【SS】マーベラー!!!チェンジ!!

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:21:07

    ※幻覚妄想強め注意
    トレーナーたるもの、担当との意思疎通は不可欠だ。日々レースについて意見を交わし合い、他愛ない雑談からでも担当の人となりを汲み取っていかねばならない。彼女らへの理解を深めることが、より高みへと進む必須条件だからだ。
    だからこそ、彼は悩んでいた。

    「トレーナー!おはよう!!今日もとってもマーベラス★☆★」

    その声はどれほどの喧騒も紙切れのように切り裂いて、彼の耳にはっきりと届く。

    「ああ、おはよう……今日も一日頑張ろうか」

    「うんうん!足も軽やかにマーベラス☆ パワー満ち満ちてマーベラス★ さあ!何から始めよっか?」

    彼の担当ウマ娘━━マーベラスサンデーは、この日も変わらず瞳を輝かせ、この世界を賛美する……『マーベラス』と。

    ━━━マーベラスって、なんだろう?

    彼女はとても前向きで、ことある事にその単語を口にし、感情を解放させる。
    しかし彼は、マーベラスが理解出来なかった。彼女曰く、マーベラスは『驚き』らしいのだが……そんな言葉の枠組みを超えて、マーベラスは特殊な空間を発生させることもあるのだ。
    ━━担当になったばかりの頃、彼はマーベラスを理解しようとして無理が祟り、倒れて生と死とマーベラスの境をさまよったことがあった。熱に浮かされた悪夢の中で、マーベラスは死と同じくらい恐ろしいものとして彼を襲った。

  • 2二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:21:41

    ふたつの脅威から必死で逃げ、なんとか生を掴んだ彼に、マーベラスサンデーは告げた。

    『トレーナー……無理しなくていいんだよ。マーベラスが解らなくたってアタシは大丈夫☆これからも一緒に頑張ろうよ★ 退院したらまた━━』

    彼女はもう言ったことすら覚えてないだろうが、彼は、その言葉を今でも忘れてはいない。
    優しい彼女は決して口に出さないが、その時の顔には、ほんの少しの寂寥が浮かんでいた。

    唯一無二のトレーナーに理解して貰えないのは、どれほど悲しいことか。
    それから彼はなんとかマーベラスに迫ろうと、常に彼女の行動を注視し、時には同行して……そして未だ、マーベラスの真意には辿り着いていない。

    今彼女は、もうすぐ右足の怪我から復帰できそうな所まできていた。彼女はマーベラスを追い求めるためなら、我慢も無茶も厭わない。そのため彼女は素晴らしい才能を持ちながら、これまで何度か怪我で休養を余儀なくされてきた。
    自身がマーベラスに至らないばかりに、彼女にはもどかしい思いをさせてきてしまった。今度こそ、彼女を思う存分走らせてあげたい。

    そんな逸る気持ちを嘲笑うかのように━━

    「痛ッ━━!?」

    「……!?マーベラス!」

    練習の最中、崩れ落ちる姿を目にして、彼の心臓は引き千切られるような音を鳴らした━━。

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:22:04

    診断の結果は、左足の疲労骨折。前回負傷した右足を無意識下で庇うあまり、反対側への負担が大きくなっていたのだと言う。
    ……また、やってしまった。今度もマーベラスの奥に潜む、彼女の無理を見抜けなかった。

    「アハハ……。トレーナー!そんなしょげてちゃマーベラスじゃないよ〜?苦難を乗り越えてこそマーベラス☆★☆★」

    それでも彼女は、変わらぬ笑顔を崩しはしなかった。
    マーベラスサンデーはどこまでも優しく、強い。この世界に満ちているというマーベラスさえあれば、何度だって立ち上がり、いずれは頂点に至るのだろう━━そこにトレーナーの存在は、必要なのだろうか。
    病室に別れを告げたあとも、自身を締め付けてくる茨の棘に、彼は胸を抑えた。

    数日後、彼の電話を鳴らしたのは、衝撃の知らせだった。

    「マーベラスが病院を抜け出した!?」

    朝部屋を訪れた看護師が、もぬけの殻となった室内を発見したらしい。
    悩むよりに先に、彼の足は動いていた。
    彼女はどこへ行ったのか、どんな場所に、マーベラスサンデーは行きそうなのか……ずっと観察してきたつもりが、その程度の心当たりもないことに、彼は愕然とした━━。

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:22:46

    そろそろ日も暮れようかという頃、街外れの高台に、彼は来ていた。
    街を一望できる展望台、ベンチの上に、マーベラスサンデーは一人ポツンと座り遠くを見つめていた。ギプスでぐるぐる巻きになった足を、所在なさげに揺らして。

    「はぁ、はぁ……見つけ、たぞ」

    「……トレーナー!よくここがわかったね☆ ここの景色が好きなこと、アタシ言ってたっけー?」

    ぜえはあと苦しい呼吸を落ち着かせるため、彼女の隣に座り込む。

    「いいや……ふう。そうだったのか、今初めて知った」

    「ええっ☆ じゃあなんでわかったの〜?」

    「そんなの、簡単だ……この足で歩き回って、聞き込みして……それだけだよ」

    「えっうそ!?そんなの疲れてマーベラスじゃないよー★どうして……」

    「どうしても何も、俺は……そうだ、君のトレーナーだから。地を這ってでも探し出すのは当たり前だ」

    彼女は戸惑い、視線を落とす。耳もくたっと萎れて、いつもの元気は無い。

    「迷惑かけちゃった。こんなのマーベラスじゃないってわかったのに……病室じゃなくて、マーベラスな空気が吸いたくてつい……怒ったよね?」

    「全然そんなことない……そういう気分の日もあるよ」

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:23:26

    当たり前のことに、なぜこの瞬間まで気づかなかったのか。彼女は理解の及ばない存在などではない、時には辛い気持ちになることもある。マーベラスサンデーは、皆と変わらない普通のウマ娘だった。

    「トレーナーは優しいね☆……もう大丈夫だから!アタシ、病院に帰る━━」

    顔を上げた先に初めて見えた、弱々しい笑み。ふらふら立ち上がろうとした彼女をもうどこへも行かせたくなくて、彼は咄嗟に腕を掴んだ。

    「少し、話していこう」

    「で、でも……」

    「病室に戻るのも、まだ気が進まないんじゃないか?……そうだな」

    彼は視線をさまよわせ、足元に咲いていてた、小さな小さな野草を摘んだ。白く、可愛らしい花が咲いている。

    「マーベラス、この花はどうだろう?『マーベラス』かな?」

    「……え? えっとー……うん、とってもマーベラス☆」

    「そのマーベラスって、どんなマーベラスなんだ?」

    「え、ええっ!!? そんなこと言われても……」

    「混乱させて済まない。俺はやっぱり平凡で、マーベラスをすぐ理解出来るような凄いトレーナーじゃないから……でも、それを言い訳にしたくはない」

    「だから拙くてもいい、上手く言えなくてもいいから……マーベラスの想いを、教えて欲しい」

    彼女の手をそっと開いて、彼はその花を握らせた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:23:54

    「トレーナー……えっと、えっとね?こんな陰に咲いて、見向きもされなくて……」

    花をそっと胸に抱き、彼女は唸りながらそれでも、言葉を紡ごうとしてくれる。

    「でもマーベラスに花を咲かせて、それがとってもマーベラス★で……」

    「おいおい!マーベラスを説明するのにマーベラス使っちゃダメだろ? 」

    「で、でもー!? はぁ、ふふっ……☆」

    二人でくすくす笑いあって、マーベラスに込められたものを解きほぐしていく。この花ひとつを語り終わるのにも、かなり時間を費やしてしまった。

    「━━どう、トレーナー?マーベラスを解ってくれた?」

    「……この花のことなら、少しは。でも、全然まだまだだ」

    「もうー☆ マーベラスじゃないんだからー!」

    「ごめんな、やっぱり難しいよ……よし!そうだなあ……次はあの時計だ。あれもマーベラスなのかな━━」

    街の景色、沈む夕日、木々のさざめき……一つ一つを指さして、彼女と語らう。好きな物、嫌いな物、小さい頃の思い出が、一緒になって彼の耳に流れてくる。悩んでしかめっ面になり、でも懸命に話してくれて……色とりどりの感情が、彼女の顔に浮かんできた。
    ああ、『マーベラス』は━━マーベラスサンデーというウマ娘は、こんな子なんだ。
    この時間で理解出来たマーベラスはほんのひと握り。でも、今までで1番、彼女と近づけた気がした。

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:24:55

    気づけば日も沈み、無機質な電灯だけが二人を照らしていた。背筋を撫でる冷たい空気に嫌な予感が。ふとスマホを見ると、病院からの着信がたんまり……。

    「……やばいな」

    「ありゃりゃりゃ〜……どうしよう★」

    「一緒に帰って、一緒に怒られようか」

    「……うん☆ そうだね、トレーナー!」

    彼女の差し出した手を取って、ゆっくり立ち上がる。

    「きついだろ?下までおぶっていくよ」

    「……うん、マーベラスな提案だね☆ お願いします!」

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:25:13

    彼女の体は想像以上に軽かった。風に乗って飛んでいってしまわないよう、しっかりと背に乗せて、歩き出す。

    「……ありがとう。トレーナーはマーベラスが解らないって言うけど……解らないからこそ、素敵でマーベラスだと思うんだ☆」

    「だって、トレーナーはアタシにとって……イチバンのマーベラスだから☆★☆」

    「それは……どういう???」

    「……まだ、アタシもわかんないや★ でもね、いつかきっと……きっと!トレーナーに伝えるね!!」

    「ああ、楽しみにしてる」

    彼女が回復するまでは、こうやってのんびり、想いを交わし合っていきたい。二人の間には、こういった時間が必要なのだろう。まだまだ世界にはマーベラスが溢れている。
    ひとつひとつ拾い集めて、最後には、頂きも掴み取って見せよう。

    きっとそれは、最高のマーベラスだ。

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:26:16
  • 10二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:44:51

    騙された!

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/17(日) 20:49:35

    てえてえ……
    貴重なマーベラス成分ありがてえ……

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 08:33:14

    マベちんSSだ…ありがたい…
    一つ一つ理解していくの好き

  • 13二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 19:14:30

    良かった
    待て、なんだそのスレタイは

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