- 1二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 12:44:39
- 2二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 12:45:01
いいよね…
- 3二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 13:14:51
「そのような殿方であって欲しいと思っていますが〜いかがでしょうか?」
そう言ってグラスが眼の前で道着の帯を締めた。
「日本男子たるもの、武道の心得くらいはあるとカッコいいですね〜」
先日そう言っていた彼女につい、「じゃあ少し習ってみるかな」と答えたところ。
あっという間に段取りが組まれて、週二回のペースでグラスに武道を教わることになったのだ。
「さあ、トレーナーさん。どこからでも掛かってきてください」
グラスがゆらりと腕を上げる。
身長差は20cmはあるだろうか。体重差はいわずもがな。
その彼女道着の襟を容赦なく掴み。そして持ち上げんばかりに投げる。投げようとする。
──だが、その瞬間。
自分の視界が急激に回転するのが見えた。
バン!何とか受け身を取り、回った世界が落ち着いた後には……呼吸の全く乱れていないグラスの顔があった。
「トレーナーさん?そんなに不用意に踏み込んではいけませんよ?間合いという物も大切です」
そして彼女は俺を軽々と引き起こし、わずかに開いた道着を整える。
「今日はもう、降参されますか?」
「いや、まだだ」
「ふふ。それでこそ私のトレーナーさん、ですね♪」
そして彼女は再び、俺を迎え入れるように腕を掲げた。 - 4二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 14:12:31
「ウマ娘に柔道で勝ちたい?いや、無理だろ」
同僚に相談したところ、やはりそんな答えしか返ってこない。
「体重と上背はこっちのほうがあるから、持ち上げる感じで技をかければ何とか、と思ったんだけど」
「無理無理。ウマ娘の反射速度くらいわかってるだろ」
彼女達は人には走れないスピードで走る。そのためか、それを制御するべく人よりも遥かに優れた反射神経を備えていた。
トレーナーなら知っていて当たり前のことである。
したがって……彼女達に格闘戦で勝つのは極めて難しい。
「よっぽどの達人でないと無理だろ。その道を極めた人じゃないと。そんなことやるよりもトレーナー道を極めろよ」
「そうだな」
同僚の言うとおりだ。
しかし。グラスが、担当ウマ娘それを求めているというなら……道を極めるとまではいかなくとも。
せめて彼女に「お見事」と言わせるくらいにはやってみたかった。
「まあ、手段を選ばないならやり方はいろいろあるんじゃないか?相手が親しいならなおのこと」
「どういう?」
そしてその同僚はとっておきの方法を俺に教えてくれた。 - 5二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 16:12:39
- 6二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:13:24
グラトレはキャラストーリーの時点で「グラスのためなら何ヶ月だろうと待つよ」なスタンスだもんね…
- 7二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:17:54
昭和の大柔道家、木村正彦は日本でいち早くウェイトトレーニングを武道の練習に取り入れた一人で桁外れのパワーで無理矢理押し倒すような大外刈で失神KOの山を築いた(柔道なのに)そうだが、ウマ娘対ヒトミミの柔道もそんな感じになりそう
- 8二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:28:35
前にグラトレが剣術の達人スレがあったけど、ボロボロになってもグラスと相手の前に立ちはだかるような泥臭いのも好きなんだ
- 9二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:34:29
そういやpixivのウマ娘現パロSSにグラスに剣道で勝とうとする青年の話があったな…
- 10二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:39:22
グラトレは稀に高い戦闘力を付与されるからな
- 11二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 20:56:07
……そろそろ終わりにしないといけません。
そんなことを考えながら私は制服を脱いで、柔道着に着替えます。
トレーナーさんに柔道の稽古をつけるようになったのは、たまたまテレビで柔道の試合を二人で見たのがきっかけでした。
「そういえばグラスは体育の武道選択で何を取ったんだ?」
「剣道を選択しました。本当は柔道にも興味があったのですが……」
トレセン学園では柔道と剣道、空手のうちどれかを選択する必要があります。
もしあるのならば薙刀を選択したかったのですが……せめてその代わりに剣道を選択したのでした。
「剣道か。俺は学生の頃は柔道を選んだな。それほど運動が得意でもなくてな……投げられてばかりだったのが悔しかったよ」
その話を聞いて、少しからかってみたくなったのかもしれません。
「日本男子たるもの、武道の心得くらいはあるとカッコいいですね〜」
私の言葉を聞いて、トレーナーさんは苦笑されました。
「じゃあ少し習ってみるかな」
「……では、私がお教えしましょうか?」
「え?」
柔道はアメリカにいた頃に、柔術を含めて教わっていました。いくらかは自信があります。 - 12二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 20:56:36
「いや、グラスにはレースが……」
そう言いよどむ彼を、なぜでしょう。
私は説得にかかってしまいました。
「大丈夫です。柔道は怪我の多い競技とも言われますが、正しい型、ただしい受け身を心がけていれば怪我など負いません。それをいついかなる時でも行える柔(やわら)の心の強さを得るのが、柔道の真髄です」
「へぇ……そうなのか」
「ですので。ぜひ」
「え?」
「ぜひ」
そして私はやや強引にトレーナーさんとの約束を取り付けて。
学園の片隅にある柔道場の予約もして。
このように週二回、彼との稽古に励むようになりました。
……もちろんこれが自分のエゴから出たものだということは最初から気づいていました。
私はただ、トレーナーさんと共に武道に励んで……彼が私に相対する時に見せる真剣な顔を。
見たかっただけなのです。 - 13二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:47:24
その日のトレーナーさんは顔つきが違いました。
明らかに何かを狙っている気配。静かな興奮を隠し鎮めようとする汗の匂い。
これは……たとえ勝敗がどうであれ、何か一つの変化に、区切りにつながるかもしれません。
私はこの時間を名残惜しく感じつつ、トレーナーさんの様子を伺いました。
視線は普段私の手に集中しているのが私の顔、額あたりに来ています。
重心は前がかり。これはいつもと変わりません。
何を狙ってくるのか。軽く手を振って牽制をしますが視線は変わりません。
──瞬間。
「わっ!!」
彼が大声を上げました。
思わず耳と尻尾が立ち。動作が止まってしまいます。
不覚。そう気づいた時にはトレーナーさんに奥襟を掴まれていました。
体捌きで誤魔化そうにもすでに重心が背後に押し込まれつつあります。
彼の大きな右足が私の足を払って。
──大外刈。
私は畳の上に叩きつけられました。 - 14二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 23:17:36
ウマ娘は音に敏感だ。
だから不意をついて大きな音を出せば最初は必ず動きが止まる。
そう同僚から話を聞いたものの、最初はやる気がなかった。
しかし……何か変化がないとずっとこのまま、この時間が続くような気がしていた。
それ自体は個人的には悪くない。ただ、せめて何か変化を彼女に示さなければ申し訳ない。
それに……俺も男だ。
10歳も年下の少女に、たとえウマ娘であろうとも何度も制されている訳にはいかないのだ。
始めてグラスに技をかけれられた興奮と、卑怯な手を顧みずに仕掛けてしまった後悔がないまぜになったまま、俺は畳に寝転ぶグラスの顔を見た。
その顔は呆然としていて。
しばらくして満面の笑みになり。
そして次の瞬間、眉根にシワを寄せた。
「お見事……です♪」
「あ、ああ、ありがとう」
ようやくその言葉を引き出すことができた。
グラスの襟を離し、彼女が道着の胸元を整えるのを待つ。 - 15二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 23:18:13
「卑怯な手を使って、すまない」
「いえ、これこそ試合というものです。真剣勝負の場では何が起こるかわかりませんから」
言っている言葉はポジティブなのだが、グラスの顔の渋面、もとい澄ました顔は緩まない。
俺はその彼女の顔が意味するところを、よくわかっていた。
──不退転。決めたことは曲げない。である。
「なあ、グラス。そろそろレースも近いし。俺も柔道の基本が身についてきたかな~って思うから、この時間はもう」
「もう一戦」
「グラ」
「もう一戦、よろしくお願いします」
わかってはいた。グラスが超が付くほどの負けず嫌いで。
きっと彼女から一本が取れたとしても、この時間は加速していくだけだってことくらい。
「さあ、トレーナーさん?今度はどんな技を見せていただけるのでしょうか。楽しみですね~」
そう言ってグラスはたおやかにほほえみ。
それから数時間、俺の足は何度も大地を離れたのだった。 - 16二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 23:22:09
凄い……読んでてめっちゃワクワクした!
- 17二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 09:25:17
「ふぅ」
シャワーを浴びながら、今日のことを振り返ります。
トレーナーさんの不意打ちな大声、久しぶりに宙を舞った体、畳に叩きつけられる感触。
そこからの熱の籠もった乱取り……大変充実感のある時間でした。
そしてようやく、こういうことはもう止めよう、と考えていたのを思い出します。
……ああ。なんて私は未熟なのでしょうか。
私が鍛えるべきなのは技ではなく、心なのでしょう。
「グラス、その肩の痣はどうしたデスか?ゲートかラチにでもぶつかりました?」
「え?」
隣で一緒にシャワーを浴びていたエルが私の体を見て言います。
私の右肩、そこには確かに鬱血した痕がありました。
技を掛けられたときか、それとも乱取りの最中か。
このような傷を負ってしまうなんて私もまだまだです。
それなのに。
「グラス?なんでニヤニヤしてるデス?」
「ニヤニヤなんてしてません」
「思い出し笑い、怪しいデース」
彼に初めてつけられた傷。
それがなぜかゾクゾクするような、直視してはいけない喜びがあって。
……まだ、もうちょっと。続けてもいいでしょうか?
そんなことを思いつつ、私は小さな痣に指先を這わせました。 - 18二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 09:26:28
おしまい
グラスが乱取りすると栗毛が舞って、匂いも良くて最高なんだよ - 19二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 17:30:37
ちなみにSSを書いたのは辻SS書きだよ
- 20二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 02:30:25
とても助かりました
- 21二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 14:31:55
最高ですね…