- 1二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 21:57:55
冬から春へ、季節の変わり目を肌で感じ始めるこの頃……私は遂にトレセン学園を卒業するのでした。
【はいはい鼻かんで早く】
「ずび〜っ!!ありがどうごじゃいまずぅ……!」
いやー号泣号泣。周りの皆さんの涙が引っ込んじゃうくらい、感動して泣いちゃいました……。
【……はい、綺麗になった!ほれ、行ってこい】
トレーナーは私の顔をハンカチとテッシュでふきふきしてくれました。そしてお友達とお話してきなさいと、とんと背中を押してくれたのでした。
レースを続ける子、引退して新しい道に進む子……みんな色々な夢を話してくれましたけど、私はといえば、実家のお手伝い頑張るぞ、えい、えい、むんっ!といった感じなのです。どこまでも『普通』な私でしたが、学園のみんなとか、トレーナーとか、ファンの方々とか……いっぱいの元気を貰って、何とかここまで来ることが出来ました。……最後の方はへろへろ〜で、ぜんぜんレースに勝てませんでしたけどねぇ……たはは。
おや、お母さんとお父さんがそろそろ行くかい?と声を掛けてきました。あーえっと……ごめんね、もうちょっとだけ待ってて!
【ん……?まだ行かなくていいのか】
「はい、少しだけお時間貰っちゃいました〜。まだトレーナーとお話してないですからねぇ」
【昨日いっぱい話したけど……まあ最後だしな】
グラウンドの隅でふたり、がやがやしてる周りの皆さんは誰も私達に見向きもしません。最後だけど、いつもと変わらず、お話しましょうか。 - 2二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 21:58:54
【改めて……卒業おめでとう】
「ハイ!ありがとうございます〜♪」
【涙も引っ込んだみたいで安心した……しかし、寂しくなるな】
「いやはや!その通りですよぉ。私もです。でも、実家でまた焼きサバ定食がいつでも食べられると思うと、楽しみで楽しみでぇ♪」
【学園での思い出がそんなサバ以下みたいな……後、食べてばかりじゃなくてちゃんと料理作るんだぞ?】
「わかってますよ〜。お客さんたちに、料理と一緒に持って帰ったきらきらの思い出話をた〜くさん、聞かせてあげるんです!」
【それは……お客さんもとても喜ぶだろうね】
「ぬふふ、この一流料理人おマチさんが、売上を100倍にしてみせましょう〜!」
昨日も一昨日も、その前からずっーと、嫌になるくらいトレーナーと話せば、絶対後悔しない作戦!トレーナーは特別な人でしたから、もやもやを残したくないですもん。
ですが……ありゃりゃ?私、ここに来てもお話がぜんぜん止まらないのです。時間はあと少ししかないのに。 - 3二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 21:59:22
「━━なんですよ〜! いや〜……ほんと寂しくなりますねぇ」
【タンホイザ……】
ぽん、と。帽子の上からトレーナーの大きな手の感触がしました。はわわ、こんなされたの初めてですよ。そのままなでなでされてしまいます。照れますね、これ……。
【なんて言うか……うん、最後くらい、普通じゃなくてもいいんじゃないかなって】
「……撫でるなら、直接して欲しいです」
そっと帽子を取って、また撫でられます。確かに、見ないふりしてました……お話中、何回『寂しい』って言ったんでしょうね、私。
負けても、ダメでも……お腹が空いて、ご飯食べたらさあ元気!こんな風にいつもならすぐに前を向けるのに、2人で作ってきたたくさんの思い出がよぎってしまって……特別な人との別れは、やっぱり悲しいのです。
ただ、単に涙が出そうとか、そういうのでなくて……なんなんでしょう、私の心が分からないのです。
【俺もいずれは気持ちを入れ直して、誰か新入生と頑張るんだけども……今だけは、わかるよ。すっごい悲しい】
【俺もみんなも、たくさんの勇気をくれた君が大好きだったから】
「━━━━」 - 4二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 21:59:54
あぁ……そうだったんですね、私。
私は、トレーナーが大好きだったから、悲しいんだ。『普通』な私の中にあって、たった1人の、『特別』な貴方が。
いや、トレーナーのことは前から大好きでしたけど、そうじゃなくて。なんということでしょう……こんなタイミングで、気づいてしまうとは!
いやぁ、恋愛相談のプロとも言われた私が、私自身の相談に乗ってあげられてなかったとは、こんなの笑われちゃいますよね。
ドジでおっちょこちょいな私ですが、こんな時まで発揮しなくても、いいじゃないですか……。
今この瞬間、私の恋は始まって━━終わろうとしている。
両親に貰った時間は、本当にあとちょっとしか残っていなくて、最後の最後までおっちょこちょいな私が、少し、恨めしいのでした。
さあ、トレセン学園名物、おマチさんの恋愛相談室…最後のお時間です。
私は━━どうしたらいいかな?
「あ、お父さんに呼ばれてます……これでホントのホントに、お別れですね」
【ん……そうか。なにかまだ言いたそうだが……?】
「はい、トレーナー。━━最後に少し、耳を貸してくれますか?」
トレーナーは素直に背を丸めます。これなら、つま先立ちすれば届きそう。顔を、近づけて━━あ、両親が見てるじゃないですか、コレ。
なので、近づいていくふたりの顔ごと、見られないよう私の帽子で隠しちゃいますね……。
「━━━━━━━」
この穴あき帽子の向こうの景色は、誰にも見せない、一生ふたりだけの秘密なので♪ - 5二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:00:17
「━━━にゅへへ」
その時間は一瞬。すぐ元の距離に戻ります。指先で口元をいじって、トレーナー、顔がおまぬけさんになっちゃってます。こんな時なのに少し、笑っちゃいました。
……時間切れです。お別れの挨拶を、しましょう。
「私の気持ち、半分こにして貴方に預けます。煮るなり焼くなりお好きに調理してやってくださいな」
「だから……ありがとう、さよなら、私の主人公さん。もしいつか、縁が再び繋がったなら━━━またどこかで、あいましょう」
彼の顔をしっかり目に焼き付けて……もう大丈夫。
私は、次へと進めます。
駆け足で両親の元へ、振り返らずに。私の元に残った半分この気持ち。もう片方のピースは戻ってくるのかどうか……まあなんとかなるでしょう!さあさあ、帰りましょ! - 6二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:00:39
みたいな
成長したマチタンがトレーナーとの別れ間際に自身の恋愛感情に気づく概念
が見たいのですが私の力では出力できそうにないので拙文だけ置いて私は故郷ちゃんこの国へ帰ります
マチタンのSSは文才あるマチタントレが私以上に愛をこめて増やして欲しいと思います
故郷(普段書いてるもの) ↓
【自作SSまとめ】M99星雲ちゃんこの国|あにまん掲示板ボーノの供給が増えることを願って書き続けてきたSSが2桁の大台に乗ったので、一旦まとめてみたいと思います1.原初のボーノ。想像以上の高評価を頂き、ss投稿を続けるきっかけとなりましたhttps://b…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:01:11
おまけ 〜〇年後〜
あー忙しい忙しい。でもピークも過ぎて、ようやく客足も落ち着きました。さて、誰か来ないうちに片付けでも……
━━カラン
あばば、こんなタイミングでお店に来なくても。いやあ、商売繁盛大繁盛で大変ありがたいんですけどね?さて、いらっしゃいませの挨拶を━━━
「━━━あぁ」
今になって、ですか。
ここで人生のいろはにをひとつ……人の気持ちは移ろいゆくもの。欠けたピースは形が変わってしまえば、埋まらないんですよ?
……まぁ、私こー見えても何かと几帳面ですので!
きちんと変わらず大切に、もう半分……持っておりますとも。
「いらっしゃいませ。これも何かの縁……さあ、ご注文をどうぞ━━━」 - 8二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:01:26
あなたでしたか!?
いいものを読ませていただきました…ありがとうございます - 9二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:06:26
- 10二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:17:23
尊
- 11二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:18:35
良い…
- 12二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:28:12
良いしか言えない 良い。めちゃくちゃ良いSSだった
- 13二次元好きの匿名さん22/07/14(木) 22:30:59
素晴らしい…>>1とはいい酒が飲めそうだ…
- 14二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:00:46
おまけのおまけ
「あっトレーナー!見てくださいよー!」
【だからもうトレーナーじゃな、くて━━】
彼は私の姿を見たとん、フリーズしちゃいました。
……嬉しいですねえ。まさか私がこうやって、真っ白なドレスに身を包む日が来るなんて。
【……綺麗だ】
「えへ……貴方が、着させてくれたんですよ?」
彼のスーツ姿もとってもかっこよくて、この場がいつもと違う空気に包まれてることを実感しちゃいます。
━━今日は、私がこれから歩んでいく普通な日々の中で、ちょっとした特別な日。こうやっておめかしもいっぱいしちゃいました。
「誓いの……ゴニョゴニョ……の時に鼻血出しちゃわないようにしないとですねえ」
【今更そこを恥ずかしがらなくても……まあ、タンホイザならやりかねないのが怖いところだ……でも、白い生地を赤に染めたって、俺は構わない】
【ちょっとドジなタンホイザが俺は……ゴニョゴニョ】
「ああっ〜!貴方だって今ゴニョゴニョしましたねー!」 - 15二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 00:01:16
2人して、くすくす笑い合います。とても本番直前とは思えませんね。
でも、それでいいんです。
きっと、ずっと続く思い出になるんですから。
この式が終わった後から、私の普通の毎日に新しく一つ、特別な色なちょこっと足されるのです。
真っ白な道を、貴方はどんな風に彩ってくれるのでしょう、とってもとっても、楽しみです!
「おやあ、そろそろみたいですね」
私は彼に、そっと手を伸ばして、言うのです。
「━━こんな私ですけど、これから先も、一緒に歩いて行ってくれますか?」
【━━もちろん】
むんっと手を握って、さあ行きましょう!
これからもずっとよろしくです、あたしの大大大好きな、特別な人━━ - 16二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 07:57:58
おまけのおまけのおまけ
「おかえりなさい!出張お疲れ様です!ご飯かお風呂か私……なんて選択肢はあげませんよ〜?問答無用!店の残りで作ったまかないをくらいやがれぃ!」
彼を玄関で出迎える私。ずっとずっと待ち遠しくて、変なテンションになってしまいました。どうぞどうぞ、早くすずいとこちらへ━━
そうして食卓で2人きり。大事な大事な2人の『宝物』は、向こうの部屋でぐっすりです。
「━━担当の子はどうです?そろそろレースも近いですよね?」
ふむふむ……どうやら中々調子はよろしいようで。
楽しみですねえ……当日はお休みとって見に行こうっと!
彼は今でもトレーナーとして頑張ってます。私は、彼の毎日のエネルギーをぐぐいっと引き出してあげるために、こうして自慢の腕を奮っているのです。 - 17二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 07:59:12
おやすみ前、今夜はずっと、そばに居たい気分です。いいですよね、たまには。
うるうる上目遣いでアピール!……おーけー?
「……やったー」
許可も貰えて、ひとつお布団の中でぬくぬく、彼の肩に寄り添います。
家庭を支えてくれる彼を少しでも癒して、次も元気で頑張って欲しいから、おマチさんぱわーを注入しちゃいますよ……!
あっ……彼に手をにぎにぎされてしまいます。えへへ、おっきい手ですね。
……ぱわー、注入し返されちゃいました。これを狙って一緒におねんねしたのも……ハイ、理由のひとつです。
え?いつもありがとって━━
「━━!? ふにゃあ……にゅふふ」
お、おでこに……!!温かな感触を逃したくなくて、もっとぎゅっと近づいてしまいます。より強まる彼の匂い。とっても安心です。
おや、彼の様子が━━あっ、あうう。
いや、違いますよう?今日の料理はそんなつもりで……あむっ!?
……!……。
うぅ、だめです、ふにゃふにゃにされちゃいます。
でもまあいいかあ。そろそろすてきな『宝物』が、あたらしくほしいなって、そうおもってたころですから━━━ - 18二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 14:45:44
あー!好きー!
- 19二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 14:47:46
本文にセンス全部奪われてるようなタイトルだったからクリック余裕だった
- 20二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 15:21:35
自分涙いいっすか?
- 21二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 17:12:09
うわぁぁぁぁぁぁここは聖地だ……ありがとう…いいものをありがとう………
- 22二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 17:13:04
続きは…続きはどこだ……ってむんむんしてたら予想以上にまで続いてて感動が止まらない…
- 23二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 19:52:23
おまけFinal
え、この服?これはママがむかーしむかし、一生懸命走っていた頃の、思い出の服なんです。
どうです?可愛いでしょう?
━━だ、ダメダメ!いくら可愛い娘の頼みでも着させてあげませんよぅ!
どうしてって……うん、えっとね。
ママ一人だけの服じゃないんですよ、これって。
ママと、パパと、学園のみんなと……沢山の想いを乗せて一緒に走ってくれた、たった一つの勝負服なんです。この子と一緒に掴んだ1着は、あなたにだって譲りませんよ!
……この服は譲れないですけど。あなたにはあなただけの、たった一つの『特別』な出会いがきっとあるはずです。……心配?大丈夫。つまづいたって転んだって、何度だって立ち上がれるんですから。遠回りでもいいんです。自信を持って!
━━あなたはママとパパの、自慢の子供なんですから! - 24二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 19:53:02
━━き、着ちゃった……。
あの子にお話してたら、つい内なる好奇心に従っちゃいました……。
入らないかと、思った、け、ど……!むんっ!
な、何とかギリギリ……ボタンは……ハイ、見なかったことにしましょ。
ですが……こう鏡で見てみると……意外といけるのでは?
流石はおマチさん、やるぅ!
……やーったやったやったった〜……えへ♪
……この歳になって何してるんでしょう私。ここに来て冷静さを取り戻さなくても〜っ!?
あ〜恥ずかしいですねえ、もう脱いで━━
━━パパ……?い、いつから背後に……!?
な、なんです?そんなじりじり来られると怖いんですが……!
え、アレやって欲しいって……いや〜もうおマチさんそんな歳じゃないですし━━はい、今更ですよね……。わ、わかりましたよう。1度だけ……ですからね?
今日も一日頑張るぞ!えい、えい、むん!
……どうです、満足しましたか、『トレーナー』?
……はい、おしまいおしまいっ!これで私は逃げますのであっだめっだめですこの服は汚せませんから今はだめせめて脱いでから━━
おしまい - 25二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 19:53:26
故郷ちゃんこの国へ帰るつもりが筆が乗ってしまった……。
これらは全て強めの幻覚かもしれませんが、
マチタンのゆく未来が幸せいっぱいであることを、いつでも願っているからこそということで、どうかひとつお許しを━━。 - 26二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 19:55:02
むん!
- 27二次元好きの匿名さん22/07/15(金) 20:01:46
- 28二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 00:44:33
さらに続いたー!!?スレ主に出逢えた事に…感謝します……(尊死)
- 29二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 00:45:31
なんじゃあ
良い文じゃ - 30二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 00:46:18
ありがとう⋯
- 31二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 09:04:17
目からえいえいむんが溢れた
- 32二次元好きの匿名さん22/07/16(土) 09:10:21
あああああああ!!
良い!!!
良い!!!!
良い!!!!!