【小説?】トレーナーちゃん

  • 1122/07/12(火) 03:20:38

    【ややトレセンのイメ損注意】


    『トレーナーちゃん』
    ーーウマ娘から、LANEが来た。

    ついこの間までずっと近くにいて、すごく大切な人だった気がするけれど、もうどんな人だったか思い出せない。

    通知音で起こされたせいで頭がぼうっとしているからではない。
    本当に何もかも分からないのだ。

    その人のLANEユーザーネームは”May”。
    渾名だというのは何となく察せられる。恐らく自分が変更したのだろうけれど、記憶にない。
    これじゃあ誰だか分からないよと、過去の自分を呪う。
    名前すら思い出すのに必死にならないといけないなんて、我ながら情けない。

    ふと、机上のパソコンに目をやる。
    そういえば電源付けっぱなしで寝てしまったんだっけ。
    パソコンの電源を落とそうと、マウスに手をかける。
    その前に、開いている文書ソフトを閉じるのに✖️ボタンを

    押せなかった。

    見覚えのない文章が目に飛び込んできたからだ。

  • 2文書1.docx22/07/12(火) 03:21:26

    私は担当ウマ娘との禁忌を犯してしまい、本日を以てトレセン学園トレーナーの職を追われる。
    禁忌なんて大仰な言葉を使ったが、そもそもの解雇原因はウマ娘と必要以上に関係を持ったことによる公私混同。
    部屋に遊びに行ったり、休日にしょっちゅう泊まりがけで色々な場所へお出かけしたりしたのが災いしたらしい。
    言い訳をさせてもらうが、どちらにせよ彼女に手を出したことは一度もない。
    ご飯を食べたりレースについて談義したり、彼女は速い乗り物が好きだったからその趣味に付き合ってあげたりと、健全な交流を図ってきたつもりだった。
    泊まりでのお出かけだって、レースに向けてトレーニングに励む彼女への褒美のはずだった。
    しかし、何者かの密告により、楽しい日々に幕が下ろされた。
    弁解のチャンスもなく、あっという間に規則違反で解雇の決定が私に下された。
    彼女の部屋に行き来していたという重罪に加えて、頻繁な外遊が不純異性交遊に該当すると、学園側は激昂した。
    ルールを破ったことは認めるが、手すら繋いだことのない彼女との交流をあたかも卑猥なものであるかのようにみなすなんて、理解が及ばない。
    ひとり心の中で憤慨している私に、今日中に荷物をまとめて出て行けと学園は告げる。
    そして、ある物を渡された。

    薬。

  • 3文書1.docx22/07/12(火) 03:22:35

    餞別代わりに一錠の薬なんて冗談にも程がある。
    更に驚くことに、学園の偉い人たちは今すぐ、我々の前で飲まなければ法的措置に出ると脅してきた。
    裁判沙汰になるのは勘弁願いたかったので、頭の中に大量の?マークを残したまま渋々指示に従った。
    しかしこれが大きな間違いだった。同時に、自分の過ちの根本的な原因にようやく気がついたのだ。
    全ては自分のため。
    わざわざ部屋まで押しかけたのも、聞き慣れないカタカナ言葉をひたすら覚えたのも、ただ私が楽しいから。小旅行だって、ただ彼女と少しでも長く一緒にいたいから。そうすることで彼女も満面の笑みを見せてくれたので、よりいっそう自分が正しいと思い込んだ。
    彼女は生徒、私は指導者。止めるべき立場の私は、私欲のためにその職務を放棄したのだ。
    ただ、関係がいつ暴露されるか分からないと内心不安になっていたせいか、保険として彼女のLANE上の名前を変更した。今振り返れば、単に名前を短縮したのみの陳腐なものであったが。
    彼女に手出ししなかったのも、それが最後の自分の矜持だと心の何処かでいきがっていたに違いない。
    ーーほら、薬を飲んだのも責任逃れのため。真っ向から自分の罪に向き合うことを拒否した私には、

    「この薬にはウマ娘との記憶に対する忘却作用があります。貴女にはウマ娘と過ごした思い出を全て忘れてもらいます。それが示談の条件であり、我々への償いです」

    裁判よりも重い罰が待っていた。

  • 4文書1.docx22/07/12(火) 03:24:43

    記憶は日付が変わるタイミングできれいさっぱり無くなるという説明を受けた。
    「不祥事」を起こして私がトレセン学園を解雇されたことは事実記憶として残ると予想する。しかし、詳細は彼女と切っても切り離せないため、解雇の理由も説明できない求職者がここに誕生するわけである。
    幸いまだ記憶が鮮明なので、せめて自ら記録を残しておこうと、こうして自宅のキーボードを叩いている。
    また、これを謝罪といってよいか定かではないが、彼女に私の悔恨を伝える場としたい。
    とにかく経緯を書き終えたので、時間の許す限り彼女との思い出を記していきたい。彼女と初めて会ったのはaaaaaaaaわからない、メイクデビューは7891011月???

    あれ、書こうとしても、黒い毛糸が絡まって、思考を邪魔されている感覚に襲われて、書けない。

    初重賞は? 勝ち鞍は?
    どんなトレーニングしてた?
    好きな食べ物は?
    仲の良いウマ娘?
    どこ出身だっけ

    ↑後で書く。

    そうだ、海で彼女のロングヘアが夕日に照らされてキラキラしていて神々しさすら感じた。
    私には、彼女がとても大人に見えていたなあ。何でか分からないけどいろんな意味で。同じ女として、少しうらやましかった。

    笑顔で、私に話しかけるウマ娘にモヤがかかり、声がくぐもる。勝負服の色も髪の色も目の色も、全てが黒に染まる。ウマ娘を象っていたものは歪み、一つの影と成る。

    彼女は、大好きだったウマ娘は、もうすぐいなくなる。

    だから、これがほんとうに最後です。
    今までありがとう。ごめんね、m

    マm
    マルー
    マルゼンスkー

  • 5122/07/12(火) 03:28:12

    これが自分の文章であることがにわかに信じられなかった。

    昨晩、私は知らないウマ娘との話を1763字に及んで書いていたのか。
    私はこんなくだらない理由でトレセンを退職するのか。ただ不祥事で追放されただけなのに、逆ギレして血迷って書き上げた創作ではないか。

    やれやれとため息をついたその時、LANEの通知が鳴った。
    “May”からの続きのメッセージだった。

    『今までありがとう。これからはお互いの道を大切に生きていきましょう』

    この人が、「マルゼン」だろう。
    文書の内容からして合点がいく。

    しかるに文書は事実が書かれている可能性が100に近づいた。
    だが、文を読む前に感じていた歯がゆさやもどかしさはどこかに吹き飛んでしまったようだ。

    だって、記憶喪失でこんなに節操のないトレーナーは私には関係ないから。
    「マルゼン」さんもよく知らない。

    「マルゼン」さんとのLANEを削除し、再びパソコンに向き合い、作成中の文書を保存しますかと聞いてくるダイアログを無視してシャットダウンした。
    今日から職を探さなきゃ、と私はソファに転がりスマホに向き直った。


    〜おしまい〜

  • 6122/07/12(火) 03:31:21

    深夜に書くと長くて重い話が出来上がってしまいますね…

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 03:34:15

    す、救いは…ないんですか…?

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 03:35:12

    のべりすとに雑にハッピーエンド書かせてみるか

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 07:57:21

    悲しいなあ

  • 10二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 09:23:06

    これマルゼンスキーなのか
    てっきりマヤノかと

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 10:12:43

    アプリ描写全否定でワロタ

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 12:32:28

    >>7

    ありません!(無慈悲)

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