだし、ちょっと、心の整理を付けたくてさ……色々と、ね」
どこか歯切れの悪い言葉と共にはにかんだスカイの選択を、スペ達は尊重した。スカイのラストランとなった天皇賞(春)をレース場で、その目で見ていた分、スカイの内心をある程度察していたのかもしれない。
最後にもう一度人参ジュースで乾杯して、お疲れ様会はお開きとなった。 - 74二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 23:57:13
スカイは笑顔だったが、その心の内は曇天に覆われていた。
休養中にドリームトロフィーリーグで走るスぺ達の活躍は目にしていたし、その走りに心も震えた。クラシック期の、あの譲れない闘いの数々を思い出し、脚が疼いた。けれど、現実は否応なくレースの結果となってターフへ戻ってきたスカイに突き付けられる。
またみんなと走りたい。それは間違いなく本心だ。心の底から、皆のいる場所へ駆けて行きたいと思っている。けれど、あの頃のようなレースを、皆をあっと言わせるようなレースを、今の自分は出来るだろうか。それに────
その時、思い浮かぶのは彼の事だった。彼の元に届いていたメールをあの時偶然目にしていなければ、ここまで迷うことは無かったかもしれない。だからかもしれないが、そうして悶々と考えながら脚を動かしていると、自然に辿り着くのはトレーナー室だった。目の前にそびえ立つ大きく厚い壁に立ち向かい、先に進むための勇気をくれた、背中を押してくれた、彼の元へ。きっと今度も、心の中に渦巻く葛藤に、もう一度答えをくれる……そんな気がして。
「やっほー、トレーナーさん」
「ああ、丁度良かった。スカイ、実は、折り入って頼みたい事があるんだ」
「何です? あー、もしかして……」
まずはいつものように、軽い挨拶。それからソファを借りて、今後の事について少しずつ話を。そう考えていたスカイは先手を取られた形になり、思わず声色が重くなってしまった。しかし、スカイの内心を読んだかのように、彼は首を横に振った。 - 75二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:00:33
「リーグ移籍の事なら、ゆっくり考えて決めれば良い。仮に今すぐ移籍を決めても、次のリーグで走るのはどんなに早くても今年の冬からになる。時間はたっぷりあるから、心配する事はないよ。どんな選択をしたとしても、スカイが決めた事を尊重するから」
そう言って力強く頷いた彼に、スカイもまた安心したように笑みを返した。こういう時、複雑な胸の内を大なり小なりそっと読み取ってくれるような関係になれた辺り、本当にありがたいと思う。
「では、お言葉に甘えて。それで、頼みって何です?」
「頼みって言うのは、スカイのおじいさんの事なんだ」
「じいちゃんの……?」
「クラシックの頃から何かとお世話になったけど、結局最後までこちらにお越し頂くか、電話を貰ってばかりだっただろう? 一度、こちらからご挨拶に行きたいと思っていたんだ。こんなタイミングになってしまったけれど……どうだろう?」
走る理由の一つでもあった祖父の元へ。心身を休ませる意味もあるかもしれないが、このタイミングだからこそ原点に立ち返る、というのも悪くない。もしかしたら、この旅で自分なりに区切りをつけ、先へ進む為の答えを見つけられるかもしれない。
スカイはふうとため息をつき、両の手を合わせて口角を上げた。
「そういう事なら、多分いつでも大丈夫です。じいちゃんもトレーナーさんの事は気に入ってるみたいですし、私が連絡入れたらきっと山のように魚を釣って出迎えてくれますよ」
「そうか、ありがとう。それじゃあ日程を決めて、またあれこれ準備しないとな」
「おやおや? そんなにやる気なら、温泉旅行よろしくまたセイちゃんの事任せちゃいますよ?」
「もちろん、ここまで頑張ってきたんだからな」
いつだったか、湯治の為に温泉旅行に出かけた時のノリで提案してみたが、意外にもすんなり受け入れられてしまった。あの時と同じように頑張ったから、と言われる事に、なんとなくむず痒さを感じる。
「えへへ、じゃあお言葉に甘えて。あ、そうだトレーナーさん。じいちゃん家に行くなら、一つ提案があるんですが……」
「うん?」
「一応引退も済ませて時間もある事ですし、移動手段は夜行列車……なんてどうでしょう?」 - 76二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:05:55
その提案に初めは驚いたが、折角スカイの方から提案してくれたので、それを尊重する事にした。自分も興味が無かったと言えば、嘘になる。
そうして、現在に至る。どうせならと食堂車を提案してみたが、こちらはあっさり袖にされた。スカイと向かい合って二人、列車に揺られながら豪華な駅弁というのも悪くない。そうしてひとしきり談笑を済ませれば、列車の消灯時間はすぐだ。後は座席の上にある寝台に身体を横たえるだけ、なのだが。
「うーん……思ったよりずっと狭いですね」
「寝台は一人用だからな。それより……なんでこっちにいるんだ?余計狭いし、人としてトレーナーとしても色んな意味で困るからやめて欲しいんだけど」
彼が怪訝な声を上げるのも無理はない。スカイは自身の寝台を使用せず、備え付けの布団を彼の寝台に持ち込んで二重にすると、それに気づいた彼の元へ素早く転がり込んできたのだ。世間体やらなんやらで気を遣う彼に、スカイは何食わぬ笑顔で応える。
「やだなあ、温泉旅行の時も言ったじゃありませんか。お布団とネックピローだけじゃ眠れないので、今日もトレーナーさんを貸して貰いまーす♪」
そう言われれば、そんな事もあった。あの時はバスの中で肩を貸したが、今度は全身を借りるつもりらしい。経験上持ってきたネックピローが無駄にならず良かったと思うべきなのだろうか。悶々と考える彼に、スカイは変わらず楽し気に続ける
「まあまあ、もう二人で温泉旅行も行っちゃってるんですから、堅い事言いっこなしですよ? あ、なんならホラ、また頭撫でます? 撫で心地は変わらずですよ?」
彼にとっては少々困る状況に対し随分と楽し気なスカイに戸惑い、何と返そうか迷っていると、アナウンスと共に客車の灯りが消え、非常灯の明かりが通路から漏れてくるばかりとなった。
「ありゃ、時間切れですね。それじゃトレーナーさん、お休みなさーい♪」
そう言って彼の困惑ごと話を切ると、スカイは彼に身体を預けるようにくるりと反対を向き、すやすやと寝息を立て始めた。思わず、安心したように息を付く。こんな言い方は失礼かもしれないが、今が潮時と定め、皆に労いの言葉を貰って背負った物を降ろした分だけ心が軽くなったのだと思いたい。
だからこそ、せめて移籍の話が今のスカイにとって心の枷にならないよう祈りつつ、彼もまた規則的に響く車輪の音を聞きながら、静かに目を閉じた - 77二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:11:17
どこまでも高い空が目の前に広がる。あの日スカイと見た、どこまでも青い空にそっくりだった。ふと気がつくと、彼はいつのまにかただ一人、ターフの上に立っていた。誰かを探すように目線を前にやると、スカイが静かに佇んでいる。空に映える髪を風に揺らし、こちらへ振り向いた彼女は────
列車がガタンと揺れると同時に、目が覚めた。環境が違う分眠りが浅くなったのだろうか、やけにはっきりとした夢だった。全身の感覚は今までのそれが夢だった事を如実に物語っていたが、浅い眠りの中で見た夢はどこか現実味があったのも事実だ。首筋に流れた寝汗の感覚が、それを殊更に意識させる。なぜなら、あの時、スカイは────
思わず目線を隣に向けると、瞳を閉じる前と変わらないスカイの姿があった。その姿に心からの安堵を覚えた彼は、大きく息を吸って、吐いて。もう一度瞳を閉じた。
「────トレーナーさん」
不意の呼びかけに、思わず閉じかけた瞳を開き、スカイの方へ向けた。すると、スカイは静かにこちらへ身体を向ける。その表情は、夢の中の彼女と同じ、とても、とても哀しい笑みを浮かべていた。
「奇遇、ですね。私も今、夢を見てました。きっと、あなたと同じ夢を見てたかもしれません」
思わず息を呑んだ。胸が詰まるような感覚で声を出せずにいると、スカイはそっと身体を寄せてきた。
「トレーナーさん、眠くなるまで、少しだけ……お話、良いですか……」
車内に響く車輪の音にかき消されそうな声が聞こえたと思ったその時、スカイは彼の胸に自分の顔を埋めた。
彼は、驚かなかった。彼の脳裏に、いつかの夜の海の光景が蘇った。あの時聞いた波の音と、スカイの瞳からこぼれ落ちた涙が月明かりを映していた事までも。だから、彼は静かに、スカイの頭を撫でた。
「ふふ……ああは言いましたけど……今日はそんなにふわふわしてませんよ」
「変わらないさ」
「……変わりましたよ」
スカイが、ともすれば彼の言葉を突き放すように返しても、彼の手は優しくスカイを撫で続けた。 - 78二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:15:51
「……トレーナーさん、覚えてます? 宝塚記念の後、私の目の前に壁が見えるって言ってた事」
顔を埋めたまま静かに語り始めたスカイの言葉に、彼は耳を傾ける。ともすれば列車の音に呑まれそうな声を、スカイの想いを、欠片も零すこと無く受け取ろうとしていた。力が籠りすぎないように、撫でる手もそっと、優しく。
「あの時、壁を避けるでも無く、よじ登るでもなく、ぶつかって壊す勇気をくれたのは、トレーナーさんでしたね」
懐かしむように、言葉を紡ぐ。
「壊した先にあった壁は……もっと大きかった。けれど、今度はトレーナーさんだけじゃない、みんなが壊す勇気をくれた」
長期休養を余儀なくされた、スカイとの長く辛い日々が脳裏に過ぎる。
だからこそ、"もう一度、ターフに戻りたい"その言葉を聞いた日の事は、きっと一生忘れない。その日見た高松宮記念で、激闘と挑戦の果てに並み居るライバルをまとめて撫で切りにした一流のライバルの姿は、スカイの瞳に今も焼き付いているに違いない。
「トレーナーさん」
スカイが、静かに顔を持ち上げる。
「────私、知ってるんです。トレーナーさんに次の担当ウマ娘を決めるよう話が来てる事。チーム担当の推薦が来てる事も」
驚愕の表情と共に彼の手が止まった。同時に、胸が詰まるような感覚が彼に襲いかかる。
セイウンスカイは、彼にとって初めての担当ウマ娘である。中央トレセン学園の新人トレーナーの初めての担当ウマ娘がクラシック2冠ウマ娘となり、天皇賞(秋)の盾も手にしたのだ。彼のトレーナーとしての才覚は、最早疑いの余地はないと言える。
そして、その担当ウマ娘はトゥインクル・シリーズを去る決断をした。ならば、周囲はどう考えるだろうか。答えは火を見るより明らかだ。唯でさえ中央トレセン学園に在籍しているウマ娘の数に対してトレーナーの数は不足している。夢を追い、トゥインクル・シリーズへの特急券をくれるトレーナーを待っているウマ娘は多い。そして、黄金世代の一人に数えられる二冠ウマ娘を育て上げた気鋭の新人トレーナーの手を取った新たなウマ娘の活躍を、レース場に集まるファンは待ち望んでいるのだ。
スカイは、瞳に浮かべた涙を隠すように、顔を俯けた。 - 79二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:18:08
「分かってるんです。私の脚は、もうあの頃のようには動かせない。今の私がドリームトロフィーリーグに行っても、スペちゃん達が期待してるあの頃の走りなんて、出来る訳がない。トレーナーさんも……ドリームトロフィーに行く私より、新しい子か、チームを持ったりして、もっと沢山の子の夢を叶えてあげる……それがきっと、正解なんです」
「それは……!」
その言葉を聞いた彼の口は即座に反応した。スカイを誰よりも信じ、支えてきた彼だからこそ、その言葉をすぐに否定したかった。けれど、それより早く、スカイは俯けていた顔を彼に向け、涙がこぼれ落ちるのも構わずに自身の想いを告げた。
「けど、私は走りたい。もう一度、スペちゃん達と……それで、もう一度、やって見せたいんです! 勝ちたいんです! みんなが、あの日みたいに驚くようなレースをして見せたい! でも……!」
唇に、両手に、瞼に思い切り力を込めて、溢れ出そうな感情を両腕で振り払う。そして、それをしっかりと言葉にして彼に届ける。
「その為には……そこへ行くには……! トレーナーさんが、あなたが一緒じゃなきゃダメなんです……! だから、皆に追いつくまでで良いから……! もう、ほんの少しだけ、私に壁を壊す勇気を、前へ進む勇気を……!?」
スカイがその言葉を言い終わるより早く、彼は両の腕を動かした。目の前のスカイを、しっかりと、けれど優しく抱きしめた。
「一緒に行こう、ドリームトロフィーリーグへ」
「……!」
「夢の舞台に集まったライバル達を、観客達を、今活躍してるウマ娘達皆を、誰もが驚くようなレースを見せに行こう」
「っ……トレーナー、さん……!」
スカイを抱きしめた両の腕に、スカイもまた自身の両の腕で応えた。そして、言葉と涙でひとしきり彼の胸に想いを吐き出したスカイは、受け止めたくれた安堵もあってか、そのまま静かに眠りに落ちた。彼もまた、それを見届けると、静かに瞳を閉じる。一つになった想いを乗せて、列車は少しだけ冷たい夜を駆けていくのだった。 - 80二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:23:30
「おはよう、スカイ」
「おはようございます。今朝はトレーナーさんの方が遅かったですね」
彼が目が覚ました時、スカイは一足先に目を覚まし、座席で寛いでいた。朝の挨拶に、見慣れた笑顔を返したスカイに安堵の微笑みを浮かべ、彼も寝台を下りた。スカイの向かい側に座ろうとすると、徐ろにスカイが彼の服を引いた。
「トレーナーさんはここですよ」
そう言うと、スカイは彼を窓際に座らせ、自身はその隣に座り、彼に身体を寄せた。
「言ったでしょ? セイちゃん、お布団や枕が変わると落ち着かない性分なので」
そう言って身体を預け、彼を見上げたスカイは穏やかに微笑んでいた。彼もまた、安心したように微笑みを返す。
すると、スカイが窓の向こうへ目をやった。
「あ、トレーナーさん、海が……」
そう促されて見た車窓の向こうには、朝焼けを抱いてキラキラと光る海が一面に広がっていた。合宿で見慣れていたハズの朝の海が、今朝はとても、とても美しく思えた。不意に、スカイが彼の手を握る。
「綺麗、ですね……」
瞳に朝焼けを映し、微笑むスカイ。その微笑みに、彼の胸には嬉しい気持ちと、どこか切ない気持ちが溢れていた。
これからスカイと歩む新しい道のりは、決して長くはない。それでも彼は、その道を、悔いの残らないようにスカイと歩みたいと、心から願った。その想いのまま、自身に身体を預け、手を取ったスカイの頭をもう一度、空いた手で優しく撫でる。スカイもまた、その想いに応えるように笑みを浮かべ、彼に身体を寄せた。
スカイの祖父が待っている駅まで、あともう少し。この先の事は、まだ分からない。あの日のように、怖くて逃げ出しそうになる事もあるかもしれない。それでも、少しでも長く、彼と二人で歩む旅路が続くように祈りながら、スカイは彼の手をしっかり握り締め、朝日を浴びる夜行列車に揺られて行くのだった。 - 81二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:27:42
- 82二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:30:11
- 83二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 08:28:01
新作来てる!
すげえ良い話だった、思わずグッと来たよ。このままドリームトロフィーも活躍して幸せになって欲しいぜ。 - 84二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 11:52:39
- 85二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 19:17:07
いつか、晴れた日に君と────。
「その歌、今朝からずっと歌ってますけど、お気に入りですか?」
「ああ、随分古い曲だけど、昨日久しぶりにラジオでリクエストされててさ、そしたら頭から離れなくなった」
「あぁ~、あるあるですねぇ」
そう言って困ったように笑いながらも、彼の歌声に耳を傾ける。ウイニングライブの指導もする立場上、鼻歌もお手のものだ。
「スカイなら、まずは釣りか?それとも、お気に入りの場所でお昼寝?」
「ん?ああ、いつか晴れた日に、君と……ですか」
スカイは人差し指を口に当て、うーんと考え込む。そんなに難しい事を聞いただろうかと考えて居ると、スカイは口角をにっこり上げて、彼に向き直る。
「そーですねえ、例えばフラワーとなら、野に咲く花を探そう、ってトコでしょうか?」
好きな歌詞を上手く使った返しに彼がおっ、と楽しそうな反応を示すと、スカイは笑顔でウインク。
それから、親友達との晴れた日の事を空想する。
スペちゃんなら、お弁当を持ってお出かけ。グラスちゃんはスペちゃんにお茶菓子を持って付いていく、かな。エルちゃんは運動公園でアスレチック。ツルちゃんはそれに元気よく付いていって、エルちゃんより早くバテちゃうかも。キングは、きっとお洒落なカフェのテラスで一流の午後をお過ごしかな。
まるで青春の日々を懐かしむように弾む語りに、彼の脳裏にもその日々が鮮やかに蘇った。
「それで、セイちゃんはですね」
最後に自身の名を挙げると、スカイは彼の左手をそっと持ち上げ、自身のそれと重ねた。二人の薬指が、キラリと光る。
「お散歩でも、お昼寝でも、釣りでも、あなたと一緒なら何処へでも」
そう言って微笑んだスカイを、彼は愛おしげに抱き寄せた。あの頃と変わらない笑顔と一緒に、どこまでも綺麗な空の下を歩いていきたい。そんな小さくて大切な想いが、彼の胸を歌と共にいっぱいにしていた。 - 86二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 19:19:12
- 87二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 21:29:42
- 88二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 21:49:04
- 89二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:11:30
色んな時系列の幸せセイちゃんが見れて良き……
- 90二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 08:18:03
わかる
- 91二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 18:29:11
このレスは削除されています
- 92二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 23:52:23
SS素晴らしいのであげ
- 93二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 07:48:35
あげ
- 94二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 12:54:09
こういうほろ苦なのもセイちゃん似合う
- 95二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 23:54:25
懐メロとSSって相性いいなぁ
そしてこんなトレンディな恋愛がセイちゃん似合う - 96二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 08:15:31
あげ
- 97二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 12:14:04
- 98二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:54:02
- 99二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 08:02:24
あげ
- 100二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 14:32:38
見ててこっちがじれったいと言うかムズムズするくらい甘酸っぱいのが似合ってる気がする。
- 101二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 19:45:23
なんか懐メロな結婚ソングも似合いそう
- 102二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:01:14
そっちだと激マブになりそうな気もする
- 103二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 00:19:55
となると付き合ってそれなりな時間の歌がいいのかな
- 104二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 08:03:59
あげ
- 105二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 11:23:30
夏の甘酸っぱい恋愛ソング、ベタだけどほんとに似合う
- 106二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 19:45:57
海に空に情景がピッタリだもんね。
- 107二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 23:27:46
調べ方が悪いのか、昔の夏のラブソングが松田聖子のイメージになってしまっている
- 108二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 10:00:12
あげ
- 109二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 20:59:49
- 110二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 21:03:20
山下達郎なら悲しみのJODYが好きなんだけどアレは失恋とか悲しい恋みたいな曲だしなぁ
ここのセイちゃんは幸せであってほしい - 111二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 01:56:20
だねぇ…。
昭和長すぎて調べるのが地味に大変
平成だとわりかし似合うのあるけど - 112二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 10:39:06
- 113二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 20:56:53
- 114二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:23:41
「いやぁ、本当に良い天気ですねぇ、トレーナーさん」
なめらかな白い砂で満たされた砂浜を目指し、海を横目に車が駆け抜けていく。楽しげに耳と尻尾を揺らし、助手席に座るスカイの口から不意に漏れ出た夏の空と海に対する感想は、彼の心も浮き立たせた。
「早起きした甲斐があったな、皆もきっと喜ぶよ」
「えへへ……これで前日仕入れたお魚達にも箔がつくってものですね」
そう言って、スカイは後部座席に積まれた二つのクーラーボックスへ目をやった。片方には、ネイチャの紹介で手に入れた食材の数々が、もう一つには、スカイが早朝から海で仕入れてきた魚達が入っていた。
タイキが提案した合宿直前の息抜きを兼ねたバーベキュー大会は、同期のスズカやフクキタルを、そして一つ下の世代に当たるスカイ達を次々巻き込み、いつしか浜辺での大規模なバーベキュー大会となった。
スペと共に食材調達係を担う事となったスカイは一計を案じ、バーベキュー当日にトレーナーを伴って海へとやって来た。折角ならば、得意の釣りで焼いて美味しい魚の一匹でも釣り上げて行こうと言うのである。結果は見事大漁、スカイは驚く皆の顔を想像し、ウキウキしながらトレーナーと共に会場となる砂浜へと向かっていた。
「ねえトレーナーさん、ちょっと窓開けて良いですか?」
「もちろん」
逸る心を抑えきれないのか、やった、と跳ねるような声を上げる。心を躍らせたスカイが車の窓を降ろすと、限りない夏の匂いが、一気に車内へと流れ込んできた。
「ひゃぁー、あっつい! けどきもちいー!」
微かに香る海風を浴びて舞い上がり、スカイの綺麗な髪が舞い上がり、風になびく。トレーナーは、はしゃぐスカイとは対照的に、静かに目を細めた。 - 115二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:27:05
「なんだか懐かしいな、スカイとのトレーニング初日を思い出したよ」
「ふふ、あの時も大物、釣り上げましたね」
早朝、スカイが海で釣った大物を、トレーナーが美味しい朝ご飯にする。それが二人のトゥインクル・シリーズの第一歩だった。朝焼けを浴びて煌めく海を見ながら学園に向かったあの日を思い出し、感慨深く頷いたスカイは、すぐにイタズラな笑みを浮かべる。
「でも、まだまだ大物、釣り上げ足りない……そんな顔してますよ?」
スカイの言葉で、彼は自分がレース場に居るときと同じ表情をしている事に気がついた。そう、大物を取りに行く二人の旅路は、まだ始まったばかり。あっと驚くレースをして見せる、その為にも、合宿前にしっかり息抜きし、鋭気を養わなくてはならない。スカイもそれを良く分かっていた。楽しそうな笑みをそのままに、スカイは腕を突き上げた。
「それじゃあ、私達が目指すべき大物に向かって、まずは腹ごしらえですね! さあさあトレーナーさん、急ぎましょう!」
その言葉にニッと笑って頷くと、彼はアクセルを踏み込む。時に気怠げで、サボり癖のあるスカイ。けれど彼は、スカイが連れて行ってくれる驚きの世界を、皆をあっと言わせるレースを見せてくれると心から信じていた。
故に、今はスカイと共にバーベキューの準備を進めている皆の待つ砂浜を目指し、高気圧がもたらした眩しい夏の道を、スカイと共に駆けて行くのだった。 - 116二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:29:42
セイちゃん@山下達郎でトレンディな良いのないかなーと思ってたら、高気圧ガールにドハマりしたので書いてみた。
ちょっとトレンディ感が薄れちゃったような気もするけど、個人的には満足! - 11711422/08/01(月) 00:52:14
ウワーッ!よく見たら表現が被ってる!1レス目の最後は
微かに香る海風を浴びて、スカイの綺麗な髪が舞い上がり、風になびく。
でお願いします……お目汚し失礼致しました。 - 118二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:55:22
- 119二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 07:56:16
あげ
- 120二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 12:10:10
夏、車、浜辺ってめちゃくちゃ定番だけど最高のシチュエーション
- 121二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 23:28:54
SS素敵なのでほしゅ
- 122二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 06:40:10
車窓から浴びる夏の匂いっていいよね···
- 123二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 15:15:22
- 124二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 22:10:32
山下達郎だけで四季のSS出来そう
- 125二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 22:13:04
夏はもういっぱいある
冬はクリスマス・イブ
春秋は…何があるかな? - 126二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 07:46:32
調べてみよ
- 127二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 18:45:06
あげ
- 128二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 06:42:26
あげ
- 129二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 18:26:32
もうちょっとだけトレンディ
- 130二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 00:31:17
- 131二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 08:17:23
あげあげ
- 132二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 11:24:24
たしかに…
- 133二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 21:30:17
竹内まりやの曲はいい感じになりそう
- 134二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 04:25:58
あげ
- 135二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 14:11:11
まだまだトレンディしたい
- 136二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 22:31:54
スレ名の曲、仕事の取引先が保留にしたら流れて来てセイちゃんスレで見た奴!って感動した
- 137二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 08:21:08
上げ
- 138二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 18:55:00
ほしゅ
- 139二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:33:38
こうして眺めてみると結構な曲数集まったもんだ
- 140二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 02:35:39
- 141二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 08:13:43
片想いが叶わないとは限らないしね!
- 142二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 15:04:41
- 143二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 22:38:58
めちゃくちゃわかる
- 144二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:07:58
片思いっぽいラブソングを題材にしたSSはビターになるというジンクスがあるそうです。ですので。
12月24日────街の煌めきが聖夜を彩り、人々は大切な人や想い人達と素敵な時間を過ごす、そんな夜。先程からパラパラと降り始めた雨は、夜更け過ぎには雪に変わると予報が出ていた。今年は、きっとホワイトクリスマスになるだろう。
学園から遠く離れた地上の星を想いながら、彼は自室でノートパソコンに向き合い、学園に提出する報告書とにらめっこを続けていた。小一時間程資料と画面を往復させ、最後のEnterキーを軽快に弾く。そうして彼は腕を伸ばして身体を捻り、冷めたコーヒーを飲み干した。
仕事を終えて脱力と同時に口からこぼれるのは、自身の担当ウマ娘の事だ。
「今頃、同期みんなで楽しくやってるんだろうな」
微笑って、彼女の笑顔を空想する。黄金世代と称された彼女のライバル達は、唯一無二の親友達でもある。普段から何かと食事に気を使うウマ娘達だ、こんな日くらい大好きな仲間達とごちそうとケーキを囲むのも良いだろう。彼は努めてそう思っていた。
ふと、彼の目に小さな包みが目に入る。Merry.Christmasと書かれたメッセージカードに、クリスマスカラーのリボン。大切な担当ウマ娘への、クリスマスプレゼントだ。ラッピングの中に包まれた大切な想いは、彼の胸を時に昂ぶらせ、時に切なくする。けれど、彼は自分を律するように笑った。
「スカイの事だし、こう畏まったプレゼントだとまたからかわれるかな? 喜んでくれると良いけど」
そうしてプレゼントをポンポンと撫で、作業に戻ろうとしたその時、突然インターホンが鳴った。
誰だろう、こんな日に。ああ、さては同期のトレーナー連中だな? 確か、俺と同じく学園に提出する書類が終わらくて、担当とクリスマスパーティーが出来ないとかわめいてたな。きっとそいつを片付けて、男同士で傷の舐め合いとしゃれ込むつもりだろう。あの時は自業自得だと笑ってやったが、お互い一人きりのクリスマス・イブというのも哀しいもの。今夜くらいは付き合ってやろう。
そう思い至った彼は、念のためスカイへのプレゼントを隠すと、いそいそと玄関へ駆けて行き、扉を開けた。
そこで彼を出迎えたのは、特大サイズのクラッカーの爆発する音だった。
- 145二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:14:42
「な……なんだ!?」
「……クリスマスサプライズ、またまた大成功~♪」
白黒させていた目を爆発した方に向けると、そこには誰であろう彼の担当ウマ娘、セイウンスカイの姿があった。この場にいるはずのないスカイの登場に呆気に取られた彼に対し、してやったりと言わんばかりの笑顔を向けている。
「す、スカイ!? どうしてここに!?」
「にゃはは♪ そ・れ・は~? トレーナーさんのおこたの中で説明致しまーす♪」
未だに驚きの表情を浮かべていた彼をするりと躱し、スカイはクラッカーの残骸を携えて楽しそうに跳ねながら彼の部屋へと入っていった。慌てて彼が追いかけてリビングへ戻ると、スカイは仕事の道具だらけで今日という日に相応しいものが一つも見当たらない部屋をぐるりと見回し、やれやれと首を振った。
「まあ、やっぱりそんな事だろうと思いましたよ。クリスマスくらい、お仕事をサボっても良いじゃありませんか」
その言葉に、彼はハッとする。以前、スカイがクリスマスのサプライズと称してパーティーをセッティングしてくれた時も、彼はトレーナーとしての仕事で頭がいっぱいで、クリスマスの事を忘れていた。今度は忘れてはいなかったが、せっかくのクリスマスを仕事に費やしていたのがバレたのはこれで二度目、バツが悪くて思わず苦笑い。
「面目ない。けど、仕事はたった今終わった所だ。今片付けるから、炬燵でゆっくりしていてくれ」
彼がそう言ってノートパソコンを閉じると、スカイは楽しげに彼の下へにじり寄り、後ろ手に隠していた大きな包みを彼の前に取り出した。
「そう言う事なら~……パーティーしましょう♪ クリスマスパーティー♪」
スカイの楽しげな声と共に、二人のクリスマスパーティーが幕を開けるのだった。 - 146二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:18:15
「スカイ、そろそろ帰らないと門限が……」
「うにゃ~……今夜は外泊届出してるからダイジョーブでーす……」
「ああ、そうだったな。けど寝るなら布団を敷くからそっちで寝てくれないか。炬燵で寝たら風邪を引く」
スカイが用意してくれた料理と、彼がせめて雰囲気だけでもと買っておいたケーキを食べ終えた頃には、スカイはすっかり満足したのか、炬燵の中で猫のように丸まっていた。腹も膨れたせいか、眠たそうに頭を机の上で転がしている。
「今夜くらい良いじゃありませんか~、今炬燵から出たらそれこそセイちゃん寒くて風邪引いちゃいまーす」
そう言うと、スカイはすっかり炬燵に潜り込み、頭だけをだして口を尖らせた。どうやら、今夜はとことん自身の言う事を聞かせるつもりらしい。ため息一つ、ふと窓の外を見ると、いつしか雨音がベランダを叩く音が消え、カーテンの隙間には深々と雪が舞い始めていた。
「仕方ない。その代わり電源は落とさないといけないから、その中でもう1枚掛け布団を掛けて、ジャージもちゃんと着て寝る事。今風邪を引いたら事だからな」
「やった♪ 流石はトレーナーさん、話が分かる!」
彼の言葉にスカイはくるりと仰向けになり、速攻で眠る準備を整える。
そんなスカイに中で被る為の布団を渡すと、おもむろにスカイが彼を呼び止めた。
「トレーナーさん、セイちゃんうっかり忘れる所でした」
何を、と聞き返すと、スカイはモゾモゾ炬燵の中で身体を動かしたと思ったら、カラフルな包みを取り出した。
「メリークリスマス、トレーナーさん」
「……!」 - 147二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:20:19
彼は一瞬、呆気に取られたが、すぐにスカイに笑顔を返すと、スカイからのプレゼントをしっかりと受け取った。
「ありがとう、スカイ。嬉しいよ」
「えへへ……あ、中身はまだ開けちゃダメですよ? 今日はイブ、プレゼントは明日のお楽しみって事で。それじゃあトレーナーさん、お休みなさい」
「スカイ、あと少しだけ良いか?」
炬燵に潜り込もうとするスカイを引き留めると、彼はいそいそと自室へ脚を運んだ。そして、あの包みを両手で抱え、自身もまたスカイへと差し出す。
「メリークリスマス、スカイ」
思わぬお返しにスカイは一瞬驚きで目を丸くしていたが、次第に目を細め、頬を染めた。
「……トレーナーさん、私の事を驚かすのも板についてきましたね」
「なんたって、スカイのトレーナーだからな。これからも、二人で皆を驚かせに行こう」
「……ふふっ」
口角を上げ、嬉しそうにプレゼントを抱きしめ、炬燵に潜っていくスカイに、彼はほっ、と息をつくと、部屋の灯りを消した。
「おやすみ、スカイ」
スカイは耳をピコピコ動かして彼に応えると、炬燵の中に完全に潜りこんだ。 - 148二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:25:07
「おはよー」
「おはようございます」
一夜明け、12月25日。クリスマスはある意味今日が本番なので、街角のクリスマスツリーは来る夜に向け、今は朝陽を浴びて銀色に煌めいている。
そんな中、彼は学園に出勤するなり、大きなため息をついた。理由は簡単、昨夜の自身の言動を省みていたからである。
これからも、二人で皆を驚かせに行こう────プレゼントを渡して、これをクリスマスに言い放つなんて、まるで心深く秘めた想いを伝えているかのようだ。クリスマスの雰囲気とスカイからのプレゼントに、心が昂ぶってしまったに違いない。スカイにあまり変な印象を与えていなければ良いのだが。
そんな事を悶々と考え込んでいると、彼の耳に元気な挨拶が飛び込んできた。
「おはようございます! セイちゃんのトレーナーさん!」
「ああ、おはよう」
スペシャルウィーク、スカイの同期で、同じく黄金世代の一人に数えられる。レースでの強さは折り紙付きだが、学園で顔を合わせれば、その純粋な笑顔に皆癒やされる。
「昨日はどうでした? セイちゃんとのパーティ」
どうやら、スペはこちらの事情を知っているようだ。もしかしたら、スカイの気遣いに、何か手を貸してくれたのかもしれない。まったく頭が下がる。
「ああ、とても楽しめたよ。ありがとう」
「えへへ、それは良かった! セイちゃん、とっても一生懸命準備してましたから」
「準備?」
「はい! 二週間くらい前からずーっとトレーナーさんにあげるプレゼントを雑誌やスマホであれこれ選んでましたから。私もキングちゃんも色々聞かれたんです。私はおっきなケーキって言って、呆れられちゃいましたけど」
そう言って照れながらはにかむスペに対し、彼はスカイがそこまで考えていた事に驚いていた。と同時に、胸に暖かい感情が溢れ出す。そんな彼を他所に、スペは続ける。 - 149二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:29:48
「どうせトレーナーさんはクリスマスを忘れてお仕事に夢中だろうから、こういう時はちゃんとクリスマスを楽しんで貰わないと、ってずっと張り切ってたんです。セイちゃん、優しいですよね」
「……うん、そうだな」
彼の胸に、暖かい想いがどんどん溢れて広がっていく。スカイの想いを受け止めると同時に、彼が抱いていたマイナスの感情も溶けていった。
「ああ、そう言えばキングちゃんが、セイちゃんは素直じゃないからプレゼントに手紙を仕込むでしょうね、って言ってたんですけど、どうでした!?」
「ん、思えば確かに、プレゼントにメッセージカードが入ってたよ」
「おぉ~! そ、それでそこにはどんな……!」
「はーいそこまでー!」
彼とスペの会話を斬って捨てるように、横からスカイが現れた。と思ったのもつかの間、スカイはスペのマフラーをふんずと掴み、一気に引っ張ってその場から去って行く。
「うえっ!? ちょ、ちょっとセイちゃん!?」
「スペちゃん、迂闊な情報漏洩は身を滅ぼすよー? そんな口の軽いスペちゃんには今からお仕置きでーす」
「ええええぇぇ!? そんなぁ!?」 - 150二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:33:37
あっという間に彼の下から歩いて行ってしまうスペとスカイ。その時、彼の口が不意に動いた。
「────スカイ!」
呼び止めた彼の声に、スカイは振り向かずに脚だけを止めた。突然立ち止まったスカイに対し、マフラーを掴まれ引っ張られていたスペはその表情をそっと伺う。
「ありがとう、パーティも、プレゼントも。手紙は……まだ読んでないけど、必ず返事をするから」
彼の方から、スカイの表情は分からなかった。しかし、スカイの表情をすぐ側で伺っていたスペはスカイの顔を覗き込むと、キラキラと笑みを浮かべ、彼に向けて両手でガッツポーズを送った。それと同時に、スカイは何も言わないまま、スペを引っ張って行ってしまった。二人が見えなくなるまで、スペは笑顔で彼にガッツポーズを送り続けていた。
スペとスカイの反応に、彼は昨夜のスカイの反応を思い出していた。嬉しそうに彼のプレゼントを抱きしめ、炬燵に潜っていくスカイの様子が脳裏に蘇り、彼はようやく受け取った手紙を読む勇気を貰ったような気がした。
恥ずかしがったり照れたりしている場合じゃない、スカイの気持ちに、しっかり応えなくては。
そう思い至った彼は、コートのポケットにしまっていたまだ読んでいないメッセージカードに目を通すべく、トレーナールームへと急ぐのだった。
二人がお互いにどんなプレゼントを贈り、そしてそこにどんなメッセージを添えていたのか。
それはまだ、二人だけの秘密だ。
END - 151二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:36:31
以上!ちょっと哀しげな雰囲気あるクリスマス・イブをどう良い感じに持っていこうかと思ったけど普通にムズかったです!もう最後の方とか久保田利伸入ってきちゃったし!ですのでとか調子乗ってゴメン!
でもセイちゃんとセイトレには幸せが似合うからお出しするね!みんなもどんどんセイちゃんを幸せにしようね! - 152二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 00:51:15
素晴らしいクリスマスSSお出しされてありがとうございますとしか言えない
セイちゃんが幸せそうで何より…! - 153二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 07:18:00
いいSSなのであげ
- 154二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 07:35:27
- 155二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 17:45:58
ここを見てると歌をモチーフにしてSS書く難しさを再認識させられる
- 156二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 20:38:34
わかる
だからSS書いてる人本当に凄いと思う - 157二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 06:11:28
あげ
- 158二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 07:57:07
しかし1冊の本にできそうなくらいSS増えたな
- 159二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 18:09:20
ちょっとしたセイちゃん短編集(甘々オンリー)よね。
- 160二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 04:00:57
こういう甘々かつ曲を上手く表現したSSって中々見る事無いから贅沢だなぁ
- 161二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 14:09:13
あげ
- 162二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 22:05:00
ほしゅ
- 163二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 09:11:55
- 164二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 14:19:35
真面目に甘々摂取したい時助かってる
- 165二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 00:25:05
ここのスレのおかげでトレンディの良さが改めて知れたのありがたい
- 166二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 09:58:33
あげ
- 167二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 20:47:01
甘々って見てて幸せになる
- 168二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 06:23:44
ほしゅ
- 169二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 18:10:28
激マブとはまた違った魅力がある
- 170二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 02:53:15
わかる
- 171二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 08:47:00
トレンディっていいよね、なんか
- 172二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 19:04:37
- 173二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 00:02:01
夏と言うとサザンだけど、ちょっとマブくなるからなぁ。
- 174二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 08:14:50
確かにマブくなるな
- 175二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 08:17:00
- 176二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 18:04:08
セイちゃんに似合う晩夏の曲って案外少ないっぽいのかな
- 177二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 03:42:06
もうちょい探してみよ
- 178二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 08:16:46
あげ
- 179二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 09:08:01
改めていい曲沢山知れて良かった
最近昭和レトロが流行ってるけど、改めて流行る理由が分かったわ - 180二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 21:02:48
良いスレだった
ありがとう - 181二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 01:09:22
- 182二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 10:25:02
- 183二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 10:30:09
- 184二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 19:23:23
あー成る程、その表現凄いしっくり来た
- 185二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 19:25:10
- 186二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 07:16:11
たまに当時のアルバムとか見返した時に上記のSSに繋がっていったらトレンディだよね
- 187二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 08:44:21
良い作品に感謝
- 188二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 13:00:03
あげ
- 189二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:46:08
計8曲か、いずれも名曲ばかり。
音楽でSSスレみたく、たまにこういうスレが立つと嬉しい。セイちゃん推しだったから尚更。 - 190二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 20:57:47
- 191二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:48:45
そろそろ埋めるもん…♠
- 192二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:56:42
いいスレだったね
- 193二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:57:27
ウマカテの保守スレ掃除するのも大変なんやで
もうちっとリスペクトしてくれや - 194二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 02:58:45
また会いたひ
- 195二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:00:30
お疲れさまでした
- 196二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:00:53
このレスは削除されています
- 197二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:01:15
改めて面白かったです!
- 198二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:01:53
保守スレは概念語りになるのがテンプレだろうがよあーっ
- 199二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:02:15
じゃあな!
- 200二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 03:02:21
おつ!