- 1名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:16:48
「……ん……」
夏合宿2日目の朝……といえるか分からないほど、早い時間に、アルダンが目を覚ます。
アルダンは擦った目で外を見るとまだ暗く、時刻も4時。7時に朝食のため、まだ3時間も猶予がある。
「………んっ」
あまりにも早すぎるが、二度寝という選択肢が思い浮かばずに体を伸ばす。
「早起きは三文の徳……ですからね」
それに、目覚めるといつもの違う場所、というのがどうしても体が高揚してしまうのだ。
去年、2年のときに名残惜しかったのもあってか、今年も夏合宿に来れたときに舞い上がっている自分がいる。
とはいえ、同室のチヨノオーを起こすわけには行かないため、アルダンはこっそりと一人で外に出る準備をする。
流石に今すぐに水着なのも恥ずかしかったので、ジャージに着替えて、こっそりと。 - 2名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:17:19
「わぁ……っ」
いつも、たくさんの人やウマ娘がいる場所だからこそ、誰もいない海が新鮮に感じたアルダンが、声を漏らす。
そして──だからこそ気づきやすくもなる。
「……トレーナーさん?」
★
朝早くの夜道、微かに聞こえる波の音と、イヤホンから流れる音楽のリズムに取りながら歩いていく。
特に、朝早くに起きた理由はない。トレーナーもウマ娘たちと同じように集合して、各自トレーニングをするからだ。
けれど、なぜか朝早くに目が覚めてしまい、二度寝をするほど眠気もなかった。
「〜〜♪〜〜〜♪」
高い歌の歌詞は歌わずに、メロディーのみを口ずさむ。
トレーナー、もとい教師になっている以上、歩きながら音楽くのは久しくやっていなかったが……今の雰囲気にあった曲を聞きながら散歩をする誘惑に耐えきれず、こっそりと一人だけの楽しみを堪能している。 - 3名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:17:39
時計を見ると、4時30分。
少しずつ、海の先に光が見えてきている。
「……贅沢だな」
とはいえ、ちょっとした事でしかないけど。
夏の合宿先で、好きな音楽を聞きながら海と朝日を見る。
まるで、物語のようなことをやってみたくなっているあたり、俺もまだまだ童心が抜けてないのだろう。
そんな自分を笑いながら、今の曲──静かなときに聞く曲を停止して、夜明けに聞きたい曲に変えようと
「───だーれだ?」
したところで、急に目の前が真っ暗になる。
「……アルダン?」
「ふふっ、正解です。すぐに分かったのですね」
なんとか悲鳴を押し殺して答えると、笑い声と一緒に視界が開放される。 - 4名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:18:00
「……もしかして、トレーナーさん。私の声に気づいていたのに無視をしていたのですか?」
……アルダンの、尻尾に使っているトリートメントの香りがしたからわかった、とは言えない。
「あー……悪い、音楽を聞いていたから、気付なかったんだ」
「ふふっわかっています。トレーナーさんがイヤホンをしているのが珍しくて、すぐにわかりましたから」
そう微笑みながら、アルダンが俺の隣に座る。
「トレーナーさんは、どんな音楽を聞いているんですか?」
アルダンがそういうと、イヤホンを外してスピーカーモードにしようとする。
…が、
「せっかくなので、私もイヤホンで聞いていいですか?」
「いいけど、俺が使っていたやつで平気か?」
「はい、大丈夫です」
二人で片耳ずつ、イヤホンをつける。
あくまでも人間用のイヤホンなので、大丈夫か気になったが、問題なくアルダンがつけてることを確認して、曲を── - 5名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:18:20
「ちょっとまってくれ、アルダン」
首を傾けるアルダンを横目で見ながら、時計を確認する。
4時36分。
曲は約4分。確か来る前に調べた時間だと…
何も言わずに、時計を見る俺をアルダンは待ってくれている。
信用されてることに嬉しくなりつつ、時間と同時に曲を開始する。
曲の最初のピアノの音に、アルダンが小さく息を呑む。
前奏が終わり、ゆっくりとした曲調。そして、優しく静かな声。
さっき、俺が行きながら聞いていた曲とは違う、俺が夜明けのときに聞こうとしていた曲。
優しく、けれどもハッキリとした美しさのある曲。
そして、
「───」
2度目のサビと同時に、海から現れる朝日。
そこで、再びアルダンが息を呑んだのだろう。声は聞こえなかったが、視界の隅で、目を見開いたのが見えた。
そのまま、二人で朝日を見ながら曲が終わるまで聞き続ける── - 6名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:18:43
「ずるいです、トレーナーさん」
曲を聞き終わったあと、イヤホンを外したアルダンが言った最初の言葉がそれだった。
「とても綺麗でしたのに、これを一人で堪能としようとしていたのは少しずるいです」
少しだけ頬を膨らませるアルダンだが、声も弾んでおり、尻尾も楽しそうに揺れている。
「せっかく寝ていたのに起こすのも悪かったからな…それに、俺もたまたま起きたし」
まさか、アルダンもこんなに早くに起きてるとは思わなかった。
そう言い訳をする俺に、アルダンが笑う。
「夜明けの、朝が来るほんの少しだけのひと時でしたが、その一瞬が音楽の雰囲気も合さって、何倍もキレイになりました」
うっとりとした様子で言うアルダン。
「そうだな。でも、アルダンもこれを目指しているだろう?」
俺の言葉に、アルダンはキョトンとした顔で俺を見つめる。 - 7名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:19:01
「一つが綺麗でも、それが全部合わさってこそ、さらに何倍も美しい景色が見える。
──1つ1つのレースで、アルダンが観客に見せようとしている景色も、きっとこんなふうに輝いているはずだ」
綺麗な曲だけ、朝日だけでも、美しさやインパクトはある。
けれど、今回時間を合わせて曲を流したように、彼女も1つのレースに時間をかけて打ち込み、良いライバルたちと肩を並べているからこそ、見る人全てを魅了する輝きが生まれる。
彼女が目指す、姉の威光を超えて多くの人の記憶に刻む風景は、こんな感じなのだろうと思う。
「不思議ですね」
朝日を見ながら、アルダンが呟く。
「たった一瞬のことですのに、その輝きが頭から忘れられません。また、この景色を見たいと思います」
「そんなふうに、観客が思ってもらえるように頑張ろう。二人で、一緒にな」
「はいっ!」
アルダンの返事に俺も大きく頷き、二人で立ち上がる。
今年の夏合宿。
そして、その先のレースのために、二人で頑張ろう。 - 8名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:20:33
海の日ということを思い出し、前々からやりたかったシチュエーションを。
実体験なので、ぜひアルダンさんにも同士諸君もやってみてほしいです - 9二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 21:20:50
良い雰囲気だ…
良いものをありがとうございます - 10名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:22:46
ちなみに、参考曲は「夜明け前に飛び乗って」という曲。
とても夜明けにあった曲なので、機会あれば聞いてみてください - 11名もなきアルダン好き22/07/18(月) 21:24:30
- 12二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 22:01:55
この二人はロマンチックなやりとりが本当に似合う…
素敵な物語をありがとうございます! - 13名もなきアルダン好き22/07/19(火) 09:48:07