【トレ+ウマ】その魔法は未来に続く

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:43:36

    「ねえママ!アタシ、トレセン学園行きたい!」

    自分の娘がこんな事を言うのは今に始まった事ではないが、最近はそれがかなり強くなった。きっかけは、今よりもっと幼かった頃、私が現役の時のレースを観た事。魔法の様な人々を魅了にした走りに娘も同じように感銘を受けたという、どこにでもありそうなお話。ただ、理想と現実というものは得てして乖離しているのが常。その辺も娘に覚えてもらわないと。

    「うーん…貴方がやる気いっぱいなのは良いけどレースってただのかけっこじゃないのよ?皆、才能に溢れた子たちが貴方と同じ夢を抱いてトレセン学園に行くんだから」
    「でもでも、勝ちたいって気持ちは誰よりもあるもん!」
    「勝ちたいって気持ちだけじゃダーメ。お勉強も頑張らなきゃなのよ?走りたいって気持ちだけで戦えるほど甘い所では…」
    「ヤダヤダヤダ!アタシ絶対行くもん!行ーくーのー!」

    まったく、少しでも自分の思い通りにならないとすぐ癇癪起こすんだから…誰に似たのかしら。

  • 2二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:44:11

    その後も、娘のトレセン学園への受験意欲は高まる一方だった。念の為、夫とも話をしたが夫は彼女の人生は彼女が主役だから挑戦させても良いのでは?と賛成寄りの意見だった。ちなみに彼は、元レース関係者で私の走りに惹かれ、私は彼のその人柄に惹かれ結婚にまで至った。昔の自分が聞いたら多分ひっくり返るだろう。

    正直、私だって娘の夢を応援してあげたい。だけど、そこに籍を置いていたから知っている厳しい世界の実情を思うとどうしても今の娘のままでは…という悪いイフを想起してしまう。どうしたものかと思慮しつつも食料品を買いにスーパーに向かっていると突然、通行人から声をかけられる。

    「あの…もしかしてスイープトウショウさんですか?」
    「?はい、いかにも私はスイープトウショウですが…」

    現役を退いてから久しいが声をかけられるとは。ファンかなと声の主の顔を見ると

    「覚えてるか?君の元トレーナー…元使い魔だ」
    「え?…あぁー!!何よアンタ、こんなとこで何してんの!?」

    その声は、かつてトレセン学園で世界中に魔法をかける事を夢見て共に走ってきた無二の相棒にして我が使い魔。トレセン学園を卒業後と共にその関係は解消され、最後に会ったのは夫との結婚式の時だった。パパと並んでズタボロに泣いていたのは今思い出しても抱腹である。

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:45:51

    「今日はもう仕事も終わったし買い物して帰ろうかなって。そっちは?」
    「ふん、見たらわかるでしょ?スイーピーだって立派なママだから食料品のお買い物よ」

    コイツとパパの前でだけは、昔のワガママ一辺倒な生意気な魔法少女に戻る。思わずそうなってしまうのだから不思議だなあ。無論、夫は夫でアタシのことを第一に考えてくれる素敵な王子様でよくアタシが結婚出来たなとたまに思わないこともない。…そういえばコイツ、今もトレーナーやってるんだっけ。

    「ねえ使い魔?もうお仕事終わったって言ってたしこの後時間あるわよね?久々にスイーピーのワガママに付き合いなさい!」
    「えぇ、早く帰って寝たいのに…」
    「ヤダヤダヤダ!付き合いなさい!付き合うったら付き合うのーっ!アンタはアタシの使い魔なのよ!?わかってる!?」
    「!…はあ、そう言われちゃ断れないじゃんか。ちょっとだけな?」

    何とも懐かしいやり取りをしつつ、喫茶店に入店する。席に着き、使い魔はジャスミンティー、アタシはハーブティーを注文し、アタシは本題に入った。

    「ちょっとアンタに相談なんだけど…。アタシの娘がね、トレセン学園に入りたいって言ってるの」
    「おお、そうか!血は争えないというか何というか…入ってくるのが楽しみだ」
    「ちょっと!最後まで話聞きなさいよね!…でね、アタシも応援はしてあげたいけど…どうしても不安を拭えないの」
    「不安」
    「確かにアタシもあそこで色んな事を学んだと思うし結果的に今のダンナと出会った。だから素敵な魔法に溢れてるとは思うけど…親としてやっぱり不安なの。大事な娘が思春期に夢破れて打ち拉がれる様な事があったらと思うと…」
    「スイープ…」

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:46:50

    そう、別に娘が嫌いだから反対してる訳じゃない。今の世の中、ウマ娘だからと自動的にレースの道を選ぶ必要は無く、多様性にあふれ、携われる業種も大きく増えた。限定されている訳ではないのなら、娘が幸せになれる選択肢だって大きく増えるはず。アタシは、それでも全然構わない。心の内を吐露すると、アイツは憎たらしい顔で笑う。

    「…ふふ、そうか。君も、そっち側の立場になったって事だな」
    「?そっちって何の話よ」
    「心配する立場。でもそうだよな、可愛い愛娘が茨の道と知ってるルートに向かおうとしてるんだったら親としては全面応援!とは逆に言えないのはわかるよ。俺も君が卒業してからも色んな子を担当したけど、中には諦めて途中で降りてしまった娘もいた。トレーナーから見ても容易に掴み取れる未来とは言い難い」

    トレーナーたる使い魔の意見はアタシと合致していた。才能だけでも、努力だけでもダメ。どちらも備えて初めてスタートラインに立てる世界だったんだと、レースから離れてようやく知った。まあアタシはほぼ才能で勝ったけど?そう心でドヤってると使い魔は続けて意外な事を話す。

    「…でもさ、だからと言って簡単に諦めさせるのは勿体無いんじゃないかな?確かに、楽な世界ではないが入りたいと強く願って努力しているのなら俺は応援したい」
    「…トレーナー目線だとそうなのね」
    「いや?俺個人、使い魔の目線でかな。君の娘は、自分なりの地図とコンパスを持ってる。幼心ながら多分道筋も見えている。その中で指し示した道がトレセン学園への入学なら、俺はその夢を尊重して出来る限り手伝いたいさ。…これ、君から教えてもらった事なんだぜ?」

    使い魔は、言い切ると紅茶を口に含んでほっと息を吐く。コイツも、伊達に長くトレーナーをしてる訳ではない。夢を叶えた娘も、道半ばで諦めた娘もたくさん見た中でこう言い切る辺り、繕いのない本心である事が窺える。

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:48:07

    トレセン在学時、グランマを除くとコイツだけは他の大人と違ってワガママなアタシの本心を聴いてくれた。自分でも何でイヤなのかわからない時も一緒になって頭を捻っていた、数少ないアタシを信頼してくれる大人だったから…アタシはコイツを正式な使い魔とした。つまりコイツが言いたいのは…

    「アタシにもっとあの子を信用してあげなさいって言いたいの?」
    「そうだな。不安に思うのは娘さんが大事だからっていう親心だもんな、わかる。でも、君の娘も日々少しずつ成長してるんだ。話を聞く感じだと昨日今日の話じゃなくてずっと言い続けてきたみたいだし、ちゃんと本心を聞いた上で一度委ねてみてもいいんじゃないか?」

    使い魔は、何も変わっていなかった。強情なアタシと組んでたあの頃から、少し顔に皺が入り、白髪混じりの髪の毛ではあるけど中身は何も変わらず、アタシのお気に入りの使い魔のままだった。…ちょっと生意気になった気もするけど?

    「…まあ、スイーピーの使い魔からの意見だし?特別に参考にしてあげる」
    「はは、恐悦至極だよ」
    「だから、もしあの子がトレセンに行く様なら────────」

    そこまで言い、アタシは姿勢を正して深々と頭を下げる。

    「もし、あの子がトレセン学園に行くなら、どうか娘をよろしくお願いします。私を支えてくれた貴方なら、安心して任せられる。どうか娘の夢の手助けをしてあげてください。」
    「…。ええ、わかりました。貴方の大事な娘さんを責任もって預からせていただきます。良いご報告を出来るよう、誠心誠意励みますのでよろしくお願いします。」

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:49:21

    時は流れ…
    「もー!入学式長い!脚痺れた〜…」

    アタシは、この春から晴れてトレセン学園に入学した。最初は反対していたママを魔法で説得して落とし、人生で1.2を争うほどに勉強しまくった結果、今日を迎える事ができた。でもここがゴールじゃない、まだスタート地点に立っただけ。これから起きる全てに対して期待と不安を胸に構内を歩き回る。…そういえばママ、このトレーナー室に行ってごらん、魔法にかかるよって言ってたな。場所は…ここか。よし!

    「たのもー!」
    「うん!?敵襲!?」
    「えと、ママに入学したらここに行きなさいと言われて来ました!」
    「ママ…?その方の名を聞いても?」
    「はい、スイープトウショウって言います!」

    そう言うと、その部屋の主は一瞬ポカンとした顔を浮かべ、すぐに嬉しそうに笑いだす。まるで、魔法にかけられたかの様に…。

    「そっか、試験突破したんだな…。この親にしてこの子ありとはよく言ったもんだ…ああごめんね、1人で舞い上がって。君のお名前を聞いても良いかな?」
    「はい!スイープアワーズです!…ところでアナタはママをご存知なんですか?」
    「ああ…よく知ってるよ。俺は君のお母さんの使い魔だったからね。平たく言えば、お母さんが現役だった時のトレーナーだよ」
    「ええっ!?アナタがそうなんですか!?け、契約してください!」
    「いや早いって。とりあえずは選抜レースに出てもらうけど、良いものを持ってると思うから存分に発揮してきてくれ。契約するのは、そこからでも遅くないだろう?」
    「はいっ!よぉーし燃えてきたー!アタシもママみたいな立派な魔法使いになるぞー!」
    「そこも似たのか…いよいよジェネリックスイープだな」

    その魔法は、次世代へと受け継がれる。

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:52:21

    はい、そんなこんなで終わりです
    最初はトレーナーとくっつけようと考えたのですがどう頑張ってもくっつく描写が想像出来ずに別の方と結婚し、生まれた愛娘をかつて自分と共に戦ったトレーナーに託すというよくわからない概念が落っこちてきたので熱が冷めないうちに文章にしました。大人スイープはどんな感じになるんでしょうね

    見てくださった方ありがとうございます。解釈違いが発生してたら誠にごめんなさい。

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:54:10

    良いじゃない(ニコッ)

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 16:58:41

    大人になった子が久しぶりに会っても昔通りってのは個人的に好き

  • 10二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 17:00:15

    こういうのもいいな…

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 17:09:32

    ちなみに子供の名前はハーツクライとの子のスイープセレリタスと迷った結果、まだ走ってなくてどんな魔法を見せてくれるのか未知数なプイプイとの産駒の子の方にしました。

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 17:18:43
  • 13二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 17:29:20

    へぇ……とても良いじゃないのよ

  • 14二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 19:35:38

    いい感じに落とし込めててよき

  • 15二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 22:34:56

    大人になってたけど当時の人と会ってたちまち元に戻るスイープ
    でも娘を送り出す決心を固めた時はいくら使い魔相手でもちゃんと礼を尽くす
    うん、ヨシ!

  • 16二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 22:45:25

    いいじゃん!

  • 17二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 09:05:27

    大人になったら落ち着くのか変わらないのか
    どっちでも美味しいな

  • 18二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 19:56:37

    受け継がれるのとても好き

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています