- 1二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:27:18
6月に入ると、山中の気温も一気に上がり、夏が近づいてきたことを思い知る。
今日も今日とて山の幸をざくざく取ろう!と意気込んだのはいいものの……
「ほら、まだ寝てなきゃだめだよ〜」
【うう……ごめん】
テントの中で横になり、ヒシアケボノに膝枕してもらっている。涼しかった数日前とは一転して汗だくになる程の日差し。気合いがから回してへばってしまった……。
【ちょっと疲れただけだから……ヒシアケボノは山菜採りに戻っていいんだぞ】
「山菜よりトレーナーさんの体調の方が大事に決まってるよ〜。具合が悪いままだと、いくらいっぱい採ってもご飯が美味しくないからね……今は無理しちゃダメ!」
結局、いつもよりも収穫の少ないまま、日が暮れてきてしまった。
体調は戻ったものの、申し訳なさが残る。何か、ささやかでもヒシアケボノにお返しをしたいが……。
【今日はここでこのまま一泊していかないか?】
「あたしはOKだよ♪それにしても珍しいねえ、いつもなら危ないし早く帰ろうって言うのに」
【まあ……今日は疲れたし、自然の中でゆっくりしたいんだ】
「それなら、あたしも疲れを吹っ飛ばすくらいのボーノな山菜料理、振舞っちゃうよ〜☆」
乏しい収穫の中でも、ヒシアケボノの絶品フルコースは健在だった。膨れたお腹をさすりながら、テントの中でふたり、のんびりとした時間を過ごす。
日は落ちきって、今からは星々の時間だ。山中で見る夜空はいつ見ても素敵なものだが、肝心の目的は空には無く、言うならば『地上の星』だった。 - 2二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:27:48
【……外の空気が吸いたいな】
「そうだね〜……でもここからだと、木が茂って星空も見えにくい気がするよ?」
【まあ、とりあえず出よう】
ヒシアケボノの背中を押すように、外へ出た。
「はわわ!もう、そんな急かさなく、て、も━━」
良かった、場所は間違っていなかった。
チカ、チカと忙しない点滅。数え切れないほどの、小さな小さな黄金の明かりが、木々の間をゆらゆらと舞踊っている。
「トレーナーさん!これ、蛍だよねえ?でもどうして……近くは川も流れてないし、まだ季節には早いよ〜?」
ヒシアケボノが想像しているのは、ゲンジボタルのことだろう。日本で一番名の知れた蛍だ。
【これはヒメボタルって言うんだ。陸生の蛍で、ちょうど今の季節が見頃なんだよ、君に、喜んで貰いたくて】
「ありがとうトレーナーさん……すごい、綺麗だねえ」
【ああ……】
それ以上言葉もなく、この儚くも眩しい輝きたちを見つめる。
ふと、1匹のヒメボタルがヒシアケボノの近くまで飛んできた。 - 3二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:28:44
【手を、出してごらん】
言われた通り、ヒシアケボノは掌を優しく開く。その上に、明かりが一つ舞い降りた。
「こんな小さいんだねえ……」
ヒメボタルの体は非常に小さい。少しでも触れれば壊れてしまいそうで、掌をそれ以上動かすのは躊躇われた。
【小さくても、ひとつの命だよ】
「うん、こんなに強く光ってる……」
やがて、輝きは茂みの奥へ帰って行った。ヒシアケボノはと言えば、まだ掌を開いたままで余韻に浸っているようだった。
「蛍さんって、一生懸命光って、命を繋いで……そしたら、もうそれきりなんだっけ」
【そうだな……だからこそ、とても強い生き物とも言える】
ヒシアケボノは、下ろした手で脚を撫でる。何かを重ね見るように。俺は……そうしなければと思い、自身の手をそこへ重ねた。
【君の光は、これからもっと強く輝くんだ】
「……うん、トレーナーさん」
暗闇の中、大丈夫だよとヒシアケボノは微笑む。
隣に立つこの大きな大きな彼女の輝きを、少しでも長く目に焼き付けていられますようにと願った━━ - 4二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:29:04
みたいな大自然が見たいので誰か書いてくださいお願いします
- 5二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:30:14
- 6二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 19:59:38
大自然ボーノいい!
- 7二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 20:15:47
こう描写を重ねられるたら、もし故障したらって時のことを思うと辛くなってしまう。もっとやってくれ
- 8二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 21:52:43
良い
愛の伝わってくるSSだ - 9二次元好きの匿名さん22/07/12(火) 23:26:08
雰囲気が美しいぜ……
- 10二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 01:03:02
アプリでもこんなやり取りあった気がする(幻覚)
- 11二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 12:42:37
とても助かりました