【SS】あたしバカだからさ……

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:02:05

    「あたし、最後までバカだったから……今も、なんて言ったら全然いいかわかんなくて……」

    しどろもどろになりながら、あたしは必死に言葉を出そうとする。でも、思ってること、伝えたいこと……それを表現するだけの頭が、あたしには無かった。トレーナーはそんなあたしを、ずっと黙って待ってくれてた。

    「だけど、その……バカなあたしをここまで連れてきてくれて、ありがと!……あたし、トレーナーのこと━━━」

    「━━━けっこー、好きだったよ」

    ただ、バカなあたしでもわかっていたのは、これはいつか終わりの来る関係だったってこと。だから、なんてゆーか。
    あたしのためにトレーナーを縛り付けるのは、もうおしまいなんだって。

    【その言葉を貰えてとても誇りに思う……今のジョーダンなら、これからもっと高みを目指せるよ】

    「━━━。うん、さんきゅ……バイバイ」

    あれはただの別れの言葉だったのか、それとも……
    今となっては、あの時のあたしの気持ちがどうだったかなんて、わかんないんだよね。終わったことを気にしても、意味なんてないし。
    そんな何年も前の、すっかり忘れかけてた思い出に色がよみがえったのは━━━

  • 2二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:02:47

    「……もしかして、トレーナー?」

    【……ジョーダン?】

    仕事終わりに行きつけのバーに寄ったら、見知らぬお客さん。なんとなく顔を覗いてみたら、まさか、ホントにトレーナーだったなんて!

    「マジ!?テンション爆アゲなんすけど!どしたんこんなとこで!?」

    【出張でね、たまたま寄ってみたんだ。ジョーダンは相変わらずだな……ほら、座って話そう】

    カウンター席の端、トレーナーの隣に座り、ひとまず注文を入れる。いつものチャイナブルーでお願い、マスター。
    グラスをちびちび口に含みながら、互いを横目に口を開いていく。

    「今も、トレーナーしてるんしょ?まあアンタくらいの出来るオトコなら、ひくて……あたま?だっけ」

    【引く手数多な。ああ、おかげさまで、チームも担当させて貰えるようになった……君のおかげだよ。ジョーダンの方は、今……?】

    「あたしはネイリストやってる。今はまだ修行中だけど、いつかは自分のお店出したいなーって」

    【素敵じゃないか。応援するよ】

    「あんがと。でもやることマジ多いのー!ネイルだけすんじゃダメで、資格とか、お店出すならもっと勉強しなきゃいけないってゆーね。ほんとバカには辛いわー!……マスター!次はこの━━━」

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:03:16

    久々の再会でテンションアガってんのか、お酒もいつもより進んでる気がする。もう体がぽかぽかしてきたかも。

    【でも、諦めず勉強してるんだろう?やっぱりジョーダンは凄いよ】

    そういうトレーナーの方はというと、顔は少し赤いけど、全然酔っ払った感じもない。あの頃は新人だったらしいから、まだ青臭い感じが顔立ちに残ってたけど……今はもうすっかり引き締まって、出来る一人前の大人って感じ。
    ……カッコよくなったじゃん、トレーナー。
    再開して実感した……昔以上に、あたしとトレーナー、全然釣り合ってないって。

    「ううん……全然。ネイルの腕が少し良くても、接客とか、会計とか……失敗ばっかで怒られまくり。やっぱひとりじゃ、勉強の仕方もダメダメなんだわ……今日も、そーいうヤケ酒っていうね」

    【……教えてくれる人はいないのか?】

    「そりゃ、センパイとか色々教えてくれんだけどさ。何言ってんのか全然わかんなくて……迷惑かけてんの。せっかく……新しい夢、できたのに」

    トレーナーなしで勉強すんのがこんな大変だったなんて……なんで、そんな当たり前のこと忘れてたんだろね。
    トレーナーと出会う前と同じ……あのどうにもできないモヤモヤと、夢が遠のいてく悔しさ……あたし、全然変わってないじゃんって、思い知らされた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:03:52

    【……また、教えてあげられればいいんだけどね】

    ……どしたん、急に何言ってんの、このトレーナー。おせじってヤツ?もうあたしとはなんのカンケーもないじゃん……気にする理由、ないって。

    「はは、そーしたらチーム教えながら、不出来な生徒も抱えることになっちゃうじゃん、トレーナーやってけないっしょ」

    【そうか……?ちょっと想像してみたが、昔と変わらず楽しそうで、俺は全然平気だけどな】

    手の中のグラスが軋んだ。だからさ、そうやってほじくり返そうとすんの、何なの。

    「……なんで、そんなこと言えんの。もうあたし、アンタの担当じゃ━━━」

    【━━━俺は今でも、ジョーダンのトレーナーのつもりだ】

    カラン━━手が震えて、氷がグラスを叩いた。
    初めて、トレーナーと真正面から目が合う。バカなあたしのために色々工夫してトレーニングを考えてくれてた、あの頃と変わんないまっすぐな目。

    【福引の当たりで温泉行った時のこと、覚えてるか?未練たらしいのはわかってるんだけど……あの時ジョーダンに言われた通りになってしまってさ】

    苦笑混じりに言われ、酔った頭で何とか思い出す。

    『あたしの中にあの日のことがずっと生きてるっつーか?』
    『……アンタも、そうなっちゃえ』

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:04:26

    そういえば、そうだった。自分で言ったことじゃん。トレーナーの中には、あたしとの日々が生きたままで……。
    あたしも……そりゃ、同じだよね。
    関係は変わってく……だからもう過去の記録なんだって、無理やり目を逸らしてただけで。
    ほら、こんなにもはっきり思い出せんじゃん。

    ……トレーナーはそのつもりなかったかもだけど……また、教えられちゃった。
    やっぱ、凄いよアンタ。ホントあたしにはもったいない男だ。
    けどね、もひとつ気づいたことがあって……たとえ釣り合わなくても……もうあたし、アンタの隣で過ごすゼータクの味、覚えちゃってんの。

    「はあー……もう!アンタも明日早いっしょ?そろそろ出よ?」

    客も増えてきて、ここじゃ話しづらいから、二人で店を出た。
    出口の先は路地裏で、冷たい風が火照った顔に気持ちいい。ここなら、二人きり。トレーナーと向き合う……あの時みたいに。だけど今度は、きちんと伝えるんだ、あたしなりの言葉で。

    【……何かな】

    「……聞いて。アンタはあたしのこと、まだ担当だと思ってるみたいだけどさ……あたしはそれじゃ、嫌」

    「でも、あたしはまだひとりじゃロクに勉強もできない、あの頃とそんな変わってないから……その……さ」

    しがらみとか、迷惑掛けるとか……もー考えない。バカはバカらしくワガママ言って、欲しいもん全部、掴んじゃえ。

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:05:15

    「もう、アンタが隣にいて教えてくんないと、生きてけないんだわ━━━セキニン、とってよ」

    オーバーヒートしそうな頭に何とか鞭打って……言えた。崩れそうな足を何とか踏みとどめる。呼吸が浅くなって、視界もぼやけてきた。

    【……でも、それは】

    トレーナーはなんて返事をしたらいいか、困ってるみたいで。そりゃそうか、あたしがトレーナーを過去に縛ってしまってたんだから。
    1歩、2歩近づいて、その首に手を回した。

    「だから言ったじゃん。あたしもうアンタの担当じゃないって。すっごい大人のアンタからしたら子供に見えるかもだけどさ……もう、大人だから!」

    【俺なんか……君にはもっと素敵な人が現れるよ、だから━━━】

    「目ぇ逸らすなしっ……ん━━━━」

    口で、黙らせた。
    とぼけたこと言って……う、酒くさ。

    「━━━ぷはっ。自己評価低すぎだっての。アンタ以上にイイ大人……他にいるわけない!」

    震える喉奥と、弾けそうな鼓動を何とか抑えて、最後まで絞り出せた。
    そっと、トレーナーの指があたしの目元を拭った。あれ嘘、あたし、いつの間に、泣いてんの……。

    【そんな顔しないでくれ、美人が台無しだ】

    視界がはっきりと戻ってくる……トレーナー、こんな照れ顔することあるんだ……。

    【あー……とりあえず、どんな勉強をしているのか後で教えてくれ。連絡先、まだ残してるだろ?】

    「ぷっ……何それ、0点だっての、その返事」

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:05:43

    今はこれで勘弁してくれと、トレーナーはそっぽを向いた。
    ……まあ、今回は許したげる。これからまた大迷惑、掛けてくんだから。

    「……はい、腕出して。行こ?」

    二人並んで、通りへ向かって歩き始める。ネオンの痛くなりそうな光の中も、人混みにさらわれないように、トレーナーはずっと手を握っててくれた。
    何?宿に帰るからこの辺で?……ヤ、離さないし。

    「こっちさ、あたしのアパートとは反対方向なんだよね……酔ってダルいし、もー戻りたくないの」

    慌ててスマホを取り出そうとしたトレーナーの手をもう片方で押さえつける。あたし、一応ウマ娘だから。力比べでアンタが勝てる訳、ないっしょ?

    「いいでしょ、今日くらい……泊めてってよ」

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:06:02

    みたいでなくてもいいんですけど
    ジョーダンとトレの関係は感情どうこう以前にあまりにもトレが優秀スパダリ過ぎてジョーダンこれ卒業後一人でやってけるか心配になるのでトレは責任取るべきだと思います

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:08:02
  • 10二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:08:14

    ジョーダン育成したくなったじゃないか

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:16:39

    ジョーダンのトレーナーは責任取るべきだよなって育成シナリオ読んだ時からずっと思ってるわ

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:36:22

    ジョーダンの温泉引けてないんだけどそんなことになってたのか……
    引かなきゃ(使命感)

  • 13二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:40:31

    なんか長そうだったから「泊めてってよ」まで読んでやめた

  • 14二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 22:45:57

    ジョーダンが欲しくて仕方ない俺に効くSS

  • 15二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 23:01:49

    いいSSだった
    ジョーダンはバイバイしそうってよく言われるけど
    一番離れてほしくないペアだと思う

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