- 1二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 16:14:58
切っ掛けは些細な事だった
それは単純な好奇心、或いは失敗した先代の総理大臣を一度笑ってやろうという醜い人間の虚栄心だろうか
『魔王』サイレンススズカ元総理大臣、その面会に私は訪れていた
暫く待っていると一枚の透明な壁を隔てた向こう側から看守に連れられてスズカが入って来た
そうして椅子に着くと僅かに微笑んで
「会えて嬉しいわ、第三国工作員サクラバクシンオー…いいえ、驀進党党首サクラバクシンオー議員の方が正しいかしら」
冷や汗が背を伝う、獄中に有りながらどうやって私の素性を知っているのか、僅かな動揺をしてしまう
そんな私を見て眼の前の人物は続ける
「安心して、あなたがどんな国のどんな組織の人間であっても、どこにも告げ口なんてしないわ。私は総ての人に先頭の景色を見せて上げたいの、それはあなただって例外じゃないのよ」
「処刑を待つばかりのあなたがもう一度先頭の景色を見られるとでも?」
咄嗟に言葉が口を衝く、そうしないと眼の前の化物にのみ込まれてしまいそうだったから、しかし化物がより大きく口を開けるように、怪物は笑みをより深める
「いつ、私が先頭の景色を見られなくなったと思っているのかしら、私は未だ先頭に居るわ。国民の意思は未だ私を求め続けているの、その証拠に未だに私を国は処刑出来ていないでしょう」
「それに…何かおかしいと思わないかしら、例えばこの部屋とか」
そう言われて恐る恐る部屋を見回す、何の変哲もない面会室だ
立ち位置を除いて…だが
「スズカ様、そろそろお時間です」
「ええ、わかったわ」 - 2二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 16:15:08
私は本来囚人が居るべき所に案内されていたのだ
私は、化物を見に来たのではない
私は、怪物の腹の中に入り込んでいたのだ
彼女の聖母のように優しい微笑みが、今や身体を震え上がらせる恐ろしい物に変わってしまった
帰ろう、ここに居てはいけない、この場所は監獄ではない、魔王が住まう堅牢な城なのだ
震える脚をどうにか進ませながら入口まで戻り、車に乗り込もうとした瞬間声を掛けられ、振り向くと
先程の囚人服ではなく、きっちりとした正装に身を包んだスズカが看守達を従えて立っていた
「サクラバクシンオー、私に付いて来なさい、私達の先頭の景色を共に見ましょう」
手を差し伸べる彼女は髪の色のような夕日に照らされて、神々しく見えた
「わかりました…私に全てお任せ下さい…直ぐに在るべき所にお戻りになられるようにしてみせます」
「期待しているわね、また会いましょう」
振り返り、刑務所へと戻っていくスズカ様の姿を見て、私は涙を流す事しか出来なかった - 3二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 17:26:16
ウワーッ! 新鮮な先頭党SSだ! やったー!
最初スズカと呼称していたのが終わりにはスズカ「様」になっているのしゅき……