- 1◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 19:59:29
- 2◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:00:24
加速度的に跳ね上がる気温
どこまでも透き通る青い空
赤々と照りつける眩い太陽
うだるような熱気に釣られるように教室内の騒がしさも高まってゆく
夏休みまであと何日!と大きな声で誰かが数え上げる
黒板の端、ギリギリ授業の邪魔にならない位置にカウントダウンが記される
誰かが歓声をあげ、誰かが吠える
先生が授業の始まりを告げてもそわそわした空気は治まらない
いつもは厳しい先生も夏休みの直前の空気に当てられてか窘めることなくいつも通りの授業を開始する
それでも子供達のワクワクは止まらない
授業中だというのにヒソヒソと夏休みの予定を話し合う
先生がやんわりと窘めてもまた少ししたら再開され、仕方無しに放置される
夏休みを前にした子供達の膨れあがる気持ちは誰にも抑えられないのだ - 3◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:01:57
黒板のカウントダウンは日に日に進み、数字が小さくなるに連れて教室内のボルテージは更に高まってゆく
最初は遠慮がちに書かれていた黒板の端の表記も段々乱雑に、でかでかと書かれるようになり、何度か先生に注意されていた
誰かが家族で旅行に行く予定を自慢する
誰かがプールに行こうと約束する
誰かはキャンプに、誰かは登山に行くようだ
人それぞれの、思い思いの夏休み、教室内の話題は色とりどりに彩られていた - 4◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:02:11
全てが最高潮に達するその日
先生の夏休みに関する注意なんて誰の耳にも入らない
宿題なんてどこ吹く風
通知表なんて気になるもんか、丸めてカバンにポイしちゃおう
今期最後の帰りの会、皆は逆に静かになる
その瞬間への待機、ワクワクが最高潮に溜まるその瞬間を
「それでは皆さん、さようなら。楽しい夏休みを」
先生の言葉が言い終わらない内に誰かが叫ぶ、誰かが吠える - 5◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:02:40
学校の言葉ではまだ家に帰るまでは"一学期"だという
しかし子供達にとっては帰りの会が終わったその瞬間から夏休みだ
早く家に帰ろうと走りだす者、ランドセルごと友達の家に行く者、夏休みの予定を確認し合う者
光り輝く夏休みはもう始まっている
誰も彼もの声に喜びが詰まっている
誰も彼もの顔に笑顔が浮かんでいる
一点の曇りなく
どこまでも輝く
混ざり気の無い
どこまでも、どこまでも純粋なその気持ちを抱えて
子供たちは、駆け出していく
一年で一番楽しい季節
夏休みの、始まりだ - 6◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:03:36
まだ暑さが本格的じゃない午前中は宿題をしよう
冷たい廊下のフローリングに寝そべりながら鉛筆を握ろう
午後になったら友達と遊びに行こう
持たされた冷たい水筒
被る麦わら帽子
握る虫取り網
半袖短パンの夏休みスタイル
今日は何があるだろう、明日は何があるだろう
絵日記に書く内容はいくらでもある、いくらでも増える
高く照りつける太陽
どこまでも続く青空
大きく聳える入道雲
何でも出来る気がした、どこまでも行ける気がした
自由は、ここにある - 7◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:04:10
セミの鳴き声を追いかけて虫取り網を振り回した
バッタを探して草むらの中に飛び込んだ
揺れる巨大な蜘蛛の棲家
小さな蟻の行列
子供達の笑い声
吹き抜ける爽やかな風
熱気に負けない遊びへの熱意
明日は少し遠出しようか
自転車で行ったことないとこまで駆けて行こうか
空に浮かぶ一筋の飛行機雲
青々と茂る木々
日は、どこまでも高く - 8◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:04:42
何処かで鳴くカラスの声
茜色に染まる空
オレンジ色の雲
帰宅を促す擦り切れたスピーカー
遊び疲れることなど知らない子供達にとって何よりも寂しい光景
まだ遊びたい、まだ遊び足りない
それでも逆らうことは出来ない。この先の人生において、必ず付き纏う時間という制約
何よりも自由を感じられた夏休みの中でさえ、その制約からは逃れられない
友との別れを惜しみながら家路に向かう
徐々につく街灯、暗くなり始める空
家々から漂う夕食の匂い
ああ、今日が終わる - 9◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:05:18
それは、何でもない一日なのだろう。何百日、何千日と過ぎ去る内のたった一日
それでもあの頃の少年達にとっては何よりも特別な日々だった
「人生を80年とすると、夏は80回しか来ない
そして同じ夏は二度と来ない」
時は、戻らない
……今、あなたは何をしていますか?
もしかしたらまだ学業に精を出しているかもしれない
もしかしたらもう社会に出て忙しい日々を送っているかもしれない
もしかしたらもう素敵な人と出会い、守るべきものを手に入れたかもしれない
そんな"今"に通じる"これまで"に
通ってきた長い道の只中に
きっと、あの日々は宿っている
同じ夏が、来なくても - 10◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:05:49
輝かしかったあの日々は決して色褪せない
擦り切れることなく、今も必ずそこにある
目を瞑り、幼き日々に思いを馳せたならば
暑い日差し
透き通る空
真夏の匂い
蝉の鳴き声
茹だる熱気
その全てが導くだろう
あの日々へ
あの輝く時間へ - 11◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:06:23
遥けき過去より遠い未来へ
あの日の君から、今のあなたへ
夏休みの 追憶を
届けます - 12◆ZBltfK5Cl222/07/25(月) 20:06:39
終
- 13二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 20:19:37
いいね夏の感じが(語彙力)
- 14二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 20:28:04
詩に近いな
夏休みの小学生感満載で良かった - 15二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 20:34:59
構想はいい。文章も悪くない。だが、もったいない。
自分のような田舎者は「光化学スモッグ注意報」なんて一度も聞いたことがない
上気描写に限らず、人によって刺さらない物をノスタルジーとして届けるには、あまりにも描写が主観的出来事をベースにし過ぎるように感じる。1は気付いているかわからないが、このSSは「1の主観が語り部」として始まったのが「読者の過去が語り部」になって終了するという捻じれが生じている。1に「没入からの共感」によってその捻じれを読者に感じさせない意図があったのかもしれないが、残念ながら上に書いたように刺さらない人にとっては、その捻じれに違和感を覚えずにはいられない
この文体ならもっと抽象的なシーンを抜き出すとかして、より多くの人に届けられることができるように思う。あるいは詩的な雰囲気はそのままに、夏休み前の教室を見守る教師の視点にした方が、大人になった読者は共感を覚えやすいのではないだろうか。
表現や言葉選び、テンポはいいだけに非常にもったいない