【SS】パーマー号洗車事変｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 19:56:47

「おはよ、トレーナー！今日も暑いね～」

ここは学園の敷地にある駐車場。
上はTシャツ、下は作業着姿で何やら大荷物を持ったトレーナーは、振り返って私を見るとちょっと驚いた顔をした。

「おはよう、どうしたんだこんな早くから。今日は休みだよな？」
「うん。で、ちょっとグラウンドでも行こうと思ったらご機嫌な鼻歌が聞こえたからさ、何かいいことあったのかな～って」
「うわっ、聞かれてたのか。いやまあ、特別いいことがあったわけじゃないんだけど」

恥ずかしそうに頭を掻くトレーナーと、そのまま一緒にだだっ広い駐車場を歩く。
メジロ家の車庫ですらここまでは広くないけど、学園関係者全員分に必要な車両数を計算すると、これくらいの面積は必要になるらしい。

5分くらい歩いただろうか、辿り着いたのは屋根付きの結構好待遇なエリア。
その車の群れの中に、私たちの愛車────"メジロパーマー号"が鎮座していた。

「久々にパーマー号の洗車でもしようと思ってな」

2二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 19:57:14

いざ聞かれるとなるとあんまり気にしてないのか、トレーナーはさっきよりもノリノリで鼻歌を歌いながら車体にホースで水をかける。
そういえば洗車なんて実際に見るのは初めてかもしれない。まだまだ私も世間知らずってことだ。

「今は俺が乗ってるけど本当はパーマーの車だから。ちゃんと渡せるときまで綺麗にしておきたいんだよな」
「相変わらず律儀だね～、トレーナーは」

まあ、そういうところがいいんだけど……と心の中で付け加えて、車を挟んだ反対側からトレーナーの作業の様子を見守る。

車ってもっとゴシゴシ洗うんだと思ってたけど、トレーナーは壊れ物を扱うみたいに丁寧に洗ってる。
スポンジは擦るっていうか撫でるような感じだし、泡を流す時も上からそっと水をかけて。
これじゃまるで人の身体を洗ってるみたいな……心なしかちょっと手つきもやらしくない？大事な車ってのは分かるんだけどさ。
そう、トレーナーにとってもパーマー号は大事な車で────

「じゃあメジロパーマー号で」

うっかり頭に浮かんだいつかの言葉を、首を振って打ち消す。
いけないいけない、何バカなこと考えてんだ私。

「どうした？」
「なんでもないっ！……そうだ、ちょっと自販機に」

いけないいけない、トレーナーが変な顔してるよ。
飲み物でも買ってきてあげようかと立ち上がった瞬間だった。

3二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 19:57:43

「ちべたっ！！」

突然顔面に襲い掛かってきた水圧と冷たさ。
慌てて顔を拭うと、ホースを持ったトレーナーがあたふたしていた。

「パーマーすまん、うっかりホース踏んづけちゃって……ちょっと待っててくれ！」

急に水が飛んできたと思ったらそれか。
トレーナーはゴム手袋を外して、鞄から出したタオルを私の頭に被せる。

「これ車拭いたやつじゃないよね！？」
「違うよ」

そりゃそうだよね。とにかく、タオルを受け取って頭を拭こうとして────トレーナーの手がなかなか離れないことに気づいた。

「あ、こら。じっとしてろって」

えっ、トレーナーが拭くの？
いまいち事態が飲み込めずに固まってる私の頭を、トレーナーは慣れた手つきで拭いていく。
髪は分け目を崩さないように優しく。そして、耳はタオル越しに指で摘まむみたいに中と裏側を同時に。
自分でならさっさと水気だけ飛ばしたいからもっとワシャワシャ～ってやるんだけど、トレーナーの手つきはどうにも焦れったい。

「とりあえずこんなもんかな。……パーマー？」
「うん……ありがと」

そんなこんなで優しく、やさーしく頭を拭かれた私は、いつになく感情の籠ってない生返事をした。
やっぱり、やらしいよねえ？これ。

4二次元好きの匿名さん22/07/13(水) 19:58:04

「本当にごめんな……」
「まあ、この暑さじゃ逆に気持ちよかったし？それに、これだけ晴れてればすぐ乾くよ」
「ならいいんだが。そうだ、後でお詫びにアイスで……も……」

ふと目線を下げたトレーナーが、何故か慌てて後ろを向いた。
どうしたんだろ。私もつられて自分の胸元を見る。

水は結構な勢いだったから、頭以外に身体にも飛び散っている。
そして今日の私は自主トレしようと思って体操着姿なわけで。
で、体操着は白だから水に濡れたら……

「……トレーナーのえっち」

何秒か経って、やっと絞り出した言葉。
それを聞いたトレーナーは私に背中を向けたまま、地面でくたびれてるホースを手に取った。

「俺を許さないでくれ」

そう言って、今度はトレーナーが頭から水を被った。