- 1二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:03:03
キングヘイローが制服の上からエプロンを羽織っている姿を横目に、トレーナーは汗を拭う。
卵、調味料各種、菜箸、ボウル、長方形のフライパン、カセットコンロが所狭しとテーブルに配置されている。
トレーナー室に並べられているそれらを見て、キングヘイローは頭を抱えているようだ。
少しだけ時間を遡る。午前中の授業を終え、昼食兼ミーティングをキングと行っている時のことだった。
「あなたっていつもコンビニのパンなのね」
目線が口元で咥えられたサンドイッチとキングを交互に行き来される。
「ふぁって、ひふぁんとふぁふぁんふぁえたら」
「いや、飲み込んでから言いなさいよ……」
尤もだと言わんばかりの表情に変わったトレーナー、嚥下の音が聞こえそうなくらい喉が大きく動く。
マグカップのコーヒーでパンが流し込まれるのを、キングはマナーがなっていないと言わんばかりの表情で見つめてきた。
バツの悪さを誤魔化すように、さも気がついていませんよという雰囲気で口を開いた。
「用意とか洗い物の時間考えたらコンビニとかで買う方が楽なんだよ」
再びパンを頬張るトレーナー。もごもごと口を動かし、嚥下する。
「それにキングだってパンじゃないか。人のこと言える食生活なのか?」
ちらりとキングの手元に目を向ける。自分が食べているよりも二回りは手が込んでいるサンドイッチを、ほんの僅かに羨ましく眺めた。 - 2二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:03:45
「これはカフェのテイクアウトよ。あそこなら忙しくない限りはオーダーに融通が効くのよ」
「まあカフェがあれば食事に関しては心配いらないもんな。キングは料理できるイメージはないし」
寮内には共用キッチンがあり、そこでは料理好きがお菓子作りに勤しんだり、トレーニング中の栄養補給食を用意したりすると聞く。
しかし、ウマ娘によってはキッチンの場所を知らないという子もいるらしく、無縁なウマ娘はとことん無縁だという話もある。
「ちょっと! このキングが料理ができないと思っているの!?」
御多分に洩れず、キングヘイローもその類と思ったが、当の本人は目を三角に吊り上げ、こちらを睨んでいる。
──あ、地雷踏んじゃった
後悔先に立たず。先程まで手に持っていたサンドイッチを皿に置いてぷんすかと怒っている。
「キングだって料理くらいできるのよ! その……卵焼きとか!」
これは宥めるのに時間がかかるなと判断した。それと同時に、ちょっとした悪戯心が芽生えてくる。
「じゃあ作ってみてよ。幸い、卵焼きを作る道具はあるから」
「…………へ?」
ぱたぱたとトレーナー室の物置から道具を取りだす。キングヘイローの表情は怒りから困惑へと変わっていた…… - 3二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:04:23
そして話は冒頭へと戻る。
「なんでこんな用意周到なのよ……」
先程の怒りはどこへやら、引き攣った表情を浮かべながらこちらを眺めている。
「あはは……それは大人の事情というわけで……」
本当は自炊に挑戦しようと思っていたが、思ったよりも億劫になったため、倉庫の肥やしになっていただけである。
ピカピカに光る真新しい調理器具を眺め、観念したようにキングヘイローはボウルを正面に、その隣にティッシュを置いた。
「味付けは甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」
振り返ることなく声を掛けられる。予想外の言葉を聞いて、少しだけ戸惑いを覚えた。
「あ、ああ。甘い方がいいかな」
そ、という短い返答。ボウルに砂糖と醤油を乱雑に振りかける。足元にはゴミを入れるのだろうか、袋を広げて配置した。
おもむろに卵を両手に1つずつ掴んだかと思うと、ガガっという鈍い音が鳴り響いた。そう思った直後、殻に覆われていた中身がボウルへと落とされた。
「か、片手で割った……?」
殻を足元の袋へ投げ入れる。隣に置いたティッシュで手を拭き、フライパンが乗ったコンロを着火させる。
「練習したのよ。久しぶりにやるから不安だったけど、案外なんとかなるものね」
そう言いながらも、ボウルの卵を菜箸でかき混ぜる。二つの玉はしっかりと攪拌され、黄金色の液体となった。 - 4二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:04:53
「ちょうどいい頃合いね」
コンロの火で熱されたフライパンに油が一筋垂らされる。取っ手を掴み、手首を返していく。水溜りならぬ油溜まりが全体に広がっていく。
ボウルに持ち替えて、卵液を注ぎ込み全体に広げていく。じゅわじゅわとした音がトレーナー室に鳴り響いた。
固まった薄焼き卵の端を掴み、奥から手前へくるり、くるりと手際よく巻いていく。一通り巻き終わったらまた奥に押し込み、卵液を投入する。
先程のように取っ手を掴み、全体に卵液を広げている。その表情はレースの前に勝るとも劣らないくらい真剣だ。
ただ卵焼きを作っているだけ。見る人が見ればそう断ずるだろう。しかし、トレーナーはそう思わなかった。
きっと何度も繰り返し練習したのだろう。無駄を切り詰めた動きは一朝一夕にできるものではない。
それをおくびにもださず、当然のように振る舞う姿を見て思う。
(やっぱりキングは誰よりも気高く一流なんだな) - 5二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:05:20
「……ぇ! 出来たわよ!」
その声でふと我に帰る。目の前には黄金に輝く卵焼きを持ったキングヘイローがいた。
「本当は包丁で切った方がいいんだけど見当たらなかったから……もう、なんで1番大事なものがないのよ……」
ぶつぶつと苦情を呟くキングヘイロー。コトリと卵焼きが置かれる。
「さ、冷めないうちにどうぞ召し上がれ。一流のキングヘイロー珠玉の一品よ」
どことなく芝居掛かった口調で促すキング。慌てて箸を取り出し、黄金色に光る卵を割った。
断面からほかほかと湯気が立ち上るそれを眺めて、ごくりと喉が鳴る。我慢できずに一気に頬張った。
「……ど、どうかしら?」
キングヘイローの不安そうな声が聞こえる。しかし、舌に全神経を集中させていたトレーナーにはその音はノイズでしかなかった。
まず感じるのは出来立てにしか存在しない熱。決して不快ではない温かさが口の中に広がる。
続いてふわりとした柔らかさと半熟の官能的なとろみ。絶妙の火加減が生み出す食感が嬉しくなる。
咀嚼するごとに感じる卵のまろやかさと甘さ。それだけでは単調になる味を、僅かに混ぜられた醤油の香ばしさと旨味で補強する。
(ああ、美味いなぁ)
ひと口、ふた口と止まることなく卵焼きを口に運ぶ。一心不乱とはこのようなものかとばかりだった。 - 6二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:05:40
気が付いたら皿の上にあった卵は全てなくなっていた。視線を上げると、キングヘイローは困ったような、嬉しそうな顔をしていた。
「ちょっと! せめて何か言いなさいよ!」
不満をぶつけるように悪態をつかれてしまう。しかし、そんな締まりのない顔で言われても迫力に欠けるというものだった。
「いや、すっごく美味しかった。つい無心になるくらいだったよ」
「……とぉーぜんじゃない! このキングが作った卵焼きが美味しくないわけがないじゃない!!」
いつもの高笑いが聞こえる。心なしか、普段の笑いよりも大きく、強く聞こえた。
「さっ、食器をよこしなさいな。一流とは後片付けも完璧にやってこそよ」
カチャカチャと食器や調理器具をまとめていくキングヘイロー。ただし、その手つきはどこかおぼつかなかったが、それを指摘するほど野暮ではなかった。
「それじゃあトレーニングの時間にまた会いましょう。一流の料理を食べたんだからその分の働きを見せてちょうだいね」
そう言い残して部屋を出るキングヘイロー。
「あれ、なんか忘れてるような……」
ぽつりと呟く。記憶を巡らせようとした瞬間、予鈴のチャイムが鳴ったため、思考を横に置き、午後の仕事に取り掛かる。
果たして、本来ミーティングのためにトレーナー室に集まったことを両名が思い出すのは、午後のトレーニングで顔を合わせた時だったとさ。 - 7二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:06:51
という話を思いついたんだが思い付いただけなので誰か書いてください
- 8二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:14:47
もうお前さんが書いてるじゃないか!!! すごく良かったぞ!!!
- 9二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:18:03
- 10二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 21:29:29
幼少期お母様が風邪引いてどっからか卵は栄養満点という話を聞いて拙い卵焼きを作って持っていく
そしたら「そんなもの作ってる暇があるなら勉強しなさい」的なこと言われて部屋から追い出される。
本当は風邪をうつしたくないから極力近寄るなという意味だったが
幼少期のキングは「もっと美味しく作れたら食べてくれる」と必死に練習したけど結局一度も食べてもらったことがないまま今に至り
始めて他人に振る舞ったのが今回という話を思いついたがこっちは本当に思いついただけなので誰か書いて