【ソルサクSS】エルゼの日記【ネタバレ有】

  • 1とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:52:56

     私はエルシー。アヴァロン所属の魔法使いだ。
     などとわざとらしく自己紹介をするのはこれを読む誰かにとって不可思議だろう。理由を説明させてもらうならつい先程、人型魔物を生贄にしたからだ。聡い者なら直ぐに分かると思うが、右手に宿った魔物の意識が私を侵食しようとしている。自我を保つためにも生贄にした後はこうして自分の名前を日記に書いているのだ。

  • 2とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:53:49

     今回討伐した魔物はアイアンメイデンのドッペルゲンガーだ。理不尽な広範囲の攻撃に、傷付く程に苛烈さを増すスピード。並大抵の魔法使いではまともに戦えば苦戦必至だっただろう。だが今回は同じ討伐依頼を受けたもう1人の魔法使いと共に戦ったので比較的楽だった。仮に日記ではその魔法使いを『同業者』或いは『そいつ』と記載しよう。名前も教えてもらったし同じアヴァロン所属とはいえ、あまり情を抱きすぎるのは良くないからだ。

  • 3とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:55:03

     同業者は私に興味を持ったようで、しばらく同行することを申し出てきた。日記を書く魔法使いというのが珍しいからだと言う。私としては仕事が楽になるので歓迎だ。

  • 4とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:55:45

     同業者と何度か仕事をしていたが、そいつの身の上話はとても面白い。最初は日記のネタにならないかと興味本位だったのだが、そいつこそ日記を書くべき壮大な物語を生きていると気が付いた。そいつの回顧の登場人物について書くだけでも私の日記は半分埋まってしまうだろう。故に数名だけ抜粋して記載する。

  • 5とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:56:39

    ・パーシヴァル
    彼の事は知っている。魔物の子供とも噂される魔法使いだ。何度か一緒に魔物を討伐したこともあるが、その風体に似合わない純真無垢な少年のような男だった。

  • 6とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:58:10

    ・ボーマン
    思い返すだけで向っ腹の立つ金ピカ男。魔法使いとしては優秀だが人間性が金に強欲すぎる。因縁をつけられて彼に取られた稼ぎの量は数えるのも嫌な程だ。同業者が言うには『根はいい男』らしいが、正直言って眉唾だ。

  • 7とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:59:19

    ・ゴルロイス
    なんと同業者は全ての救済を掲げる敵対組織、サンクチュアリに潜入任務をした経験があるらしい。右腕に乗っ取られてるのではないかと疑ったが話の辻褄が合うので本当にそいつ自身がしたことなのだろう。ゴルロイスはサンクチュアリの当主でその首にはアヴァロンから多額の賞金が掛けられている。同業者には偽名を使って接触してきたらしいがよく無事だったものだ。

  • 8とある魔法使いの日記22/07/24(日) 20:59:50

     本当に色々な人物が彼の物語には登場する。もっと聞きたいがこれ以上やると私の日記ではなく同業者の日記になってしまいそうなので一度区切ることにした。
     
     …それにどうやら…魔物が現れたようだ。

  • 9とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:00:42

     マジふざけんな‼︎と、いつもの口調を乱して書いてしまう程に今回の仕事はキツかった。私と同業者の2人がかりでも死ぬかと思った。…というか私は一度死にかけた。同業者が蘇生してくれなければ本当に終わっていた。レプラコーンとクラーケンのジェミニだと?敵が速くて自分が遅くなるなんてどんな凄腕でも1人じゃ無理だろう。魔物に落ちた男は生贄にしたが、はっきり言って後2回程生贄にされる苦しみを味わって欲しい。救済した後に生贄にする寸前に救済して生贄にしてやる。
     同業者は質の高い魂が手に入ったとご満悦だが、私はそんな物に興味は無いのでただただキツかっただけだ。おまけにジェミニを生贄にしたので強い思念が右腕から自我を侵食しようとしてくる。ちゃんと書いておこう。
     私はエルシー。アヴァロン所属の魔法使い。

  • 10とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:01:44

     昨日の要請があまりにもキツかったので今日は一日街で休養をすることにした。私は宿でダウンしていたが同業者は散歩に出かける余裕があったようだ。恐ろしきタフネス…。傑物と出会う人物もまた傑物ということか。

  • 11とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:03:14

     魔法使いの行動はソロ、或いはスリーマンセルが基本だ。これは負担軽減というより相互監視の面が強い。魔物に堕ちた者を救済しないか、裏切り者が出ないかを見張っている。同業者はどうか知らないが私は今後とも魔物を救済するつもりはない。けれど負担軽減のために今後ジェミニの要請の際はもう1人援軍が欲しい。という旨の手紙をアヴァロン本部へ送ったところ、ペンドラゴンの印付きで長ったらしい文章が返ってきた。この長い文章を要約すると『そのままがんばれ』。ふざけるな。神は死んだのか。

  • 12とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:04:07

     神は死んだと書くとグリム教団を思い出す。神の意志であるらしい『えいごうなんちゃら』を否定するという思想を掲げた、最近話題になってきた第三勢力だ。そういえば同業者はそこの魔法使いと顔見知りらしい。

  • 13とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:04:48

    ・レッドフード
     いつも赤い頭巾を被っている、女の魔法使いらしい。彼女の事はよく知らないが、同業者は彼女と共に強力な魔物を倒したそうだ。同業者がよく使う槍の魔法は、その魔物の供物らしい。禁術エクスカリバーとよく似た形状をしているが、何か関係あるのだろうか。
     もし##ら###

  • 14とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:05:28

     今日記を書いている所だが記憶の混濁があった。恐らく右腕か、昨日の戦闘の傷が影響している。とりあえず書くのはここまでにして、日記を読み返す事にする。思念に乗っ取られないようにしなければ。
     私の名前はエルシー。それだけは忘れない。絶対に。

  • 15とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:08:44

     心惜しいが同業者とは別れる事にした。記憶の混濁が始まったなど悟られたらいつ魔物と判断され殺されるか分かったものではない。アヴァロンにも気付かれないよう逃げなければ。サンクチュアリの勢力圏へ辿り着けばもし追手が来てもすぐには殺されないはず…。
     でもその後どうする?魔物になる事を恐れながら生きる?そんなのお断りだ。ならいっそアヴァロンに…。いや、とりあえず生きる事を考えよう。生きて、生きて生きて…。その後のことは後で考えよう。
     忘れるな。
     私はエルシー。
     いや、#####だったか?
     
     日記に書いているのだからエルシーのはずだ。この日記が他人のものでない限り。

  • 16とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:10:14

     これが誰の日記か分からないが、とりあえず僕が続きを書く事にした。僕は##。
     
     ふざけるな。
     俺は###########だ。
     
     私はエルシー。エルシーだ。エルシーエルシーエルシーエルシーエルシーエルシーエルシー。
     絶対に忘れるな。

  • 17とある魔法使いの日記22/07/24(日) 21:10:52

     エルシーとは誰だ?持った覚えの無い日記は知らない人の名前が書かれている。私は漠然とした感覚で書いているが、とりあえず名前を書けばいいのだろうか。
     私は#######。

  • 18とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:03:35

    記憶の混濁が酷い
    記憶と思い出が複雑に絡み合い、判別がつかなくなっている
    自分の名前を思い出すのさえ難しくなってきた
    知らないヤツから親しげに話しかけられ、親友と思っていたヤツは俺の事を知らないという
    頭が痛い
    定期的に起こるこの頭痛が、僕の記憶の異常と関係しているのだろう
    日記を読む限り頭痛の周期が短くなっているようだ
    いつか記憶の区別がつかなくなり、俺が私では無くなってしまうかもしれない
    この日記を読んでいるのが今の僕とも限らない
    忘れるな、私の名前は####

  • 19とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:04:14

    《記録する者 第三章》
    排除要請
    ・エルシー

  • 20二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:05:23

    >>19

    ま、魔物化しておる……。

  • 21とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:05:30

    知恵者エルシー
     魔法使いの前に白い聖杯が浮いている。それは魔法使いなら皆が知っている神話。諸悪の根源。だがそれに抵抗する意志はもはや彼女から失われていた。
     聖杯が語りかけている。
    「捧げよ。汝にとって大切な物を…」
     魔法使いは日記を捧げた。それは彼女の歩んできた物語を保証する唯一の物。
     代わりに彼女は確固たる自我を得た。自らが何者か。揺るがない記憶を手に入れた。これで自分は自分でいられる。日記に縋る必要などない。彼女は再び、自らの意志で、自らの足を動かすことができた。
     だがそれは彼女の右腕も同様だった。そこに宿る数多の思念が自分こそがこの体の所有者だと名乗りを挙げた。互いにせめぎ合い、その争いは彼女を巻き込んでなお、止まらない。
     魔法使いは抵抗する。例え周囲を巻き込んででも、自分が自分であることを止めるつもりなどない。その結末をもたらしてくれる誰かが現れるまで、誰にもこの体を譲るつもりなどない。その終わりが無かったとしても。

  • 22とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:08:01

    《その後の顛末》
    その魔物を生贄にした。



     目の前に、かつて別れた同業者が立っている。自分が魔物に堕ちたことは自覚していたが、こうして他のものに目を向けるのは久しぶりだった。本当なら日記に書くことなのだろうが、生憎それは失われた。だからこうして、頭の中で思うだけにする。
     魔法使いによくあることだ。組織の掟に従い生贄にし続け、挙句の果てに魔物に堕ちる。そういう意味では私はやはり凡人だったのだろう。アヴァロンで有名なガラハットのように人の身に留まれるはずもなく、こうして他の魔法使いに生贄にされるのが運命だ。

  • 23とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:08:44

     そう言う意味では顔馴染みの同業者にやられる私は、少しだけ恵まれているのかもしれない。
     同業者は右腕を向けてくる。
     生贄にするのだろう。それが当然だ。
     薄れていく意識の中、ほんの僅かに残った意識でそいつに声を掛ける。
     
     どうか忘れないでくれ。私の物語を。

  • 24とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:09:31

     日記を捧げた事を今更に悔いた。きっと同業者ならもっと壮絶で雄大な物語を書き記しただろう。そこに加わることができないのが唯一の心残りだ。だが、それでいい。
     同業者の右腕に取り込まれるのを感じる。
     もう日記は無い。私の命も終わる。なら最期くらい、名前を呼んでも良いだろう。別れの言葉ぐらいは許されるだろう。

  • 25とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:10:01

     さようなら、ジェフリー・リブロム。

  • 26とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:10:35

     もし、君が日記を書く事があるのなら…
     どうか書かないでくれ。私の醜態を。

  • 27122/07/24(日) 22:12:23

    駄文に付き合ってくれてありがとうございます。
    良ければ感想など書いてください。

    救済ルートも書いてるので、後で投稿しようと思います

  • 28二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:12:41

    凄い…原作の雰囲気が見事に再現されているな

  • 29二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:19:19

    >>21

    この聖杯ホント余計なことしかしないな

  • 30二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:26:17

    すげぇ…原作でありそう…

  • 31122/07/24(日) 22:38:54

    溜めすぎるのもアレなので救済ルート投稿する

  • 32二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:39:51

    エミュ力が凄い
    しかしエルシーが望まなかったからリブロムのページに書かれなかったのかもだけど
    このケース以外にもこういう事いっぱいあったんやろな…

  • 33とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:40:32

     私の名前はエルシー。『元』アヴァロンの魔法使いだ。
     私は今、サンクチュアリの勢力域で日記を書いている。そう、生きている。全く驚きだ。

  • 34とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:41:23

     私を救ったのはやはり同業者だった。そいつは私を救済したのだった。アヴァロンの掟に背くのかと問い詰めたが、その時そいつはとんでもない事を明らかにした。なんと同業者の所属は複数の組織に跨って所属していたのだ。アヴァロン、サンクチュアリ、グリム教団…。その3つの顔を使い分けているらしい。そいつは気分で魔物を生贄か救済か運命に任せるかを決めている。よく指名手配がかからないものだ。ゴルロイスやペンドラゴンは気づいていないのだろうか?

  • 35とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:42:16

     それを明かした後、同業者は私をサンクチュアリのメンバーに誘った。そして私はそれを受けた。元魔物である以上、アヴァロンには戻れない。いつまた魔物になるか分からないからだ。今までの暮らしを全て捨てる事になるが、生きるためには割り切るしかない。

  • 36とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:42:59

     そうそう。一文なしになって路地裏で生活していた私に金をくれた男の事を書かなくては。
     ボーマンだ。

  • 37とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:44:11

     以前払った慰謝料が貰い過ぎていた、とか言ってそれなりの金を返してくれた。蝙蝠野郎に宜しく言っとけ、とも言っていたのでもしかしたら同業者が口添えしてくれたのだろうか?

  • 38とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:45:03

     同業者とは今でも時々会う。要請を手伝ったり、供物を貰ったり。それなりに友好な関係を築けている。今書いているこの日記もそいつに貰った物だ。もう書く気は無かったのだが、それでも同業者は私にコレを押し付けた。そしてそいつの言葉を聞いて、日記とは私の人生にとって重要なパーツなのだと気がついた。

  • 39とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:45:56

     だから私は日記を書く。コレに書くのはこれからの私の人生だ。私がこの世に生きている証。私の名前と同じぐらいに、大切な物。

  • 40とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:52:39

     さて、そろそろ支度をしなくては。これから同業者の要請を協力する約束をしているのだ。その魔物は『エルシーのドッペルゲンガー』。魔物だった私が襲った魔法使いが魔物に堕ちたのだ。ならば私が救済しなければ。
     例えその後に恨まれようとも、自らの罪から逃げるつもりは無い。この右手や、日記と同じ。ずっと持ち続ける、私が私である証明だ。

  • 41二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:52:44

    乙!
    ソルサクやり直したくなった

  • 42とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:53:37

    締めくくりに、同業者の言葉を引用しよう。新たな門出に相応しい言葉を。

  • 43二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 22:53:55

    なんなん?スレ主はソルサクをやりながらSSを書きでもしてるん?当時感じた空気感そのままで懐かしくて泣いちゃったんだけど

  • 44とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:54:03

    「ここからは私の物語だ」

  • 45とある魔法使いの日記22/07/24(日) 22:55:04

    《記録する者 第四章》
    排除要請
    ・エルシー
      ・ドッペルゲンガー

    この魔物を救済せよ。

  • 46122/07/24(日) 22:57:44
  • 47二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 23:01:03

    アイアンメイデンの攻撃範囲とかクラーケンのフィールド海化とかやってた頃めちゃくちゃ苛立ったの思い出す

  • 48二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 23:01:53

    元ネタ知らんかったけどこの話から連想でこのSS書けるのすげえな…
    ソルサクの雰囲気にガッツリハマってる

  • 49二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 23:15:46

    >>13

    赤ずきんの槍良いよね

    他の槍と違って溜め攻撃が地面から巨大な槍が突き出るっていうのもカッコいい

オススメ

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