にんじんシリシリ

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:30:27

    どうも近頃はツキがない。間が悪いとでも言うのか。
    1日に2回もルドルフの奴と出くわし、屋上に行けばテイオーの奴に絡まれ、取り巻き連中がまた面倒を起こしやがったりもした。

    「おい、トレーナー……」

    ここはひとつ、アイツでも揶揄って溜飲を下げてやるか。そう思ってトレーナー室のドアを開けたが……返事がない。
    外出中の札は掛かっていなかったから、ここにいるのは間違いない。仕方なく中に入って探し回ると、奴はすぐに見つかった。

    女みてえにイビキひとつかかない静かな寝息。
    ソファの上でだらしなく仰向けに寝そべって、顔の上には開いたままの本。"多人数トレーニングの基礎と応用"ときた。

    「チッ、寝てやがんのか」

    寝ているのなら仕方ない。
    暇を持て余した私は、普段コイツが座っている執務机にふんぞり返って、目の前に広がっている、ひとり分にはあまりにも多い資料と本の山を眺めた。

    コイツの担当ウマ娘は私しかいないから、本来ならこんなに机が散らかるはずがない。
    じゃあなんでこんな有様になっているか?答えは簡単だ。
    コイツは今、私以外にアイツらの───取り巻き連中のトレーニングの面倒も見ている。

    元はといえば、それは私が言い出したことだ。
    スカウトされたときに、吹っ掛けるつもりで出した条件。担当ひとりの世話に四苦八苦するような新人トレーナーにそんなことができるはずがねえ。
    要は体のいい断りの方便───そのはずだったのに、こいつは二つ返事でそれを受けやがった。そして口先だけじゃないとでも言いたげに、数時間後にはメニューを作ってグラウンドの使用許可まで取ってきた。

    最初はアイツらも突然踏み入ってきた部外者を警戒していたようだったが、どうもコイツにはアウトローに好かれる資質があったらしい。
    "おかしな野郎"が"トレーナー"に変わり、それが果ては"兄貴"に変わるまで1か月も掛からなかった。
    今となっちゃ、どこかからコイツの評判を聞いて仲間に入りたがる連中まで現れる始末だ。

  • 2二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:31:24

    アイツらは何も分かっちゃいない。コイツは落ちこぼれ連中に救いを差し伸べるために私に声をかけてきたわけじゃねえんだ。
    あくまでこの仕事は私と担当契約を結ぶための条件。私が心変わりでもして面倒を見る必要がなくなったら、すぐにでもこんな厄介事には見向きもしなくなるだろう。

    「……チッ」

    だからこそ、コイツを手放してやるわけにはいかない。
    少なくともルドルフの奴との平行線の議論にケリがつく日までは───この遠からずぶっ壊れるハードワークをこなしてもらわなきゃならねえ。

    「くだらねえ夢なんざ見やがって」

    しんどい思いさせてるのは分かってる。じゃなきゃ門限が過ぎるような時間になってもこの部屋に電気が点いてるわけがねえ。
    でもコイツにだって問題があるんだ。面倒見きれないとさっさと逃げ出せばいいものを、嫌な顔ひとつせずに請け負い続ける。
    その原動力はいったいどこから来てやがるのか───思い出すのは、選抜レースの日に初めて声をかけられたときのことだった。


    「夢なんだ。いつかあの場所で───ロンシャンの地で、誰より早くゴール版を駆け抜けるウマ娘と出会うことが。今日お前の走りを見て、その景色が一瞬だけだが見えたような気がする」

    「俺と一緒に、その景色の続きを見に行こう」

    ……いつだったかルドルフの奴が言っていた。今のトレーナーと契約した決まり手は、自分と同じ視座に立ってくれたからだと。

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:32:09

    私は奴とは違う。私はルドルフのようにはなれやしない。
    世界と言われたってまだ何もピンと来ねえし、そもそも大仰な理想なんざ持っちゃいない。だが……

    「別に恩に報いようなんざこれっぽっちも思っちゃいねえが」

    席を立って、まだ眠りこけてやがるトレーナーの耳元に顔を寄せる。

    「いつか……アンタの見たがった景色を私が見せてやる。アンタと見るんじゃない、私が見せてやるんだ。そこは勘違いすんなよ」

    近頃はちょっとばかしアイツらを甘やかしすぎた。
    たまには自主トレでもさせようかと部屋を後にしようとしたところで───



    「嬉しいなあ、シリウスもそう思ってくれてたなんて」

    振り返ると、顔に乗せていた本を片手に、トレーナーがにやつきながらこちらを見ていた。
    そういえばこいつはガキみたいな悪戯が好きだった。

    「近頃はすっかり忘れられてると思ったもんだから」
    「……起きてたんなら言え。そして仕事しろ」

    バカバカしい。
    今度こそ部屋を出ようとしたところで、やけに真剣そうな声で呼び止められた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:32:44

    「シリウス、ひとつ勘違いしてるなら言っとくけど」
    「なんだよ」
    「俺は今の仕事が大変なんて思ってない。あの子たちは確かに素行に問題はあるけど、才能は素晴らしいものを持ってる。そんな原石が日の目を見ないまま消えていくなんて許せない」

    「……だったらなんだっていうんだ。一生アイツらの面倒を見続けるってのか?」
    「俺は構わないよ。お前との夢と同じくらい……とまでは言わないが、その次に大事なものだ。そして、俺とお前が同じ視座で見ている夢でもある」
    「───っ」

    アイツらが、私たちの夢?何を言ってるんだコイツは。
    別にそんなもん託しちゃいない。ただ、私は─────

    「シリウス?」
    「なんでもねえ。メニュー作ったらさっさとグラウンドに来い。先に始めてる」
    「あ、ちょっと」

    ドアを閉めると、誰もいない廊下をひとり走り出す。
    分からない。思えばどうして私は素行不良の問題児どもの面倒なんざ見ているんだ?

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:33:07

    私と同じ不満を持っているからか?
    フラストレーションを抱えているからか?
    それとも、本当に夢ってやつを見ているのか。コンプレックスと不満を抱えたまま爪弾きにされた連中が、エリートどもの鼻を明かすことに。


    ───アイツは、分かっているんだろうか。
    今しがた別れたばかりの笑顔が頭に浮かぶ。

    アイツの夢をこのまま追っていけば、私の夢も見つかるのか?
    そしてそれは、アイツと同じ視座とやらに立って見えるものなのか?


    今はまだ、分からない。
    目指すべき一等星は、まだ遠い。

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:34:53

    しゅきぃ……

    それはそれとしてなぜこんなタイトルを……?

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:35:36
  • 8二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:37:36

    あとシリウス(ウマ娘)トレとメインストーリーのトレーナーってどう区別するのがいいんですかね

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:41:08

    カイチョーがしょうもないこと言ってるのかと思ったら神SSだったわ

  • 10二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:41:37

    >>シリウストレは無自覚にシリウスの心をかき乱すといい。

    せやね。


    >>ついでにベッドヤクザならなおよい。

    おいまてやwww

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:45:18

    そのとき、ふと閃いた!
    このスレタイは演説に生かせるかもしれない!

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/10(日) 23:52:30

    クソタイトルからの名作久々に見たな

  • 13二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 00:18:03

    実際シリウスシナリオは不良たちをどうするのか気になるね

  • 14二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 08:10:43

    アプリではルドルフへのコンプレックスばっかり描写されてる印象だけど世界への憧れはキャラストで出てくるのかね

  • 15二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 20:01:05

    クソスレタイなのに...

  • 16二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 20:02:54

    そもそもにんじんシリシリって何だ…?と思って調べたら料理なのな

  • 17二次元好きの匿名さん22/07/11(月) 20:24:31

    >>16

    前に定食屋で頼んだけど結構美味しいぞ

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