- 1二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 19:14:52
「バンブーメモリー。貴方に話があるの」
「な、なんっスか……」
ある日のトレーニング終わり、トレーナーさんが深刻な顔をしてアタシを呼び止めた。ここじゃあ話しづらいから、とトレーナー室に呼ばれ、いよいよ心臓の鼓動が早くなる。
「まずは、ごめんなさい。故意に見たつもりはないの。でも、貴方にはどうしても言わなければと思って……」
「怖い怖い怖いっスよ!?ここはもうズバっと言ってほしいっス!何の話っスかコレ!?」
トレーナーさんの言い方が重々しいので、アタシは思わずテンパって大きな声を出してしまう。
「そう。なら単刀直入に言うわね。バンブー、ブラジャーを買い替えなさい」
「…………はい?」
一瞬頭が真っ白になった後、トレーナーさんの言葉の意味をようやく理解する。直後に浮かんだのは疑問だった。
「えーっと、なんでっスか……?」
「貴方のブラジャー、古くなってるからよ。肩紐はヨレてるしカップは黒カビが生えてる。貴方は死んだブラジャーを胸に抱いてるも同然なのよ」
「なんスか死んだブラジャーって……別に、使えてるからいいじゃないっスか」
「ダメ。ちゃんとした下着をつけさせないとタイムにも影響が出るという研究データもあるくらいなんだから。それに、サイズもちょっと合ってないし」
「うぐぅ!」
トレーナーさんがアタシの胸を見てため息をつく。確かに最近、少しキツくなってきた気はしていた。でもそんなこと、恥ずかしくて言い出せなかった。
「別にバストサイズの変動は恥ずかしいことではないのよ。貴方の場合、本格化に加え胸筋がついたことで以前より大きくなったのだと思うわ。これは成長の」
「わ、分かったっス!新しく買いますから!」
いくらトレーナーさんが真面目な顔で説明をしようが恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。慌てて喋るのを止めさせる。
現在時刻は夕方。まだ門限まで時間があるので、トレーナーさんと近くのショッピングモールへ行き下着を買うことになった。 - 2122/07/23(土) 19:17:23
トレーナーさんに連れられ、やってきたランジェリーショップ。店内に入ると、色とりどりのブラジャーたちが出迎えてくれた。
「ふぇ~、こんなにあるんスねぇ……」
「この中から自分に合ったものを選ぶのよ。ああ、いい機会だからちゃんとサイズも測り直してもらってからにしましょう」
「うへぇ……なんか緊張してきたっス……」
店員のお姉さんに連れられて試着室に入り、サイズの計測をしてもらった後、勧められたメーカーのブラジャーを試着する。そしてまた別のメーカーのものをつけてみて……そこからデザインや着心地を見て候補を絞っていくが、なかなか決まらない。
「トレーナーさんはどう思います?」
「そうね、バンブーは何を一番優先したいの?形状だとか、着けた感触とか」
「そう言われても……」
改めて聞かれると難しい質問だ。今までは中学生くらいの時母さんが買ってきた下着を何も考えずに着けていたから、正直何も分からない。
「着けた感じはどれも良かったと思うっス。そうなるとデザインが決め手になると思うんスけど……ど、どれもなんかハズいというかアタシが着けるには可愛過ぎるというか……」
試着を終えハンガーにかけられたブラジャーは全て、レースやフリルがついていたりザ・女の子という感じのピンクだったりと、とてもアタシがつけるようなものではなかった。
「でも嫌いじゃないでしょ?可愛いのは」
「いや、まぁそうなんですけど……」
「別に他人に見せるものじゃないんだし、好きなものを選べばいいじゃない」
改めて、似合うかどうかではなく好きかどうかを考えた。しかし、いざそう考えると逆にどれを選んで良いのか分からなくなる。
「うーん……3つまでは絞ってるんっスけどね……」
候補にしているのは白地に水色の花柄をあしらったものと、淡いピンク色のものと、薄い青色のレースが付いたものだ。
「そう。なら全部買いましょう」
「え゛」
言うが早いか、トレーナーさんは店員さんに声をかけて会計を進めていく。
「ちょっ!?流石に申し訳ないっスよ!!」
「これくらい良いのよ、私は大人だし、消耗品は多めに買っても困らないから。それに、職業柄お金があっても使う機会が無いし……」
最後の方でトレーナーさんが急に小声になったのでそこはよく聞こえなかったのだが、とにかくお言葉に甘えて3つとも購入することに決めた。 - 3122/07/23(土) 19:18:42
「ありがとうございましたー」
店員さんの声を背に受けながら店を出る。
まだ心臓がドキドキしている。持ち手がリボンになっているオシャレな紙袋がアタシに不釣り合いに思えて、なんだか居心地が悪い。
よく考えたら、親戚以外で大人の女の人とこんな買い物をするなんて初めてだった。だから余計にテンションがおかしくなっているんだと思う。
「トレーナーさん……」
「なに?」
「いえ、その、今日はありがとうございました」
「いいのよ。あなたの為なら」
そう言って微笑むトレーナーさんの笑顔は薄暗くてよく見えなかったけど、それで良かったと思う。だって、今あの人の顔を見たら、アタシの心臓はパンクしてしまいそうだから。
バンブーが寮の自室に帰って行くのを見届けた後、私も帰路につく。
さっきのバンブーの慌てる姿が脳裏に浮かぶ。普段は元気で明るい彼女だが、あんな風に年相応の少女らしい一面もある。それを自分は知っているという優越感が、仄暗い独占欲を掻き立てる。
(いいえ、私はただ、大人として担当ウマ娘の面倒を見ただけ)
誰に対してかはわからない言い訳をしながら、私は自分の家路についた。
おわり - 4二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 20:09:02
好きぃ……。
女の子がランジェリー買いに行くシチュエーションっていいよね……。 - 5二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 20:10:18
バンブーSSだーっ!!!
ありがとうございますありがとうございます!!!
確かに下着気にしてなさそうだなぁ…♀トレならではの展開もありだ… - 6二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:24:48
予想より爽やかなSSだったぜ……👍
- 7122/07/23(土) 23:07:08
ありがとう!そっ消しも考えていたけど予想外に反応があって良かった
- 8二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 23:07:49
推しの供給ってだけでありがたいんだ…もっと自信を持って欲しい!